広告費ゼロのGT-Rブランド戦略 水野和敏が語る、ロデオドライブとデポジットで測る市場
MAKE IT NEXT日産GT-Rの開発を率いた水野和敏氏(プロジェクト・カーズ合同会社代表)に、聞き手のSean Kawakami氏が話を聞く対談の第3回である。テーマはブランディングとマーケティング。水野氏は、デザインの良し悪しも市場の手応えも、会議室や調査会社のデータではなく、自分で現場に出て確かめるものだと語る。その際の指標は価格ではなく、客が何年先までデポジット(手付金)を払うかだという。後半では、視聴者からの質問への回答と、「価値(バリュー)の仕事」と「新商品の仕事」を区別する考え方が示された。
デザインはスタジオではなく、客が車を見る場所で決める
Kawakami氏は事前の打ち合わせで、水野氏がロサンゼルスのロデオドライブに車を持ち込んだと聞いていた。その理由を尋ねると、水野氏はまず自動車メーカーのデザイン評価のやり方への違和感を語った。雑誌を見ると、最高の造形スタジオと照明設備でデザインを検討している様子が紹介される。だが街の客がそんなきれいな環境で車を見る機会はない。客はマンションの地下駐車場や街中、駐車場に止めた状態で、自分の車がいいか悪いかを判断する。それなのに、なぜ金をかけたスタジオで車を見るのか、というのが水野氏の疑問である。
そのため、水野氏が手がけた車は色もデザインも造形スタジオでは選ばなかったという。CEOや関係者の承認は手続きとして取るが、答えは別の場所で出す。それがロデオドライブだった。
シャネルのネオンで「妖艶さ」を判定する
水野氏によれば、ロデオドライブはロールス・ロイスやジャガーが走り、金持ちが車から降りてくる、アメリカにおける車の「ステージ」である。そこでこの車がどれだけのプロポーションのインパクトを持つかを検証した。
もう一つ確かめたかったのが、色の艶や「妖艶さ」だ。スーパーカーには何とも言えない妖艶なイメージが必要だが、水野氏はそれを普通のエンジニアやデザイナーには出せないものだと述べる。そこで、ロデオドライブのシャネルの店の前で、夜のネオンサインに映ったときにこの車の妖艶さがどこまで出るかを見ることにした。シャネルの店とロデオドライブが、デザインの最終判定の場所だったという。
実際には、試作車に黒い覆面をつけて通りを流した。信号で止まるたびに人垣ができ、通りの中央の植え込みまで人が入ってきた。ブランドショップで買い物をしていた紳士が「この車はどこで買えるんだ」と尋ねてきて、そのまま商談が始まる。それが信号のたびに起きたという。この反響を見て、水野氏は少なくともアメリカ市場はこのデザインで行けるという確信を得た。
値段ではなく「何年先までデポジットを払うか」
Kawakami氏は、これは自分の目と肌で感じるデータであり、その場で「いくらで買うか」も聞けると応じた。水野氏はさらに、客は10年先の納車でもデポジットを払っていたと述べる。
水野氏によれば、調査会社は金額ばかりを見るが、プレミアム商品で本当に大事なのは「何年先まで、いくらのデポジットを払うか」であり、ここに商品の本当の魅力が表れる。そして多くの人がこの点を押さえていないという。
値段を基準にすると商売を見失う、と水野氏は考えている。「10万ドルで買う」と言われても当てにならない。たとえばポルシェが四輪駆動の良いモデルを出せば、GT-Rの値段の価値はすぐにひっくり返る。瞬間的な値段には何の保証もない。一方でデポジットは、客の心にどれだけ深く浸透しているかを表す。5年待ってでも10万ドル払うと言うなら、それが購入意欲の深さだという。Kawakami氏はこれを、目の前の交換レートではなく将来への期待に払うお金であり、企業への投資に近いと言い換え、水野氏も同意した。
4Pをすべて見る人、という意味での「マーケター」
Kawakami氏は、マーケティングという言葉が手垢にまみれて本来の意味が見えにくくなっていると指摘する。マイケル・ポーターの名を挙げつつ4P、つまり商品そのもの、価格、売る場所、プロモーションに触れ、多くの人はプロモーションをマーケティングと同一視しているが、本来は全部を見なければならないと述べた。商品も価格戦略も売る場所も売り方も分かる人は少なく、その意味で水野氏は本当のマーケターだというのがKawakami氏の見方である。水野氏は「正直にやっているだけ」と答えた。
Kawakami氏はさらに、普通の会社なら「ロデオドライブで客の声を聞こう」と言っても、いくらかかるのかと問われて止められるだろうと話す。調査会社に年齢や性別などの属性データを出させても、そこからどんな車が見えてくるのかは分からない。それよりも、シャネルの前に車を置いて何人が覗き込み、何人がデポジットを払うかを取るほうがはるかに説得力がある。宣伝費もいらないのではないかと言うKawakami氏に、水野氏は、GT-Rの宣伝広告費はゼロだったと答えた。
「エキスパートエンジニア」という肩書きの意味
肩書きを問われると、水野氏は「エキスパートエンジニア」と名乗っていると答えた。この「エキスパート」には「エンジニアではない」という否定の意味を込めているという。マーケティングでもブランディングでも、生産でも品質保証でもデザインでも、あらゆることをやる。だからエンジニアで区切らずに「エキスパート」を付けているのだという。
市場調査も自分で行う。デザインはロデオドライブで確かめ、四輪駆動については真冬のニューヨーク・ロングアイランドに車を持ち込み、スーパーカーのユーザーを集めて検証した。そのうえで一番気にすべきなのは、やはりデポジットを何年単位で払うかであり、そこにモデルの本当の成功レベルがあると水野氏は言う。表の値段は、競合が違うものを出せば簡単に変わってしまうからだ。
部署別の分業をやめ、世界中の工程を一つの計画で管理する
Kawakami氏は、水野氏のチームでは開発、完成、宣伝が順番ではなく並行して進んでいたようだと指摘した。水野氏はこれを自身のマネジメント方式として説明する。GT-Rに関する著書にも書いたことだという。
一つは「車両総合計測」である。それまではエンジン、車両、車体を、アメリカ型の分担制で部署ごとに別々に開発していた。これを改め、1台のマスターで全てを計測・解析して設計する。もう一つは、企画、設計、生産、品質保証から販売までを、世界規模で一つの時間軸に載せて管理する方法だ。普通の開発スケジュールにとどまらず、アメリカ、欧州、日本の販売店まで含め、いつ、どう連携し、何をするかを行動計画表にした。品質保証一つをとっても、日本、イギリス、ドイツ、アメリカ東部と西部では違う。実験計画、イベント、販売店の設置計画まで全てを計画表にまとめ、毎週プランニングセンターでグローバルの合同ミーティングを開き、世界中の動きを水野氏自身が把握していたという。
Kawakami氏は、分業化は効率のために始まったが、サイロ化を生み、部門同士が連携しなくなったと応じた。プロジェクトマネージャーは調整役になり、プロモーション担当者は出来上がったものをどう売るかを議論するだけになる。水野氏がよく「簡単なことだ」と言う意味がようやく分かってきた、本来当たり前にやるべきことを忘れていたのだ、とKawakami氏は語った。
棟梁・匠・職人と、日本の城づくり
水野氏は、Kawakami氏が描いた姿はアメリカ型のカンパニーマネジメントだと述べ、自身が目指した組織を「棟梁・匠・職人」と表現した。棟梁はチーフ、匠は各セクションの代表者、職人は各部品をつくる技を持つ人である。
この発想の背景として、水野氏は日本の城を挙げる。当時の建築技術で石垣を組み、城を2〜3年で建てていた。大坂城もわずか数年でできた。一方、ヨーロッパの城は10年、100年かけて平気で建てている。ここに日本の仕事のやり方の素晴らしさがあり、棟梁が指揮した仕事には手直しややり直しがあまりない、と水野氏は言う。Kawakami氏は、秀吉が期日までに作れと命じれば作られていたと応じた。
対照的に、アメリカ型のマネジメントでは調整が仕事だと思っている人が多く、水野氏自身の業務分析では6割近くに上るという。Kawakami氏もこれに同意した。
質問1:30人の会社で、半分の人数で倍の成果を出すには
視聴者から質問が寄せられた。愛知県の製造業で、30人規模の会社の開発部門を率いる38歳の男性からである。大手に勝つには少人数で大きな成果を出す必要がある。半分以下の資源でGT-Rを開発したという水野氏は、人材配置や役割分担として最初に何をしたのか。捨てると決めた業務はあるか、という内容だった。
水野氏の答えは、まず全員で夢と目標を共有することだった。ゴールを説明したら、すぐに全員を集めて車両計画図を前に役割を決める。ただし、より大事なのは「実現する夢」の共有だという。夢や目標の共有はよく言われるが、多くの会社では「今より10%良くする」といった数字ばかりで、そこに「シーン」がない。水野氏の場合は、アウトバーンを時速300kmで走りながら隣の人と会話を楽しめる、誰でも楽しめる、という光景が目標だった。シーンと一緒に達成目標を作らなければならず、数字では人は動かない、と水野氏は言う。
もう一つは、メンバーに自分も参画したいと思わせることだ。車両総合計測やプランニングセンターの運営方式という明確な方法があり、そこに加われば何ができるかが見える。だから「一肌脱いでやってみよう」という気持ちにさせる。逆に、自分で答えを出さずに「よそがこういう結果を出したから、うちもやってみよう」と他人の結果をなぞるやり方では、夢を持てる人はいないと水野氏は考えている。
Kawakami氏は、水野氏の言葉の強さは技術的な言語能力ではなく、背後にある志や方向性の明確さから来ていると述べた。「いい車を作ろう」ではなく「時速300kmで片手で会話できる車を作ったら面白くないか」と言われるから人が動く。最初は無理だと思って様子見をする人も、やがてついてくる。困難を乗り越えてきたのかと問われると、水野氏は、乗り越えたというより、皆の夢を実現するために通らなければならない壁をぶち破った、という単純な発想だと答えた。Kawakami氏は、水野氏の言う「単純」「簡単」とは、自分たちが最新技術や理論、フレームワーク、他人の模倣に頼るなかで見失ってきた、本来当たり前にやるべきことなのだと受け止めた。
質問2:広告予算ゼロのスタートアップでブランドを作るには
二つ目の質問は、東京のITベンチャーでマーケティングを担当する28歳の女性からだった。広告予算はほぼゼロ。GT-Rが開発とブランディングを同期させて世界ブランドになったと聞いたが、小さな会社でも同じことができるのか、という内容である。
水野氏は、小さな会社だからこそできると答えた。チームと夢や目標を共有したのと同じように、開発とブランディングの一体化とは、客とも夢を共有することだという。ニュルブルクリンクには世界中のパパラッチが集まり、情報を発信してくれる。そこで「GT-Rはここまで開発できた」「ここまで来た」と見せ、客にも開発というステージを一緒に楽しみ、GT-Rを一緒に育ててほしかったのだという。
どんな商品であっても、これから作り始めること、プロトタイプができたこと、プロトタイプにこんな意見が出たことを共有すればよい。それ自体がプロモーションになる。場合によってはプロトタイプの試乗会のような場を設けて人を集めればいい。Kawakami氏が「やればいいのに、やらないんですよね」と言うと、水野氏は、それが不思議だと応じた。
水野氏によれば、客が一緒に開発を楽しめば、自分たちが育てた商品だという思いが生まれる。それが、客がブランドから離れない最大の強さになる。「俺が育てた商品」という意識をどう持たせるかこそが、ブランディングの本当の鍵だという。Kawakami氏は、ブランディングは点ではなく線であり、エルメスやポルシェ、GT-Rのように、それがどう生まれてきたかに寄り添うほど人は愛着を持つと付け加えた。
50万〜60万km相当を走らせた車でタイムを計る
開発の見せ方について、水野氏はニュルブルクリンクでのタイム計測の具体例を挙げた。他のメーカーは新品の特別仕様車でタイムを計る。これに対して水野氏は、2週間の耐久実験で市場換算50万〜60万km相当を徹底的に走り込み、客の車に起きるへたりを全て再現した。そして、ジャーナリストも含めた場で、その一番へたった車でタイム計測を行った。他のメーカーとは真逆のやり方であり、客の車の状態がどれだけ悪くなっても、その状態でこのタイムが出る、という結果を示したかったのだという。
この方針は、ドライバーの鈴木氏には申し訳なかったと水野氏は振り返る。ドライバーなら新車を最高のチューニングで思い切り走らせたい。なぜこんなよれよれの車をだましだまし走らせてタイムを計るのか、とこぼしていたという。それでも水野氏は、レーシングドライバーとしてのあなたは自分の成績のために走ってきたが、GT-Rは客の楽しみのために走る、だからこらえて客のためのタイム計測をしてほしい、と伝えた。目の前の目標はポルシェやブガッティを抜くことだが、その先にいるのは客である。客はピカピカの新車を持ち続けるわけではなく、長く乗り続ける。中古車で買った客の車でもこれだけの性能がある、という車を作りたかったと水野氏は語った。
Kawakami氏は、物でもサービスでも、何のために、誰のために作っているのかが、関わる年月や人数が増えるほど薄まり、自分がなぜこの仕事をしているのか分からなくなっていくと述べ、背筋が伸びたと感想を語った。
祖母の言葉「天知る、地知る」
人目につかない検証にまで手間をかける理由として、水野氏は中学時代から心に焼きついている言葉を挙げた。家に、亡くなった祖母が残した1枚の紙があり、そこに書かれていた言葉だという。悪いことは天が知り、地が知り、人が知る。人が見ていないからと悪いことをしても、どこかで跳ね返ってくる。逆に、人のために働くなら、今は表に出ず意味がないように見えることでも、心を込めて実行しなければならない。
人の見えないところでこそ本来の力は発揮される。天がそれを見ているから結果がついてきて、気づいたときに本当の信用がついてくる、と水野氏は語った。
「バリュー」の仕事と「新商品」の仕事は表と裏
最後にKawakami氏は、不確実性が高まり先が見えないなかで、新しい技術や他社の取り組みに飛びついてはうまくいかない人たちへのメッセージを求めた。水野氏は、図を描きながら一つの枠組みを示した。
横軸は時間で、過去と未来に分かれる。縦軸は、誰もが知っている汎用的なことと、一部の特別な人しか知らないことである。新開発・新商品は、未来の、答えのない、一部の人しか知らない領域の仕事だ。一方「バリュー」の商品は、これまでの結果をもとに、いかに安く効率よく作るかという仕事であり、両者は表と裏で全く逆の仕事だという。
AIやシミュレーションは、過去を効率よく使って不具合をなくし、信頼性と比較競争力を作る仕事である。客もその商品を知っていて物差しがあるから比較できる。この領域では効率がキーワードになり、AIやビッグデータを活用すればよい。しかし未来の新商品には、技術もなく、客も知らず、マーケティングも一から作らなければならない。そこで起きるのは失敗であり、失敗を成功に変えるのが新商品開発の仕事だと水野氏は言う。その際に大事なのは、常に本質に戻ることだ。車両総合計測や進捗管理の仕組みも、そのための手段だという。組織と管理、チームとリーダーについても、この表と裏の違いが多くの人の頭の中で整理されていない、と水野氏は指摘した。
Kawakami氏は特許の「新規性」と「進歩性」になぞらえ、昨日より今日が良いという進歩性の世界に比べ、全く存在しないものを作る新規性の世界は恐ろしく、失敗もすると述べた。それでも、誰のため、何のためという立ち返る柱がぶれなければ、何度でも失敗と成功を繰り返せる、と受け止めた。
水野氏はさらに、本質に戻るとは、測って現象を理解することだと付け加えた。デザインならロデオドライブで確かめる、というのがその初歩だという。売れるかどうかは会議室では分からない。Zoomで商品開発やマーケティングの話をするのではなく、外に出て客の声を聞き、デポジットを入れてくれるかどうかを見るべきだと水野氏は語った。
未来を検証するのはエンジニアの仕事
水野氏は、エンジニアとマーケターの領域も過去と未来で分かれると述べる。データとしてまとめるマーケットリサーチは過去の領域であり、マーケターには未来は見えない。未来に関わるのは「構想」であり、自分の構想が将来受け入れられるかを検証しなければならない。ロングアイランドでユーザーに構想を聞かせて反応とデポジットを見たこと、ロデオドライブで街の反応を見たこと、ニュルブルクリンクでポルシェと競ったことは、全てその検証だったという。失敗と修正を繰り返すPDCAを回すのは、企画プランナーかエンジニアである。Kawakami氏が、本来はマーケターもこちらに出てくるべきではないかと言うと、水野氏は「無理ですよ」と答えた。ユーザーを驚かせる新しい発想を持っているのはエンジニアであり、だから「エキスパートエンジニア」なのだという。
「成功が確約された失敗」しかやらない
ただし、水野氏は「失敗すればいい」と考えているわけではない。講演でもいつも、検証が終わって売れると確信できたもの以外はやるな、と言っているという。多くの人は失敗を恐れるが、水野氏は成功の目処があるもの以外はやらない。失敗するのは、自分の考えに未来永劫マーケットがあるかどうかの検証をせずに始めるからだ。
その例として、ロングアイランドでスーパーカーのユーザーを調べたところ、真冬に走れるスーパーカーが欲しいという声があり、どれだけのデポジットと反響があったか、というデータを挙げた。こうしたデータは過去のデータからは出てこない。構想があり、売れるという確信があるものでも失敗する可能性はある。最も悪いのは、自分の思い込みだけで進めて失敗することだ。Kawakami氏が「失敗も設計された失敗でなければならない」とまとめると、水野氏は「成功が確約された失敗」しかやってはいけないと答えた。開発費とは失敗の数であり、だから大金はいらないのだという。
1分以内に答えられなければリーダー失格
番組の終わりに、Kawakami氏は視聴者からの質問に水野氏が答える機会を今後も設けたいと依頼した。水野氏は、自身の信条としてチームにも伝えていることを語った。誰がどんな質問をしても1分以内に答えられなければ、リーダーとしてその場に立つ資格はない。人が質問するのはその人に期待を寄せているからであり、その期待を裏切ってはいけないからだという。
Kawakami氏は、反射的な答えは説得力を欠くこともあるのではないか、言語化の力を高めるには何が必要か、人前で問われる場に自分をさらすことなのか、と尋ねた。水野氏は、ドラマ『ドクターX』の大門未知子を引き合いに出した。普通の医者は決まったやり方に従うが、大門は人間の体はそれぞれ違い何でも起こりうると考え、使うかどうか分からない応用まで全てメモに書いて仕込んでいる。それが自分のやり方だと水野氏は言う。この話をすればこういう質問が来るだろうと想定し、どんな質問にも答えられるよう事前に準備しておく。生きていて目にするもの全てが自分の勉強の材料になる、と水野氏は語った。
もう全部バックアップするからやってくれって承認もらってるから、自信持ってやろうぜ。だけどできねえだろって。じゃあ、スポーツカーって何ですかって言ったら、やっぱりかっこいいことなんです。
かっこいいって何ですかって言ったら、異性に憧れられることなんですよ。楽しめるスーパーカーライフの定義って何ですか。世界一速い車に乗れてるんですよ。これ、お客様の心でしょ。
なるほど。速い、速いってメーカーが言ったからね。俺は速い車に乗って、誰も楽しくない。
世界の名だたるメーカー、ものすごい数のものすごい優秀な方もいらっしゃるでしょ。そんな中で、水野さんのような発想をする人がやっぱりいなかったってことですよ。
これ、今そのプロモーションの一角、この車をどう表現するか、それはあなたの立ち位置から、このプロジェクトに関わったあなたの視点から語ればいいってこともあると思うんですけど、相当、水野さんはこのブランディングについても力を入れてらっしゃった。私が実は事前にお話を伺ったところによると、ロサンゼルスのロデオドライブに車を置いて、何をされたっておっしゃいました?
デザインだってね、よく雑誌を見ると、もう最高の造形のデザインスタジオです。もう最高の照明設備で。おいおいおい、街のお客さん、そんなきれいなので車を見る機会あんのかよと。大体マンションの地下駐車場で見て、俺の車いいとか悪いとかね、街で見てね、駐車場に止めといて俺はいいとか悪いとか、そこで評価するのに、なんでそんなきれいなランプの、金かけたスタジオで車を見てんだと。
僕はこれだけ嫌なんだから、僕がやった車、みんなそうなの。色もデザインも、その造形スタジオで選ばないと。
なるほど。
CEOや関係者の承認はやりますけどね。それはやります。やっぱり僕は、答えはロデオドライブっていうのは、世界一の、ロールスが走り、ジャガーが走り、あらゆるお金持ちが降りてきて、自由に車の、アメリカのステージだと。
ロデオドライブに行って、この車がどれだけのプロポーション、インパクトを持つかを検証するんで、造形じゃない。それからもう一つ、その色の艶だとか妖艶さ。妖艶さって、スーパーカーって何とも言えない、こういう妖怪的なイメージが欲しいんですよね。そんなものは普通のエンジニア、デザイナーなんか絶対出せない。
だったらロデオドライブのシャネルの前って、シャネルの夜のネオンサインで映った時に、この車の妖艶さがどこまで出るんだ。だからシャネルショップとロデオドライブが、この車のデザインの最終判定場所だよって。それだけです。だから試作車に黒い覆面つけて、僕が行って流したんですよ。周りの反響を見て、このデザインでいける。
それで、なんだこの車はって言われたらしいですね。
そう。もう店に入っても、はっきり言うけどね、真ん中の生け垣が人でぎっしり。もう信号に並ぶとみんな、人垣ができてね。ロデオドライブの真ん中にある植え込みまで人がいっぱい入って。ブランドショップで買ってた紳士がね、この車どこで買えるんだって。どうするんだ。もう商談が始まるんですよ、信号で止まるたびに。
このデザインでアメリカマーケットは少なくともいけるなって、確証は取れました。
ここはもう本当に、ご自身の目で、肌で感じるデータなんですね、これはね。そこで、この車いくらで買えるんだって聞けますもんね、この人にね。いくらだったら買うんだって。
しかも10年先でもデポジット払ってるんですよ、みんな。
そうですか。
結局ね、お金もあるけど、よく調査会社の方はお金ばっかりするけど、本当にプレミアム商品で大事なのは、何年先までいくらのデポジット払うか。実はここが本当の魅力で、ここを押さえてないんですよ、皆さん。
これすごくないですか、マーケターの皆さん。マーケティングっていう言葉があまりにも手垢がつきすぎてしまって、擦れてしまって、本来の意味がちょっと見えなくなってる今日なんですけども。マーケティングってね、マイケル・ポーターが言った通り、4Pって言うじゃないですか。一つは商品そのもの、それからそれをどう値付けするか、プライスと。あとプロモーション。皆さん、プロモーションの話がイコール、マーケティングになってると思うんですけど、マーケティングってこれ全部見なきゃいけないんです。
本当の意味で水野さんってマーケターだなって、私、前回お話しした時に思ったんですけど、これを全部見る。言うは易しで、商品も価格戦略も、それから売る場所も売り方も、全部分かる人、なかなかこれは大変なんですよね。
僕は正直に、正直にやってるだけですよ。
もちろん、今までの水野さんのご実績があるから。普通ね、じゃあロデオドライブに行って販売促進で皆さんの声を聞いてみましょうと。それいくらかかるのよと、せいよって大体なって、やめなさいってなってしまうじゃないですか。そこはやっぱり水野さんだから、じゃあやってみましょうかっていう話になっていくんだと思うし、やっぱり今の話を伺っていくと、なんて言うんでしょうね。
私ごときが申すのはとっても僭越ですけども、説得力、まじくないですか。いろんなマーケティング会社の調査会社に調査をさせて、デモグラフィックで属性は大体何歳ぐらいの男性はこうでこうで、数字で見たところで、さてここからどんな車が見えてくるのか。それよりもロデオドライブのシャネルの前に置いといて、何人の人が覗き込んで、何人の人がデポジットを払うかっていうのを取るって、すさまじい。これ、宣伝費いらないっちゃいらないですね、これね。
だから宣伝広告費、経費ゼロです。GT-Rは世界中で。
これ、もう衝撃ですよね。水野さんをしてこの方って言っちゃいけないですけど、この方ってエンジニアじゃないんですよね、もうね。何なんですかね。水野さんって、ご自身って何だっていう看板をつけるとしたら?
僕、肩書きをつけろって言われると、恐れ多くもエキスパートエンジニアとは言ってますけど、このエキスパートって意味は、エンジニアじゃないよって否定してるんですよ。要するに、マーケティングだろうがブランディングだろうが、プロダクト、生産だろうが、品質保証だろうが、デザインだろうが、ありとあらゆることを全部やりますと。だからエンジニアで切らずに、エキスパートって入れてる。
むしろそういう意図があるんですね。
いつも言いますけど、値段っていうのはね、じゃあ10万ドルで買うよって言ったって、そんなものは当てにならない。値段ほどいい加減なものはない。値段なんか基準にしたら商売を絶対見失うと、僕は思ってた。さっき言った、デポジットを何年待てるか。
値段っていうのはね、ポルシェがいい車を出して、ポルシェが四輪駆動でいいモデルを出したら、おそらくすぐにGT-Rの値段の価値って、ころっとひっくり返るんですよ。だから瞬間的な値段なんて何の保証もないし、当てにならない。でもデポジットっていうのは、本当にお客の心の浸透の深さを表してるんですよ。
なるほど。
何年待てる? 5年待ってでも10万ドル払うよって言ったら、これこそが実はどれだけ買いたいかっていう購入希望の深さなんですよ。
交換というか、将来に対する期待値に対してのお金ですからね。目の前で交換される。
そうそう。交換のレートじゃないんだ。値段っていうのはね、そこまで長い期間の保証って絶対ないですから。
期待だ。期待に対する、いわば本当に投資に近いですよね。この会社に投資をするっていう行為っていうのは、この未来に価格を、経済的な価値をつけてるわけで、それに近いんだ。
だから僕は、マーケット調査っていうのは、正直、僕は自分でやってるんですよ。全部そうやってね。デザインもロデオドライブに行くよ。四輪駆動として、冬のニューヨークもね、ロングアイランドの冬に持っていって、スーパーカーユーザーを集めてきてやるし。
やっぱりその中で一番気にしなきゃいけないのは、デポジットを何年単位で払うかっていう、実はここに本当のモデルの成功レベルってあるんですね。表の値段って本当に競合車が違うものを出したら、もうぽろっと変わりますから。
そうすると、水野さんの中では、さっきチームを集めた時におっしゃった、もはや設計もないしエンジニアもないし、マーケターもないし何もないって。みんな一緒で、オールGT-Rチームだっていうふうになった時、今の話もそうですけど、そのニュルブルクリンクで記録を出すっていう開発のステージもそうだし、それから完成っていうステージがあって、宣伝っていうステージで、これ順番じゃなさそうですね。もう途中から始まってますね。
全部パラで。これは僕のマネジメントでね、この中で明かしていいかどうか分からないですけど、GT-R本の中にはちゃんと書いたんです。
今までエンジンだ、車両だ、車だ、車体だ、こうバラバラに、部署ごとにバラバラに開発してたアメリカ型の分担制で。それを車両総合計測って言って、1台のマスターで全てのことを、測、解析して設計するって部分と、もう一つ、企画、設計、製造、品質保証から販売まで世界中。これ10になりますけど、普通、物の開発って開発スケジュールって作ります。
そうですよね。
開発活動計画を作る。さっき言ったように、企画、設計、広報、生産、品質保証、それからアメリカの販売店、欧州の販売店、日本の販売店、もう全てが時間軸の中で、いつどういう連携を取って何をやるかって、グローバルに管理してたんですね。
ガントを10としちゃったのは、ガントが10な、無名が山ほどありますから。だって品質保証ってただあって、日本の品質保証とイギリスの品質保証、ドイツ、アメリカ、アメリカ東じゃまた違うし、もうこれ厳密に見るとね、違う。保証にしても、生産にしても、設計にしても、実験計画中でやるイベントから販売店の設置計画、全部を行動計画表にして、1万円流、1週間、日はプランニングセンター。グローバルの合同ミーティングをやって、全部、世界中の行動を僕がして、全部管理した。
そうですか。だから本当に、本来ならば分業化されて、分業化されることが効率がいいというふうに言われて、分業化が始まったわけじゃないですか。ただ、分業化されたことによって、やっぱりサイロ化が起きてきてしまって、つまりここで閉じてしまうっていう現象が起きてきて、そこが連携をしないってことが起きてきて。トッププロジェクトマネジャーっていうのは、その調整を図っていくような人になっていってしまう。
全体最適っていうのも、しょうがないな、こうなっちゃったから全体を何となく最適化しなきゃいけない。プロモーション、宣伝の人も、出来上がったものに対して、さあこれをどうやって売っていきましょうねっていうことを議論するっていうのがプロモーターであり、それをマーケターって言ってしまうのかもしれませんけど。
でもよく考えると、これってそうですよねって言ってますけど、今、水野さんがいつも質問のたびに、それ簡単なことですよっておっしゃるのが、やっと分かってきたんですけど。本来は当たり前にそれをやることを忘れてきちゃってるんですよね、私がね。
そう。今おっしゃったことは、基本的にアメリカ型のカンパニーマネジメントなんです。僕が言ってるのは棟梁。棟梁っていうのはもうチーフですよ。匠っていうのは各セクションの代表者ですよ。職人っていうのは、この各部品を作る技を持つ。この棟梁、匠、職人組織を作りたかったのはね、ひっくり返して言えば、なぜ城が2年でできたかと。
なるほどね。
当時の建築技術で石垣組んで城を作って、2年、3年でみんな作っちゃってるわけ。ヨーロッパのお城なんか10年かかった、100年かかったって平気でやってるわけです。ここに実は日本の仕事のやり方の素晴らしさがあるだろう。それから棟梁が指揮した仕事っていうのは、手直し、やり直しってあまりないんですよ。
ところが、申し訳ないけど、アメリカ型マネジメントでは、本当に調整役が仕事と思ってる人が、大体僕の業務分析で言うと6割近くいるんですよ。
そう思います。調整するっていうね、利害調整するっていうことですよね。
日本の城は、なんであんな、大阪城だって、あれがなんでたった数年でできちゃったかって言ったら、どうしてみんな当たり前に考えないんですか。
秀吉が何日までに作れって言ったら、作ってたわけですからね。
そうです。だってこんなに素晴らしいやり方が、マネジメントスキルがあるわけですよ。
水野さん、質問いいですか。質問が来ておりまして。38歳、たけしさん、製造業、中小企業の開発のリーダー、愛知県の方です。愛知県の方だからあれなのかな。「半分の人数で倍の成果を出したいです」っていうのが件名で。
「製造業で30人規模の会社で開発部門を率いています。大手の競合に勝つためには、少ない人数で大きな成果を出す必要があるのは当たり前ですが、水野さんが通常の半分以下の資源でGT-Rを開発されたと聞いています。具体的に人材の配置、役割分担、最初にやったことは何ですか。あるいは、これを捨てると決めた業務はありますか」。今まで水野さんがお話しくださったことの中の、ラインマーカーを引くところもあるかもしれませんが、あればちょっとアドバイスを。
最初はまず、みんなと夢と目標を合致するっていう、そのゴールを説明した後、すぐ全員集めてね、車両計画図を前にして、それぞれ役割。もっと大事なのは、実現する夢を共有するんです。よく夢とか目標共有って言うけどね、僕が見てるとみんな、今より10%良くする、100%良くするとかね、こんなことばっかりやってて、シーンがないんだよ。
僕はさっき言ったように、アウトバーン、300kmで隣の人と会話が楽しめる。誰でも楽しめる。要するに、シーンと一緒に達成目標を作る。シーンがなきゃ駄目なんです。数字じゃ人は動かないんだ。
なるほど。
もう一つは、その中に自分が参画する。ここに参画したらこんなことができるんだ。車両総合計測と、そのプランニングセンターの運営方式っていう明確な方式があるよな。じゃあ俺も一肌脱いで、死んだ気になってやってみようっていう気にさせなきゃ駄目だ。
大体みんなね、自分で表を出さずに、あの人がああいった結果あるから、うちもこうしてみよう。人の結果なんかどうでもいいじゃん。それで夢を持つ人は、僕、いないと思う。
本当にそうですね。
ちょっと言い過ぎ?
いやいや、ちょっとお言葉をかみしめておりまして、私が、デさんのようになぞらない方がいいかなと思って、そのままかみしめる時間にしておりますけど。
でも夢は共有した。
でもね、水野さんの、やっぱりそうなんですよね。言語の、なんて言うんでしょうね、言語化力っていうのがすごいんですよね。そこにもちろん魂があるからって、その技術的な言語能力ではなくて、その後ろにある志や目指してる方向性が極めて明確だから言語になるってことなんですけども。それによって人が動く。
いい車を作りましょうではなくて、ニュルブルクリンク、あるいはアウトバーンで300kmで、片手で会話できる車を作ったら面白くない? いや、面白いですね。でもきっといると思うんですよ。あんなこと言っても、もうできるわけないじゃんと思ってるような日和見的な人もいるとは思うんですけども、やがてこの人たちもやっぱり来るんですよね。一つずつ、一個ずつ、皆さんが乗り越えてこられるから、難しいと言われることを。
乗り越えたっていうより、みんなの夢を実現するために通らなきゃいけない壁なんですよ。決して乗り越えなきゃいけないんじゃなくて、壁をぶち破って何とか作っちゃおうよっていう、すごく単純な発想なんですよ。
その単純とか簡単って、今、水野さんがおっしゃってる言葉っていうのを私なりに解析すると、私たちができてないことなんですよ。当たり前で、本当だったら当たり前にやらなければいけないことを、いかに私たちが最新の技術に頼り、最新の理論に頼り、フレームワークに頼り、あるいはあの人に頼り、あるいは他者に、まねというのかな。これによって本質的な、本来やるべきことっていうのが見えなくなってしまってるってことを、改めて気づかされております。
もう一個質問。28歳、えりさん、ITベンチャー、マーケティング担当、東京です。「広告なしでブランドを作る方法。スタートアップでマーケティングを担当していますが、広告予算ほぼゼロでございます。水野さん、GT-Rを世界ブランドにしたお話に衝撃を受けました。開発とブランディングの同期化」。先ほどのガントチャートの話でしょうかね。「具体的にどういうふうに、私たちみたいな小さな会社でもそんなことができるんでしょうか」っていう。何を作ってらっしゃる会社か分からないので、水野さん、回答が難しいかもしれませんが、小さな会社だからこそ。
だと思います。チームに夢と目標を一緒に見ようよって言ったですよね。開発とブランディングを一体化したっていうのは、お客も夢を共有しようよって。だからニュルブルクリンク、テストコースの中で、丸日でやって駄目なの。ニュルブルクリンクで世界中のパパラッチが集まって、世界中に情報発信してくれるところで、今、GT-Rここまで開発したよ、今ここまで来たよ、ポルシェをぶち抜いて走るよ。お客様にも一緒に楽しんでほしいのよ、開発というステージを。
そこの成長も共有してたんですね。
ずっとお客様も一緒にGT-Rを育ててほしいのよ。
だから、どんな商品を作ってても、今こういう商品を作り始めようとしているよ、プロトタイプができたよ、プロトタイプにこんな意見が出たよっていうのを共有しちゃえばいいってこと。これ自体がプロモーションになってくるから。
そうだと思うんですね。場合によっちゃ、プロトタイプの試し会をやりたいから、みんなちょっと集まってくれるってやればいいじゃないですか。
やればいいんだけど、やらないんですよね。
やらないんですよ。なんで?
すいません。
俺、それが不思議なのよ。
すいません。これ相当、本当ですね。やればいいですよね。
お客様だって一緒に開発を楽しむってことは、自分たちが育てた商品だって思いができる。それがお客様がブランドから離れない、一番の強さだと思う。俺が育てた商品って意識をどうやってお客様に持たせるかっていうのが、実はブランディングの本当の究極の姿だと思う。
確かにそうですよね。
あれ、俺が作ってやったんだよ。
そうか。ブランディングっていうのは、やっぱり線なんですよね。点じゃないんですよね。長い一つの歴史。これはエルメスにしても、ポルシェにしても、そしてGT-Rにしても、どうやってここに生まれてきたかっていうことに寄り添っていけばいくほど、人間ってやっぱり愛着が湧いてきますし。
水野さんは工場を見せてたわけですよね。物理的に見せたかどうかは別ですけども、工場を見せて、どんなふうに車が作られてきているのか、どんな思いで作っているのか。ニュルブルクリンクでどのぐらいのスピードで走ったのかって、見せてらっしゃいましたよね。
ええ。ですから、その中でね、他のメーカーさんはバリバリの新車で、スペシャルスペックでタイム計測やってますよ。ジャーナリスト含めてね、僕は2週間、耐久実験を徹底的に、市場換算50万から60万、走り込んで、お客さんの車のへたりなんかを全部再現した。その一番へたり切った車で、実はタイム計測やってるんだ。全く他のメーカーと真逆なことをやって、新しい車でやってるんじゃないんだ。
どんなにお客さんの状態が悪くなっても、その状態が悪くなった状態でのタイム計測結果ですと。その辺りの指示って、水野さんの発想で、これやるぞって言うんじゃないですか。
もちろん。
その時って、もう皆さん、その頃っていうのは、チームは分かりましたっていう状態になってるわけですか。
こう言ったら怒られちゃうけど、ドライバーの鈴木さんなんか、悪い、もう申し訳ないと思うよ。彼だって本来はドライバーなんだから、バリバリの新車で思いっきり走りたいと。いい車で。なんでこんなよれて、よれよれになって、一生懸命だましだましやらなきゃいけない車でタイム計測してるのって。やっぱりこぼすよ。
そうですか。
それはね、ドライバーとしてはそうだよ。
それはそうですよね。最高のチューニングで、その、俺、聞いてるんだから。水野さん、いい車、せっかくいいスピード、タイム、しかもタイムを出さなきゃいけないわけじゃないですか。
そう。
だったらいい車ちょうだいよって。
そう。でもやっぱりその意味が違うから。でも鈴木さんにもね、レーシングカー、あなたレーシングドライバーとして、あなたの成績のために走ったよね。GT-Rはお客さんの楽しみのために走るよね。だからそこはこらえて我慢してよと。お客のためのタイム計測やってよ。
すごい。そうですよね。お客様のために、誰のために走ってるかって。もちろん目の前の記録を出す、ポルシェを抜く、ブガッティを抜くってことなんだけど、実はその先はお客様だから。
お客様、新品のピカピカを持ってないから、今ずっと乗り続けるわけだから。何キロも。中古車を買ったお客様の車だって、このくらいの性能を持ってるんだよって、そういう車を作りたかった。
そういうことで考えると、本当に私たちが物を作って、物じゃなくてもサービスでも結構ですから、技術を作る方もそうですけど、何のためにこれを作ってるのか、誰のために作ってるのか、何をしたいのかっていうことが、長年携われば携わるほど、それに関わる人が多くなればなるほど、どんどん希釈されてきてしまって、あれ、俺、なんで今日この仕事をやってるんだっけっていうのが、ちょっと分からなくなってくる。
今日、水野さんの話を聞いてきて、私も、なんて言うんでしょうね、背骨がシャキッとしました。本当に多くの皆さんがそうだと思います。
世界中で一番へたった状態で作ってね、50万km相当で走ったよれた車でタイム計測するよ。
50万? それはきついかもしれない。
でもね、僕はやっぱり中学の頃、うちに1枚の紙があって、死んだおばあちゃんがね、「悪いこと、天知る、地知る、人が知る」。逆に、人が見ないから悪いことをしてても、どこかで跳ね返りが出るよ。でも人のために働くんならね、今、表に出なくて意味のないことでも、自分は心を込めて実行しなきゃいけないよって。もう中学の時から、「悪いこと、天知る、地知る、人が知る」。この言葉っていうのも、自分の中に焼きついてる言葉なんです。
なるほどね。
人の見えないところでこそ、自分の力っていうのは、実は本来発揮するものなんだよ。ちゃんと天がそれを見てるから、結果がついてくるから。気づいた時に、本当の信用って言葉がついてくるんだよって。
おっしゃる通りですね。最後になりました。この番組を聞いている人たちも実に様々で、大企業でビジネスパーソンをやってる人もいる。あるいはそこでトップをやってる人、あるいは中小企業のトップで。いずれにしても、これから、先ほど技術の話がありましたけども、いろんな世の中の変化の中で、昔のように先が見えないって皆さんおっしゃるんですね。
やっぱり不確実性が高まってきて、先が見えない、見えないと。そんな中で、僕、私、私の会社はどうしたらいいんだって、迷える人たちがすごく多くなっていて、迷えるがゆえに、先ほどの技術に飛びついてみたり、あの人がやってるあれに飛びついてみたり。でも何かうまくいかないって、こういう人たちに最後、メッセージか何かありますか。
一つだけと思うんですね。もうちょっと簡単にやりますけど、世の中には時間軸。これ時間で、過去と未来。スペシャルな。
こっちが未来ですね。
はい、未来ですね。これ、汎用で誰もが知ってることと、一部のスペシャルな人しか知らない。実は我々の新開発、新商品っていうのは、未来で答えのないもの、一部の人しか知らないことをやってるんだよ。
やっぱりバリューの商品っていうのは、今までの結果を基に、いかに安く効率のいいものを作ろうかっていう、表と裏で全く逆の仕事をやってるってことを、まず理解してほしいんですよ。
なるほど。
例えばITのAIであったり、シミュレーションっていうのはね、みんな過去をうまく効率的に使って、不具合をなくして信頼性を作る仕事。信頼性と比較競争力を作る。これがキーポイント。これが過去の仕事なんで。これをバリューと言うんです。比較していいものを買いたい。
お客さんも知ってるから。
知ってるから比較できるんだ。
物差しがあるから。
知らなければお客は比較できない。いいですか。このゾーンってこれなんだけど、一番大事なのは信頼性と競争力。じゃあ、これ、効率っていうのがキーワードになるから、AIやビッグデータ、ありとあらゆるものをうまく使って信頼性と競争力を作りましょう。こういう世界なんですね。
じゃあ未来の新商品って何かって言ったら、さっき言った、技術もない、お客さんも知らない、マーケティングも作らなきゃいけない。じゃあ何が起こるかって言ったら、失敗なんですよ。
なるほど。
失敗を成功に変えるのが、ここの仕事なんだと。その時に大事なのは本質なんだよと。常に本質に戻って失敗を成功に変えるということが、さっき言った車両総合計測をやるとか、マネジメントの進捗を作るとか。
失敗をどう成功に変えるか、常に本質に戻るよ。失敗を成功に変えるのが、このゾーンの仕事。商品開発っていうのは、失敗を成功に変えることだよ。バリュー商品というのは、AIやシミュレーターを使って信頼性と競争力を上げることで、比較競争力を上げることなんだよ。ここの全く表と裏の違いを認識しないと駄目なんだ。組織と管理、チームとリーダー。ここが皆さん、頭の中で整理できてないんだと思う。
できてないです。これ、もう本当に、ちょっと私、あんまり言葉を重ねない方がいいなと思って。これは本当に、水野経営大学院学長の水野先生に。本当そうですね。私たちは過去よりも良い何かっていうのを作ろうとするんですけども、新規性と進歩性っていう言葉があるじゃないですか。この進歩性っていうのは、昨日よりも今日がいい、あの人よりも。
っていうバリューの世界ですね。先ほどおっしゃった新規性って、全くないものの世界って、ここに行くのはすごく恐ろしくて、恐ろしいんですよね。失敗もするだろうし。ただ今おっしゃったように、それは失敗を成功に変えることだよ。ただ、失敗を成功に変えようとする時には、いろんな意見も出るでしょう。
その時に必ず本質に戻るっていう、皆が寄って立つ指針、柱があれば、誰のために作ってるのかなと、何のためにやってるのかっていうことがぶれなければ、何度でも失敗、成功を繰り返せるってことですよね。
はい。この本質に戻った時にね、大事なのは測って現象を理解するってことで、例えばデザインであったら、ロデオドライブに車を持っていってチェックするよ。これも実は本質の追求なんですね。
そうですね。売れるの、売れないのっていうのは、会議室で分かるわけないですもんね。
そんなもの分かるわけない。いいデザインか悪いかは、ロデオドライブ。プレミアムカーだったらロデオドライブでしょ。
もうZoomやめよう。みんなZoomで商品開発とかマーケティングの話をする。やっぱり出ていって、お客様の声を聞いて、デポジットを入れてくれるのか、入れてくれないのか。これですね。
はい。もう一つ大事なのは、最後に言いますけど、これはデータとしてまとめるマーケットリサーチ。これはエンジニアが構想を整理する。例えばデザインを、僕自身がハンドルに行って、ロデオドライブで街の反応を見る。要するに、エンジニアがやる領域と、マーケターがやる領域って、実は過去と未来でまた違うんです。
ああ、そうなんですね。
だってマーケターは未来は見えてないから。
未来を見なきゃいけないんですけどね、マーケターは。
構想なんですよ。自分のやろうとしてる構想が、将来受けるか受けないかって検証しなきゃいけない。だからロングアイランドに行って、ユーザーインタビューして、俺の構想を聞いて反応を見て、デポジットを見たとか、ロデオドライブで見たとか、ニュルでポルシェ、開発してるとか、実はここ全部そういうことなんだ。
その失敗、成功、失敗から修正、失敗、修正、失敗、修正っていう、このPDCAを回すのはエンジニアだから。まず失敗してみてPDCAを回していく。マーケターの世界っていうのは、水野さんの定義で言うと、やっぱり過去のデータから、きれいに運用できるように効率よくまとめることなんですね。本当はマーケターもこっちに出てこないといけないと思うんですけどね。
いや、無理ですよ。新しい思考、これを作ってユーザーをこんなにびっくりさせようっていうのは、エンジニアが持ってる。企画プランナーかエンジニアだから。だからエキスパートエンジニアになるんだ。
そういうことなんで、まして失敗するから、僕はいつも講演で言ってるんですけど、検証が終わって売れるという確信ができたもの以外、やるなと。要するにみんなね、失敗は爆死だと思ってる。僕は成功するめどのあるもの以外はやらない。
なるほど。何でも失敗すればいいってもんじゃない。
じゃない。それは、自分が考えてることが本当に未来永劫にマーケットがあるかないかという検証もしないでやるから、失敗するんだ。
ああ、なるほど。
その未来永劫にマーケットがありますよ。例えばロングアイランドでスーパーカーのユーザーを調べたら、真冬に走れるスーパーカーが欲しいと。こんなデポジットと、こういう反響があったってデータこそが大事で、これはこっちでは出てこないね。
そっか。そうですよね。ないものですから、そもそも。
だけど構想があって、売れるという確信のあったものしか、失敗はする可能性があるから、やっちゃいけないよ。だから一番悪いのは、思い込みで、自分の勝手な思い込みだけでやって失敗するっていう。
そういうことですね。失敗も設計された失敗じゃないといけないってことですね。
成功が確約された失敗しかやっちゃいけない。
面白い。
だからお金なんかいらないんです。開発費なんていうのは失敗の数だから。
本当に永遠に水野さんのお話を聞いていたいんですけど、水野さん、これをきっかけに、この番組にいろいろとお力をお貸しいただけますでしょうか。もし機会があれば、見てらっしゃる視聴者の皆さんから、多分、募集すればものすごい数の質問が来ると思うんですね。水野さんと一問一答会みたいなことで、ご協力いただけたらなと、改めて思った次第です。
これ僕の信条ですけど、もうこれはチームにも言ってある。誰がどんな質問をしようと、一に答えられなかったら、俺はリーダーだと失った。
ああ、なるほど。
それは僕の生きる信条です。というのは、人はなぜ聞くかって言ったら、何か期待を寄せるから、その人に質問するわけですね。その質問を裏切っちゃいけない。だから1分以内にどんなことを聞かれても答えられなかったら、もう自分はその場に立つな、リーダーとしているなっていうのは、僕の信条。
またここだけで話が続いちゃうかもしれないですけど、逆に、脊髄反射的に答えてしまった答えっていうのが、あんまり説得力がなかったりする場合もあるわけじゃないですか。それは水野さんだから、今までのご実績とトラックレコードがあったからこその言葉だと思うんですけど、どうでしょう。
やっぱり水野さんって言語の人だなって改めて思うんですけど、言語力を高めることって何でしょうね。もちろん、経験も含めたインプットを強めていくってこともあると思うんですけど、アウトプットの機会にも自分をさらしていった方がいいんですかね。今、講演もたくさんされてらっしゃると思うし、こうやって番組で聞かれることもたくさんあると思うんですけども、こういうチャレンジを受ける場所に自分をさらしていくことが、結果、言語化能力が高まるってことだったんですかね。
僕ね、急にこう話したらいけない。ドクターX、大好きな大門未知子。
はいはい。
要するに普通のお医者さんは、実はこういうもので、こういうやり方でこうやればいいって。大門未知子の違いは、でも人間の体は違うんだと。ありとあらゆることが起こる可能性があるって、このありとあらゆる起こる可能性を、大門、メモにしてみんな書いてあって。使うか使わないかも分からない、実は応用編を全部、徹底的に仕込んであるわけですね。これはね、正直言います。僕の生き方なんですよ。
なるほど。質問に答えられるってそういうことなんですね。
僕は今、車の話をしたからこういう質問が来るだろうと。これはね、申し訳ない、ドクターXで言ったら他のお医者さんのパターンで、大門未知子は、あり得る質問が来る、どんなことがあっても答えられるように、メモで事前学習しとけと。
なるほど。
でも僕って大好きですけど。
そうなんですね。これ、ぜひちょっとそういう機会を。
そうやって、生きて見るものって全部、自分の勉強のネタになるでしょ。
そういうことなんですね。やっぱりすごく感度の高いアンテナとともに、どんどん整理されていって、水野ノートになっていくんじゃないかなって思いますので、これからもその水野ノートを、ぜひ悩める子羊、私も含めてに開放して共有していただけるとありがたいと思います。
今回のゲスト、プロジェクト・カーズ合同会社代表、そして私からすると、水野経営大学院大学学長、水野和敏さんにお話を伺いました。
そんなですけど、ありがとうございます。ありがとうございました。
本当にね、とりとめのない話。
ありがとうございました、本当に。
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