制度から変えても組織は変わらない:小杉俊哉が語るパーパスから社員までの「順番」とエンパワーメント
MAKE IT NEXT組織改革はなぜうまくいかないのか。評価制度や成果主義から手をつける企業が多いが、小杉俊哉はそれでは組織は変わらないと言う。この対談で小杉は、パーパスから社員に至る流れを「人材マネジメントバリューチェーン」として示し、どこから変えるべきかを説明した。後半では、支援型リーダーシップと社員の自立のどちらが先か、エンパワーメントと権限委譲や丸投げはどう違うかを掘り下げている。聞き手はSean Kawakamiである。
支援型リーダーシップにおける「支援」とは
字幕は、リーダーシップの歴史をめぐる話の途中から始まる。小杉によれば、歴史上のリーダーの多くは権力を背景に人を従わせてきた。名君と呼ばれた人物もいたが、例外だったからこそそう呼ばれたのだという。
これを受けて、Kawakamiは小杉の言う「リーダーシップ3.0」における支援の意味を確認する。支援とは何でも助けてあげることではなく、人が動けるような環境を整えることだという点で、二人の認識は一致した。Kawakamiは、小さな寺で典座(調理役)を務めた経験も紹介した。寺の仕事にはマニュアルがあり、与えられた通りにやればうまくいくようになっているという。
宗教と長寿企業:変わらない目的、変わるビジョン
Kawakamiは宗教組織についての仮説も示した。企業は環境に適応して変わらなければならない。一方で宗教は、悟り、救済、神との合一といった、いつまでもたどり着かない超越的なパーパスを持っている。だから時代に流されず、組織が追い求めるものが揺らがないのではないか、という見方である。
小杉は日本の地方企業を例に答えた。日本には何百年も続く長寿企業が多く、そうした企業でもパーパス、つまり基本理念や「なぜこの会社があるのか」は変わっていないという。ただし、ビジョンは変わる。環境、テクノロジー、競合、クライアントが変われば、ビジョンも変えなければならない。
パーパス、ミッション、ビジョンの整理
Kawakamiは、ミッション、ビジョン、バリュー、パーパスと言葉が多すぎて、ほとんどの人が混乱していると打ち明けた。自身が一番よく聞かれて困る質問でもあるという。小杉は自著『人材マネジメント戦略』に書いた内容として、次のように整理した。
まず会社存立の目的がある。これをパーパス、あるいはミッションと呼ぶ。最近はパーパスという言い方が増えているが、両者は同じものと考えてよい。「なぜ我々はここにいるのか(why we are here)」「何のためにこの会社はあるのか」を示すもので、基本的には会社をつくるときに定め、本来は普遍で変わってはいけないものだという。最近はパーパスを見直す企業も増えている。小杉はその理由を、ホームページに書いてあるだけで社員に聞いても誰も知らないため再定義する、というケースだと説明し、それでも基本的には変わらないものだと述べた。
一方、ビジョンは3年後や5年後にどうなっていたいかを示すもので、環境が変われば変わらなければならない。小杉はパーパスを不変の北極星にたとえ、ビジョンをそこへ向かう道筋の数年先の道標と位置づけた。むしろビジョンを変えなければ時代に取り残され、必要とされない存在になる可能性があるという。
Kawakamiは最近、ある企業から提案書のカタカナが多すぎるので全部日本語にせよと言われたという。北極星、展望、使命感といった言葉を使ってもしっくりこなかったが、この説明でようやく腑に落ちたと語った。
人材マネジメントバリューチェーンの順番
小杉は人と組織を扱う立場から、ビジョンの下に続く流れを示した。企業にサプライチェーンやビジネスシステムがあるように、人や組織にもバリューチェーンがあると意識する必要がある。小杉はこれを「人材マネジメントバリューチェーン」と呼ぶ。
ビジョンの次に来るのはリーダーシップで、ビジョンをどのように具現化するかのあり方を指す。小杉によれば、創業経営者には「1.0」でやっている人が多い。外からプロ経営者が入ってきた場合は徹底的な変革が求められるため、「2.0」が必要になるかもしれない。リーダーシップのスタイルは組織の状況によって変わるという。
リーダーシップの次が戦略である。ビジョンをどのようなリーダーシップで、どう戦略的に実現するかを定める。小杉は、この順番を間違えてはいけないと強調した。90年代以降は中期事業計画至上主義の会社がほとんどだったが、今は逆に戦略至上主義の会社が増えていると小杉は見ている。しかし戦略が先に来るのではない。北極星があり、ビジョンがあり、リーダーシップを挟んでようやく戦略がある。
戦略の後には、組織形態や人材ポートフォリオ、人材配置が来る。その後にようやく人事制度が来る。人事制度は、上流の方向性と矛盾せず、それを担保するものでなければならない。つまり、方向性に従って働けば評価され、昇進し、個人としても満足してハッピーになれる仕組みである。小杉は評価制度を含めて「人事システム」と呼び、制度だけの話ではないと付け加えた。そして最後の最後にいるのが社員である。社員がクライアントや市場に価値を提供することで、企業は付加価値を生み、回っていく。
バリューは「組織風土」の裏側にある価値観
では、バリューはどこに位置づくのか。Kawakamiが「結果論か」と尋ねると、小杉はこう説明した。バリューとは、このバリューチェーン全体を通じて流れているものの裏側にある価値観である。価値観だけを取り出してあれこれ議論しても意味がない。連綿と受け継がれてきた流れの裏側に「当社ではこういう価値観が大切だ」というものがある、ということだ。
日本語で何が一番近いかと問われると、小杉は「組織風土」と答えた。風土の裏側が価値観であり、両者は表裏の関係にある。価値観は言語化されていないかもしれず、空気のように流れて組織を支配しているものだという。
制度だけ変えた成果主義、風土を直接いじる風土改革
この枠組みから、小杉は二つのやってはいけないことを挙げた。
一つ目は、人事制度から変えようとすることだ。制度はチェーンの一部にすぎない。リーダーシップは今と同じで、そもそもリーダーシップがあるかどうかもわからず、組織形態も変わっていない。その中で人事制度だけを変えれば社員は戸惑う。小杉は、これが2000年代初めの成果主義の失敗の本質だと述べた。変えるなら全部変えなければならない。
二つ目は、組織風土改革である。小杉は、これはまずうまくいかないと断言した。すべてのベクトルを合わせた結果、振り返ってみると「うちの会社もずいぶん風土が変わったね」となるのが風土改革だという。風土は結果でしかない。風土を変えようとしてそこにメスを入れても、アレルギー反応やハレーションを起こすだけだと小杉は言う。Kawakamiはこれを、形を追い求めた結果と、結果としての形はまったく違うものだ、と言い換えた。
どこから手をつけるか:一気に変えることとトップのコミットメント
Kawakamiは、情報共有がされない、ガバナンスが効いていないといった問題があると、企業はまず組織や人事評価をいじろうとすると指摘し、どこにメスを入れるべきかと尋ねた。
小杉は社名を伏せたうえで、成果主義に失敗したある企業の例を挙げた。その企業では、辞めた人が内情を暴露する本を出し、人が辞め、混乱を極めて業績も悪くなった。小杉が現在の人事トップと話すと、その人物は、先人がやろうとしたこと自体は間違っていなかったが、制度から入ったのが間違いで中途半端だった、と振り返ったという。そして、やるなら全部のベクトルを合わせなければならないという小杉の考えに全面的に共感した。その会社は今、一気に変える取り組みをしているという。
小杉はもう一つの条件としてトップのコミットメントを挙げた。バリューチェーンではビジョンの次にリーダーシップが来る。社員はトップを見ているので、「これは本気ではない」と思われたら変わりようがない。言行不一致もそうで、口ではこう言っていても全然違うことをしていると思われたら、誰も動かない。どこから手をつけるかという問いへの小杉の答えは、「一気にやる必要がある」だった。
Kawakamiも成果主義の時代を振り返った。独立採算の事業部制を導入した会社で、稼いでいる事業部門の人がR&D部門の人に廊下ですれ違いざま「あなた方は税金で食べていていいね、呑気で」と言ったり、「うちが食べさせているのがわかるか」と言ったりするような風土が生まれたという。制度を入れたことで、逆に悪い風土ができてしまったわけだ。小杉は、以前はそれなりにそろっていたベクトルが制度変更で分断され、バリューチェーンが切れて組織風土がぐちゃぐちゃになり、何が大切な価値観なのかわからなくなったのだと解説した。
有事こそ意思決定を現場に:米軍の例
Kawakamiは、危機のときには権威主義的に一気に進めるカリスマ型のリーダーシップのほうがよいのではないか、平時と有事ではリーダーシップが違うのではないか、と問いかけた。
小杉は、13年前に書いた『リーダーシップ3.0』で、アメリカ軍を支援型組織に分類したと明かした。米軍は普段、司令官の指示のもとで末端の兵士まできちんと動く。ところが、ある国で戦争状態になったとき、司令官の指示を仰いでいる間に現地の兵士たちが殺されてしまった。その反省から、兵士にウェアラブルコンピューターを身につけさせ、司令官が持つ情報をすべて与えたうえで、現場の一人ひとりが判断する仕組みにした。有事だからこそ意思決定を分散させたのだという。Kawakamiは、危機の大きさを一番感じているのは現場だからだと受け止めた。小杉は、旧日本軍はまさに現地のことが上に何も伝わっていなかったと付け加えた。
国と企業は違う
では、今多くの国で強権的な1.0型の支配型リーダーが権力を握っているのはなぜか。小杉は、国と企業は別物だと答えた。国はどうしても統合しなければならず、安定、統合、主権をいかに守るかが問われる。情報戦、安全保障上のリスク、経済競争の激化、国内の社会分断などを抱える中で、今は戦時中のような状態になっている。そのためカリスマ性を持って支配するトップを人々が求めているのだろう、というのが小杉の見方だ。
産業界については、オーナー系や創業経営者が1.0でやっていてうまくいっている限りは、それでよいと小杉は言う。ただしリスクは必ずある。小杉は、最近ある企業で不祥事を機に長年成功してきたトップが退任した例に触れた。そうした組織では後継者が育たず、みんながイエスマンになる。どうせ提案しても上がひっくり返すと思えば、誰も自律的に働かない。トップが明らかに間違えていても、「王様は裸だ」と言える人はいない。
Kawakamiは、究極的にはリーダーシップがなくても自律的に成長していく組織が理想ではないかと述べた。この人がいなければ組織が育たないという状態は不健康ではないか、という問いに、小杉は「不健康です」と応じた。その人がいなくなったらどうするのかという点で、サステナビリティが非常に危うい。カリスマ的な変革者が会社を引っ張る姿は美しいが、組織としては脆弱だという。
「それは星野さんだから」という壁
Kawakamiは、星野リゾートの星野佳路との長い対談に触れた。外資系企業などの高い報酬を蹴ってまで星野リゾートに来る人がいて、星野自身は細かい意思決定には関与しないと語っていたという。Kawakamiは、それは普通の会社では無理ではないか、個人の自立性が高く、組織として自律的に変化していく土台があるから成り立っているのではないか、と問うた。この話をすると、多くの経営者から「それは星野さんだからでしょ」と言われてしまうという。カリスマがいなくても、そのDNAだけを受け継いで次の世代に移っていける企業もある。そうなれない会社はどうすればいいのか、というのがKawakamiの問いだった。
小杉はまず企業の環境を説明した。技術革新は連続的に起き、生成AIも入ってきた。市場の変化は高速化し、日本企業でもついに人材の流動化が進んだ。専門知も分散している。国に求められるのが統合だとすれば、企業に求められるのは適応である。変化が遅く、経営者が30年前に経験したことが今も通用するノウハウの時代なら、トップの指示でもうまくいった。しかし今は「ノウホワット」「ノウホワイ」、つまり何をやるか、なぜやるかを一人ひとりが考える時代である。一人ひとりが学習し、価値を提供していく必要がある以上、自立の側に圧倒的に分があると小杉は述べた。そして、社員が自律的に動いている長寿の地方企業も多く、その理由の一つはトップが支援型であることだという。
自立と支援はどちらが先か:X理論・Y理論
Kawakamiは「意地悪な質問」として、自立と支援のどちらが先なのかを尋ねた。
小杉は動機づけ理論のX理論・Y理論を持ち出した。X理論は性悪説で、人は見張っていないと怠けると考える。「本当は任せたいが、俺が見張っていないとダメなんだ」と言う経営者はこの立場だ。Y理論は性善説で、人はもともと工夫し、自分で責任を取って働くものだと考える。自立した人間がいるから任せるのか、任せるから自立的に動くようになるのか。これは卵と鶏の問題に見えるが、小杉は結論はすでに出ていると言う。経営者が任せるから、人材は自立的に動くようになる。まず権限を渡してやらせ、失敗もさせ、その後に支援が来る。いったんそのやり方が根づけば、先輩社員や上司がみなそうしているため、新入社員もそれに倣うようになるという。
Kawakamiはさらに食い下がった。任せて失敗し、支援してまた失敗し、それでも育たない。会長や顧問になったのに社長に戻ってくる例もちらほらあり、「社員では無理だ」という声もよく聞く、と。
状況対応型リーダーシップの4類型と、その限界
小杉はこれに答えて、まず状況対応型リーダーシップを紹介した。ポール・ハーシーとブランチャードによるもので、研修もあるという。社員をやる気の高低と職務遂行スキルの高低で4つに分け、それぞれに接し方を変える。
- やる気は高いがスキルが低い人:一般的には新入社員である。やる気はあるので、「これをやれ」とハウを与える指示型で接する。
- やる気もスキルも低い人:外資系なら解雇の対象になるが、日本企業は新卒で採用しており、アメリカのようなレイオフの概念もなく、労働法上も解雇は厳格だ。そのため上司がコーチとなり、その人が働けるようにする。小杉はコーチを、指示よりも関わりの深い役割と位置づけた。
- やる気は低いがスキルは高い人:長く勤めてきたシニアに多い。年下の上司に仕えることになったケースなどで、年下の上司が年上の部下を持つことは今では日本企業でも普通になっている。この層に対しては支援型で接し、仕事ができるように支援する。
- やる気もスキルも高い人:権限を渡し、どんどん仕事を委任していく。小杉は、これは放置ではなく委任だと念を押した。
いきなり全員に自立を求めるのは難しいので、相手によって自分のリーダーシップを使い分けるべきだ、というのが小杉の説明である。
ただし小杉は、この手法を13年前の著書には入れなかったという。理由は二つある。一つは、コーチ、支援、委任といった要素はどれも自身の言う3.0のリーダーシップに必要なもので、言葉の上で理解が混乱しかねないこと。もう一つの、より大きな理由は、企業のトップがこれをやると問題が起きることだ。Kawakamiは「人事部長のようになってしまう」と応じた。小杉によれば、人によって言うことがまったく違うので「えこひいきしている」「軸がない」「ぶれる」と言われてしまう。だから組織の上に立つ人はやってはいけない。部下が一担当者であれば使ってよいが、部下が事業部長や管理職ばかりという立場の人には向かないという。
リスナーの質問:「自分で考えろ」が放置に見えてしまう
番組には、神奈川のメーカーで課長をしているリスナーから質問が届いた。部下に自律的に動いてほしいが、「自分で考えろ」と言うと放置に見えてしまう。支援型リーダーとしてどうバランスを取ればよいのか。また、そもそも自立を望んでいない部下にどう接すればよいのか、という内容だ。小杉も、これはよく受ける質問だという。
小杉は1999年の本に書いた「エンパワーメント・フレームワーク(小杉モデル)」で答えた。エンパワーメントという言葉は日本でも普通に使われているが、まったく理解されておらず、使いこなしている人はいないと小杉は感じている。辞書を引くと「権限委譲」と訳されているが、これが混乱の一番の原因だという。
このモデルは、仕事の本質である「ホワット・ホワイ(何を、なぜ)」と「ハウ(どうやって)」の2軸で4つに分ける。
- 権限委譲:ホワット・ホワイ・ハウをすべて渡す。業務の引き継ぎで前任者が書類、クライアント情報、注意事項まで後任者に渡し、速やかに立ち上がれるようにするのがこれにあたる。これはエンパワーメントではない。
- 丸投げ:何も与えず「あいつに任せたから聞いてくれ」と人に投げる。
- 指示命令:ハウだけを与える。新入社員にはこれでよく、何のためにやるのか、何を目指すのかを共有しなくても、目の前の仕事の指示を与えていけばよい。
- エンパワーメント:何のためにやり、何を目指すのかを十分に共有したうえで、ハウはすべて任せる。
エンパワーメントの条件:後出しじゃんけんなし、報酬は仕事、報告は見守りのため
小杉はエンパワーメントの条件も挙げた。目標と目的を明確にすること。使えるリソースを明確にすること。制限や制約条件があるなら最初にはっきりさせること。予算がいくらまでか、このクライアントは自分が担当するといった条件を後から持ち出す「後出しじゃんけん」はなしにする。誰を使ってよいか、自分の時間の何%を使ってよいかも明確にする。
結果に対する報酬については、金銭的なものでないほうがよいとされていると小杉は言う。デシのパズル実験に触れ、ニンジンをぶら下げるモチベーション2.0ではなく、モチベーション3.0の内発的動機が人を動かすと説明した。日本で昔から言う「仕事の報酬は仕事」がこれにあたる。「このプロジェクトがうまくいったら切り出して部門にし、お前に部門長をやってもらう」「軌道に乗ったら次はこういう仕事をやってほしい」といった期待を示す。まずは「よくやった」と承認することもセットになる。ボーナスでは一時的な喜びで終わってしまうという。
最後の条件は報告義務を課すことだ。任せているのになぜ報告させるのか、と意外に思われるかもしれない。しかし小杉の言う報告は、日報のような管理のためのものではない。頻度が高くても週報、あるいは隔週報や月報でよく、物によっては四半期報でもよいという。目的は見守るために情報を提供させることにある。うまくいっていれば一切口出しする必要はなく、存在を消していてもよい。イエローサインが出たときに支援できるようにするための、まさに支援型リーダーのツールだと小杉は位置づけた。
この流れで、Kawakamiはマネジメントとリーダーシップの違いも尋ねた。小杉の定義では、マネジメントは組織上の役割をきちんと果たすために管理すること。リーダーシップは、組織上の役割や役職に関係なく、個人の名前で周りを巻き込み、一定の方向に動かすこと、あるいは何かを始めたり変えたりすることである。報告はマネジメントの意味での管理、つまり一挙手一投足を管理するためのものではない、という整理になる。
先にデメリットが来るというハードル
字幕の終盤は断片的だが、小杉は、この変革ではまずデメリットが先に出てくることが最大のハードルだと述べている。その先にはよい未来が待っているが、そう話すと「いつ頃儲かりますか」と聞く経営者がいるという。
続いて、会社に仕方なくいる人ほど悩みが多く、夢や目標を見失った「難民」のようになっているという話や、人材の流動化はすでに普通に起きていることで、社員が自立意識に目覚めたから辞めるわけではない、という趣旨の発言が交わされる。この部分は議論の途中で字幕が途切れており、結論までは示されていない。
権力を背景に下々の者を従えると。ですから歴史上、名君って言われる人がいました。日本の藩でも。それは例外だからそう言われたんであって、多くはやっぱり権力。
このリーダーシップ3.0という文脈の中での支援っていうのは、何でも助けてあげるっていう意味じゃないですもんね、この支援というのは。ないですね。動けるような環境を整えるっていう支援ですよね。
これ、実は私も1回だけ小さなお寺に宿坊に入ったことがあって。典座っていう、その調理の。これ、板で回るって話はちらっと聞いた。マニュアルあるんですか?
そうです。マニュアルあるんですよ。そのマニュアルを与えられたら、その通りやればうまくいくようになってるんで。星野リゾートじゃないですか? ですよ。
あと、その宗教っていうことで言うと、これ、仏教もそうだし、それこそ山口さんと話をしてた時のキリスト教もそうなんですけど、なんでまとまっていけるのかって言った時に、我々、ミッション、ビジョン、バリューとかパーパスとかっていう話をよく企業ではするわけですけど、企業っていうのはやっぱり環境適応ですので、変わっていかなきゃいけないじゃないですか。
宗教っていうのは、ある種、超越的なミッションを持ってるような気がしてまして。例えば悟りとか、救済とか、神との合一って言ったらいいですかね。ちょっと超越したところのパーパスを持ってるんで、時代に流されないんじゃないかって。いつまでもたどり着かないじゃないですか、そのパーパスって。でもずっとそれを追い求められる。
つまり、すごく逆説的なんですけど、組織としては環境適応できないというか、さらにその上のパーパスをずっと持ってるんで、いつまでも今の組織が追い求めるものが揺るがないっていうのもあるのかなって、ちょっと思ったりしたんですけどね、宗教っていうのは。
ただ、地方の企業で何百年続いてるようなところも、日本は寿命が長い企業がいっぱいあって。そういうところっていうのは、そういう意味ではパーパスっていうのは変わってないんですよ。基本理念とか、なぜこの会社があるのか。ただ、ビジョンは変わるんですよ。ビジョンは環境が変われば、テクノロジーが変われば、競合が変われば、クライアントが変われば。
小杉先生、ちょっと教えてください。これ、一番聞かれて私が困るやつなんですよ。言葉が多すぎちゃって。ミッション、ビジョン、バリュー、パーパス。ほとんどの人がしっちゃかめっちゃかなんですよ。ミッションって使命感である、ビジョンというのはこれからの構想であるよと。バリューっていうのは弊社だと。パーパスって。これ、どういうふうにこうしたらいいですか?
これはですね、1988年に書いた『人材マネジメント戦略』に書いてあるんですけど。まず会社設立の目的である。これがパーパス、あるいはミッションと言って、最近はパーパスというふうに言うことも増えてきます。
ミッションは、じゃあ一応同じと思って。同じ。何のために我々はいるのかっていうことですね。何のために、we are。そう、Why we are here。何のためにこの会社はあるのか。これは基本的には会社を作る時に定めたもので、本来不変のものなんですよ。変わっちゃいけないんですね。
ただ、最近パーパスの見直しとかもやってる企業が増えてるのは、それが単にホームページに書いてありますとか、社員に聞いても誰も分かんないとか。じゃあパーパスの見直しをしましょうっていうことで再定義をするっていうのはあるんですけど、基本的には変わらないものです。これがパーパスとかミッションです。
一方、ビジョンは、これは先ほどお話ししたように、環境が変われば変わらないといけないんですよ。3年後にどうなっていたいか、5年後にどうなっていたいかっていう話ですから。我々は、不変なものが北極星だとすると、パーパスとか。そこに向かう道筋の何年か後の道標ですね。3年とか。これがビジョンです。
それは変わる必要がある。むしろそこを変えないと、時代から取り残されてしまって、いらない存在になってしまう可能性があるってことですね。
なるほど。今すごく分かりました。私、最近ある企業さんに提案書を書いたら、「君の提案書はカタカナが多すぎる。全部日本語にせよ」って言われて、どうなるんだろうと思って。要するに北極星だとか展望だとか使命感とか、いろんな言葉を駆使するんですけど、しっくりこなくて。今よく分かりました。そうですか。ビジョンが道しるべですよね。はい、道しるべです。
その下に、私は人とか組織を扱ってるんで、その下に必要なバリューチェーンですね。サプライチェーンとかビジネスシステムって言ったりしますよね。人材マネジメント・バリューチェーンって呼んでるんですけど、人や組織にもバリューチェーンがあるってことを意識する必要があるよってことで、そのビジョンの下には今度リーダーシップがあるんですよ。つまり、そのビジョンをどのような形で具現化するリーダーシップのあり方があるか。
なるほど。これは創業経営者とかは1.0でやってる人が多いですよね。あるいは先ほど言いましたプロ経営者が入ってくると、徹底的な変革が求められるんで、2.0が必要かもしれない。
そうか。北極星があって、そこに向かうための道しるべがあって、ビジョンがあって、そこにどうやっていくかっていうリーダーシップがあって。そのスタイルはいろいろ、組織の状況によって変わりますよね。ですよね。バリューは? バリューはちょっと待ってください、後で。
そのリーダーシップの後に出てくるのが戦略です。どのようにして、そのビジョンをどのようなリーダーシップで戦略的に実現するのかで、戦略というのを定めますよね。まず、そもそもこの順番を間違えちゃいけないですよね。
戦略至上主義みたいに、今度ですね、90年代以降、戦略至上主義の、その前は中期事業計画至上主義の会社がほとんどだったのが、今度は逆に戦略至上主義の会社が増えてると思います。戦略じゃなくて、その先に何を目指して、北極星があって、ビジョンがあって、リーダーシップを挟んで、ようやく戦略があるわけですよね。
なるほど。っていうことですよね。この戦略の後に今度、組織ですとか、人材、そうですね、人材ポートフォリオとか、これが入ってくるんですよ。それをどういう組織形態で、どのような人材が、どのような人材配置で行うかっていうのが、今度物理的に必要になるじゃないですか。
その後にようやく人事制度があるんですよ。それと矛盾しないような、もっと言うと、そういった方向性を担保するような。つまり、ちゃんとそれに従ってやると評価されて、きちんとプロモートされたり、自分自身の個人的な満足感も満たされて、ハッピーになれるような。評価制度も含めた人事システムって言ったりしますけど、制度だけじゃなくてですね、それが最後にあって。
そして、さらに組織の中では最後の最後にあるのが社員なんですよ。社員がクライアントに対して、市場に対して価値提供することによって、企業としての価値を提供する、付加価値を提供するってことで、企業というのは回っていくわけですよね。
なるほど。今回、生放送じゃなくてよかったですね。これ、皆さんメモ取るの大変だと思いますけども、ちゃんと見れますので。となると、バリューっていうのは結果論?
バリューはですね、この本にも書いてたんじゃないかなと思うんですけど、『リーダーのように』ですね。バリューっていうのは何かって言うと、このバリューチェーンを通じて流れてるものの裏側にあるのが価値観なんですよ。
つまり、価値観を取り出して云々言ってもしょうがなくて、ずっと連綿と受け継がれてきた、この流れの裏側にあるのが、「当社はこういう価値観が大切だよね」っていうものがあるということなんです。
これはパーパスとも違い、あるいは組織の中に通底している。これ、日本語で言うと何が一番ぴったりくるんでしょう? これは組織風土です。風土の裏側が価値観なんですよ。なるほど、それを支えてるもの。支えてるものですね。表裏と言ってもいいです。それは必ずしも言語化されてないかもしれないですよ。空気のように流れて支配しているもの。組織風土や、その裏側にある価値観ですよね。
なので、やってはいけないのが、まず制度を変えようとすることです。制度っていうのはそのチェーンの一部でしかないから、そこだけを変えちゃったら社員は戸惑いますよね。今と同じようなリーダーシップで、あるいはリーダーシップがあるかどうかも分からない。組織形態も変わってないっていう中で、人事制度だけを変えてしまった。これが例えば、以前あった2000年代の初めにあった成果主義の失敗の本質です。
なるほどね。変えるなら全部変えなきゃいけないっていうのが一つと、もう一つが、組織風土改革っていうのはまずうまくいかない。そうですか。そうです。「組織風土改革をやってます」っていう。これ、見てる方、ドキッとする方多いんじゃないでしょうか。
絶対うまくいかない理由は、それ、全部ベクトルを合わせた時に、結果として振り返ると「あ、うちの会社も随分風土が変わったね」というのが風土改革。つまり結果でしかないんですよ。風土を変えようとしてそこにメスを入れても、まずアレルギー反応、ハレーションを起こすだけです。
形を追い求めた結果と、結果としての形っていうのは全く違うものだっていう。だから、人事評価、その他人事システムっていうものから着手しようとするか。でも、何か会社がうまくいってないとか、情報の共有がなされていないだとか、うまく会社の中での、いわゆるガバナンスと言ったらいいのかな、が効いてないって言った時に、やっぱりこれは組織がおかしい。あと人事もおかしい。評価システムがおかしい。まずここからいじろうとする。じゃあ、どこからメスは入れるべきなんですか?
これはですね、例えば、社名はあえて出しませんが、成果主義の失敗というかに、人事の人が辞めて、暴露本みたいなので非常にこう。いろいろちょっと浮かびますからね。それで人が辞めてしまったり、混乱を極めて悪くなって。それは、今の人事のトップの方とお話しすると、「先人がやられた、やられようとしたことは間違っていなかった」と。
でも制度からやろうとしたのは間違いだった。中途半端だった。そして、やるなら全部ベクトルを合わせなきゃいけないっていう私がお話ししたことを、全面的に共感してくださったっていうことと、あとはトップのコミットメントです。
トップが、先ほどのビジョンの次にリーダーシップが来ますよね。トップをみんな見てますから。「これ、本気かな」というふうに社員が思ったら変わりようがないですし、あとは言行不一致。「ああいうふうにきれいごと言ってるけど、全然違うことやってるじゃん」って思ったら誰も動かないですよね。
さっきのパーパスから始まったラダーと言ったら、こう流れでいくと、一番、人をいじるか、人事をいじる、だいぶ下流の方の話。その上には戦略があり、さらにリーダーシップがあるから、どんなリーダーシップによって決まってくるものですよね。そうですね。もっと言うと、その先にビジョン、パーパス。どこからいじるって。
これは一気にやる必要があるんです。そうですか。変えるなら一気にやらないと。今、その会社は一気にやってます。っていうのが先人から学んだことで、トップのコミットメントと、ベクトルを変えるなら全部変えるです。
なるほど。これは本当にそうだと思いますね。おっしゃってる当時の、本当に成果主義、それから独立事業部門でやって、あるお金を稼げる事業部門が、事業開発本部じゃなくて、R&Dの部門に「あなた方は税金で食べていいね、のんきで」って言って、廊下をすれ違う時に言ったりとかいうような風土が。その制度を入れたことによって、風土が逆にできてしまったっていう。
そうなんです。「うちが食べさせてるの分かる?」っていうのを、A部門がB部門に言ったりとかっていうのが起こってきちゃって。「あれ、これって効率を求めてきたはずのやり方が効いてないぞ」っていうのは、そういうことですよね。そういうことです。
ですから、ベクトルがそろってないんで。まだ昔はそれなりのベクトルだったのが、制度を変えたんで、先ほどの話で言うとバリューチェーンが分断されて、組織風土がぐちゃぐちゃになって、何が大切な価値観かが分からなくなった。
なるほどね。先ほどリーダーシップの1.0からご説明をいただきましたけども、これっていうのは、時代の要請というか、時代にこうした結果がそうだったような気がするんですけど。つまり、有事の時と平時の時と、多分リーダーシップが全然違うのかなと。そうです。
多分ものすごく危機の状態にある時のリーダーシップっていうのは、おそらくカリスマと言いましょうか、どっちかというと権威主義的にどーんとやる方が、どっちかというと中国式にやる方がいいのかなとか思ったりもする。平時の場合って、何をもって言うのか分かりませんが、安定成長している時のリーダーシップとまた違う気がするんですけど、ここはどうなんでしょうかね。
まず、13年前に書いた『リーダーシップ3.0』では、アメリカ軍というのも支援型組織の中に入れてるんですよ。それはどういうことかって言うと、逆に普段は司令官の指示のもと、末端の兵士まできちんと動くと。
ところが、ある国ですね、戦争状態になった時に、司令官の指示を待っている間に現地の兵士たちがみんな殺されちゃったわけですよ。それで、その反省からウェアラブルコンピューターを身につけて、情報は全部与えると。司令官の持ってる情報を全部与えると。でも現場の一人一人の兵士が判断するっていうことを、逆に有事ではやるっていうことをやったんですね。
なるほど。有事であるからこそ、上意下達で、ここで統合参謀みたいなところが全部決めてどーんじゃなくて、現場で意思決定できる、意思決定を分散するような仕組みにしてた。そうか。そうですよね。
危機であるからこそ、現場が一番その危機のマグニチュードを感じてるわけですから、現場で意思決定できるようにしておかないと、いちいち組織の、仰いでると。旧日本軍もまさにそうだったわけですよ。現地のことは何も伝わってなかったんですよね。
ただし、おっしゃることは分かって。じゃあ今、リーダーシップ3.0、支援型、分かるけど、いろんな国で起こってることは何なんだということですよね。どの国も非常に強権を持った人が、いわゆる1.0型の支配型の人が握ってるじゃないかというふうに言われることもあるんですけど、やっぱり国と企業は別物というふうには思いますよね。
国の場合は、やっぱりどうしても統合しなきゃいけないっていうのがあるじゃないですか。なので、安定、統合、主権みたいなものをいかに守るかみたいな。特に様々な形で、情報戦もそうですし、安全保障のリスクだとか、経済競争の激化とか、社会分断とか、国内で抱えてるわけですよね。
いかにトップがカリスマ性を持って支配してっていうのが、おそらく今は必要な時代に。つまり戦時中の状態になっちゃってるんで、そういう人を人々も欲しがってるというかですね。というのが国のレベルの話だと思いますね。
そうですよね。ところが、それ、産業界にどうかって言うと、産業界、先ほど話したように、1.0でオーナー系、創業経営者がやって、すごく頑張ってる会社は、うまくいってる限りにおいてはやればいいと思うんですよ。
ところが、リスクが必ずあって。この間もある企業の不祥事で、長年成功したトップが退任しましたけど、やっぱり後継者が育たない。それからみんなイエスマンになってしまう。「どうせ提案したって上が決めるんでしょ。ひっくり返すんでしょ」っていうふうに思ってたら、誰も自律的に働かない。あるいは明らかにもう間違えてるなっていう時も、誰が「王様、裸ですよ」って言えるかっていうと、誰も言えないんですよ。
これ、結構日本の重要な経済を支えている、あの企業とかあの企業。そうそう。あまりにもカリスマすぎて。そうなんですよ。
究極、私、思うんですけど、リーダーシップはない方がいいって思うんですよね。つまり、フォロワーシップと言ったらいいのかな、リーダーがいなくても自律的に成長していく形が、一番理想形な気もちょっとするんですけど。そういう意味では、この人がいなければこの組織は育たない、会社は育たないっていう状態っていうのは不健康でしょ?
不健康です。もっと言うと、その人がいなくなったら、この会社は一体どうするんだろうって。サステナビリティが非常に危ういですよね。カリスマ性があって、変革者で、イノベーターで、ビジョナリーでって、会社を引っ張ってきた姿っていうのはとても美しいものなんですけど、この人がいなくなった時はどうなるんだろうって考えると、組織としてすごく弱々しい。弱いんですよ。脆弱ってことですよね。そこで多分、自律っていう、自らが律して成長するってことが必要になると思うんですけど。
そうなんですね。さっき星野さんのお話をしましたけど、星野さんと長い対談をやらせていただいた時に、どうして星野リゾートにはマッキンゼーやその他外資系の企業から、大変な報酬を蹴ってまでもここに来て、自律的に。その前に星野さんは、細かいことに関与しないんだと、意思決定にはおっしゃってるんですけど、私は「それは無理じゃないですか、普通の会社では」。
つまり、個が強い、自律性の高い個があり、なおかつ組織として自律的に成長していく、変化していくっていうのがあるから、結果、星野さんができてるだけであって。これ、どっちがどっちなんでしょうねって話をしたことがあるんですけど。これ、ものすごく理想だけれども、それ難しくないですかっていう問いが、ほとんどの経営者に立つんですよ。
言われます。「それ、星野さんとかでしょ」って、いつもこの話をすると言われちゃうんですよね。どうしたらいいんでしょうねっていう。この自律っていうことが、その構成員、社員にも、やがて、そして組織にもあれば、このカリスマがなくても、カリスマのDNAだけ継いで成長していく。そして次のステージに自分で入っていけるっていう、こういう企業もあるとは思うんですけど、そうじゃない会社と、そうだっていう会社って、どうしたらいいんですかね。この自律性、自律っていうことに対して。
まず先ほどの続きで言うと、国と企業の違いで言うと、企業の場合は今どういう環境かって言うと、技術革新が連続的に起こってますよね。生成AIも入ってきてですね。それから、市場変化もどんどん早く変わって、高速化していると。あるいは人材が流動化すると。日本企業もついにそうなりました。あと専門知識は分散してますよね。
その中で、トップが「これだ」っていうふうに言ったところで、それは必ずしも市場に適応できるかって。さっき国が統合だとすると、今度は適応なわけですよ、企業の場合は。それには今のような時代だったら。変化のスピードが遅い時代は、あるいは30年前に経営者が経験したことが今も通用するとかいう時代には、つまりノウハウの時代にはそれが通用したんですが、今はノウホワットとかノウホワイですよね。
何をやるか、なぜやるかっていうことを一人一人が考えるっていうことを考えた時に、そうしないと。つまり、一人一人が学習して適応して、そして価値提供していくかっていうことが必要な時には、自律の方に分が圧倒的にあるわけですよ。
なるほどね。その自律を実現できてる、さっきもお話しした長く続いてる地方の会社でも、そういった自律的に社員が動いてるような会社っていっぱいあるんですよ。それはなぜかって言うと、やっぱりトップが支援型っていうのは一つありますね。
これは、例えば。小杉さん、すごい意地悪な質問です。これ、自律と支援ってどっちが先ですか?
それがですね、例えば動機づけの理論で、みんなが知ってるX理論、Y理論ってあるじゃないですか。人間は言うことを聞く、聞かない。はい、そうです。おっしゃるようにX理論は性悪説なんですよ。もともと人っていうのは見張ってないと怠けると。だから「本当は任せたいんだけど、俺がやらないと駄目なんだ、見張ってないと」っていうふうに言われる経営者の方、いますよね。
一方、Y理論は性善説なんですよ。もともと人は創意工夫して、自分で責任を取ってやるものなんだという、性善説ですよね。これは卵が先か鶏が先かって問題なんですよ。自律した人間がいるから任せるのか、あるいは任せてるから彼は自律的に動くようになるのかっていう話なんですけど、これ、実は結論はもう出ていて、必ず鶏が先なんです。
ってことは。つまり、経営者が任せてるから人材は自律的に動くんです。権限委譲をまずして、やらせて、っていうのが先か。先。そして失敗をさせるのも先で、その後に支援が。
結構それを最初にやり出すと、あとはもともといる先輩社員とか上司がみんなそのやり方をやってるんで、新入社員で入っても、さっきの永平寺じゃないですけど、みんなそのやり方に倣うんですよ。
すいません。私も後ろにいろんな経営者の顔が見えてるんですから、意地悪な質問なんですけども、それをやらせますと。そうすると、権限委譲します。1回失敗をする。まあ、いいじゃないか。また失敗する。支援する。是正する。全然育っていかないとした時に、かの企業のように、せっかく会長になって、顧問になったのに、また社長に戻ってくるみたいなこともちらほらあって。要するに「無理だ、社員では」っていうこともよく聞くんですよね。
そこで、いくつか、二つお話ししますと。一つが。今日も小杉さんに講義していただいて、私が講義していただいてる感じですか。
一つお話ししたいのが、状況対応型リーダーっていうですね。これもこの本には書いてあるんですが、社員を四つのタイプに分類しましょうということで、昔からあるわけですよ。それはどういうふうに四つに分類するかって言うと、一つが自分自身のやる気ですね。やる気が高いのか、やる気が低いのかっていうことですね。
もう一つは職務遂行スキルがありましたね。やる気が高い、低い、そして職務遂行スキルが高い、低いと。こう、四軸ですよね。コンサルタントのスキル。これで分けると、やる気は高いけどスキルは低いという人間がまずいますよね。これ、普通どういう人ですか?
やる気は、スキルは低い。ちょっと暴走してる感じがありますよね。やる気だけはあるんだけども、やるべきことをやらなかったり、必要なスキルを身につけないので、空回りしちゃいますよね、このタイプ。
それ、企業にとってはどういう人たちですか? 昔からいる人ですか? 昔からそうな気もしますけども、適材適所に配置できてない手前の人のような感じがしますね。
これ、一般的には新入社員なんですよ。やる気は高くて、今から。やる気ないやつは取らないんで、少なくともやる気はあるけど、職務遂行スキルが低い。そういう人たちには指示型でやりましょうと。指示すればやる気はあるわけですから、「これやれ、これやれ」とハウを与えていくわけですよ。
なるほど。コーチのように。コーチのように。ちょっとコーチはまた別なんです。コーチは次に出てくるんですけど。今度は、やる気も低いし、スキルも低いっていう人間がいるわけですよ。解雇ですね、これ。
これ、外資系だとおっしゃる通りですが、日本企業の場合は新入社員で雇ってるんで、これはアメリカみたいにレイオフっていう概念もないですから、労働法も非常に解雇事由が厳格なんで、そう簡単に辞めさせられないんで、いちゃうんですよ。いちゃう人間を使ってどうにかしなきゃいけないんで、これはあなたがコーチになりなさいと。
あなたがコーチになって、その人が働けるようにしてあげなさいと。コーチはもっとエンゲージメントが深いんですね。深いんですね。はい、そうなんです。これが二番目の類型ですね。
三番目の類型は、やる気は低いけどスキルは高い。これ、通常どういう人がイメージできます? やる気は低いけどスキルは非常に高い。持て余してる感じですね。これ、昔はやる気あったんだけどね。士気が下がってるってことですね。今すっかりやる気ないよね。モチベーションが下がってるってことで、モチベーションを上げるような、ブーストするような何かが必要ですね。
これは長くやってる人ですよね。特にシニアの人で、年下の部下に仕えるようになってしまったとか。なるほどね。逆に言うと、年は若いけどすごく能力があって、年上の部下を持つみたいなことが、日本企業でも今普通にあるじゃないですか。そうなんですよ。
スキルはあるんだけどやる気を失ってるっていう人にはどうしたらいいかって言うと、これが支援型でいきましょうっていう言葉が出てくるんですよ。こういう方々に支援をするんですね。これはポール・ハーシー、ケン・ブランチャードの状況対応型リーダーっていう、研修もあるんですけど。ここは支援しましょうと。その人が仕事ができるように支援しましょうってことなんですよ。
最後、やる気もスキルも高いという類型、四つ目の。これは権限委譲して、どんどん仕事を委任し、委任し、委任していくんです。委任していく。放置じゃなくて委任していくんですね。っていうふうなやり方があるんで、いきなり全員に自律を求めるっていうのは難しいよってことですよね。今までやってもなかったので。
なので、その使い分けを人によってしましょうというのがあるんで、相手によって自分の側がリーダーシップを変えると。ところが、このやり方は非常に有効なんですが、先ほどの13年前に書いた本には入れてないんですよ。
これが、先ほどショーンさんが言われたように、言葉の使い方がですね。コーチ、あるいは支援、そして委任、私の言う3.0のリーダーシップには全部必要な要素なんで。まず言葉の問題で理解がこんがらがっちゃうかなっていうのと、もっと大きな問題は、これを企業のトップがやったらどうなると思いますか?
企業のトップが、こいつには。大変な、できないですね。それ、結局人事部長みたいになっちゃいますね、これ。やりきれないっていうのもあるし、それをやると「あの人、えこひいきしてるんじゃない?」っていう。「俺はこう言われた、私はこう言われた」、人によって全然違うわけですから。あるいは「軸がないよね」とか「ぶれるよね」って言われちゃうんで、組織の上に立つ人はやっちゃいけないんですよ。
やっぱりそこはフェアじゃなきゃいけなかったんですね。そうなんです。なので、自分の部下が一担当者であるっていう形だったらいいんですけど、自分の部下が事業部長ですとか、全員管理職ですみたいな人は、これをやっちゃいけないっていうのが、この状況対応型リーダーです。
なるほど。なので、まずはそれを最初は意識して、人によって使い分けをするっていうのをやるっていうのが、いきなり全員に自律を求めるっていう。画一的に支援型だとか、適応型だとかじゃなくて、まず少しきめ細やかにその人たちのタイプや適性を見ながらやるってことですね。そうですね。
ちょっとメールを一つ紹介したいんですけど、質問が来てます。メーカー職、神奈川の方です。件名、「部下に自律を求めたいが」、自律は自ら律する、「どう伝えればいいですか?」。今のお話、ちょっと繰り返しになるかもしれませんが。
「製造業で課長をしています。部下に自律的に動いてほしいと思っています。自分で考えろと言うと、放置に見えてしまいます。支援型リーダーとしてどうバランスを取ればいいんでしょうか? また、そもそも自律を望んでいない部下にどう接すればいいんでしょうか?」。
「いやいや、そんなこと言われちゃうと」っていうのはあると思うんですけども、これ、ありがちかもしれないですね。これも私がよく受ける質問ですね。そうですか。
これは、エンパワーメント・フレームワーク、小杉モデルっていうのが実はあって、これも1999年の本に書いてるんですけど。これ、映してほしいかな。これ、後では。これ映しますか? はい、後で、きれいなやつで。
これはとっても便利だと思うんですけど、エンパワーメントって言葉って、日本でも普通に使われるんですけど、全く理解されてないし、それを使いこなしてる人はいないと私は感じます。辞書を引けば権限委譲。委譲、権限委譲で以上です、ですね。
それはどういうことかっていうと、またコンサルタントの悪い癖で、四象限です。仕事の本質的なWhat、Whyっていう横軸と、どうやってやる、Howっていう縦を分けます。
分ける。権限委譲っていうのは何かって言うと、What、WhyとHowを全部与えるっていうのが権限委譲なんですよ。例えば業務引き継ぎとか、前任者から後任者に引き継ぐって、全部、書類からクライアント情報から、注意事項から全部渡すじゃないですか。速やかに立ち上がるようにやるじゃないですか。これ、権限委譲なんですよ。
なるほど。何を、なぜやるのかということの定義と、それをどのようにするか。これ、丸ごと渡す。全部渡すのがフルエンパワー。違うんです。これは権限委譲なんです。権限委譲。エンパワーメントではないんです。これをエンパワーメントと勘違いしてる人がいるんです。
エンパワーと権限委譲は違うんですから、エンパワーメントを権限委譲と日本語で訳すと、これは違う概念にしてしまってるんです。なるほど。これが一番混乱の原因。今のご説明はエンパワーの話ですね。今の説明は権限委譲の話です。WhatとWhyとHow、全部フルスペックで与えるのが権限委譲です。
そして一方、何にも与えない。全部人に投げて、「あいつに任せたから聞いてくれよ」っていう。これが丸投げです。WhyもHowもない。「私はもう何も知らないよ」。これは丸投げで、もちろんエンパワーメントじゃないですよね。違うんですよね。
それから、今度はHowだけ与える。これが指示命令です。手続きだけ。手続き、どうやってやるか。さっきの新入社員にはオッケーと言った。何のためにやってるのかとか、何を我々は目指してるのかっていうことは、別に共有しなくても、目の前の仕事の指示を与えていけばいいですよ。
一方、エンパワーメントって言ってるのは、What、Whyを、つまり何のためにやって、何を目指してるのかを十二分に共有した後、Howを全て任せる。これがエンパワーメントなんですよ。
なるほど。そうか。Why、なぜやるのか、そもそもなぜやるのか、何をやるのかというのは共有した上で、十二分に、手続きについてはあなたに任せる。任せます。これがエンパワーメントです。エンパワーメント。なるほど。
ですから、条件としては、目標、目的を明確にしますよね。それから使用できるリソースを明確にします。それから制限、制約条件があるなら、最初にクリアにしておく。予算いくらとか、「このクライアントは俺がやるから紹介してくれ」とか、もしあれば。後から言われると「だったら先に言ってよ」っていう、後出しじゃんけんはなしです。
そうですよね。「予算これだけしかないんだよ」って最初から言って。言ってよと。あるいは誰を使っていいとか、あるいはあなたの時間の一部であれば何%使っていいとか、これを明確にすること。
そして結果に対する報酬。これは金銭的報酬じゃない方がいいって言われてるんですよ。例えばデシのパズルの実験とかも有名ですけど、ニンジンをぶら下げて、そういった報酬でやるというモチベーション2.0の時代じゃなくて、ややこしいですけど、3.0の内発動機というのが人を動かすんで、そこに働きかける必要があるんで。
そうすると、日本でも昔から言うように、「仕事の最大の報酬は仕事」って言ったりするわけですよ。「このプロジェクトがうまくいったら、一つ切り出して部門にして、お前に部門長をやってもらう」とか、「これが軌道に乗ったら、次はもっとこういう仕事を実は君にやってほしいんだ」っていう期待感を示すわけですよ、報酬として。
そうですよね。それで頑張らせると。承認してもらうっていうのはまず第一で、セットで「よくやったな、素晴らしいな」と。だったら、お金ではなくて。ボーナスをやると一時的な喜びで終わるんですよ。確かにおっしゃる通り。そうだ。なので、内発動機ですね。
最後が、報告義務を課すってことなんです。これ、意外に思われるかもしれないですね。任せてるのに、なんで報告をさせていいんだと。またそれが何か言われちゃうんじゃないかと思っちゃうんですよね。
これが、例えば日本、営業日報みたいな、これは管理になっちゃうんで。どんなに頻度が高くても、多分週報ですね。週報、あるいは隔週報、月報。ものによっては四半期報でもいいぐらいです。見守るために情報を提供させるんです。
小杉先生、改めてなんですけど、マネジメントとリーダーシップっていうのは、一言で言うと何が違うんでしょう? マネジメントは、組織上の役割をちゃんとやるために管理することです。リーダーシップというのは、組織上の役割とか役職とか関係なく、個人の名前で周りを動かして、その人を巻き込んで、ある一定の方向に動かして、あるいは始めたり変えたりする。これがリーダーシップです。
じゃあ、日報っていうのは、そのマネジメントの領域の、管理していく、この人の一挙手一投足を、成果を管理するということではないんですね。見守りサービスのためなんですよ。だから、うまくいってれば全く口出しする必要はないです。一言も。もう存在も消しててもいいんですよ。
なるほど。「これはちょっとイエローサインが出てるな」っていう時に、支援ができるようにする。まさに支援型リーダーのツールなんです。なるほど。これを使うっていうのが非常に有効です。
なるほど。順番が、先にデメリットが出てくるっていうのが、これが最大のハードルなんです。でも、その先に素晴らしい未来が待ってますよと。よくそういう話をすると、「いつ頃儲かりますか?」っていう経営者がいるんですよ。
会社の中で、先ほどおっしゃったように、仕方なくここにいる。でも、そういう人に限って悩みがすごく多いんですよね。「どうしたらいいんだろう」って。夢難民、目標難民、アンカー難民みたいになってしまっていて。
つまり、自律意識に目覚めちゃったから辞めたんじゃなくて、もう人材の流動化は普通に起こってることで、自律とは関係ないですよ。そんなにいるのかなというふうに、ちょっと思ってしまうってことを。ちょっと、小杉さん。
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