激安QDDモーター「RobStride 04」を分解する:ヒューマノイドの関節を支える仕組みの中身
イチケン / ICHIKEN電子工作系YouTuberのイチケンが、4足歩行ロボットやヒューマノイドロボットの関節に多く使われているQDD(Quasi Direct Drive)モーターを入手し、実際に動かしたうえで分解した。この動画は二つの問いを扱っている。一つは、なぜロボットの関節に従来のモーター方式ではなくQDDが選ばれるのか。もう一つは、約4万円で買えるモジュールの中に何が詰まっているのか。話者はQDDを「フィジカルAIの要素技術の一つ」と位置づけ、原理の説明から基板部品、センサー、減速機構までを順に確認していく。
入手したモーターの概要
QDDモーターは、モーターに低い減速比のギアを組み合わせたもので、日本語では準ダイレクトドライブモーターと呼ばれる。話者によると、Unitreeなどの4足歩行ロボットが登場したころから急速に広まり、最近ではヒューマノイドロボットの関節に多数採用されている。
今回入手したのはRobStrideの「04」というモデルで、同社のラインナップでは最もトルクが強い。ピークトルクは120Nm、減速比は9対1である。AliExpressで3.9万円で購入しており、話者は「このモーターが約4万円で手に入るのはかなり激安」と評している。
関節に必要なトルクと、二つの従来方式
話者はまず、中国のヒューマノイドロボットの動画を例に挙げる。ジャンプして着地したり、人に押されても衝撃を受け流したり、動作によっては人間より俊敏に動いたりする。その動きを支える要素の一つが関節のモーターだという。
自分の体重を支えながら関節を動かすには大きなトルクが要る。しかし関節に収まるサイズでモーターを作ると、単体のトルクは小さくなってしまう。トルクを稼ぐには、モーター自体を大きくするか、ギアで減速してトルクを増幅するかのどちらかしかない。この二つの方向に対応するのが、ハイギアードモーターとダイレクトドライブモーターである。
ハイギアードモーターは、高速回転するモーターに1対100のような大きな減速ギアを組み合わせたもので、産業用ロボットで長年の定番になっている。大きさの割に強いトルクが出せる一方で、弱点もある。減速比が大きすぎるため逆駆動性(バックドライバビリティ)がなく、外から関節を押してもほとんど動かない。着地のような急な衝撃が来ても逃げ場がなく、ギアの歯が割れることがある。さらにギアボックスの摩擦が大きいため、モーター電流から今かかっているトルクを推定しにくく、別にトルクセンサーが必要になる場合もある。話者は、位置合わせが主な産業用アームなら問題ないが、常に外乱が加わる4足ロボやヒューマノイドに使うには注意が必要だと述べる。
ダイレクトドライブモーターは、ギアを使わずにモーターの回転をそのまま関節の回転にする方式である。話者はロボットアームから取り外したモーター(厳密にはダイレクトドライブ用ではないが、動きが分かりやすいとして紹介)を指で回してみせた。ギアがないので摩擦もガタもなく、軸はスルスルと回る。つまり逆駆動性があり、電流を見れば出ているトルクがほぼ正確に分かる。話者は「制御的には理想のモーター」と評する。ただし、必要なトルクをすべてモーターだけで出すため大型化して重くなり、体重を支えるヒューマノイドには「少し辛い」。なお、このモーターは軸の先にギアボックスを付ければハイギアードモーターになるとも補足している。
ロボットの関節に求められる三つの条件
話者は、動き回るロボットの関節に必要な要素を三つに整理する。
- 重さの割に大きなトルクが出せること。軽さは何より重要で、体を支えて動くにはトルクが欠かせない。
- 衝撃に強いこと。これは逆駆動性と結びつき、たとえばジャンプの着地時に関節で衝撃を逃がせるかどうかに関わる。
- トルクを把握できること。関節のトルクから地面を押す力を推定し、その力を調整するために必要になる。
この三つが同時に求められる。ハイギアードモーターは逆駆動性がないため衝撃への強さで不利になり、ダイレクトドライブモーターは質量あたりのトルクで要件を満たしにくい。
QDDモーターの考え方と限界
三つの要件を同時に満たすのによく使われるのがQDDモーターだ。話者の説明では、種類にもよるが、モーターを平たい形にしてトルクを稼ぎ、ギアは10対1程度の低い減速比に抑える。軸は手でギリギリ回る程度の逆駆動性があり、衝撃を受けたときに受け流せる。電流からトルクが分かるという性質もほぼ保たれる。話者によれば、QDDはMITのロボット「チーター」の研究から広く知られるようになり、今では4足歩行ロボットを中心に、ヒューマノイドでも広く使われている。
一方で話者は、QDDも万能ではないと強調する。トルク密度はハイギアードモーターに及ばず、負荷のかかる姿勢を長く保つとモーター自体がかなり発熱する。そのため機体や関節によっては、減速比を上げたり、別の方式と使い分けたりしているという。
実際に回してみる
分解の前に、話者は実機を動かしている。取扱説明書によると、ピークトルク120Nmで動かせるのは10秒程度で、長時間の定格トルクは40Nmである。話者は「120Nmで長時間動かすとモータードライバーが焼けたりするのでしょうね」と推測を添えた。入力電圧は48V、制御はCAN通信で、モーター制御用のコントローラー類はすべて内部に入っている。48V電源とCANをつなげばすぐ使える仕様で、今回はESP32マイコンとCANトランシーバーで動かした。
正転・逆転とも問題なく回り、加速度を300程度に上げるとかなり速く回った。停止状態での保持も強く、手で軸を動かそうとしても回らない。話者は「120Nmあるだけあってトルクはかなり強力」と述べ、モーター部分を深く考えずにとりあえずロボットを作れる点を高く評価している。
ただし、無負荷で10分ほど回しただけで筐体は40℃程度まで温まった。話者は、ロボットに組み込めばもっと発熱するだろうとして、冷却が非常に重要になりそうだと見ている。
外装と放熱、アウターローター構造
最初に外側のプレートを外すと、裏には熱伝導用のシリコンマットが貼られていた。外側のプレートと内部の巻線を熱的に結合し、熱を外へ逃がすためのものである。話者は先ほどの温度上昇を踏まえ、「熱的には結構厳しいのでしょうね」と推察する。
出力軸を回すと内部のローターも回転し、減速比の分だけローターのほうが速く回る。電機子側は固定で、永久磁石が付いた回転子が外側を回るアウターローター型(回転界磁型)のモーターだった。話者によれば、ドローン用モーターによく使われるタイプである。アウターローター型は回転子のイナーシャが大きくなるが、インナーローター型よりトルクが強いため、QDDではこちらが有利なのだろうと話者は見ている。さらに分解すると、ベアリングと遊星歯車(プラネタリーギア)が現れ、内部は電気系と機械系に大きく分かれていた。
ステーターとローター
モーターは3相で、固定子は極数の非常に多い多極モーター、鉄心は積層構造である。話者の解説では、極数が多いと鉄心自体はそれほど大きくならず、トルクに寄与しないコイルエンド部分も短くできる。その代わり、出力軸1回転あたりに必要な電気角が増えるため、鉄心での鉄損が増え、制御周期も短くする必要がある。
回転子の内側にはネオジム磁石が接着剤で貼り付けられ、位置合わせには樹脂スペーサーが使われていた。遠心力で磁石が外側に押し付けられる構造なので、磁石が飛んでいくことはなさそうだという。回転子にバランス取りの形跡は見当たらなかった。話者はその理由として、バランス取りが不要なほど精度よく作られている可能性と、この程度の重さと回転数ならそもそも不要という可能性を挙げる。一方で、ローターに穴が4つ開いており、その深さでバランスを取っている可能性もあるとしている。
ドライブ基板とマイコン
モーター駆動用の基板には、マイコン、センサー、通信IC、パワー半導体がすべて載っている。基板はもともと防湿コーティングされていたが、ギアの潤滑用グリスがべったり付着していた。エタノールで拭き取ったところ、コーティングも一緒に取れてしまった。話者は、エタノールで防湿コーティングが取れる経験はあまりないと話している。
マイコンはGigaDeviceのGD32F303で、ARM Cortex-M4コアの32bitマイコンである。DSP命令とFPUを備えるため、モーター制御にはかなり使いやすいだろうと話者は評している。
インバータ回路と放熱設計
3相インバータには、Oriental SemiのシリコンMOSFETが各相2並列で使われていた。話者によれば、このMOSFETはかなり高性能で、耐圧100V、パルスドレイン電流560A、連続ドレイン電流140Aである(オン抵抗は字幕上「4.3Ω」と読み上げられている)。モーター自体の放熱が厳しそうなので、なるべくオン抵抗の低い素子を選んでいる可能性がある、と話者は推測する。
パワー半導体の熱は、基板への放熱と、熱伝導シリコンマットを介したアルミ筐体への放熱の二経路で逃がす。ただ、発熱源はインバータだけでなくモーターのコイルもあるため、長時間の高負荷動作ではしっかり放熱しないと厳しそうだという。電流検出には各相にシャント抵抗が使われており、話者はモーターをきちんと制御するには電流の測定精度がかなり重要になると指摘する。
基板上の謎の金属ブロック
基板上には金属の塊のような部品が実装されていた。話者は、プリント基板の銅箔の実質的な抵抗を下げる目的もあり得るとしつつ、今回は熱容量を大きくして蓄熱に使っているのではないかと考えている。
その理由として話者が挙げるのは関節モーターの使われ方だ。ロボットの関節では瞬間的に負荷がかかる場面が多く、インバータ周辺も瞬間的に発熱する。シリコンパッド経由で筐体に逃がす構造は定常的な熱抵抗こそ低いが、過渡熱抵抗はどうしても大きくなる。金属片で熱を一時的に蓄え、放熱のタイムラグを吸収する設計ではないか、というのが話者の見立てである。
コンデンサーについても触れている。MLCCを多数実装できるパターンがあったが、実際には実装されていなかった。反対面には電解コンデンサーがあるが、MLCCよりESRやESLが大きいため、瞬間的な負荷がかかったときの挙動は「要検証」だとしている。一方で、定格48Vに対して制御系を含めた最低動作電圧は24Vなので、48Vで使う限り瞬間的な負荷で制御系が落ちることはないだろうと話者は見ている。
通信・センサー系IC
基板の反対面には主に通信とセンサーのICがある。MOSFETのゲートドライバーはTexas InstrumentsのDRV8353、CANトランシーバーはNXPのTJA1042で、GigaDeviceのマイコンが内蔵するCANコントローラーと組み合わせて使う構成である。
残りの2つは磁気センサーで、InfineonとAMSの製品が使われていた。話者は、AMSの非光学式アナログミックスドシグナルセンサー部門が2026年にInfineonに買収されたため、実質的にどちらもInfineonの磁気センサーだと説明している。
2つの磁気センサーとバーニア原理による角度検出
基板中央にあるのはAMSの磁気式ロータリーポジションセンサーで、組み立てるとちょうどローターの軸上に来る。ローターのその部分には磁石が付いており、話者が磁石を当てて確かめると磁極がはっきり分かった。これでローターの向きを検出している。
回転軸から外れた位置にあるもう一つの磁気センサーは、ローターに付いた樹脂歯車の先にあるもう一つの歯車の角度を見ている。この歯車の軸も磁石でできている。2つの歯車は歯数が異なるため、回転数に応じて磁気パターンがずれていき、そのずれから現在の位置が分かる。話者はこれを「バーニア原理」と説明する。起動時に出力軸の角度が分かれば、どこまで回すと関節が壊れるかも判断できるので、起動時の関節角度の検出などに使っているのだろうと推測している。
光学式のアブソリュート角度センサーを使わない理由についても、話者は推測を述べる。光学式は高価で、内部にグリスが飛び散るような汚れた環境では使いにくいだろうし、QDDモーターに入れるスペースがないことも関係しているかもしれない。磁気式なら数百円程度で回転角検出を構成できるため、コストと使用環境の両面から採用したのだろうという。
話者は電気系をまとめて、半導体は基本的に中国メーカー製で、一部の通信やセンサーに欧米メーカー製が使われていると整理した。
機械系:遊星歯車とベアリング
減速機には遊星歯車機構が使われている。サンギアはローターと一体、キャリアが出力軸で、遊星ギアが3つ付き、リングギアは固定子側と一体になっている。各所に多数のベアリングがあり、C&UとS&Fの製品が使われていた。基本はC&Uで、出力軸部分には大径のものが2つ使われている。話者は、こうした機械部品は重要な要素だが、基本的には中国国内で入手できるもので構成されていたと述べている。
分解して分かったこと
話者の結論では、このQDDモーターはアウターローター型モーターと遊星歯車機構を組み合わせ、小型ながら大きなトルクと逆駆動性を両立した作りになっている。そうしたモーターが数万円で手に入ることに話者は驚きを示し、何よりつなげばすぐ使える点を評価して、ロボット製作を考えている人の参考にしてほしいと締めくくった。
一方で、動画の中で解決されないまま残った点もある。無負荷でも40℃まで上がる発熱を実機でどう冷やすか、MLCCが省かれた電源まわりが瞬間的な負荷にどう反応するか。これらについて話者は、冷却の重要性と「要検証」という指摘にとどめている。
この動画は日刊工業新聞社の提供でお送りします。
こんにちは。今日はこちら、QDDモーターを手に入れたので、中身がどうなっているのか分解していきたいと思います。
QDDモーターはモーターと低減速比のギアを組み合わせたものです。QDDというのはクアジダイレクトドライブのことで、日本語だと準ダイレクトドライブモーターと呼ばれています。Unitreeなどの四足歩行ロボットが出てきたあたりから急速に広まってきて、最近ではヒューマノイド型ロボットの関節部分に多数採用されています。フィジカルAIの要素技術の一つといって良いでしょう。
入手したのはRobStrideの04というモデルのQDDモーターです。ラインナップの中では一番トルクが強いものを購入してみました。トルクは120Nmで、減速比は9対1です。今回はAliExpressで3.9万円で購入しました。このモーターが約4万円で手に入るというのは、かなり激安かと思います。概要欄にリンクを貼っておきますので、興味のある方はぜひ確認してみてください。
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そもそもQDDモーターってなんだっていう話なのですけど、中国のヒューマノイドロボットの動画を見たことある人、多いと思います。ロボットがジャンプして着地したり、人が押したりすると、その衝撃を受け流したり、そして特定の動作に至っては人間より俊敏に動いたりもします。その動きを支えている要素の一つが、関節に入っているモーターです。
ヒューマノイド型ロボットが動いている時というのは、やはり人間と同じように関節を動かします。自身の体重を支えつつ関節を動かすには、大きなトルクが必要です。なのですけども、モーター単体のトルクは意外と小さいです。これは小さいというよりかは、関節に収まるサイズでモーターを作ろうとすると、トルクが小さくなってしまいます。トルクを稼ぐには、モーター自体を大きくするか、ギアで減速してトルクを増幅するかです。
産業用ロボットなどで長年定番になっているのが、ギアで大きく減速してトルクを増幅するハイギアードモーターです。一方で、ギアの弱点を嫌ってギアを使わないダイレクトドライブモーターも長年研究されてきました。なのですけども、激しく動き回る四足歩行ロボやヒューマノイドロボットには、どちらの関節も一長一短という問題があります。そこで最近幅広く使われるようになったのが、こういったQDDモーターです。まずはハイギアードモーターとダイレクトドライブモーターの特徴について、それぞれ見ていきます。
まずハイギアードモーターですが、これは高速回転するモーターに1対100などの大きな減速ギアを組み合わせたものです。大きさの割には、かなり強力なトルクが出せるのが特徴です。ただし弱点もあります。ロボットに使われる場合ですと、外から関節を動かすように押しても、関節はほとんど動きません。これはなぜかというと、減速比が大きすぎて逆駆動性、バックドライバビリティがないからです。例えば着地のような急な衝撃が来ると、その衝撃の逃げ場がなく、ギアの歯が割れてしまったりします。
さらにギアボックスなどの摩擦が大きいため、モーターに流れている電流から、今どれだけのトルクがかかっているかという推定が難しく、トルクを測るには別のセンサーが必要になることもあります。産業用ロボットアームですと位置合わせが主なので、ハイギアードモーターを使うのは問題ありませんが、常に外乱が加わってくるような四足ロボやヒューマノイドロボに使う場合は注意が必要です。
次にダイレクトドライブモーターです。これはギアを使わずに、モーターの回転がそのままギアの回転になる方式です。これはロボットアームから取り外したモーターです。ダイレクトドライブモーターではないのですが、動きがわかりやすいので紹介します。このようにギアがないので摩擦もガタもなくて、指で回せばスルスルと素直に動きます。この部分がちょうど関節として動くわけです。
関節の軸がスルスル回るということは、逆駆動性があるということです。そしてモーターに流れている電流を見れば、出ているトルクがほぼ正確にわかります。制御的には理想のモーターです。ただしギアでトルクを増幅できない分、必要なトルクを全てモーターだけで出す必要があります。そのように設計するとモーター自体が大型化して、さらに重くなってしまいます。自分の体重を支えるヒューマノイドに使うと、少し辛いものがあります。
ちなみに先ほどこれ、ロボットアームから取り外したものと言いましたが、この軸の先にギアボックスをつけることができます。そうするとハイギアードモーターになります。
ここで動き回る四足歩行ロボットやヒューマノイドロボットの関節に必要なものを整理していきます。まずは重さの割に大きなトルクが出せることです。軽いというのは何より重要ですし、また体を支えて動くにはトルクが非常に重要です。次に衝撃への強さです。これは逆駆動性があるかということにつながってきます。例えばジャンプして着地するときに、関節を使って衝撃を逃がせるかどうかです。そしてトルクの把握です。これは関節のトルクから地面を押す力を推定して、その力を調整するために必要です。この3つの要素が同時に必要になってきます。
ハイギアードモーターですと逆駆動性がないので、衝撃への強さという観点から言うとちょっと微妙です。ダイレクトドライブモーターは、質量あたりのトルクで要件を満たすのが難しくなります。これら3つの要件を同時に満たすのによく使われるのが、QDDモーターです。
QDDモーターの種類にもよりますが、モーターを平たく大径にしてトルクを稼いでいます。ギアは10対1程度の低い減速比に抑えています。一応、軸は手でギリギリ回るくらいには逆駆動性はあります。つまり衝撃を受けた時に、それを受け流せるわけです。また、流れている電流からトルクがわかるという性質もほぼ保たれています。
QDDモーターは、MITがやっていたチーターというロボットの研究から幅広く知られるようになっています。今では多くの四足歩行ロボットを中心に、ヒューマノイドロボットでも広く使われるようになっています。ただしQDDも万能ではありません。ハイギアードモーターほどのトルク密度はないですし、負荷のかかる姿勢を長く保持すると、モーター自体が結構発熱します。そのため機体や関節によっては減速比を上げたり、別の方式と使い分けたりもしています。
分解する前に実際に使ってみます。取扱説明書にはスペックも書いてあります。トルクのピークは120Nmなのですけども、それで常時運転できるわけもないので、定格トルクは40Nmとなっています。こちらにそのグラフがあります。実際120Nmで動かせるのは10秒程度となっています。長時間定格は40Nmです。定格120Nmで長時間動かすと、モータードライバーが焼けたりするんでしょうね。
入力電圧は48V、制御はCAN通信を使います。この中にモーター制御用のコントローラー類がすべて入っています。ですので48V電源と制御用のCANを入れることができれば、すぐ使える仕様となっています。今回はESP32マイコンとCANトランシーバーを使って動かしています。
では実際に動かしていきます。始動を押すと回り始めました。なかなかいいんじゃないでしょうか、これ。今、正転の状態なのですけど、逆転すると、いいですね。ちゃんと逆転もします。回転も意外とちゃんとしています。例えば加速度300ぐらいにしますか。そうすると結構速く回ります。なかなかいいと思います。
ちなみに止まっている状態での保持もしっかりとできます。こんな感じで動かそうと思っても、軸は回りません。やっぱり120Nmあるだけあって、トルクはかなり強力です。このように割とすぐ使えて、すぐ動かせるみたいなモジュールですので、ロボットを作るときに非常に便利です。モーターの部分について深く考えずに、とりあえずロボットが作れるというのは非常に良いかと思います。
今、無負荷で10分ぐらい回して遊んでいたんですけども、そこそこぬるくなっています。温度は40度ぐらいはあります。無負荷の状態でこれなので、実際ロボットに組み込むともっと発熱するかと思います。冷却が非常に重要になりそうです。
ここからはさらに分解していきます。まずはこちらのプレートを取ります。取れました。こちらのプレートには熱伝導系のシリコンマットが付いています。これは外側のプレートと中の巻線を熱的に結合させるためのものです。先ほども少し実験したのですが、無負荷で回していただけでも温度は40℃程度まで上昇していました。やっぱり熱的には結構厳しいんでしょうね。なのでこのように熱を外に逃がせるようにしています。
出力軸を回してみると、このように内部のローターも回転しています。減速比分、中の回転子の方が速く回っています。コイルで構成されている電機子は固定、回転子は永久磁石が付いているアウターロータータイプのモーターのようです。回転界磁型モーターです。特にアウターロータータイプですので、ドローンのモーターとかによく使われるタイプです。
分解した状態で回してみると、このようになります。分解している状態ですのでカクカクしていますけども、しっかりと回っています。アウターロータータイプですと回転子のイナーシャは大きくなりますが、インナーロータータイプと比べてトルクが強いので、今回のようなQDDモーターではアウターロータータイプが有利なのでしょう。
さらに分解していくと、このようになります。ベアリングがあって、これプラネタリーギアですね。そしてローターとステーター部分はこんな感じで入っているんですけど、取り外します。主に電気系の部分と機械系の部分に分かれています。まずは電気の部分から紹介していきます。
まずモーターは三相モーターが使用されています。固定子部分は極数が非常に多い多極モーターです。鉄心は積層構造です。極数が多いと鉄心自体はそこまで大きくなりませんし、トルクを生み出すのに寄与しないコイルエンド部分も短くできます。ただその分、出力軸が1回転するのに必要な電気角は増えてしまいます。そうすると鉄心部分での鉄損は増えますし、制御周期も短くしていく必要があります。
次は回転子部分です。回転子の内側にはネオジム磁石が貼り付けられています。固定は接着剤が使われていました。遠心力で押し付けられる構造なので、磁石がどこかに吹き飛んでいくみたいなことはなさそうです。磁石の位置合わせには樹脂スペーサーが使われていました。
回転子の部分にバランスを取った形跡は見当たりません。もともとバランス取りをする必要がないくらい精度良く作られているのかもしれませんし、このくらいの重さと回転数だったら、バランス取りそもそも必要ないよ、みたいな感じなのかもしれません。一応この部分に穴が4つ開いているので、ここの深さでバランスを取っている可能性もあります。
次はモータードライブ用の基板を見ていきます。ここにマイコン、センサー類、通信系IC、パワー半導体などがすべて載っています。こちらがマイコンが載っている面。裏面はこんな感じ。もともとこの基板、防湿コーティングがされていました。この基板、モーターの中に入っているので、ギアの潤滑などに使われているグリスが結構べったりと付着していました。それを取るためにエタノールで拭きましたが、防湿コーティングも一緒に取れてしまったみたいです。エタノールで防湿コーティングが取れてしまうって、あまりそういう体験はないです。
それぞれの部品について詳しく見ていきます。まずはこちら。マイコンはGigaDeviceのGD32F303が使われていました。Arm Cortex-M4が使われている32bitマイコンです。内部にDSP命令が入っていますし、FPUを積んでいるので、モーターの制御にはかなり使いやすいのかと思います。
次はパワー回路部分を見ていきます。ここに熱伝導系シリコンマットがあるのですけども、これも取ってしまいます。この部分は三相インバーターの回路です。オリエンタルセミのシリコンMOSFETが使われています。それを各2並列としています。このMOSFET、実は結構高性能で、VDSは100V、オン抵抗は4.3mΩ、パルスドレイン電流は560Aのものが使われています。ドレイン電流の連続定格は140Aで、かなり大電流のものです。このモーター自体の放熱が結構厳しそうなので、なるべくオン抵抗の低いものを選定している可能性があります。
このパワー半導体の放熱経路は、基板への放熱と、こちらの熱伝導用シリコンマットを介してのアルミ筐体への放熱です。このように外側のアルミ筐体に密着します。発熱はインバーターだけではなくて、モーターのコイルの発熱もあります。ですので長時間の高負荷動作は、しっかりと放熱しないと厳しそうな感じです。
インバーターの電流検出には、各相ごとにシャント抵抗が使われています。三相分あります。このあたり、モーターをしっかり制御しようとすると、電流の測定精度もかなり重要になってきます。
この基板上に金属の塊みたいな物が実装されています。これはプリント基板の銅箔の実質的な抵抗値を下げる目的もありますが、今回の場合ですと熱容量を大きくして、蓄熱的な感じで使われているのかなと考えています。特にこのモーターはロボットの関節に入っているので、瞬間的に負荷がかかる場面が多々あります。そのような使い方ですと、インバーターの周辺は瞬間的に発熱します。放熱用シリコンパッドを使って筐体に放熱しているので、定常的な熱抵抗は低いですが、過渡熱抵抗はどうしても大きくなります。このような金属片を実装して、放熱のタイムラグを吸収している、そのような設計かと思います。
この部分にはMLCCが多数実装できるようになっていましたが、実際には実装されていませんでした。反対側の面には電解コンデンサーは実装されていますが、MLCCと比べるとESR、ESLは大きいので、瞬間的な負荷がかかった時の挙動は要検証です。ただ、このモーター自体の定格電圧は48Vですが、制御系を含めた最低動作電圧は24Vです。48Vで使っている限りは、瞬間的な負荷がかかっても制御系が落ちるみたいなことはないと思います。
反対側の面も見てみます。こちらには主に通信系とセンサー系のICがあります。まずこれはMOSFETを駆動するためのゲートドライバーです。Texas InstrumentsのDRV8353が使われています。次はこちら。これはCANトランシーバーです。NXPのTJA1042が使われています。GigaDeviceのマイコンはCANコントローラーが入っているので、それと組み合わせて使うようになっています。
残り2つあります。ICは磁気センサーです。Infineonとamsのものが使われています。ただamsについては、非光学式のアナログミックスドシグナルセンサー部門は2026年にInfineonに買収されました。ですので実質2つともInfineonの磁気センサーです。
真ん中にあるものがamsの磁気式ロータリーポジションセンサーです。ローターがこのように入っていて、そこへこのセンサー類が覆いかぶさるというような構造になります。ちょうどローターの軸上に磁気センサーが来ます。ローターのこの部分には磁石が付いています。実際、磁石を当ててみるとこんな感じで、しっかりと磁極が分かるようになっています。つまり磁気センサーを使って、ローターがどの方向を向いているのかがわかるようになっています。
ローターの回転軸上から外れた位置にある磁気センサーは何を見ているのかというと、このようにローターと筐体を組み合わせた時に、ローターについている樹脂歯車の先にもう一つ歯車がついていて、この角度を見ています。位置関係としては磁気センサーが2つありますが、これがこのように覆いかぶさる形になります。この部分についてもやはり軸は磁石でできていて、磁石を近づけるとしっかりと回転します。磁石の方向を磁気センサーで読むわけです。
よく見てみると2つの歯車の歯数が違うので、回転数によって磁気パターンがずれていきます。そのずれから、今どの位置にローターが向いているのかというのがわかるようになります。バーニア原理というやつです。出力軸の初期の角度がわかれば、それからどれだけ回したら関節が壊れるかとかもわかるので、最初の起動時に関節がどの角度なのかとか、そのあたりうまく検出しているのでしょう。
ちなみに光学式のアブソリュート回転角センサーは値段が高いですし、内部にグリスとかが飛び散るような汚い環境ですと、使いにくいのかなと思います。あと単純にQDDモーターに入れるスペースがないとか、そのあたりも関連しているのかなと思います。今回のような磁気式ですと、数百円ぐらいで回転角検出の構築ができるので、コストや使用環境面から磁気式を採用しているのかと思います。
このように半導体類については、基本的に中国メーカーのものが使われていて、一部の通信やセンサーについては欧米メーカーのものが使われているということが分かりました。
次は機械系の部分を見ていきます。主に減速器です。減速器には遊星歯車機構が使われています。サンギアはローターと一体になっていて、キャリアは出力軸です。そこに遊星ギアも3つ付いています。そしてリングギアは固定子部分と一緒になっています。
この機械部分については各所にベアリングが多数使われていますが、ベアリングはC&UとS&Fのものが使われています。基本的にはC&Uです。特に出力軸部分については、径の大きいものが2つ使われています。このあたりの機械系の部品って結構重要な要素ですが、基本的には中国国内で入手できるもので構成されていました。
というわけで、四足歩行ロボットやヒューマノイドロボットによく使われているQDDモーターを分解してきました。中身についてはアウターロータータイプのモーターと遊星歯車機構を組み合わせていて、小さいながらも大きなトルクを出して、かつ逆駆動性もある、そのような作りがわかったかと思います。こういったモーターが数万円で手に入るというのも驚きですし、何よりつなげばすぐに使えてしまうというのも良いです。ロボット作りをしようとしている人は、ぜひ参考にしてみてください。
というわけで、もしこの動画が役に立ちましたら高評価お願いします。何か気になることがありましたら、コメントも残してみてください。それでは最後まで動画のご視聴ありがとうございました。
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