「バイネームで選ばれる」プロの条件:モルガン・スタンレーからスタートアップへ移った星直人氏のキャリア判断
PIVOT 公式チャンネル一橋ビジネススクール特任教授の楠木建氏が、仕事で出会った「すごい人」を招いて話を聞くシリーズである。今回のゲストは財務戦略アドバイザーの星直人氏だ。星氏はモルガン・スタンレーの投資銀行部門でM&Aに12年間携わった後、保育施設向けのサービスを手がけるスタートアップ、ユニファのCFOに転じた。現在は独立した立場で、複数の企業を支援している。
対談の中心にある問いは、スキルを持つ人がいくらでもいる中で、なぜ特定の人が名前で指名されるのかということだ。楠木氏はその答えを「センス」に求め、星氏のキャリア判断にその表れを見ようとする。
スキルのデフレとセンスのインフレ
楠木氏は冒頭で、番組を続けている理由を2つ挙げた。
1つ目は「すごい」の定義である。楠木氏によれば、「あれができる」「これができる」と言っているうちはまだ素人だ。スキルを持つ人は世の中に掃いて捨てるほどいる。楠木氏がすごいと呼ぶのは、スキルを超えたセンスを持つ人のことだ。言動が一致している、「この人だからこうなんだ」と思わせるスタイルがある、そしてそれが仕事上の価値になっている。そういう状態を指すという。
2つ目は、いまそうした人を見る意味である。楠木氏は、技術の本質は人間がやっていたことを外部化することだと述べる。AIもその例外ではない。たとえば英語が堪能だというスキルは、10年前ならもう少し労働市場で価値があったかもしれない。だが今は、AIの同時通訳で誰もが母国語のままコミュニケーションできる時代が近づいている。楠木氏はこれを「スキルのデフレとセンスのインフレ」が起きている状態だと表現した。
楠木氏の言うセンスとは、判断と選択、そしてその背後にある基準の持ち方のことだ。スキルには教科書や学校、研修といった定型的な身につけ方がある。センスにはそれがなく、自分で磨くしかない。最も有効なのはセンスのある人を見ることだろう、というのが番組の趣旨である。
4つの帽子
星氏は現在の仕事を「4つの帽子」と説明した。
- 上場企業の財務戦略アドバイザー
- 未上場企業のアドバイザー。PIVOTの社外取締役のほか、障害のある作家のアートをIP化して販売するヘラルボニー、会計・ファイナンス人材を増やす活動をするCPAエクセレントパートナーズ、松尾先生が最近立ち上げたというAIスタートアップのサードインテリジェンスなどを支援している
- 独立系の日本のプライベート・エクイティ・ファンドの経営アドバイザー
- あるNPOの代表理事
このうち1つ目と2つ目がメインだという。
就職活動をせず、インドへ
モルガン・スタンレーでの星氏の仕事は、M&Aの実行(エグゼキューション)だった。クライアント企業の企業価値を最大化する戦略の1つとして、買収や売却を行う。ターゲットを決め、価値を分析し、交渉し、契約書に落とし込んで実行する。楠木氏は、M&Aはクライアントにとって日常業務ではなく専門知識が要るため、その一部を投資銀行に発注するのだと整理し、「現代資本主義の最も知的に高度な仕事」に見えると評した。
星氏は投資銀行業務を「天職だと思うぐらい好きだった」と振り返る。そう言える理由として挙げたのは、学生時代にキャリアを深く考えたことだ。星氏は大学院を出てから就職している。学部時代は就職活動をしなかった。周りが動き始めた頃、やりたいことがまだ見つかっていなかったからだという。
当時の花形は広告代理店や商社だった。周りの同調圧力に流され、「行けるから受ける」という選び方をするのは自分の人生として正しくないと星氏は考えた。そこで世界をバックパックで回り、最終的にインドにたどり着く。そこで、仕事は人生で最も時間を使うものだから、好きなことをやらなければ結果も出ないし苦しくなる、と考えて「好きなことをやる」と決めた。
帰国後、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスのインターンシップに参加し、机上の空論ではなく実際にやってみて「これは面白い」と確かめてから就職した。そのため入社後のギャップはほとんどなかったという。大変ではあったが、苦しいと思ったことはないと語る。
大学院では会計やファイナンスを学んだ。ただ、本人いわく「あまり真面目な学生ではなかった」。授業よりも、投資ファンドのようなところで長くインターンをしていたという。
M&Aは「ビジネスの総合格闘技」
M&Aの醍醐味として星氏が最も大きいと語ったのは、クライアント企業にとって数少ない重要な意思決定を一緒に支え、実行することだった。事業はもちろん、財務、法務、税務など、ビジネスに関わることを理解したうえで1件ずつ進める。星氏はこれを「ビジネスの総合格闘技」と呼び、知的好奇心が満たされる仕事だったと話す。
短期間で難しい案件をこなす大変さはある。だがクライアントから「君がいてくれてよかった」と感謝される。やりがいのあることをしながら感謝もされるので、「いいことしかない」と思いながら働いていたという。
楠木氏は、M&Aが工場への設備投資などと違い、短い時間に勝負が凝縮されることを指摘した。そのぶん会社側の緊張感も高くなる。
12年目の転身:娘の誕生と、日本の社会課題
それほど好きだった仕事を、なぜ12年で辞めたのか。星氏はまず、モルガン・スタンレーに不満があって辞めたわけではないと前置きした。もう一度キャリアをやり直せるなら、またモルガン・スタンレーに入りたいほど今でも好きな会社だという。
きっかけは娘が生まれたことだった。投資銀行では、案件の規模も社会への影響も大きな仕事ができていた。それでも最終的に意思決定するのはクライアントであり、自分はあくまでサポーターにすぎない、と星氏は考えた。娘が生まれたとき、経済的な規模だけでなく、日本社会に本当に貢献する仕事を考えるべきではないかと思ったという。
娘が生まれたのは、ニューヨークに赴任していた時期だった。ニューヨークのオフィスでは上司が3人いて、3人とも女性だった。一方、当時の日本では保育所の待機児童問題が話題になっており、女性がキャリアを続けるうえでの負担が大きい時期だったと星氏は振り返る。
「フェアな社会を作りたいタイプ」だという星氏は、生まれた場所や性別で不公平な状況に置かれる社会を娘に残すべきではないと考えた。娘も含めて誰もがフェアでフラットな社会を作るために、日本の大きな社会課題の解決に少しでも貢献したい。星氏はこれを「エモい理由」と呼んだ。
足し算ではなく掛け算のキャリア
星氏は、エモい理由だけでなく、キャリアとしての合理的な理由もあったと言う。12年勤めると、成長はしていても成長曲線は徐々に寝てくるし、新しい学びも減ってくる。
同じ会社で直線的に積み上げていく「足し算」のキャリアもある。だが、1つの業界でトップ10%に入るのは非常に難しい。そこからトップ1%に上がるのはさらに難しい。そこで星氏は、キャリアを掛け算で考えることにした。ある分野でトップ10%になり、別の分野でもトップ10%の成果を出せれば、10%×10%で1%になれる。もう1つ掛け算ができれば0.1%になる。楠木氏の専門である競争戦略の差別化を、キャリアにも当てはめた考え方だと星氏は説明した。
具体的には、軸足は財務に置いたまま、2つの軸で自分の位置を考えた。大企業かスタートアップか、プレイヤーかアドバイザーか、である。それまでは大企業のアドバイザーをやってきたので、次はその対極にあるスタートアップのプレイヤーをやってみる。振れ幅が大きいほど、2つの引き出しを持つことで経営がより立体的に見えるはずだと考えたという。
楠木氏はこれを「本当のピボット」だと評した。ピボットとは、軸足はそのままに、もう片方の足を別の場所に置くことだ。楠木氏が嫌うのは、軸足もないのに次々とジャンプしてふらふらしているだけの「ピボット」であり、星氏の場合は財務の能力がはっきり軸足になっている、と述べた。
「ふかふかのソファ」を捨てる
移った先がユニファだった。星氏の説明によれば、従来型の保育施設では書類業務が多く、保育者が本来やりたい「子どもを育てる」以外の負担が大きい。そのため子どもに向き合う時間が少なく、やりがいを保ちにくい。ユニファは、機械やDXに任せられるところは任せ、保育者が子どもと触れ合う時間を生み出せるよう、システムを含めて効率化するサービスを提供している。楠木氏は「スマート保育園」と表現した。
30代半ばで、上場大企業のクロスボーダーM&Aという「ギンギラギンの世界」からスマート保育園のスタートアップへ。周囲は驚いたのではないか、と楠木氏が尋ねると、星氏は社内だけでなくクライアントからも多くのコメントを受けたと答えた。特に印象に残っているのは、ある商社のクライアントの言葉だという。「星さん、なんでそんなふかふかのソファを捨てて、わざわざ名もなきスタートアップに行くんですか。考え直した方がいいですよ」と、本当に真顔で助言されたそうだ。
楠木氏は、スタートアップへの転職そのものが良いと言いたいわけではないと断ったうえで、星氏にはセンスの表れを感じると話した。それは、ずっと自己客観視をしていることだ。楠木氏の見るところ、うまくいって勢いのある人は途中で自己陶酔が入りやすい。それが進むと全能感になる。本当に全能な人など存在せず、本人がそう感じているだけだ。楠木氏は、そのあたりから仕事が弱くなっていく人を多く見てきたという。
学部卒業時に「ちょっと待てよ、インドに行こう」と立ち止まったのも、12年目の判断も、一度自分を客観視して考え直すという点で共通している。楠木氏はこれをキャリア上の大きな判断のセンスと捉え、「特殊だ」と評した。
ユニファで直面した本当の挑戦
スタートアップのCFOの仕事は、資金調達が中心になる。星氏はユニファで約100億円の資金調達をけん引した(説明欄による)。ただ、投資銀行時代はM&A部門にいたため、資金調達を直接担当していたわけではない。投資銀行出身者がスタートアップのCFOになる例は多いので同じ仕事に見られがちだが、そもそも違う仕事をしていたと星氏は言う。さらに、キャッシュフローが安定した大企業のファイナンスと、未来に賭けるスタートアップのファイナンスはまったく別物であり、そこにも挑戦はあったと振り返る。
それでも、星氏にとって最も大変だったのは財務そのものではなかった。CFOとしてではなく経営者の1人として入ったつもりだったので、経営を事業・財務・組織に分けたとき、事業面で付加価値を出せないか、組織面で採用やリテンションに取り組めないかを考えた。財務は本質的に共通言語が同じだが、事業と組織をしっかりマネージすることが最もチャレンジングだったという。楠木氏は、それこそがユニファを選んだ理由でもあったはずだと応じた。
楠木氏はここで、センスは選択とその基準に表れると改めて述べた。どちらが世の中にすごいと思われるか、どちらの規模が大きいか。人はそうした自分の外にある基準に頼りがちで、そのほうが楽でもある。自分の頭と言葉で基準を作り、そのうえで選ぶことが大切だというのが楠木氏の見方である。
独立と、これからの「絞り込み」
ユニファで事業が立ち上がり、資金調達もできたことで、自分の役割は一段落したと星氏は判断した。その後は独立に近い立場で幅広い企業を支援している。ただし、自分の立場を明確に言語化して決めすぎないようにしているという。
星氏は、キャリアを点ではなく線、つまり1つのストーリーとして考えることが大事だと話す。財務を深く掘った12年間があり、スタートアップを経営した6年間があり、今は大企業もスタートアップもNPOもファンドも見ている。その結果、企業経営がより立体的に見えるようになった。このまま続けるのも一案だが、経験を生かして再び絞り込む可能性もあるという。
独立して仕事を待つ立場に不安はなかったか、と楠木氏が尋ねると、星氏は「なかったと言えば嘘になる」と答えた。ただ、ある上場企業への支援はユニファ在籍中の数年目から継続していたので、仕事がまったくなくなるわけではなかったという。今後については、1つに絞るかどうかは分からないが、軸足をもう少し定めることを、この数年のうちに真剣に考えたいと話した。
楠木氏は、自分はむしろ1つの世界で足し算を続けるタイプだと明かした。成長曲線は必ず鈍化するが、積み重ねた資産があるので楽だという。今は「ぬるま湯だ」と開き直っているが、それも自分の基準で生きているつもりだと語った。
名前で指名される理由:コミットメント、忖度しない、熱い
楠木氏から見ると、星氏は「星さん」という名前で頼られ、声がかかっている。財務のスキルを持つ人は大勢いるのに、なぜ星氏なのか。
星氏は、深く仕事をした人たちから受けたコメントとして3点を挙げた。1つ目はコミットメント。常にフルコミット、フルスイングで全力を尽くすこと。2つ目は、良い意味でまったく忖度しないこと。クライアントであれ目上の人であれ、自分の意見をはっきり言う。3つ目は、本人が恥ずかしがりながら挙げた「熱い」ということだ。見た目や経歴からはドライでクールに見えるが、中身は違うという評価を受けたという。
楠木氏はこれを受けて、自分にとってしっくりくる言葉で言えばセンスとは「芸風」だと述べた。専門的なスキルがどんどんAIに外部化され、AIを使いこなせればスキルを自分で持つ必要がなくなる。そうなると、最終的には名前で必要とされることがプロの最も重要な条件になる。「それはわかっているけれど、星さんにお願いします」と言われるのがプロの世界だ。だからこそ、やることは変わっても1つの芸風に殉じる覚悟が大切だと楠木氏は語った。
社会性と経済性の「アンド」
ヘラルボニーやNPOが支援先に入っていることについて、楠木氏は、ユニファを選んだときの「エモい」基準もはっきり入っていると指摘した。
星氏は、社会性と経済性の両立が口で言うほど簡単ではないことを前提にしつつ、一度しかない人生なら「アンド」を目指したいと語る。長期と短期、成長と還元といったトレードオフの構図は分かりやすい。だが自分はそこで両立を狙うことに力を注いでいるという。ヘラルボニーもPIVOTも社会的意義の強い事業だと考えており、社会的意義と経済性の両立を非常に重視しているそうだ。
楠木氏は、「オア」か「アンド」かは考え方の問題で、どちらが常に正しいわけではないとした。そのうえで、アンドを狙う場合にセンスを感じるのは、両方を同時に取りに行くのではなく、順序立ててつなげるやり方だという。きちんとお金が回る過程で社会的な貢献が生まれ、その貢献が理解されるとさらにお金が集まる。そうした好循環を作ることがセンスであり、ヘラルボニーは今のところその方向に進んでいる、と楠木氏は評した。
専門家ではなく「総合格闘家」
星氏は肩書に「財務」が付くことが多い。しかし本人は、経営において事業と財務は表裏一体だと考えており、財務だけをやることに本質的な価値はあまりないと話す。財務を起点にしつつ、どの企業でも事業側に関わっている。肩書は各社が決めたもので、財務にこだわっているわけではない。自分の仕事は企業価値の最大化を支援することなので、極端な話、採用の支援をすることも多いという。
楠木氏は、自分が考えるセンスのあるプロのイメージを「軸足(芸風)はあるが、専門家ではない」と表現した。専門へ専門へと進むと「スキルトラップ」にはまる。あくまで総合格闘家、MMA(総合格闘技)のような存在だという。
これに対して星氏は、投資銀行時代は本当の意味でMMAだったとは言えないと答えた。自分でビジネスをマネージしたことがなく、プロフェッショナルファームなので組織を本質的にマネージしたこともない。いわばボクシングでは強いが、実際のビジネスに出るといきなりキックされることもある。それも、新しい挑戦をした理由の1つだったという。
看板を下ろして確かめる:「リスクを取らないリスク」
星氏は、もう1つの動機も語った。投資銀行時代には良い案件に恵まれたが、それがフェアに自分の実力かと問われれば、そうとは言い切れないと感じていた。もちろん頑張ったし、ベストは尽くした。だが取締役会に出られるのはモルガン・スタンレーの看板があるからで、その看板が消えたときに同じ価値があるかはまったく別の問題だと考えた。
組織の時代から個人の時代へ移る中で、プロとして、ビジネスパーソンとして価値があるのは、会社の所属という枕詞ではなく、名前で仕事をもらえるかどうかだと星氏は言う。看板をうまくレバレッジすることにも良い面はあり、使えるものは使えばいい。それでも、自分はかなり下駄を履かせてもらっているのではないかと感じたため、30代半ばで一度看板を下ろし、自分がどこまでやれるか確かめようとした。
周囲には非合理に見えただろうと星氏は認める。しかし、短期の非合理は長期の合理につながる可能性があり、そこがアルファ(超過リターン)を生む勝負だと考えている。短期的には給料が下がり、未経験のことに汗と血と涙を流す必要がある。それでも、その努力は中長期的に実を結ぶかもしれない。星氏は、モルガン・スタンレーでの12年を終えた時点に戻ったとしても、たぶん同じように違うことに挑戦しただろうと話した。
そこで星氏が意識している言葉が「リスクを取らないリスク」である。日本人はリスクという言葉を嫌うし、リスクが好きな人はいない。だが、リスクを取らないことにもリスクはある。両方を天秤にかけたうえで、自分から能動的に動き、自分の頭で考え、自分で意思決定していかなければならないと思った、と星氏は語った。
楠木氏が、端からはリスクを背負い込んでいるように見えても本人はあまりリスクだと思っていないということか、と確認すると、星氏はそうだと答えた。さらに、リスクを減らすやり方もあると補足した。辞めるときには「12年頑張ったのだから、本当に向いていなければ戻ればいい。それなりの仕事は最低限できるはずだ」と考えたという。そう考えれば、それは本当のリスクとは言えない。むしろ、成長曲線が寝ていく中でその会社でしか生きられない人材になるよりも、好きな仕事を好きな人とできる状況を作るほうがいいと考えた、と星氏は説明した。
営業しない、ドライバーズシートに座る
楠木氏は、20年近く年の離れた星氏に、自分の年齢になる頃にどんな姿になっていたいかを尋ねた。
星氏は、職業を決めすぎないようにしていると答えた。外部環境がこれだけ変わり、人間も変わる。20代の頃は今のような個人のキャリアを1ミリも考えておらず、モルガン・スタンレーで行けるところまで行こうと思っていた。それでも今は、現在の状態のほうが心地よいという。
だから確定的な目標は置かない。そのかわり、自分が常にドライバーズシートに座り、自分でコントロールできる状態を保つことを重視している。そのときにスタートアップをやりたくなればやればいいし、疲れて引退したくなれば引退すればいい。仕事が自分にとってどういう位置づけで、何があれば人生の満足感が最も上がるかを逆算して考えていくはずだ、と星氏は話す。楠木氏はこれを、好きな道を自分で運転し、助手席には好きな人が座っている状態だとまとめた。
星氏は、今の立場の良いところは、一緒に仕事をする相手をある意味で選べることだとも語った。独立時の不安の話に関連して、星氏は自分からは営業を一切せず、「仕事が欲しい」とは決して言わないと明かした。普通に接してもらったり、間接的に仕事を一緒にしたりする中で、価値がある、あるいは「こいつとなら経営という難しいものを一緒にやっていい」と思ってもらえたら声をかけてもらえばいい。自分を作り込んで「僕の強みはこれです」と売り込むと、お互いに苦しくなる。だからなるべく自然体でいたいという。
楠木氏は、名前で受ける仕事は営業が効かない仕事だと応じた。営業熱心なゴルゴ13はいない。「ビッグベンの12時に13回鐘を鳴らせ、そうしたら行く」というのが理想だ、と冗談を交えて語った。
最後に楠木氏は、頭が良く、スキルがあり、やる気もあり、M&Aという華やかな世界にいた星氏のような人の歩みは、これからのプロの生き方を考える1つのモデルになるとして対談を締めくくった。
最初のお仕事はモルガン・スタンレーの投資銀行の部門でお仕事をなさってたっていうことなんですよね。なんでお辞めになることになったんですか?
キャリアを掛け算的に考えた方がいいんじゃないか。つまり、1つの引き出しにおいて10%になれたとした場合に、また違う業界で10%っていう成果を出せれば、10%×10%なんで1%になれると。
周りの人は「あれ?」っていうふうに思った人がモルガン・スタンレーの中には多かったんじゃないですか。
商社のクライアントに、「星さん、なんでそんなふかふかのソファーを捨てて、わざわざ名もなきスタートアップに行くんですか? 考え直した方がいいですよ」っていう、本当に真顔でアドバイスを頂戴しました。
私、よく意識してる言葉に、リスクを取らないリスクも存在してるかなっていうふうには思ってるので、そこをちゃんと天秤にかけた上で、自分からプロアクティブに動いて、自分の頭で考えて、自分で意思決定をしていかなくちゃいけないかなと思ったのはあるかもしれないですね。
なるほど。皆様、お待たせいたしました。お待たせしすぎたかもしれません。「楠木の仕事で出会ったすごい人」の時間でございます。
初めに、なんでこういう番組のシリーズをやっているのかという、僕の動機について2つお話しさせてください。1つは、仕事で出会ったすごい人の「すごい」ってどういうことかっていう、僕の考えでは、あれができるとか、これができるって言ってるうちは、まだまだ素人だなと。何かができる、そういうスキルがある人は世の中、掃いて捨てるほどいるわけで、僕がすごいって言ってんのは、スキルを超えたセンス。それは例えば言動が一致してるとか、この人だからこういうことなんだよなっていうスタイルがあって、それが仕事の上でもその方の価値になってるような、こういう状態をすごいと言ってるんです。
2つ目に、なぜ今すごい人を見る意味があるのかっていう、その理由なんですけれども、これだけ生活でも仕事でもAIが使われる時代になってまいりまして、技術っていうのはAIに限らず何でもそうなんですけれども、それまで人間がやっていたことを外部化するっていう、これが技術の本質なんですね。ですからAIを使うと、例えば今まで人間が語学のスキルがあって、英語ペラペラですよ。労働市場で10年前はもうちょっと価値があったのかもしれませんけど、今そういうスキルがAIに外部化されて、誰でも同時通訳で自分の母国語でコミュニケーションできる、そういう時代が近づいてきました。
つまり、スキルを持っている必要性というのが相対的に低下していくと。AIの登場によって僕は、スキルのデフレとセンスのインフレっていうのが起きてると思うんですね。スキルを超えたところにセンスがありまして、それは判断、選択。仕事にしても生活にしても大小様々な判断と選択の連続なんですけれども、その選択と、その背後にある基準の持ちようがセンス。ただし、スキルであれば教科書とか学校とか研修、開発する定型的な方法論があるんですけれども、センスは自分で磨いていくしかない。定型的な方法がない。多分一番有効なのは、センスがある人、センスは千差万別なんですけどね。センスがある人を見てみるっていうのが、いい意味があるんじゃないかなということで、この「仕事で出会ったすごい人」をやってるわけです。
今回のゲストは星さんにお越しいただきました。
よろしくお願いします。
ありがとうございます。ちょっと簡単に、今どんなことなさってるのかっていう自己紹介をしていただけますか?
今で申し上げると4つの帽子がありまして、1つは上場会社の財務戦略アドバイザーという形で、例えばコクヨさんであったり、博報堂さんであったり、そういった企業さんのアドバイスを差し上げてるのが1点ですね。
2つ目が未上場企業のアドバイザーっていうところで、実はこのPIVOTの社外取締役もやらせていただいてるんですけれども、他には障害者のアートをIP化して販売するようなヘラルボニーさんであったりとか、会計、ファイナンス人材を増やす活動をしているCPAエクセレントパートナーズ。あとはAIで言えば、松尾先生が最近立ち上げられたサードインテリジェンスみたいな形のスタートアップをご支援してるっていうのが2つ目です。
3つ目が、こちらは独立系の日本のプライベートエクイティファンドの経営アドバイザーっていうのをやらせていただいていて、4つ目は、あるNPOの代表理事っていうところをやらせていただいています。前半の1つ目と2つ目がメインでやらせていただいている形です。
なるほど。その辺は要するに財務の視点からのアドバイザーっていうことで。それもそのはず、最初の仕事はモルガン・スタンレーの投資銀行の部門でお仕事をなさってたっていうことなんですよね。どんなお仕事してらっしゃったんですか?
私は投資銀行部門でM&Aのチームにいたので、基本的には企業の買収だったり売却のところを、エグゼキューションというか、実際に実行する部隊にいました。
投資銀行、M&A、エグゼキューション。なんとなくイメージしてると思うんですけど、もうちょっと具体的に言うと、どんなことをやる仕事なんですか?
基本的にはクライアント企業の企業価値最大化に向けた戦略的施策の1つとして、企業の買収もしくは売却っていうところがあると思うんですけれども、実際にそのターゲットを決めて、その価値を分析し、実際に交渉をして、契約書に落とし込み、エグゼキューションしていく。そんなような流れかなというふうに思いますね。
つまり、クライアントにとってはM&Aってのは毎日やってるわけじゃないですよね。それなりに専門的な知識とか技能が必要になるんで、そういうのを円滑にやるために投資銀行にお仕事を一部発注してやっていくっていう、それを受ける仕事。ですから、現代資本主義の最も知的に高度な仕事に見えるっていうか、そういうのをやってらして。しかもモルガン・スタンレーっつったら、もうその中心の1つですよね。
素晴らしい会社でした。
もう優秀な人がありとあらゆるところから集まって、しかもやる気満々で、ガンガン働くっていう。それは楽しくやってらっしゃったんですか?
そうですね。私はすごい天職だなと思うぐらい、投資銀行業務が好きだったっていう形ですね。ただ、それはやはり学生時代にキャリアを選ぶ時に割と深く考えたっていうのがありまして、私は大学院を卒業して就職してるんですけれども、大学生のいわゆる学部の時代は就職活動しなかったんですね。
そうなんですか。
しなかった。正確に言うと、皆さんがし始めてる時に、やりたいことが正直あまりまだ見つかってなかったっていうところがあって。このまま人の意見であったり、周りの同調圧力的なものに流されて、当時であれば、いわゆる広告代理店であったりとか商社であったり、そういったところが1つの花形であったと思うんですけれども、みんなそこに行けるから受けるみたいなのも、それは自分の人生として本当に正しいかと思った時、そうじゃないなと。
世界をバックパックして、私、最終的にインドにたどり着いたんですけれども、そこで、人生1回しかないんで、自分が本当に好きなことをやっていこうと。特に仕事っていうのは、人生の時間の中で正直一番時間を使うぐらいのものだと思うので、そこがやっぱり好きなことをやらないと結果も出ないだろうし、苦しくなってしまうというふうに思ったので、そこで好きなことをまずやろうって決めたんですね。
実際その後、帰国した後にインターンシップをモルガン・スタンレーだとかゴールドマン・サックスだったりとかで体験させていただいて、机上の空論だけでなく、自分がやってみて、これは多分面白いなと思って、実際に就職をしたので、あんまり実情との乖離もなく、すごい自分がやりたいことをやれていたっていうことなので、全く、大変ではあったんですが、苦しいって思いはなかったですね。
そうですか。大学院はどんなことを勉強なさったんですか?
基本的に会計系の勉強、会計だったりファイナンスの勉強でした。ただ、あまり真面目な学生ではなかったので、授業に出るというよりは、その当時もちょっとインターンみたいなのをさせていただいて、当時でいうところの投資ファンドみたいなところで、学生時代からかなり長くインターンをさせていただいて、それと勉強を両立してたような形です。
そうですか。ですから、モラトリアムでとおっしゃったんですけれども、大学院に行った後、僕も大学院に行って、その後今の研究の仕事になったんですけど、研究とは全然考えてなかったんですか?
それは考えてなかったですね。
そうですか。どこかに就職するではあろうけれども、大学の学部を卒業してすぐに電通、商社、物産ともちょっと違うかなということで。実際に入ってみて、その投資銀行のM&Aの仕事の醍醐味ってのはどんなところにあったんですか?
そうですね。やはり一番大きいのは、クライアント企業の一生に1度、もしくは、一生に1度はちょっと言いすぎかもしれませんけれども、そんなに数多くない重要な意思決定に一緒にサポートさせていただいて、それを実際に実行するっていうところは、まさに先ほどの話があった通り、M&Aはやっぱり総合格闘技みたいなところがあるかなと思ってまして、当然事業のことも分かっていなくちゃいけないですし、財務、法務、税務、その他ビジネスに類することをちゃんと理解した上で、1つ1つの案件を実行していくっていうところは、ビジネスの総合格闘技をやってるという意味ですごく好奇心が満たされる職業というかプロジェクトであって。
かつ、お客様にもすごく感謝していただける。当然すごく短期間にやらなきゃいけない、大変だっていうのもありますし、高度に難しいことをサポートしてくれて本当にありがとうと。「君がいてくれてよかったよ」っていうことを言っていただけると、自分が本当に勉強して、勉強してというか、やりがいがあることをやりつつ、お客様にも感謝していただけるっていうところで、本当にいいことしかないなと思いながら仕事をしてました。
なるほど。つまり、まずクライアントの企業にとってはM&A、色々な規模があると思いますけど、基本、大勝負。かつ、工場にガーンと設備投資してっていうのと違って、時間的にギュギュッと圧縮されてるわけですよね。うまくいくかどうか結果が出るまで。ですから、非常に会社の側としてもテンション上がるわけですよね。そんな形で、もうガンガン回ってたわけじゃないですか、お仕事が。
そうすると、よくよく考えて納得を得て投資銀行の仕事が始まって、普通だったらそのままダーンってなるっていうのが普通だと思うんですけど、何年で結局?
私、12年ですね。
12年。しかも相当評価されて。
いえ、ありがとうございます。
こっちの方もかなりいってたんじゃないかなと思うんですけど。なんでお辞めになることになったんですか?
まず大前提として、先ほど申し上げたモルガン・スタンレー自体は、私は本当に天職の仕事だと思ってましたし、もう一度キャリアがあってもモルガン・スタンレーに入りたいと思うぐらい、今でも大好きな古巣なんですね。なので、何かモルガン・スタンレーに対してネガティブなことがあって辞めたっていうわけではないんですけれども、キャリアを考えたきっかけは、娘が生まれたことっていうところです。
案件規模も大きい、社会にインパクトを与える仕事ができていたなっていうふうに思ったんですけれども、一方で、あくまでそういった案件をやってるのは、お客様が最後、意思決定されてるっていうのがことの本質だと思うんですね。当然、投資銀行のチームがサポートを差し上げていて、一緒にこの案件をやったっていうことはできるんです。本当はやってるのはお客様であって、あくまでサポーターにすぎないっていう中で、娘が生まれたタイミングで、本当に娘に誇れる仕事というのは、その経済的な規模感だけではなくて、本当に日本社会に貢献するような仕事を考えるべきなんじゃないかと思ったのが大きなきっかけです。
たまたまその時に私はニューヨークに赴任していた時に子供が生まれたんですね。当時、ニューヨークのモルガン・スタンレーに行くと、私、上司が3人いまして、ミドルイヤーで行ったんですけれども、3人とも女性だったんですね。これは日本社会にあるかと。当然なかったと。かつ、その当時は日本の保育所が待機児童問題みたいなのがあって。
その時期ですよね。
なかなか女性自体がキャリアとして色んな負担が大きい時期だったと思ったんですね。そういう社会を本当に娘に残すべきなのかと考えた場合に、私は違うだろうと。私はフェアな社会っていうのを作りたいって思うタイプなので、生まれた場所であったりとか性別であったり、そういったところで著しくアンフェアな状況に置かれるよりも、ちゃんと娘も含めて、みんながフェアでフラットな社会を作りたいと思った時に、これは日本の大きな社会課題なので、自分が少しでもその社会課題の解決に貢献できないかと思ったのが、いわゆるエモい理由です。
ただ、もちろんエモい理由だけではなくて、キャリア的な合理のところもありまして、やはり12年ずっと勤めていくと、どんどん自分も成長させていただいていく中で、でも一定程度やっぱりカーブが徐々に寝ていくとか、新しいことの学びっていうのが減ってくる中で、キャリアを考えるタイミングにはなったんですね。その時に、直線的なキャリアを足し算でやっていく。同じ会社の中でどんどん突き詰めていくっていう考え方もあると思うんです。
積み重なってはいきますよね。
っていうのもあると思うんですけれども、例えば1つの業界でトップ10%になること、すごく難しいことだと思います。その上で、またトップ1%になるって、またすごい難しいことだと思うんですね。
同じ競技ですもんね。
っていう中で、私が考えたのは、もっとキャリアを掛け算的に考えた方がいいんじゃないか。つまり、1つの引き出しにおいて10%になれたとした場合に、また違う業界で10%っていう成果を出せれば、10%×10%なんで1%になれると。もしかして、その後もう1個掛け算ができれば0.1%になるっていうことになると思うので、先生がおっしゃる競争戦略でいった場合に、差別化っていうのもキャリアにおいても一定程度考えなくちゃいけないっていうところを思うと、自分なりに独自性を持って掛け算のキャリアをしていこうと思った時に、財務っていうところでずっとプロフェッショナルとしてやってきたんですけれども、私は大企業とスタートアップ、プレイヤーとアドバイザーっていう形でいった場合に、大企業のアドバイザーっていうところをずっとやってきたので、今度は、ピボットというと先生がお好きじゃないかもしれませんけども。
いや、それは本当のピボットなんでいいんですけど。
軸足を財務っていうところに置きながら、スタートアップのプレイヤー側をやってみる。大きな変化がちゃんとできればできるほど、2つの引き出しを持って、物事、もしくは経営がより立体的に見えるというふうに思って、その意思決定をしたという形になってます。
それは本当のピボットで、ピボットってのは軸足はそのままで、もう1つの足を別のところに置くっていう、こういう行為ですよね。今ピボット、ピボットって言ってる人が嫌なのは、軸足も何にもないのに。
ジャンプしちゃってるみたいな。
次から次にフラフラしてるだけで、これどこがピボットなんだよと思ってるってことなんですけど。今、完全に財務の能力が軸足になって、ただし、今の2つの軸で言うと、一番対極的にあるところに行ってみようと。それが何だったんですか?
それがユニファというスタートアップ企業のCFOですね。
これがさっきのエモい理由とも重なって、ユニファ、スタートアップなんですけど、割と社会問題に対して正面から向き合ってる。
おっしゃる通りです。
それは、やってることをちょっと簡単に説明していただけますか?
ユニファという企業は、旧来型の保育施設はどうしても書類業務が多いような状態でして、保育者さんが本当にしたい、子供を育てるっていうこと以外の業務負担が大きくて、本当に子供に向き合う時間が少なかったりとか、本当の意味でやりがいっていうところが、なかなかキープできないような状況を、機械もしくはDXで担保できるところは、機械が得意なところをやってもらって、本当に保育者さんがやりたかったような子供と触れ合う時間をしっかり捻出できるように、システムを含めて効率化するような仕事というか、そういうサービスを提供するような会社であります。
スマート保育園を作るっていうことで、これ僕も素晴らしいご商売だなと思ったんですけど、30代半ばで、片や上場大企業のクロスボーダーM&Aみたいな、もうギンギラギンの世界じゃないですか。それからスタートアップのスマート保育園で、周りの人は「あれ?」っていうふうに思った人がモルガン・スタンレーの中に多かったんじゃないですか?
もうモルガン・スタンレーだけじゃなく、クライアントの方々にもかなりコメントは頂戴しまして、今でもすごく印象に残ってるのは、ある商社のクライアントに、「星さん、なんでそんなふかふかのソファーを捨てて、わざわざ名もなきスタートアップに行くんですか? 考え直した方がいいですよ」っていう、本当に真顔でアドバイスを頂戴しました。
そうですか。しかも、ふかふかのソファーの前にシャンパン置いてあって、そういう。
いやいや、そんなことはないですけど、素晴らしい会社であったのは間違いない。
僕がずっと星さんを横で見てて、1つのセンスの現れだなと思うんですけど、別にそういうところからスタートアップに転職するのがいいとかそういうことじゃなくて、自己客観視をずっとしてらっしゃるなと。言い方を変えると、これって何なのかなっていう、結構内省みたいなのが入ってて。やっぱり、うまくいってガンガンやってる人って、僕がちょっと危ないなと思うのは、途中で割と自己陶酔が入ってくるっていう。それがもっといくと全能感みたいになって。本当に全能の人って世の中に存在しないので、単に全能感を本人が感じてるだけなんですけど、僕、その辺から仕事が弱くなってくなっていうふうに思う人は結構いっぱいいるんですけど。
考えてみると、学部を出てどういうふうに就職しようかな、ちょっと待てよ、インド行こうっていう、これも共通してますよね。
そうですね。
僕、この一度自分を客観視して立ち止まって考えてみて、そこでやっぱりこっちなんじゃないかっていう、これも本当に大きなキャリア上の判断、センスなんですけど、それが僕は結構特殊だなと思って、いつもすごいなと思って。
ありがとうございます。
ユニファではもちろん財務で、スタートアップですから資金を調達するってお仕事がメインになるわけですよね。
メインではそうですね。
これはまた、モルガン・スタンレーみたいな大看板でやるっていうのとちょっと違ったと思うんですけど、それはどうでしたか?
全く違いましたね。そもそも投資銀行の中で私、M&A部門にいたので、資金調達の仕事をダイレクトにやってたかっていうと、そうでもないんですね。皆さん、投資銀行にいた人はスタートアップのCFOになるケースが多いので、みんな同じような仕事をやってるように思えるんですけども、そもそも違うことをやってたっていうのもありますし、当然ながら大企業でキャッシュフローが安定的な企業がファイナンスするものと、スタートアップのように今後どうなるかみたいな形で、かなり未来に賭けるみたいな仕事っていうのは全く違うことなので、その意味でファイナンスのところでも当然すごくチャレンジはあったかなと思います。
ただ本質的には、やはり企業経営っていうものを、私、CFOとして自分が入ったというよりは経営者の1人として入っていたつもりなので、財務っていうところはもちろんメインの軸だと思ってるんですけれども、経営自体を事業、財務、組織で切った場合に、事業面で何か付加価値が出せないか、もしくは組織面で、採用であったりとか、組織のリテンションであったり、そういったところもやらなくちゃいけないっていう意味で、こちら側の広がりですね。財務っていう意味でのファイナンスが大変だったというよりは、共通言語が本質的には一緒なので、事業であったり組織っていうところをしっかりマネージしなくちゃいけないっていうところが一番チャレンジングではあります。
なるほど。ただそれが、ユニファで仕事しようかなって思った、まさに理由でもあるんですよね。だから今の話で、やっぱり僕はポイントは、センスっていうのは判断に現れるんですけど、選択に現れるんですけど、その基準がね。やっぱり自分の頭で、自分の言葉でいつもその基準を作って、その上で選択してるっていうのが、僕はものすごい大切なことだと思ってて。やっぱりどうしても、こっちとこっち、どっちが世の中の人にすごいって思われるのかなとか、どっちの規模が大きいのかなとか、自分の外にある基準にどうしても引っかかりがちだと思うんですよ。そっちの方が楽なのもありますし。
そういうことが僕は大切だなと思ってるんですけど、しばらくユニファでお仕事なさって、実際に事業も立ち上がって資金も調達できて、ご自身の役割としては一段落っていうことで。その次が今の状況ですから、その当時はモルガン・スタンレーからユニファへの転職だったんですけど、今回は転職というよりかフリー。
そうですね。明確に言語化して自分の立場を決めすぎないようにはしてるんですけれども、実質的にはちょっと独立的な位置づけになっているのと、あとは、とはいえ、これをずっと、今、幅広い企業をサポート差し上げてるんですが、またもっと絞っていく可能性が低いわけでもないんですね。結局、キャリアを点で考えるんじゃなくて、1つのストーリーというか線で考えるのが大事な時に、深く財務っていうところを掘り込んだ12年間があって、スタートアップの経営をさせていただいた6年間があって、今は大企業もスタートアップもNPOもファンドも、幅広く見させていただいてるっていう形の中で、企業経営がより立体的に見えてきている中で、このままキープするのももちろん一案かもしれませんけれども、一方でこの経験であったり、そこをしっかり生かして、また絞り込んでいく可能性もあるかなっていうふうには。
なるほど。そのうちPIVOTは社外取締役、スタートアップですよね。コクヨは財務アドバイザー。
財務戦略アドバイザーっていう呼称を頂戴してます。
かなり成熟した業界で歴史があって、規模も大きいし、グローバルにやっててっていう、そういうところもあれば、ファンドはまさに財務っていうところで投資。これ本当に幅広いんですけど、結局、今、独立してやってらっしゃるわけで、そういう仕事って僕もちょっと似てるんですけど、注文が来ないと始まらないじゃないですか。これは不安とかありませんでした?
そうですね。なかったと言えば嘘になるんですけれども、例えばコクヨさんのご支援みたいなところも、ユニファに入らせていただいて数年経った後から継続的にやっていたところもあったので、全くなくなるわけではなかったっていうのはあるかもしれないですね。
そうですか。どうですか、今そういう自由なお立場で4つの帽子をかぶって、だんだんまたそういう仕事のスタイルっていうのもできてくると思うんですけど、今の予感としては、これはどうかなってまたどこかで考えて、それを1つの帽子に絞るとか、また全然違うところに、いわゆる1つのピボットするとか、そういう予感ってあります?
そうですね。できればもう少しまた収斂させるようなことは考えておりまして、1つだけにするかどうかというと、そうではないかもしれないんですけれども、もう少し主たるところの軸足を決めていくのは、この数年ぐらいでは真剣に考えようかなという。
そうですか。僕は、さっきお話があった、ずっと足し算でいくっていう、掛け算じゃなくて、1つの世界でっていう、僕は割とそっちの方なんですよ。足し算系で。確かに成長曲線って絶対鈍化するんですけど、楽なんですよ、僕は。結局、なんだかんだ言って積み重ねてくるんで、それなりにアセットができてくるじゃないですか。その蓄積があるんで楽だなっていう方で、今すっかり「俺を見ろ、ぬるま湯だ」みたいな生き方をしてるんですけど。それじゃないと、僕も自分の基準で生きていこうと思ってる方なんですけどね。これ、なかなかすごいなと思うんですけどね。
ありがとうございます。
今は要するに、いろんなところから引き合いがあって、僕は星さんを客観的に見てるんで、本当にご自身の星さんっていう名前で頼りにされてる、選ばれてる、声がかかる。ただ一方で、財務的なこととかキャリアにしても、そういうスキルがある人っていっぱい世の中にいるじゃないですか。なかなかご自身では分からないかもしれませんけど、なんで「星さんにお願いします」って声がかかるんだと思います?
かなり深くお仕事した人にコメントいただいたところで言うと、一応3つポイントを頂戴していたんですけど、まず1つ目はコミットメントだと。もう仕事に対してフルコミットメントで、フルスイングで、常に全力でやってくれるっていうところをご評価いただいてたのと。2つ目が、いい意味で忖度を全くしないと。ちゃんと自分の意見を持って、それがクライアントであろうが目上の人であろうが、ちゃんと自分はこう思うのっていうところを、まずバッとかなり言ってくると。そこは良かったっていうことを言っていただいたのと。
3つ目は、これちょっとお恥ずかしいんですけど、割と熱いと。一見であったりとか、そのキャリアを見ると、ドライ系と言ったらあれかもしれないです、クールな感じに見えるけれども、中身は全然違うというところの、熱いところの人間みたいなところに評価があるんじゃないかってコメントを頂戴したので、確かにそういう側面はあるのかなっていうふうに思います。
なるほどね。それ、よく分かります。僕は自分にとってしっくりくる言葉は、やっぱりセンスって芸風なんですよ。本当にスキルがある人がいっぱいいる。さらに今、専門的なスキルっていうのがどんどんAIに外部化されてるんで、AIさえうまく使いこなせれば、自分でそのスキルを持ってる必要がないっていうふうになってきた時に、最終的にはバイネームで必要とされるっていうのが、プロの一番重要な条件だと思うんですね。だから、それが冒頭で申し上げた、あれができる、これができるって言ってるうちはまだまだだっていう。それは分かってんだけど、「星さんにお願いします」ってくるのが、やっぱりプロの世界だと思ってて。
それはやっぱり芸風で、だから逆に言うと、僕はプロの条件っていうのは、やってることは色々と変わっても、その1つの芸風と心中するっていう、その覚悟っていうのが結構大切なんじゃないかなと思って。だから今、星さんのかなり目まぐるしいキャリアチェンジを見ても、そういうことが言えるんじゃないかなと思うんですけど。ただ、ヘラルボニーとか、ああいうのがちょいちょい、NPOとか入ってるってことは、ユニファにお移りになった時の、こういう世の中がいいと思ってるんだっていう、こっちの基準、エモい方も結構入ってますよね。
もちろんですね。当然、社会性と経済性の両立っていうのは、口で言うほど簡単なものではないっていうのは大前提だと思うんですが、私は1回しかない人生だったらANDを目指したいと思ってるんですね。長期と短期、成長と配当、配当というか還元みたいな、対立を作ることっていうのは、ある意味において1つ分かりやすい構図ではあると思うんですけれども、私はやっぱりそこ、ANDを狙ってみたいっていうところに割と注力してるので、例えばヘラルボニーでもそうだと思いますし、PIVOTも社会的意義がすごい強い企業だと思ってるんですが、社会的な意義と経済性を両立するっていうところを非常に重視はしてます。
なるほど。だからこれも僕は、センスがすごく出るところ。そのORなのかANDなのか。これはどっちもありっていうか、その人のまさに考え方で、どちらが常に正しいってことはないと思うんですけど、そのANDの方で行く時に、やっぱり僕はこういう時にセンスあるなと思わされるのは、単に両方とも同時に取りに行くんじゃなくて、例えばきちんとお金が回るようにする、その過程でそのことが社会的な貢献をきちんと作り、社会的な貢献をみんなが分かってくると、ますますお金も集まるとか。要するに、縦に直して、そこにいい流れを作っていくみたいなのが、僕はやっぱりセンスだと思うんですけど、ヘラルボニーなんていうのは、そっちの方向に今のところは進めてますよね。
そうだと思います。
だから、単に財務とか資金調達じゃなくて、ヘラルボニーは事業自体にも結構関わってるんですか?
その意味では、全般的に一応財務っていう言葉がついてることが多いと思ってるんですが、基本的に経営って事業と財務って一体だと思ってるので、財務だけやってるみたいなものっていうのは、本質的な価値は私、あんまりないかなというふうに思っていて。グラデーションではあると思います。ただ、白黒はっきりはしてないっていうところで言うと、財務を起点としつつ事業側にもしっかり携わることは、どの企業でもやらせていただいてるので、呼称はその会社さんに決めていただいてるんで、私が何か財務っていう言葉にこだわってるわけではないんですけど、やっぱり企業価値を最大化する、そのサポートをするっていうのが私の仕事だと思ってるので、極端な話、採用のご支援みたいなこともすることも多々ありますね。
なるほど。僕が持ってるセンスがあるプロのイメージっていうのは、軸足はあると。芸風があると。ところが専門家ではないっていう。なんでかっていうと、専門家へ専門家へと行くと、さっきのスキルトラップにはまっちゃうんで。あくまでも総合芸術家、基本MMAみたいな。モルガン・スタンレーのM&Aの仕事はMMA系だったと思うんですけど。
それでもやっぱりMMAだったかというと、ボクシングの世界チャンピオンというか、本当の意味でビジネスを自分がマネージしたことがない、もしくはプロフェッショナルファームなので、組織っていうものをマネージしたことが本質的にはないって言った場合に、ボクシングっていう競技だとすごく強いんですけど、実際のビジネスに出るといきなりキックされたりもするっていう意味では、そこもあったので。
そういうの、パンチが。
その投資銀行っていうところから、1つ新しいチャレンジをしてみたっていうのはありますね。あと、先生が先ほどおっしゃってたところで、やっぱり私自身が自分を客観視して感じてたのは、すごくいい案件にも巡り合わせていただいて、これはフェアに私の実力かっていうと、そうは言い切れないなってやっぱり思ったんで。私ももちろん頑張ったつもりです。ベストを尽くしました。でも、これはモルガンの人だから取締役会に出られるっていうものであって、このモルガン・スタンレーのっていうのが消えた瞬間に、そんな価値があるかっていうのは全然別の問題だっていうふうに思ったんですね。
世の中が、会社、組織の時代から個の時代にどんどん移る中で、本当のプロフェッショナルとして、もしくはビジネスパーソンとして価値があるというのは、その枕言葉というか会社の所属ではなくて、まさにバイネームで仕事がもらえるかどうかだと。そう考えた場合に、モルガン・スタンレーに居続ける限りにおいては、私はその看板をうまくレバレッジしてるとも言えるので、いいところも当然あると思うんです。
それは使えるものとしては使った方がいいもの。
本当の自分よりも、もしかするとかなり底上げされてるんじゃないかっていうのは思ったので、30代半ばで一旦その看板を下ろして、自分がどこまでやれるか、ちゃんと確かめてみようと。これは一見、皆さんにも言っていただいて、非合理的に見えると思うんですが、やっぱり短期の非合理は長期の合理につながる可能性が私はあると思っていて、そこが一種のアルファを生む勝負なので。
やっぱり短期的には、例えばお給料面であったりとか、自分が全然やったことがないことをやるので、汗、血、涙を流さなくちゃいけないことはあると思うんですけれども、その努力があったから、中長期的にはそれがちゃんと実を結ぶことがあるかなと思っていくっていう意味においては、私はやっぱり今、12年間モルガン・スタンレーにいて、6年前に戻ったとしても、多分同じような、違うことをやるっていうことをチャレンジしたっていうふうには思いますね。
なので私、よく意識してる言葉に、やっぱり日本って、日本人ってリスクって言葉をすごく嫌うと思うんですが。
その通りだと思います。
リスクが好きな人はいないと思うんですけども、リスクを取らないリスクも存在してるかなっていうふうには思ってるので、そこをちゃんと天秤にかけた上で、自分からプロアクティブに動いて、自分の頭で考えて、自分で意思決定をしていかなくちゃいけないかなと思ったのはあるかもしれないですね。
なるほど。今のお話ですと、傍から見てるとリスクを背負い込んでるように見えるんだけれども、本人はあんまりリスクだと思ってないっていう。
そうですね。
そういうことなんですよね。
かつ、そのリスクっていうところも、一種ヘッジするようなやり方っていうのは本質的にあるかなと思ってまして。例えば、それこそモルガン・スタンレーを辞める時に、なんで辞めるんだって。最悪、1、2年頑張ってみて、本当に全く向いてなかったら戻ればいいじゃないかってあると思うんですね。そこまでやってきたので、それなりの最低限の仕事はできるはずだとすると、そのリスクって本当のリスクだと、あんまりリスクじゃない。
よっぽど、そこでラーニングカーブがどんどん寝ていく中で、その会社でしか生きられない人材になるよりも、常に自分が好きなことを、好きな仕事をできて、好きな人と働ける状況を作り出した方が、私はいいんじゃないかと思ったっていうことです。
なるほどね。誰と一緒に仕事するのかっていうのも非常に重要なことですよね。
おっしゃる通りです。
僕と星さん、20年近く年が離れてると思うんですけど、僕、今年62なんですけど、その頃どんな感じになってるか、なかなか想像つかないと思いますけど、こんなふうに仕上がってたらなっていうのは今の時点であります?
そうですね。私、やっぱり好きなことを好きな人とすることがすごく重要かなっていうふうに思っているので、何か例えば、自分が企業経営でこれをしていたいとか、そういうことを決めすぎるのは、世の中これだけ外部的な環境も変わってる中で、あんまりいいと思ってないんです。人間はやっぱり変わりますし、私が20代だった時に今のような個人のキャリアみたいなところを考えたかというと、1ミリも考えてなくて。
そうですよね。
当然、本当それこそモルガン・スタンレーが大好きだったんで、モルガンで行けるところまで行こうと思ってたと。
でも今この瞬間になると、今この状態の方がコンフォタブルではあるのは事実なので、あまり確定的な、この職業をしていきたいというものは決めすぎず、ただ自分側に常にコントロールというか、ドライビングシートにちゃんと座って、自分がコントロールできるようになるっていうのは、私はすごく重要かなと思うので。その時もしすごい働きたい、スタートアップをやりたいと思ったらやっていればいいと思いますし、一方でもうちょっと疲れたから引退してたいなと思ったら、引退すれば。
なるほど。
自分にとって仕事っていうものがどういう位置づけで、何がどういうふうだったら一番自分の人生の満足感が上がるかっていうことを逆算的に考えていくと思うので。ちょっとお答えになってるか分からないんですけれども、あまり確定的に決めるというよりは、本当に日々楽しく、ちゃんと付加価値を出して、お仕事できていればいいかなっていうふうに思ってますね。
好きな人と好きなことを。で、自分がドライバーシートに座って、いろんな判断はあったとしても、その時に自分が好きな道を運転して。で、横には好きな人が座ってるっていう、こういう状態は大切だっていうことですよね。
こういう立場になる前に、楠木先生からまさにアドバイスを個人的にも頂戴しましたけども、こういう職業の一番いいところは、まさに仕事をする人を、ある意味選べる。選べると言うとちょっとおこがましいかもしれませんけれども、っていうところもあると思うので。先ほど、仕事なくて不安にならないかみたいなお話あったんですけど、私、自分から営業一切しないんですね。
仕事欲しいとは絶対言わないと。だから、これで営業しちゃったら面白いですね。
普通に一緒に接していただいて、もしくは何らかのお仕事を間接的に一緒にやらせていただいて、それで私に価値があると思ったら、もしくはパーソナリティとして、こいつだったら一緒に経営っていうすごい難しいものを一緒にやっていいと思ったら、一緒に働いていただければいいかなっていうふうに思ってるので。自分を作って、もしくは売り込み、僕の強みはこれですみたいな感じで持っていくかっていうと、あんまりそれをしてしまうと、お互い苦しくなってしまうかなっていうふうに思うので、なるべく自然体で生きようかなと思ってますね。
だから自分の名前でやる仕事っていうのは、絶対に営業が効かない仕事だと思うんですよ。だから、営業熱心なゴルゴ13っていないですよね。
おっしゃる通りですね。
ビッグベンの12時に13回鳴らせみたいな。そうしたら行くよみたいな感じが、理想なんですけどね。
そうですか。本当に僕は若くして立派な人だなと思ってるんですけれども。僕は、プロフェッショナルになろうという時に、これを見てる若い方、頭いい、スキルある、やる気ある、キラキラしてる、M&A、もうね、全部あったような人なんですけれども。星さんみたいな人を見ると、これからのプロの生き方はどうなのかなっていう、一つのモデルとして。
ありがとうございます。
センスの一端に触れていただけたのではないかなと思いました。本日はどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
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