黒板のない教室と「表現入試」 藤村女子から吉祥寺湧水へ変わる中高一貫校は何を育てようとしているのか
PIVOT 公式チャンネル創立95年目の学校法人井之頭学園・藤村女子中学・高等学校は、2027年に共学化し、校名を「吉祥寺湧水中学校・高等学校」に改める。この動画では、MCの西川典孝さんと、人材育成・組織づくりを支援するMomentor代表の坂井風太さんが仮校舎を訪ね、授業や教員を取材し、最後に菊池健太郎校長と対話した。偏差値と進学実績で測られがちな中高6年間に、この学校は何を置こうとしているのか。それが全体を通した問いである。
偏差値教育に疑問を持つ人材育成の専門家が訪ねる
坂井さんは取材の冒頭で、自分の立場を説明した。娘が2人おり、中学受験をさせるかどうか考えている。ただ、坂井さん自身は私立中学に入学した後に退学しており、受験を経て偏差値の一元的な教育に組み込まれることには疑問を持っているという。
もう一つの関心は仕事にある。坂井さんは社会人向けに人材育成やマネジメントのプログラムを提供しているが、受講者の価値観や振る舞いのルーツをたどると、たいてい中高の6年間に行き着くと話した。この6年間をどう設計するかが、社会に出た後の人の在り方に関わる。坂井さんはこの視点から学校を見ていった。
黒板ゼロ、全員MacBookの「ファインダースタジアム」
仮校舎は、MCが「おしゃれなオフィスのよう」と表現したガラス張りの建物である。最初に案内されたのは「ファインダースタジアム」と呼ばれる空間だ。英語教員の菅原先生によると、ベンチ状の座席がサッカースタジアムのように中央を囲んでおり、中央でのスピーチや教員の説明に注意が集まるように設計されている。訪問時は国語の授業中で、生徒は全員1台ずつMacBookを持っていた。
この校舎には黒板が1つもない。坂井さんは、紙の教科書のほうが効率がよく定着もよいと言われることを挙げ、モニター中心で問題はないのかと尋ねた。菅原先生は、画面を見るのは情報共有やこれからの指示を聞く場面であり、そこで知識をインプットしているわけではないと答えた。学校が重点を置くのは、インプットした知識を使う段階である。記憶の定着と、覚えたものを使うことを分けたうえで、後者を最大化したい。そのために、どこが自分に適した場所かを生徒自身が選びながら課題に向き合う形にしているという。
坂井さんは、これでは集中力がなく落ち着かない子が生まれるのではないかと一瞬思ったと率直に述べた。菅原先生は、自分で集中を切り替える練習もこの環境に含まれており、集中が切れたら場所を変えてよいと説明した。坂井さんは学習科学への関心から、在宅勤務に疲れた社会人がカフェに移るように、集中力を自分で維持する力を鍛えるということかと確認し、先生は肯定した。先生は、集中力は15分しか持たないと言われており、一斉授業を50分続けるのは難しいので、自分のペースに合わせて場所や向き、話す相手を変えることが大事だと補足した。
ポテトチップス形の椅子と「who I am」
ほかの教室にも同じ考え方が及んでいる。ある教室は壁一面が鏡で、スピーカーも備え、ダンス部がスタジオとして使っている。坂井さんは、学校のダンス部はふつう可動式の鏡しかないので、部活動にとってはとてもありがたいはずだと反応した。教室にはポテトチップスを模した「チップス」という椅子が置かれている。理由を問われた先生は、学校らしくないことが大事であり、従来型の教室を一度変えてみて、これでも授業ができると分かったと答えた。
その教室の前面は一面がLEDスクリーンで、学校説明会にも使われている。生徒のMacBookをつなげば、生徒がスライドを映しながら前で話すこともできる。ほかにも、公園のようにくつろぎながら会話やアイデアを広げるラウンジ「ファインダーパーク」や、iMacや3Dプリンターでものづくりに没頭できる「ファインダーアトリエ」がある。
坂井さんが環境づくりの思想を尋ねると、先生は「who I am」を挙げた。あなたは何者か、私は何者かを探しに行く6年間を目指してカリキュラムを作っている。しっかり基礎学力をつけ、社会との結びつきを数多く作ることで、生徒が自分を多面的に捉えられる教育を目指すという。坂井さんはこれを、主体性を大切にしつつ、その主体性は結局環境によってデザインされるという思想だと受け止めた。
英語とは別の授業「バイリンガリズム」
中学生の授業として紹介されたのは「バイリンガリズム」である。英語の授業とは別枠で設けられ、スピーキングを中心にプロジェクト型学習を行う。教科書の単元を順に学ぶのではなく、プロジェクトごとに生徒が自分で計画を立て、いつまでに何を提出し完成させるかを管理していく。
取材時は、段ボールで「ビジョンボード」を作って発表する場面だった。自分が将来どうなりたいかをボードにまとめ、そのために年・月・週・日単位で何に取り組むかを具体的に計画して英語で発表する。ある生徒は、仲間とディズニーランドに行きたいので毎日お金を貯めてお菓子に使いすぎないようにする、ビジネスを始めたい、いろいろな国に行きたいと英語で話していた。
日本語で話を聞いた生徒は、今年転校してきたという中学生だった。この学校を選んだ理由は、自分で考えて行動し、自分で責任を持つことに力を入れているようで、成長に良さそうだと感じたからだという。最初は話せなかったが、英語は言葉だから話さないと意味がないので、バイリンガリズムはとてもいい授業だと思うと語った。将来やりたいビジネスは、この学校に来てから見つけたもので、自分の化粧品ブランドを作りたいという。教員によれば、生徒たちは入学時から英語が流暢だったわけではない。話すのが普通という環境をつくり、自分のことだから話したくてしかたがない状況を生み出すよう意識しているという。
「英語ができない原因は学習ではない」
授業を担当する英語教員は、日本生まれでアメリカで幼少期を過ごした。この学校に来る前はずっとインターナショナルスクールで教えており、プロ野球の通訳やラジオDJの経験もある。学校に惹かれた理由は学校改革だという。
この教員は、従来の日本の英語授業は文法中心で学問的だと述べた。それも大事だとしたうえで、日本の人は学習を通じて英語の知識をかなり持っているのに、できないと感じるのは自分から英語で話しかける勇気がないからであり、問題は実は学習ではないと指摘した。その部分を学校で養う必要がある。人間力、リーダーシップと言い換えられる力であり、学校には友達がいて、教員という大人との関わりもあるので、そこで育てられるという考えだ。
どんな場面で英語学習が一番効いていると感じるかと問われると、教員は学校の外でどれだけ使えるかだと答えた。言語習得には環境とニーズがあれば必ずできる、この授業はそのニーズと環境を提供するために設計したものだと説明した。
前職を生かした理科と国語の授業
理科と国語の教員にも話を聞いた。一人は少し前まで公立高校の教員だった。もう一人は児童養護施設のケアワーカーとして、愛着ケアなどの支援に6年ほど携わってから来た。後者は、施設で6年過ごすだけで人が一人変わるほどの成長を目の当たりにし、学校教育の中でも生徒が変わる瞬間をもっと見ていきたいと考えたと話した。
授業づくりで重視しているのは「問いを起点にした学び」である。理科の例として挙がったのは、授業中に蚊が現れたときの展開だ。どう思うか、どこにいるのか、どうすれば減らせるかを問い、時間を使って実際に公園へ捕まえに行く。調べて終わりにはせず、この建物にいるみんなを蚊から守ろうという問いにつなげ、自分事にとどめずに誰かに伝え、新たな視点を誰かに問うところまでを授業全体で意識しているという。
国語では、森鷗外の『舞姫』を題材に映像制作に取り組んだ。読み終えた後、留学先でエリスを見捨てて日本に帰る主人公・太田豊太郎に弁論の機会を与えるというテーマを設け、裁判形式で生徒が演じ、カメラ担当の生徒が撮影する。脚本も役割分担もすべて生徒が決める。教員は、文学の心を揺らすには当事者意識を持たせるのが一番であり、インパクトのある授業のほうが大人になって振り返ったときに記憶に残ると説明した。この教員は大学時代に映像制作のゼミに所属し、そこで映像を作ることの効果を実感したため、授業に取り入れたという。
教員の哲学が個人や組織に閉じている
坂井さんが、中学や高校の教員はこうした教育哲学を持って仕事をしているものなのかと問うと、学校側の答えは「たぶんイエス」だった。教員は熱量を持ってその職業を選び、目の前の一人ひとりの生徒に思いを向けている。ただ、その哲学が個人や組織に閉じてしまっていることが、世の中の学校の大きな課題だという。組織を変え、日本を変えるところまで目を向けなければ日本は変わらない。この学校には日本の教育を変えることに一石を投じたいという思いがある、と語られた。番組のナレーションは、学校が授業内容を一律に決めるのではなく、教師一人ひとりが得意なことを生かして学びを更新している点を、この学校の強みとしてまとめた。
正解のない入試「表現入試」
共学化に合わせて入試も変わる。ただし学校側の説明では、共学化で入試を変えるというより、教育そのものを変えようとしている流れの中に入試があるという。中学受験の王道である国語・算数・理科・社会の4科目に加え、来年度から「表現入試」を導入する。多分うちだけの入試だという。表現入試にはアート、エッセイ、デジタル、ダンスの4方式があり、受験生が自分に合った表現方法を選ぶ。
番組ではデジタル方式のお題が紹介された。タイトルは「画面から本への入り口を作る」。前提情報として、文化庁の16歳以上を対象にした調査で、1か月に本を1冊も読まない人が62.6%いること、その人たちの75.3%はSNSやネット記事など本以外の文字情報にほぼ毎日触れていることが示される。課題は、自分が読んだことがあり、その魅力を自分の言葉で説明できる本を1冊選び、その本をまだ読んでいない身近な人を思い浮かべ、その人が自分から少し読んでみたいと思えるデジタル作品を作ることだ。
作品の形式は自由だが、条件が付く。「読書は大切だから」と押し付けないこと、結末や大切な秘密を明かしすぎないこと、何を見せ何を見せないかを自分で判断すること。最後に「画面の中の作品で本との出会いを作るとはどういうことか。あなたは何を伝え、何を相手に残すか」という問いが添えられる。
特徴は、課題を事前に公表する点にある。9月に発表して2月が本番なので、最大で5か月近い制作期間がある。坂井さんが、それでは大人も一緒に作れてしまうのではと尋ねると、相談するのは構わないという答えだった。当日は作品を持ってきてもらい、面談で話を聞く。作品の質を見て合格を出すのではなく、どんなプロセスで何を考え、必ずあったはずの悩みをどう経たのかを聞きたいという。悩みがなく「お父さんが言っていたから」のようになれば、本人のプロセスがないので評価できない。
設計の意図について学校側は、4科目入試が王道であることは認め、それはしっかり継承していくとしたうえで、こう説明した。学校が大事にする「who I am」には答えがなく、見つけていくものだ。授業も問いから始まる。だから入試でも、どこかにある答えを探すのではなく、答えは自分の中にしかないということを問いかけたい。それは試験時間30分では見つからないので、ある程度の時間を与えて深い問いに向き合ってほしい。これがどの方式にも共通する根本の思いだという。
坂井さんは、制約条件にも意図があるという仮説を示した。相手の気持ちを想像する思いやりと、相手には相手の考えがあるので押し付けないこと。この2つを一貫して重視しているのではないかという指摘である。学校側はそれを認め、自分自身はもともと「これをやりたい」があまりないタイプで、「やりましょう」と言われるだけでは良くないと思っていると述べた。一方で、全員がやりたいようにだけやればめちゃくちゃになる。自分のやりたいことと、世の中や社会に応えることを両立させたい。だから「好きな作品をどうぞ」ではなく、それを使う人は誰か、誰に届けるのかを同時に問うのだという。
坂井さんは、この問題を解くことを通じて人を思いやることを学べるのが本当の入試問題なのではないかと感じ、受験するかどうかはともかく娘に解かせてみようと思ったと話した。学校側は、12歳の時点で高い水準に到達している必要はなく、そこから6年間でどう育てるかが学校の使命だと応じた。坂井さんは「これに傾向と対策が出たら嫌だ」とも付け加えた。
新校舎の裏テーマは「6年間退屈させない」
本体となる新校舎は2029年に吉祥寺で完成する予定で、取材時点では設計段階にあり、特に南館が大詰めだという。表向きのテーマは「学校らしくない」だが、裏テーマは「ドキドキワクワクをつくる」こと、そして「子どもたちを6年間退屈させない」ことだと説明された。図面で示された空間について、カフェテリアではなく教室だという説明があった。
坂井さんは、通いたくなる学校環境はとても大事だと述べた。勉強しやすいだけでなく、ここに来ると落ち着く、開放的になれると感じられる場所は職場でも重要であり、そうした機能があるのだろうと話した。
設計者は、これまでに見たことのない新しい学校空間を作りたいと語った。名建築や革新的な建築が生まれる瞬間には、設計者の独創性だけでなく、建築主の挑戦的な姿勢や思想、新しいものを受け入れる寛容さが背景にあることが多いと個人的に思っており、今回はそういう瞬間に立ち会っているつもりでチーム全員で取り組んでいるという。このプロジェクトは新築だけでなく改修も含む。思い出の残る部分と新しい部分があり、これから入る生徒にもこれまで通った人にも、通ってよかったと思える場所にしたいと話した。
オリジナルウェアと西海岸の学校
最後は菊池校長への取材である。校長は来年度の新しい取り組みの一つとして、制服ではないオリジナルウェアを挙げた。この学校は制服がないことを公言してきたが、自分らしくいたいという思いがある一方で、多感な中高生の時期には人と違いすぎるのが嫌だったり、大好きな友達と同じでいたかったりもする。その選択肢を与えたいという。
校長は学校づくりの前に米国西海岸を訪れ、サンタモニカのハイスクールやボーディングスクール、スタンフォード周辺などを見て回った。現地では学生が学校のウェアをよく着ており、この学校が好きなのだろう、誇りがあるのだろうと感じたという。そういう学校はワクワクするので、生徒にもとにかくワクワクしてほしいと話した。
「己を識り世に応う」と、測りにくい力
どんな生徒に育ってほしいかと問われ、校長は「who I am」の意味から説明した。転職や就職の場面では「あなたは何ができるのか、何者なのか」と問われがちで、校長自身もそう問いかけてきた。どこの企業でも同じだろうという。認知能力は演習を重ねれば上がるが、それだけで社会で役立つとは思えない。人とコミュニケーションを取り、言われたことにどう建設的に向き合うか、どう合意形成するかという学びも大事だという。
目指す姿は、校是でもある「己を識り世に応う」である。「己を知る」が「who I am」にあたる。ただ、自分のことだけを考えていても人は幸せにならないと校長は考えている。校長自身にとっての幸せは、同じ思いで集まってくれる人と志を共にし、子どもと保護者を幸せにすることであり、それは利他的なことだ。これが「世に応う」であり、己を知らなければ世に応えることもできないという。
坂井さんは、学校が掲げる8つの花びらの図に「美的共鳴力」や「倫理観」が入っている点が特徴的だと指摘した。校長は、絵を見たり人の話を聞いたりして心が震え、感動することは幸せなことであり、逆に人を感動させ共鳴させることも大事だと説明した。
坂井さんは自分の仕事の経験からこれに賛同した。組織の40〜50代の部長層で慕われ活躍している人を考えると、倫理観や美的共鳴力に近いものを持っている。損得ではなく善悪で「これは客に不誠実だからやめよう」「この人は困っているから助けよう」と考えられるのが倫理観である。マネジメントでは人や物の良いところを見つけられなければ、事業も人もプロデュースできない。何を与えられるかより、そのものの良さを見つけられるかのほうが、マネジメントでも人生全体でも重要だという。坂井さんは、測定できなさそうで捨てられがちなものを意図的に拾っている点が素敵だと評した。
AI時代と「教育の答え合わせ」の時間軸
坂井さんは、AIネイティブの時代に教育にどんな価値があるのかが結局大事だと述べ、2つの考えを示した。一つは、AIは目的地に早くたどり着く手段として出てきたが、どこに行きたいかを決めるのは人間だという点である。企業でもAIでプロダクトを早く作れるようになった分、何を作るべきか、会社としてどこに向かうかを描くことが問われる。組織の目的地を描けるのは、自分のありたい姿や目的地を真剣に考え続けてきた人のはずであり、そこが「who I am」とつながっていると坂井さんは考えた。
もう一つは、活躍の時間軸である。いい大学に入った、いい企業に入ったことを活躍と定義してよいのか。坂井さんは、教育の答え合わせは本来もっと長い時間軸で決まるもので、50歳でもなく70歳や80歳になったときに、あの人がこの地域や組織にいてよかったと思われることが大事だと述べた。さらに突き詰めれば、自分の人生を生き切ったと本人が思えることが最良の答え合わせであり、だから学校は「who I am」を最初に置いているのではないかと推測した。校長は「大正解」と応じた。
中学受験は「一点物」を選ぶこと
MCは、偏差値や進学実績を気にする親とどう向き合うのかを問うた。校長は、気にしない親はいないぐらいだと認め、自分も父親として中学受験に伴走した経験を語った。息子をSAPIXに通わせ、通帳から引かれる金額に驚きながら、これで良いのだろうかと考えた。3年間、息子には「お父さんは中学受験を知れば知るほど少し失望していて、レースにしか見えない」と伝えていたという。AIを誰もが使う時代に、認知能力だけを測るのが正解ではないとなれば、中学受験そのものが批判的に見られる時代が来るかもしれない、と校長は述べた。大学名だけで人の人生は語れない。20年後、30年後、子どもが親の手を離れ、親がいなくなった後も豊かに生きていてほしい。それがおそらく全保護者の願いだと校長は話した。
坂井さんは、5歳と2歳の娘を持つ親として、自分は中学受験に実はもともと否定的だったと明かした。私立中学に進んだとき、とりあえずみんな東大に入ればいいという世界観で、一元的な偏差値教育を避けたいと思っていたからだ。しかし今回の訪問を経て、中学受験の本質は競争ではなく、この子にとって一番いい中学はどこかを一点物として選ぶことだと考えるようになった。外からは同じような体験に見え、「英語教育が強い」といった一言でくくられても、実際に来てみると固有の体験がある。一点物の子どもに提供したい場所を選ぶという意味で中学受験を捉えるほうが正しいのではないか、と坂井さんは語った。
MCも、学校は偏差値、東大合格者数、部活動の全国優勝といった数字で語られがちだが、今回は違ったと述べた。転校してきて成長できそうだと思った生徒、英語を学んで海外の大学に進み化粧品のビジネスをしたいという生徒、別の職業の経験を生かして子どもの家庭まで深く関わる教員の話を聞き、ここならこういう経験ができるかもしれないと想像できたという。だから親はまず見学や体験に来るとよいと感じたと話した。坂井さんは校名の「湧水」にも触れた。探究心や好奇心、思いやりが湧き、その結果の一つがあのビジョンボードだったのではないか。外から水を与えるのではなく、自分の中に湧き水があることが、子どもにとって一生の財産になると話した。
「未完成の学校」に子どもを通わせられるか
締めくくりに校長は、まだ未完成の学校だと認めたうえで、判断基準を語った。校長には小学6年生の娘がおり、自分の子をこの学校に通わせられるかが一つの基準だという。従来の価値観なら、偏差値がとても低ければ通わせられないと思っていただろう。それでもこの学校に自信がある理由として、校長は教員を挙げた。自分が起業したときもそうだったが、事業計画はその通りにいかないものの、思いだけは負けないポテンシャルのある人がいれば何とかなり、変えていける。この学校にはそういう先生がそろっているので来てほしい、と述べた。
坂井さんは、1期生や2期生として初期に入ることが実は一番素敵な経験かもしれないと語った。一緒に学校を作ったということ自体がいい思い出になるだろう、というのが坂井さんの最後の感想だった。
一元的な偏差値教育っていうものを避けたいって正直思ってると。Who I am、あなたは何者か、私は何者かというのを探しに行く6年間。
自分のやりたいことっていうのと、世の中とか社会とか、そういったものに応えていくみたいなところを、やっぱり両立させていくというか。
偏差値至上主義と一線を画す教育最前線に迫る。
黒板は、この校舎には1つもありません。1つもない。1つもありません。このモニターだと、自分がプレゼンターなんじゃないかっていうふうな。主体性は結局、環境によってデザインされるもので。裏テーマとしては、子供たちを6年間退屈にさせない。我々としては日本教育を変えた、そこに一石を投じたいっていう。
中学受験を知れば知るほど、ちょっと失望しちゃってて。賞レースにしか見えないんで。
やっぱり偏差値とか進学実績とかって気にする親はいますよね。それ、どう向き合っていくんですか?
教育の答え合わせっていうのが、本当はもっと長期の時間軸で決められるものであって。一点物の子供に提供したい場所を選ぶっていう意味での中学受験っていうふうな方が、本当は解釈として楽しい。自分の手を離れて、いなくなった時が来ても、豊かに生きててほしいな。
こんにちは。MCの西川典孝です。こちらの建物、一見するとおしゃれなオフィスのようですけれども、実は学校の校舎なんです。創立95年目を迎えた学校法人井之頭学園の藤村女子中学・高等学校。2027年に吉祥寺湧水中学校・高等学校へと校名を変え、共学の学校として生まれ変わります。今は新校舎を建設中で、こちらはその完成までの仮校舎なんです。さらに変わるのは校名と校舎だけではありません。果たして何が変わるのか、その最前線を取材します。
ではゲストをご紹介しましょう。一緒に潜入していただけるのはこの方です。Momentor代表の坂井風太さんです。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。今日、楽しみだなと思いまして。なんでかっていうと、私、まず娘が2人いるんですけど、正直、中学受験をさせるかどうかっていうのは考えているんですが、ちょっと特殊な事情がありまして、私立中学に入学しているんですけど、後に退学をしているんです。
そうでしたよね。
世にも珍しいというところで、私立中学に受験して、偏差値の一元的な教育になるっていうところに対して、ちょっと疑問を持っている人間では正直あるんですよ。もう1つ、本当は関心があるのが、今、社会人を対象として人材育成とかマネジメントのプログラムを提供しているんですけども、その人の価値観のルーツとか作法のルーツが、大体中高にあったりする。
この6年間なんですね。そうなんですよね。人材育成、組織作りのプロフェッショナル、風太さんと、教育改革を掲げるこちらの学校の取り組みを見ていきます。さあ、いよいよ校舎潜入です。
すごいですよ、これ。本当に校舎なのかぐらい。すごいですね。ガラス張りですよ。アメリカのスタートアップ企業。確かに。これ今、授業やってるんですね、多分ね。自習してるんじゃないですかね。
グッドモーニング。やばい。こんな登場の仕方ありますか? 吉祥寺湧水の菅原と申します。菅原先生、よろしくお願いします。菅原先生は何の科目? 私は英語の教員です。英語の教員なんですね。そうか、だから英語なんだ。
ここでは何されてる? これは今、国語の授業を行っている最中です。これ授業中です。ちょっと待って、パソコン使ってますよ。パソコンは全員1台、MacBookを持っております。
そうなんですよ。ここはファインダースタジアムと呼びまして。スタジアム。ベンチみたいな形になっていて、まさにサッカースタジアムみたいな構成になっております。そうすることによって、真ん中に集中がぐっといくので、真ん中でスピーチをしたり、教員がちょっと説明したりとかっていうふうな空間になっております。的なデザインなんですね。そうです。
これ、僕あともう1個気づいたんです。黒板じゃないんですね。黒板は、この校舎には1つもありません。1つもない。1つもありません。
モニターで映すってなった時に、やっぱり紙の教科書の方が効率がいいとか、ちゃんと定着があるっていうのは言われてたりするじゃないですか。
黒板を見る時は、情報を共有したり、これからの指示を聞いたりする場面なので、ここで知識としてインプットしているわけではなくて、見てインプットしたものを使う、そこに重点を置くので。だから、その記憶定着っていう意味と、それを覚えてから使うっていう2つに分けた時に、後者のところを最大化したいから。効率的に考えて、どこが適切な場所なのかも自分で選びながら、課題に自分たちで向き合っていくということに焦点を置いております。
これ、集中力がなくなったり、落ち着きのない子供が生まれそうっていうのを、正直一瞬思っちゃったんですけど、それはどう思います?
分かります。これはでも、自分たちで切り替えをするという練習さえも含まれているんです。そういうことなんだ。集中が切れたら場所を変えるということもできますので。
面白い。人材育成とかマネジメントを仕事としてるので、学習科学みたいなのって好きなんですよ。その中に、やっぱりみたいなのがあって。どうやったらずっと学習を維持するかどうかが、社会人の人もやると思うんですけど、家で仕事するの疲れちゃったからカフェに行こうとか、家の中で場所を変えるみたいな、自分で集中力を維持できるっていうふうな学習を鍛えるっていうことで合ってますか?
おっしゃる通りです。本当、合ってた。正解です。正解して。集中力は15分しか持たないというふうに言われてるので、一斉を50分し続けるというのは、やっぱり結構難しいことなんですよね。なので、自分のペースに合わせて、その都度場所を変えたり、向きを変えたり、話す相手を変えたりするというのが大事。
生徒の学びを促進させる新しい教室の形。その工夫は他の教室にも広がっています。
おしゃれなカーテンだな、まず。鏡ですよ。鏡です。全面鏡となってるんです。実はうちのダンス部が、ここをスタジオとして。スピーカーもあるんですか? スピーカーも、前のあそこにありますね。
大体、学校のダンス部って、ガラガラガラガラって動かすやつしかないんですよ。そうですね。だから、こんな鏡があるって、めちゃくちゃ部活からしたらありがたいです。ダンス部以外にも使えますもんね、これね。そうですね。何部でも使えますね。
まずこれですよ。これは何ていうんですか? これは椅子なんですけど、何て名前だと思いますか? 実は私たちの身近な何かを模写してる形なんですけれども。食べ物です。食べ物。梨、りんご。悪くないですね。悪くない。良くもないんだろうね。ポテトチップスです。チップスという椅子になっております。
なんでわざわざこんな形にしたんですか? やっぱり学校っぽくないっていうのが大事なんですよね。一度、従来型の教室を変えてみて、これでもできるっていうのが分かったんですよね。
それ分かった瞬間って、どういう時だったんですか? 実際、私もここで授業をするんですけれども、実はあそこがLEDのモニター、一面になっております。これ、一面LEDのスクリーンになっております。すごい。
これはスライドとか出してるんですかね? 実はここでは学校説明会も行っておりまして、これは学校説明会の時の保護者向けのスライドに。すごいシンプルで強いメッセージが。生徒のMacBookもこの画面につなげますので、生徒がここでスライドを表示しながら、まさに前でこうやって喋ってっていうこともできます。
すごく学習環境にこだわってらっしゃると思うんですけども、どういう思想とかを大事にしてるとか、こういうのを参考にしたってあったりされるんですか?
思想としては、私たちはWho I am、あなたは何者か、私は何者かというのを探しに行く6年間というのを目指して、カリキュラムを作っています。そのために、しっかり基礎学力をつけて、そして社会との結びつきを私たちは多く作ることによって、実際に生徒が多面的に自分を捉えることができるような教育を目指しております。
なるほど。学校のコンセプトはWho I am。6年間を通して自分自身と向き合い、自分は何者で何をやりたいのかを深く追求。目指すのは、社会に出てから本当に役立つ力を育む教育。
校内には他にも、公園のようにリラックスして過ごしながら会話やアイデアを広げられるラウンジ、ファインダーパークや、iMacや3Dプリンターを使い、ものづくりに没頭できるファインダーアトリエなど、充実した環境が整っています。
だから、人の主体性みたいなことを大切にしつつ、その主体性は結局、環境によってデザインされるものであるっていうふうな思想だから。そうです。
では、その主体性は日々の授業でどのように育まれているのでしょうか? 中学生の授業を見せていただきました。
すごい喋ってる。すごい。立ったままですよ、だって。これ今、何してるんですか?
これはバイリンガリズムという授業を行ってます。バイリンガリズム。英語とかじゃなくて、バイリンガリズム。そうですね。本校には英語っていう授業と、バイリンガリズムっていう別の授業がありまして、これはスピーキング中心でプロジェクト型学習を行っている授業になります。
プロジェクト型学習って、どういうものなんですか? 普通の単元を学んでいく、教科書を学んでいくのではなくて、毎回プロジェクトに対して生徒は自分たちで計画を立てて、この日までにこれを提出する、この日までにこれを完成させるというのを、計画的に行うような授業になります。
そうなんだ。ダンボール持ってますよ。何なんですか、あれ? 今はビジョンボードというのを作っておりまして、生徒たちは、これから自分はどういうふうになっていきたいかというビジョンをボードにして、それについて実際に、年間でとか、月、週、毎日、何に取り組めばいいのかということを具体的に計画して、それを発表している。ナイス。
私のビジョンボードです。チームメートとディズニーランドに行きたいです。毎日お金を貯めて、お金を使わないようにします。
そういうことね。お菓子にいっぱい使っちゃってるけど、耐えますよってことだ。
この写真は何ですか? ビジネスを始めたいです。へえ。この国々に行きたいです。すごい。好きな国はどこですか? 私の好きな国は、ビーン。
日本語で少し聞かせてください。どうしてこの学校を選ばれたんですか? 私は今年、一から転校してきて、自分で考えて行動するとか、自分で責任を持つとか、そういうところに力を入れてる感じがして。成長に良さそうだな。
すごい。成長に良さそうだな。今、中学何年生ですか? 中2です。中学2年生で。まず、英語の授業のスタイルとか違うじゃないですか。違います。これ、最初躊躇しなかったですか?
やっぱり最初は慣れなかったんですけど、英語って言葉だから、話さないと意味がないんで、バイリンガリズムとかすごいいい授業だと思います。
英語って言葉だから、話さないと意味がない。実際に英語の授業を通じて、将来、ビジネスをやりたいみたいな。そこはここに来てから見つけたものなんですか? そうです。そうなんだ。ちなみに、どんなビジネスをやりたいと思ってるんですか? 自分の化粧品ブランドとか作りたいなと思って。
へえ。すごい。そんなこと考えます? 最近の中学1年生って、こんな英語喋るんですか?
そうなんです。入学時からペラペラだったわけではなくて、最初からもう喋るのが普通だよなっていう環境を作っているので、自分たちのことなので話したくてしょうがないっていうようなのを作り出すように意識しております。
そういうことか。この方、先生? あれはうちの英語の教員です。話してください。よろしくお願いします。聞こえます? 大丈夫ですか? 大丈夫です。聞こえます。
僕、まずこの服装とかにツッコミしたいんですけど。もうこれが普通に。これが普通ですか? 常にこんな感じだから、別に学校だからって切り替える必要ないかなっていうのもあるんですよね。かつ、アメリカで育って、日本で教員は、ここに来る前はずっとインターナショナルスクールだったんですよ。
生まれは? 生まれは日本で、幼少期にアメリカ。プロ野球の通訳もやりましたし、ラジオDJも。ラジオDJ。
ここの学校のどんな教育に惹かれたんですか? 学校改革ですよね、やっぱり。従来の日本の英語の授業は、文法だったりとか、学問的なんですよね。もちろんそれも大事なんですけど、実践できる英語というか、正直、日本の方々って結構英語力あるんですよね。学習でやってるから。
じゃあ、なぜできない、できないって感じるかっていうと、自分から英語で話しかけられない、その勇気がないとかなんですよね。実は学習ではなかったりするんですよ、問題は。そこを学校でどうにかして養っていかないといけないです。人間力っていうとそれですけど、リーダーシップだったりとか、非認知能力っていうの。学校に人がいるし、友達とかで養っていけたりもするし、大人との関わりってすごく大事じゃないですか。先生との。
英語を学習する上で、これが一番効いてるなって、生徒さんの表情とか反応を見て感じることってありますか? 学校内ですか? 学校内です。実は学校内じゃないですよね。どれだけ学校外でできるかなんですよ。この学校で言ってるのは。
確かに。言語習得するには環境とニーズ。環境とニーズがあれば絶対にできるんですよ。この授業は、そのニーズと環境を提供しようと思って設計したものなんですね。
自身のバックグラウンドに基づき、特別な授業を設計。この学校には他にも、様々な先生たちが特別な学びを提供しています。
吉祥寺のおしゃれな人だと。何の先生なんですかね? 私が理科で、どうぞ。国語です。理科と国語で。そうなんですか。前のお仕事、新卒ですか?
公立の高校の教員をしてたので、ちょっと前まで公務員でした。そうなんですか。元々は? 私は児童養護のケアワーカーをずっとしていて、愛着ケアとか、そういう心理支援みたいなのを6年ぐらいやって、こっちに来ました。
そうなんですね。社会との接続っていう。社会との接続でもいいんじゃないですか。どうしてこっちに来られたんですか?
児童養護にいた時とかに、6年いるだけでもう人1人変わるぐらい、かなり大きな成長を目の当たりにして。学校教育の中でも、生徒が変わる瞬間をどんどん見ていきたいと思って、こっちに来てみました。
さっき英語の授業を見てきたんですけど、めちゃくちゃ特徴的だったんで、お2人、どんな感じの授業をやられてるんですか?
この学校のコンセプトもそうなんですけど、問いを起点にした学びっていうのはすごく重視していて。授業中に蚊が現れて。蚊が現れて。どう思うっていうところから、どんなところにいるかなとか、どうしたら減らせるかな。じゃあ、これもうちょっと時間使って一緒に考えてみようって言って、実際、公園に捕まえに行って、わくわく的になるんですね。
最終的には、それを調べて終わりじゃなくて、この建物にいるみんなをその蚊から守ろうとかから始まって、自己完結じゃなく、誰かに伝えたりとか、新たな視点を誰かに問うっていうところは、すごく授業の作りで全体的に意識しているところです。
国語の中だと、この前やった、校に向けてやったやつなんですが、森鷗外の『舞姫』という作品を、映像制作に取り組むっていうもの。映像制作。文学っていうのは映像との親和性はすごく高いもの、イメージあると思うんですけど、心を揺らすためには、当事者意識を持たせることが一番っていうところがあって。記憶に残すためにインパクトを与える授業の方が、大人になった後も振り返った時に残ってたりとかするじゃないですか。
その時、国語でやったのは、森鷗外の『舞姫』のストーリーとかってイメージありますか? 留学がある。そうですね。留学先のエリスを見捨てて日本に帰らなきゃいけないみたいなシーン。作品を読み終えた後に、精読を終えた後に、「太田豊太郎に弁論の機会を与えましょう」っていうテーマを提示して。裁判っぽくやって、「自分はこうだったんです」みたいなのを生徒が演じながら、それをカメラ担当の子が撮影して、脚本も全部生徒たちが考えて、役割分担を決めて演じて、みんなが登場人物になりきれるような仕掛けをちょっとしています。
最高だな。先生は映像の経験ってあるんですか? 大学時代に映像制作ゼミにも。じゃあ、自分のバックグラウンドを生かしてるんですね。そうですね。文学部の中にあった映像制作ゼミなんですけど、親和性が高いことをそこで実感し、授業にも取り入れるメリットあるなと思って。自分ならではのオリジナル授業ですね。そうですね。
そんなに中学とか高校の先生とかって、教育哲学的なものを持って仕事してるものなんですか?
これ、お答えは多分イエスだと思うんですね。教員って、やっぱりすごく熱量を持って、その職業を望んだり、目の前の本当1人1人の生徒に向けてっていう思いがある。ただ、おっしゃったその哲学が個に閉じてしまってる、あるいは組織に閉じちゃってるっていうのが、世の中の学校の大きな課題なのかなって。
個に閉じてるとか、組織に閉じてるって、どういうことを表してらっしゃるんですか?
要するに、組織立って変えていくとか、本当に日本を変えていくんだっていうところまで目を向けて変えないと、絶対日本は変わらない。それをじゃあ誰が変えるんだっていうと、やっぱり公教育とかすごく難しいし、学校も学校の哲学がある。我々としては、本当に日本教育を変えた、そこに一石を投じたいっていう思いがあるっていうところは。
学校が授業内容を決めるのではなく、教師1人1人が得意なことを生かし、常に学びをアップデートしていく。それがこの学校の強みだと感じました。さらに、来年度大きな変化となる共学に向け、重要なことがアップデートされるそうです。
来年の入試の準備というか。だって今まで女子だったわけで、これが共学になるわけじゃないですか。これ、試験の性質とか、いろんなものも変わりますよね。
共学によって入試を変えようっていうよりは、教育そのものを、学校を変えようとしてるんで、入試っていう、そういう流れですね。
どういうところを特に変えようとされてるんですか? すごく特徴的なのは、中学受験の王道って4科目、国語、算数、理科、社会。ここが一番ど真ん中なんですけど、そこに加えて表現入試っていう。表現入試。多分うちだけの入試を来年から。
どういうことですか? 表現っていう中に4つの方式を用意してまして。表現の仕方ですね。これを選べるよ。
従来の筆記試験ではなく、アート、エッセイ、デジタル、そしてダンス。受験生がこの4つの方法から自分に合った表現を選び、その個性や創造力を多角的に評価する新しい受験方法を取り入れています。
実際どんなお題が出るかっていう。デジタル。これはタイトル的なところですけど、「画面から本への入り口を作る」。まだピンとこないですよね。ちょっと問題文続きます。
文化庁の16歳以上を対象にした調査では、1か月に本を1冊も読まないと答えた人は62.6%でした。一方、その人たちの75.3%は、SNSやネットの記事など、本以外の文字情報にはほぼ毎日触れています。ここが1つ、前提情報。社会的な知識とか、テーマに取り組むための、先にインプットしておく前提知識ですね。
その上で、実際の課題としては、あなた自身が読んだことがあり、その魅力を自分の言葉で説明できる本を1冊選んでください。その本をまだ読んでない身近な人を思い浮かべ、その人が自分から少し読んでみたいと思えるデジタル作品を作ってください。デジタル作品なんだ。これが課題ですね。
ただ、どんな作品を作るかは皆さん次第ですよっていうのがあります。何でも作っていいよっていうのではなくて、ちょっとお約束、条件をさせてもらってて。「読書は大切だから」と押し付けないこと。結末や大切な秘密を明かしすぎないこと。何を見せ、何を見せないかは自分で判断してください。
そうか。いろいろ制約もつけていくんですね。そうですね。さらに最後に問いかけ。「画面の中の作品で、本との出会いを作るとはどういうことでしょう? あなたは何を伝え、何を相手に残しますか?」。素晴らしいな。
ちょっと深い問いを出させてもらって。すごく特徴的なのは、これ事前に出させてもらうんですよ。何日前とかに出す予定なんですか? 9月に発表して、2月が本番なので、最大5か月近く制作期間があるっていう、そういう試験なんです。
だって、それはこれ、言ってしまえば大人も一緒にできちゃうじゃないですか。もちろん相談したりとかは大丈夫なんですけど、当日に作品を持ってきてもらって、実際にお話をします。単に作品だけ見て、「いいクオリティの作品だね、合格」みたいなことでは全然なくて、むしろその作品にどんなプロセスがあって、どんなことを考えて、多分絶対悩んだはずなので、悩みのプロセスとかを聞いていきたいんですよ。
もしそこに悩みがなくて、「お父さんが言ってたから」みたいになったら、そこは自分のプロセスがないっていうところで、評価としてはどうしてもできないっていう形になってくる。
どういう思想を反映した、このテーマ設計なんですかね? 大元でいうと、やっぱり中学受験、4科が王道だってところがあるもので、それをしっかりと正答していくっていうのが大事なところだと思うんですけど、本校が大事にしてる、例えばWho I amとか、答えはないものじゃないですか。見つけていくものというか、見えていくもの。
授業も「なぜ?」から始まるっていうところがあるので、入試も「答えがどこかにありますよ、探してください」ではなく、「あなたの中にしか答えがありません」っていうのを問いかけたい。それって、なかなか「試験時間30分です」って見つかるものじゃないので、ある程度の時間を与えて深い問いに向き合ってほしいっていうのが、この入試のどの方式でも共通してる根幹の思いというか。
これでももう1つ、私、仮説として思ってたのが、制約条件にあったんじゃないかなと思っていて。この1と2に反映されてるんだろうなと思ったんですけど、まず相手の気持ちを想像するっていうふうなこととか、思いやりの部分を一貫して大事にしている。あと2つ目が、押し付けない、相手には相手の考えがあるっていうふうな。その2つも重視してるような気がしたんですけども。
そこはやっぱり大事にしていて。例えば自分は、「これをやりたい」ってことがあんまりなかったタイプで、「やりましょう」だけだとやっぱり良くないなと思って。自分のやりたいこととか、「こうしたいんだ」みたいなのはやっぱり持つべきだなと思うんですけど、とはいえ、もし全員が本当にやりたいようにだけやっていると、しっちゃかめっちゃかになっちゃうとかもあると思います。
そこが、自分のやりたいことっていうのと、世の中とか社会とか、そういったものに応えていくみたいなところを、やっぱり両立させていくというか、両方大事なんだと思ってるので、「好きな作品をどうぞ作ってください」じゃないんですよね。それを使う人って誰なの、誰に届けるのっていうのを、やっぱり同時に問うていきたいっていうのがあるので、そこをセットにしてますね。
本当に入試問題って何なんだろうなって、今思った時に、これを解くことを通じて何を得るか。人を思いやるとか、そういうことを学べるっていうのが本当に入試問題なのかなと思ったので、受験するかどうかはともかく、解かせてみようと思いました。ありがとうございます。それもいいですね。
まさに結構狙ってるところというか。12歳の子が、すごい高いところに到達している必要ってまだないと思うんですよ。むしろそこから6年間、我々がいかに育てるかが本来使命なので、12歳の時点で、とにかく上の子ですっていうことでは全くないっていう。これに傾向と対策っていうのが出たら嫌だな。確かにそうですね。
来年度の共学化や問題の変更など、様々な改革に挑んでいる吉祥寺湧水中学校・高等学校。2029年には、その集大成となる新校舎が吉祥寺に完成します。果たしてどんな校舎ができるのでしょうか?
今の進捗状況はどんな感じなんですか? 絶賛、設計段階という感じですね。そうですね。特に南館っていう方は大詰めですね。
学校らしくないみたいなテーマをもらってはいるんですけど、裏テーマとしては、我々はドキドキワクワクを作るっていうのと、子供たちを6年間退屈にさせないっていう。それを何しろ目指してます。
なるほど。特にこだわったところって、どういうのがあるんですか? これは本館の方の南館ですね。これが教室。カフェテリアではなく教室。
通いたくなる学校環境であるって、すごい大事だなって思っていて。そういう状態にやっぱりなってるんだろうなと思いましたね。でも、その通いたくなるっていうのは、勉強しやすいっていうところもあるかもしれないですけど、ここに来ると落ち着くなとか、開放的になれるなっていうふうな場所って、職場でも結構大事だと思うんですけど、そういう機能があるのかなと思いましたけどね。
さっきのデザインを見てて、子供たちが退屈しない、ワクワクするっていうのも聞いてて、僕たちもワクワクしたんですよ。これを形にしていくって、これすごいミッションですね。
一言でいうと、これまでに見たことないような新しい学校空間を作っていきたいなっていうふうに考えています。名建築とか、それまでに見たことない革新的な建築が生まれる瞬間って、設計者が独創性を発揮とか、そういったことだけではなくて、建築主様の挑戦的な姿勢とか思想、さらには新しいものを受け入れる寛容さみたいなものが、背景で重要になってることが多いと個人的には思ってます。
そういう意味では、まさに今回のプロジェクトって、そういう瞬間に私は立ち会ってるんだなっていうつもりで。設計者として私だけじゃなく、チームのメンバー全員で、今全力で日々取り組んでるところです。
子供たちが、どういうふうな学校だったって思える場所になってくれたら嬉しいなと思います。今回のプロジェクトは新築だけではなくて、改修もあれば新しく作る部分もあって、思い出の残った部分もあったり、これからワクワクする新しいものもあったり。これから入ってくる生徒たちや、これまで関わった皆さんが、本当にできたなって思えるような、そんなプロジェクトにしたいと思っています。
生徒や教師、そして学校を作る人たち全員が楽しむ教育の場。最後に、この学校でどんな生徒を育てたいか、さらに教育の未来について、菊池校長にお話を伺いました。
すごい校舎でしたね。素晴らしい校舎と素晴らしい先生でした。ありがとうございます。2027年度に共学になり、校舎も今、新しく建て始めてるというところじゃないですか。来年度には、どんなことを新たに考えてるっていうのがありますか?
いろいろありますけど、1つにオリジナルウェアっていうのを入れると思って。制服じゃないんですね。我々は制服がない、なかったです。公言してました。公言してたんですけど、やっぱり自分らしくいたいなって思う反面、中高生の多感な時期っていうのは、人と違いすぎるのも嫌だったり。やっぱり大好きな友達と一緒っていうのも、選択肢として与えたいなと思ってましてね。
私、この学校を作る前に西海岸に行かせていただいて、サンタモニカハイスクールとか、有名なサッチャースクール、ボーディングスクールですね、行ったり。スタンフォードとか、UCLAもいろいろ見たんですけど、UCLAなんかよく有名じゃないですか。Tシャツみたいなね。あんなのあったらいいな、かっこいいなと思ってたんですけど、学生は着てるんですよ、結構。この学校好きなんだな。誇りがあるんですよね、多分ね。そうなんですよね。そういう学校ってワクワクするじゃないですか。とにかくワクワクしてほしいなって思ってますね。
実際、この6年間で、どんな子供たちに育ってほしいなっていうふうに思われますか?
Who I amっていうのをやってるのは、これをご覧になってる皆さんもそうだと思うんですけど、転職をする時であったり、新卒の時もそうだけど、「あなた一体何ができるんですか」「何者なんですか」って聞かれがちだし、私もそういうふうに聞いてきたんですね。多分これ、どこの企業に行っても同じだと思うんですよ。
認知能力を上げることは、何回も演習をやって上がるとは思うんですけど、それが決して社会に出た時、それだけで役に立つとは思えない。それよりも、やっぱり人とコミュニケーションしていって、自分はこういうことを言われたけど、どうやって建設的にいこうかとか、合意形成をしていこうかとかね。そういう学びの方も大事かなと思ってるんです。
どういう生徒に育ってほしいかというと、さっきのWho I amに答えられるというよりは、我々、校是として「己を識り、世に応う」っていうところで、「己を知り」はWho I amですよね。でも、自分のことだけを考えたりしていくと、あんまり人は幸せにならないと思ってるんですよ。
何が幸せなのかなと思うと、私だったら、同じ思いでここに集まってくれる人がいて、一緒の志を持って、子供たち、そして保護者を幸せにしたいっていうものがあって。これをかなえるっていうことは利他的なことですよね。これが「世に応う」。「己を知」らないと、まず「世に応う」ことはできない。
そうですね。私、もう1つ素敵だなと思ったのが、8つの花びらがあるじゃないですか。左上の箇所で、美的感受性とか倫理観を入れてる。ここがすごい特徴的だなと思ったんですけど、入れたこだわりってどういうものになるんですか?
美的共鳴力っていうのは、例えば絵を見たり、坂井さんの話を聞いて自分の心が震えることというのは、すごく幸せなことだと思うんですね。人の話を聞いて、何かを体験して感動すること。それとは逆に、感動させること、共鳴させることも大事だと思うんですよね。
やっぱり私も、人材育成とかマネジメント領域で、会社さんだったり、いろんな組織と向き合う中で、40、50代の部長とかになった時に、どういう人が慕われて本当に活躍してるかって考えると、やっぱり倫理観とか美的共鳴力みたいなところと多分近くて。そもそも損得じゃなくて善悪で、「これ、お客さんに不誠実だから、こういうことはやめるようにしようよ」とか、「この人、今困ってるのか、助けよう」っていう倫理観。でもこれ、損得を超えたものですよ。
あとは美的共鳴力っていうのも、マネジメントとかにおいては、人のいいところとか、物のいいところを見つけないと、事業のプロデュースも人のプロデュースもできなくなってしまう。だから、どんなものが与えられるかっていうものよりも、そのものの良さを見つけることができるかっていうふうな方が、結局マネジメントっていう文脈でも正直そうだと思いますし、人生単位でもそうだと思うんですよ。
どんなものを提供されても喜ぶことができるとか、「これ、いいところですね」って見つけられる方が、やっぱり幸せで豊かだなと思って。その意味で、私が一番好きなのが、倫理観と美的共鳴力っていう、測定できなさそうだから捨てられそうなものを意図的に拾ってるっていうのが、本当は素敵なところだなと思うんですよね。
そこを感じていただけてるのが、すごく嬉しい。美的共鳴力です。ありますね。
どうですか? 今、先を見据えたこの教育。素晴らしいと思いましたけれども、AIネイティブの時代に、どういう教育の価値があるのかみたいなところが、結局大事なんだろうなと思っていました。
やっぱりAIっていうものが、早く目的地にたどり着く手段として出てきた一方で、どこに行きたいかっていうところは人間が作るものであると。それって企業でも同じことで、AIでいろんなプロダクトっていうのを早く作れるようになった一方で、どんなものを作ったらいいのか。もっと抽象度を上げると、この会社でどこに向かったらいいのかっていうところを描くっていうところでも、会社とか組織の目的地を決められる人っていうのは、自分のありたい姿とか目的地を真剣に考え続けてきた人だからこそ、それが描けるはずだと。だから、そこがWho I amとつながってるんだろうなと思ったのが、まず1つあった。
2つ目が、活躍っていうものの時間軸がすごい大事だなっていうふうなところを正直思っていたんですね。活躍する人材とかっていうふうなことを考えた時に、いい大学に入った、じゃあ活躍したのかとか、いい企業に入社した、だから活躍したのかとか、定義していいものなのかなっていうところは思っていると。
だから、教育の答え合わせっていうのは、本当はもっと長期の時間軸で決められるものであって。それもしかしたら50歳でもないかもしれなくて、70歳とか80歳になった時に、「あの人がこの地域にいたから良かったよね」とか、「この組織にいたから良かったよね」が大事だと思っていて。それでやっぱり菊池さんは、長期の時間軸での答え合わせを大事にしてるのかなと、個人的に思っていましたね。
もしかしたら、それは本質的にはWho I amなので、「自分の人生を生き切ったぞ」っていうふうなところが、社会にとってというよりは本人にとっての一番いい答え合わせになるから、Who I amを最初に作ってるのかなと思っていたけど、違ったらすいませんね。
もう大正解ですね。そうですか。正解出しがちだな。中高一貫は、私も中学受験の父親として伴走しましたから、このゴールは何かというと、見てる先は偏差値はもちろんのこと、その学校の6年後の進学実績ですよ。そうですよね。
やっぱり偏差値とか進学実績とかって気にする親はいますよね。気にしない親はいないぐらいじゃないですかね。それ、どう向き合っていくんですか? やっぱりそこって、一定レベル求められる部分にはなるじゃないですか。
今の中学受験でいうとそうですね。SAPIXに行きました。通帳から引かれる金額に驚きながらも、これで良いんだろうかと。3年間、本当に自問自答して、息子に言いましたね。「お父さんはね、中学受験を知れば知るほど、ちょっと失望しちゃってて」。賞レースにしか見えないんで。
このままいくと、やはりAIっていうのは皆さんも使っていらっしゃる時代ですから、認知能力だけを測るのが正解ではないんじゃないのっていうことになれば、中学受験をすること自体に批判的になる時代も来るかもしれないんですね、もしかしたらね。
なるほど。坂井さんがおっしゃったように、人の人生は測れない。その大学名だけでも人の人生は語れないですね。だとしたら、我々はそれこそ本当に20年後、30年後、この子が自分の手を離れて、さらに自分がいなくなった時が来ても、豊かに生きててほしいなって。これがおそらく全保護者の願いだと思うんですよ。
今、娘が5歳と2歳なんですけど、やっぱり中学受験をするかしないかみたいな論点がまず出てくるわけですよね。私は結構、実は否定的では元々あって。なぜかというと、自分が私立の中学に進学して、とりあえずみんな東大に入ればいいじゃんみたいな世界観であったので、一元的な偏差値教育っていうものを避けたいって正直思ってると。
でも、じゃあ中学受験的教育になるかって、そうではなくて、中学受験するっていうことの本質は、この子にとって一番いい中学はどこなんだろうっていう、本当は競争でもなく、一点物で選ぶのが本当は正しいと思っているっていうことだと。
だから、外から見ると全部同じような体験にもし見えたとしても、英語教育が強いとかって言われたとしても、全然やっぱり今日、学校に来てみて、固有の体験であると。だから、この一点物の子供に提供したい場所を選ぶっていう意味での中学受験っていうふうな方が、本当は解釈として正しいのかなと思いましたね。
そうですね。僕も今回、生徒、先生に話を聞いていったのが、一般的に学校って数字で語られることが多いじゃないですか。偏差値とか、あとは例えば東大何人とか、何部が全国優勝とか。でも今日そうじゃなくて、子供たちに話を聞いたら、例えば転校をして、ここに来たら自分が成長できそうだと思ったとか、私はここに来て英語を学んで、海外の大学に行って、化粧品を使ったビジネスをやってみたいとか。先生にしても、別の職業をやってたから、それを元に子供たちの家庭とか、そういうところまで深く入り込めるよう。
数とかじゃなくて、ここだとこういう経験が自分も積めるかもっていう想像ができて、そうすると、やっぱり入りたい、ここなら自分も成長できるかもって思えるなって思ったんで、これはすごい強烈なインパクトだったなと思って。親の皆さん、1回ここを体験とか見学しに来たらいいんじゃないかなっていうのは、すごい思ったんですよね。本当にそう思いますね。
どうですか、このお話を聞いて? やっぱりいい学校名だなって、今ずっと考えていて。湧水って水が湧くっていうふうなことであって、何が湧くのかなと思ったら、探究心とか好奇心とか、思いやりとか。その湧いた結果が、1つのさっきのビジョンだったとかだと思うんですよ。別に水をあげるんじゃなくて、自分の中に湧水があるっていうことの方が、子供にとって一生物の財産になるなって思ったんですよ。
最後に是非、見てらっしゃる親御さんだったり、子供にも向けてメッセージいただけますか?
まだまだ未完成の学校ではありますけど、私、小学校6年生の娘がいるんですね。本当に自分の娘、息子をこの学校に通わせられるのかっていうのが、1つの判断基準だと思ってるんですよ。
それは今までの価値観で言うと、ものすごい偏差値が低かったら通わせられないって、昔は多分思ってたと思うんですけど。なんで私がこんな自信があるか、この学校にって言うと、やっぱり未完成ながらもね、自分が起業した時もそうだけど、思いだけは負けてないっていう、ポテンシャルのある先生がいたらなんとかなるなと思ってて。ビジネスでもね、事業計画は100回もその通りいかないじゃないですか。でも優秀な人がいたらなんとかなるって思うんですよ。もう変えていけるから。
確かに。
そういう意味では、うちの学校ではそういう人材がね、人材と言いますか、先生がね、集まってる。揃ってるなと思ってるんで、来てほしいと思ってますね。
なるほど。分かりました。でも1期生とか2期生とか、初期の段階で入るっていうのが本当は1番素敵な経験だなって、ちょっと思うところあって。一緒に学校作ったっていうふうなこと自体が、やっぱいい思い出だなと思いましたけどね。
そうですね。
なるほど。今日は菊池さんと、そして坂井さんにたっぷりお話をお伺いしました。ありがとうございました。
ありがとうございました。
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