正解を探す日本人、最適解をつくるインド人:方向性と制約条件、失敗の分類、そして「やめる」決断

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概要

IGPIグループ共同経営者の坂田幸樹は、インド人の同僚シヴァジ・ダスと共著で『正解を探す日本人、最適解をつくるインド人』を出した。このインタビューの中心的な問いは、日本人とインド人の仕事の進め方はどこが違い、日本の組織はインド式から何を取り入れられるかである。坂田の答えは、インド式の「まずやってみる」をそのまま現場に任せるのではなく、リーダーが方向性と制約条件を決めたうえで実行させ、さらに始めたことをやめる決断もリーダーが担う、というものだ。

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本を書いた動機:ステレオタイプのインド人像との違い

坂田によると、執筆のきっかけは職場に常にインド人の同僚がいたことにある。一緒に働くなかで、インド人のマインドセットは日本人に非常に近いと感じる場面が多かった。一方で、世間でステレオタイプとして語られるインド人像は、坂田が接してきたインド人とはまったく違う。そのイメージのままインドに進出してもうまくいかないだろうと考え、言語化して伝えるためにインド人の同僚と共著で書いたという。

ではなぜタイトルは日本人とインド人を対比させているのか。坂田の理解では、人としての「素材」は似ているが、社会構造がまったく違う。違う社会構造のなかで育つと、出来上がった日本人とインド人はかなり違ってくる、というのが坂田の見方である。

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縦社会の「正解」と横社会の「最適解」

坂田は、前編でも話した「日本は縦社会、インドは横社会」という整理をここでも使う。日本では正解を見つけ、みんなでそれに向かって磨き込んでいく。インドは非常に多様な社会なので「これが正解」と決めにくい。そこで、なんとなくの方向性を決め、その方向に向けて「ああでもない、こうでもない」と努力を続ける。動けばすぐにフィードバックが得られるので、改善を重ねて最適解をつくり込んでいく。正解を決めてから向かうのではなく、方向性を決めたらとりあえずやってみて、行動しながら最適解をつくる。坂田はこれを両者の違いとして説明する。

具体例として坂田が挙げるのは、インド人とのプロジェクトの進み方だ。ぼんやりと方向性を決めると、みんなとりあえず走り出してしまう。日本人の感覚では「まず計画を作ろう」と思うが、インド人は計画を作らずに走り出し、走りながら仲間と話し合ううちに方向性が定まってくる。目標を決め、それに合わせて計画を一つずつ作り、進捗を確認するという日本的な進め方とはまったく違うという。

坂田がこの違いに気づいたのは、話がかみ合わない場面が多かったからだ。日本人としては、明確なゴールと時間軸を決め、積み上げで考えてから動きたい。ところがインド人は、大まかな方向性が決まると「じゃあ次はこれをやろう」とアクションから入ってくる。最初は「そのアクションが正しいとなぜ分かるのか」と思ったが、動けばすぐにフィードバックがもらえるので、そこから改善したほうが効率的なことが多い。これはインド人から学んだことだと坂田は振り返る。

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「とりあえず生成AIを使ってみよう」が失敗する理由

聞き手は、走りながら決めるやり方はかえって効率が悪くならないかと尋ねた。坂田は、やり方を間違えるとそうなると認める。日本でよくある失敗例として挙げるのが「とりあえず生成AIを使ってみましょう」という導入だ。みんなが似たようなものを独自に作り、それぞれは効率化されたように見える。しかし空いた時間で重要でないことを始めてしまったり、似たものを全員で作っていたりするため、全体としては最適化されず、個別最適の集合体になってしまう。坂田はこれを「そっくりさんAIがいっぱいできる」状態と表現し、多くの企業がいま直面していると言う。トークンのコストだけがかさみ、全体で見ると非効率になることがよく起きる、とも述べている。

坂田によれば、かつてアジャイル開発でも同じことが起きた。「アジャイルはダメだ」という経営者は多いが、よく聞くと単に現場にアジャイルを入れ、「現場が自分で決めてやりなさい」という指示しか出していない。日本は縦社会で、決められた枠のなかで改善や工夫をする傾向があるため、全体の方向性がないと独自のものが大量にできてしまう。だから、まず全体の方向性と制約条件を決めてから実行しないと、インド式をまねてもうまくいかない、というのが坂田の主張だ。

全体の方向性はインドではどう決めるのかという問いに対して、坂田は「トップが決める」と答えた。決める人がいない場合は話し合いで合意するが、それも話し合いだけで合意を固めるのではない。話し合ってなんとなく決めたらまず実行し、動きながらコンセンサスを得ていく。これがインドで多いスタイルだという。

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インド式が向く領域と、方向性・制約条件の決め方

日本がインド式をすべて導入できるわけではない、という聞き手の指摘に対して、坂田はまず導入すべき領域とそうでない領域を見極める必要があると言う。前編でも触れた自動車産業や医療機器のように人命に関わる分野を全部アジャイル式で作るのは、あまりうまくいかないと坂田は考える。一方で、ITやデジタルサービスのようにフィードバックをもらってすぐ改善できる領域では、きちんと取り入れたほうがよいという。

その際に大事なのが、方向性と制約条件を最初に決めることだ。「この方向でやっていきましょう」という方向性に加えて、使えるお金はこれだけ、使える人的リソースはこれだけ、期限はいつまで、という制約条件を決める。日本人は現場で考え、意思決定し、行動することに慣れているので、そこまで決めればうまくいきやすい、と坂田は言う。何でも自由にやらせるという話ではない、という聞き手の確認に、坂田は「おっしゃる通り」と答えている。

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「インド人×日本人×AI」という組み合わせ

本には「インド人×日本人×AI」という図が載っている。坂田の説明によれば、いまの時代は最適解をつくるやり方が向いている産業が多い。大きな方向性を決めてまず実行してみる点では、長年それをやってきたインド人のほうが長けている。ただ、それだけではうまくいきにくい。精緻化や仕組み化は日本人のほうが得意なので、インド人がまずやり、日本人がそれを仕組み化・精緻化する分担が向いているという。

そこにAIが入ってくる。方向性を決めればAIがかなりの数の選択肢を出してくれるので、その選択肢をインド式で実行し、日本人が精緻化・仕組み化する。坂田はこれが一番いい組み合わせだろうと述べる。

聞き手は自分の仕事、つまりPIVOTでの動画の企画・制作に当てはめて考えた。スタジオでの対談はすでに型があり、トピックと出演者が決まれば進む。難しいのはまったく新しいフォーマットを作ることで、ロケに行くのか、リアリティショーをやるのかなど、見当がつかない。坂田は、そこはまさにインド式が向くところだと応じた。最後まで計画を作るのに3か月かけ、それから撮影して受けなかったら、また3か月かかってしまう。それよりも、大まかな方向性を決めてAIに案を10個出してもらい、インド式で実行し、うまくいった3つを日本式で磨き込む。そうしたスタイルだろうと坂田は提案する。

聞き手が、動画メディアは人を中傷するようなことは許されないが直接人命に関わるわけではないので、最低限のラインを守れば動きながら修正するやり方が合いそうだと述べると、坂田も同意した。そのうえで、方向性は人間が決めるという点を繰り返し強調している。それがないと「AIが作ったものをとりあえず実行する」状態になり、バラバラなものができてしまうからだ。

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失敗の分類:発生確率とインパクト

日本人が先に計画を決めて「その通りにやろう」とする原点には、失敗への恐れがあるのではないか。聞き手がそう問いかけ、インド人にとって失敗とは何かを尋ねた。

坂田は、失敗にはいくつか種類があり、発生確率とインパクトの二軸で整理しているという。失敗には良い失敗と悪い失敗がある。良い失敗とは将来の学びにつながるものだ。

  • インパクトは大きいが発生確率はそれほど高くない失敗:組織能力を伸ばすために最大限活用すべき失敗。
  • インパクトは小さいが発生確率が高い失敗:毎日同じような失敗を繰り返している状態であり、良くない。仕組み化して防ぐべきもの。
  • 発生確率が高く、インパクトも大きい失敗:坂田は先ほどの動画の例で説明する。メディアのフォーマットが合わなくなってきて、視聴者数が伸びない状況が頻繁に起きているなら、まったく違うやり方にしたほうがよいかもしれない。個別の動画で見れば失敗かもしれないが、戦略的な方向転換につながるので、これも良い失敗になるという。

インド式で重要なのは、失敗をきちんと分類し、どの種類に当たるかを考えたうえで方向性を決めたり仕組み化したりすることだ、と坂田はまとめる。なお、このインタビューで坂田が具体的に説明したのは上の三つで、四つ目の区分には言及していない。

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日本の減点主義と、失敗を生かす方法

日本式は失敗を分類せず、ひとまとめに「失敗」と呼んでしまうところがあるのか、という問いに、坂田は「ある」と答えた。いわゆる減点主義の問題で、長期にわたって一つの組織に所属していると、「失敗をした人」という扱いはプラスに働きにくい。

これも縦の日本と横のインドの違いだと坂田は言う。縦社会では、どこに所属しているか、その中でどのポジションにいるかが極めて重要になるため、失敗はポジティブに扱われにくい。ただし、失敗が起きたときにきちんと分類し、「これは良い失敗だ」「こういう学びがあった」と体系的に整理して次につなげれば、日本の組織でも失敗を生かすことはできる、と坂田は考えている。

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インド人は保守的、イノベーションは「試行回数」から生まれる

インド人はイノベーティブで日本人は保守的、ということなのか。聞き手の問いに対して、坂田はインド人もマインドセットとしてはかなり保守的だと答える。リスクを避けたがるのがインド人の特質だという。

それでもイノベーションが起きているように見えるのは、「まずやってみる」ことが基盤にあるからだ。坂田の見方では、インド式で世界に先駆けて何かが生まれているわけではない。7割の完成度で出してみて、フィードバックを受けて改善するループが速いので、イノベーションが起きているように見える。インド人が得意なのは、現場発で、実行してフィードバックをもらいながら最適解をつくっていくタイプのイノベーションだという。

聞き手が「iPhoneが生まれるというより、iPhoneのようなものが出てきたからそれをどう使うか、という感じか」と確認すると、坂田はそうだと応じた。イノベーションは新結合・異結合とも言われるが、そうした組み合わせは試行回数を高めないと生まれない。その試行にはインド式が向いている、と坂田は述べる。

14:34

インド人と働くときの心構え

インド人と顧客やパートナーとして仕事をする人はどう臨めばよいか。坂田はまず、社会構造が違うことを理解すべきだと言う。縦と横の違いに集約されるが、正解を決めてみんなで目指す文化ではなく、なんとなく方向性を決めたらとりあえずやってみる文化だ。そういうものだと思って臨むことが大事だという。

もう一つ、坂田がとても大事だと考えるのは、親しくなるとインド人のマインドセットは日本人とよく似ているという点だ。保守的で、関係性を重視する。そこが似ていることを踏まえて向き合うとよい、と坂田は述べる。

苦労と楽しさの両方があるのかと聞かれると、坂田は両方あると答えた。インド人が多数を占める会議に日本人が一人で入ると、誰かが話しているところにかぶせて話し続けないと自分の番は絶対に回ってこない。また最適解をつくるやり方では失敗の数も多くなるので、それを次につながる失敗と捉え、前向きに最適解をつくっていくマインドセットが大事だという。

日本式の思考からどう切り替えたのかという問いには、自分の仕事を分析した経験を挙げた。調整や計画に膨大なコストと時間を使っていることに気づき、だったら先にやってみてフィードバックをもらい、改善したほうがいいのではないかと考えた。これが最初のきっかけだったという。時間を短縮できるのかと問われると、坂田は「できる」と答えつつ、領域によると付け加えた。特に新規事業はまだ誰もやっていないので、誰も正解を知らない。だからまずやってみて、ダメならどう改善し、どう最適解をつくるかという思考になりやすい。そこに気づいたのが一番大きかったと坂田は語る。

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日本の組織で生かすには:リーダーが方向性と制約条件を決め、定期的に断捨離する

インド人と仕事をしていない、日本の組織で働く人が本の内容を生かすにはどうすればよいか。坂田は、経営者やリーダーの役割が非常に重要で、方向性と制約条件を明確に決めることだと答えた。それさえすれば、日本の組織は自律的に考えて動ける。逆に、それを決めずに自律的にやらせると、先ほどの生成AIの例のようにさまざまなものができてしまう。しかも、いったんできたものが組織に定着してしまうのが日本の組織の特徴なので、そうなるともう手遅れで、引き戻すのは難しいという。

だからリーダーが「この方向性で行く」「これはやらない」と決め、リソースはこれだけだと明確にし、そのうえで現場に実行してもらう。加えて坂田がもう一つ極めて大事だとするのが、定期的な断捨離である。現場の創意工夫は日本の特徴でありよいものも生まれるが、その中で定期的に整理する必要がある。

インドでは断捨離は日々行われていると坂田は言う。いらなければその場でやめる。みんなが自分の役割を果たすことを考えているので、やらなくていいことはやらないというマインドが強い。日本では報告書のように、誰が読んでいるか分からなくなっても出し続けることが定着しやすいが、インドではそういうことはあまりないという。

18:59

なぜ日本では「やめる」ことが難しいのか

聞き手は、たたき台をまず出すことは最近の日本企業でもできているところがあるが、始めたことをやめるのが日本式では一番難しいのではないかと指摘した。インドではなぜそれができるのか。

坂田は、インドにはもともと正解がないというマインドがあるからだと説明する。多様な社会なので、この宗教ではよいがあちらではダメ、この地方ではこうだがあちらではこう、というように、唯一の正解を決めにくい。何かが正しい、こうあるべきだというものがあまりないため、合理的に考えやすい。これに対して日本は同質的な社会で、「これが正解」というものが定着すると社会通念として流布し、そこから外れにくくなる。坂田はここに社会構造の違いがあると見ている。

そのため、日本でこれをやろうとすると、社会通念的に広まってしまったことをやめられるのはトップしかいない、と坂田は言う。インドでは最適解をつくる過程で自然にやめていけるが、日本では一度始めるとやめることが非常に難しい。だからトップがやめる決断をすることが、日本では特に重要になる。

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リーダーに求められる役割

最適解をつくる力は、リーダーやトップを目指す人に身につけてほしいものかと問われ、坂田は「日本の社会においては間違いなくそうだ」と答えた。日本の現場は自分で考えて実行することに慣れている。しかし方向性が良くなければ、みんながまったく違う方向に行ってしまう。方向性を定め、リソースを示し、やめるときはこれだと決める。坂田は、このリーダーの役割が非常に重要だと述べて話を締めくくった。