起業時に押さえておきたいお金の知識:税理士・小野貴子さんに聞く法人化、融資、補助金、決算書

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概要

起業するとき、お金について何を知っておくべきか。株式会社VOYAGE代表の愛沢えみりさんがMCを務め、女性起業家の支援に力を入れる税理士の小野貴子さんに話を聞いた。話題は、法人化を検討する目安、創業期の融資と補助金、税理士との付き合い方、起業後に身につけたい決算書の読み方と資金繰りの考え方に及んだ。小野さんは一貫して、経営で最も大切なのはお金であり、制度を「知らなかった」では済まないという立場をとる。

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音楽業界から税理士へ

小野さんは税理士法人小野会計の代表で、ファイナンシャルプランナーでもある。もとは音楽業界でアーティストのマネジメントをしており、そこから税務会計の世界に移って税理士になった。4年前に税理士法人を設立し、それ以前は個人事業主として活動していた。個人事業主として始めるか、最初から法人を設立するかという今回のテーマを、小野さん自身も経験してきたことになる。

税理士の仕事について、小野さんは会社の税務会計を担い、税務申告書を作成して本人に代わって税務署に提出することだと説明した。愛沢さんは、自分も任せている部分が多いと話し、会社になると金額も規模も変わるので税理士に任せないと大変だと応じた。

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起業=法人設立ではない

起業前に知っておくべきこととして、小野さんがまず挙げたのは法人化の目安である。起業するなら必ず法人を作らなければならないと考える人もいるが、実際には個人事業主から始める人が圧倒的に多いという。愛沢さん自身も個人事業主として始め、1年後に法人化した。

法人化のメリットについて、小野さんは信用を挙げる。法人は法人格を取得するため、個人とは別の人格になる。その結果、対外的な信用が上がる。融資は法人のほうが受けやすく、株式会社であれば株式を発行できるので、資金調達をより円滑に進められる。取引の場面でも、たとえば不動産で店舗を契約したいときに法人でないと契約できないケースがある。対外的な取引では法人のほうが圧倒的に有利だと小野さんは話した。

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税率から見た法人化のライン

税率も法人化で変わる。小野さんは結論として、経費を差し引いて最終的に税金がかかる「課税所得」が500万〜600万円、売上でいえば1,000万円程度がラインになると述べた。

その理由として、小野さんは個人の所得税と法人税の仕組みの違いを説明した。個人事業主にかかる所得税は累進課税で、所得が大きくなるほど税率が上がり、5%から45%の幅がある。一方、法人税はおおむね30%そこそこだという。累進的に上がる所得税の税率が法人税と同じくらいになるのが課税所得500万〜600万円のあたりで、そこで法人化を検討する人が多い。愛沢さんが、個人事業主として始めて売上1,000万円くらいまでは様子を見ればよいのかと確認すると、小野さんは同意した。

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法人化にはコストがかかる

小野さんは、税率だけで判断しないよう注意を促した。法人化には「ものすごく」コストがかかるという。

まず設立コストがある。小野さんの説明では、電子定款を使った場合、株式会社で20万円、合同会社で6万円程度の登録免許税などがかかる。次に維持コストである。個人事業主のうちは確定申告書を自分で作れていた人でも、法人税の申告書を知識のない個人が作るのは難しく、税理士と顧問契約を結ぶことになる。その報酬は売上によって変わるが、月2万〜3万円程度かかると小野さんは見ている。

さらに、法人は赤字でも税金がかかる。地方税の「均等割」で、小野さんはその場所でビジネスをする「場所代」のような税金だと表現した。利益が出ていなくても、7万〜8万円ほどは必ずかかるという。

社会保険料の負担も大きい。個人事業主の場合、従業員を5人以上雇用すると社会保険は強制加入になるが、5人未満であれば強制加入ではない。これに対し法人は、社長1人であっても強制加入になる。法人化して従業員が増えるほど社会保険料の負担は大きくなるので、その点も頭に入れてほしいと小野さんは述べた。

加えて小野さんは、2026年から「防衛特別法人税」として法人税が4%増税されることに触れ、意外と知らない人が多いと指摘した。小野さんによれば500万円の基礎があり、それを超える部分に4%がかかる。今支払っている法人税とは別の計算になるという。

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最初から法人にするなら「逆算」で

では、最初から法人にするメリットは何か。小野さんの答えは、やはり信用力だった。自分のビジネスをどうしたいかを逆算して考え、事業を大きくしたい、従業員を増やしたいのであれば、早い段階で法人化すれば株式発行による資金調達ができ、融資も受けやすく、店舗の契約もしやすくなる。小野さんは、税率だけで決めるのではなく、どんなビジネスを築きたいかから逆算して法人化を検討するのがよいと話した。

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創業期の融資:日本政策金融公庫

資金調達について、小野さんはまず融資から説明した。開業したばかりの時点では実績も信用もないため、一般的な金融機関はなかなかお金を貸してくれない。そこで、国が運営する政府系金融機関の日本政策金融公庫にある、創業者向けの「新規開業・スタートアップ支援資金」で運転資金や設備投資の資金を調達するのが一般的だという。

融資限度額は最大7,200万円で、うち運転資金が4,800万円である。ただし、創業したばかりでこの枠を満額借りられることはまずないと小野さんは注意する。実際には500万〜600万円、多くて1,000万円程度の融資が受けられるだろうとの見立てだった。

返済については、5年間の据え置きがある。この期間は元本を返済しなくてよく、利息の支払いだけで済む。利息や返済額は個別審査で決まり、担保を出せるか、経営者保証をつけられるか、自己資金をいくら持っているかで変わる。愛沢さんが1,000万円借りた場合の目安を尋ねると、小野さんはばらばらだと前置きしたうえで「5万円以内ぐらい」と答え、何年で返済しなければならないかは、財産や、いざというときに賄える自己資金といった信用力によって変わると説明した。

この制度には自己資金要件がなく、自己資金0円でも申し込める。小野さんは「とっても条件のいい」制度だとしつつ、自己資金があるほうが金利や審査で有利になるとして、融資を受けたい金額の3割は自己資金として持っておいてほしいと勧めた。また、35歳未満もしくは55歳以上、女性起業家であれば優遇措置があり、個別審査ではあるが通常より低い金利で融資を受けられると紹介した。

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創業期の補助金:小規模事業者持続化補助金

補助金として小野さんが紹介したのは「小規模事業者持続化補助金」である。創業3年以内の小規模事業者が商工会議所で支援を受け、どんなビジネスを構築したいかについて事業計画書作成の指導を受けた場合に利用できる。対象は販路開拓や生産性向上に関する費用で、具体例として機械装置の購入、広告宣伝費、外観のデザインなどが挙がった。

商工会議所は会員になる必要があり、年間1万円ほどかかる。ただ、ビジネスの構築をサポートしてくれるので、その延長で補助金も受けられると小野さんは説明する。補助上限はおおむね200万円、補助率は3分の2である。

この補助金は、先ほどの公庫の融資とワンセットで使う人が多く、小野さんもこの2つを勧めている。融資と補助金で資金を得てから設備投資を行い、広告費や外注費を補填する、という使い方だ。毎年定期的に公募があり、採択率も比較的高いので、創業したばかりの人にはぜひ使ってほしいと話した。

一方で注意点もある。受け取るまでにおおむね半年ほどかかり、補助金はいわば立て替えの形になる。まず自分のお金で機械装置を買ったり広告費を払ったりする必要があるため、資金繰りを考えたうえで申請してほしいという。

なお後半で小野さんは、ここで紹介したのは創業枠であり、この補助金には通常枠もあると補足した。創業直後は創業枠を使い、1年ほど期間を置いてから通常枠を活用するとよいという。

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税理士には依頼したほうがよいか

起業時に必ず税理士に依頼すべきかという問いに、小野さんは依頼したほうがよいと答えた。「餅は餅屋」というように税務会計は専門知識なので、専門家に任せて本人はビジネスに集中してほしい。特に創業時は売上を上げることに集中すべきだという。顧問契約が難しい場合でも、いつでも税務相談ができる税理士を見つけておくのがよいと勧めた。

見つけ方は紹介が最も多い。ただ小野さんは、自分で問い合わせて実際に話し、税理士に何を望むかを伝え、納得できる相手に出会うまで問い合わせたり会ったりしてほしいと述べた。税理士ごとに得意分野があるので、ホームページを見たり、補助金の申請サポートをしてもらえるかを問い合わせたりするのがよいという。税制は毎年変わるので、専門的なことは税理士に任せてほしいとも話した。

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起業後に必要な力①:決算書を読む

起業後に知っておくべきこととして、小野さんが最初に挙げたのは決算書の読み方だった。決算書を読むのが得意でない経営者はとても多いが、それはもったいないことだという。決算書には、その会社が過去にどんな活動をしてきたか、現在の状況、未来への課題が数字ですべて記されているからだ。

具体例として小野さんは、財務安全性の指標である自己資本比率を紹介した。会社のお金は主に借入金と自分で稼いできたお金の2種類に分かれる。会社全体のお金のうち自己資本がどれくらいあるかを示すのが自己資本比率で、「自己資本÷総資産」で求められる。この比率から、会社の健康状態や潰れにくさがわかる。目安は15%以上が理想で、40%以上になると優良企業といわれる水準だという。

どう学べばよいかという問いには、本を読む、税理士に聞く、自分の決算書を見ながら本で勉強する、とコツコツ続ければわかるようになると答えた。今はYouTubeもあるので、「財務安全性」や「決算書の読み方」で検索すればたくさん動画が出てくるという。愛沢さんは、毎日の売上ばかり追いがちで会社の状況を見落としやすいが、数字で見ると過去から未来にかけてどうすべきかがわかりやすいと応じた。

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起業後に必要な力②:月次決算を組む

次に小野さんが挙げたのは月次決算である。決算は通常年1回だが、毎月決算を組めば、会社の健康状態が悪くなっていることに早く気づける。月12回に年度の決算を加えて、年13回、自社の健康状態と向き合う機会を持てるというのが小野さんの説明だ。

やり方としては、まず利益計画を立てる。小野さんはこれを「いくら稼ぐぞ」という経営者の意思表示だと表現した。毎月の実績を利益計画と比べ、差があればそれを埋めるためにPDCAを徹底的に回して軌道修正する。あわせて前期など過去の自社との比較や、同業他社との比較も行い、自分の事業の立ち位置を毎月把握する必要があるという。愛沢さんは、起業すると日々のトラブルなどに追われがちなので、毎月目標を立てて数字で比べるのは大切だと応じた。

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起業後に必要な力③:資金繰りの計画

3つ目は資金繰りの計画である。小野さんは、経営で一番大切なのはお金だと述べ、自分のビジネスにどれくらいのお金が必要かを把握して資金繰りを計画する必要があると話した。

製造業を例にとると、材料を仕入れて製造し、販売してから、ようやくお金が入ってくる。売上が立つ前、入金がない段階でも、人件費や家賃、材料の仕入れ代はかかる。そのため、ビジネスを回すのに必要な資金を把握したうえで、最低でも2ヶ月分のキャッシュを持っておく必要があるという。これは起業後だけでなく起業前にも必要で、売上の見込みや受注数から、自分のビジネスにどれだけ資金が要るかを具体的に把握しておくべきだと小野さんは述べた。

入金のタイミングは取引先によって異なる。小野さんは、取引先ごとに回収期間を管理し、回収が遅い取引先には個別に交渉して回収期間を短くするよう勧めた。そのうえで、入ってくるお金はなるべく早く、出ていくお金はなるべく遅く、というのが資金繰りの鉄則だとまとめた。

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起業後に使える補助金:IT導入補助金

起業後に使える補助金として、小野さんは「IT導入補助金」を紹介した。小規模事業者や中小企業のバックオフィスのDX化や業務効率化を進めるため、ITツールの導入を補助するものである。

小野さんが使いやすさの理由として挙げたのは、自分で申請しなくてよい点だ。ソフトウェア会社やITベンダーに、業務効率化のためにIT導入補助金が使えるシステムはないかと相談すれば、システムを紹介し、代わりに申請もしてくれる。利用者はとても多く、毎年公募がある。採択率は時期によって違うが、5割ほどは通るのでぜひ挑戦してほしいと話した。

枠は3つあり、通常枠は最大450万円、インボイスに対応した会計ソフトなどを導入する際に使えるインボイス枠は最大350万円の限度額があるという。決算を1回終えていれば申請できるので、まずはIT導入支援事業者に相談してほしいと小野さんは勧めた。

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補助金と助成金の違い、そして「知らなかった」では済まない

最後に小野さんは、補助金と助成金の違いを説明した。補助金は物やことに対して出されるお金で、助成金は人、つまり雇用などに対して出されるお金である。

補助金や助成金はたくさんあるが、積極的に知る機会は少ない。だからこそ自分で情報を取りにいく必要があり、知っているかどうかで起業後のお金の回り方が変わると小野さんは強調した。「知らなかった、聞いてなかった、教えてくれなかった」ではだめだという言葉に、愛沢さんも、まず知識をつけ、そのうえで税理士に頼めばスムーズだと応じた。愛沢さんは、自分は何も知らずに起業したと振り返り、これから起業する人に知っておいてほしいと締めくくった。