共働きでも小学校受験はできるのか:横山美菜子さんが語る「家庭の軸」と情報との付き合い方

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概要

共働き家庭にとって、小学校受験は現実的な選択肢なのか。いつから準備を始め、いくらかかり、SNSやママ友から入る情報とどう付き合えばよいのか。この対談では、共働き世帯の小学校受験をサポートする株式会社マジカルパスの創業者、横山美菜子さんがこれらの問いに答えた。横山さんの立場は一貫している。受験準備そのものより先に、家庭の価値観と子どもの特性を考え抜いて「軸」を決めること。それができれば、忙しい家庭でも受験は回るし、結果がどうであれ「やってよかった」と思える、というものだ。

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フルタイム勤務で2人の子を受験させた経験から起業

横山さんはリクルートに14年勤めた。その間、フルタイムで働きながら2人の子どもに小学校受験をさせた。横山さん自身も小学校受験の経験者である。1人目の受験を終えたとき、そのプロセスが非常に大変だったことから、課題を解決したいと考えて起業の準備を始めた。2人目の受験も終え、会社は現在3期目だという。

サービスの対象は共働き家庭に限らない。横山さん自身がフルタイムの共働きで、時間も情報もない中で苦労したことが出発点なので、共働き世帯を主な対象にしている。ただ、片働きの家庭やシングルの家庭も利用しているという。提供しているのは志望校選びや塾選びの支援、そして小学校受験に特化した自社開発のAI搭載家庭学習アプリだ。アプリは、子ども一人ひとりに合わせて最適化されたプリントを、保護者が決めた時間に毎日自動で出す仕組みになっている。

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私立小学校は全体の1.36%しかない

まず前提として横山さんが示したのは市場の小ささだ。全国の小学生はおよそ581万人で、そのうち私立小学校に在籍しているのは7.9万人。割合にすると1.36%にとどまる。聞き手は、周囲がみんな受験しているので肌感覚では8割くらいに思えると驚いた。横山さんは、東京に限っても同程度のシェアだと説明し、「めちゃくちゃニッチな市場」だと話した。周りに受験者が多いと感じるのは、置かれている環境によるものだという見方で二人は一致した。

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首都圏で存在感が増している4つの理由

それでも首都圏を中心に小学校受験の存在感は増している。横山さんはその理由を4つ挙げた。

  1. 出口まで見据えた教育戦略を早めに立てたい保護者が増えている。
  2. 中学受験を回避したいと考える保護者がいる。
  3. 共働き世帯が増え、放課後の預かりまで含めて運用できる私立小学校が増えているので、学校で全部を済ませたいという需要がある。
  4. 探究的な学び、英語教育、実践的な授業など、思想がはっきりした学校を選び、家庭の価値観に合わせて教育に投資したい家庭が増えている。

受験する層も変わってきたという。聞き手は名古屋出身で、20年以上前の当時、私立小学校は親がその学校の出身だったり親族が受験していたりする家庭でなければ選択肢に入らないものだったと振り返った。横山さんによれば、10〜15年前には受験層のうち共働きの一般的な会社員夫婦は3割程度だったが、現在は7割を占めている。教育投資に前向きな「パワーカップル」も選択肢に入れるようになった。

ただし、横山さんは実際に入学している層を見ると、受験者の構成ほどには会社員夫婦の割合は高くなく、まだ半々くらいだという実感も語った。聞き手はそのギャップについて、教育に時間をかけられる家庭のほうが結局は勝ち抜いているのではないかと問いかけた。横山さんは表現を選びながら、伝統的に私立小学校に通わせてきた家庭は学校への理解が深く、学校運営の側から見てマッチしやすいといった考え方もあると答えた。そのうえで、忙しい共働き家庭でも自分たちの価値観に合う学校を探し、挑戦して結果を出せるようにしたいという思いで起業したと述べた。

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私立と公立の違いは「6年間の教育方針が見えること」

私立と公立の違いについて、横山さんが最も大きいと考えるのは、6年間どのような環境と教育方針で子どもを育てられるかが見えやすい点だ。私立小学校は学校ごとに教育哲学がはっきり違い、スローガンがあって、それに紐づいた教育内容がある。横山さんはこれを「会社と一緒」だと表現した。

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いま都内で最も人気のある学校の例

その具体例として横山さんが挙げたのが、世田谷区にある東京農業大学稲花小学校だ。横山さんによれば、この学校は都内で59年ぶりに新設された私立小学校で、卒業生はまだ1期生しか出ていない。それでも慶應や早稲田の倍率を抜き、いま一番人気があるという。

人気の理由として横山さんが説明したのは、コンセプトの明確さとその中身だ。食・農・生命といった農学のテーマは初等教育と親和性が高い。大学の教授から授業を受けられたり、大学の施設を使った体験授業があったりして、それを日々の実践につなげている。英語は1年生から毎日1時間ある。アフタースクールが併設されていて、夜6時半ごろまで校内で預けることもできる。横山さんはこれを「令和の保護者が欲しいものが詰まっている」と表現した。

もう一つ強調したのが、この学校のコンセプトが「冒険心の育成」だという点だ。私立小学校というとお行儀のイメージが強いが、ここではチャレンジ精神や粘り強さに重きが置かれている。社会に出たときにどんな大人になってほしいかから逆算されていて、思想・哲学と教育内容が一貫している。保護者がそこに共感できれば、6年間同じ方向性で子どもを育てられる。

聞き手は、日本では新しい学校より伝統校が評価されがちだったはずだと驚いた。横山さんは、保護者が共働きで社会で何が必要かを日々実感しているからこそ、どんな教育選択に意味があるのかを考える人が増えているのだろうと述べた。シングルの保護者も同じくらい深く考えているという。

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いつから動くか:本格対策は1年、価値観の整理は早いほど良い

視聴者が最も気になる点として、聞き手は準備の開始時期を尋ねた。横山さんの説明では、試験は年長の秋(9〜11月)に行われるため、本格的な対策は試験の約1年前、年中の秋から始めればよい。焦って3〜4年も受験準備をする家庭もあるが、共働きで忙しい中、そこまでする必要はないというのが横山さんの考えだ。早ければ早いほど良いと思っていた聞き手は意外そうに受け止めた。

一方で、早めに始めてほしいこともある。学校を研究し、興味を持ち、どの学校が良さそうかを考えること、つまり保護者だけでできる作業だ。そのためには、どんな環境でどう子どもを育てたいか、目の前の子どもにどんな特性があって何が得意そうかを考える時間をたくさん取ってほしいという。これがないまま受験に入ると、情報に振り回され、他人と比較し、子どもを追い詰め、自己嫌悪に陥ることを繰り返し、不完全燃焼のまま進んでしまうと横山さんは話す。そして実際にはこの部分を持たずに始める家庭が大半なので、ここが最も重要だと述べた。

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小学校受験は就活に似ている

聞き手は、有名企業ばかり受けて落ちる就活生にたとえた。なんとなく名前で選ぶのではなく、自分の個性ややりたいことを棚卸しし、企業を調べ込んだほうが強い、という話だ。横山さんはこれに強く同意し、この市場で起業したとき、就活の考え方とほぼ同じだとすぐに思ったと明かした。

違いは巻き込む人数だという。シングルでなければもう一人の親の意見も必要で、子どもの個性も見なければならない。それでも、まず自分たちを知ることに時間をかければ良い受験になると横山さんは言う。

親の目にはフィルターがかかるので、子どもを客観的に見て答えを出すのは難しいのではないか、と聞き手は指摘した。横山さんは、初めての子育てで3〜5歳というまだよくわからない子を見ているのだから正解はわからない、と認めた。そのうえで、だからこそ「考え抜く」ことに価値を見いだし、時間をかけることが一番うまくいき、家庭の幸福度も上がると、日頃から伝えているという。

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情報に振り回されないための3つの原則

SNSを開けば「あの学校はダメ」「これがいい」といった情報があふれている。情報を選び取る力が育っていないために振り回されてしまうという聞き手の問題提起に、横山さんは、小学校受験は特に情報に振り回されやすく「闇が深い」市場だと答えた。もともと気に入っていた学校を「いじめが多いと聞いた」という噂でやめてしまう。隣の子と自分の子の出来を比べて「うちは向いていないかも」と思う。そうした揺さぶりのせめぎ合いが続くが、それに左右される意味はまったくないと考えている。

そのうえで横山さんが挙げた原則は3つある。1つ目は、自分の目で一次情報を確かめること。学校の説明会などで先生の話を直接聞き、自分がどう感じ、何に共感したかを確かめる。2つ目は、在校生の保護者と接点があれば話を聞きに行くこと。すでに入学している家庭はライバル関係にないので、率直な話が聞けるという。3つ目は、自分の価値観をしっかり持ち、それを固めていくことだ。

価値観の重要性について、横山さんはたとえ話をした。保護者の集まりでみんなが紺のスーツを着ているような学校に、毎日ヒョウ柄の服を着ている人が入ったとする。その人が堅苦しいと感じる価値観なら、合わないのは明らかだ。逆に、そうした整った場のほうが居心地がいいと感じるなら、その学校を選ぶのが正解になる。価値観の違う人の「良い」「良くない」に影響されて選ぶと、入学後にミスマッチが起きる。どうありたいか、家族にどんな環境が合うかを考え抜いて軸が決まっていれば、その後の戦略は「めちゃくちゃ簡単」で、そこに向かって走るだけだという。

聞き手は自身の服装も引き合いに出し、受験までは取り繕えても、入学して1年もすれば素が出てしまうと笑いながら同意した。横山さんも、それでは本人も学校も困るし、こだわらない学校を探すこともできるのだから、他人の価値観で決めないことが大切だと応じた。

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受験ママ同士は仲良くする必要があるか

聞き手は、友人から受けた相談として、受験する同い年の子のママ同士は情報収集のために仲良くすべきかと尋ねた。横山さんの答えは「仲良くする必要がない派」だった。価値観が同じなら話は合うかもしれないが、結局は本人の性格次第だという。影響されやすい人にはおすすめしないが、聞き流せる人ならプラスの要素だけ取り入れられるかもしれない。ここでも、自分がどういう人間かを把握して選ぶことが大事だとした。

横山さんはさらに、準備期間の後半の現実にも触れた。最終的には1人5〜6校を受けることになり、その過程で「あの家が先に合格した」「あの試験だけ良かった」といった情報が入ってくる。前半は情報交換をにぎやかに楽しめても、後半はシビアな世界になる。それを見据えて付き合いの距離感を考えたほうがよいと助言した。

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費用:準備に年120万〜200万円、入学後は月20万円程度

お金について、横山さんは受験準備の相場を年間120万〜200万円だと説明した。ピアノや習字といった一般的な習い事は月6,800円〜9,800円程度だが、小学校受験の対策は1単元あたりその約3倍、月3万円ほどかかる。ペーパー対策、体操、絵画、巧緻性、行動観察など、受験で求められる要素がそれぞれ「バラ売り」されていて、それが積み上がっていくという。

試験で問われる主な要素は、ペーパー(書く問題)、協調性や指示行動を見る行動観察、紐結びなど手先の器用さを見る巧緻性、面接、学校によっては絵画だ。学校によってボリュームや難易度がかなり違う。聞き手が月3万〜4万円の単元を5つ取れば月15万円、年間で百数十万から200万円という計算を確かめると、横山さんはそれに加えて模試、服装、送迎、受験料などがかかると補足した。

入学後は学費が月10万〜15万円かかる。共働きで学童やアフタースクールを使うなら、その固定費も月10万円ほどになり、合計で月20万円程度が発生する。横山さんの考えでは、準備期間に年120万〜200万円をかけられる家庭は、入学後も同程度の負担を続けられる家庭であり、共働きの収入から毎月払い続けるイメージが持てる家庭が向いている。無理は絶対にしないほうがよく、する必要もまったくないと述べた。

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「やってよかった」と言う家庭に共通すること

これまでの支援経験について聞かれた横山さんは、「小学校受験」で検索すると「やらなければよかった」という声が最も多く出てくるという現状から話し始めた。そのうえで、約1,000家庭の支援と、約100校の私立・国立小学校への訪問・取材を踏まえ、「やってよかった」と感じている家庭の共通点を言語化した。家庭の価値観と、子どもにどんな教育を受けさせたいかという軸を持ち、その軸に沿って自分たちに合った学校を自分たちで選んだ家庭だ。そうした家庭は、合格しても不合格でも、そこまでできたことを良かったと話しているという。

未就学児の受験は中学・高校・大学受験とはまったく違い、当日の子どものコンディションやアクシデントにも左右される。だからこそ、プロセスに価値を見いだして考え抜いた家庭は「本当に皆さん幸せそう」だと横山さんは語った。きれいごとに聞こえるかもしれないと横山さんは付け加えたが、聞き手は、結果は神のみぞ知るものであり、その通りだと応じた。

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親の負担は「正直、死ぬ気」だった

一方で、親の負担が大きいことを横山さんは否定しない。聞き手が率直に大変ではないかと尋ねると、「正直死ぬ気ですよ」と答え、自身の経験を語った。1人目の受験はコロナ前で、フル出社のフルタイム勤務だった。朝7時15分に保育園に預け、夜19時15分に迎えに行く生活の中で受験準備をし、土日は受験塾で埋まっていた。二つの塾の間が30分しかなく、恵比寿から渋谷まで自転車で爆走し、Uberの配達員を追い抜いて塾に向かったこともあるという。

横山さんが大変だった点として挙げたのは3つある。1つ目は時間と体力。2つ目は情報収集で、市場の不透明感が強く、周りのママ友から得られるのはN1、N2、N3といった狭いコミュニティの偏った情報しかない。3つ目は家庭学習を回すことだ。疲れ切った夜に一緒にプリントをやるといった「丁寧な暮らし」を求められ、それをどう仕組みにして回すかが難しかったという。

それでも、どんな母親でも乗り越えられるかという問いに、横山さんは「できます」と答えた。家庭の方針が決まれば余計なことをせずに済む。横山さん自身は当時、余計なことをたくさんしていたから大変だったのであり、シンプルにそぎ落とせば、忙しい家庭でもメンタルもフィジカルも安定し、最小限の時間で回せると述べた。

ここで横山さんは自社サービスの位置づけも説明した。価値観や考え方の重要性は最初に伝えるし、塾も運営しているが、中心は家庭学習アプリだという。保護者が「どのプリントをやらせ、どう声をかけるか」を考える時間を減らし、家庭学習を365日自動で回せるようにすることが、コアの支援だと話した。

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結論:家庭の幸福度が上がる選択として

対談の最後に横山さんは、小学校受験をするのであれば、家庭の幸福度が上がる選択としてほしいと述べた。受験は必ずしもする必要はない。するとしても、家庭が疲弊したり、子どもを追い詰めたり、親が自分を切り詰めたりする必要はなく、幸福度が上がる選択にできるはずだという。

視聴者へのメッセージとして横山さんは、働きながら、初めての子どもを育てながら教育まで考えること自体がとても尊い時間だと語った。そして、小学校受験に興味がある人には、その時間にこそ価値を見いだして考え抜いてほしいと呼びかけた。