「着たい服がなかった」からゴルフ場の景色を変える:内柴有美子がHERG1を立ち上げた理由

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概要

ゴルフウェアブランド「HERG1(エルグワン)」の代表取締役兼デザイナーである内柴有美子が、ナビゲーターのSean Kawakamiと対談した。内柴は20歳でミラノへ渡り、現地で9年間過ごしたメンズデザイナーである。対談の中心にある問いは、デザイナーが自由度の高いファッションではなく、なぜ機能性が求められるゴルフウェアを選んだのかということだ。内柴の答えは、ゴルフ場で見かける男性たちの服装に対する違和感と、「制限があるから面白い」という考え方に根ざしていた。

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社名「YUUUUU」に込めた「結う」

内柴が経営する会社の名前は「株式会社YUUUUU(ユーウ)」で、Yの後にUが続く。冒頭でナビゲーターがその意味を尋ねると、内柴は日本語の「結う」、つまり結ぶという意味だと説明した。デザイナーとして、ものや言葉を通じて人との繋がりを結びたいという思いを込めており、自分の名前である「ゆみこ」「うちしば」の音も少し入っているという。

ナビゲーターが「Uがまだ5つあるから足りないのでは」と冗談めかすと、内柴は「もの」と「こと」を結うという意味もあると補足した。ナビゲーターは、本当は「結う」対象がもっとたくさんあってもいいということだと受け取っている。内柴によると、名刺交換の際には「裏を見てください」と伝えるのが会話のきっかけになっているそうだ。

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20歳で単身ミラノへ、語学は「苦しい思い」から

内柴は20歳でイタリアに渡り、国立ミラノ美術大学の大学院デザイン科を卒業した。その後はイタリアのブランド数社でメンズのデザイナーを務め、ミラノで9年間を過ごしている。

ナビゲーターが最初からの計画だったのかと尋ねると、内柴はそうではなかったと答えた。ファッションを学ぶにしても、ビジネスの側ではなく作る側に行きたいと考えていた。ヨーロッパならイタリアのミラノかロンドンが候補になるが、当時はイタリアのブランドがとても好きだったのでミラノを選んだ。ファッションの専門学校と美術学校のどちらで学ぶかも検討し、じっくり長く学べる美術大学を選んだという。進学先は街の中心にあるブレラ美術館に併設された美術大学で、ナビゲーターは歴史的な街並みの中にある荘厳な建物だと応じている。

二人はミラノの話でも盛り上がった。ナビゲーターは仕事でミラノを訪れることがあり、世界中のデザイナーが集まって作品を見せ合うミラノサローネの時期は、街全体が幕張メッセのようなお祭り騒ぎになると語った。内柴によると、こうしたイベントは1週間ほど続く。

渡航当時、内柴はイタリア語ができなかった。大学の受験にはイタリア語が必要だったため、まずはミラノの語学学校に通った。受験までの期間は3か月から半年ほどだったという。内柴は語学について、「生きていくためには、苦しい思いをしないと学べない」と考えていたと話す。トマトを「ポモドーロ」と言うことも知らず、英語で言えば「Apple」から始めるような状態だったが、学生時代には通訳のアルバイトをするまでになっていた。

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帰国後、雇ってもらえずフリーランスに

内柴は2015年に帰国し、東京を拠点に活動を始めた。天然繊維と合成繊維の素材開発を強みとして、高品質なアウター、メンズのセットアップ、百貨店のプライベートブランド、企業ユニフォームの企画やブランディングを手がけている。

ナビゲーターが当時は企業に勤めていたのかと尋ねると、内柴はフリーランスとして、さまざまな会社が立ち上げたいブランドのデザイナーを務めていたと答えた。日本に帰国した人の多くは、まずどこかの会社に入るのではないかという問いに対しては、「雇ってくれないです」と答えている。海外生活が長い人は当時、敬遠されたというのだ。ナビゲーターは、日本企業には今も同化や均質を重んじる傾向があり、新しい存在や良い意味での異端を扱いにくいと感じるのではないかと述べた。

ただ、内柴はフリーランスになった結果を前向きに捉えている。複数の企業と契約したことで、さまざまなジャンルの仕事ができた。合成繊維だけでなく、コットンやリネンなどの天然繊維も扱えたことがとても勉強になったという。ナビゲーターが、一つの企業で決められた仕事をするよりかえって良かったのではないかと問うと、内柴もそう思うと同意した。

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評価された理由は「日本人であることの本質」

ナビゲーターは内柴の受賞歴も紹介した。2012年にイタリアファッション協会主催のコンテストでファイナリストとなり、2017年には百貨店バイヤーズのメンズ部門で新人賞を受賞している。さらに2018年から2020年にかけては、フィレンツェの国際展示会ピッティ・ウオモに選出された。ナビゲーターが「日本人でこういう方がいるんですね」と言うと、内柴は「たくさんいると思います」と返している。

ナビゲーターは、番組を見ている挑戦者へのヒントとして、何が評価されたのかを振り返ってほしいと求めた。内柴の答えは、自分が日本人であることの本質と、ものを作るときのコンセプトの本質に焦点を当てられたからではないか、というものだった。

ナビゲーターはさらに踏み込んだ。海外では現地のスタイルや文化に合わせることを求められる一方、日本人としてのアイデンティティを保とうとする気持ちもある。ただ、デザインで日本らしさを強く出しすぎると、エキゾチックになりすぎてしまう。このバランスをどう取ったのかという問いである。

内柴は、当時の教授から教わったことだと答えた。教授は「同じじゃないから、同じにしなくていい」と言ったという。同学年でファッションを学ぶ日本人は内柴一人だけで、それは差別化できる強みなのだから生かしなさい、というのが教授の助言だった。

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「言われてみればわかる」をつくる

ナビゲーターは、料理やデザインの世界では着物の生地を持ってきたり帯を巻いたりすればよいという話ではないと指摘した。現地の市場に受け入れられるよう配慮しながら違いを出す必要があり、この姿勢はデザインに限らずさまざまな業界で求められているのではないか、と問題提起している。

内柴は当時の具体的な方法を説明した。シルクなどイタリアが得意とする素材を使いながら、日本のアイデンティティを表現する。たとえば日本建築の曲線や直線をデザインに落とし込むといったやり方である。これはコンセプトの部分なので、外見にはっきり現れていなくてもよい。内柴は、「言われてみればわかる」という状態をつくることがとても大事で、意味のあるものにしなければならなかったと語った。

ナビゲーターはこれを、絶妙な和魂洋才が求められる領域だと表現した。和の要素が目立ちすぎると際物になってしまう。市場で売れるためにはリアルクローズでなければならない、という見方である。

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「何を解決したいのか」というプレゼン

内柴によると、コンテストではコンセプトをプレゼンする機会がある。審査員の前で、まずなぜこれを作ったのかを納得させなければならない。完成品が良いのはもちろんだが、何を解決したくてこのプロダクトに至ったのか、そしてブランドとして何をしたいのかを説明するという。

ナビゲーターはこの「何を解決したいのか」という部分に注目した。業務管理システムやソフトウェアなら理解しやすいが、デザインの世界でこの問いに答えるのは難しく、レベルの高い問いだと感じたという。ナビゲーター自身はコンサルタントの立場から、デザイン会社にも「どんな社会的問題をこのデザインで解決しているか」と問いかけることがある。ただ、それは投げかける側にも勇気がいる質問だと述べている。

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ゴルフ場で見た「スーツならかっこいいのに」

では、HERG1は何を解決しようとしているのか。内柴はゴルフ場での体験を語った。普段スーツを着ているときはかっこいい年配の男性が、ゴルフ場では「らしさ」が出ていないと感じることが多かったという。

ナビゲーターが「言葉を選ばずに言えば、かっこ悪いということですか」と確認すると、内柴は笑いながら具体例を挙げた。派手な花柄、クラシックで古めかしい雰囲気、よれたポロシャツなどである。内柴はその理由を、選び方が分からないか、あるいは興味がないのだろうと推測している。

そのうえで内柴は、「そういう男性たちがたくさんおしゃれになれば、ゴルフ場の景色も変わると思う」と述べた。景色が変われば、若い人や女性も抵抗感なくゴルフ場に来られるようになり、ゴルフ人口が増え、ファッションももっと楽しめるようになる。これが内柴の描く流れである。ナビゲーターが「問題解決の鍵はおじさんたちにあったということか」と尋ねると、内柴はその層の人口が多いからだと答えた。

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なぜゴルフウェアだったのか

HERG1は2020年に立ち上げられた。ゴルフを選んだ理由の一つは、内柴自身が帰国後にゴルフにはまったことである。一度ラウンドに出て、楽しさと悔しさを味わい、それから練習に通うようになった。今も仕事の合間に練習やレッスンに行っているという。腕前を聞かれると、「まあまあ。うまいかどうかは別」と笑って答えている。

もう一つの理由はファッションへの思いだ。服はその日の気分を上げてくれるものなので、着るものは大事だと内柴は考えている。仕事柄ゴルフウェアもたくさんリサーチしたが、着たい服が見つからなかった。そこで思い当たったのが、自分が手がけてきた合成繊維の素材開発である。撥水加工やナイロン、ポリエステルといった素材の知見はゴルフにぴったりだと考えた。

内柴はゴルフの特徴として二点を挙げた。まず、ゴルフはスポーツの中でも着替えが少ないため、おしゃれが楽しめる。次に、仕事をしている人が社交やビジネスとしてゴルフをすることが多く、メンズファッションとの親和性が高い。

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「制限があるから面白い」

ナビゲーターは、デザイナーとしての葛藤についても尋ねた。デザイナーにとって理想なのは、自分のやりたいデザインを自由に作り、それが市場に受け入れられることではないか。アートとデザインは同じではないが、アートに近い自己表現が受け入れられれば嬉しいはずだ。一方、ゴルフのようなスポーツでは機能性が求められ、機能を突き詰めるほどデザインの領域は狭まる。ワンピースやフリル、フレアパンツを自由に作るほうがデザイナーらしいのではないか。それなのになぜゴルフを選んだのか、という問いである。

内柴は、まさにそこが面白いと思ったと答えた。「制限があるから面白い」というのが内柴の考えだ。大きく分ければゴルフウェアはポロシャツとパンツしかない。その枠の中でどう表現するかが面白いのだという。

内柴は持参したウェアを紹介した。パンツ、ニットポロ、定番のスタンドカラーの鹿の子ポロシャツ、リゾートシリーズの開襟シャツ、ペーパーヤーンを使った普段着寄りのポロシャツなどである。開襟シャツもゴルフウェアとして提案しているという。内柴は、ポロシャツだけでもこれだけのバリエーションが作れるうえ、メンズとレディースの両方を手がけているので、「まだアイデアには困っていない」と語った。

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違いは「素材と配色」、そしてオフィスにも着ていけること

ナビゲーターは、最近はおしゃれなゴルフウェアも増えていると指摘し、競合との違いを一点だけ挙げるなら何かと尋ねた。内柴は最初に「素材と配色」と答え、そのうえで改めて一点に絞るなら「オフィスにも着ていけること」だと言い直した。オフィスで仕事をして、そのままゴルフに行ける服をイメージしているという。

その背景には、コストと価値に対する考え方がある。機能性を持たせると素材が高くなり、1枚あたりのコストがかなりかかる。だからこそ、ゴルフでしか着られないのはもったいないと内柴は考えた。街やオフィスでも着られ、出張にも着ていける服であれば価値が高まる。ケアが楽ですぐ乾き、動きやすいことも利点に挙げている。さまざまなシーンで着られれば、服の価値は2倍、3倍になると内柴は話した。

ナビゲーターは、これがHERG1の掲げる「ボーダレス・タイムレス」だと確認した。汗をかいたら洗濯かごに入れるだけの服ではなく、そのまま街にも出られる。ジャケットを羽織ればオフィスにいても違和感がない。グリーンでも会議室でも着られる服だという整理に、内柴も同意した。

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「デザインも全部数字ですよ」

対談の最後に、内柴はあるエピソードを紹介した。デザイナーには数字が苦手な人が多いと思うが、内柴は銀行の担当者から「何を言っているんですか、デザインも全部数字ですよ」と言われたことがあるという。

ナビゲーターが、クリエイターもデザイナーもミュージシャンも数字に強いほうがよいのではないかと問うと、内柴は「絶対そうだと思います」と答えた。前編はここで終わり、ブランド経営と数字の話は次回以降に持ち越された。