森田恭通がSean Kawakamiと語る、空間の「体験設計」とAI時代に人間が持つ第六感

YouTubeで開く ↗
概要

空間デザイナーの森田恭通と、コンサルタントのSean Kawakamiによる対談の後編である。前半はリスナーからの相談に答えながら、オフィスや飲食店の空間が人の気持ちや売上をどう変えるかを、照明や素材の具体例で語っている。後半は、仕事の取り方、プレゼンテーションの組み立て、そして生成AIとの向き合い方へと話が移る。森田の立場は一貫している。デザインは相手の想像を超えるものでなければならず、AIは敵ではなく共存する相手だという。

15分で読めます
0:12

額縁が写真を美しく見せる

字幕は話の途中から始まる。森田は、写真そのものではなく、それをより美しく見せるのがデザインだと述べる。写真に合った額縁を入れることで、写真がより美しく見えるという意味だ。Kawakamiはこれを受けて、森田は写真が買われて家に運ばれ、リビングに飾られたときにその場所でどんな価値を生むかまで「妄想」するのだろうと言い、森田もそれを認める。

0:40

オフィス空間は投資になるのか

最初のリスナーからの相談は、社員30名のIT企業を経営する35歳のスタートアップ経営者からである。オフィス移転を考えているが、「見た目より機能」という意見と「空間が人の創造性を左右する」という意見があって迷っている。オフィス空間への投資を経営的にどう評価すればよいか、という質問だった。

森田は、自分に何度も依頼をくれるリピーターの顧客から聞く言葉を紹介する。社員のモチベーションが上がり、それが日々続き、売上にもつながる。リクルーティングにも効果があり、「こんなところで働いてみたい」と思ってもらえる。顧客からは「いいことしかない」と言われるという。

ただし森田は、見た目だけを作っているわけではないと強調する。機能面は当然ヒアリングする。働きにくい空間はストレスになり、ストレスが一番よくないからだ。打ち合わせを重ねながら、部屋をあえて狭くしたり、廊下を打ち合わせ場所にしたりと、効率を上げるためのアイデアを自分の経験から出していく。そのうえで、デザインは間違いなく企業にとってプラスになると答えた。

Kawakamiは、誤解を恐れずに言えば、自分のアーティスト魂を押し込んでくるデザイナーもいると話す。顧客にはニーズがあり、それを満たすことが第一の目的である。機能と目的を達成しながら、アートとしての完成度も高めるのはとても難しい。Kawakamiはコンサルタントとしての実感も語った。何枚のパワーポイントやエクセルを見せるより、たった1枚のデザインのほうが経営者の心を動かす。財務分析を尽くして慎重な提案をしても、デザインを見た社長が「このぐらいはやらなきゃだめだ」と言い出すことがある。経営者がそう感じるのと同じように、訪れる客や社員も「こういうところならいい」と感じるのだという。

話は収録場所のJ-WAVEにも及んだ。森田によれば、デザインとしてはホワイトキューブだが、来訪したアーティストのサイン入りの品やアルバムといった財産がたくさんある。それは他にないオリジナリティであり、企業の空間にはオリジナリティが欠かせないと森田は言う。

4:30

限られた予算で居酒屋の体験を変える:照明

2通目は、地方で居酒屋を3店舗経営する48歳の飲食店経営者からだった。コロナ後に客足は戻りつつあるが、「また来たい」と思ってもらえる店づくりに悩んでいる。大きな予算は取れない。そのなかで、森田の言う「体験を設計する」という考え方を取り入れるヒントはないか、という相談である。

森田の答えは照明だった。居酒屋では料理をおいしく見せるために明かりが必要だが、店が明るすぎるとお酒の売上が伸びないという。根拠として、18、19歳の頃の経験を挙げた。売上が上がらない店で、翌日に照明を大きく絞り、カウンターにキャンドルを置く程度の暗さにした。店の人は昨日と違うと言っていたが、雰囲気がよくなってお酒がよく出て、売上が大きく上がった。変えたのは照明だけだったという。

どこまで暗くするかについて、森田は具体的な手順を示した。まず照明のスイッチを全部切る。次にキッチンなど必要な場所の明かりだけをつける。この時点で客席はたぶん真っ暗なので、充電式のテーブルランプを全部のテーブルに置く。わずかな光が生まれ、それがバータイムの勝負になる。さらにダウンライトを少しだけ明るくすると、売上が伸びる雰囲気の居酒屋になると森田は見ている。ランチタイムは明るくてよいので、ランチ、夕方からのディナー、9時半以降のバータイムで照明を切り替えるだけでも、店のイメージはまったく変わるはずだと話した。

7:25

ワイングラス、カウンターの「腰」、トイレの明かり

Kawakamiは、森田と仕事をした現場で驚いたことをいくつか挙げた。カウンターのダウンライトが食事をする位置からずれていると指摘すると、森田は「違うんだよ」と答えた。ワイングラスを置いたとき、そのグラスが一番美しく見える位置にライトを合わせてあるのだという。森田によれば、明かりを少し落としていくと、グラスの中の液体が光を跳ね返してきらきらと輝き、一番美しく見える。

次がカウンターの「腰」である。客が座ったときに足が当たる部分で、そこが柔らかい布地になっていた。理由を尋ねると、女性がヒールで座って足を組んだり置いたりすると、ヒールの先が当たって傷つくからだという。Kawakamiは、その「妄想力」の密度に驚いたと振り返る。

トイレの照明も同じ考え方で作られている。店内の雰囲気がよいまま席を立ったとき、トイレの明かりが全開だと気持ちが一度現実に戻ってしまう。だからトイレは店内と同じくらいの照度でなければならないと森田は言う。トイレは一人きりになる場所なので、冷静にいろいろ考えてしまい、「もう帰ろうかな、今日はもういいかな」と思う場所になりかねない。そうならないようにすることが大切だという。

Kawakamiは、言われなければ気づかないところまで想像してデザインに落とし込めば、そのぶんコストがかかるのではないかと尋ねた。森田の答えは逆だった。カウンターの腰には床材を立ち上げて貼ることが多いが、床が石なら石を使うことになり、これは高い。腰はそれほど目立つ場所ではないので、消防法の基準を満たすカーペットやファブリックの素材を貼れば、コストはむしろ下がるという。Kawakamiはこの話から、ロジカルに詰めていく部分と感性の部分のバランスがなければデザインは成り立たないと実感したと述べた。

10:57

繊細さと1mm単位の仕事

Kawakamiが森田の感覚を「女性的」と表現すると、森田は「繊細」という言葉で言い直した。自分たちは、相手が「森田ならこういうものを作るだろう」と想像するその上を超えていかなければならない。そのためには自分の中の引き出しを繊細に作っておく必要がある。1mm単位の仕事で、1mm違えば収まらない世界だという。

森田は、デザイナーはデザイン画を描いて終わりだと今でも誤解されると話す。実際には基本設計、実施設計で図面に落とし込み、施工図になるところまで見届ける。最後の仕上がりから逆算して図面を引くのがデザインだという。Kawakamiは、基本コンセプト、基本設計、実施設計図書、職人、現場の作り込みと進む流れが、会社を設計する経営とよく似ていると感じたと述べた。

12:20

依頼がなくても「飛び込む」:ジョエル・ロブションの事例

デザイナーとしての森田と、経営者・営業担当としての森田は違うのか。Kawakamiの問いに、森田は、自分たちがやりたい仕事は多いが、その仕事が自分のところに来る可能性は非常に低いと答えた。顧客を待っていても来ないので、繊細さとは逆の部分が出てくる。依頼のない会社に対しても勝手に企画とデザインを作り、知り合いでなくても何とかアポイントを取って乗り込むという。国内でも海外でも同じだ。

ジョエル・ロブションの仕事は、友人の紹介がきっかけだった。ロブションは世界で最も厳しいと言われる料理人で、2分で判断するという話もあった。紹介者からは「気にしないで」と言われたが、森田は気にした。来てもらった以上は喜んでほしかったからだ。

そこで森田は、デザインのプレゼンテーションをいったんやめた。まずジョエル・ロブションという人物が今どういう位置にいて、どう評価され、フランスと日本でどんなイメージを持たれているかを話した。料理やバックグラウンドにも触れ、「エルメスのような存在かもしれませんね」と伝えた。伝統を守りつつ新しいことに挑戦する、それはあなたの料理であり、フランスで言えばエルメスもそうではないか、という話をしたとき、ロブションの顔が喜んだ。そこからプレゼンテーションに入ったという。

森田は、相手の気持ちが乗っていなければ、同じものを提案しても結果はまったく違うと考えている。これを「先にレールを敷いてから電車を走らせる」とたとえた。先に電車を走らせても誰も乗ってこない。最初は「何なんだ君たちは」というところから始まっても、細い糸をつないでいくと関係が変わる。フランスの陶磁器メーカーのベルナルドとの関係も、「今度遊びに来なさい」と言われて工場を訪ねたことから始まった。森田たちはプレゼンテーションの材料を大量に持参し、「何しに来たんだ」と聞かれて「プレゼンに来ました」と答えた。「面白いな、ちょっと見るか」というところから、プロジェクトが生まれたこともあるという。

15:35

リヤドロで「刺激の強い案」が通った理由

Kawakamiは、レールを互いのメッセージが届き合う基盤にたとえ、その基盤は天気や野球の話のようなアイスブレイクとは違うと指摘した。では何をすればよいのか。森田は、どの企業、どのプロジェクトでも共通するのはクリエイティブだと答える。その会社が予想もしていなかったところを突くことが大事で、相手が「そうかもしれない」と気づくと、Kawakamiの言葉を借りれば耳のレセプターが開く。

その例がスペインの陶磁器メーカー、リヤドロである。呼ばれてもいないのに、日本法人の社長と一緒に、提案を求められてもいない提案書を持って乗り込んだ。アイデアはいくつかあったが、日本の社長からは、ある案は刺激が強すぎるから見せないほうがいい、こちらは見せてもいいと言われていた。前夜、リヤドロのファミリーと食事をした際に「何か持ってきたんでしょう」と聞かれ、「見る」と言われた勢いで、森田はその激しいほうの案を見せた。すると、それが一番いいという反応になった。

その場では、リヤドロのこれからの世界をどうするかという話から始まり、森田たちが考えるリヤドロ、ファミリーが考えるリヤドロ、日本の社長が考えるリヤドロと、さまざまな意見が出た。女性的な商品が多いので男性も買えるものが欲しい、といった意見のなかから提案した案は、実際に商品化されたという。Kawakamiは、コミュニケーションの基盤を先に作れば、その上に乗るアイデアは刺激的なものでもすっと受け入れられる可能性がある、とまとめた。森田は、要はツボを突いているかどうかだと応じた。

18:16

妻・大地真央からの問い「そこに愛はあるんか」

Kawakamiが森田の感性への妻の影響を尋ねると、森田は大きいと答えた。職業は違うが、妻の大地真央はクリエイティブの世界のトップランナーで、今も現役で活躍している。森田がプレゼン内容を見せると、まず「そこに愛はあるんか」と聞かれるという。テレビCMの台詞と同じ言葉で、夫婦の間でもそういう笑い話があるそうだ。妻は淡路島出身の関西人だからだと森田は言う。Kawakamiは、宇宙人役にまでなったあのCMシリーズがどこまで続くのか楽しみだと話した。

19:45

AIの進化と、まだ作れない「第六感」

最後の大きな話題はAIである。森田は画像生成のNano Bananaを使っていると答えた。Kawakamiが、写真を俯瞰に変える、あおりの構図に変える、磁器(ポーセリン)の質感に変えるといった指示がすぐ実現できることを挙げると、森田は、この1、2年の進化はすごく、恐ろしいほどだと言う。iPhoneが出たときの感動とスピードよりも速いという感覚を語った。

森田は、AIの最前線にいる顧客と話した内容を紹介する。AIは世の中に存在する過去のすべてのデータをもとに考えて答えを出すので、間違いもあるかもしれないが、ほぼ確実なものを出してくる。何百万人もの頭のいい人が集まったような存在で、弁護士のデータもデザイナーのデータもある。

それでも森田は、人間の五感の先にある第六感、つまり直感的なものは、AIにはまだ作れないと考えている。これからは「AIで作ったデザインでいいなら森田に頼まなくていい」という顧客と、「どうしても森田のデザインがいい」という顧客の二者択一の時代になると森田は見る。後者が森田を選ぶ理由は、誰も持っていないオリジナリティ、つまり会長や社長が持っていないアイデアを出してくる第六感にある。それが強いうちは「まだもうちょっと大丈夫かな」と森田は言う。ただし数年後にはまたすごいことになっているかもしれない、とも付け加えた。

22:39

「森田らしいデザイン」をAIが出してきたら

Kawakamiは、森田が苛立つかもしれないと前置きして、ある仮定を投げかけた。今日の放送で語られた森田の志や仕事への姿勢をプロンプトにし、過去の作品を読み込ませれば、AIは「この条件、この広さならこうするだろう」というものをある程度設計してくる可能性がある。森田が見て「まあまあだな」と思うものができるかもしれない。

森田はそれを十分にあり得ると認めた。そのうえで、そのとき自分はたぶん違うデザインを考えている、と答えた。Kawakamiはこれを、森田の成長や進化は線形ではなく非線形で、飛び地のように進むという意味に受け取る。その飛び地の部分はAIには測れないのではないかと問うと、森田は「今の状況ではね」と限定した。Kawakamiも、飛び地を何度も繰り返せば、その傾向さえパターンとして捉えられる可能性があると指摘する。だからこそ、どれだけランダムに考え、ランダムに興味を持つかが問われることになる。一方でKawakamiは、写実的な絵を描いていたピカソが突然キュビスムに向かうような飛躍は、AIには想像できない気がするとも話した。

森田は、面白いライバルができたと思えばいいと言う。AIでなくても、森田のデザインをコピーする人は世の中にたくさんいる。怒らないのか、悔しくないのかと聞かれるが、真似は真似であり、自分はその時点でもう違うことを考えていて、そこにはいない。だから「どうぞやったらいい」と考えているという。Kawakamiは、『ライオン・キング』が公開された際に、オマージュかインスパイアかはさておき嬉しいと語ったとされる手塚治虫の話を重ねた。

25:14

クリエイターへの助言:AIを敵にせず共存する

膨大なデータからパターンを読み取り、創造性や人の感性までデータ化しうるAIという「ビースト」と、クリエイターはどう向き合えばよいのか。森田の答えは共存だった。敵にせず、自分たちのアイデアを入れて進化させていく。

森田は労働時間の違いを挙げる。人間の労働を仮に8時間とすれば、AIの働く時間は無限で、インプットさえすれば24時間、もしかしたら50年、100年と働き続ける。それは人間にとって助けになる。減った労働時間を使って、人間はギャラリーや美術館に行き、これまでになかったインプットを取り入れて感性を磨く。そうして生まれた新しいアイデアをまたAIに伝える。その循環ができれば、よい共存になると森田は考えている。

Kawakamiは、AIに勝とうとするから「仕事が奪われる」「人間の創造性が」という話になるが、一緒に何ができるかを考えるほうが発展的だと受け止めた。森田も、新しいパートナーができたと思い、自分たちのインプットを入れて自分に近いものへ進化させていけば仲間になっていく、と応じた。

27:36

食べていく、経営していくための「トライアングル」

最後にKawakamiは、クリエイターとして生きること、それで食べていくこと、さらに経営して人を食べさせていくことはまったく違うフェーズではないかと尋ねた。森田は、偉そうなことを言える立場ではないと前置きしたうえで、自分の考えを話した。

ビジネスには必ず競合がいて、同時にクライアントがいる。クライアントは多くの競合の中で2番ではなく1番を目指している。その1番を目指す過程を、デザイナーであり経営者である自分がサポートする形を取れば、クライアントは喜び、それが競合に勝つ要因の一つになる。森田は、自分、クライアント、競合というトライアングルはどこまでいっても変わらないと言う。その関係の中で軸をずらしながら動けば、クライアントが喜び、お金が入ってくる。

ここで森田が強調したのは、見るべき競合は自分の業界の競合ではなく、顧客の業種の競合だという点だ。顧客の競合が今何をしているかを常に見ながら、次に何を提案すべきかを考える。Kawakamiはこれを、自分のアイデアや良さを売り込むのではなく、顧客のサポーターやパートナーになる姿勢だとまとめた。売る人と買う人という構図ではなく、一緒に何かをやろうという姿勢でなければ顧客は頼まないし、売上も上がらない。より有名な人も、よい競合もいるからだという。

対談は、森田がこれからも進化していくので、新しいプロジェクトがあればまた話を聞きたい、というKawakamiの言葉で締めくくられた。AIが森田の飛び地のような進化までパターン化できるようになるのかについて、森田自身は「今の状況では」と限定をつけたまま、答えを数年後に委ねている。