売っているのはチョコレートではなく「記憶」:メゾンカカオ石原紳伍が語る、プレゼンター、約束、100年の文化

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概要

株式会社メゾンカカオの創業者で代表の石原紳伍氏が、聞き手のSean Kawakami氏と対談した回である。中心の問いは、経営者がよく口にする「物を売るな、ことを売れ」を実際にどう実装するのか、という点にある。石原氏は、ブランドの仕事は「記憶を設計すること」だと答える。そのうえで、店頭の接客、社員教育、生産者との関係、利益と社会貢献の両立、世界ブランドの構想までを、自社の具体的なエピソードに沿って語った。

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冒頭の断片:スーツケースから始まった海外展開

本編の前に、別の場面からの抜粋とみられる短いやり取りが流れる。聞き手は、創業から2年でANA国際線のファーストクラス・ビジネスクラスに同社のチョコレートが採用されたことを挙げ、その速さに驚く。石原氏はフランスでの展開の始まりを振り返る。あるイベントのオーナーにダイレクトメッセージを送り、プレゼンを聞いてもらったところ、「一度来てやってみたら」と言われた。そこでスーツケースにチョコレートを詰めて持ち込み、並べてみると、フランスの来場者から「こんな口溶けのいいチョコレートは初めて食べた」という反応があったという。

続いて聞き手が、新規顧客の注文が1300件あってもぬるま湯だと感じたのかと尋ねる。石原氏は「文化を作りたい」と答え、「経済は文化の下僕」だと学んだことにも触れる。この「文化を作る」という目標は、本編でも何度も出てくる。

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ブランドの仕事は記憶を設計すること

本編は聞き手の問題提起から始まる。番組の視聴者には起業家が多く、「物ではなくこと、感情や体験を売れ」という言葉は知っていても、具体的に何をすればよいのか分からないという声をよく聞く。マーケティングは商品、価格、売る人、売る場所、伝え方の総体だが、その中で「体験を売りたい」というとき、それを自分たちでどう定義し表現すればよいのか、という問いである。

石原氏の答えは、その商品が記憶に残るものになれるかどうかだ、というものだった。記憶の設計こそがブランドの仕事だと考えているという。メゾンカカオにとっての「記憶」とは何かと聞かれ、石原氏はいくつかの層を挙げる。チョコレートを食べたときの景色。その製品の先に広がる、作り手が込めた思いの景色。一緒に食べた人との時間。そして、贈る相手を思い浮かべながら製品を選んでいる時間も含まれるという。

販売員ではなく「プレゼンター」、リレーの最終アンカー

聞き手は疑問を返す。チョコレートを食べる場面はどの客でも同じで、どこで誰と何と食べるかは売り手が制御できない。店舗やネット販売という制約の中で何ができるのか。

石原氏は、そこで重要になるのが「プレゼンター」の役割だと答える。同社では販売員をプレゼンターと呼び、価値のリレーで最後にバトンを受け取って走り切る「最終アンカー」と位置づけている。石原氏によれば、メゾンカカオはチョコレートではない何かをつないでいるブランドである。温暖化が進み地球環境が厳しくなる中でも、365日自然と向き合って果実を作る生産者がいる。その気持ちを作り手が情熱を込めて形にし、デザインチームが彩りを加え、最後にプレゼンターが「情熱のリレー」を客に届ける。

ただしこれは社内側の話で、客には客それぞれのストーリーがあると石原氏は言う。祖父母に柔らかくて溶けやすいチョコレートを贈りたい人もいれば、恋人の好みに合わせて選ぶ人もいる。最近あった印象的な例として、石原氏は店舗での出来事を紹介した。20歳になる息子に「母から息子に贈る最後のチョコレート」を贈りたいので一緒に選んでほしい、とある母親から頼まれたという。プレゼンターはその思いを受けて、どれを「最後のチョコレート」にするかを一緒に考えた。

マニュアルはない、一緒に旅に出る

聞き手は、そこまでの役割を担うなら相当なスキルが要るはずだとして、教育方法を尋ねた。石原氏によれば、ロールプレイングなども行うが、一番の方法は「一緒に旅に出る」ことである。コロンビアなどの生産地や農園に一緒に行き、同じ景色を見る。物づくりのストーリーや背景、お金では買えない価値がそこにあることを知ってもらうのが最も大事だという。

接客のQ&Aマニュアルのようなものは、メゾンカカオには「ない」と石原氏は明言した。では販売スタッフに一番大事なこととして何を伝えているのかと聞かれると、客が最後にワクワクして店を出ていくことだと答える。欲しいものはウェブですぐ買える時代に、買うつもりがなかったのにプレゼンターに出会ったから新しい味に挑戦してみようと思う。あの人の喜ぶ顔が想像できると思う。そうして客が笑顔で買っていくことが、何個売れたかよりも大事であり、それが1つでも2つでも構わない、というのが石原氏の考えである。

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丸の内の旗艦店:カフェとバーカウンター

2024年12月、同社は丸の内に都内初の旗艦店を出した。聞き手が工夫を尋ねると、石原氏は同社初のカフェを設けたことを挙げる。ペアリングを含め、このように合わせると香りが広がるといった食べ方の提案を通じて、チョコレートそのものの魅力を、持ち帰る菓子とは別の広がりとして体験で伝えられるようにした。バーカウンターもあり、アルコールとの組み合わせも提供しているという。

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意図的にブレーキを踏む、「今が一番最低」

聞き手は石原氏のスピード感に衝撃を受けたと話す。SaaSのようなソフトウェアなら拡大の道筋が見えやすいが、チョコレートは手間がかかり、口に入る繊細な商材で、人について考えるべきことも多い。その中でこの速さが出ていることをどう感じているのか。

石原氏の答えは意外なもので、自分は「すごくブレーキをかけている」という。本当はもっとアクセルを踏みたい。それでもブレーキをかけるのは、みんなが同じページに立ちながら前に進みたいからで、自分一人の夢ではなく、みんなで描く夢にしたいからだと説明する。短期的に売上だけを考えるならいろいろなやり方はある、とも認めた。

目指しているのは文化づくりであり、100年という時間軸なので、自分が生きている間にはかなわない夢だと石原氏は言う。今やっていることが正しいかも分からず、満足は何もない。だから常に「今が一番最低」だと思って取り組んでいる。売上や規模よりも、ブランドの核が「バキバキに」魅力的であることのほうが大事だという立場である。

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リスナー質問①:KPIが個数のまま、体験を売れるのか

最初のリスナー質問は、百貨店のスイーツ売り場で働く33歳の「ゆうき」さんからのものだった。プレゼンターという呼び方や、1粒に体験を封じ込めるという発想に惹かれる一方で、現場の評価は販売個数である。体験を伝える接客は、数を売ることと相反しないのか、という内容である。聞き手も同じ疑問を持つと言う。商売は結局「客単価×客数」なので、丁寧に寄り添った結果、2箱ではなく1箱、1箱ではなく1粒になることもあるのではないか、と付け加えた。

石原氏は、こうしたパラドックスを大事にしていると答える。品質は高く保ちたいが量も作らなければならない、という矛盾と同じ構図だという。聞き手が「ボランティア団体ではないので、成績を追われるのは現実」と補うと、石原氏はそれを認めたうえで、AかBかの選択ではない「第3の案」が必要だと述べた。

石原氏の考えでは、客にとって一番心地よい接客がどこにあるかを考えると、長いことが必ずしも丁寧とは限らない。また、個数が増えることは接客が雑になることではなく、価値を知ってくれるファンが増えることにもつながる。目標として個数が設定されていても、それを「笑顔の数」「感動の数」をこれだけ作りに行こう、と置き換える。そうすると、個数に縛られない新しい手段が出てくることがある。矛盾にぶつかったときは、両方をハッピーにする新しいアイデアがないかを考えるよう、社員に伝えているという。

具体的な方法を示すのかと聞かれると、石原氏は「言わない」と答えた。自分で考えてやってみてもらう。答えがあるときは自分がやってみせることもあり、一緒に考えることもあるという。

例としてバレンタインの時期を挙げた。1日に非常に多くの客が来るため、1人あたりの接客時間は普段のごく一部になる。長い列に並んだあとで長い説明を受けても客はお腹いっぱいになってしまい、できるだけ早く満足できる製品を選びたいと考えている。そこで問われるのは時間ではない、と石原氏は言う。聞き手は、時間をかけなければ良い接客はできないというのは思い込みであり、短い時間でも質の高い時間は提供できるということだ、と受け止めた。

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リスナー質問②:小さな会社が生産者と「家族」になるには

2問目は、愛知県で食品原料メーカーの海外事業を担当する44歳の「まさひろ」さんからだった。聞き手は前提として、メゾンカカオがコロンビアの農園を訪れて生産者を支援し、2400以上の生産農家と契約していること、「1素材1農家」で関係を築いていることを紹介する。そのうえで、理想は分かるが、自社のような小さな会社が生産者と密な関係を作るための最初の一歩は何か、という質問を読み上げた。

石原氏の答えは「約束を守る」だった。例として挙げたのはライチである。必要量を見込み、売上計画も生産計画も立て、工場のラインも押さえてある。本来100キロ届くはずが、その年は生産に失敗して30キロになった。そのとき同社は別のライチ生産者を探さない。その年は30キロで終わりにする。それを見た生産者は翌年もっと努力しようとし、さらに多くのライチを譲ってくれるのだという。

石原氏は、実際にその場面でこの決断ができるかどうかは、一件だけの話ではないと付け加える。まず直接農家を訪ね、日々の小さな約束をどれだけ積み重ねられるかが大事だという。自分たちも一気にできたわけではなく、今も旅の途中で、まだ足りない部分のほうが多いとも話した。聞き手は、海外の商談の場では来年の計画や仕入れ量を勢いで約束してしまう「マジック」があるが、果たせなかったときのことまでは考えていない担当者も多いのではないか、と応じた。

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困ったときに必ず力になる:サクランボ500キロとコロナ禍

石原氏が挙げたもう一つの条件は、相手が本当に困ったときに微力でも必ず力になることである。例はサクランボだった。規格外品が大量に出て、一気に500キロが納品されると、工場はすべての種を取らなければならず、労働時間が収まらなくなるほど大変になる。それでも引き受けるのは、サクランボの生産者が1年分の売上をわずか3週間で稼ぐからだという。1日1日が生産者の1年分の生活に関わる。その背景を現場で知っているかどうかで、ただ500キロを受け取るのか、力になりたいと思って受け取るのかが全く違ってくる、と石原氏は語る。

コロナ禍では、各社が輸入を止め、コロンビアの生産者の収入がなくなりかけた。メゾンカカオ自身も売り先を失っていた。それでも石原氏によれば、キャッシュポジションがどれだけ落ちても、約束していた量をすべて、それ以上の量で買い取ったという。どうなるか分からなかったが、その積み重ねが生産者との関係を作ってきた、というのが石原氏の見方である。前日にも新しいマンゴー農家を紹介されたが、長年付き合ってきたマンゴー農家と握手しているので、そこだけでやると伝えたという。

聞き手が「利を取るのか義を取るのか、ものすごく義の方ですね」と言うと、石原氏はそこを大切にしたいと答えた。そのうえで「この甘い戯言がどこまで続くか分からないですが」と付け加えている。

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無利益の4〜5年でも教育支援を止めなかった理由

聞き手は、サステナビリティやフェアトレードという言葉が先行し、日々の数字に追われるうちにキャンペーンで終わってしまう例が多いと指摘する。給料を払うことと、会社のミッションや社会的な貢献を両立させるのは難しい。石原氏はそれを「AかBか」ではなく、両方を結実させた「C」に仕上げている、と聞き手は評価した。

聞き手が特に驚いたのは時期である。会社を立ち上げたのは2015年で、翌2016年にはすでに1校30人規模で現地小学校の教育支援を始めていた。現在は3校400〜500人規模に広がっており、単発の寄付ではなくインフラ投資のようになっている。

石原氏は、生産者と長く付き合い、質の高いカカオを一緒に育ててもらうには、彼らの生活環境を整えるのは必然だったと説明する。当時は4〜5年利益がなかったが、怖くはなかったという。それでも本当に支払えなくなったことはあり、友人からお金を借りて支払ったこともあると明かした。社内から「現地の学校にお金を出している場合ではない」と言われたこともあるが、それでも続けたのは「約束したこと」だからだという。利益や経済的合理性でブランドをやっていない、という考えがずっとあると石原氏は話す。

聞き手は、多くの会社がパーパスやミッションに十分にコミットしていないから、どっちつかずになるのかもしれないと述べた。なぜそこまで迷いがなかったのかと問われると、石原氏は現地の子どもたちの笑顔と、力強い学ぶ志に励まされたことを挙げた。暴力や虐待を受けて言語障害や自閉症になっている子どもたちがいる。彼ら彼女らが未来の農家になり、未来を作っていく人たちだとすれば、学びの場は必然だと考えた。そこに自分の意義を感じていたという。

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柔道の授業と「礼に始まり、礼に終わる」

支援は学校教育だけにとどまらない。子どもたちに何のスポーツを学びたいかと聞いたところ、サッカーや柔道という答えが出たという。そこで2年前から、井上氏(字幕では「井上康生」)の協力を得て、コロンビアにいる女性のオリンピック選手を講師に招き、柔道の授業を行っている。今月も2回開催したという。石原氏は、これも単発ではなく長く続け、「礼に始まり、礼に終わる」という日本の精神性を伝えたいという思いで始めたと説明した。

聞き手は、スタジオにあるメゾンカカオのチョコレートを前に、その1粒の中にこうした物語や思いが入っていると感じると話した。そして、誰かが言っていた言葉として、「消費と言うな」「お金を払うのは議決権であり、商品やサービスに一票を投じることだ」という考えを紹介する。チョコレートの向こうにある考え方や取り組み、風景や文化にまで一票を投じられる商品作りだと感じた、と聞き手は述べた。

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ラグジュアリーは「長く続けるための武器」

続いて聞き手は、ブランディングやラグジュアリー化に悩む会社が多いとして、ブランドとは何かを尋ねた。石原氏は、ラグジュアリーを、ブランドを長く続けていくための武器と考えていると答える。かつてラグジュアリーは地位や名声を保つための持ち物として使われることが多かった。しかし文化的エリートの変化によって、何もしない時間をラグジュアリーと呼んだり、時間の使い方や心の豊かさにつながるものへと意味が変わりつつある、と石原氏は見ている。

そのうえで同社が目指すのは「手放したくないブランド」になれるかどうかだという。客にとっていつまでも価値があり、ライフスタイルの中で長く一緒に時を重ねたいと思ってもらえるブランドになれるか、という視点を持っている。

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寿司、ウイスキー、そして「生」を世界へ

聞き手は、この思想はチョコレート以外の商品やサービスにも展開できそうだとして、構想があるかを尋ねた。石原氏の答えは、今はチョコレートを通してやっていく、というものだった。

石原氏が引き合いに出したのは寿司とウイスキーである。寿司は世界で生の魚を食べる場面を変えた。ウイスキーは日本の感性で磨かれ、60年売れない時代を経て世界5大ウイスキーの一つになった。チョコレートは海外で生まれた文化だが、日本の美意識と感性で磨き、「生」というキーワードを持って世界に出たとき、寿司が成し遂げたようなチョコレートの新しい景色や文化を伝えられるのではないか。石原氏はその可能性にとてもワクワクしているという。

世界ブランドになることについても、石原氏は独自の定義を示した。世界の一等地に店を構えることだけではなく、世界中の人がそれを目がけて日本のこの場所に来たいと思うブランドを作ることも、世界ブランドの一つの形だという。カカオから始まる物語をそこに向けて広げていきたい、と語った。

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若い世代へ:人生は設計するより旅をする

最後に聞き手は、転職、起業、会社の次の段階、あるいは撤退といった岐路で悩み、動けずにいる人にどう声をかけるかを尋ねた。石原氏は「本当にシンプルなんですけど」と前置きし、自分は人生を設計するよりも人生を旅していたいと答えた。だからワクワクする方向に行く、という。

聞き手はこれを受けて、そうではない方向に進もうとしているなら一度立ち止まり、本当の自分は何をしたいのかを考えるのがよい、と言い添えて対談を締めくくった。