ブランドは「人格」である──ザ・ノース・フェイスの大坪岳人が語る、利益との線引きと黒いレインウェアの転換
MAKE IT NEXT「ブランド」は使い古され、意味がぼやけた言葉になっている。ナビゲーターのSean Kawakamiはそう前置きして、ゴールドウインでザ・ノース・フェイスのブランド事業副本部長を務める大坪岳人に問いかけた。あなたにとってブランドとは何か。大坪の答えは「人格」だった。対談はそこから、ブランドと利益の折り合い、買い替えが起きにくい商品でファンとの関係を続ける方法、そして視聴者から届いた「コアなファンとマスの拡大、どちらを先に取るべきか」という質問へと進む。
ブランドとは、人の心に浮かぶ「空気感」
大坪によれば、ブランドには形がなく、決まった定義もない。それでも名前を聞いたときに頭の中にふわっと浮かぶイメージや空気感がある。大坪はそれをブランドと考えており、人の人格やキャラクターに近いものだと説明した。その人の性格や雰囲気にあたるものが、ブランドにもあるという考え方である。
Kawakamiはこれを「パーソナリティ」と言い換えた。作った人や関わる人たちを集めて見たときのパーソナリティ、さらに今話している大坪自身の人柄も含めてブランドなのだろう、とKawakamiは言う。それがたまたまTシャツなどの商品の形をとる。本当に良いブランドは、商品の向こうに人が見えるのではないか、というのがKawakamiの受け止めだった。
大坪はこれに応じ、人に「私はこういうことはしない」というポリシーがあるように、ブランドにもポリシーやキャラクターがあり、仕事のうえでそれを大切にしていると話した。ただし実際の仕事は、物を作って売ることである。そのため、ブランドのポリシーから離れそうになる場面は非常に多いという。
ブランドと利益を「別々に考えない」
Kawakamiは、ブランドを守ることと利益を増やすことは必ずしも釣り合わないのではないかと問うた。会社は非営利団体ではないので、ブランドを育てながら利益も出さなければならない。大坪もそのバランスは本当に難しいと認めたうえで、だからこそ両者を別々に考えないことが大事だと答えた。ブランドと利益は一体のものとして扱う、という立場である。
Kawakamiはさらに具体的な場面を挙げた。安くすれば多くの人が買ってくれ、利益が取れるなら会社としては嬉しい。MD会議で「安くすればいい」という話が出たとき、「必ずしもそうではない」と線を引く基準は何か。
大坪が挙げた基準は「長く続けられるかどうか」だった。材料費などの事情で値段が上下することはある。それでも、お客さんが買った物を大切に長く使ってもらえるか、企業としてその商品を長く続けられるか。これが一つの判断基準になっているという。
壊れない商品で、どう長く付き合ってもらうか
Kawakamiは「天邪鬼な質問かもしれない」と断ってから、こう尋ねた。シャンプーや洗剤と違い、Tシャツは使っても消えてなくならない。ファンになって長く付き合ってもらうといっても、補充の需要が自動的に生まれるわけではない。そのときマーケティングはどう考えるのか。
大坪は、買い替え需要はそれほど見込めないと認めた。山で使う前提で、そもそも丈夫に作ってある。気分で買い替えるものでもない。そのうえで大坪は二つの道筋を示した。
一つ目は「選択肢」を出していくことである。フィールドに出たり、アクティビティをしたりするときに必要な物は一つではない。ブランドを好きになってもらえれば、別の場面で選んでもらえる選択肢を用意できる。大坪は、道具づくりにはトレードオフがつきものだと説明する。雨を防ぎながら汗を逃がす、小さく畳めるようにする、といった相反する条件を両立させるのが、道具としての使命である。それでも人によって「自分はこちらがいい」という好みは分かれる。だから一つの正解を出すのではなく、いくつかの選択肢から選べるようにする。そうすれば、買い替えではなく「この場面ならこちらの方がいい」という形で買ってもらえる。
二つ目は「アップデート」である。一度買った人にも、以前のギアより良くなったと伝われば見に来てもらえる。そういう需要は発生する、と大坪は言う。
Kawakamiはこれを、LTV(ライフタイムバリュー)の話としてまとめた。1人の客が1回買って終わりではなく、1年、2年、3年と何度も買ってくれることを考えて、今日の売り方を決める。今月の営業目標に追われると、マーケターは自分も含めて目先の1回の販売に走りがちだ。しかし長い目で見れば、客と長く、頻度高く接点を持つ方がいいのではないか、とKawakamiは自戒を込めて語った。
大坪は、マーチャンダイザーによく伝えていることを紹介した。売れる商品を作ることは大事だが、その商品が周りの商品にどう影響するかも考えてほしい。前の商品から今の商品へ、今の商品から次の商品へと開発は続いていく。そのつながりをどう組み合わせるかを非常に大事にしている、という。
「顧客を育てる」という考え方
Kawakamiは、アウトドアにはアクティビティに集まるコミュニティという「場」があり、文脈を作りやすいと指摘した。大勢の客を呼び込むよりも、その場の中で新しいギアを紹介したり、着方やテントの立て方、楽しみ方を伝えたりする。そうすると客は、物を買うというより、アクティビティをもっと楽しみたくて買うようになる。ザ・ノース・フェイスは車を売っていないが、「大坪さんはどんな車に乗っているのか」という話からも関心が広がる。そうやってエコシステムができていくのではないか、とKawakamiは話した。
大坪はここで、社内でよく使う「顧客を育てる」という言い方を紹介した。自分たちが客より上だという意味ではないと断ったうえで、世の中には客がまだ知らない価値がたくさんあるはずだと言う。その価値に出会うことで、客の中で「これならもっとこういうことができるかもしれない」という可能性が広がっていく。それが大事なアプローチだと考えている、と大坪は述べた。
Kawakamiが、アウトドアという消えることのない文脈の上で一定数のコミュニティがブランドを愛している限り、このブランドは続きそうだと言うと、大坪は「それを裏切らないこと」だと応じた。
大坪自身のアウトドア
大坪自身もアウトドアが好きだという。本格的な登山をしているわけではないと前置きしつつ、石川・富山の出身で、雪山を滑るのが好きだと語った。カヤックも好きで、最近は走れていないもののトレイルランニングも好きだという。
トレイルランニングには入社当時の思い出がある。大坪が入社したころ、ブランドとして箱根で50kmのトレイルランニングを盛り上げようとしていた。「トレイルランニング」という言葉がまだあったかどうか、というくらいの時期だったという。製品開発のために自分でもトレイルに出ていたので、今でも好きだと話した。
視聴者の質問:コアなファンとマス、どちらを先に取るべきか
番組には、33歳でアウトドア系D2Cブランドを立ち上げて3年目の創業者から質問が届いた。熱心なファンはついたが、規模を追うと「らしさ」が薄まると言われた。ザ・ノース・フェイスは本格派としての信頼と、街での人気をどう両立させたのか。順番と作法を教えてほしい、という内容である。
Kawakamiはまず、本格的なアウトドアブランドとしての信頼と、タウンユースとしての人気は「そうなってしまった現象」なのか「狙った現象」なのかを尋ねた。大坪の答えは、狙ったとは言いづらいが、狙った部分も当然ある、というものだった。
大坪は商品と届け方を分けて説明した。商品については、街での人気を狙って作るものはあまりない。アウトドアの解釈は広くレベルにも幅があるが、基本はアウトドアの中での価値をできるだけ高め、まずコアな部分を取っていく。一方で、売り方や届け方、店のあり方はもっと多様であっていい。たとえば、雨を防げる服は雨が降っていないときにジャンパーとしても使える。しかし、そのことは意外と知られていない。そこで原宿に何店舗も作り、同じ商品でも「こういう使い方もある」と伝える。そうすればコアを壊さずに広げられるのではないか、と考えたという。変えたのはコミュニケーションや売り方、世界観の伝え方だった。
Kawakamiはこれを質問者の状況に引きつけた。質問者が「規模を狙う」と言うとき、それはタウンユースに寄せる、安くして買いやすくするなど、新しい商品やMD戦略を立てることを指しているのだろう。だが大坪の話は、商品を変えるのではなく、コミュニケーションを変えればいいということだ。山で使えるなら街でも当然いい。そう伝え方を変えれば、同じ商品が別の場所でも売れる。Kawakamiがこう整理すると、大坪は「価値が正しく伝わるようにすることの方が大事だ」と答えた。冒頭の人格の話と同じで、ブランドが変わってしまうと「あいつ変わっちゃったな」と思われる、とも付け加えた。
作り手と売り手の葛藤
Kawakamiは、営業や販売の現場からは「こうすれば売れるのに」という声がたくさん出るはずで、作り手との間でぶつかることもあるのではないかと尋ねた。大坪は、それはとてもあると認めた。自分たちの中にも葛藤があるという。
ビジネスをしている以上、こうすればもっと売れると思うことはある。それでも「このブランドはそれをやらない」と感じることもある。ただ、その線引きはどこかに決まっているわけではない。短期的な利益を追ってはみ出してしまうのは良くない。一方で、「NEVER STOP」を掲げるブランドが、こうでなければならないという固い型にとどまりすぎるのも違う、と大坪は話した。
黒いレインウェアが街の定番になるまで
その例として大坪が挙げたのが、ザ・ノース・フェイスが成長した一番大きなポイントだというレインウェアの話である。雨具は雨が降ったときに着るもの、という固定観念があった。それをフラットに考え直し、雨が降っていないときに着てもいいのではないかと考えた。
ところが、そうしようとすると「それはレインウェアではないのではないか」という声が上がった。日常でも着たいから黒いレインウェアを作ろうとしたときも、山の世界では黒は見えにくくなるから良くない、といった反対がコアな人たちから出ていたという。それでも冷静に考えれば、黒なら着る出番が増え、より多くの人に届けられる。結果として、コアな人たちの意見とは違うものを作ったことで、より多くの人に届いた。今は黒いアウタージャケットを着ている人が本当にたくさんいる、と大坪は振り返り、そこに転換があったと話した。
Kawakamiはこれを、レインウェアとして作った商品を「レインウェアとしても使えるウインドブレーカー」と言い換えたことで、同じ商品なのにまったく違う売り場と客が見えてきた、と言い表した。マスに売るためにMDを一からやり直すのではなく、今ある物をどうマスに展開するかを考えてみる。質問への答えも、そういうことだろうとKawakamiはまとめた。
ファン経済とデジタルマーケティング
対談の後半で、Kawakamiは大坪にぜひ聞きたかったという問いを投げた。マスマーケティングは、より多くの人に気づいてもらい、信頼され、興味を持たれ、記憶され、買ってもらうために懸命に取り組まれてきた。一方で、鉄道ファンの世界を見ると、プラレールや鉄道会社が大規模なマーケティングをしているようには見えない。それでも乗り鉄や撮り鉄など、ファンがファンを呼び、消費が生まれている。秋葉原では同人誌を100冊、CDを80枚買う人がいる。銚子電鉄が線路に落ちている石を売れば、それも買われる。CD80枚も同人誌100冊も、実用的には要らないはずだ。Kawakamiはこうした消費を、資本主義の等価交換とは違う、マーケティングを超えた「メタマーケティング」のように感じるという。その対極に、ウェブやInstagramでCPAやコンバージョンを追うデジタルマーケティングの世界がある。両方を見ている大坪には、この二つがどう見えるのか、という問いだった。
大坪は、ファンが生む価値はおそらく「お金では買えない価値」であり、言い換えればデジタルに置き換えられない価値だと答えた。CD80枚という枚数は、払った金額とは関係のないものだろう、とも述べた。デジタルマーケティングは、そうした価値をいかに結びつけ、効率化していくかの手段である。だから大坪は、デジタルマーケティングをファンマーケティングを助けるツールと考えている。どちらか一方を選ぶものではない、という見方だった。
Kawakamiはこの答えに納得し、デジタルはファンを支える情報提供やコミュニティに使えばいいと話した。そのうえで、1人あたりの広告単価が高かったから下げよう、広告の出稿先を変えようと、そこにばかり集中するマーケターは、線路の石を買う人たちを見てどう思うのだろう、と問いかけた。ポルシェやフェラーリ、アストンマーチンは広告を大量に回しているだろうか、ともKawakamiは言う。「本当にお好きならどうぞ」という姿勢でありながら巨大なコミュニティがあり、エンジンや組み合わせについての語りがあふれている。エンジン音は他人から見れば何の価値があるのか分からず、うるさいだけかもしれない。それでも、たまらなく好きな人がいる。Kawakamiは、そこまで行くとブランドは本当に人格を備えたものになるのだろうと述べた。
自分たちの北極星
Kawakamiは、ザ・ノース・フェイスと言えば誰もが知っている、サザンオールスターズのように老若男女に知られた存在だと評した。そこまでブランドを作り上げることも、それを絶やさないことも大事だと語った。
これに続いて大坪は、ブランド名の「ノース」に触れた。本当の自分たちの北極星がどこにあるかが分からなければ、自分がどこにいるかも分からなくなる、と話した。
対談の最後には、60周年記念の「NEVER STOP EXPLORING EXHIBITION」が話題に上った。大坪は、周年行事なので過去を振り返る内容も当然あると説明し、「NEXT」について話し始めたところで、このエピソードは終わる。
私の友人でオリンピックまで行った水泳選手がいるんですけど、「そこで泳ぐの?」って言ったんですけど、クロールで寝れるらしいんですよね。
すごいけど、アクティブレストに近くて。アクティブメディテーションとか、アクティブサウナみたいに、歩いてると自分の変化って、今日は体が重いなとか。ネットと違うのは、やっぱネットって基本的に「俺の話を聞け」じゃないですか。ネットサーフィンの3時間と歩く3時間の違いって何ですかね?
これから少し具体的なところで、これは聞いてらっしゃる方々がビジネスパーソンが多い中で、このブランド、ブランドって、すごく手垢のついた言葉だと思うんですけど。大坪さんにとってブランドって何ですかね? ブランドって、何でもかんでもブランドって言うじゃないですか。「ブランディングが」っていう。逆にすごく使い古されてきてる言葉だけに、よくわからないものになってきてると思うんですけど、大坪さんにとってブランドっていうのは何ですか?
その人の心の中にある印象というか、形があるものってないと思うんですよね。今おっしゃったように、定義されてる言葉もないし。だけど、ふわっと頭の中に浮かぶイメージみたいな、空気感みたいなものが、僕はブランドだと思ってまして。それって人とか、人格とかキャラクターに共通するかなと思ってまして。そういった、その人の性格とかキャラクターとか雰囲気みたいなことをブランドっていうふうに思ってますね。
パーソナリティですかね。やっぱりそれは、作った人、それからそこに関わる人たちを集合的に見た時のパーソナリティとか、大坪さんの今話されてる、この大坪さん自身のパーソナリティも含めて、ブランドなんでしょうね。それがたまたま商品になって、Tシャツになったり、いろんなものになっていくんでしょうけど。本当にいいブランドって、そこの商品もそうですけど、その向こうに人が見えるということなんでしょうかね。
なんで、そのポリシーとか、例えば「私はこういうことをしません」って、皆さん、自分のポリシーって、自分の何て言うんですかね、とかあると思うんですけど。そういうブランドのポリシーとか、ブランドのキャラクターみたいなのは、仕事していく上ですごく大切にしてますね。どうしても、とはいえ物を作って売ってっていう仕事になるので、そういうところから、もすると離れる瞬間っていうのはすごくたくさんあるんで。
そうですよね。ブランドを守るっていう言葉が、必ずしも利益を増やすってこととバランスしない時もありそうな気がするんですよね。そうすると、ブランドを育てていく、それでちゃんと会社としては利益が取れてるっていう。これは非営利団体ではないわけだから、そのバランスっていうのはすごい難しいなって。
難しいですね。本当に難しいなと思いますし、なので、別々で考えないってことが大事だっていつも思ってます。それが一体になったもので。
なるほどね。それ、具体的に例えばどういう瞬間に現れますか? このブランドを守っていかなきゃいけないと、ブランドポリシーを守っていかなきゃいけないと。売れることは決して悪いことじゃないんですけども、例えば安く売った方が売れますと。安く売れば多くの人は買ってくれますと。これは会社としては嬉しい。利益がきちんと取れていればってことですけど。その場合に「安くすればいいじゃん」っていう会話が、そのMD会議の中であった時に、大坪さん、「必ずしもそうじゃないよね」っていうところの、その線引きっていうか、バランスみたいなことって、ものすごく難しい気がするんですよね。
そうですね。
その時に、自分で指針になるようなものってあると思うんですけど。毎回変わるというよりも、「僕はこれでもう決める」、何かありますか? それって。
基本的には長く続けられるかどうかっていうのが一つ。その値段で、なるべく、いろんな事情があって、材料の値段だったり、いろんな事情があって値段が上がったり下がったりするってことはあるんですけど。やっぱりその物をお客さんが買った時に、大切に長く使ってもらえるか、あるいは我々が企業としてその商品を長く続けられるかっていうことが、一つの基準としてはあるかなと思いますね。
例えば、すいません、すごく天邪鬼のような質問かもしれないですけど、シャンプーみたいになくなるわけじゃないじゃないですか。Tシャツ、溶けてなくなるわけじゃないですか。そうすると、長く続けてもらうっていうことをおっしゃる場合は、どんなふうに考えるんですか? 商品としては。
新たな商品を買ってもらう、あるいは。
その長く、一人のお客様が、いわゆる商品を一発買ってではなくて、ファンになってもらって長くお付き合いしてもらうっていう場合って、シャンプーとか洗剤みたいになくなるわけじゃないので、自動的には来ないわけじゃないですか。その時のマーケティングってどういうふうに考えて、来てもらうっていう、その来てもらうってどういう。
なるほど。それはやっぱり今おっしゃった通りに、買い替え需要っていうのはそれほど、見込めなくはない。当然、山で使ったり。そもそも丈夫に作ってあります。
そうね。なかなか壊れないですよね。
気分で変わるってものでもないと思うんですけど。ただやっぱり、フィールドに行くとかアクティビティするとか、いろんな必要な物って一つではないので、ブランドが好きになってもらえれば、それ以外の、もう一つの選択肢みたいな。選んでいただける選択肢を出していくってことはあるかなと思います。
なので、全ての物で、一つで全部クリアできればいいんですけど、どうしても元々、例えば雨が防げるのに汗を出すとか、小さくなるのに、であるとかって、結構その相反するトレードオフの関係にあるものを作らないといけないっていうのが、僕らの道具としての使命としてはあるんですけど。どうしてもそうなると、「私としてはこっちがいい」とか「私としてはこっちがいい」っていうのはあるんで、一つの選択肢というよりかは、いくつかの選択肢が選べるようにするっていうのは、買い替えというよりかは、「こういう場面だったらこっちの方がいいかもな」とか、そういう選択肢としては買っていただける。
あとはもう一つはアップデートしていくっていうので、今よりもさらに良くなるっていうのは、一旦買ったけれども、「あのギアよりもこっちの方が良くなってますよ」「そうなんですか」って見に行くっていう需要は、やっぱ発生するし。
世に言うLTV、ライフタイムバリューっていう。これは一人のお客さんが一発買っただけではなくて、例えば1年間、あるいは2年、3年と通じて、一人のお客さんが何度も何度も購買してもらうことを考えて、今日売った方がいいよっていう。これは本当にマーケターの人が、私含めて本当によく考えなきゃいけないなと思うんですけど。「一発売れば何とかいいじゃん」と。今月の営業日報は書けると。今月何とか営業しなきゃいけないんで、どうしても一発一発ってやるんだけれども、長い目で見ると、実はこのお客様に、よりよく長く、頻度高く触れてもらった方がいいってことですもんね。
はい。結構マーチャンダイザーに対して、MDに対してよく言うのは、売れる商品を作るってことも大事なんですけど、それがその周りの商品にどういう影響があるかっていうのを、つながりとか。あとは前後の、前の商品から今の商品、今の商品からこの先の商品っていうのも当然みんな開発してるので、それとのつながりをどうやって組み合わせていくかっていうのを、すごく大事にしてますね。
そういう意味では、物が売れるっていう、そのコミュニティはどこにあるかっていうと、場にあるわけじゃないですか。アウトドアという場、アクティビティに寄ってくるコミュニティがあるわけで。これは文脈としては作りやすいですね。
そうですね。
だから、たくさんのお客さんに「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」というよりも、この場の中で大坪さんが出ていって、新しいギアの紹介をしてあげたりだとか、「こういう着方があるよ」「こういうテントの立て方があるよ」「こういう楽しみ方があるよ」。「そんなのもあるんだ」って言って、だんだん物を買ってるというよりも、そのアクティビティをもっと楽しみたいと思ってるわけで。はたまた、ノース・フェイスさんで車は売ってないと思うんですけど、「大坪さん、車は何に乗ってるんですか?」ってなって、「あれ乗ってるんですよね」「それもいいですね」みたいに、どんどんエコシステムができていくような気もするんですけど。
商品を育てるっていう言い方もあるんですけど、これは僕らがその上にあるとか下にあるとかって意味ではないんですけど、「顧客を育てる」っていう言い方をよく社内ではしてまして。そのお客さんがまだ知らない価値が世の中にはたくさんあるはずで。出会うことによって、先ほどおっしゃったように「これだったらもっとこういうことできるかも」とか、そういうことがお客さんの中で広がっていくっていうのは、すごく大事なアプローチかなとは思ってます。
でも、そのアウトドアっていう、絶対に多分絶えることがない文脈の上に乗っかってるコミュニティの人たちが、一定数このブランドを愛してるっていうのがある限りは、このブランド、絶対続きそうですよね。
そうですね。それを裏切らないってこと。
そうですよね。ご自身も結構やられるんですか? アウトドア。
私も好きです。
例えばどこでどんなことをするアウトドアなんですか?
そんなに本当に全ジャンルとか、もちろんやってないんですけど。でも、雪山滑るのすごい好きですし、出身が石川とか富山なので。雪山に行くのも好きですし、あとはカヤックも好きですし。ちょっと最近は走れてないですけど、トレイルランニングとかも。ちょうど会社に入った時に、ブランドとして箱根で50kmのトレイルランニングって、まだトレイルランニングっていう言葉がなかったか、あったかぐらいの時に、ブランドとしてそういうことを盛り上げていこうとしてやってた時に、ちょうど入社したぐらいのタイミングだったので。自分の製品開発をする上でも、トレイルに出てっていうのはすごくやってたっていうので、トレイルも結構好きですね。
メールが一つ来てまして、質問です。33歳、ニックネーム01さん。D2Cのスタートアップ創業者、東京都。件名が「コアなファンとマスの拡大、どちらを先に取るべきですか?」。アウトドア系のD2Cブランドを立ち上げて3年目ですと。熱心なファンはつきましたが、規模を追うと「らしさが薄まる」、そんなふうに言われましたと。ノース・フェイスは本格派の信頼、街での人気をどう両立させたのか。順番と作法を教えてくださいって、結構真剣な。
アウトドアっていう、本当にガチガチのブランドというのかな、信頼、権威のあるブランドっていう部分と、「それ、タウン着としても着てもいいんじゃない?」っていう。私は街で見ることもものすごく多いわけですけど。あれは、そうなっちゃった現象なんですか? あるいは狙っていった現象なんですか?
狙ったとはちょっと言いづらいのかなと思ってまして。狙った部分も当然あるとは思うんですけど。一つは物作りに関しては、その商品ってことに関しては、それを狙って作るものっていうのはあんまりないかなと思ってまして。やっぱりできるだけアウトドアの中における価値を高めていこうっていう。アウトドアの解釈は広いので、そのレベル差っていうのはあるんですけど、そこでまずコアな部分を取っていくってことなんですけど。
ただ、売り方とか届け方、売る場というかお店っていうのは、もっと多様であった方がいいんじゃないかということで。その価値を、例えば雨が防げる。でも雨が降ってない時もジャンパーとして使えるとかっていうのは、みんななかなか知らないということなんで。原宿に何店舗も作って、同じ商品ではあるけど「こういう使い方もあるよ」っていうのを届けることで、コアは壊さずに、っていうのはできるんじゃないかなというので、コミュニケーションとか売り方とか、そういう世界観の伝え方を。
なるほど。ここでおっしゃってるD2Cのブランド、3年目とおっしゃいましたけどね。熱心なファンはついてると。ただ規模を狙うとらしさが薄まるっておっしゃってる時の、この規模の狙い方っていうのは、もう少しタウン着に寄せてとか、安くして購入しやすくしてとかっていうふうに、また新しい商品、MD戦略を立てるっていうことだと思うんですけど。何となく大坪さんがおっしゃってるのは、コミュニケーションを変えればいいってことですね。山で使えるってことは、絶対タウンでもいいわけですね。っていうコミュニケーションを変えれば、同じ商品でも別のところでも売れるっていう。変えなくてもいいよってことです。
はい。なるべくその価値が正しく伝わるように、むしろやっていくってことの方が大事かなと思いますし。さっきの人格とかキャラクターっていうと、「あいつ変わっちゃったな」ってなると、やっぱり本当に。
そうですよね。だからそこは本当に難しいし、営利団体である一方は、本当に利益を営んで、利益を生み出すってことを営んでいかなきゃいけないので、それ難しいところですよね。でも、営業とか販売の現場からは「こうやったら売れるのに」みたいなのはたくさんありますからね。それはやっぱり、作り手と営業の間での、ちょっとバチバチっていうのもあったりしますか? しますよね。
あります。すごくあります。ありますよ。自分たちの中でも葛藤って。やっぱりビジネスしてる以上は、こうやった方がもっと売れるよなって思ってても、「それってでもこのブランドはやらないよな」みたいな。ちょうどその線引きって、別に決まってるわけではないので。僕はすごく、短期的な利益を追求して、ちょっとはみ出してしまうとか。でも一方で、やっぱりネバーストップって言って、固まった「こうでなければならない」みたいなところにとどまりすぎると。
結局、僕らが成長した一番大きいポイントって、元々アウトドアのレインとかで、レインウェアみたいな雨具があるんですけど。雨具は雨が降った時に着るみたいな固定観念があって、雨が降った時のためにこうこうこうでやるっていうことがたくさんあるんですけど。フラットに考えたら、雨が降ってない時だって着たっていいじゃないというのをやろうとした時に、「それはレインウェアじゃないんじゃないか」とか。日常も着たいから、黒色の、例えば雨具を作ろうと。
作った時に、山の世界では黒は見えなくなっちゃうんで良くないとか、ハチが寄ってくるんで良くないって、そのコアな人たちはやっぱり言っていたりもしたんですけど。冷静に考えたら、それは出番が増えるし、もっとより多くの人たちに届けられるっていうので、逆にそのコアな人たちの意見とは違うものを作ったことによって、より多くの人に。今、黒色のアウタージャケット着てる方って本当にたくさんいるんですけど、転換っていうのはあったと。
レインウェアとして作りました。だけど発想を変えると、「レインウェアとしても使えるウインドブレーカーですよ」って言っちゃえば、同じ商品なんだけど、全く違う売り場が見えてきて、お客さんが見えてくるからってことですよね。
はい。
なるほど。だから、マスに売っていくからマス用にMDをもう一回やり直し、巻き直しということじゃなくて、今あるものをどんなふうにマスに展開できる、方法がきっとあるはずだよなって考えてみるっていうのも、そういうことですよね。
あと、大坪さんとかにぜひ聞きたいのが、マスマーケティング。マスマーケティングって要するに、より多くの人にAIDで気づいてもらって、信頼してもらって、興味持ってもらって、記憶してもらって、買ってもらうって、一生懸命マーケターってやってきたわけじゃないですか。
一方で、例えば鉄道ファンの人とか、プラレールみたいなところがものすごいマーケティング戦略をやってるようにはあまり思えなくて。あと鉄道会社もそうですし、乗り鉄、撮り鉄、あの人たちもファンがファンを呼び、さらにそこから消費が生まれていくみたいな世界だとか。あるいは秋葉原のようなところでは、「その本、そんな100冊もいる?」みたいな人たちが100冊買っていく。CDを80枚買っていく。
この世界って、いわゆる資本市場主義の中における交換経済と、何か違うような。「あれ、マーケティングなのか?」っていう、マーケティングを超えてる、メタマーケティングみたいな世界に見えてて。ファンを持っている方が、あの人は価値との等価交換じゃないところで消費してくれる。だってCD80枚いらないですもんね。
そうですね。
ですよね。同人誌100冊いらないはずなんですよね。でもずっと応援してるっていう人たちがいるじゃないですか。
そうですね。
銚子電鉄のレールに落ちてる石、いらないですもんね、あれ。あれもでも消費を生んでるわけじゃないですか。ファンがいるわけじゃないですか。コミュニティがあるじゃないですか。
一方でこっちではデジマで、デジマだ、Webマーケだ、インスタだ、CPAどのぐらいでコンバージョンってやってる世界と、ものすごくパーッていうところがあって。大坪さんとか、多分どっちも見てらっしゃると思うんですけど。マニアの人で、もうノース・フェイス大好きみたいな人もいれば、知らないから新規開拓しなきゃっていう、皆さん大好きな新規開拓って言葉があって。Webマーケで何して何してってやってる世界と、見ててどんなふうに見えてますか?
そうですね。いわゆるファンっていうのは、おそらくお金では買えない価値だと思うんで。言い換えれば、デジタルに置き換えられない価値。例えば「この1万がこの物です」みたいな。CD80枚がどうっていうのは、払ったお金とは関係のない、多分枚数だと思うんですよね。デジマは本当にそれをいかにして結びつけていくかというか、それを効率化していくかってことだと思うんで。僕は基本的にデジタルマーケ、デジマの方は、そのファンマーケを助けるツールというか。
そんなふうに。なるほどね。ORじゃなくて、ANDで、こっちのファンの人たちをサポートするための情報支援だったりだとか、コミュニティとかに使えばいいわけで。こっちで一人当たりの広告単価っていうのは、CPAはこのぐらいかかったから、今回もう少し下げましょうっていう、広告を出す場所を変えましょうみたいなことに、わーっとなってるマーケターいるじゃないですか。
あの人たちは銚子電鉄の、ちょっとしつこいですけど、レールに落ちてる石を買ってる人たちを見て、どう思ってるんだろうなって、ちょっと思う時があって。本当にポルシェって、フェラーリって、アストンマーティンって、広告バンバン回してるかなっていう。
「別に買っていただかなくて結構です」ぐらいの感じは、ちょっと怒られちゃうかもしれませんが、ある種「本当にお好きであればどうぞ」っていう感じがあって、ものすごいコミュニティがあって。そこに行くと、エンジンがこうだとか、この組み合わせがこうだとか、ああだこうだっていうのがわっとある。あの音みたいな。
まさにそれって何の価値があるのかって、他の人から聞いたらわからないけど。ちょっと申し訳ないです、反社会的基準じゃないですか? 音うるさいですもんね。でも、あの音っていうのが、やっぱりたまらないっていう人もいるわけで。便益って言ったら便益かなって。でも、この人にとってはやっぱり。
そうですよね。好きなことですもんね。
そこまでいくと、本当にブランドっていうのは人格を備えているものになるんでしょうね。だからノース・フェイスっていうのは、もう「ああ、あのノース・フェイスね」って誰しも思うはずなんですよ。サザンオールスターズぐらい思うはずなんですよ。老若男女が。そこまでなっているのっていうのはすごいことだなって思う一方で、そこまで作っていくってことも大事だし、絶やさないってことも大事だしっていうのは、そう思うんですよね。
よくノースって言って、本当の自分たちの北極星がどこにあるかっていうのがわからないと、自分がどこにいるかもわからなくなるし。
NEVER STOP EXPLORING EXHIBITION。これ、60周年のどんなイベントなんですか?
これは周年行事ではあるので、これまでの過去を振り返るっていうのも当然あるんですけど。
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