『機動戦士ガンダム』第28話「大西洋、血に染めて」をカット単位で読む――岡田斗司夫が語る富野演出
岡田斗司夫岡田斗司夫は、TV版『機動戦士ガンダム』を1話ずつ解説する講座で、第28話「大西洋、血に染めて」に計10回の配信を充てた。第26話「復活のシャア」、第27話「女スパイ潜入!」に続く三部作の最終話で、カイ・シデンとミハル・ラトキエの出会い、相互理解、一瞬の心の触れ合いと別れが描かれる。岡田によれば、ファンのあいだで「一番好きな話」に挙げられることも多い回である。
この講座で岡田が一貫して問うのは「アニメの演出とは何か」だ。ミハルは視聴者を泣かせるために死ぬキャラクターではない。死に至る理由が一つずつ積み上げられており、それを支えているのが台詞ではなくカット、構図、色、目線の設計だ、というのが岡田の立場である。
第28話時点の戦況:オデッサの敗北が意味するもの
本編に入る前に、岡田は戦況を整理する。この時点でジオンは地球の衛星軌道より外側の宇宙を押さえている。第3話前後でルナツーの司令がホワイトベースの護衛にサラミス1隻しか付けられないと言うのは、連邦が制宙権を失っている表れだと岡田は説明する。ジオン本国、月のグラナダ、宇宙要塞ソロモン、本来中立であるべきサイド6までがジオンの影響下にある。
地上でも連邦は押されている。岡田の整理では、北米にはジオンの拠点があり、ユーラシア大陸の大半をマ・クベの鉱山基地を中心にジオンが押さえていた。アフリカは紛争地帯で、オーストラリアはコロニー落としで壊滅している。連邦の戦力はヨーロッパと南米に残るだけで、本部ジャブローは「今日も爆撃か」という台詞があるほど連日空爆を受けていた。新しい宇宙戦艦を造っても、制宙権がないため打ち上げた途端に撃ち落とされる状況だったという。
これを変えたのがオデッサ作戦での勝利である。連邦が「オデッサ・デイ」と呼ぶのは、第二次大戦の帰趨を決めたノルマンディー上陸作戦の「Dデイ」と同等の重要度があったからだと岡田は言う。マ・クベの基地を失ったことで、ジオンは資源と兵力をアフリカへ回さざるを得なくなり、ジャブローへの爆撃も手薄になった。その結果、後の回で連邦の宇宙艦が次々と軌道へ上がっていく場面が出てくる。岡田の見立てでは、この時点でジオンの敗北はほぼ決まっていた。
マ・クベの「あと10年は戦える」という台詞についても、岡田は勝つつもりの言葉ではないと読む。ソロモン、ア・バオア・クー、グラナダがあれば10年は持ちこたえられるから、その間に有利な講和を結ぼうという意味だという。堀を埋められた後の大坂城にすがる石田三成のような心境だったのではないか、と岡田はたとえている。
アバンタイトルが伝える三つの情報
本編は前回の回想から始まるアバンタイトルで幕を開ける。岡田によれば、このナレーションはストーリー、ドラマ、設定という三つの展開を説明している。ストーリーは今回の筋、ドラマは「誰の心を追いかけて観るべきか」、設定は今回注目すべき設定のことだ。
一つ目のストーリーとして、ナレーションは「ホワイトベースはシャアの攻撃を退けて北アイルランドを後にした」と語る。太平洋の横断には第12話から第15話まで4話を使ったのに、大西洋はこの1話だけで渡る。話数に余裕がないので、ナレーションでスケール感を補っているのだと岡田は説明する。
二つ目のドラマとして、ナレーションは「ミハル・ラトキエ、決してスパイを職業とする少女ではない」と語る。岡田はミハルの感覚を、今で言えば悪気なくSNSに人の悪口を書く程度のものだとたとえる。弟妹を養うためにジオンへ情報を売り、良くないとは分かっていても「それで食べられているのだから」と開き直れる程度の意識だった。ただ、艦への潜入はその範囲を明らかに超えている。ミハルは見たこともない額の手付金を受け取り、成功すれば戦争のない土地へ家族3人で移れると考えた。とはいえ、無事にジャブローまで行けたとしても、シャアたちが本当に回収してくれたかどうかは分からない、と岡田は付け加える。
三つ目の設定はGアーマーの空中合体である。ナレーションは、ガンダムがGファイターとドッキングすると左側(台詞上の表現)ががら空きになり、その装甲の弱さが課題だと説明する。
盾2枚の辻褄合わせと、モビルアーマーという変化球
岡田は玩具を使って問題を説明する。ガンダムは盾を左腕に持つので、Gメカと合体すると反対側の腕がむき出しになる。富野由悠季監督の解決策は盾を2枚にすることだった。ただ、常に2枚持たせると、これまで描いてきた盾1枚のガンダムの作画がバンクとして使えなくなる。そこで、2枚の盾が重なって1枚に見え、合体時に両側へ分かれるという設定にした。今回の発進シーンにも、盾が2枚重なるカットがきちんと描かれている。
前話のアバンでは、アムロが全員の前で「盾がもう1枚、それをつなぐコネクター、補充部品が必要」と嬉しそうにプレゼンし、カイが「やってられないよ」とぼやく場面まである。誰も気づかないような矛盾を放っておけない富野は真面目な人だ、と岡田は評する。スポンサーの意向を最大限取り入れつつ、科学的・技術的な矛盾をなくそうとするところに、この時代のガンダムの面白さがあるという。
一方で、毎回新しいモビルスーツを出すやり方は限界に来ており、今回から変化球としてモビルアーマーが登場する。岡田は小さな模型を見せながら、ガンダムが15〜20mなら、グラブロは40mくらいありそうな巨大な機体だと説明する。モビルスーツより大きく、速く、硬く、武器も多い。ザク、グフ、ドムと順に強くしていく方式ではきりがないので、巨大な敵を出してモビルアーマーと名付ける方向へ進んだのだろう、と岡田は推測する。グラブロにはまだザクと共通するモノアイが付いているが、エルメスあたりになるとそうした共通点も消えていく。
黒い雲とタイトル:予告としての画面
アバンの最後では、夜空を飛ぶホワイトベースの上を、合体訓練中のGアーマーが追い抜いていく。ナレーションが「目的地は」と言った瞬間、ホワイトベースは黒い雲に突っ込み、「大西洋、血に染めて」のタイトルが出る。岡田は、本当の目的地はジャブローではなく大西洋であり、そこで起きるのが「血に染めて」のドラマであることを、黒い雲への突入で暗示していると読む。
1979〜80年当時の大人向けドラマは刑事物、ホームドラマ、2時間サスペンス、時代劇だった。そうした時代に子ども向けロボットアニメへここまでのドラマ性を持ち込んだガンダムは、ロボット世代の子どもにとってNHK大河ドラマのようなものだったと岡田は言う。ただし、なぜ黒い雲に入るのかは、大人になって分析的に観ないと分からない。
タイトルの後、原子力空母と駆逐艦が対潜行動中に水中からのミサイルで撃沈される。海上のスパイカメラから海底へ延びるケーブルの先で、シャアが「連邦軍のクジラは大きかったようだな」と上機嫌になっている。ブーン艦長がスパイを木馬に送り込んだことを褒めつつ、どうやって情報を取るのかと問う。冒頭のこの短い流れで今回の筋が示されると岡田は説明する。
ブライトの部屋に潜むミハル:白目と銃口
続いてミハルが館長室に忍び込み、引き出しを探る。ブーンの声で「第1に行き先を突き止める。第2に木馬の性能に関するあらゆる資料を手に入れる。今夜5時に接触を取る」と指示が流れる。カイが「ブライトさん、そろそろブリッジに」と入ってきたので、ミハルは机の下に隠れる。
岡田がまず注目するのは色指定だ。隠れたミハルの顔は影色で塗られているのに、白目だけは光の色のまま残されている。目にだけピンライトを当てたような効果で、1960年代の映画やモノクロ時代のアメリカの犯罪映画にある手法を、色指定で再現しているという。黒目を中央に小さく置くことで、追い詰められた怯えも表している。
服が破れる音でカイが屈み込み、二人の目が合う。このカットは前のカットと兼用することもできたはずなのに、わざわざ描き直されている。銃口がはっきりカイに向いていることを見せるためだと岡田は説明する。見つけたのが知っているカイでなければ、ミハルは撃っていたかもしれない。その緊張を一枚で示すカットだという。
「半分は嘘じゃない」:言わせないという選択
カイは相手がミハルだと気づいた瞬間、声を落として「ミハルじゃねえか」と言う。岡田は、この小さな声の芝居に「共犯者になってやろう」という感情が出ていると読む。ミハルは銃を下ろし、一歩寄って「あんたについていきたかったんだよ」と媚びる。カイが制服と拳銃のことを問い詰めると、ミハルは目を伏せ、顔を背け、やがて意を決したように「カイさん」と言いかける。
カイはそれを遮り、「あんなに兄弟思いのあんたが、俺を追ってきたなんて嘘だってことは分かってるよ」と言う。岡田によれば、これはミハルに「スパイだ」と言わせないための言葉だ。戦場でスパイと認めれば即決裁判で銃殺になりうるし、聞いてしまえばカイ自身も軍人として動かざるを得ない。前回カイが不用意に情報を漏らしてホワイトベースを危険にさらしたことを踏まえ、同じ過ちを繰り返さない成長として岡田はこの場面を読んでいる。
ミハルは「嘘じゃないさ、半分は嘘じゃない」と返す。追及が止むと、今度は女心で分かってほしくなるのだと岡田は言う。このカットではミハルが中央ではなく左寄りに置かれ、右に不自然な空間がある。そこへカイが大きくフレームインし、「しっ」と立てた指がちょうどミハルの口を隠す。実写でこれをやると、リハーサルも要るうえにわざとらしいアングルになる。平面の絵だけでできているアニメだから自然に見える技法であり、岡田はこの時期の富野をアニメ演出の歴史上で一番の存在だったとまで評価する。廊下を歩く場面を省き、ドアの開閉音から次の場面へつなぐ省略も見事だという。
台詞のない芝居と、女の子が「女」になる瞬間
カイの部屋へ向かう途中でアムロに見られる。カイはアムロの背中に手を回し、「野暮なこと聞くんじゃねえ」「南米で降ろすから内緒だぜ」と男同士の会話をする。岡田は、カイが相手の肩や背中に触れて信頼を得ようとするボディランゲージを繰り返し使う人物だと指摘する。一方、部屋の中で「南米」と聞いたミハルの顔は、スパイのものに戻っている。
部屋に戻ったカイは男の顔で入ってきて、ミハルの名前を呼ぶとすぐデレデレになる。姿が見えずに不安になり、見つけて口角が上がる。それを横目で見たミハルの顔は「女の顔」になっている。ここは台詞がまったくない。この男は自分に惚れ始めていると分かった安心から、ミハルは少し女っぽさを出したのだと岡田は読む。
岡田はここで富野の女性観を紹介する。アニメで女の子を描いても仕方がなく、ある瞬間に「女」になり、また子どもに戻るところを描かなければ意味がない。自分の女をどこで出し、どこで出さないかを交互に描くことが色気なのだ、という考え方である。これに対して宮崎駿のクラリスやシータは、好きな相手の前では一生懸命なところしか見せたくない女の子として描かれる。どちらが正しいということではなく、互いにどんな女性に振られてきたかの世界観の違いだろう、と岡田は笑う。
カイが「南米の宇宙船用ドックに入るんだよ」と小声で漏らし、肩に手を置いて「南米に着くまでにやられたら、お互い生き残れないだろう」と言う場面は、カットを割らずにカイの表情だけで通している。演技の圧力を落とさないためだと岡田は説明する。ミハルは俯いてから笑顔で顔を上げるが、ここで笑う理由は本来ない。カイの信頼を得るための笑顔、つまり再び騙そうとしている合図だと岡田は読む。同時にミハルは、この人を信じてよいのかどうかも迷っている。
カイが去った後のミハル
岡田がこの読みの証拠として挙げるのが次の場面だ。カイが出て行くと、ミハルはまず壁にもたれてため息をつき、そのまま窓へ駆け寄って外をうかがう。メモには「今朝5時頃、腕の無線機で連絡を取る」とあり、ミハルは「時間ないな」とつぶやく。緊張が解けた瞬間にスパイに戻るところまで見せるのが富野の残酷さだと岡田は言う。
岡田はこれを「リアルな人間」として評価する。人は誰かに「そうだよね」と相槌を打つとき、そうしておけば場が収まるという計算をしているものだ。アニメの純真なキャラクターに慣れると、人間の複雑さを忘れてしまう。逆に、暗黒面を過剰に描く作品を岡田は「カラムーチョ」と呼び、高級だとは思わないと言う。例として『ひぐらしのなく頃に』の名を挙げ、好きな人が多いのは分かるがと前置きしている。
制作現場ではスタッフが泣きながらミハルを描いたという逸話があることにも岡田は触れる。そのうえで、この作品はかわいそうな少女をかわいそうなだけには描かず、本人の罪も描いていると強調する。なぜカイが生き残り、ミハルが死んだのか。ミハルは要所要所で信じるべきものを信じず、立て直そうとしたときにはもう遅かった。宮崎駿ならミハルを「泣かせるために死ぬキャラクター」と批判するだろうが、ちゃんと観ればそうではないと岡田は反論する。
ブーンの潜入と「後部デッキ」という舞台
ブーンはゴッグとズゴックで4機のモビルスーツと4人のパイロットを失っており、一度は約束された本国帰還も危うくなっている。手柄を取り戻すため、自ら漁業組合の飛行機を装い、故障を口実にホワイトベースへ着艦する。部下にはジオン訛りがあるから喋るなと命じ、トイレで腕時計型の無線機を使ってミハルと交信する。分割画面で「南米の宇宙船ドック」という情報を受け取る。
戻ったカイは、ミノフスキー粒子で無線が使えないのに連絡がつくのはおかしいと気づき、着艦した民間機が怪しいと後部デッキへ走る。しかし機体はすでに飛び去っていた。岡田がここで強調するのは場所の選び方だ。緑の壁の後部デッキは、ブーン機の接近、ブライトとの面会、カイの「撃ち落とせ」という叫び、そしてラストでカイが崩れ落ちる場面まで、繰り返し映される。最後にカイのガンペリーがブーン機とまったく同じ構図で帰還することも含め、回全体の映像的な伏線になっている。
マッドアングラー隊に戻ったブーンは、シャアにモビルアーマーの出撃を願い出る。潜水艦で飛行する艦を追う不自然さを、富野は「モビルアーマーならここから発進しても木馬をキャッチできる」という台詞で解決し、ついでに新兵器を紹介したのだと岡田は言う。岡田自身は、ズゴック2機をワイヤーで引くグラブロを「ドッキリメカ」のようでロボットアニメの先祖返りだと楽しんでいる。
ホワイトベースのブリッジは「壁を描かない」発明
迎撃の場面で、岡田はブリッジのデザインを詳しく解説する。後方、側面、天井、床が巨大なディスプレイになっている。艦内の壁を機械で埋めると作画が膨大になる。『宇宙戦艦ヤマト』では後半になるほど壁の機械が省略され、メーターだけが残り、照明が暗くなっていった。『宇宙海賊キャプテンハーロック』のTV版もそうだったという。ホワイトベースのブリッジは、未来的に見えるうえに壁をまったく描かずに済む画期的な発明だと岡田は評価する。ディスプレイに攻撃を映せば見せ場にもなる。
ブライトは階段の中ほどに座り、その上に正オペレーターのマーカーと1年後輩のオスカがいる。天井のディスプレイを映すカットはカメラが後方にあり、レーダーのカットではカメラが前方に回るため、二人の左右が入れ替わる。そのぶん手すりの位置まで正確に描いて位置関係を保っている。コクピットならキャラクターのアップで盛り上げられるが、ブリッジで緊迫感を出すには、こうして次々にアングルを変える必要がある。岡田はこれを、横に並べがちなキャラクターを立体的に配置する工夫として見ている。
攻撃の中でミハルが知ったこと
被弾で揺れる艦内で、ミハルは弟妹と同じ年頃の子どもたちが消火器を持って働いているのを見る。このとき視線が上手から下手へ流れているのは、富野の映像文法で「行動を起こす原因を見ている」ことを示すと岡田は言う。
岡田はさらに、作中で語られていない感情を読み取る。ジオンは自分が乗っている艦をミサイルで攻撃してきた。落とすつもりなら、なぜさっきの飛行機に自分を乗せてくれなかったのか。自分もろとも殺すつもりなのだ。うまく立ち回っているつもりで、結局は使い捨てにされていたと分かった怒りが、後半の「戦わせて」の土台にあるという。尺に収まらず泣く泣く削ったのだろうが、仕込みは見える、と岡田は語る。
視聴者から「兵は使い捨て」というコメントが入ると、岡田は、それは兵隊が自嘲的に言う言葉で、上層部が本気でそう考える軍隊はすぐ滅びると返した。例として、後のソロモン陥落時に脱出兵の救出をめぐって部下が上官を諫める場面を挙げている。
第1・第2デッキの破壊が作る必然
Bパートの冒頭、Gアーマーが発進した直後に第2デッキが直撃を受け、人が吹き飛ぶ。悲鳴まで入っている。視聴者の新井さんから、ベルファストの市街が壊れたときでさえ人が死ぬ描写はほとんどなかったのに、この回は二度も人の死が描かれる、これはミハルの罪を描くためではないか、という質問が寄せられた。岡田は「その通り」と答える。ホワイトベースが攻撃されているのは、ミハルが目的地を教えたからにほかならない。死ぬ人物は報いの結果として死ぬ。それが子ども向けアニメの倫理だと富野は考えたのだろう、と岡田は言う。
続いてハヤトのコアファイターが発進した直後に第1デッキも被弾し、モビルスーツもコアファイターも出せなくなる。演出上の理由はもう一つある。合理性を重んじるカイが、攻撃力のないガンペリーに民間人を乗せて出撃する状況を作るには、他の選択肢をすべて潰しておかなければならない。デッキが生きていれば、カイにはガンキャノンかコアファイターで出ろという命令が出たはずだと岡田は説明する。
「被弾はいつものこと」と感じる視聴者も多いが、援護のない単艦で大量のミサイルを浴びる今回は、シリーズ最大級のピンチだと岡田は言う。ブライトが対潜ミサイルを積んだガンペリーの発進を命じ、フラウが館内放送でカイを第3デッキへ呼ぶ。エンジンの蒸気に直結した強力なカタパルトを持つ第3デッキは、大型機の発進に使われる。
走るカイを、遅れていたミハルが少しずつ追い詰めていく様子が3カットで描かれる。軍人のカイは頭がぶれず、顔も左右対称で平常心を示している。ミハルの顔は左右非対称で切羽詰まっている。第3デッキで再び子どもたちが吹き飛ばされ、ミハルは「弟たちが助かってあの子たちが死ぬなんて許されない」「このままじゃまたジオンに利用されるだけ」と迫る。ミサイルが目の前を飛ぶ中、カイは「射撃要員は要るんだ」と同行を許す。岡田はここを運命の分かれ道と呼ぶ。
水中ではアムロのガンダムがグラブロに足を掴まれ、ビームライフルも水中では敵の腕を少し溶かすだけだ。一方のブーンは「こいつ、水中用にどんな武器を持っているんだ」と疑う。ガンダムが勝つ理由を根性や偶然にせず、敵の不安という隙として積み上げていると岡田は見る。
ハイジのモンタージュと、エヴァの構図
途中で岡田は脱線し、ガンダムの分かりやすさの源を『アルプスの少女ハイジ』に求める。漫画家の発想で構図に頼りがちだった虫プロに対し、東映動画は引いた絵の中で演技で解決する。富野はハイジに参加し、おじいさんがチーズを炙る場面のように、意味のない笑顔を一つ挟むだけで観客に優しさを想像させるモンタージュを学んだ、というのが岡田の見方である。
対して『シン・エヴァンゲリオン』(講座内の呼称は「シン・エヴァ」)は構図が美しいが、ガンダムなら何カットにも割る場面をワンカットで見せるため分かりにくい、と岡田は言う。TV版エヴァ当時のガイナックスにはレイアウトの描ける人が数人しかいなかった。それを補ったのが、手前に大きな物を置く、隙間から覗く、極端な魚眼で捉えるといった実相寺昭雄のアングルだったと岡田は説明する。実相寺アングルは、予算や時間の制約を構図で乗り切るための方法だったという。
三つのレバーと、最後の笑顔
ガンペリーの対潜ミサイルは片翼に3発。カイは「レバーは一つずつ押せ」と指示し、ミハルは水面から目を離さず、人差し指で1発目、中指で2発目を撃つ。どちらも外れる。3つ目のカットは、ミサイルが外れたこと、機体が水面すれすれまで急降下していること、ミサイルがまだ1発残っていることを同時に伝えるために必要だったと岡田は説明する。直後、ズゴックのビームが左翼をかすめ、電気系統がやられて3発目が撃てなくなる。
カイが「カタパルトの脇のレバーが動かせりゃいいんだが」と言いながら横を見ると、席は空いている。さらに目線を動かすと、ミハルが「カタパルトの脇にレバーがあるんだろう」と笑っている。ミハルが席を立つカットは入れず、カイの視線の動きだけで不在を見せる。岡田はこれこそが演出だと言う。この笑顔は戦闘中のカイにとっては余計なものだが、すべてが終わった後に思い出すのはこの笑顔になる。岡田は、運命は変えられないのでせめて最後に笑わせてやろうというスタッフの心遣いだと読み、『もののけ姫』でアシタカが村を去る場面に宮崎駿が「いい曲を書いてやってくれ」と頼んだ話を重ねる。キャラクターが本当に生きていると思わなければ出てこない発想だという。
ここで岡田は、富野自身が「演出は展示できない」と語っていたことを紹介する。各地を巡回した富野由悠季の展覧会で、富野は作品の展示には感謝しつつ、演出は見せられていないと話していたという。岡田も3回ほど会場に足を運んだ。設定書や絵コンテやインタビューをいくら集めても、当時の予算と表現の制約の中で何をしようとしたかを読み取らなければ演出は見えない。学芸員の中にそれを読み取れている人はいなかった、と岡田は言う。だから自分は、再生数が3000〜4000の動画を毎週無料で出し続けているのだと語った。
ミハルの死:瞳孔が語るもの
はしごを降りたミハルは、巨大なミサイルの横の制御盤に取り付く。風切り音でカイの声はほとんど届かない。迫る波を主観移動で動かし、集中線を使う作画を、岡田は出崎統の演出に通じるものとして挙げる。浮上してくるズゴックを見つけたミハルは「向こうから来てくれたよ」と喜び、右手で3本のレバーを一度に握ってしまう。
岡田は、ミハルが爆風で吹き飛ばされて海に落ちて死んだと昔は思っていたという。ところがコマ単位で見ると、心音のような音とともにスローモーションになるカットで、1コマ目は驚いて見開いた目なのに、髪留めが切れて髪が乱れた後の4コマ目では瞳が明らかに小さくなっている。岡田はこれを瞳孔が開いた描写と読み、3発同時点火の衝撃波による内臓破裂で即死したのではないかと推測する。ロケット技術者を志したほどの富野ならその威力を知っていたはずだという。サターンV型の発射台や『王立宇宙軍 オネアミスの翼』でも、噴射口の下に水を張るのは熱対策ではなく衝撃波対策だった、と岡田は付け加える。力の抜けた体が空中を落ちていく作画には、かなりの枚数が使われている。
誰も知らないミハルの手柄
誘導もしないミサイルを機首の向きだけで撃っても、本来は当たらない。3発同時の爆発による衝撃波があったからこそズゴックを撃破できた、と岡田は見る。カイは「やったぞミハル」と喜ぶ。手柄を立てた少女としてならミハルを皆に紹介できる、という思いもそこにあったのではないかと岡田は推測し、その喜びが切ないと言う。爆炎の前をガンペリーが通過するカットは、状況を分かりやすく示すと同時に、ミハルの死に場所とカイの居場所がすれ違ったままであることを見せている。
さらにこのズゴック撃破が、ガンダムの勝利にもつながる。グラブロはガンダムの足を引きちぎって「もうひと息」と余裕を見せるが、ズゴック撃破を知らせる赤いランプがブーンのヘルメットに映って点滅し、ブーンは目線を落としてしまう。3機でホワイトベースを落とす計画が崩れ、帰国の望みも消えたからだ。その隙にガンダムがビームサーベルをモノアイに突き立てる。アムロは「足をちぎったのが間違いだった、動きやすくしてくれた」と言う。岡田によれば、ホワイトベースとガンダムが助かったのはミハルのおかげだが、それを知っているのは視聴者だけで、カイすら知らない。
後部デッキで、カイは泣かない
カイが帰還するのは、ブーン機と同じ構図の後部デッキだ。かつて「スパイを撃ち落とせ」と叫んだその場所で、カイは同じスパイだった少女の死を知る。ブライトに問われたハヤトの「いえ、知りませんね」という突き放した言い方や、アムロが「密航者です」と言った後に叱られることを気にして目を逸らす様子が、カイの孤独を強めている。
岡田がすごいと言うのは、うずくまって嗚咽するカイに涙が描かれていないことだ。「ミハルが亡くなっちまって」とブライトに説明しようとしたときに、ようやく目元にかすかな涙がにじむ。真相を話せば、仲間を死なせたスパイとしてミハルが憎まれる。話さなければ、ミハルが命をかけた理由も伝えられない。言いたいのに言えないという辛さの中で、カイは初めてミハルの気持ちが分かったのだと岡田は読む。
背後の巨大な幻と、後ろ向きの叫び
回想では、ホワイトベースとカイとミハルの姿がダブラシで重ねられる。岡田は、2枚目は人物とホワイトベースの濃さが逆であるべきで、露出の失敗だろうと指摘する。それでも、撮影に無理を求めてでも使える演出を尽くしているのがこの回だと言う。
うずくまるカイの背後に、写実寄りの絵柄の巨大なミハルが覆いかぶさり、「あんたに会えてよかった」「ジルとミリーなら大丈夫さ」「いつまでもこんな世の中じゃないんだろうね、カイ」と語りかける。岡田はこれを、傷ついたカイが必要とする「嘘の記憶」だと読む。初代ガンダムでは死者は本音を語らない。死後に語りかけるのはララァだけで、それも生き残った者の願望として描かれる。ガルマの最期にイセリナが何を言ったのかを観客に聞かせないのも同じリアリズムだという。カイは幻だと分かっているので振り返らない。カメラが寄るにつれてミハルはフレームから消え、声も途切れる。そこでようやく、カイはストロボ効果のスローモーションで立ち上がる。幻を振り切るのにそれだけの意志の力が要ったことを示すためだと岡田は説明する。
立ち上がったカイは泣いていない。人は自分を哀れむときや自分を許そうとするときに泣くので、「泣きながら謝る相手は許すな」と岡田は言う。だからここで泣いていないカイは信頼できるのだという。カイが「なんで死んじまったんだ」と叫ぶ瞬間、画面はやや後方からのホワイトベースのロングに引く。後部デッキにいるカイは、艦が遠ざかっていく後方、つまりミハルが死んだ海へ向かって叫んでいる。それを示すための構図だと岡田は説明する。
劇場版との比較、そして打ち切りの影
講座の最後に、岡田はTV版と劇場版『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』の同じ場面を比べた。劇場版では幻のミハルが生前と同じか、それ以上に可愛く描かれ、カイは振り返って「お前はそれでいいのかよ」と問いかける。ミハルは「間が悪かったんだよ」とカイを許す。尺がない分、分かりやすさに振り切った作りだと岡田は言う。
TV版では、カイは慰めの言葉に甘えず、背を向けたまま一人で立ち上がる。岡田はこれを、カイが軟弱者を卒業する瞬間と見る。以後のカイが戦争を一刻も早く終わらせるために主体的に戦うのは、幻のミハルが最後に言った「いつまでもこんな世の中じゃないんだろうね」への答えになっているという。こうした細部があるから、ガンダムを観るならTV版を観てほしい、と岡田は語った。
次回は第29話「ジャブローに散る」である。「血に染めて」の次が「散る」になるのは、ちょうどこの頃に打ち切りが決まったことと関係しているのではないか、と岡田は推測する。視聴率が振るわないので誰かを死なせて盛り上げようという考えが作り手の頭をよぎり、同時に話を巻かなければならなくなった。その結果、悲劇が重なってしまったという不幸もあっただろう、というのが岡田の見立てである。
おはようございます。岡田斗司夫ゼミです。テレビシリーズの『機動戦士ガンダム』を1話ずつ紹介していくのが毎週土曜日なんですけども、今回は第28話「大西洋、血に染めて」を話していきます。今回の第28話は、第26話「復活のシャア」、第27話「女スパイ潜入!」に続く、カイ三部作の最後のエピソードになります。26話でカイとミハルという女の子の出会いが語られて、第27話ではお互いを知るという展開がありました。その後、今回の28話で、一瞬の心の触れ合いと別れが語られるわけですね。
名エピソードが多いテレビ版のガンダムの中でも、この「大西洋、血に染めて」が一番好きと答えるファンも多いです。それぐらい本当に名作だと思います。今日の動画で、そんな28話を、アニメ演出とは何かという部分にこだわって徹底的に解説していきます。この動画は、岡田斗司夫の機動戦士ガンダム講座の第79回から88回まで、10回分をまとめたものです。だから、2時間半ぐらいあります。動画の一番最後には追加の話もあるので、まだ追加の話あるんですね、楽しみにしてください。それでは、ここから無料動画スタートです。
じゃあ、『機動戦士ガンダム』「大西洋、血に染めて」を、今日は解説していこうと思います。28話なんですけど、28話までの戦争状況を、ちょっと大雑把にまとめますね。基本的に、この28話までは、地球の軌道から上の宇宙空間はジオンが占領してると。それに対して地球は、ジオンと連邦軍が半々ぐらいで、連邦はかなり押されてるというふうに勢力ができてると思っておいてください。
ガンダムの3話だったかで、ルナツーというところから地球に行く時に、ワッケイン司令という人がいるんですけど、そのワッケイン司令が、地球に降りていくホワイトベースに対して、サラミス1隻しか護衛をつけてやれないと言うんですね。つまり制宙権ですね。いわゆる昔で言うと空ですか、宇宙空間を支配しているのはジオンであって、地球連邦も自由にできない。さらに、1隻ぐらいしか護衛につけてやる余裕しかないというのが言われてます。
この時の勢力図を、みのり書房のガンダム関係の書籍で見つけたので、簡単に説明してみると。これ上下逆だった。すいません。この前のフリップ立ての方が使いやすかったな。これ地球ですね。この地球の軌道の周りにラグランジュポイントという、重力がちょうどバランスが取れてるところがあります。この重力のバランスが取れてるところを中心にして、軌道にいろんなものが回ってるわけですね。サイド7は、月の反対側のラグランジュポイントの周りを回ってます。ルナツーも同じ重力の中心に対して、ラグランジュポイント3に対して回っていますね。だからサイド7からルナツーに行って、ルナツーから地球に帰ってきたわけです。
ここからいよいよお話は宇宙に行くんですけども、このルナツーから地球に対して行く時も、サラミス1隻しか使えない。つまり、ジオン本国、月のグラナダ、宇宙要塞ソロモン、本来中立であるべきサイド6なども、全てこれジオンの支配下なんですね。これだけがジオンの支配なのに対して、地球のそこそこ管理というか支配が行ってるのは、中立と一応うたってるサイド7とルナツーぐらいなんですね。そういう、すごく負け戦の最中だと思ってください。
なんでこんな状況になっちゃったのかというと、戦争の初期段階で地球連邦の宇宙戦艦はほとんど沈められたからなんですね。新たに宇宙船を作って、もちろん宇宙空間に出すこともできるんですけども、それ現状無理なんですよ。なんでかと言うと、地球自体もかなり広い面積がジオンに奪われてるので、地球の衛星軌道に宇宙戦艦を上げることができないんですね。新たに宇宙船を打ち上げようとしても、この外側の軌道、制宙権自体がジオンに握られてるので、宇宙戦艦を上に上げようとしても、ジオンから撃ち落とされてしまうんですね。
基本的に、南米とヨーロッパ以外はジオンに占領されてるというのが、28話ぐらいまでの基本的なポジションなんですけども。北米には、北アメリカ大陸にはジオンの本拠地があるし、アジアにはマ・クベの鉱山があったんですね。このアジア、ユーラシア大陸をほとんど押さえられてるということが大きかったんですよね。アフリカは紛争地帯です。今回の「大西洋、血に染めて」の回でも、シャアが、アフリカ戦線があるからあんまり動けないと言ってます。
つまり、ヨーロッパはなんとか連邦が押さえてるんですけども、アジア、特にソ連の辺りから中国の辺りまで全部ジオンが押さえてるわけですよ。そこをオデッサという辺りで紛争してたんですけど、それ以外にアフリカでも、連邦軍とジオンの陣地争いがあるみたいなんですけども。オーストラリア大陸はコロニーが落ちて全滅してるので、ほぼ地球中、ジオンに占領されてるような状態ですね。地球連邦軍はマ・クベと対抗するためにヨーロッパに布陣してたんですけども、残りは全て南米大陸にしかないような状況だったと僕は考えてます。
南米のジャブローというのは連邦軍の本部なんですけども、毎日毎日ジオンから爆撃を受けてると。「今日も爆撃か」というセリフがあります。毎日毎日ジオンからの爆撃を受けてるぐらいなので、あまり派手に動けないですね。隠し通路を使ってホワイトベースも出入りする始末ですね。だからこんな状態では、本当はジャブローの中で新しい宇宙戦艦を作っても、それを衛星軌道に打ち上げること自体が大変難しい状況だったわけですね、ついこの間まで。
しかし、すごい大きな変化が起こります。その大きな変化というのが、マ・クベ鉱山基地の敗北です。いわゆる「オデッサの激戦」は何を描かれたのかと言うと、なんで連邦軍がオデッサ作戦をオデッサ・デイと呼んでるのか。これは第二次大戦の勝敗を決めたのがノルマンディー上陸作戦、Dデイと呼ばれたからですね。同じぐらいの重要度を持っていたわけです、ジオンとの戦争において。
なんでオデッサの戦いはそんなに重要だったのかと言うと、そのマ・クベの基地を奪われたジオンというのは、ユーラシア大陸全部を連邦に奪われたことになるからですよね。一気に、それで負けて陣地を失ってしまうわけではないんですけども、もともとユーラシア大陸というのは広すぎて、連邦もジオンも運営しかねていたんですね。だから、アムロの故郷の田舎の鳥取県にホワイトベースが帰ってきた時に、ちょうど連邦とジオンとの両方の兵隊がいて、どっちも積極的に武力衝突しようとしてなかった。なんでかと言うと、アジアというのはでかすぎて、両者とも持て余してたんですね。
それでも旧ソ連の辺りをマ・クベが押さえていたところが、このマ・クベという要石が外れてしまって、宇宙空間に撤退して、マ・クベの鉱山基地が全て連邦の手に落ちたわけですね。そうなると、次はアフリカ戦線が怪しくなってくるんですね。北アメリカのジオン本部はアフリカに兵を送るしかなくて、そうなると南米ジャブローに対する連日の爆撃も、これまでみたいにいかなくなってくると。だんだん南米に回せる兵隊が手薄になってくるわけですね。
これのおかげで、後に、あれはどの回かな、「ザンジバル追撃!」の回で、連邦軍の宇宙船がホワイトベース以外にどんどん衛星軌道へ上がっていくシーンがあります。あれ何かと言うと、マ・クベのオデッサの戦いで勝ったからなんですね。オデッサ・デイに勝利したので、ジオン軍は連邦軍が宇宙船を打ち上げるのも阻止できなくなっちゃったんですね。なので、いわゆる地球の制空権が取れた。ジオンの制宙権がちょっとだけ怪しくなってくると。
これまでみたいにマ・クベから無限に鉱山資源が入ってくるわけではないので、宇宙戦艦も次々と新しいものができるわけではないと。ようやくここで、連邦とジオンの持っている資源の差、国力の差というのがはっきりしてきて、ホワイトベースをはじめとして、南米のジャブローから次々と新型の宇宙戦艦を宇宙空間に上げることができるようになったと。だから実はオデッサの戦いに負けた時に、ジオンの負けというのは、ほぼ半分方確定してるわけですよ。この辺の陣地の取り合いというのが、すごい面白いんですけども。
なのでジオンは、後にジャブロー攻略戦というのを、ホワイトベースがジャブローに来た時に仕掛けるわけですね。今ちょっとコメントあったんですけど、「でもマ・クベは、あと10年は戦えると言ってる」。その通りなんです。あれどういう意味かと言うと、地球を手放して宇宙空間に籠城したら、ソロモンとア・バオア・クーとグラナダがある限り、ジオン本国はあと10年戦えるという意味であって、もう勝てるとは思ってないんですよね、マ・クベですら。あと10年戦うから、その間に有利な交渉を結ぼうと思ってたわけなんですよね。
後にホワイトベースがジャブローに入ってきてから、ジャブローの攻略戦を始めるんですけども、これから何か月か後に話すことになると思うんですけど、ジオンは物量の少なさで負けます。どうやっても、もう勝てないんですよね。要塞攻略するには、爆撃機もモビルスーツの数も少なすぎたので、結果的にジャブローに侵入できたのは、シャアの持っていた独立部隊だけだったんですね。
その結果、ジャブローから大量の、本当に大量の宇宙戦艦の打ち上げを許し、その中には新しく建造したというか、開発したガンダムの量産型のジムというのも、いっぱい載せてる状態なわけですね。ソロモンは物量作戦で落ちてしまうことになります。ア・バオア・クー要塞も国力の差で負けてしまうという将来が見えてるんですけども、全てのこの起こった原因というのは、オデッサの敗戦にあります。
だから核兵器を使ってでも、なんとかこのオデッサでマ・クベが撤退してしまう、そういうことはなくしてしまうと。もう1回戦争でぐっちゃぐちゃになってでもいいから、核兵器を使ってでもいいから、連邦軍に引き上げさせようとしたマ・クベのやり取り、駆け引きというのは、それがあったんじゃないのかな。それがもうダメになってしまったから、マ・クベはあと10年は防衛できるという。本当に大坂冬の陣が終わったような状態ですね。堀を埋められたけど、大坂城があるから豊臣家だけはなんとか守れるんじゃないのかという、石田三成のような気持ちだったのではないでしょうかと思います。
ということで、やっと『機動戦士ガンダム』第28話「大西洋、血に染めて」に入ります。最初の方から解説していきますね。一番最初は、アバン、いわゆるタイトルが出る前のやつで、ナレーションで説明されます。ナレーションで3つの展開が説明されます。1つ目はストーリー展開、2つ目はドラマ展開、3つ目は設定ですね。ストーリーとドラマは違うんですよ。ストーリーは今回のお話ですね。ドラマは、今回誰に注目して誰の心を追いかけるべきかですね。誰の心をずっと追いかけて見るべきか。3つ目が設定で、今回から新しくというか、注目すべき設定はどの辺かという、この3つがあります。
前回の回想シーンから始まります。アバンタイトルですね。前回、北アイルランド、ベルファストの港を夜に飛び立ったホワイトベースですね。ナレーター、「ホワイトベースはシャアの攻撃を退けて、北アイルランドを後にした」というシーンです。これがストーリー展開ですね。今どうなってるのか説明してくれてる。
ホワイトベースは、もともとは北アメリカ大陸に、宇宙から降りてきた時に着陸して、その後アメリカ大陸を横断して、太平洋をさらにまたいでいってるんですね。太平洋を越えるのに12話から15話まで、4話も使ってるんです。12、13、14話と、4話も使って太平洋を横断してるんですけども、この次、大西洋の横断、この1話だけなんですよ。第28話「大西洋、血に染めて」で、たった1話で大西洋を横断するんですね。だからあんまり話数に余裕がないんですよ。
なので改めて、視聴者に今ホワイトベースは大西洋を飛び越えてるんだというスケール感を見せたいために、「ホワイトベースはシャアの攻撃を退けて、北アイルランドを後にした」というナレーションがあるわけですね。次に、忍び込んだミハルを見せています。「しかし、その中にシャアの密命を受けた少女が潜んでいた。ミハル・ラトキエ。決してスパイを職業とする少女ではない」というナレーションがかかります。これが2番目のドラマ展開ですね。
ミハルがプロのスパイではなくて、軽い気持ちでジオンに情報を流していた少女、いわゆる子供だというのが分かるわけですね。たまたま幼い弟や妹を食わせるためにジオンに情報を売っていた。今の時代で言うと、悪気なくネットで、Twitterで人の悪口を書いてるぐらいの意識なんですね。もちろんそれが良くないことは分かってるし、それを周囲に知られたくないんだけども、そんな悪いはずがないと。現にそれで小遣い稼ぎができていて、弟や妹が食えてんだから、どこが悪いんだって開き直りができるぐらいなんですよ。
しかし、だからといってホワイトベースに潜入するというのは、ミハルがこれまでやってきたスパイ行為の範囲を明らかに超えてるんですね。自分が危険を被って、見つかったらどうされるか分かんないわけじゃないですか。だからホワイトベース潜入に対しては、ミハルも、もらってびっくりなぐらいの大金を最初にもらうわけですね、手付金として。成功すればさらに金がもらえるぞということで、ミハルは、じゃあもうこれで戦争がないところに家族3人で引っ越そうと考えるわけですね。
ただこれ、ミハルがこんな潜入してるからといって、もし無事にミハルがジャブローまで行けたとしても、その後本当にシャアやシャアの手下がミハルを回収してくれたのか、アイルランドまでもう1回護送してくれたのかというのは、分かんないままですよね。
同時に、3番目、オープニングのナレーションで説明されるのが、ガンダムの空中合体ですね。Gファイターとガンダムの空中合体。ナレーターのナレーションですね。「アムロの指摘した通りだった。ガンダムからGブルにドッキングする時、左側ががら空きになる。この装甲の弱さをいかにカバーするかが、今後のガンダムシステムの最重要課題と言えるだろう」。
どういう意味かというと、このガンダムの左側を見ると、ガンダムの盾がついてるんですね。ところが右側を見ると、腕がむき出しになってる。盾がついてないんですね。これを説明するために、軽くガンダムのおもちゃを出しますね。うまく僕は合体させられないんですけども、これ、ガンダムにいわゆるGメカというのが合体してる状態です。
ガンダムの盾というのは、普段ガンダムが左腕に持ってるんですよ。こちら側についてるわけですね。だから空を飛んでいても、ガンダムのこの左側は盾で守られてるわけなんですね。ところが右側は、体が完全にむき出しになってるわけです。完全にむき出しになってるから、ここは防御的に弱いということですね。富野さんが考えたのが、ガンダムの盾を2枚用意すると。2枚を用意して、それぞれを両方の腕に持たせると。これで毎回毎回ガンダムを飛ばそう。
ところがこんなことをやってると、それまでガンダムの作画で、左の腕だけに盾をつけたガンダムを描いてますよね。これがバンクとして使えなくなる。と言っちゃえば、かっこ悪くなるというのもあるんですけど、何より大きいのは、これまでの作画で使ってたシーンがもう使えなくなる。なので、この盾をこんなふうに重ねて、1枚になっちゃうシーンを出そうと。そしたら以後は、このガンダムの盾が1枚に見えるけども、実はこれ2枚に分かれるんですよ。そしてGファイターに乗った時は、これが両側につくんですよというふうに言うと。
これによって、ガンダムがこのGファイターという強化パーツがついてるくせに弱くなるという変な矛盾を解消することができるんですね。本当にご苦労様な設定と言うんですかね。俺ね、これ見た時思ったのは、富野さん真面目なんだなと。ガンダムのそんなことも誰も気がつかないし、ガンダムの右手に盾がついてようがどうしようが、そんなシーン入れなきゃいいじゃないですか。でも富野さん、気になってしょうがないんですよ。
おもちゃから、このかっこ悪い不細工なメカを出してくれと言われたら、出しますよと。でも右側の防御どうすればいいんですか。いや、盾2枚持たせりゃいいんですよ。毎回毎回盾2枚持って出てくるんですか。じゃあ「ガンダム行きます」って発進するシーンも全部作り直しになると。どうすりゃいいんだろう、この矛盾というところで、盾を2枚重ねると。今回、ちゃんとガンダムが発進して戦闘するシーンに、盾が本当に2枚重なるシーンを描いてるんですよね。ご苦労さんですよ。なんだかんだ言って、真面目な人なんだろうなと。
前回、「女スパイ潜入!」という回があったんですけど、「女スパイ潜入!」の回のアバンタイトルでも、アムロが全員の前でプレゼンして、「ガンダムの右側ががら空きになります。これをどうするのかというと、盾がもう1枚必要。そして、その盾をつなぎ合わせるコネクターの開発も必要だし、その補充部品も必要です」と、嬉しそうに全員にプレゼンするシーンと、それを見てカイが「やってられないよ」と吐き捨てるシーンがあるんですけど、わざわざ本当に2話にわたって、この盾が2枚必要というのをプレゼンしてるんですよね。真面目な人ですね。作画に無理がなく、設定的にも嘘がないギリギリというのを追求してるんですけどね。
こういうふうに、スポンサーの思惑を最大限取り入れて、良心的に、作品的に矛盾がないように、科学的、技術的に矛盾がないように見せるところが、この時代のガンダムの面白さなんですけども。毎回毎回新しいモビルスーツを出すという、スポンサーとこの辺りからやっていた、ゴッグ、ズゴックと出てきた約束も、そろそろ限界になってきて、今回から変化球になります。モビルスーツよりも強い新兵器として出てくるのがモビルアーマーなんですけど、すいません、こんなちっちゃいのしかなかったんですけど。
モビルアーマーですね。本当にロボットではないデザインになってくるんですね。これも巨大なんですよ。かなりこいつ巨大なんですよね。ガンダムが本当に指先ぐらいのサイズしかないのに対して、こいつかなり巨大で、たぶんガンダムが全長15メートルか20メートルぐらいだとしたら、こいつは40メートルぐらいあるような巨大な船みたいなもんなんですけども。こんなものを出すのも、「モビルスーツより強い新兵器、モビルアーマーだ。モビルアーマー、グラブロだ」というふうに出てくるんですけども。モビルスーツより大きく速く、防御力も強く、武器も多い、強いというようなものを出します。
これは後に『Ζガンダム』のサイコガンダムなんかの流れだと思うんですね。つまりモビルスーツ戦というのは、言っちゃえば最後には巨大なものが出てきて、そいつとの対決になるという大きい流れですね。一番最初はザクで、次はグフとの戦闘で、次はドムというふうに、徐々に敵のモビルスーツが強くなるんですけども、これをやってるときりがないので、後半になってくると巨大なものを出していって、ビグ・ザムとかいろんなものを出していって、それにモビルアーマーという名前をつけると。そういう形で設定をどんどん深めようとしてたんだと思いますね。
ただ、まだこのグラブロには、ここに目がついてるんですね。モノアイと言われる、ザクについてた、よく似た目がついてるんで、これがついてる限りまだモビルスーツとの共通点もあるんですけども。この後宇宙空間に行って、ザクレロ辺りまでは顔があるんですけども、そこから先の、ララァが乗ってるエルメスにしてもそうなんですけど、本格的なやつになってくると、もうモノアイみたいな共通点はなくなってきますね。すいません、ずっと関係ない話をしました。
アバンタイトルが終わって、まだアバンタイトル続くんですね。ガンダムの空中合体の訓練シーンが続いた後、かなりいい絵です。夜の空をホワイトベースが飛んでいて、さらにその上空をジェット雲を引きながら合体の練習してるんですね。合体の練習してるGアーマーが、ホワイトベースをはるかに追い抜いていくと。ここでタイトルかなと思ったら、ちょっと分かりにくいんですけど、この絵とこの絵を見比べると、下の方に黒い雲がかかってるの分かりますか。黒い雲の中にホワイトベースが突入していくんですね。
この上のかなり抜けがいい絵の中で、超音速で飛んでいるGファイターがホワイトベースを追い抜いていく時に、ナレーション、「アムロたちは今、大西洋上にあった。目的地は」。目的地はと言った瞬間に、ホワイトベースが黒い雲に突っ込むんですね。「大西洋、血に染めて」ってタイトルがドーンと出るんですね。うまいですよね。
ホワイトベースが映って、その後タイトルがドンと出るんではなくて、1回黒い雲に突入して、彼らの運命をちょっと予言させるんですよ。ナレーションの「目的地は」の後で、目的地はジャブローではなくて大西洋であると。今回、大西洋で何かがあるというのを見せてるんですね。そこで起きるドラマが何かと言うと、「血に染めて」なんですよ。それを暗示させるために、タイトル直前にホワイトベースを黒い雲の中に突入させてるわけですね。
当時、1979年から80年ぐらいのテレビのドラマというのは、つまりガンダムと同時に放送されていた大人向けのテレビのドラマというのは、刑事物とか、ホームドラマ、2時間サスペンス、時代劇、そういうものだったんですよね。その中に、単なる子供向けのロボットアニメなのに、ここまでの映像表現というか、ドラマ性を持ち込んできたんですね。だからガンダムというのは、たぶんロボット世代の子供たちにとって、NHKの大河ドラマみたいなものなんですね。初めて見る、ここまでのドラマ性の強いストーリー展開、演出なんですよね。
その意味で、こういう捉え方ができなかった子供も多いんですね。なんでここでホワイトベースが黒い雲の中に突っ込んでいくんだろうかというのが、大人になってから分析的に見ないと、なかなか分からないんですよね。ということでタイトルが出ました。そこでストーリーが始まります。
一番最初は、タイトルが出た後、いきなり原子力空母が映って、結構ガンダムってなかなかすごいんです。いきなり原子力空母が映って、その周りに駆逐艦があるんですよ。原子力空母とか駆逐艦が一生懸命、潜水艦を捜してるんですね。その潜水艦を捜してるんですけども、下からミサイルが飛んできて、この原子力空母が爆破されてしまうと。それを監視カメラで見ていたシャアが、もうご機嫌なんですよ。ご機嫌で、「思っていたより連邦軍のクジラは大きかったようだな」と言います。つまり、ちょっと上の方に敵いるかなと思って攻撃したら、連邦軍の空母沈めちゃったよと。大ご機嫌なんですね。
そうすると、そこにジオンの兵隊から連絡が来ます。「大佐、艦長から入電です」。艦長というのは誰かというと、ブーン艦長ですね。「ブーンから。ふむ、スパイを木馬に送り込んだのか」。成功したのを褒めてるわけですね。「しかし、どうやって情報を取るつもりだ」と言うと、その瞬間に画面が切り替わって、部屋の中に忍び込むミハルが映ります。
ここまで、「大西洋、血に染めて」というタイトルがドンと出た後、いきなり空母の戦闘シーン、空母が爆破される。それを海の上でスパイカメラが見ている。そのスパイカメラのコードが海底までずっと伸びていって、その海底にシャアの潜水艦がある。シャアがご機嫌で、今回紅茶は飲んでないんですけど、ご機嫌で喋ってる。「しかしブーンは、どうやってそのスパイと連絡を取るつもりなんだ」ということで、今回のストーリーの大体の流れがここのシーンで説明される。
それをシャアが言い終わった瞬間に、カメラがホワイトベースの方に切り替わって、さっきまでオープニングで隠れていたミハルが、ある部屋に忍び込むんですね。このミハルが忍び込んだ瞬間にナレーションが入ります。ナレーションはブーンの声優さんのナレーションですね。「士官室を狙うこと。第一、行き先を突き止める」。これでブーンの指示だというのが分かります。シャアの部下の、ユーコンという潜水艦の艦長ブーンが、ミハルをホワイトベースに送り込んだわけですね。そのブーンからの指令です。「士官室を狙うこと。第一、行き先を突き止める」。
次のカット。ミハルが引き出しを開けて中を探っています。「第二、木馬の性能に関するあらゆる資料。以上の情報を手に入れるのだ。今夜5時、接触を取る」と言われてる。これ、ナレーションで説明しながら、ミハルは部屋の中をガサガサ探してる絵になります。そこにカイの声が聞こえます。「ブライトさん、そろそろブリッジに上がってください」という声が背中から聞こえたので、慌ててミハルは、この調べていた机の下に潜り込みます。
カイが部屋に入ってきて、「あれ、ブライトさんもう行っちゃったのか、ブリッジに上がっちゃったのか」と言って、部屋の中をうろうろします。この会話で、今ミハルがいるのはブライトの部屋だというのが分かります。ミハルはホワイトベースの中をスパイする時に、優秀にもさっさと艦長室を見つけて、ブライトさんの部屋を見つけて、そこで家探しをしてたわけですね。そこにカイが入ってくると、まだまだお互いに気がついてません。カイはまさかミハルが乗ってるとは思わないし、ミハルも、探しに来たのがカイ・シデンだと思ってないんですね。連邦軍の兵隊に見つかると思って、ミハルは机の下に隠れてる。そこにカイが入ってきてます。
ミハルはもうガタガタブルブルしてます。手には銃ですね。いざとなればこれで戦おうと思ってるんでしょうね。銃を構えていて、ガタガタブルブル震えてる状態です。「シャアは、あれも上がってんのかな」というふうに言われて、ミハルが震えてるんですけど、目の位置辺りを見てください。いわゆるアニメーションの色指定で、ここが光の色、ここ影色と言うんですけども、光が当たってる部分、影の部分ですね。顔も、顔の左側には少し光が当たってるんですけど、顔全体は影になってるんですよ。ところが目は、眼球は白のままなんですね。
これも普通、眼球の色も、この白ももう1段抑える場合があるんですけども、ここであえて光色の目、影色じゃなくて光色の目を指定することによって、目だけにピンライトが当たってるようなエフェクトを出してます。これ、1960年代ぐらいの、モノクロ時代のアメリカの犯罪映画でもよくあったんですけども、目だけにピンライトを当てると、その人物が考えているとか怯えてるとか、そういうことがよく分かる手法で、実写映画の手法でよくあったんですけども。
それをアニメーションで色指定を変えることで、この目の白さというのを、上のカットもそうですね、あえてこの目を真っ白に塗ることですね。白目の部分を真っ白に塗ることによって、隠れている人間の怯え方というのが分かるような。目を見開いて黒目を中央に描くことによって、追い詰められてる、怯えてる感情というのを出してます。なかなかうまいです。
ところが、なんでこのミハルがこんなに怯えてるのかというと、隠れてる時にビリッて音がするんですね。ミハルの服のどこかが破けたんですけども。破けた結果、「なんだ、服、何が破れたんだ」と、自分の服の破れたところを探します。そのまま「あれ、上着は破れてないからズボンの方なのかな」としゃがんだところで、ミハルと目が合ってしまうんですね。ミハルと目が合った瞬間です、これ。ミハルもカイの方をまっすぐ見てるんですけども。
さっきまでのカットと比較して見てみると、隠れているミハルなんですけども、カイと目が合った瞬間に、完全に銃口ですね、手に持ってる拳銃の銃口がカイの方を向いてるんですよ。だから銃が真正面から描いてあります。本当言えば、作画的にこのカットとこのカットは兼用して構わないんですよ。兼用して構わないんですけど、別に描き直してる理由というのは、ミハルの顔を大きく描きたいというのもあるんですけど、この銃口がカイ・シデンの方をはっきり向いてることを描きたいわけですね。
この時、もし自分を見つけたのが、自分が知っているカイ・シデンでなければ、ミハルは撃ってたかもしれないんですよね。その結果、ホワイトベースを逃げ回って、捕まってスパイとして処刑されるとか、ジャブローで軍事裁判にかけられるという展開になったかも分かんないんです。カイがかがんで覗き込んでる時にミハルと目が合って、目が合った時に自分の方に銃口が向いてるというのをはっきり描くのが、このカットの目的ですね。緊張感を出すことです。
ミハルは、自分を見つけたのがカイ・シデンだと分かって、ちょっと安心して立ち上がります。「カイさん」と呼びかけながら立ち上がります。そうするとカイは、「へえ、脅かしっこなしだぜ。誰ちゃん?」って、まだ誰か分かんないんですね。ミハルは「ごめんよ、脅かして」と言いながら立ち上がります。
カイ・シデンはミハルだと気がついて驚きます。すごい驚くんですけども、「ミハルじゃないのか」。でも、この「うん?」って言った後、「ミハルじゃないのか」という時に、ちゃんと1回声を落とすんですね。「誰ちゃん?」という時に割と大きい声を出して、一体誰なんだと言って、ミハルが立ち上がった時に「えっ」と言った後、「ミハルじゃねえか」と小さい声で言うんですよ。この声優さんの小さい声の演技が、共犯者になってやろうという感情が分かります。「ミハルじゃねえか」。物事を大事にせずに、急に騒ぎ立ったりせずに、ということが分かるんですね。
「ミハルじゃねえか。なんでだ」と言います。するとミハルは、彼が声を小さくしてくれたことで安心します。「私、あんたについていきたかったんだよ。それでこの船に乗ったんだよ」と言います。この時、媚びるようにカイに体を近づけます。本当はまだ離れていて、さっきまで銃を構えてたくせに、銃を下ろして見せないようにして、カイに一歩近づいて演技するんですね。「あんたについていきたかったんだ。それでこの船に乗ったんだよ」と。まるで惚れたからついてきたように見えるミハルの演技ですね。
でもカイは追及します。「じゃあ、そのユニフォームどうしたんだよ」と言われて、ミハルはカイの目が見れなくなって視線を落とします。カイはさらに「それ、その拳銃もさ」と追及するんですね。そうすると顔を背けてしまう。つまり、この離れた位置から一歩寄り添って、「あんたについていきたかったんだよ。だからこの船に乗ったんだよ」という言い訳が通用しないとなると、下を向いて、だんだん体を離して、カイの顔を見ないどころか、そっぽを向いてしまうわけですね。そもそもカイに会いたいなら、なんで艦長室に忍び込んでいたのか、なんで銃を持ってるのかですね。自分の嘘を見抜かれて、顔が見れない状態なんですね。じゃあ、カイはその時にどうするのかというと。
「なんでユニフォーム着てるんだよ。なんで拳銃持ってるんだよ」と言った後、ミハルがはっとした顔をするんですよ。その後の顔を見るんですけど、これどういう意味かというと、ミハルは何かもう決心するんですね。問い詰められて、もう思い切って何もかもカイに打ち明けようと思うんですよね。打ち明けようとしたら、ところがカイに止められるんですよ。「カイさん」と、この時に言います。さっきまでうつむいて、そっぽを向いて、カイの顔を見れなかったのが、はっとなって、さらに「カイさん」と思い詰めたように言うと、カイが止めるんですよ。これを喋るのを止めるんですね。
カイはなんでかというと、ミハルに言わせないんですよ。「分かってるよ。あんなに兄弟思いのあんたが、俺を追ってきたなんていうのは嘘だってこと」とカイは言うんですよ。これなんでかというと、ミハルにスパイだと言わせないためなんですね。ミハルにスパイだと認めさせてしまったら、ミハルは見つかってしまったら、もちろんスパイというのは戦場で見つかったら、その場で裁判で銃殺刑ですから。なので、そもそも自分がスパイだなんていう言いにくいことを言わせたくないんです。ここら辺、カイの男気ですよね。
理由を聞かずに、嘘だって分かってるけど、俺を追いかけてきた、俺に惚れてるということにしておこうよという顔なんですね。という設定を守ろうとしたと。カイが軍人としての義務に縛られてるんだったら、ミハルを突き出すでしょうし、ただ単にちょっと女に甘いやつだったら、ミハルに「私スパイなんだよ」と言われても、「安心しろ。俺が守ってやるよ」と言うんですけども、カイはそれをミハルに言わせない。「私、本当はジオンのスパイなんだよ」って、そんな言いにくいことを言うな。それを聞いちゃうと、俺も軍人として行動せざるを得なくなることだって。
なんでかというと、前回お前のところに俺が行った時に、軍人にあるまじき行動、いわゆるホワイトベースの情報を漏らしたために、ホワイトベースは結局ピンチになって、俺はホワイトベースから家出するのをやめて、戻る羽目になったと。だからカイはもう成長してるから、同じ過ちを犯さないんですね。逆に言えば、もうそれ以上言うなと、俺はもう分かってると。嘘だと分かってるけども、それ以上は追及しないから、言わなくていいんだよというふうに、かつてのカイだったらできないようなことをやってくるわけですね。
それを聞いたミハルは言い返します。「嘘じゃないさ。半分は嘘じゃない」と言うんですよ。つまり、そこまでカイに、俺のことが好きでついてきたなんていうのは嘘だろうと言われると、次は女心なんですよね。次は女心で、嘘じゃないと、半分は嘘じゃないということを分かってくれと言うんですよ。
この時の画面、変ですよね。ミハルがセンターに来ていいんですよ、これだったら。ところが右側に空間が空いてるんですね。右側に空間が空いてるというのは、次にこの空間で何かがあるということを予感させるためなんですが、これ、アニメーションでしか使えない技法なんですよ。実写でこんな不自然なことをやって、ここに何かがフレームインしてくると、作ったような画面になっちゃうんですね。ところがアニメーションというのは、いわゆる平面の絵しかないので、この右側が不自然に空いたところに、次のコマで、次のカットに何かフレームインしてきても、さほど不自然に見えないですね。ここ、アニメーションだけが持ってる特殊な演出法だと思うんですけど。
そこにカイがフレームインしてきます。「嘘じゃないさ。半分は嘘じゃない」と言った瞬間に、カイが「しっ、黙って」と、「俺についてきな」と言うんですよね。ミハルよりずっと大きい顔で、カメラ寄りの位置でフレームインして、「しっ、黙って」。
「待て」っていうので指2本立ってるんですけど、これがうまくミハルの口を隠すようになってるんですね。これ以上喋らせないという演技なんですけども、ミハルの口を手で覆うようなことはしない。しーってやるんではなくて、偶然「ちょっと待て」っていうふうに言った、この指がミハルの口をカメラの位置の都合で隠しましたよというようなフレームになってるんですよ。もちろんこれ偶然じゃないんですよ。演出なんですけども、やっぱりこれもアニメでしかできないと思います。
アニメ以外の実写でこれやると、ものすごい不自然なんですよ。たまたま女優さんがいて、そこで何か喋ろうとしたら、そこに男性俳優さんが割り込んできて「ちょっと待て」って言った瞬間、その手が口を隠すような位置に来るっていうのは、リハーサルも必要だし、そんなわざとらしいカメラアングルってないんですよね。ところがアニメでやると、めちゃくちゃ自然なんですよ。
富野由悠季って、そのアニメの演出法を極めた人間なんですね。この意味では、ハイジから、高畑から学んだことをさらに進化させてると思うんですよね。たぶんその時期の富野由悠季っていうのは、アニメの演出としては世界中で一番、歴史上でも一番だったと思ってます。もう本当にこのカットを見るだけで、これがどんなにすごいことなのか、なんでアニメにしかできないことをやってるのかっていうのは分かるんですけども。
カイは結局、自分の部屋に案内するし、「俺について来い」って言った瞬間にカット変わって、このドアを開けて、ドアを開ける効果音を入れるんですね。だから本当言えば、この「俺について来い」って言った後、ホワイトベースの中の廊下を隠れて歩くシーン入れてもいいんですけども、それなしにいきなりドアを開ける音を、効果音から入って、演出で見せるんですね。ここら辺の流れも、なかなかすごいと思います。
ガンダムですね、僕なんでこのガンダム講座やってるのかっていうのは、この時代の富野由悠季の演出っていうのはいかにすごいことだったのか。その演出っていうのは、限られた表現しかできないアニメーションで何をやろうとしてたのかっていうのが、かなり分かる作りになってるんですね。特にまだ28話の辺って余裕があるからできるんですけども、宇宙行く辺りからさすがにこの辺りの余裕どんどんなくなってきて、とにかく作画が間に合えばいいのかっていうふうになってきちゃうんですけども。
この「大西洋、血に染めて」っていう回は、ミハル・ラトキエというキャラに作ってる人間たちも思い入れがあるので。思い入れがあるっていうのは、作画がいいとか、顔を綺麗に描いてるとか、表情が抜群にいいってことではないんですよね。こういうことだと思うんですよ。こういう何気ないシーン、カットの連続の中で、どういう演出を駆使して緊張感を持たせるのか。思い切って描かない部分をバーンと出して、次のカットにつなげていくのかっていうのが、見事だというふうに僕は考えています。
機動戦士ガンダム第28話「大西洋、血に染めて」、Aパートの続きです。ホワイトベースに潜入して、艦長ブライトの部屋に忍び込んだミハル・ラトキエなんですけども、カイ・シデンにかくまわれます。でもそこにアムロが来て、見つかってしまうんですね。
廊下で、カイ・シデンの部屋にかくまわれようとしたミハルですね。しかしそこにアムロが来て、アムロに見つかってしまうと。この時にミハルはまだ右手に銃を持ってるんですね。銃を持ってる姿をアムロに見られて、慌ててカイの部屋に銃を持ったまま飛び込みます。
アムロにカイが近づいていって、男同士の会話します。アムロが「誰です?」って聞くと、カイが「野暮なこと聞くんじゃねえ」って返します。アムロは「恋人さんですか?」って聞くと、「へえ、そんなところかね。南米で降ろすから、みんなには内緒だぜ」っていうふうに言います。
この時、カイ・シデンの右手はアムロの背中に回ってるんですね。カイの「信頼してるからな」っていうサインなんですけど、カイ、よくこういうボディランゲージ使いますね。後でちょっと説明しますけど、彼がこういうふうに肩に手を置いたり、背中に手を回したりするっていうのは、相手と親しくなろうとか、「俺はお前を信頼してるからな」っていうボディランゲージなんですけど、結構この人使うんですよね。
このアムロとの「南米で降ろすから、みんなには内緒だぜ」っていう会話を、ミハルは聞いています。「南米?」っていうふうに言います。この時のミハルはスパイの顔に戻ってるんですよ。だからミハルはカイに見つかって、カイにかくまわれたからといって、仕事を辞めたわけではないんですね。
今回、富野さんが描こうとしたミハル・ラトキエという少女は何がすごいのかといって、カイに心を完全に許さないんですよね。そうじゃなくて、生き延びるために女の顔を見せたり、か弱い自分を見せたり、カイの見てないところではもう一回牙をむいてスパイに戻ったりっていうことを、素早く動いてるんですよ。それはこういう状況の中で生きざるを得なかった子供、一人の女の子の生き方、生き延びるための生き方であると同時に、その中でも「嘘じゃないんだ。半分は嘘じゃないんだ」って一生懸命カイに分かってもらおうとする、けなげさとか、この両方を伝えたいんですね。だから彼らの会話を聞いてるミハルは、もう一回スパイの顔に戻って「南米?」っていうふうに、使命を思い出します。
カイがそこに入ってきます。この時のカイは男の顔してるんですね。アムロに「僕は何も見てませんから」っていうふうに言われて、「すまねえ」っていうふうに言って、ちょっと男らしい顔で入ってくるんですよ。めっちゃ男の顔。つまりなんでかというと、「恋人ですか?」「まあ、そんなところかな。みんなには言うなよ」っていうふうに男同士の会話しちゃったからですね。男っぽい顔になってるんですよ。しかしすぐに「あれ、ミハル……。さて、ミハルは」って、デレデレの顔に戻るんですね。このちょっと男らしい顔からデレデレの顔に戻るところが、いい感じの演技ですね。
カイ、やっぱり甘いんですよね。成長してるからといって、ミハルに比べて生死をくぐり抜ける回数も少なかったので、圧倒的に甘いんですよ。だから女は保護したらすぐに自分を頼ってくるというふうに思ってるんで、アムロに対して男の顔。さて、入ってきたらデレちゃうんですよね。デレちゃって、その結果「あれ、ミハルが部屋の中にいないや」っていう不安な顔になっちゃうんですね。「こっちにいたんだ」と思って喜んで、口角が上がっちゃうんですよね。
男の顔で入ってきて、「さて、ミハルちゃん、俺のこと待ってただろう。寂しかったかな」と思ってデレてて、「あれ、いないや」って不安になってしまって、「あ、いた」と口の端が笑ってしまうんですね。嬉しい顔になっちゃうんですよ。このミハルがカイを見るんですけども、このカイを見る時に、完全に前向いてるんですけども、目線だけが動いて、ちょっとだけカイの方見るんですね。その時の顔が、もう女の顔になってるんですよ。この顔ですね。
ミハルがなんで女の顔になったのかっていうと、デレて入ってきて、自分が見えないと不安になって、見つけた瞬間に笑顔になったから、「あ、この男は自分に惚れたんだな、惚れ始めてるな」と分かったんで、安心してちょっと女っぽさ出してるんですね。
ここ、セリフゼロなんですよ。入ってきた時に「ミハル、あれ、いねえや」って言ったり、「カイさん」みたいなセリフゼロなんですよね。このセリフゼロで、入ってきた時に男の顔しているカイ、それがデレる、不安な顔になる、喜ぶ。それに対してミハルはちょっと女の顔になって迎えるっていうのを、全部無言、セリフなしの演技だけでやっちゃうんですね。これがお互いの感情を知っている、いわゆるできちゃってる男女間の呼吸っていうのをやってるんですけども、すごいですよ、ミハル。このカット、アップにすると半分しかないんですけども、完全に女の顔になってるんですよね。完全に女の顔になってるんですよね。
これなんでかっていうと、もうこの瞬間からミハルの生き延びるための演技が始まってるんですよね。これが富野由悠季が言うところですね。アニメーションっていうのは女の子を出してもしょうがない、女を描かないとしょうがないと。女の子っていうのは、ある瞬間に女になって、また子供に戻ると。だから女の子っていうのはすごいんだ。それを描かないとアニメーションっていうのは意味がない。アニメーションの色気っていうのは何なのかっていうと、らしさもあるんだけど、女らしさ。女らしさっていうのは何かっていうと、自分の女をどこで出してどこで出さないのかっていう、これを交互に描かないと意味がないんだっていうふうに言ってるわけですね。
だからそこら辺が、宮崎が描く『ルパン三世』の不二子ちゃんとかとの違いなんですよ。クラリスとの違いなんですけど、もうちょっと複雑なことをやろうとしてるわけなんですけどね。別に不二子ちゃん、クラリスがいけないと言ってるわけではないんですよ。富野さんの女性観っていうのはちょっと変わってるんですね。だから嫌な部分を見せないと女を描いたことにならないっていうのが富野的であって、宮崎的なものは何かっていうと、嫌な部分もあるんだけども、クラリスはルパンの前では一生懸命なところしか見せたくないんだ。シータはパズーの前では、やっぱり可愛いところ見せたがってるんだ。それが女の子じゃないのかっていうですね。やっぱり両者、どんな女に振られたかの世界観の違いだと思うんですけども。面白い、いいなと思いますね。
富野演出、分かりにくいですけど、このカットを見れば、カイの顔で半分以上隠れてるだけのミハルで、女を描こうとしてるのが分かります。次のカットですね。カイはミハルに対しても完全に心を許してるので、「ドアのキーは3986で開く。動くなよ」っていうふうに言います。そうするとミハルは「南米はどこに行くの?」。もう一回スパイに戻ってるんですね。南米に行くと聞いたので、「南米はどこに行くの?」と聞くんですよ。
ここでカット変えてミハルの表情を見せないんですよ。ずっとこのワンショットだけで通すんですよね。途中でカット割らない。ミハルの顔見せない。なんでミハルの顔見せないのかっていうと、演技の圧力を落とさないためです。このカイの受けてる時の顔しか見せたくないんですよ。カイの顔だけをずっと見せてる長回しがあるからこそ、このカットの圧力っていうのは出るんですね。このカイの表情変化が見せ場なので、余計な情報は出さない。だからカット割らないんですけど。
「南米のどこ行くの?」と聞かれたら、カイは声を落としてミハルに近づいて、「宇宙船用のドックに入るんだよ」っていうふうに言います。ここで「宇宙船用のドックに入るんだよ」と言いながら笑顔に戻って、ミハルの肩をちょっとつかんで、「だけどこれ以上の情報は教えられないよ」っていうふうに言うんですよね。ちょっと声を落として、宇宙船のドックに入るんだって情報を言いながら、これ以上は無理だと。肩に手をかけて、「南米に着くまでホワイトベースをやられたりしたら、お互い生き残れないだろう」っていうふうに言います。
つまりミハルのスパイという立場が分かっている。分かっているから情報はちょっとだけ渡す。でもそれ以上は言えない。でもそれはお前を信頼してないからじゃないんだと。お互い生き延びるためだっていうふうなことで、もう一回ボディランゲージ使うんですね。「これで納得してくれ」って言うんですけども、このカイのボディランゲージっていうのは、さっきも話したようにすごい特徴的なんですよね。
まずミハルを自分の部屋へ連れてくる時に、よく見るとこのカイの右手はミハルの肩の上に乗ってるんですよね。小さい絵で申し訳ないですけども。つまりミハルを部屋に連れ込む時に、ミハルの肩に手をかける。アムロに「黙っていてくれよな、男同士じゃないか」という時に、アムロの背中を触る。今回も「これ以上の情報教えられないけど、それはお互いのためなんだ」という時に、ミハルの肩に手をかけるんですね。こういう、カイは相手の体に触れて、ボディランゲージで信頼感を得ようとしてるんですね。これ、割と特徴なんですけども。
次のカットですね。このカイに肩をつかまれて、このまま切り替わります。肩をつかまれたミハルはカイの話を聞いて、ちょっと肩を、うつむいて、顔を上げて笑顔になります。これ何の演技かっていうと、「お互い生き残れないだろう」っていうセリフのお尻なんですね。こういうふうに諭されて納得するんですけども、そのままうつむくんですよ。ミハルは「うん、そりゃそうさ」って言うんですけども、カイの目線から目をそらせてうつむいて、顔を上げて笑顔になるんですね。笑顔になって、別に何も言わないんですよ。
この笑顔の演技、なんで入れたのかですね。「そうしないとお互い生き残れないだろう」っていうふうにまで言って、納得して下を向いて笑顔。ここで笑顔になる理由なんかないんですよ。笑顔になったのはなんでかっていうと、彼に笑顔を見せようとしたから。なんでかというと、カイの信頼を得たいからですね。ここでもまたミハルはカイを騙そうとするんですね。ミハルは生き延びるために、また嘘をつきだしたサインなんですよ。「何もかも悪いようにしないから、任せろ」って言ってるのに対して、任せるふりをするんですね。だから笑顔だけを見せる。全く納得してないんですよ。「その通りさ」って言いながら、ちゃんとジオンに情報出さないとお金がもらえない。そうしないと自分はこの状況から脱出できないと、そのことを考えて、今この人を騙そうと思ったから笑顔になるんですけども。
でもこの辺の、不安な表情、うつむく、カイを笑顔で騙すっていうふうなことをやりながら、カイ・シデンという人間を信じていいのかどうか迷ってるんですね。この迷ってるのと騙そうとするのの間で動いてるので、とりあえず笑顔の演技っていうのを選んだんですけども、この辺が今回のミハルの心の動きですよね。
今、女は怖いとか、醜いみたいな意見もあると思うんですけど、これがリアルな人間だと思うんですよね。ついついアニメとかを見ちゃうと、単純なキャラに慣れちゃうんです。単純なキャラ、純真なキャラに慣れちゃって、自分たちの心の複雑さを忘れるんですね。見ている僕ら、アニメ見てる僕らは絶対これに近いんですよ。誰かに言われる時に「そうだよね」って言う時に、必ず「そうだよね」っていうふうに言っといて、納得した顔してたらこの場収まるなっていう計算が絶対働いてると。人間は本当はこれに近いんですよ。
でもアニメの中で、白痴みたいにって言い方は何なんですけども、まるで白痴みたいに純粋な人とか、そういうふうなものを見慣れてしまってるから、早くそれに当てはめをするんですね。アニメっていうのは人間をその程度しか描かないもんだと。残酷な時はすごい残酷になるっていう、これで安心しようとしちゃうんですよ。だから僕、アニメーションですごい残酷なシーンとか、人間のブラックな部分を描いてるアニメっていうのは、全く高級に見えないんですね。それはただ単にカラムーチョだと思ってるんですよ。
『ひぐらしのなく頃に』っていうのがあって、好きな人がいっぱいいるんです。僕もそれは分かるんですけども、僕はカラムーチョだと思ってて、暗黒面を過剰に出して、それでいいと思ってやがるなっていうふうについ考えちゃうんですけども。そうではなくて、これが僕、人間だと思うんですよね。
ここがミハルの演技だという証明が次のシーンです。カイ・シデンが「安心しろ」って言って部屋を出たら、壁にもたれてため息をつくんですね。真っ先にまず壁にもたれるんですよ。これ何かというと、緊張が解けたからです。つまりカイがいなくなって安心したんですよ。これを見せちゃう、この富野さんの残酷さですね。カイがいなくなって安心してため息をついて、そのまままっすぐ窓に駆け寄って窓の外を見るんですよ。つまりジオンからの連絡がないのか、雲の向こうを観察してるんですね。この時にもうミハルはスパイに戻ってるんですね。カイに対して「分かった。私はいい子でいるよ」というふりをしながら、またスパイに戻ってるんですね。
指令書を見る。ブーンから渡されたメモを見てるんですね。今朝5時頃、腕の無線機で連絡を取るってメモなんですけども、ミハル、独り言で「時間だな。どうするんだろう」って言います。つまりミハルはかわいそうな少女ではなく、温かさと冷たさ、その両方持ってる女なんですね。これを描くのが、機動戦士ガンダムのすごさだと思います。カイ・シデンがいなくなった瞬間に壁にもたれて、すぐにスパイに戻るっていうのは、すごいですよね、このシーン。
以上ですね。機動戦士ガンダム、まだ28話が始まってから5分ぐらいしか経ってないんですけども、1時間ぐらい喋ってしまいました。「大西洋、血に染めて」っていうのは、機動戦士ガンダムの中では、ミハルっていう少女がいて、かわいそうな境遇でスパイをするしか生きることができなかった。その中でカイ・シデンと出会って、でも不幸なことが起きてしまったっていう、かわいそうな泣ける話として描かれてるんですね。
ガンダムの『ガンダムを創った男たち』っていう、ガンダムのメイキング漫画みたいなのがあるんだけど、その中でも富野さんとかアニメーターが、みんな涙を流して「ミハルかわいそうだ」とかって言いながら作ってるっていうのがあるんですけども、実際、もちろんかわいそうな女の子っていうのを描こうとするんですけど、かわいそうな女の子をかわいそうな女の子として描かないんです。ちゃんとその女の子がやっている罪みたいなものを描くんですよ。
なんでこのキャラが死ぬのかっていうと、観客を泣かせるために死ぬんじゃないんですよ。ちゃんと死ぬべきこと、罰を受けるべきことをやってると。それは何かっていうと、なんでカイ・シデンが生き残れてミハルが生き残れなかったのかっていうと、ミハルはそれぞれのターニングポイントで、ちゃんと信じるべきことを信じなかったからで、それで立て直そうと思っても、もう何もかも遅かったからっていうのを、きっちりきっちり押さえてるからなんですよね。
でもたぶんそういうのは、宮崎駿的に見れば、「ミハル・ラトキエってキャラは何だった? あれは死ぬために出てきてるじゃないかと。みんなを泣かそうとしてるんだ。感動ポルノだろう」っていうふうに富野さんに言うんです。宮崎だったらたぶん言うと思うんですけど。ところがずっとちゃんと見てると、いや、そうじゃない。泣かせるために出てきたんじゃない。殺すために出てきたんじゃなくて、ちゃんとこのポイントを押さえて徐々に徐々に積み上げてるんだと。だから人間を描いてるんだっていうのが分かるので。宮崎さんはガンダムに関しては、僕も聞いたことあるんですけど、かなりボロクソなんですけども、「いや、違うぞ。かなりやってるぞ。ちゃんと見ろよ」っていうふうに思っちゃいますね。
機動戦士ガンダム講座ですね。1979年に放映されたテレビ版の初代ガンダムを、1話ずつ徹底的に解説します。今回は第28話「大西洋、血に染めて」ですね。前回までで、番組前半Aパートの4分目まで話しました。今日はその続きです。
質問、トムキャットさん。「ミハルのミサイル発射のところで質問です」。もう後半のこと聞いてきましたね。「どうすればミハルはガンペリーから落ちずに済みますか? 発射ボタンがある以上、あの場所から発射は設計上想定内だったと思うのですが、安全装置の装着忘れなのでしょうか」って書いてあります。実はテレビアニメの方で、ちゃんと原因っていうのは描かれてるんですね。伏線もあるんですよ。ちゃんと伏線もあって、それは手分けて作画されてるんですけども。その部分になったら、Bパートになったらってことなんですけども、説明するので楽しみにしててください。
前回までの流れで、シャアの部下ブーンですね。潜水艦の艦長のブーンの手引きで、ホワイトベースにミハルという女の子が忍び込みました。ブーンは彼女に「連絡するので情報を集めろ」というふうに命令します。しかしミハルはまだ子供なんですね。カイ・シデンに見つかり、彼の部屋にかくまわれます。不思議に思うミハルです。「どうやって連絡を取るんだろう」と。ミノフスキー粒子で無線は使えないので、一体どうやって連絡を取るんだろうというところが、前回までの話でした。
ブーンはブーンで、ちょっと動機があります。前回までの戦闘で、ゴッグ3機、ズゴック1機という、4人のパイロットとモビルスーツを失っているわけですね、ブーンにしてみれば。一度は偉いシャアから「ジオンへの帰国を申請してやる」というふうに言われて、「うわ、もうジオン本国へ帰れるんだ」というふうに喜んでたんですけども、この2回の失敗ですね、4機のモビルスーツを失ったことですね、かなり絶望的になってきてるわけですね。自分からホワイトベースに潜入して、信頼を取り返そうとする、手柄を立てようとするというんです。
ここからスパイアクションになるんですけども、面白いのは、この「大西洋、血に染めて」っていうのは、ミハルだけではなくて、視点がジオン側に割とあるんですね。ジオン側から見て、この忍び込み作戦が成功するのかどうかっていうのを観客に覗き見させる。観客が軽い罪悪感を持ちながらジオンを応援するという、面白い構造になっています。
一番最初は、怪しい民間機ですね。故障してることを装ってホワイトベースに入っていきます。「ジオンの人間で木馬に潜り込んだのは、我々が初めてじゃないかな」っていうふうにブーンは言います。ランバ・ラルの部下のコズンっていうのが潜入したことがあるんですけど、あれは潜入ではなくて捕虜として逮捕されて入ってきたから、確かにブーンが言う通り、ジオンの人間としては初めてなんですね、軍人としては。
ブーンは飛行機から降りてきて、こいつブーンですね。ブライトさんと面会します。ブライトさんはブライトさんで割と警戒心持ってるから、別に騙されてるわけでもないんですよね。「漁業組合の飛行機なんです」というふうに言ってて、「魚を追ってたらジオンの偵察機に撃たれたんですよ」っていうふうに嘘をつくシーンですね。その後、「こっちの部屋でお前待ってろ」というふうに言われて、ブーンと、その部下のキャリオカですね。所ジョージがモデルになってるというふうに言われるキャラクターです。キャリオカに対してブーンは「お前は喋るな、ジオン訛りが強いから」っていうふうに言うシーンですね。
そこでブーンはトイレに行って、トイレの中で無線機を、腕時計型の無線機を出して、ミハルと通信しますね。人相が悪いです。ミハルと通信してます。「107号」と答えられたら、「音声で送れ。木馬の目的地は」と目的地を聞くと、ミハルと分割画面になって、「南米の宇宙船です」という。まだここまでしか情報が分からない。でも「上出来だ。頑張ってくれ」というふうに励まします。
すると、その通信が終わって一安心するところでカイが入ってくるんですね。「何をしていた?」っていうふうに聞くと、ビクッていうふうにしちゃうんですよ。カイがもう素早く察して、「連絡をつけたのか」っていうふうに言うと、「ううん」って言って、ミハルは目線を外すんですね。かなりばつが悪い感じです。
そこでアングルが変わります。新アングルです。構図が変わるんですけど、シナリオ用語でアングルが変わるんですね。ミハルに食事を持ってきてあげたことが分かります。温かいお茶とパンを持ってきたんですね。カイの目線から見たミハルになってるんですよ。ここもやっぱり完全に室内だけでドラマが進むから、見てる人間にできるだけ飽きさせないように、ちょっと構図、アングルを次々変えて、目新しいものを見せようとしてるんですね。
ミハルに食事を持ってきながら、「こんなところで連絡がつけられるって変じゃねえか」っていうふうに言います。無線が届かないのに、なんでお前連絡できたんだよって聞くわけですね。ミハルは言い訳します。「そう思うけど、でもこうして私たち兄弟、食べてきたんだ」って言うんです。つまりカイの「不思議じゃないか、なんで連絡できるんだ」っていうことを考えずに、ミハルは自分がやってきたことの正当化というか、言い訳をその場でするんですね。カイは「まあ、そりゃ分かるけどさ」っていうふうに慰めるんですね。
この時に「すまないね、私がスパイでさ」とか「迷惑かけちゃうね」って言うと、カイは「まあな」っていうふうに言って、ミハルは目線外して、カイはもういちいちデレデレなんですね。スパイをかくまってるという、いけないことをしてるわけなんですけども、それもちょっと忘れてきて、もう「気にすんなよ」と。気にすんなよってことはないんですけど、「気にすんなよ」って、ミハルを慰めるぐらいの余裕があるんですね。
ところが「あっ」って驚いて、カイの顔色が変わります。「あの飛行機だな」。故障で入ってきた飛行機、変だと思ったあの飛行機だということですね。カイは急いで、飛行機のいる後部デッキへ走ります。いちいち気配が変わります。はっと気がついて、「民間機が着陸したって言ってた。そうでないと無線が使えるわけない」と。「いいか、これから後はあんたと関係がない話だ。俺の第六感だ」と言って走り出すんですけども、あいつ呼ばわりするわけですよね。
これでカイはあっという間に軍人に戻って、廊下をダッシュで、廊下のはるか向こうの方にもう民間機が動いちゃってるのが見える。離陸寸前なんですね。後部デッキにカイ・シデンが行った時には、飛行機がもう飛び立った後。一応、窓みたいなところがあって、そこの中にブライトさんがいるっていう、かなり説明的な構図になる。「その飛行機を止めろ、あいつを撃ち落とせ」ってカイが叫んでる、飛行機が見える、ブライトさんがいるっていう、分かりやすい構図になっています。
「ブライト、あれはスパイじゃないのか。よく調べたのか」というふうにカイは詰め寄ります。「一応確認した。飛行機だって間違いなく漁業組合のものだった」というふうに言うんですけど、カイは納得できない。「なんでだ、なんで納得しないんだ」って聞かれて、カイは説明できないんですけども。
この場所ですね、この後部デッキっていうのが今回の舞台になるので、何度も何度も出てくるんですね。観客にこれを印象づけるため、わざわざこの後部デッキって場所を選んでるんですよ。例えば一番最初、今回のシーンの一番頭ですね。漁業組合のふりをしたブーンの飛行機が近づいてくる時に、一応後部デッキから見た構図で飛行機見せます。次に飛行機が後部デッキに入ってくるところ。後部デッキでブーンとブライトが話をしてるところも、この場所を見せて、最後にカイが「あの飛行機を撃ち落とせ」って叫ぶ時にもここを見せるんですよね。
これは本当にラストシーンでカイが泣き崩れる場所でもあるんですよ。この緑色の壁の部分でカイが泣き崩れると。全てここでいろんなことが起こったっていう伏線でもあるので、この場所をしっかり見せてるんですね。「今回ここで大事なことが起こりますよ」っていうのを観客に印象づけようとして、しっかり描写してるわけです。
この作り方、面白くて、最後にカイがガンペリーに乗って戻ってくるシーンがあるんですよね。カイがガンペリーに乗って戻ってきて、「ミハル、成功したぞ。俺たちやったぞ。勝ったんだ」って言って、ウキウキ気分で帰ってくるのがこの後部デッキなんですね。その時にこのジオンの飛行機と全く同じ構図で帰ってくるっていうのが、今回全体の映像的な伏線になってる。そういう、うまい回になってるんですけども。
今回のガンダム講座はここまでです。ここまでで前半Aパートの8分目ぐらいまで話しました。次回でAパートの最後までやるので、お楽しみにしてください。
機動戦士ガンダム講座。1979年に放送されたテレビ版の初代ガンダムを、1話ずつ徹底的に解説しています。今回は第28話「大西洋、血に染めて」ですね。前回まで前半のAパートの8分目まで話しました。今回はその続き、Aパートのラストまで話します。
まずはここまでのおさらいですけれども、大枠のおさらいで言うと、オデッサの戦いが終わって、マ・クベが基地ごと撤退して、基地は破壊されました。キシリアはその代わりにシャアを地球に降ろして、ヨーロッパとアフリカの戦線を援護しようとしています。ホワイトベースはイングランドの北部のベルファストへ行きます。そこで一回カイは脱走するんですけども、少女ミハルと出会うと。
シャアの部下に編入された潜水艦隊のブーン艦長は、手柄を上げようとベルファストで新型モビルスーツを使って、2回もホワイトベースに攻撃を仕掛けますが失敗します。それでホワイトベースは修理に成功して、ベルファストから旅立ちます。しかしブーンは、この少女ミハルという現地の女の子をスパイとしてホワイトベースに潜入させることに成功した。これが前回27話までの大きい流れですね。
28話は潜入したミハルの視点で、すぐにカイに見つかってしまうんですけども、部屋にかくまってもらうと。一方、故障した民間機のふりをしたブーンがホワイトベースに着艦するんですけども、ホワイトベースの中のミハルと連絡して、彼らが南米大陸、つまり連邦軍の本部ジャブローに行くというのを突き止めます。このやり取りの後で部屋に帰ってきたカイは、ミハルの不自然さから、あの民間機がジオンのスパイなんだって分かるんですけども、みすみす逃がしてしまったと。ここまででAパート8分目までですね。では、Aパート8分目以降です。
あの飛行機を落とせと言ってカイが「ちっ」って言った後、海が割れて、ザバーンと潜水艦が現れます。潜水艦のブリッジの上の、露天艦橋っていうのかな、ベランダみたいなところに人影が見えます。ここにちゃんとシャアが立ってるんですね。シャアと部下のマリガンが立っています。そこに飛行機が着陸してくると。
この最初にザバッと海から潜水艦のブリッジが現れて、次にこのドアが開いてシャアたちが降りてきて、「来たな」とか「ブーンは成功したようだ」というふうに会話してて、やっと飛行機は着陸すると。この段取りがすごい丁寧ですね。割とドラマで描くことが多いのに、この辺りの段取りを丁寧に描いてるんで、このジオンの作戦の、ちょっとプロっぽい感じが分かります。
ブーンはシャアに報告します。シャアは「アフリカ戦線ではないんだな」っていうふうに最初に聞きます。「はっ、間違いなく南米の宇宙船ドックに向かいます」と。シャアは「こっちに来ないのはありがたいが、マッドアングラーはここを動けない。アフリカ戦線の様子も見なければならんしな」というふうに言います。シャアの潜水艦の艦隊というのは、ヨーロッパの沿岸とアフリカの両方を担当してるわけですね。援護してるわけなんですけども、ただ南米のジャブローに行かれてしまうと、別部隊の担当なので手が出せないんですよ。
「こっちに来ないのはありがたいが」っていうのは、アフリカ戦線にホワイトベースが行かれても、シャアは潜水艦だから援護しかできないんですね。だからアフリカ戦線に行かれないのは、自分の戦線担当が邪魔されなくてありがたいというのはあるんですけど、同時に自分自身もちょっとホワイトベースにはこだわりを持ってるので、アフリカの方に行かれてしまうと、それはそれで手が出ないしなっていうふうに思って、困ってるわけです。
そこでブーンが自分から提案します。ブーン艦長が「私はパイロット上がりです。モビルアーマーをお貸しいただけませんか?」と言うと、シャアは「グラブロか。整備はしてあるが」と答えます。ブーンは「仇討ちとは言いたくありませんが、私は4機のモビルスーツを沈められました。やらせてください。モビルアーマーならここから発進しても木馬をキャッチできます」。シャアは「うん、いいだろう」というふうに答えます。
富野さんも、潜水艦で飛行機というか、宇宙船が飛行機になって飛んでるのを追いかける不自然さは分かってるわけですね。じゃあどのようにしてそれを可能にするのかと。ついでだからここでモビルアーマーという新しい武器を見せておこうと。モビルアーマーっていうのは、今回が初登場なんですね。アッザムというのが出てきたんですけど、それはあくまでプロトタイプで、何かっていうと、モビルスーツを超える武器なんですよ。だからまずはエンジンが強力で出力がでかいから、スピードも桁違い、パワーも桁違い、攻撃力も桁違いなんですけども、それをまずセリフで「モビルアーマーならここから発進して木馬をキャッチできます」という、ここで説明してるわけですね。
手柄を上げてやっぱりジオンに帰りたいブーンと、ホワイトベースをただ見逃したくないシャアの思惑が一致するわけですね。というわけで、新型兵器ですね。ちょっと格好悪いですね。グラブロというモビルアーマーに、ズゴック2機をワイヤーで牽引しながら発進します。
大きい模型がないんで、これで説明するんですけど、これがグラブロっていうモビルアーマーですね。こっちが先になってて、水中なのでできるだけ抵抗がない形をしていて、この後ろに伸びている腕が前に回ってきて、こういうふうに前に回ってきて、「ふふふふふ、ガンダムめ」というふうな形で、ガンダムをここの爪でガシッとつかんだりする感じになってるんですけども。本当にびっくりドッキリメカですよね。
でも僕、こいつ好きなんですよ。意外にロボットアニメの先祖返りみたいな感じで、割と楽しいと思うんですけども。モビルアーマーはエンジンと攻撃力、サイズを巨大化させたモビルスーツです。すでにだから人型の形をしてないんですね。これからいろいろ出てくるんですけど。人型の形をしていないのが、最後にジオングという形で、モビルアーマーのようなモビルスーツのようなもので完成形を見るというような流れになってます。
ズゴックのミサイルとかビーム砲に比べて、攻撃力ですね、数も攻撃力も桁違いと。その動きを早速ホワイトベースのレーダーが捕捉します。ホワイトベースのレーダー、「7時の方向に現れてます」ということで、ホワイトベースのブリッジのシーンになります。
ホワイトベースのブリッジのデザインってめちゃくちゃ面白いんで、今回説明させてください。まずこれ、魚眼レンズっぽいので捉えたホワイトベースのブリッジの全景です。たぶんブリッジの前のちょっと高い部分から撮ってるショットなんでしょう。天井がめちゃくちゃ高いことになってるんですけど、こんなホワイトベースのブリッジ、天井あるわけがないんですよね。魚眼だから大きく見えてると思ってください。
後ろにディスプレイがあります。一番後ろ、ここにアムロたちがいつも現れるハッチがあるので、ここからここまでが後ろの壁で。それに対して横にもスクリーン、巨大なディスプレイがあります。見ると床にも大きいディスプレイがあるのが分かります。なんでこんなふうにしたのかっていうと簡単で、次のカットですね。正面から、ミライの方向から正面から見たカットで、後ろに巨大なディスプレイ映ってるんですけども、このディスプレイがなかったら毎回毎回ホワイトベースの内部が映る時に、壁を描かなきゃいけないんですよ。壁って言っても戦艦の中だから機械がいっぱいあるわけじゃないですか。これをいっぱい描かなきゃいけないわけですね。
『宇宙戦艦ヤマト』はそれをマジで描いてたから、作画がめちゃくちゃ大変だったんですよ。なので『宇宙戦艦ヤマト』の後ろの方になってくると、一番最初の頃はちゃんと壁があって、壁に機械がついて、その機械にさらにメーターがついてるっていうのを『宇宙戦艦ヤマト』はやってるんですけど、後半の作画になってくるとだんだん息が途切れてきて、メーターだけが描いてあって、どんどんブリッジ
の照明が落ちてきて暗くなって、暗い中にメーターだけが映るというですね。『宇宙海賊キャプテンハーロック』のテレビ版はそうだったんですけど、だんだんそういうふうに、もう手を抜くしかなくなってくる。それぐらい宇宙船の機械の中の壁を描くのは大変なんですね。で、このホワイトベースのブリッジっていうのは、見た目が未来的で、おまけに壁を全く描かずに済むっていう、画期的な発明なんですね。
ここら辺のアイデアの出し方も富野さんなんですけども、富野由悠季監督はこういうふうに、メカデザイナーの人にデザインを丸投げしてる、美術の人に美術を丸投げしてるように見えて、実は省力化と、その省力化によって、じゃあここでどんどんいろんな壁のディスプレイ、天井ディスプレイ、床ディスプレイに敵の攻撃が映るようなのを見せて、見せ場を作ると。一挙両得というか、一石二鳥を狙う監督なんです。うまいです、本当に。
ブライトさんがいるのは、この階段の中央なんですよ。この上のフレームですね。階段の中央。なぜか階段があって、その階段の上にレーダー手ですね、オペレーターのオスカとマーカーっていうのがいます。ブライトさんはこの階段の真ん中に座ってるんですね。階段の上にいるのがオスカとマーカーですね。天井にも、側面のディスプレイと天井のディスプレイが見えますですね。
天井のディスプレイです。「来ました、ミサイルです」っていうふうにマーカーが言います。喋ってる、眼鏡がない方がマーカー、眼鏡がある方がオスカですけども、天井のディスプレイに敵のミサイルが映るんですね。それを聞いてブライトさんは素早く電話で「弾幕を張れ」っていうふうに言うんですけども、見て分かる通り、マーカーは右側にいるんですね。ところがレーダーのシーンになってくると、マーカーは左側なんですよ。
どういうことかっていうと、天井が映るシーンではカメラがブリッジの後ろにあるんですね。次にカットが切り替わると、カメラがブリッジの前に来てるんですよね。こんなふうに映すことで、どんどん面白いアングルっていうのを探っていくんですけど、だからちゃんとそれを描写するために、このブライトさんがいる階段です。この階段の手すりがちゃんと向こう側に描いてあるんですね。だから位置関係っていうのを常に正確に描いてると。これ、かなりの手間なんですけども、ガンダムは丁寧にやってますですね。
ロボット戦闘になると、ロボットのコックピットって狭いから、もうキャラのアップしかやらなくていいんですよ。キャラのアップをやって、モビルスーツが動いて、そこに切り込みを入れて、コックピットの中のキャラクターのアップで、そいつが怒鳴るっていうふうなことをすれば、アニメーションとしての絵っていうのは、ある程度盛り上がる絵を簡単に作れるんですけども、ブリッジの中で緊迫感があるシーンを見せようとすると、どういうふうになるのか。
こういうふうに次々とアングルを変えて、そして画面いっぱいにレーダーをつけて、そこの中で光る点をやって、「ここが注目ですよ」。ここで「来ました、ミサイルです」っていうふうに言わせることで緊迫感を出すと同時に、巨大なディスプレイが天井一面にあるので、天井の複雑なメカを描かなくて済むし。それに対して指示してるブライトさんも、この階段とオスカとマーカーが描いてあったら、もうメカはこのスクリーンとスクリーンの間にちょっと描くだけでいいんですね。ここら辺です。
おまけに、このでかいミライさんを描くことで、このミライさんがもしここにいなかったら、また何にもない壁が映ってるだけですね。えらい寂しいんですよ。ここら辺の構図の取り方も、シン・エヴァとは違うアングル主義で面白いですよね。
床のディスプレイが映って、最初ここからカットが始まって、こう上へ流れていくわけですね、カメラが。「第2波、第3波、続きます」っていうふうにマーカーが叫ぶと、上の方へ流れていって、その叫んでる後のマーカーが見えるわけですね。このオスカも「いや、第4波、第5波も来ます」っていうふうに答えますですね。今度はこの眼鏡のオスカを、カメラを上からあおり構図で捉えて、床のディスプレイも見せるわけですね。
この原因と結果は、このレーダーに映ったからオスカが叫ぶっていう因果関係も見せながら、新しい構図ですよ、動きっていうのを見せようとしてます。「役割分担とかあるんだろうか」。これはもう本当に設定で読んだだけなんですけど、一応こいつが後輩だそうです。マーカーが1年先輩で、オスカはその1年後輩で、2人で正副オペレーター、正オペレーター、副オペレーターという役割だそうですけども。
面白いのは、その絵としてどういうふうに考えるのかなんですけども、階段があって、その中央にブライトさん、艦長がいて、そのさらに上にオペレーターがいるっていうふうなことで、普通アニメを作る時についつい平たく並べちゃいそうなキャラクターを、どんなふうに立体的に見せるのかっていうですね。ガンダムのこの見せ方っていうのが、やっぱり僕は注目してるところですね。うまい。本当にうまいです。
ガンダムのアムロとセイラに発進命令が出るんですけども、ただ、まだミサイルが飛んできてるだけなので、様子見なんですね。敵がまさか新型のモビルアーマーという新兵器を出してくるなんて全く知らないんで、様子見です。しかし次々とズゴックとグラブロのミサイルが襲ってくると、ホワイトベースは「後ろに潜水艦がいたのに、なんで前から攻撃が来るんだ」「そんな潜水艦に出せる速度じゃないぞ」というふうに、だんだん不安になります。
カイやハヤトに機関銃を担当させて、ミサイルを撃ち落とします。つまりモビルスーツは今回ガンダムしか出さないという縛りがあるんですね。ガンキャノンとかガンタンクは、潜水艦というか、水中モビルスーツに海中戦で戦えないので、カイとかハヤトは今のところ機関銃を撃たせるのが一番いいというふうなことで、後半、なぜガンペリーでカイが出撃するようになったのかっていう状況を作るための伏線が、どんどんできてるわけですね。
結果的にミサイルが当たって、ホワイトベースが大きくグラッというふうに揺れます。ミハルの弟や妹と同じ年ぐらいの子供がホワイトベースに乗ってるのを、ミハルは見つけてしまいます。消火器を持って働いてる子供たちを見て、ミハルは自分がやったこと、「ちょっと自分、やばいことをやったんだ」というのが分かるわけですね。
何かというと、「弟や妹のためなんだよ」とか「私たちはこれで暮らすしかないんだよ」と、ついさっきもカイに言ったばかりなんですけど、しかしその言い訳が自分でも通用しなくなってくる。信じられなくなってくるんですね。ホワイトベースの中に子供がいて、それがジオンの攻撃で今やられそうになってる。このホワイトベースが落ちたら、この子たちも死んじゃうんだと。こういうふうな状況になってる。
あと、そのドラマの中では描いてないんですけども、当然分かるのが、自分は乗ってるのにジオンが攻撃してきたっていうミハルの驚きなんですよ。さっきまでジオンの飛行機がホワイトベースの中にいて、それと通信してたわけですね。これから先も情報を送れというふうに言われて、自分は船に残されてるんですよ。なのにミサイルで攻撃してくるんですよ。もし攻撃するというのが分かってるんだったら、なんでその飛行機に自分を乗せてくれなかったのか。なんで自分を逃がしてくれなかったのかと。
落とすつもり。このホワイトベースをミサイルで攻撃して落とそうとしてるということは、もう自分もろとも殺そうとしてるんだなっていうのがミハルに分かると。そこまで自分はうまく立ち回ってやってたつもりなのに、結局利用されて殺されるんだっていうのが分かった。なので後半、ミハルは「このままじゃ私はやりきれない」と言って、ジオンを倒す戦いに自分も参加させてくれ、あんな小さな子供たちも戦ってるんだっていうふうにですよね。
この辺りがちょっと分かってくると、ミハルがなんで後半やる気を出してカイと一緒に出撃しようとしたのかっていうのが、情以外の部分で分かるんですよ。情だけで、ドラマの中での情だけで見ちゃうと、「小さな子供が、私のせいだ」「カイさんのそばにいたい」「私だって役に立ちたい」っていうのがあるんですけども、そのベースにはもっとはっきりした怒りっていうのがあると。「私は利用されて使い捨てにされそうにしている。だったら一矢報いたい。人の言いなりにもうなりたくなんかないんだ」っていうのが見えてくるわけ。
この辺の、もう本当に描けないのが分かるんですよ。ちゃんと材料は揃ってるから、富野さんなり脚本家なりがそれを描こうとしたのは分かるんだけど、もう尺に収まらなくて、ここら辺は泣く泣くカットしたっていうのが分かってくるのでですね。でももう仕込みだけは見えてるんで、すごいなというふうに僕は思いましたですね。ミハルはもう、自分のスパイ行為っていうのを正当化できない。
今、コメントで「兵というのは使い捨てだから」っていうのがあったんですけど、それはそうなんですけども、それは兵隊が自虐的に言う時だけなんですよ。兵を使い捨てにするような軍隊は、あっという間に滅びるんですね。後にソロモンという宇宙基地が滅びた時に、そこから逃げてくる兵隊たちを「後で助ければいいだろう。別に見捨ててるわけじゃないよ。後で助ければいいだろう」というふうにしたマ・クベに対して、「そんなことでは兵隊はついていきません。そんなことでは戦争というのは維持できません」というふうに副官に反対されて、マ・クベはため息をつきながら「お前がそう言うんだったらそうなんだろう」と言って助けて、結局間に合わなかったっていうのはあるんですけど。
そうなんですよ。「兵は使い捨て」っていうのは兵隊が自嘲的に言うことはあるんですけども、絶対に上層はそんなことは言わないし、考えないようにしてるんですね。でないと軍隊自体が成立しないからです。
第2デッキで、ようやくGアーマーの発進準備です。いよいよロケット噴射して、発進というのの直前です。そうするとモビルアーマーの中のブーンが「捕まえたぞ、木馬。部下の仇、討たせてもらうぞ」。敵のミサイルが発射されるわけですね。
グラブロ、ズゴック。まずズゴックからミサイル、バンバンバーン。グラブロからさらにでかいミサイル、バーン。ミサイルが海面からドンドーンと垂直に上昇してくるという、景気のいいシーンですね。ドーンとなって、ドンドコドゴドンとアイキャッチになります。第28話は「大西洋、血に染めて」ですね。Aパートはここまでです。お疲れ様でした。
ガンダム、分かりやすいんですよ。今の話の流れで分かる通り、シン・エヴァの話から流れでガンダムの話になると、やっぱりガンダムの分かりやすさっていうのがちょっとつかめると思う。シン・エヴァって分かりにくいんですよ。その代わり構図が美しいんですよね。多分、シン・エヴァだったらこれをワンカットでやるんですよね。ワンカットでやるんですよ。こんなふうにカットを分けないんですよね。そのおかげで画面は美しいんですけど、この分かりやすさがなくなっちゃうということなんですけども。
ガンダムのこの分かりやすさって何なのかっていうと、『アルプスの少女ハイジ』なんですよね。やっぱりハイジに参加する以前の富野由悠季監督のアニメって、ここまで分かりやすくないんですよね。割と、虫プロだから分かりやすいっていうのはあるのかな。つまり絵がうまいスタッフがいっぱいいた東映動画のアニメーションと違って、虫プロってアニメのプロじゃない人が集まってアニメを作って、おまけに作画枚数も制限があるので、構図で見せようとするんですね。漫画家の発想なんですよ。
やっぱり漫画の神様が作ったアニメスタジオなので、ついつい漫画の発想になってきて、構図で何とか解決しようとするんですけども。それに対して東映動画の方は、構図っていうのは舞台劇みたいに引いた絵で考えて、その中で演技で解決しようとするんですけども。虫プロからの流れで、まず何とか分かりやすさというのを、構図で、カットを複数に分けて見せようとするんですけども、ところが『アルプスの少女ハイジ』を手伝うことによって、テレビアニメで東映動画的な、劇場的な見せ方っていうのを富野さんは学ぶわけですね。
それで、カットを割る時でも、こんなふうに割れば各キャラクターの心理っていうのを途切れさせずに、おまけに説明もできると。ハイジが、そのおじいさんがチーズを火にかけてあぶって、チーズがゆっくり溶けていく。それをハイジが見て、うわーって口を開けると。その次におじいさんの優しい表情をワンカット、ポンと入れて、「おっ」っていうシーンをやることによって、全部意味がつながってくると。
溶けてるチーズ、ハイジの後、ハイジに「ほい」って与えるんではなくて、意味のないおじいさんの表情を1回入れるだけなんですよね。そこでセリフを載せないことによって、見てる人間はおじいさんの優しさっていうのを勝手に想像するんですよ。そこにあるのは意味のないおじいさんの笑顔なんですけど、これ、モンタージュですよ。このモンタージュっていうのの徹底的なうまさっていうのを見せられて、「いや、ちょっとこれは俺が虫プロでやってきた下品な演出とは違うわ」っていうふうに、思ったかどうか知りませんけども。
それを『機動戦士ガンダム』の中にも、ものすごくぶち込むんですね。だから、ちょうどいい分かりやすさとかっこよさのバランスになってきてるんだと思います。
しかし、その『アルプスの少女ハイジ』にしても『機動戦士ガンダム』にしても、こういう面白いシーンを作るにはレイアウトマンが前提なんですよ。かっこいい絵が描ける、かっこいい構図が取れる、アングルが取れるレイアウト、コンテっていうのが必要なんですけども、それがテレビ版のエヴァをやってた時代のガイナックスには不足してるんですね。
それはテレビ版のエヴァだけではないです。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の時には、ある程度金を使って、いいスタッフは集められたんですけど、そこからテレビ版のナディアとか『トップをねらえ!』の頃のガイナックスっていうのは、うまいやつはいるんですけども、それはもうトップの何人かだけ。中心にいる、言っちゃえば4人か5人だけなんですよ。でもそれでテレビシリーズをやろうとしたり、ビデオの6話をやろうとしたら手が足りないんですね。
そこでテレビ版のエヴァを支えたのが、実相寺アングルってやつなんですね。実相寺さんっていう実写の監督が、ウルトラマンやウルトラの時に多用した特殊なアングルなんですけども、何か手前に大きいものを置いといて、それの向こうに小さい人物がいるとかですね。画面の中に見えない壁とかドアがあって、その隙間からちょっと向こうに人がいる。あと極端な魚眼レンズで表情を捉えると。
これ何かというと、ロケでいい絵が撮れない、セットが安っぽい、役者さんがそんなに人数を出せない、演技もそんなにリテイクを出せないっていう時に、何とかしようとした人なんですよ。実相寺昭雄のウルトラマンとかウルトラセブンを、興味ある人は見てほしいんですけども、とにかくレイアウト、構図、アングルで何とかしようとした特撮ドラマなんですよね。
この流れで考えると、アニメーションでかっこよく見せるっていうのはどんなやり方があるのかっていうバリエーションが見えてきて、シン・エヴァがどのようにして生まれてきたのかっていうのが分かって、面白いと思います。
ついに後半、Bパートの話です。新井さん、30代男性。「いつも楽しく拝見させていただいてます。ガンダム講座『大西洋、血に染めて』の回で、ミハルは死ぬべくして死んだとおっしゃったのを踏まえてアニメ本編を見たのですが、この回は戦闘での被害や人が多めに描かれていて、ミハルの罪を描いているのかなという気がしました。ベルファストが壊れた時でさえ、ベルファストの街が壊れた時でさえ人が死ぬシーンはほぼなかったのに、今回は2度も爆発して人が死んでいくシーンがあり、悲鳴まで聞こえたので印象的でした。この辺に対して岡田先生の見解を聞かせてください」ということですね。
いい視点です、新井さん。その通りです。ガンダムの「大西洋、血に染めて」は、いわゆるマニアの間ではですが、富野由悠季やスタッフのそれぞれの人も、ミハルという女の子のスパイに感情移入してたというエピソードが、マニアの間で広く知られてるんですよね。
それはミハルをいい子、かわいそうな子として描いてるというだけではなくて、見せるべきは、なぜ彼女は死ななければいけなかったのかですね。泣かせるため、感動させるためという演出、そういうだけの演出はもちろん富野由悠季はできるんですけども、やっぱり『アルプスの少女ハイジ』をやった後の富野は違うんですよ。演出の都合以外で死ぬべき理由を、きちんと見せたかったんですね。それがガンダムの演出だったという話に、これからなっていきます。
では前回の最後、Aパートの最後あたり、コマーシャルに入る直前の展開をおさらいしてみましょう。モビルアーマー、グラブロに乗ったブーンの表情ですね。ブーンというのは、もともとは大西洋からアフリカ沖あたりの潜水艦隊の艦長だったんですよ。いわゆる艦隊を率いる指揮官だったんですけど、いきなりジオン本国からシャアっていう、自分よりずっと年下の上司が降りてきて、自分はその下になるしかなかったんですね。部下になるしかなかった。
シャアが来る前に何回も何回もホワイトベースに攻撃をかけて、そのたびにモビルスーツを失っていったっていう、ちょっと立場が悪くなってきてる。なので今回は自ら最新型のモビルアーマーに乗って出撃しています。そのブーンが「よし、やってやるぞ」というふうな感じで、2枚目ですね。水中から次々と部下が発射したミサイルが飛んでいきます。発射したミサイルに対して、ホワイトベースは周りに機銃を撃ってミサイルを撃ち落とす、こういう防戦をするしかなかったんですね。
ホワイトベースの中、ミハルの反応ですね。ジオンからの攻撃を受けて転んでいますね。すごい衝撃があったんでですね。ホワイトベースの中に子供たちがいるのを知って、驚きます。「あんな子供たちがいるなんて」っていうふうに驚いてるシーンなんですけども、ちゃんとミハルのこれからの行動を示すように、見ている時も下手方向を見ている。画面が切り替わって、やっぱりこっちも下手方向を見てるんですね。
前からずっと説明してる、富野さんの映像表現の教科書に書いてる通り、お話内で物事が進む時は必ず上手から下手っていう流れが発生します。なので、このミハルが子供たちを見てるのは、これから何か彼女が行動を起こすための原因なんですね。これも同じです。何か行動を起こすための原因を見てるから、必ず画面の上手方向から下手方向へ視線を送っています。これが今回のお話の伏線になっています。子供たちを見ちゃったということですね。
やっとガンダムが発進します。ガンダムが発進して、セイラさんがやっぱり下手方向を見て、これGファイターに乗ってるんですけど、アムロも席についてます。同じ方向を向いちゃってるんですね。これも演出上仕方がないんですけども、本来Gアーマーに乗ってる時に、セイラさんはこっち方向で正しいんですけど、アムロは逆でないとダメなんですよ。これ、僕が無理やり画面反転したんですけど、セイラさんは前を向いて、アムロは後ろを向いてるから次のシーンにつながるんですね。後でこれ、ちょっと確認しましょう。
やっとGアーマー、エンジン始動しました。しかしそこにグラブロの攻撃が来ました。グラブロから、ちょっと形が違う大型のミサイルが発射されて、海面から出てきたところですね。バシャンと出てきたところでアイキャッチですね。ドドドンドドドドドドドドドンってことでCMに入ります。前半ここまでですね。今回はアイキャッチの、Bパートの解説です。
もうアイキャッチが終わったらすぐに、ミサイルがギュンと近づいてきて、カットが変わってすぐにGアーマーが発進します。しかしGアーマーの発進と同じ画面で爆発が下から起こって、これ新井さんがおっしゃってた、人間が吹っ飛ばされてるシーンですね。人間が吹っ飛ばされて、もう明らかにこれ死んでる感じです。悲鳴まで入ってます。
これ、ドーンと発進した、発進の時にあったから、Gアーマー自体はもう発進できたんですよ。しかし発進したGアーマーで、これアムロ、ちゃんと後ろを向いてますね。アムロが「あっ」って見ると、すでにホワイトベースの第1デッキは、あ、第2デッキだ。第2デッキは爆発炎上しています。
ちょっとホワイトベースで解説しますね。これ、連邦軍のアムロたちが乗っている、戦艦というふうに今言いますけど、ホワイトベースで、アムロたちが発進したのがこの第2デッキです。いつもアムロが使ってるのは第1なんですけども、これがこういうふうに開いて、中からモビルスーツが発進する仕掛けになってるんですけども、彼らが発進した瞬間に、真下からミサイルがどんどんと撃たれて、ここの床が破壊されてしまいましたということで、もうこの第2デッキは使えませんですね。
爆発炎上してしまいまして、第2デッキが使えない状況になりました。この使えない状況というのが、今回全体の伏線になってました。面倒くさいですけど、1つずつ覚えといてください。この衝撃はブリッジまで伝わります。アムロが後ろを向いてるシーンをなんで説明したのかっていうと、Gファイターが前を向いて飛んでるのにアムロは後ろを見てるので、「第2デッキが破壊されてしまった」っていうのが分かったからですね。
この衝撃はブリッジに伝わって、ミライさんとかは立ってる席から吹き飛ばされたりします。「弾が当たったのはどこですか?」ってフラウ・ボゥが聞くと、「第2デッキだ」「被害状況を教えてください」っていうふうな流れになります。もう第2デッキはぐちゃぐちゃに破壊されてるわけですね。
なんでこの描写が必要だったのか。それは新井さんが質問した通り、ミハルの罪を描くためなんですよ。死ぬ人間は泣かせるために死ぬんじゃないんですよ。それだけではいけないと。必ず報いを受けて死ぬっていう原因を作る。それが子供向けアニメの倫理であろうというふうに、富野さんは考えたからですね。
つまり、かわいそうだから、敵がひどいから、だから死んじゃうんだというキャラクターっていうのは、ザンボットの頃からでも富野さんはやってるわけですね。人間爆弾の回とかやってるんですけども。しかしそれはガンダムの前であって、ガンダムの時になったら、もう泣かせるために死ぬようなキャラクターっていうのが出てくるんではなくて、何かミハルが罪を犯したと。具体的に、やっぱりホワイトベースの目的地を教えたっていうことなんですよ。
目的地を教えたせいで、レーダーが使えない状況でシャアの艦隊はホワイトベースに追いついて、ホワイトベースを攻撃できたわけですから。実は今ホワイトベースが攻撃されてるのは、本当にミハルのせいなんです。でもミハルは、「そんなことをしても構わない。だって私が生き残るためだもん」とか、「私には弟や妹を食わせる義務があるんだもん」っていうふうなことで、ちょっと自分自身に言い訳してたんですね。
しかし目の前で子供たちが死にかけになって、自分の弟や妹より幼い子供たちが死にかけて働いてるのを見て、自分はやってはいけないことをしたんだっていうのが分かるんですね。こういう積み上げをしてるからこそ、後半ミハルが「私も戦いたいんだ」って、カイに向かって一生懸命アピールするシーンにつながってると。罪悪感を持たせると。これがミハルの罪ですね。
もう1つは、カイ・シデンの行動の正当性ですか。カイがミハルを乗せて、一緒にガンペリーで後半出動するんですけど、この時になんでミハルを乗せるのか。「私も一緒に戦いたいんだよ」だけで乗せるんでは、あまりに説得力がないというより、カイ・シデンというキャラクターが安っぽくなっちゃう。カイ・シデンっていうのは情で動くべきところを合理性っていうのを考えて、これまで艦内で皮肉屋というふうに言われたり、ブライトさんに殴られたり、アムロに嫌われたりしても、カイ・シデンは合理性っていうのを見失ってなかったんですね。なので、なんでカイ・シデンがそういうふうな行動に出たのかっていうのを描くためですね。
あと、ガンペリーで発進する時に、なんでガンペリーなのかと。カイ・シデンが乗ってるガンキャノンとかコアファイターで発進するという手もあるんですよ。ところがそれをやっちゃうと、ミハルを乗せられないんですね。演出の都合上、お話の都合上、一緒に出撃して戦うという形、理由を作るために、モビルスーツやコアファイターの発進できる第1、第2デッキは、このBパートが始まって早いうちに使用不能にしておく必要があったんですね。これが演出上の都合です。
シーンが変わって、カイの部屋になります。次々と続く爆発にミハルは怯えます。ミハルが「直撃だったんだわ」と驚くんですね。前回も話した通り、「ジオンは私もろとも殺すつもりなんだ、葬るつもりなんだ」というふうに、ミハルが気がつくシーンです。そこにカイがやってきます。
部屋で怯えてるミハルに、カイは飛び込んできて、いきなり救命具を渡してすぐに出ていこうとするんですね。救命具を押し付けて、すぐに出ていこうとします。「救命具をつけてろ。死んじゃ何にもならないんだから」っていうふうに言います。救命具、海の上で浮かぶライフジャケットですね。もうこの船は墜落するかもしれない。それを覚悟してこれを着ておけっていうふうな意味なんですよ。
それに対してミハルは「あんたは?」っていうふうに聞くと、カイは「応戦中さ」と、機銃に行って応戦しなきゃいけないということで軽く答えて、もうすぐにこの部屋を出ていこうとします。ミハルは「私もやらせて」っていうふうに言うんですけども、カイは冷たく「できるわけねえだろう」っていうふうに言うんですね。ミハルが何の役にも立たないっていうのを知ってるからです。
またガーンと船にミサイルが当たって、揺れて爆発して、倒れてしまいます。倒れてミハルが顔を上げて、「私のせいなんだ」っていうふうにカイに言います。カイは慌てて「おい」っていうふうにちょっと止めます。最後のコマですね。「私が情報を流したばっかりに、カイさんたちが」って言うと、カイがちょっと笑いながら、「お前が情報を流したぐらいで、こんなに攻撃されねえよ」っていうふうに言うんですけども、これはカイの優しい嘘ですね。ミハルが情報を流したからなんです。
ミハルが「ごめん、私があんたたちを」っていうふうに、ちょっと顔を上げて泣いてると、カイがちょっと、そこまで真剣に謝られるとちょっと引いて。あんまりカイが、ミハルがスパイだったということに触れないようにしてたんですけども、ちょっとビビってます。
こういうやり取りをやってる間に、Gアーマーはミサイルを避けて、ガンダムをボルトアウト、中から発進させて、このままガンダムは海中に降りていきます。注目すべきは、盾が2枚重なるシーンがちゃんと描いてあることなんですけどね。1枚目の盾と2枚目の盾を、わざわざ。本当に富野さんは、おもちゃ屋さんの要求には真面目に従う人なんですね。
こんな大事な戦闘シーンで、わざわざガンダムがボルトアウトして海の中へ飛び込むシーン、もうここからここへ流れてもいいのに、途中で1回、盾が重なるシーンを入れるところが。「真面目か」って今コメントがありましたけど、本当に真面目な感じですね。
海中にガンダムは入っていくと。海の中へバーッと入ったガンダムは、グラブロとついに対面するわけですね。ブーンが嬉しそうにしてます。「ふっ、愚かなガンダムめ。水中戦によほどの自信がついたのか、それとも我々をなめていたのか」っていう、それぞれの思惑が交錯するシーンです。どんな思惑が交錯するのか、ちょっとまとめてみました。
まず青い方が連邦ですね。緑がジオンですね。ミハルは中間だから真ん中なんですけども、カイはミハルをかばって、何だかんだ言っていいことをしたからいい気分なんですよ。ちょっと自分をこれまで見下してたということもないんですけど、ちょっと1回険悪になったホワイトベースのみんなへの仕返しということもないんですけども、みんなに隠してかばうことで、ちょっといいことをしてる気分になってんですよ。
ところが、それが戦わないとみんな死んじゃうということが分かり、そしてミハルだけが悪いんじゃないっていうふうに、一生懸命思いたいところですね。対してミハルは、幼いきょうだいを食べさせるために仕方がないだろうと。男がかまってくれて安心っていう、ちょっと女っぽい悪いところが出てると。しかし自分の裏切りで子供たちがピンチになってると。救命胴衣を渡されてびっくりすると。「みんな死ぬの?」って言うんです。死んじゃうの、ということですね。戦う決意をするんですね。これがミハルの思惑です。
ブライトはブライトで、艦長のブライトは、怪しい飛行機がいて、その後あれを撃ち落としたカイが奇妙な早退をしてきたと。ちょっと変だなというふうに思ってるんですよね。そもそも襲われたのが変だと。深夜にベルファストを出たのに、なぜジオンは私たちの現在地を知ってるのかと。もしあの変な飛行機がジオンの偵察機だとしても、なんでレーダーの使えない状況で深夜にベルファストを出たのに、あの偵察機が偶然装って来たんだろうかですね。今ミサイルの攻撃を受けてるので、ブライトはこういうことに関して不審に思ったんでしょうけど、現在思考停止しています。
ブーンですね。いきなりシャアが上官になりやがったと。失敗を取り返してジオンに帰りたいと。新型モビルアーマー、グラブロ、こいつだったら信頼できるだろうということで戦おうと。水中戦で勝ってジオンに帰ろう、ですね。この4者の思惑が交錯しているんです。この辺りです。さあどうなるかということで、続きは来週のガンダム講座です。
機動戦士ガンダム講座。1979年にテレビ放送された初代ガンダムを、1話ずつ徹底的に解説しています。今日は第28話「大西洋、血に染めて」の第6回、後半Bパートの2回目の講義になります。
アムロとセイラのGアーマーが出撃する瞬間、敵のミサイルがホワイトベースの第2デッキ、ここなんですよ。ここを直撃して、ここはもう爆発炎上してしまいます。そのせいで、この第2デッキのカタパルトが使えない状態になってしまうんですね。主なクルーは全員、このホワイトベースの周りに無数にある機関銃の銃座で動けない状態ですね。そこで飛んでくるミサイルを撃ち落とすだけでも精いっぱいなんですね。
カイ・シデンも銃座の1つを任されていたんですけども、そこに移動してる最中に、何とかミハルに救命具を、もうそろそろホワイトベースが海に落ちることを考えた方がいいかもしれないと思って、救命具だけを届けに行きました。艦長ブライトの予想を超える攻撃規模ですね。ハヤトを戦闘機コアファイターに乗せて発進させようとしている。ここから今回の話は始まります。
次に出てくるのはモビルスーツ第1デッキです。ここですね、第1デッキです。第1デッキが開いて、ここからハヤトが乗っているジェット機、戦闘機ですね、コアファイターが発進しようとしています。第1デッキからハヤトが発進しようとしています。カタパルトからコアファイターが発進しました。ところがハヤトは振り返って驚きます。またミサイルが命中コースを飛んでいるからですね。
振り返ってみると、ホワイトベースの第1デッキの下ですね。つまりこの部分。この部分に見事、敵のミサイルがドーンと命中しちゃいますですね。その結果、フリップに戻って、また2人、係が吹っ飛ばされて、もう外へはじき出されて、大爆発、炎上してしまいます。ということで、第1デッキも使えなくなってしまいました。
ホワイトベースは、モビルスーツを発進させるための第1デッキ、第2デッキともに使えない状況です。つまり、もうこれ以上モビルスーツが出せないっていうふうなことなんですね。その他にも戦闘機のコアファイターもあって、コアファイターにはミサイルを積んでるんですけど、これも今発進したハヤトが最後で、使えないというふうなことになります。
さて、なんでまたこの描写が必要だったのか。前回に続いて、この描写の必要性、演出的な必要性を説明すると、第2デッキと同じく、やっぱりこれもミハルの罪を描くためなんですけども、もう1つの理由は、カイとミハルがこの後ガンペリーに乗って出動するしかない、それしか選択肢がない状況を作るためなんですね。
第1デッキ、第2デッキがまだ動いてれば、カイはコアファイター、またはガンキャノンに乗って出撃せよっていう命令が絶対に出たはずなんですよ。だってガンペリーには攻撃力がほとんどないんですから。コアファイターにはミサイルをいくつも積んでるから、コアファイターが合理的な指揮なんですよ。でもそれではドラマが展開しないので、ミハルの罪を見せるのと同時に、こうなるしかなかったんだっていう運命のいたずらを見せるために、第1、第2デッキは修理不能なまでに破壊されなければいけない。「もうダメか」。これを作るためだったんですね。
もうダメかもしれないという緊迫感が艦内に走ります。テレビでアニメを見てる僕らは、第1デッキが破壊された、第2デッキが破壊されたと言われても、それがどんな危機なのかピンとこないんですね。いつもホワイトベースは攻撃を受けてますし、しょっちゅう左舷のエンジンの調子が悪くなるし、しょっちゅう弾幕が薄くなるからですね。ホワイトベースがやられるのはいつものことだろうというふうに思ってるんですけど、実は今回、多分ガンダムのシリーズ中、ホワイトベースって最大のピンチなんですね。
援護がない状態で、たった1機で海の上、大西洋を飛んでいて、そこを敵に大量のミサイルで攻撃されるっていうような状況なので、かなりのピンチなんですよ。ブライトさんは「各ブロック、被害状況を知らせろ」と、ここで話します。「カイのコアファイターを発進させることはできないのか」っていうふうに聞くと、「カタパルトはやられて、コアファイターが出せません」って報告が返ってきました。
ブライトは「ガンペリーはどうした? あれには対潜水艦用ミサイルが積んでるはずだ」っていうふうに怒鳴ります。「あ、そうでした。カイをそっちへ回させます」。ブライトはフラウに「第3デッキを開かせろ。ガンペリーを発進させるんだ」と言います。
フラウ・ボゥは艦内で、艦内全体へのアナウンスですね。「第3デッキ、ガンペリー発進用意してください。カイさんはどこですか? 第3デッキに向かってください。カイさんは第3デッキ」。放送が艦内全体にですね。もうそこら中で非常警報が鳴りまくってて、爆発が起こってグラグラ揺れてる船内の中に、「カイさんはどこですか? カイさん、第3デッキに向かってください」という放送が始まるんですね。
機銃に、ミハルに救命胴衣を持たせて、機銃に走っていくはずだったカイは第3
デッキに急ぎます。ちょっと見えにくいんですけども、この真ん中の、予備みたいなやつが第3デッキなんですよ。これですね。こいつがホワイトベースの第3デッキです。これ、もう爆発したから「爆発」って貼っとかないとね。ちょっとでも分かるように、ここに貼っときましょうか。第3デッキですね。
この中央第3デッキって、小さいから役に立たないように見えるんですけども、こういうふうに見せればいいですね。中央第3デッキって、役に立たないように見えるんですけども、かつてコア・ファイターを衛星軌道まで打ち上げたことがあるんですね。どういうことかというと、ハイパワーのカタパルトがあるんですよ。エンジンからのスチーム、蒸気が直結してるので、ガンペリーなんかの大型機は、だいたい第3デッキから出るんですね。モビルスーツとか飛行機を押し出すよりも、はるかにハイパワーのカタパルトがこの第3デッキにあるために、主にここはガンペリー専用になってると。
この第3デッキに走るカイと、後についていこうとミハルが走って追いかけます。カイとミハルが走って手前に来るのを、正面からのショットで捉えています。爆発がすでに起こって、もう床は揺れっぱなしですね。カイを追いかけてきて、ミハルが転びそうになります。カイは振り返って怒鳴りますね。「お前は逃げやすい場所に隠れてろ」と言うんですよね。
ここで僕があえてカットを2つ載せてるのは理由があって、1つ目のカットではミハルはかなり遅れてるんですよ。2つ目のカットになると、ミハルは割と追いついてくると。3つ目、カイが必死に走ってるのに、もうすでにミハルは追いつきつつあるんですね。この必死で走ってるカイに追いつきつつあるぐらいの、ミハルの本気度を見せるために、ミハルがわざわざ走って近づくカットを真正面から撮らなきゃいけない。もちろん、真正面に走ってくるっていうのは、この緊迫感を出すためなんですけども。
シーンの頭では転んでしまう作画なんですけども、カイの頭っていうのは、走ってる時にあんまり揺れてないんですね。軍人ですから。正面向いて走ってる時のカイの表情は左右対称なんですよ。基本的に、アニメーションで左右対称にキャラクターを描いてる時っていうのは、平常心だというふうな意味だと思ってください。テレビアニメなんかの大ざっぱな演技を多用しなければいけない時っていうのは、瞳孔は開いてるんですけど、顔が左右対称だから、そんなに慌ててないと。それに比べて、何か感情が盛り上がってるキャラクターっていうのは、必ず左右が非対称になるんですね。追いかけてくるミハルは、顔が左右非対称になってます。切羽詰まってるからですね。こういうふうなキャラクターになっています。
外では戦闘シーンが続いていて、アムロのガンダムはブーンのグラブロと水中で慣れない格闘シーンですね。セイラのGファイターと、ハヤトのコア・ファイターは2機で、同じくズゴックが2機まだ水中に隠れてるんで、それと戦っています。連携プレーでようやっと、ミサイルでズゴックを1機倒します。ズゴックが1機落とされたんで焦るブーンは、目の前のガンダムを無視して、セイラをミサイル攻撃しちゃいます。セイラのGファイターにミサイルが当たるんですけど、なんとか耐えるんですけども、そのまま不時着、着水しちゃいますね。「消火完了。ホワイトベースは?」っていうふうにセイラは心配するんですけども、これでセイラのGファイターっていう新型のメカ、大型の攻撃機は戦闘に参加できなくなりました。もう海の上を漂ってるだけです。
ホワイトベースにカメラが戻ると、「推力40%に落ちてます」ってことで、ホワイトベースのエンジンの推力が、どんどん攻撃されて落ちてると。このままでは墜落するんですよね。ブライトは「対潜ミサイル、よく狙って撃つように伝えろ」っていうふうに言います。どんどんホワイトベースは墜落して高度を落としつつあるんですけども、これ以上ミサイルが当たると、墜落か爆発するか分からない状況ですね。だから、敵の弾が当たって海の上に流れてるような状況になっても、ハヤトもセイラも帰れないわけですね。
ブライトが「ガンダムはどうなってるのか」って言うと、フラウ・ボゥは「応答はありません。苦戦してるようです」というふうに言います。マーカーが「だいたいガンダム、水中戦用の武器持ってないんですよ」と言うと、ブライトは「それを言うな」っていうふうに言い返します。シーンが変わって、水中でグラブロとガンダムが向かい合ってるんですけども、ブーンの方はブーンの方で、セリフで「こいつ、水中戦用にどんな武器持ってるんだ」って言うんですね。
つまり、ホワイトベースのみんなが知ってる、ガンダムは水中戦用のメカじゃないし、水中戦用の戦闘武器も持ってないよねっていうのを、ジオン側でちょっと不安になってるんですね。だから本来だったら、これ、ジオンの新型水中専用モビルアーマー、グラブロ対ガンダムだから、ガンダムは負けて当たり前なんですよ。このガンダムが負けて当たり前という状況を、なんとか富野由悠季としては合理的に解決したいわけですね。そこで根性論とか偶然とかで勝ちたくないんですよ。そうじゃなくて、ブーンが怯えて疑っている、ここにつける隙が生まれたっていう合理的な演出を、どんどんちょっとずつ積み上げていくわけですね。
そして、ついに大ピンチになります。ガンダムはグラブロに足をがしっとつかまれてしまいます。ここら辺は、ちょっと頭の悪いロボットアニメ的で僕好きですね。その前に、ビームライフルが直撃しても、グラブロの腕が少し溶けるだけなんですよね。貫通しないんですよ。これね、大ショックで、これまでガンダムのビームライフルっていうのは、あらゆる敵を葬ってきた最強の武器のはずが、水中だったら威力があまりなくて、敵がちょっと溶けるだけで爆発してくれないんですね。なのに足までつかまれてしまうんです。
次のカット、ホワイトベースのピンチがどんどん高まります。ハヤトはミサイルを撃ち落とせないんですよ。水中からミサイルが上がってきて、これ、ほっといたらホワイトベースに当たるコースなんですけど、もうハヤトはそれを避けて見てることしかできないんですね。もうミサイルがなくなっちゃったんです。反撃用のミサイルがなくなってしまったので、ハヤトも飛んで見てるしかできないんですね。そういうふうな状況です。これ、ホワイトベースに命中しちゃうんですね。ホワイトベース全体に衝撃が走ります。さらに、さっき話した第1デッキですね、とどめのミサイルみたいなものが当たって、ホワイトベース全体に衝撃が走ります。
そうするとどうなるのかって言うと、ようやっと第3デッキに着いたカイなんですけど、先に第3デッキの近くにいた子供たちが吹き飛ばされます。ちょっとめりめりっぽくて、これ第3デッキです。緑色の壁です。ここに吹き飛ばされます。そこにカイがやっと走ってきます。「大丈夫か」っていうふうに聞きます。こういう状況です。
「大丈夫か」と、子供たちが答えたので、「よし、お前らは強いんだ。頑張れよ」っていうふうに励まします。そこにようやっとミハルが追いつくわけですね。カイにミハルが迫ります。「カイ、私にも戦わせて」と。「弟たちが助かって、あの子たちが死んじゃうなんて、そんなことは許されるはずがない」っていうふうなことを言うんですけども、このままカメラが2人の顔に寄っていきます。このショットから、ずっとカメラが2人に寄っていきますね。ミハルのセリフ、「このままだったら、またジオンに利用されるだけの生活よ。それに、もうただ見てるだけなんて、私たまんないよ」っていう必死のセリフがあります。
このセリフでカイが返事をまだ考えあぐねてるところに、「カイさん、早く発進してください」っていうふうに係が言って、もう目の前をミサイルが飛んでるんですね。その向こうにミサイルが飛んでて、どっかで爆発まで起きてるんですね。ようやっとカイが決心して、「一緒に来い」っていうふうに。「爆撃手はいるんだからな」っていうふうなことで、ミサイルの発射要員はいるんだから、お前ついてこいっていうふうに言います。ちょっとミハル、嬉しそうにしてます。「ミサイル撃つぐらいできるんだろう」っていうふうに言われたら、「うん、教えて」っていうふうに言うんですね。カイはミハルの手を引っ張って走り出します。ここが運命の分かれ道だったんですね。実際は、その流れですね。
子供たち、なんでやっぱりここで子供たちをもう1回出したのかっていうと、ミハルが心を切り替えるきっかけになった子供たちが、もう1回ピンチになって、それを励まして、そこに「もう私はこのままじゃ嫌だ」ということで一生懸命説得して。さらにもう防ぎようがない。Gファイターもコア・ファイターも戦えない状況になって、敵のミサイルを避けることもできなくて、ひたすら当たり続けてる状況。「カイさん、どうするんですか?」というふうなことで、「じゃあ、お前、ミサイル発射する手伝いで乗れ」っていうふうに言われて喜ぶんですね。ここは運命の分かれ道です。
一方、ガンダムもまた、慣れない水中戦闘で運命の分かれ道にちょうど出会っていました。さあ、どうなるかですね。続きは次回のガンダム講座でお話ししましょう。だからね、Bパートだけで今回3回分話すんですけども、最後まで行かないんですよ。たぶんあと2回かかるんですよね。本当に、この回、演出がすごい。
富野由悠季展、日本全国でやってるじゃないですか。その時に富野さんが、「演出っていうのを、果たして展示、美術展でできるのかどうか、僕は疑問に思ってるし、はっきり言って無理だと思ってる」っていうふうに言ってたんですね。それは富野さん一流の照れ隠しかなと思ったんですけども、富野さんは演出っていうのは何かって言うと、形に残らないものだと。だから原画とかコンテとか、そういうふうなものをいくら見せても伝わらないっていう思いがあったんでしょうね。
案の定、日本全国で富野由悠季展の巡回展をやった時に、富野さん、1回ごとにゲストで行って講演したり対談したりしてくれるんですけど、そのたびに富野さんは、「演出っていうのは展示して見せられるものじゃない。アニメの作品を見せる、富野作品を見せるという展示には感謝してるんだけども、演出を見せるという点では今回の展示会はできてない」というふうに言ってるんですね。演出っていうのは、さっきから話してるああいうことなんですよ。こういうことの連続が演出っていうのを作り出してるんで、ちょっとそれは次の解説で話してみようと思います。演出とは何なのかですね。
機動戦士ガンダム講座。1979年に放送されたテレビ版の初代ガンダムを、1話ずつ徹底的に解説します。今回は「大西洋、血に染めて」、第28話の、もう7回目の解説になります。後半Bパート目の3回目の講義です。イギリスのベルファストで修理したホワイトベースですね。みんなが乗ってる連邦軍の、味方側が乗ってる戦艦。こんな形のデザインをしてます。大西洋を越えて、南米の連邦本部ジャブローに向かっています。しかし、ジオンの新兵器モビルアーマー、グラブロたちのミサイル攻撃で、ホワイトベース艦内は火の海です。徐々に高度を落とし、もはや墜落するかもという、乗組員にライフジャケットを配り始めるという緊迫した状況になっています。じゃあ、いきましょう。
ガンダムで出撃したアムロは、モビルアーマー、グラブロに水中で足をつかまれて絶体絶命です。ビームサーベルを振り回してるんですけど、届きません。敵の顔が近づいてくる。こんな感じですね。アムロはちょっとパニックになってると。実際に描かれてるのは何かというと、セルにアムロの表情を描いて、この肌色の部分がセルに描いてる部分ですね。この黒い線の部分が、透明なセルの上に線だけがあって、その後ろをこの青い背景が斜めにシャーッと走ってるんです。ちょっとパニックになってるという表現で、当時はよく多用されたエフェクトで、『宝島』とか『エースをねらえ!』の出崎さんあたりが多用した、開発したかどうか分かんないですけど、エフェクトです。セル時代の遺跡のようなシーンですよね。
Gファイターに乗ってるセイラと、コア・ファイターのハヤトも、水中モビルスーツ、ズゴックをなかなか倒せないと。なんとか1機だけ撃破したんだけど、まだ1機残ってる。この状態でセイラのGファイターは敵のミサイルを受けて炎上してしまい、なんとか消火したんですけども、着水して動けない。ハヤトもミサイルがもう切れて反撃できない。飛んでるだけの状態になります。そんな中、ベルファストで乗り込んだ、ジオンのスパイとして乗り込んだ1人の少女ミハルですね。ミハルはカイ・シデンに「私も戦わせてくれ」と言って、一緒に出撃する。ここまでが前回までの流れでした。
3者の状況が分かるのが次のシーンです。セイラのGファイターが、もう海に不時着というか着水していて、漂ってるだけの状態。この上を今回のメインメカ、ガンペリーが飛びます。ガンペリーのブリッジには、カイ・シデンとミハルが乗っているっていう、こういう位置関係が分かります。「スコープの十字に敵の光が合ったらミサイル撃つんだ。分かったな」と。「うん、分かるよ。あそこだ」っていうふうに言います。
そうすると、敵がミサイルを撃ってきます。ズゴックが水面に出てミサイルを撃ってきます。それに対してコア・ファイターも何もしません。ハヤトもセリフで「弾もミサイルもなくなった。カイさん、頼む」って言ってるような状況です。水面には不時着したセイラ。空には飛んでるだけのハヤト。その間で、もうこいつらが戦うしかないというガンペリーが来て、いよいよこのズゴックと戦おうとしています。一応ガンペリーを解説しますか。
これ、ガンペリーっていって、本来はこのお腹の中にガンダムとかを乗せて発進するメカなんですね。ガンダムを中に入れてるぐらいだから、実はものすごい巨大な飛行機なんです。この巨大な飛行機の、この小さいコックピットの中に、カイとミハルは乗っているわけですね。最初のミサイルを発射します。これですね。ガンペリーですね。
ここで、このカットにカメラが動き、正面から攻撃するところをやってるんですけども、「カイさん、頼む」って言った瞬間に、このカットに切り替わるんですよね。カメラはここの両横のミサイルを見せてるわけですね。ちょっとこちら側にしかないんですけども、ミサイルがあって、これが対潜水艦になってるので、これを撃って。あっと、ミサイル発射しちゃった、今、間違えて。ズゴックと戦おうとしてるわけですね。この状態で飛んでるのを正面から見たカットです。正面からたっぷり時間を使って、ミサイルが両側に3つずつよっていうのを、きちんと見せるシーンですね。これ見せないと、こっから先の展開が説明できないんですよ。
「レバー1つずつ押すんだ。いいな」っていうふうに、落ち着いて言います。カイもミハルも正面を向いたままです。お互いに顔を合わせたりしません。もう戦闘状態になってるから、前しか2人は向かないんですね。ミハルはレバーに指をかけて、人差し指だけで1つ目のレバーを下げます。これがミサイル発射なんですね。そうすると1本目のミサイル、左の翼についた1番外側のミサイルが1つだけ、シュッと発射されると。
やっぱり細かいのは、この人差し指をレバーにかけて、中指は2つ目のレバーに乗せたままなんですよ。2つ目のレバーに乗せたまま発射するシーンですね。水面をずっと見つめたまま、いちいち手元を見ないようにして、ずっと水面を見つめて。「十文字と光点が合ったらミサイル発射しろ」っていうふうに言われてるので、目線を外さないんです。この時はミハルはすごい指示を守ってるんですね。「ミサイルは1発ずつ撃て」と。「絶対に目を離すな」というふうに言われたので、人差し指だけでまずミサイル1発目を撃つ。次、2発目は中指だけを使って撃つ。3発目は薬指と小指で撃つっていうふうに、こういうふうに動きを指示されてます。
しかし、ミサイルは水中で爆発して命中しなかったということですね。カイは「外れ、次」っていうふうに言います。そうすると、そのまんま、ちょっとさっきより構図がアップになりました。構図がアップになって、ミハルはこの中指で2つ目のレバーを下げます。分かりますね。2つ目のレバーを中指だけで下げてるんですよ。そうすると、この真ん中のミサイルが発射する。しかしミサイルが外れ、水中でミサイルだけは爆発して、その前をミサイル1発だけ残っているガンペリーが通過するというシーンになります。
この3つ目のカットの必要性というのは何かっていうと、最低限、描写しなければいけない要素が3つあるからですね。まず1つ目は、ミサイルが外れて爆発したという表現ですね。次に、カイが水面めがけて急降下していたと。実はこのシーン、分かりにくいんですけども、こういう構図で飛んでるんですね。海面に向かって飛んでるんですよ。だから、ギリギリで機首を引き起こしてやってると。カイももう余裕ないわけですね。敵にミサイルを当てるために、水面に向かって、この速度を利用して、さらにミサイルを発射して飛ばしてる。だから水面ギリギリまで飛んでるという描写です。同時に3つ目の意味は、ミサイルがまだ1本残ってる。これを説明するために、このカットが必要でした。
しかしここで、水中のズゴックが反撃します。水中からまっすぐ迫ってくるズゴック、腕だけが水面に現れて、ビームを発射すると、ガンペリーの左翼ですね、こちら側です。まだミサイルが1本残ってるガンペリーのここに、ミサイルが直撃しちゃうんですね。だから3本目のミサイルは発射するまでもなく、これで不発状態、使えなくなります。
ここでスイッチが故障してしまうと。「カイ、レバー押しても発射しないよ」っていうふうにカイに言います。カイはレバーを、「なんだと、こんな時に」と、ちゃんと3本目のレバーを確認しながら、カシャカシャカシャッと動かします。「だめだ。今の攻撃で電気がやられた」って言います。ミハルが「このまま、どうしたらやっつけられるの」と聞くと、カイが「カタパルトの脇にあるレバーが動かせりゃいいんだが」、つまり下に降りてって、直に操作できりゃいいんだがというふうに言います。
このカイの横顔、カイね、この時にまっすぐ前向いてるんですよ。このレバー操作してる時だけ横向いてるんですけども、カイはさっきも言ったように、前をずっと向いたままなんですね。「どうしたらやっつけられるんだ」と聞かれた時に、「カタパルトの脇にあるレバーが動かせりゃいいんだが」って言います。そのまんまカイが振り返って、「ミハル、どこに行くんだ」って言うんですね。これは、ミハルが隣の席にいないっていう表現なんですけど、それでやっと3個目に切り替わります。「カイ、カタパルトの脇にレバーがあるんだろう」って言って笑います。これがカイが最後に見たミハルの笑顔ですね。
ここに笑顔を置くのが、いわゆるスタッフの気遣いなんですよ。カイはパニクって、もうここでミハルに怒鳴るばっかりなんですね。「ちゃんとしなきゃいけないんだ。できるのか。やってんのか」っていうふうに言ってるんですけども、ミハルは最後に「カタパルトの脇にレバーがあるんだろう。私、行くよ」って言って、ちょっと笑ってくれたんですね。ここの笑顔を見せるのが、せめて最後にはなむけっていうやつなんでしょうね。スタッフの心遣い。こういうことなんですよ。
心遣いっていうのは、傘を盛り上げるんではなくて、そのキャラクターが本当に存在するんだから、そのキャラクターにちょっといい思いさせてやろうですね。いわゆる『もののけ姫』の最初の方で、アシタカが生まれ育った村を、世界を追われて、外の世界へ行く時に、宮崎が「ここでちょっとアシタカのために、いい曲書いてやってくれ」って注文してる時の、宮崎の中ではアシタカというキャラクターは生きてるんですよ。だから、せめて曲だけでもっていうふうに思うんですね。その曲は映画の中のBGMだからアシタカには聞こえないんだけども、見ている我々だけでもアシタカを応援してやろうじゃないかと。これって本当にキャラクターが生きてると思わないと発想できないんですよね。
それと同じように、ここでミハルが振り返って笑顔を見せるっていうのは、この笑顔は実はカイ・シデンにとって余計なんですよ。「そんなことして、ヘラヘラ笑っていって、お前、油断すんなよ」っていうふうに言いたいに決まってるんですね。この笑顔を見ても何のことか分かんない。でも最後にカイがすべて終わった後に思い出すのは、ちゃんとこの笑顔になってるんですね。見てる僕らにしか分からないですね。富野由悠季をはじめ演出陣、安彦さんを含めて、作画、演出の人間がみんな、ちょっとここでカイ・シデンに何かいいことしてあげたい。でももう運命は決まってるから、それを変えることはできない。じゃあっていうことで見せた笑顔がこれなんですけども。
さっき話した、演出は展示で見せることができないというのはどういうことかというと、ここなんですね。カイ・シデン、正面向いて怒鳴ってるんですよ。この方だったら分かりにくいな。実はカイ・シデンって、このシーン、ほとんど前向いてるだけなんですね。前向いてるだけなんですよ。「カタパルトの脇にレバーがある。それを動かせりゃいいんだが」って言った後、カイ・シデンが誰もいない席を見るんですね。さらに目線だけが動く。つまりカイ・シデン、こう横向いてるわけですね。横向いてて、喋りながら「あれ?」っていう感じでカメラの方を向いて、さらに目線だけが左へ行くんですね。ここでミハルがすでにいないことを、やっと気がつくんですよ。
これが演出なんですね。わざわざミハルが席を立つ、それをカイが「ふん」と言って気がつくというカットを入れるんではなくて、カイは正面の戦闘に集中していて、横を見ると「あれ、いない」。さらに目を向けて見ると、そこにミハルの笑顔だけが見えてる。これが演出なんですよ。確かにね、この演出っていうのは見せられないですよね。こうやってワンカットずつ説明していって、なんでかっていうのを解釈して説明しないと、その演出っていうのが見えないんですよ。見えなくて、僕らの心にだけ残るようになってるんですよね。
だから本来言えば、富野由悠季展で演出を見せたかったら、全作品見せるべきじゃないんですよ。全作品ではなくて、今回の「大西洋、血に染めて」でもいいし、ガンダムだったら本当に割とどの話数でもいいから、こういう程度のことって割とやってるんですね。それをきちんと、なんでこうなのかっていうのを学芸員が分かって解釈して、できりゃいいんですけども。残念ながら、言い方悪いですけども、今回の富野由悠季展に関わっている学芸員の皆さんは、誰1人、この演出とか読み取れてないんですね。ただ単に「設定書見ました。コンテ見ました。富野さんのインタビュー全部見ました。富野さんについて出てる解説本全部読みました」というレベル、勉強した人たちなんですね。
そっからなんでそういうふうになるのかっていうのは、そのアニメーションの限界、当時の予算の限界で何をやらなきゃいけないのかっていうのを読み取らないとできないんですけども。僕、富野由悠季展って、たぶん3回ぐらい見に行ってるんですけど、やっぱり3回見て思ったのが、富野さんが言う通り、演出っていうのを理解して展示してないので、作品展になっちゃうわけですね。その意味で僕がフォローして、こういうふうにガンダムを1話ずつやってるし、これだったら無料で誰でも見れるから、これが一番いいんですけども。
だから僕としては、相補的な関係、いわゆる展示は富野由悠季展っていうことで派手にやってください。僕は地道に地道に、YouTubeの回転数がほとんどない、毎回毎回公開しても3000人とか4000人しか見てないものを、毎週1回、毎週毎週公開してるわけです。それは、ほとんど富野由悠季とは何なのか、演出とは何なのかっていうのを説明したいわけなんですけど、そこら辺で納得してるんですけども。ということで、ミハルは最後の笑顔をカイに見せるのでしたということですね。
ここです。カイはもうこの時に、未来を知らないから、最後までミハルに怒鳴ってしまうんですよね。「ミハル、危ねえぞ」って言って、「うわっ」って言ったら、やっぱりズゴックからのビームが来ちゃう。やっぱり避けなきゃいけないんですね。またもや海中からのズゴックのビームを避けることしかできない。だから、ミハルに気を遣うことができない状態なんですよ。でも、すでに左側のドアが破壊されてることに注目してください。カイは操縦だけで手いっぱいだから、ミハルに細かい指示ができなかったんですよね。だから余裕があれば、もう1回「ミサイルは1発ずつ絶対発射しろ。絶対に目標から目を離すな」っていうふうに指示できたんでしょうけども。なかなか、そうはいかないんですよね。
はしごを降りていきます。足元に発射装置のパネルがあります。後ろ、雲が高速で流れてきます。不安感で、もうこの穴の向こうにいるコックピットっていうのは、たぶんこの辺にあるんでしょう。カイの声がほとんど聞こえなくなってると。お互い、風切り音、轟音で、ほとんどお互いの声が怒鳴らないと聞こえないような状況です。カイ、もう1回振り返って、「ミハル、いいか。ちゃんとやらなきゃいけないんだぞ。分かってるのか」というふうに怒鳴ります。しかし、またビームが来るので、ガンペリーは避けなきゃいけないので、ミハルに声は届きません。大変だ。
ミハルは、ビームを避ける機動で、ガンペリーの動きでほとんど振り回されて落ちそうになるんですけども、なんとか制御盤を見つけて取り付きます。カイに叫びます。「カイ、当たるように船を、飛行機を」って言うんですね。つまり、このガンペリーを敵に当たるように突っ込んでくれっていう意味なんですね。
一応、ガンペリー、追加工作ということはないんですけど、マスキングテープだけ貼ってみましたけども。見えるかな。この位置か。この黄色いテープが、ミハルが降りていった階段ですね。ここに貼ってる小さいマスキングテープ、これがミハルのサイズです。制御盤があって、ミハルがいて、隣にものすごい巨大なミサイル3基が並んでいる状態なんです。この制御盤をいじって、このミサイルを外側から順番に1発ずつ撃たなきゃいけないんですね。初めての女の子に、そこまでの動き、働きが要求されているわけです。カイに対して、もうこうなったらミサイルがどこまで狙えるのか分かんないから、敵に向かって本当に飛びつくように飛行機を飛ばしてくれっていうふうに、ミハルはお願いします。
2つ目ですね、迫る波ですね。アニメがもう一番嫌がる波を動かしてるんですね。それも主観移動で、どんどん近づいてくる波。飛行機も近づいてくる、波も向こうから来るっていうのを作画して、集中線が迫ります。これも出崎さんの演出ですね。『エースをねらえ!』とか『ガンバの冒険』とかで見る集中線がガーッと動いてる状況で、はるか向こうに白い波が立っています。3コマ目、はるか向こう、波の果てに白い波が立ってる。つまりズゴックが浮上してくるわけですね。
ミハル、思わず嬉しくてレバーを握りしめて叫んでしまいます。これですね。「カイ、向こうから来てくれたよ」っていうふうに、喜んで言うんですよ。この時、ミハル、左手は転ばないようにどっかを握ってるんですけど、右手でレバー3ついっぺんに握っちゃってるんですね。カイの指示不足かも分からないけども、言われたことを忘れたのかも分かりません。これがもう最後の偶然ですね。最後の運命の分かれ道になります。
3ついっぺんに。「1発ずつ発射しろ」と言われて、カイが隣にいた時は人差し指だけ動かして、中指だけ動かして、次に小指を、薬指を動かしてって、ちゃんとできたことが、1人で行って、もう勝てると思った瞬間に、手でぐっと3つレバーを握ってしまった。これが運命の分かれ道でした。さあ、どうなるのかですね。続きは次回のガンダム講座ということになります。ちょっと悲しい話になります。ではまた。
機動戦士ガンダム完全講座ということで、1979年にテレビ放映された初代ガンダムを、1話ずつ徹底的に解説するという講座です。今日は第28話「大西洋、血に染めて」の、もう第9回になります。これまで最長になっちゃいましたね、1話の解説としては。前回までどんな話だったのかっていうと、
前回まで、ミハルが、ガンペリーが敵の撃ってくるビームを避けながら揺れる飛行機の中で、ようやく制御盤を見つけてたどり着いて、「カイ、当たるように飛行機を」と。波の作画、主観作画がどんどん迫ってきて、敵が見えてきたということで、ミハル、思わず嬉しくてレバーを握りしめて叫んじゃうんですね。「カイ、向こうから来てくれたよ」って喜んで叫んでしまう。しかし、その時にレバーを3ついっぺんに握ってしまった。レバーを3ついっぺんに引っ張ってしまった。さあ、これがミハルの悲劇だったという話を前回までしました。今日はその続きです。
ミサイルが点火します。ミサイルの前から描いてますね。ミハル、ここに立ってます。ミサイルのロケットエンジンに点火するんですけど、ミハルはまだ左手で制御盤のグリップを持ったまま踏ん張ってるんですね。次のカットです。カットが切り替わって、ミハル側からのショットになります。ミサイルのロケットエンジンに点火されて、まだグリップはなんとか握ってるんですけども、次ので握っていた左手が滑ってしまって、手が滑るんですね。グリップを握ってた手が滑って、海に落ちて死んだという、僕も昔はそういうふうに思ってたんですね。
しかし、改めてちゃんと画面をコマごとに見てみると、ミハルが死んじゃったのは、ミサイルの爆風で吹き飛ばされて海に落ちたからではないっていうのが分かります。なんでかって言うと、この吹き飛ばされた後のミハルなんですけども、こっから心臓の鼓動みたいな音が聞こえて、スローモーションになるんですね。これ、最初のカットです。これも本当に全体で1秒もないようなカットなんですけども、黒目のサイズをここ、覚えといてください。
前から衝撃波が来て、後ろへ吹っ飛ばされます。その衝撃で髪の毛を留めていた髪留めが切れて、髪がバサッと乱れるんですね。こういう時に、ちゃんと髪留めが切れて乱れるというところを描いてあげようというのが、作画の思いやりですね。3コマ目、顔が完全に見えなくなってる。4コマ目、顔がまた見えるようになる。髪の毛が持ち上がって見えるようになるんですけど、この時に1コマ目と比べると、瞳孔ですね、瞳のサイズが明らかに小さくなってるんですね。
1コマ目、もう1回戻りましょう。1コマ目の、これ単に驚いて目を見開いてるだけのカットですね。それに対して、もう1回4コマ目ですね。完全にこれはもう瞳孔が開いてるんですよ。なので、たぶんロケット噴射の衝撃波の直撃で、おそらくミハルの死因は内臓破裂なんですね。内臓破裂で即死なんですよ。
富野さん、もともとロケット開発の科学者になりたかったというほど、ミサイル、ロケットに詳しい人なので、ロケット噴射の衝撃波っていうのは強いことを知ってるんですね。アポロのサターンV型の打ち上げ、あと『オネアミスの翼』でもやったんですけども、ロケットの噴射口って水をプールみたいに張るんですね。何メートルも水を張ってプール状にして、それでロケットの噴射炎を受け止めるんですけど、あれ、熱対策じゃないですよ。衝撃波対策なんですよ。それぐらい衝撃波って強いんですね。
なので、そのミサイルが3発一度に点火したら、これ1発だけだったら大丈夫だったんでしょうけど、3発一度に点火することによる衝撃波で、ミハルは吹き飛ばされて内臓破裂で即死したんじゃないのかっていうふうに、僕は考えてます。それを言いたかったから、ここでわざわざ目を見開いてるのと、瞳孔がもう死んだ目になっちゃってるっていうのを表したんでしょう。
結果、ミハルはガンペリーから吹き飛ばされるわけですね。ガンペリーから振り落とされて空中を漂って、このエフェクトと呼ばれる後ろの背景が、ダブらしで青空と海になって、水平線が見えてる状態ですね。ようやっと自由落下の状態になると。かなり枚数を使った表現です。この吹き飛ばされて、この女の子の体が空中でもうごく自然と力を失って落ちていくっていうのは、かなり枚数をかけた作画になってますね。
ところが、そのおかげで、ミハルの全くのミスでミサイルが3発同時に発射される。3発同時に発射されたから、ズゴックに直撃して、命中しなくてもよかったんですよね。結果、ズゴックは爆発してしまうんですね。誘導していないミサイルを、ガンペリーの機首を、飛行機の機首を水中にいるモビルスーツに向けて発射するっていう大ざっぱな方法では、そもそもミサイルが命中するはずなんかないんですね。ところが3発同時にミサイルを発射したから、その3発同時に着弾し爆発したことによる、やっぱり同じ衝撃波でズゴックを撃退できたわけです。だから結果的に、これはミハルの大手柄でもあるんですね。
カイは喜びます。「やった、ミハル、やったぞ」っていうふうに喜んでるんですよ。まだ知らないからなんですけども。カイがなんでここでこんなに喜ぶのかって、敵を倒したっていうのもあるし、よくやったというのもあるんですけども、これで堂々とミハルをみんなに紹介できるって考えたからなんですね。というのは、今のままだったらミハルはいつまでたってもスパイだし、それをホワイトベースに「いや、ベルファストにいて知り合いだったから乗せたんだ」って、無理あるじゃないですか。
ミハルがこれまでやってきたことの罪っていうのもあるし、あとは「なんであのジオンの飛行機が来て、そしてなんで俺たちの位置が分かったんだ」って言ったら、ミハルは疑われるに決まってるんですね。でも敵のモビルスーツをやっつけた、その手柄を立てた女の子としてミハルを紹介できるんだったら、みんなにミハルを受け入れてもらえるんじゃないかな。そういうことがあるから、カイは嬉しいんですね。それで全ての罪が帳消しになるとは、彼も考えてないでしょうけども。でも、これまでずっと隠れてるとか、ずっと隠すとか、あとスパイとしてみんなの前に突き出すっていうことより、ずっとましな未来が見えるじゃないですか。だから、そのカイの喜びがすごい、いじらしく切ないんですね。
その爆発してる海を、ガンペリーが通過してるんです。なんでこのカットが必要なのかですね。ズゴックが爆発してる爆発の火球の前を、ゆっくりとガンペリーが通過するシーンなんですけど、演出の1つ目としては、もちろん構図全体を分かりやすくするためですね。今どういう話で、どんな結果になったのかっていうのを、子供たちに分かりやすくするために、爆発の前を飛行機が通り過ぎるカットを入れた。
あと演出の2つ目としては、そのミハルの死に場所とカイの居場所を同時に見せるっていうのがあるんですね。ミハルはこの海で死んだんです。それに対してカイは、あくまで無事な飛行機の上に乗っていると。つまり2人の居場所っていうのは、やっぱりずっと一緒にはいられないんだ、すれ違いのままだったんだっていうのを見せるための、このカットですね。2つの意味を同時に持ってるようなカットの作り方です。一方。
ガンダムです。モビルアーマーのグラブロに乗ってるブーンは、ガンダムの足を掴んで、ガンダムの足を振り回すんですね。それのおかげでガンダムの足が折れて取れてしまうんです。ブーン、この時に余裕です。「ふふ、もう一息で」っていうふうに喜んでます。すると「むっ」と言って、次のコマです。「もう一機のズゴックもやられたのか」っていうふうにブーンが驚きます。
このブーンが、最初はガンダムがやられてるのを見て、もう一息だと喜びながら、「むっ、もう一機もやられたのか」というふうに驚いて、目線をそらしちゃうんですね。本当はブーン、ここを見てなきゃいけないんですよ。正面のモニターでガンダムを見てなきゃいけないのに、つい下を見てしまったんですね。
下を見てしまった理由がこれです。ブーンのほっぺたのところに点滅してる赤い点があるんですよ。これ何かっていうと、ズゴックがやられたっていう点滅信号なんですね。それのランプがヘルメットに映り込んでるんですけども、もう一回こっちに戻りますね。このカットではなかった点滅が、このカットではちゃんとチカチカ画面で光って見えて、その結果ブーンが「むっ」と驚いて目線を外した。
目線を外した結果、こっちのカットに行きますね。ガンダムがビームサーベルを背中から抜いて、グラブロの目に、モノアイのところに突き立てると。これで勝負があったわけですね。
こういう、これもやっぱり、二機発進したズゴックの最後の一機もやられたのかっていう、このショック。これ何かっていうと、三機がかりでホワイトベースを攻撃して、ホワイトベースを落とす予定だったんですね。墜落させる予定だったと。そうしたらもうホワイトベースを落とせないじゃないですか。ズゴック二機も失っちゃったから。ということはミッション失敗なんですよ。ガンダムに勝ったとしても、ジオンにはもう自分は帰還できないなと思ったから、ブーンは余計ショックを受けちゃったんですね。その隙をついてガンダムが反撃をして、モノアイに命中するわけですね。
だからズゴックがあのタイミングでやられたゆえのブーンの油断なので、これがなかったらガンダムも実は水中で勝てないままだったんですよ。だから実はこれ、ミハルの手柄なんですよね。ミハルは無駄死にしたように一見このアニメの中で見えるんですけども、三発ミサイルを同時に発射することによってズゴックを倒せたし、あれが遠隔操作でもしカイが操縦してて、一発ずつセオリーどおりミサイルを撃ってたら、多分ズゴックは沈まなかったんですね。三発同時に撃ったから、それがミハルの死の原因になったんですけど、だからこそズゴックは撃退できて、肝心な戦闘の最中にズゴックがやられたという表示をブーンのコクピットに出すことによって、ブーンの気が散って、結果ガンダムにやられることになってしまったという、ものすごいうまい組み立てでできてるんですね、シーンが。
でも実は、この全てミハルの手柄だったっていうのは、誰も知らないままこのアニメは終わっちゃうんですよ。カイすらも知らないんですね。結局ミハルがこういうふうにやってくれたおかげでホワイトベースは生き延びたんだ、そしてガンダムも助かったんだっていうのは、見てる視聴者にしか分からないことなんですね。
ガンダムは勝ちます。ブーンの最後ですね。もうドーンと爆発してる時に、アムロが「ガンダムの足をちぎったのが間違いだったよ。動きやすくしてくれた」っていう解説を言ってくれます。グラブロはこのままゆっくり沈没して大爆発します。ガンダムは海面から頭を出すと、ちょうど上にホワイトベースが通りかかる。分かりやすい構図ですね。
カイはもう余裕が出てきたんで、後ろを振り向いて「おい、ミハル、どうしたんだ? 上がってこいよ、ミハル」っていうふうに呼びかけます。そうすると、この正面のスピーカーからフラウ・ボゥの声ですね。「カイさん、気をつけて着艦です」っていうふうに言ってくれるんで、「お、了解」。ミハルのことを気にしてたんですけども、これから着艦ですね。つまり飛んでる飛行機に着陸しなきゃいけないので、またちゃんと正面に目を戻すんですけども、観客はやっぱりここでカイ・シデンに対して、「早く気がついてやれよ」っていうのと、「もうこのまま気づかないでくれよ」っていう、ちょっと矛盾した気持ちを持ってるんですね。
ここでカイ・シデンが向かうのは、ホワイトベースというよりは、あの場所なんですよ。機動戦士ガンダム完全講座は、第28話「大西洋、血に染めて」の第9回、ここまでになります。今日はここまでです。どうもお疲れさまでした。
機動戦士ガンダム講座ですね。1979年に放送されたテレビ版の一番最初のガンダムを、一話ずつ徹底的に解説します。今日は第28話「大西洋、血に染めて」の第10回目の解説、最終回になります。ようやっとモビルアーマー、グラブロを倒したガンダムですね。その戦いに貢献した、カイとミハルのガンペリーという飛行機ですね。これでやっとミハルをホワイトベースの仲間に紹介することができると、意気揚々と帰投するカイ・シデン、カイというところまでです。じゃあ行きましょう。
カイ・シデンが帰ったのが後部デッキなんですよね。見たことがある構図です。後で説明します。その後、ちょっと時間経過の間があって、ブライトのセリフですね。「ミハルがいなくなった?」っていうふうに聞きます。そうすると隣のジョブ・ジョンが「ええ、ガンペリーでカイと一緒に出撃したらしいんですが」。「誰なんだ? 知ってるのか?」とブライトが聞きます。するとハヤトが「いえ、知りませんね」っていうふうに言うと、セイラも「ええ」って答えるんですけども、やっぱりこのハヤトの言い方が、ちゃんと声優さんが突き放したような言い方をしてくれるんですね。「いえ、知りませんね」っていう、冷たい言い方をしてくれるんですよ。それはそうですよ。彼は知らないんですから。でもここで突き放したような言い方をしたり、ブライトが「何なんだ、その聞いたことのないやつは」っていうことをすることが、やっぱりこのドラマに必要なんですね。
ちゃんと全体で伏線回収になっています。このカイが帰投する後部デッキは、このように、今回のカイが帰投するのと全く同じ構図で、ブーンの飛行機、一番最初、ついさっきガンダムにやられたばっかりのブーンの乗ってた、スパイとして乗った飛行機が着艦した場所ですね。着艦場面で、そこでブライトとやり取りをして、この緑色の壁が特徴ですね。したところであり、一番最後にカイ・シデンが「やめろ、やつを帰すな。すぐに撃ち落とせ。スパイを撃ち落とすんだ」っていうふうに叫んだ場所なんですね。
だから結果的に、スパイが潜入して、スパイが活動して、カイ・シデンが「スパイ野郎を生かしておくな」と言った場所で、カイは自分が好きだった女の子が死んでしまって、それをみんなにも説明できないっていう、これをやることになるんですよ。なかなか本当に複雑な場所ですね。結局カイは、自分が「スパイを撃ち落とせ」って言った場所で、同じスパイのミハルが死んだことを発見して泣きじゃくることになるんですから。
ということでカイはどうなってるのかっていうと、カイの姿がなかなか見えないんですね。セリフで「うっ」っていう声だけが聞こえるんですね。うずくまるカイ、嗚咽してますね。泣き声みたいなのを上げてるんです。そこにアムロが報告します。「密航者だったんです」。フラウが「密航?」って聞くと、ブライトが「知ってたのか?」。アムロがちょっと責められる。責める口調で聞くと、アムロが「いえ、カイさんの部屋に女の人が入るのを見たんですけど、すぐ敵が見えたもんで」っていうふうに、ちょっと目をそらすんですね。ブライトの方も見てられなくなって、ちょっと後ろめたそうに目をそらすと。
アムロにとってカイの泣き言っていうのはやっぱり他人事なので、ブライトにこれで叱られちゃうんじゃないかという方がやっぱり気になってしまって、アムロも「密航者なんです」っていうふうに言った後ろめたさに目をそらすことで、このカイ・シデンの孤独感を強調する作りになってるんですね。
ところが僕、やっぱりこれすごいなと思ったのは、カイ・シデンは泣いてないんですね。嗚咽する声を出してうずくまってるんですけども、このシーンでも涙を描いてないんですよ。絶対描いてるはずの涙が描いてないんですね。ここでちょっとずつブライトに説明しようとするんですよ。「ミハル、いなくなっちまって」って言いながら、ようやっと目の間にちょっとだけ涙が出てくるんですね。
このシーン、やっぱり僕、すごいなと思うのは、ブライトに説明できない。みんなに説明できないんですね。説明したらミハルが憎むべきスパイだったっていうことを、みんなに言わなきゃいけないんですよ。っていうのは、今回の戦いでホワイトベースの仲間は何人も何人も死んでるわけですね。その原因なんですよ。だからそのことを言うと、死んでしまったミハルをみんなが憎むことになるんですよね。でもちゃんとそれを言わないと、ミハルがその後、結局改心してみんなのために戦ってくれたんだ、だから俺たちは生き残れたんだっていう、ミハルが命を懸けて戦ってくれた理由も、「ジオンの言いなりになるのは嫌だ。それ、俺たちと同じだろ」っていうことを言えないんですよ。それを言ってしまうと、ミハルが憎むべきスパイだっていうことが分かってしまうと。
ここで理由が言いたいけど言えないっていう、このつらさのおかげでようやっとミハルの気持ちが分かったので、カイは少しだけ、かすかに涙がにじんでるわけですよね。この辺の、カイが結局ミハルっていうのは何だったのかっていうのを説明しないままこの話数が終わるという作り方、そしてそれをブライトに説明しようとした時だけ、やっと涙がかすかににじむっていう作り方は、僕は本当にもう最高の演出だと思います。
ここから回想シーンになるんですけども、多分この回想シーンって、カイ・シデンは後部デッキの床に座ったままなんですよね。座ったまま回想シーンで、ホワイトベースのクルー、残りの人たちは「カイは愚痴ってるんだからいいか」と言って引き上げていって、デッキに一人だけいる状態で回想シーンに入るんですよ。
まず最初のカットは、ちょうど大西洋上空を飛んでるホワイトベースですね。大西洋上空ですから、タイタニックが沈んだ辺りかもしれません。このホワイトベースだけが飛んでる絵っていうのは、時間経過を表現するっていうことと同時に、カイがたった一人で泣いてるっていうことを分かるために、ホワイトベースが飛んでいて、カイのモノローグだけが入るようになるんですね。
そこに初めて会った時というか、ホワイトベースを家出した時に、カイが家出した時に「ついてないよ。泊めてあげるよ」って言ってくれたミハルが映るんですね。こうダブらせて映るんですよね。誘ってくれたと。次にミハルの家に二人で歩くシーン。後ろにホワイトベースがあるんですけど、多分これ、こんなシーンでこんなこと言うのも何なんですけど、ダブらしの露出失敗なんですよ、これ。どっちかを薄くしなきゃ駄目なんです。こっちはできてるんですよ。ホワイトベースがはっきり映って、二人がぼんやり映ってる。これ合格です。
次の方、おそらく二人がはっきり映ってて、ホワイトベースがぼんやりしてなきゃいけないんですね。ただこれ露出だから、撮影さんにあまり難しいこと要求してはいけないんですよ。だから『ふしぎなメルモ』のオープニングの全編ワンカット撮影なんてことは要求しちゃいけないんですけども、この時の富野さん、やっぱりもうやれる演出を全部尽くしてるんですね。だからたまにこんなのがあるんですよね。
ミハルの声だけが響きます。「あんたと会えてよかったと思うよ」っていうふうに言ってくれるんですね。ただこのミハルが言った「あんたと会えてよかったと思うよ」っていうのは、『スタンド・バイ・ミー』の時にも話したのと同じように、記憶の美化なんですね。傷ついたカイにとって必要な、嘘の記憶、嘘のミハルなんですよ。なんでかというと、この後「ジルとミリーかい?」っていう、幼い弟と妹のことを、「ジルとミリーかい?」って、カイが一番気になってることをミハルが自分から話しかけてくれるんですね。そのままカイが一人ぼっちで泣いてるシーンに続きます。
これですね。まるでうずくまってるカイの後ろから、のしかかるような巨大なミハルですね。アニメの絵じゃないんですよ。アニメの絵じゃなくて実写風の絵で描いてるんですね。写実風に描いてるミハルです。なんでこれが後ろから語りかけてるのか、正面にしなかったのは、カイにとってこのミハルは嘘だと分かってるからですね。嘘だということが分かってるから。だから背中を向けて、彼は必死に「これは俺が自分自身を慰めるために作ってる勝手なミハルのセリフだ」っていうことが分かってるから、一生懸命否定しようとしてるんですけども、あまりにもミハルの存在が強大すぎて、カイは聞かざるを得ないんですね。
初代ガンダムでは、死んだミハルはしゃべらないんですね。初代のガンダムでは死んだキャラっていうのは絶対にしゃべらずに、例外は最後に出てくるニュータイプのララァだけが、死んだ後も自分に話しかけてくれるんですけども、あくまで生き残った人がこう言ってほしかったっていう願望でしかないんですね。だからガルマが死ぬ時に、イセリナが何を言ったのか分からないようにしてるのも、あれも富野演出のリアリズムなんですね。イセリナが何か言ってて、それをガルマは聞いたんだろうけども、見てる人には聞かせないっていうのも、最初のガンダムのリアリティというやつですね。死んだ人間がやたら本音とかをしゃべったりしないんです。そうじゃなくて、生きてる人間の願望としてしゃべらせるんですね。
そのカイの小さい小さい背中に、嘘のミハルは延々優しい言葉をかけ続けるんですね。カイの方にカメラが寄っていくと、ミハルの顔がどんどん大きくなってくると。「ジルとミリーかい?」って聞かれて、「あの子たちなら大丈夫さ。私たちよりずっとうまくやっていけるって。いつまでもこんな世の中じゃないんだろうね、カイ」っていうふうに言うんですね。そんなミハルにカイは答えないんですよ。カメラは徐々に徐々にカイ・シデンに寄って、やがてミハルはこのフレームから消えて見えなくなって、声も聞こえなくなるんですね。
ミハルの声が聞こえなくなって、やっとカイはゆっくり立ち上がるんですけども、完全にやっぱりミハルが見えなくなってからなんですよ。自分が勝手に作り出したミハルの、こう言ってほしいセリフみたいなものが吹っ切れてから、ようやっとカイはスローモーションで立ち上がるんですね。このスローモーションっていうか、ストロボ撮影効果っていうのは、やっぱりこれも撮影に手間がかかるんですけども、なんでここでストロボ効果を使ったりするかというと、ミハルの声を、こう言ってほしかったミハルの声っていうのを振り切るのに、カイにはこんなに意志力が必要だったっていうのを見せるためなんですね。立ち上がったカイは、もう泣いてないんですよ。
人間が泣く時っていうのは、自分を哀れんでる時とか、自分を許すために泣くんですね。だから僕は「感動しました、泣けました」っていう映画を割とボロクソに言うんですけども、やっぱり泣くことっていうのを、僕自身も涙もろいんですけども、大したことだ、いいことだと別に思ってないんですね。「泣きながら謝る相手は絶対に許すな」の法則っていうのがあって、男でも女でも、とにかく泣きながら謝るやつは許してはいけないと。なんでかというと、泣きながら謝るやつは自分を哀れんでるか、自分を許そうとしてるか、どっちかなので、そんなの信用しなくていい。だからこそ、ここの立ち上がった時のカイが泣いてないのは信頼できるんですよね。
立ち上がったカイは「なんで死んじまったんだ」っていうふうに絶叫します。この時にカメラはポンポンと引きます。つまりこっからここまで、あ、ポン寄りだ。ポンって寄るんですね。立ち上がって「なんで死んじまったんだ」って言った瞬間に切り替わってポンと寄って、そのままホワイトベースのロングになってポンと引くんですね。海が見える風景までですね。この時カイは何をしてるのか、なんでホワイトベースを映すのかっていうと、演出がちょっとあるんですけども、そもそももう一回復習しましょう。
カイが今いたのはホワイトベースの後部デッキです。後ろのデッキなんですね。カイは後ろ向きに叫んでるんですよ。どういうことかっていうと、つまりホワイトベースが去っていく後ろの方向に向かって、カイ・シデンは「なんで死んでしまったんだ」って叫んでるんですね。後ろ向きというのは何かっていうと、この後ろの方には大西洋の、ミハルの死んだ海があるんですね。ミハルが死んだ場所に向かって、ミハルが自分のために頑張って、自分たちのために命を懸けてくれた場所に向かって、彼はだから後ろ向きに叫ばなきゃいけないんです。後ろ向きに叫んでるっていうのを分かるために、このホワイトベースをやや後ろから撮ったショットでポンと引くことが必要なんですね。
前回も言ったんですけども、「大西洋、血に染めて」っていう回は演出の塊なんですね。だからずっと嘘のミハルが声をかけてくれる時に、カイ・シデンはそっちの方向を絶対向かずに。あれ本当は、普通の演出家だったら、死んだ相手と話す時に向かい合っちゃうんですよ。たとえ彼が悲しんでようと、その前に現れて話しちゃうんですね。それもかつての普通のサイズで現れるんですよ。でもあんな巨大なミハルに背中から話しかけて、一見カイが拒否してるようにも見える姿勢で、涙も流してないっていうのは、本当にこれを描こうっていうドラマの軸っていうのがぶれてないからですね。「なんで死んでしまったんだ」っていうのを、ホワイトベースからしたら後ろ向きの、ミハルが死んでしまった海に向かって叫ぶっていうのも、よくできた構造だと思います。
お疲れさまでした。機動戦士ガンダム講座、第28話「大西洋、血に染めて」は、これにておしまいです。次回は第29話「ジャブローに散る!」です。いよいよですね、「ジャブローに散る!」。「大西洋、血に染めて」の次は「ジャブローに散る!」っていうのもすごいんですけど、ちょうどこの辺りでガンダムの打ち切りが決まった辺りなんですよ。
だから「大西洋、血に染めて」「ジャブローに散る!」っていうのは、悪い言い方をすれば、視聴率が悪いので、ちょっと誰か死んで盛り上げなきゃいけないなっていう、そういうものが作ってる人間の頭によぎった状態でもあるんでしょうね。キャラクターっていう、ドラマを盛り上げるには誰かが死ぬのが一番いいんですから。だからちょっとこれが重なりすぎた。同時に打ち切りが決まったから、ここから先、巻いていかなきゃいけないので、ちょっとそういう話が重なっちゃったっていう不幸もあると思います。次回、第29話「ジャブローに散る!」ですね。できれば短くお届けしようと思います。お疲れさまでした。
はい、お疲れさまでした。今日の動画はここまでです。今回の「大西洋、血に染めて」のラスト近くで、膝を抱えてうなだれてるカイ・シデンの背中を見つめる、巨大なミハルっていうカットが出てくるんですね。これなんですよ。これですね。見れば分かるとおり、ちょっと怖い絵になってるんですね。
本編の解説の中で、この微妙に怖い感じのミハルは、カイの自分では抱えきれないほどの大きな罪悪感を表現してるというふうに話したんですけども、このミハルはカイの心が作り出した幻影なんですね。幻なんですね。だから「弟のジルと妹のミリーはきっと大丈夫だよ」とか、「あんたと会えてよかったよ」とか、このカイが言ってほしいことばっかりを言うんですね、この幻のミハルは。でもそんなミハルの幻影を、カイは一度も振り返らないんですね。テレビ版の機動戦士ガンダムで一回も振り返らない。
なんでかというと、そんな甘い嘘に逃げ込めないほどに、ミハルの死はカイに大きくのしかかってくると。つまりミハルがそんなことをきっと言ってくれてるというのが、自分の希望が言わせてるというのを、カイ・シデンは知ってるわけですね。だから振り返らない。しょせん自分が言ってほしいために生み出した幻影だっていうのを知ってるからですね。それを一発で見せる、すごいいい構図だと思います。
これが劇場版『機動戦士ガンダム』の、『ガンダムII 哀・戦士編』ですね。劇場版の方ではこうなってるんですね。二枚で見せてるんですけど、幻影が出てくるところまでは同じなんですけども、その幻影は生前のミハルと同じか、それ以上に可愛い感じで描かれてるんですね。可愛い姿だから、思わずカイも「お前はそれでいいのかよ」とか、後ろに振り返っちゃうわけですね。「お前はそれでいいのか? 死んじゃったらどうしようもねえじゃないか」と言うと、幻のミハルは「間が悪かったんだよ」というふうに答えるわけです。つまり「あんたは悪くないんだよ」っていうふうに言うんですね。
テレビ版でも劇場版でも、これがカイの内面の葛藤であることは変わらないんですけども、劇場版の方が分かりやすく描いてるんですね。テレビ版では「ミハルの死は仕方ないことだった」とか、「ジルもミリーも」、つまりミハルの幼い弟も妹も「しっかりしてるから大丈夫」とか、「あんたと会えて幸せだった」という慰めの言葉、つまり自分への言い訳に甘えずに、彼が一人で立ち上がる、あくまで背中を向けたまま一人で立ち上がるところを見せていると。つまり軟弱者を卒業する瞬間を見せてるんですね。
その後のカイは、こんな悲劇を繰り返さないために戦争を一刻も早く終わらせるという、強い意志を持って主体的に戦うことになるわけですね。これはミハルの幻影が最後に言った「いつまでもこんな世の中じゃないんだろうね、カイ」という問いかけに、アンサーになってるわけですね。つまりミハルの一言、自分の中のミハルの一言、自分の幻影が言ってるんですけど、それがカイの戦う動機にちゃんとなってるわけですね。
劇場版は、そこまで長い尺を持ってこのミハルとのエピソードを見せられない分、分かりやすさの方に全振りしてるわけですね。なので、こんな振り返って直に語りかけるみたいなことをやっちゃってるわけですね。ただこういう細かいところを見ると、やっぱり機動戦士ガンダムを見るんだったら、できればテレビ版を見てほしいよなっていう、僕はいつも思います。
それでは今回の動画はここまでです。次回は第29話、「ジャブローに散る!」ですよ。今回「大西洋、血に染めて」の後、「ジャブローに散る!」ですから、どんだけ殺伐としたアニメなのか。昔あったよね、なんだっけ。なんとか死す、誰死すだっけ。「城之内死す」だ。ああいうのはもうこの頃からあったのか、みたいな感じです。こんな笑うような話じゃないんですけど。すいません。次回は第29話、ジャブローの動画でお会いしましょう。じゃあまた、バイバイ。
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