fonfunを「買う側」から立て直す――水口翼が語るTOB後の経営、キャッシュの見方、変化のつくり方

YouTubeで開く ↗
概要

サイブリッジグループ創業者で、株式会社fonfun代表取締役社長の水口翼が、ナビゲーターのSean Kawakamiと対談した後編である。2023年に上場企業fonfunをTOBで取得し、社長として経営に入った経緯を出発点に、「上場企業を再生する経営者」としての自己認識、他人資本を使わずに成長してきた理由、リスナーからの相談への回答、そして停滞を感じる人や経営者へ向けた「変化は自分でしかつくれない」という考えまでが語られた。

16分で読めます
0:07

「伸ばす会社」ではなく「潰れない会社」から始まった

水口は、起業の動機を「家族を養って食べていくための手段」だったと説明する。会社を大きくしたい、叶えたいビジョンがある、という出発点ではなかった。重視したのは、どうすれば水口家を安定して食べさせていけるか、どうすれば会社が潰れないかという点だったという。この姿勢は、後半で語られるキャッシュの見方や、他人資本を使わない成長のしかたにもつながっていく。

0:33

社外役員からTOBへ:fonfun取得の経緯

公開会社へのTOBは2023年、対象はfonfunである。Kawakamiが比較的スムーズだったのかと尋ねると、水口は、もともと同社の社外役員を務めていた経緯があり、会社側ときちんと対話したうえで自分が経営を担う形になったと答えた。

この話題からKawakamiは、日本と海外で「法人とは何か」「会社は誰のものか」の考え方が異なるという議論に触れた。Kawakamiの整理では、アングロサクソン的な考え方では、会社は10年国債の利回りより多くを稼ぎ出す装置であり、そこに株主が集まってオーナーシップを持ち、経営者が旗を振って実際に経営を回す、という役割分担が経済の参加者に共有されている。一方、日本では法人としての人格のほうが大きく見える、とKawakamiは述べる。それが良いか悪いかは別の議論だとしたうえで、水口はM&Aを通じて、日本における企業のあり方や企業価値が誰のものかを30代後半に肌で感じたという。

2:25

時価総額10億円、利益ほぼゼロの会社に社長として入る

水口によれば、TOB当時のfonfunは時価総額10億円、売上6億円で、利益はほとんど出ていない会社だった。

水口は、コンサルタントとして外から入っても会社は話を聞いてくれないし、コンサルタントに言われて良くなる会社なら最初から良くなっている、と考えている。もともとうまくいっている会社なら、外部の良いエッセンスを取り込んでさらに伸びることもできる。だが、そうでない会社では、自分も一緒に働いて背中を見せなければ、会社も組織も顧客も変えられない。水口はこれを学習塾にたとえ、補習塾か進学塾かの違いがあるかもしれないと付け加えた。

そこで水口は社長として会社に入り、朝から晩まで社員と一緒に働いた。ただし既存事業は市場から評価されておらず、売上も横ばいが続いていた。そのため、自身がそれまで取り組んできたM&Aを活用し、fonfunでも3年間で11件のM&Aを実施したという。グループ全体の会社数を問われると、M&A後に合併や統合も行っているため、すぐには数字が出てこないと答えている。

18:44

「何屋か」を再定義する:メール/SMSからDXへ

fonfun再生の中身として水口が挙げたのが、会社の定義を変えたことだ。fonfunはもともと「リモートメール」というメールサービスと、ショートメッセージの配信サービスを手がけていた。しかし水口は、買収時点でそのままでは会社が大きくならないと判断し、会社の定義をデジタルトランスフォーメーション(DX)の会社に変えた。そのうえで、DXの領域で付加価値を提供できる事業をM&Aで取り込み、業績と株価を上げたという。

この話は、後で触れるリスナー質問への回答の中で出てきたもので、Kawakamiが番組で繰り返し語っている「自分の会社は何屋なのかを再定義する」という考え方と重なる例として語られた。

4:30

自分は「経営者」である:株価、実業、IR

Kawakamiは、今の水口は経営者なのか、投資家なのか、あるいはアクティビストやターンアラウンドマネージャーなのか、と自己認識を尋ねた。水口の答えは「基本的には経営者」である。上場会社は金融商品でもあり、短期的には実業と関係のないところで株価が動くこともある。それでも、会社は実業として売上と利益を出さなければ持続性がない、というのが水口の考えだ。

ただし、いい事業をしていれば株価が正当に評価されるとも限らない。Kawakamiはここで、日本企業はIRが苦手だと指摘する。Kawakamiの見方では、日本では上場が大学の入試合格のように「ゴール」になりがちで、比較的低いところから上場し、その後にIRと事業づくりで伸びていく欧米(Kawakamiが例に挙げたのはNASDAQ)とは逆になっている。水口は、上場は本来スタートラインであり、自分がしているのは、上場後に大きくなるはずがうまくいかなかった会社を、上場会社のまま再生のために買うことだと位置づけた。

6:50

他人のお金を預からずに成長してきた理由

ファンドマネージャーとして他人の資金を預かって運用しないか、という話もあるのではないかとKawakamiが尋ねると、水口は「ある」としたうえで、fonfunを買って上場会社の経営に入るまで、他人のお金を預かったことは一度もないと明かした。

Kawakamiはこの点を高く評価する。稼ぐエンジンを自分の中に持ち、レバレッジをかけて借り入れたり他人資本を集めて膨らませたりせず、自分の手元のキャッシュの範囲でM&Aを重ねて成長している、それを43歳の経営者がやっていることが頼もしい、という。

金融技術を駆使したほうがいいのではないか、という問いに対し、水口は次のように説明した。資本主義の中でお金はツールとして最も力が強いものだと思っている。しかし自分はお金を増やすことを目的に起業したわけでも、そこに志向があるわけでもない。他人の大事なお金を預かり、その責任のもとで増やすことは自分がやりたいことではない。水口家を安定させるためには、より多くの自己資金でチャレンジしたほうがいい、という考えである。

8:41

人生で本当にやりたいことは「まだ見つかっていない」

Kawakamiが冗談まじりに「どれだけ大きくなるのか」と聞くと、水口は、人生で本当にやりたいことはまだ見つかっていないと答えた。子どもを育てて幸せにすることはもちろんあるが、熱いビジョンを持って起業したわけではない。19歳前後のころ、妻のお腹に命が宿り、それを守っていくと決めた。その覚悟に比べると、人生で他にやりたいことはなかなか見つからないという。

それでも、本当にやりたいことが見つかったときに挑戦できるよう、人・モノ・金のうちお金がより多くあったほうが挑戦の可能性が高まる。だから今はしっかり事業をしておきたい、と水口は話す。

Kawakamiはこれを、まだ横に広げていく「発散」のステージだと解釈した。40代後半から50代前半あたりで「これだ」と思えるものが見つかれば、そこに全振りすればいい、という読み方である。

これに対して水口は、発散とはいえ今は上場会社の経営者であり、少数株主を含むさまざまな株主の大切な財産を預かっている立場だと述べ、その責任を感じていると付け加えた。ベンチャーなら知り合いからしか資金調達しないが、上場会社の株主は顔も名前も知らない人たちで、株式が売買されることで会社の価値が担保されている。そうした株主に直接会えないのが本当に残念だという。Kawakamiはここから、たまにホテルに株主を集めるのではなく、オンラインで社長に一問一答できるような、もっと近い関係の「新しいIR」があるといいと提案した。決められた原稿を国会の予算委員会のように読むのではなく、もう少し会話の調子があってもいい、というのがKawakamiの意見である。

12:23

リスナー質問①:受託中心の製造業はストック型に移れるか

最初のリスナー質問は、静岡で製造業を営む52歳の2代目社長からのものだ。父から継いだ会社で、大口取引先からの受託が売上の7割を占める。人を増やさないと売上が伸びず、利益も薄いままだという。水口の言う「フロー型からストック型へ」とはどういう意味か、そう考えるようになったきっかけは何か、という問いである。

水口はまず、フロー型とストック型をシンプルに「1回しかお金が入ってこない商売」と「継続して入ってくる商売」と説明した。きっかけについては、起業したときから毎月どうやってお金が入ってくるかを考えていたと答える。

ただし水口はこれを「バランス」の問題だとも強調した。ストック型で大きなお金が次々入ってくるビジネスは簡単にはつくれない。一方、たとえば受託開発のようなフロー型は、1回で大きなお金が入る。水口自身も受託開発をずっと手がけてきており、今も続けていて、今でもきちんと利益が取れると考えている。そのうえで、受託開発のメンバーや自分自身が、ストック収入になるインターネットビジネスをつくっては捨て、試行錯誤を重ねた。その中のいくつかがヒットし、20年以上続いている求人サイトや各種メディアになったという。今はゼロからつくるより買うほうが収益手段として早いのでM&Aで増やしているが、要点は「当たるまでやり続けられるか」だと水口はまとめた。

Kawakamiは、ソフトウェアやオンラインの事業ならフローとストックの考え方は比較的なじみやすいが、製造業や建築業では「ストックと言われても」と頭に疑問符が浮かぶだろうと指摘する。考えている間にも受注をこなさなければ食べていけず、価格競争の中でさらに厳しい回転に入っていく。会議で「ストック型をやりましょう」と言われても、どうすればいいのか、という状況である。水口は、できないわけではなく、これも経営の覚悟の問題だと答えた。

Kawakamiは、削りや曲げといった加工を手がけるある製造業の会社の例を紹介した。自社で加工部品をつくるだけでなく、他社の部品と組み合わせて納める場面が多いことに着目し、さまざまな部品メーカーが参加するプラットフォームをつくってストック型に移ったという。企業とのネットワークもでき、短時間での納品サービスも組み合わせている。Kawakamiはこれを見事な発想だと評価した。

水口は、それはもはや製造業ではなくプラットフォームビジネスだと応じ、製造業でストックをつくるなら、上流に入るようなものでなければなかなか厳しいと述べた。強みや知識を持っている業界の中でどんなビジネスができるか、周辺も含めて常にアンテナを張る必要がある、という。

Kawakamiはここで、自分の会社は花札屋なのか総合娯楽産業なのか、カメラのフィルム屋なのか光技術の会社なのか、と問い直すことで、いきなりストック型にはならなくてもストックの芽が見えるかもしれないと話した。前述のfonfunのDXへの再定義は、水口がこの文脈で挙げた自社の例である。Kawakamiはさらに、長く中にいる人には見えないので、こうしたブレストには外部の人を入れたほうがいいと提案し、「御社は製造業だがネットワークを持っている」と外から指摘されるような場面を想定した。

20:13

リスナー質問②:初めてのM&Aは何から手をつけるか

2つ目の質問は、IT企業で経営企画を担当する38歳の人物からだ。会社として初めてM&Aを検討しているが、社内に経験者がいない。何を基準に対象を選び、買った後にどう伸ばすのかが見えない。最初に押さえるべきことは何か、という問いである。

水口が一番大事だと答えたのは「お金の流れ」だった。お金が何によって入ってきて、何に出ていくのかを把握する。水口は「入ってくるお金よりも使うお金が少なければ、商売は絶対に潰れない」と言う。支払いサイトや前払いなど、お金にはさまざまな要素があるが、それを分解し、その商売がお金の流れとして本当に儲かっているのかを把握することが重要だという。

Kawakamiはこれを補強し、日本の経営者は損益計算書が好きすぎると話した。営業利益も当期純利益も出ているというが、問題はキャッシュがどれだけ動き、どれだけあるかだ、という。Kawakamiはりんごの例を挙げる。1個100円で10個仕入れ、200円で売る。原価は100円で利益は100円だ、と答える人に対し、「最初に仕入れた分のキャッシュはどこへ行ったのか」と問う。原価も固定費もクリアして利益も出ているのに、なぜキャッシュがないのか、という相談が実際にあり、貸借対照表の固定資産などがあまり見られていない、というのがKawakamiの指摘である。

水口は、会計の仕組みで大枠は見られるが、日々の商売の中で何が起きているかを解像度高く理解することが必要だと述べた。そして次のポイントとして、それを社内の人たちがどこまで理解しているかが重要になると続けた。

23:17

会社は「バス」:運転手は誰で、誰が乗っているのか

Kawakamiは、起業は思いのある人がやればいいが、従業員を雇った瞬間に運転免許のようなものが必要ではないかとまで言う。少なくとも財務諸表がどう動いているか、会社にどんなお金が回っているかを把握する責任がある。売上はあるのに月末の支払いができない、という会社が実際にある、とKawakamiは話した。水口は、みんな難しく考えすぎていて、本当は手元の財布にお金が入ってきて出ていくときどうなっているか、というだけの話だと応じた。

Kawakamiは、会社を運転するには従業員が後部座席に乗っていると言い、水口は「バスですもんね」と返した。ここから2人は会社をバスにたとえて話を進める。

水口は、お金の次は「人」だとし、バスの中にどんな人が乗っているのかを把握できていない会社が多いと指摘した。Kawakamiは、社長がハンドルを握って前だけ見ていてもだめで、ときには参謀に運転を任せて後ろの席に行き、皆が何を考えているのか、なぜこちらに向かうのか、それでいいと思うかを話す必要があると述べた。

水口は、M&Aの場合は運転手である社長がいなくなるケースもあると付け加える。社長が残り続けるならいいが、そうでなければ、他のメンバーが運転できるのか、後ろのことも考えながら運転できるのか、お金のことを把握できているのかが非常に重要になるという。

Kawakamiは、社長が運転席に座らなくても回る会社が究極だと述べた。方向性も含めて任せられる運転手がいて、社長は後ろで仲間と次にどこへ行くかを語り合う。逆にリスクが高いのは、運転できる人が1人だけの状態だ。ゴーイングコンサーンとして続いていく中で、社長も年を取り、体もきつくなる。そのときに運転手がいない。そこで水口のような人が「うちから運転手を出しましょう」「一緒になりませんか」と言える会社があることが、中小企業の多い日本の方向性ではないか、とKawakamiは語った。日本の中小企業の多さは、直接金融ではなく間接金融というプラットフォームがあったこととも関係しているのではないか、ともKawakamiは述べている。

27:24

「変化は自分でしかつくれない」

終盤、Kawakamiは、今の仕事にそこそこ満足しているが「これじゃない」と10年ほど悶々としているビジネスパーソンへのアドバイスを求めた。水口は、変化をどうつくれるかが大事だと答えた。環境や周りが変わらない、刺激がないなど理由はいろいろあるだろうが、自分はそういう瞬間を感じたら新しいチャレンジをするようにしている、という。それは転職かもしれない。水口自身にとってはM&Aがそれにあたり、別の環境をグループに加えることは、転職はしていないものの実質的に転職したようなものだと説明する。知らない分野や業界を知り、学び、自分の引き出しを増やしてきた。周りを変えに行けるのは自分自身しかいない、というのが水口の考えである。

Kawakamiは、水口が「まだ見つかっていない」とはっきり言ったことを、旅の途中で、まだ見尽くしていないステージにいるという宣言として聞いたと話す。ある人が、未来は今の延長でしかなく、今にフルコミットするのに忙しいので夢を考える暇がない、と言っていたことにも似ている、という。

続いてKawakamiは、大田区の町工場や新潟・燕三条のような産業集積地で長い歴史を持つ会社の経営者に向けたヒントを求めた。水口は、ここでも変化をどうつくるかだと答える。いい仕事をしていて、いいメンバーがいても、産業そのものが少しずつ縮んでいく中では、これまでやってきたことは過去の話でしかない。未来を変えられるのは経営者しかおらず、経営者が意識を変えなければ何も変わらない。世の中が良くなればいいと待っているだけでは何も変わらないので、少しずつでもできることを変えていくことが大事だという。何から変えるかについてKawakamiは、たまたま開いた本や、この番組で水口を知って調べてみることでもいい、小さく「自分は変わる」と宣言して1つ違うことをやってみる程度でいいと付け加え、水口も「できるところから」と同意した。

32:08

ダウンサイドをどう処理するか:アドレナリンと8人の子ども

水口は、自分がしてきたことは特別ではないと話す。若くして子どもを持つことは人類の歴史で見れば普通のことで、今の社会では少し早かっただけ。会社をつくることも誰にでもできる、という。これに対しKawakamiは、水口がやってきたことは多くの経営者が考えてきたことでもあり、違いは「やったか、やらないか」だと返した。そのうえで、守るものがあると人は保守的になり、失敗や批判などのダウンサイドが見えてしまうが、それをどう処理しているのかと尋ねた。

水口の答えは、一番アドレナリンが出たのはいつだったかという話だった。お金もなく、これから子どもを食べさせていかなければならなかったときの意思決定とその瞬間に、一番アドレナリンが出た。だから今も、同じくらいアドレナリンが出て「何かのために頑張らなければ」と思える状況をつくり出していきたい、という。

その話の中で、水口に現在8人の子どもがいることが明かされた。長女が23歳、末の子が4歳で、子どもが増えることで自分がさらに奮起して頑張らなければと思ってきたと水口は話した。

アドレナリンは自分で出せるものなのか、というKawakamiの問いに、水口は、変化を出していかなければ出ないと答える。人類には同じ場所にとどまった人たちと新しい大陸を開拓した人たちがいて、開拓してきたのは新しい景色でアドレナリンが出る人たちだった、というたとえである。

最後にKawakamiが、番組と一緒に経営者向けの「アドレナリン塾」をやろうと持ちかけ、水口が「やりましょう」と応じたところで対談は締めくくられた。