老化は止められるのか――吉森保が語るオートファジー、ルビコン、そして阿波晩茶

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概要

細胞生物学者の吉森保・大阪大学名誉教授は、著書『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』で、老化は生物にとって避けられない現象ではなく、ある程度は制御できると主張している。ReHacQの高橋弘樹との対談では、30年近く研究してきた「オートファジー」を中心に、老化の仕組み、老いない生き物、開発中の薬、食品や生活習慣で老化に対抗できる可能性について語った。吉森は研究の到達点を語る一方で、多くの点がまだ動物実験や小規模な試験の段階にあることも繰り返し付け加えている。

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細胞のメンテナンス装置としてのオートファジー

吉森は大阪大学を定年退職して名誉教授になったが、現在も特任教授として研究室を持っている。専門は細胞生物学で、約30年間オートファジーを研究してきた。オートファジーが老化と関係していたため、今は老化研究にも取り組んでいる。本人は、老化の専門家というよりオートファジーの専門家だと位置づけている。

説明は細胞から始まった。人間はおよそ37兆個の細胞でできており、細胞は生命の基本単位である。病気も老化も細胞のレベルで起きる。逆に言えば、人間が健康であるとは、細胞の一つひとつが元気だということだ。細胞の中には複雑なシステムがあり、そのメンテナンスを担う仕組みがオートファジーだという。

吉森によれば、オートファジーには大きく二つの役割がある。一つ目は中身の入れ替えだ。細胞の中身を少しずつ壊し、壊した分を別の仕組みが作り直す。吉森は自動車にたとえた。車は買って10年経てば中古車になるが、毎日部品を新品に交換していれば常に新車の状態を保てる。細胞はオートファジーでこの部品交換を日々行い、健康を維持している。

二つ目は有害物の除去である。細胞内に侵入した病原菌やウイルスを分解するほか、アルツハイマー病やパーキンソン病の原因となるタンパク質の塊も分解する。また、細胞の発電所にあたるミトコンドリアは時々壊れ、壊れたままだと危険なので、これも排除する。オートファジーは基本的に「壊す」仕組みだが、壊すことによって細胞を正常に保っている、というのが吉森の説明だ。

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老化の原因は一つではないが、オートファジーの低下はその一つ

高橋が「オートファジーがずっと機能し続ければ老化しないのか」と尋ねると、吉森は留保をつけた。老化は複雑な現象で、オートファジーだけで決まるわけではない。現在、老化には12の原因があるとされており、オートファジーの低下はその一つだという。

オートファジーが正常に働いていれば病気にもなりにくく、病原体にも勝てる。しかし年齢とともにオートファジーは低下する。吉森はオートファジーを、細胞の中にたくさん現れて中身を食べていくパックマンにたとえた。年を取るとパックマンの出来が悪くなり、数も減って分解が追いつかなくなる。これが老化の原因の一つになるという。

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老いない生き物:ハダカデバネズミと若返るクラゲ

吉森が「意外に近いうちに老いなくなる」と考える根拠の一つは、老いない生き物が実際にいることだ。最もよく研究されているのは、アフリカの土の中でトンネルを掘って暮らすハダカデバネズミである。

吉森によれば、医学的に見た老化の特徴の一つは、さまざまな病気にかかりやすくなることだ。人間なら60歳を超えるとがんの発症率が急上昇し、アルツハイマー病など高齢者がかかりやすい病気も多い。ところがハダカデバネズミは、一生を通じてがんの発症率がほぼゼロで、見た目もほとんど変わらない。寿命も、同じくらいの大きさのネズミが2〜3年なのに対して約30年に達し、ある日ぱたっと死ぬ。吉森はこれを「ピンピンコロリ」と表現した。高橋は「人間に置き換えると、若い頃の姿と健康を保ったまま300歳近くまで生き、最後の瞬間まで変わらないということか」と言い、吉森も「人間にそれが可能なら、そういうことになる」と応じた。

なぜハダカデバネズミが老いないのかは、まだよく分かっておらず、研究が進められている最中だ。吉森は自分の研究対象ではないと断ったうえで、知り合いの研究者である三浦先生から聞いた話として、老化細胞に関する発見を紹介した。

ここで吉森は「老化細胞」という言葉の誤解を解いた。細胞の老化は人間全体の老化とはまったく別の話で、むしろ逆に、細胞が「死ななくなる」ことを指す。細胞には寿命があり、ある程度経つと死んで新しい細胞と入れ替わる。皮膚の細胞なら数日で入れ替わる。ところが時々、死ななくなる細胞が現れる。吉森は誤解を避けるため、これを「ゾンビ細胞」と呼んでいる。ゾンビ細胞は周囲に物質を出して他の細胞もゾンビにしてしまうほか、慢性炎症の原因になる物質も出す。慢性炎症もまた老化の原因である。熱が出るような急性の炎症はすぐ分かってすぐ治るが、体の中でじわじわ続く炎症が老化を進めるという。

ハダカデバネズミはゾンビ細胞があまりできず、遺伝子レベルの違いがあることが分かってきた。人間がハダカデバネズミになるわけにはいかないが、仕組みが分かれば、その一部を応用して人間の老化もある程度は制御できるのではないか、と吉森は考えている。高橋が「遺伝子を少し変えればいいのでは」と言うと、吉森は、ほかに影響が出ないように変えるのが難しいと答えた。それでも理論的には可能だという立場だ。

もう一つの例が、ある年齢に達すると若返り始め、赤ん坊の状態に戻って次の生涯を繰り返すクラゲである。こちらも理由は分かっていない。吉森は、人間や身の回りの犬や猫がみな老化して死ぬので、老化は物理法則のように不可避だと思われがちだと指摘した。しかし、こうした生き物がいるということは、少なくとも生き物については必然ではないということだ。そのため生命科学者は、老化は理論的には制御可能だと考えている。吉森自身はオートファジーでそれを試みており、特殊な技術を使わなくてもある程度の若返りは可能だと考えている。

ここ10〜20年で生命科学が進み、老化細胞やオートファジーなど老化の仕組みが明らかになってきた。仕組みが分かれば手の打ちようがある。すぐにではなくても意外に近いうちに何とかできるのではないか、というのが本のタイトルに込めた意味だと吉森は説明した。

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AIが研究をどう変えているか

高橋がAIの影響を尋ねると、吉森はAIが遺伝子操作を直接行うわけではないと前置きしたうえで、今後さまざまな場面で使われるようになると述べた。現時点で吉森の分野に最も役立っているのは、AlphaFoldによるタンパク質の構造予測だ。

吉森は細胞の中を人間の社会にたとえた。人間社会で働いているのは人間だが、細胞の中で働いているのはタンパク質である。タンパク質は約10万種類あり、警察官や医師のようにそれぞれ「職業」を持っている。オートファジーを動かすタンパク質たちもいる。役割に応じて形が違うので、形が分かれば何をしているかが分かる。ところがタンパク質は細胞のさらに1000分の1から1万分の1という小ささで、顕微鏡で簡単に見ることはできない。見える顕微鏡も登場してきたが、形を調べるのは大変だった。遺伝子はタンパク質の設計図なので、遺伝子が分かればある程度は形を予測できる。その予測がAIのおかげで非常に正確になった。完全ではないため実験による証明は必要だが、大きな助けになっていると吉森は評価する。

薬の設計にもAIは使われている。研究のスピードについて高橋が「10倍くらいか」と尋ねると、吉森は自分は素人なので何とも言えないと断りつつ、10年かかっていたものが1年程度になるくらいの印象はあり、今後さらに加速するだろうと答えた。

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ルビコンの発見と、それを止める薬の開発

話はオートファジーの低下に戻った。吉森は、年齢とともにオートファジーが下がる原因を世界で初めて突き止めたという。原因は「ルビコン」というタンパク質だ。ルビコンはオートファジーのブレーキ役で、もともとは必要なものだったのかもしれないが、年を取ると異常に増えてしまう。それなら、ルビコンを止める薬を作ればよい。

吉森によると、ルビコンにくっついて働きを止める薬はすでに見つかっている。効果をさらに高めるには、ルビコンにぴったりはまる形にする必要がある。そこで東京大学の構造生物学者と共同で、ルビコンの形を正確にとらえ、そこにはまる薬を設計している。ルビコンの形はAlphaFoldで予測でき、薬の側の形をどうすればぴったりはまるかを探るのはAIにとって容易なことだという。

ただし実用化までの道のりは長い。現在は国から約15億円の支援を受け、動物実験を行う前臨床試験の段階にある。人での臨床試験に進むには100億〜200億円が必要になる。時間についても、AIや資金があっても法律や行政上の手続きは簡単に変えられないため、10〜20年はかかると吉森は見ている。68歳の吉森は「自分に間に合うかどうか分からない」と話し、それが薬以外の方法を探す動機の一つになったという。

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薬以外でオートファジーを上げる方法と阿波晩茶

吉森によれば、動物実験では薬以外の方法でもオートファジーを上げられることが分かってきている。カロリーを80%に制限する、有酸素運動をする、よく眠る、そしてオートファジーを上げる成分を含む食品をとる、といった方法だ。成分の例として最初に挙がったのはザクロに多く含まれるウロリチンで、サプリメントもあるという。

吉森は大学発のベンチャーを立ち上げ、日本各地で昔から体に良いとされてきた食べ物を約700種類集めた。細胞を使えば、ある物質がオートファジーを上げるかどうかを科学的に判定できる。調べた結果、徳島県の阿波晩茶が特に強い効果を示した。吉森自身もそれまで知らなかったという。

阿波晩茶は徳島県の山あいで1000年前から飲まれてきたとされ、体に良いと言われてはいたが、科学的な分析はあまり行われていなかった。普通のお茶もカテキンがオートファジーを少し上げるので悪くはないが、阿波晩茶はそれより効果が高かった。理由は製法にある。阿波晩茶は乳酸菌で発酵させる特殊なお茶なのだ。乳酸菌で発酵させるお茶は他の地方にも少ないながらあるが、効果があったのは徳島のその地域で作られたものだけだった。吉森は、乳酸菌の種類が違うためだと説明する。

お茶のままでは薄いため、ベンチャーでは2〜3リットル分のお茶を1粒に濃縮した錠剤を販売している。高橋はその場で購入を申し出た。阿波晩茶はカフェインが少なく、地元では「赤ちゃん茶」と呼ばれて赤ん坊にも飲ませるという。テレビの取材で100歳以上の人がいる地域として紹介されたこともあるが、特別に長寿かどうかの科学的な調査はまだ行われていない。吉森はそれを調べたら面白いと話した。徳島大学の研究者は以前から、血糖値の低下や花粉症などアレルギー症状への効果を示すデータを出していたが、メカニズムはよく分かっていなかった。今回、細胞レベルでオートファジーに効いていることが分かったのは大きいと吉森は見ている。

高橋は、冷やした緑茶や水出し緑茶が体に良いというスピリチュアル系の人の話を持ち出し、お湯出しと水出しで成分が変わるのかを尋ねた。吉森は、調べたことはないが変わる可能性はあると答えた。

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ラパマイシンとの比較と、有効成分

阿波晩茶の効果の強さについて、吉森は一つの実験を紹介した。これまで知られている中でオートファジーを最も強く上げるのは、医師の処方が必要な薬のラパマイシンである。実験動物の線虫は人間と同じく年を取ると動かなくなるが、阿波晩茶の濃縮エキスを与えるとまたよく動くようになった。ラパマイシンでも同様に動くようになるが、阿波晩茶エキスの方が効果が強かったという。

高橋が「それならラパマイシンを飲めばいいのでは」と言うと、吉森は副作用が強いと答えた。ラパマイシンはオートファジーを上げるだけでなく、タンパク質の合成を止めるなど他の作用も持つためだ。阿波晩茶については、今のところ副作用は見つかっていないが、絶対にないとは言えないと吉森は留保した。普通のお茶として長く飲まれてきたことが安心材料になると考えているという。

阿波晩茶にはさまざまな成分が混ざっており、どれが効いているかを研究している。有効成分はすでに見つかっているが、特許の関係でまだ公表できない。その成分だけを取り出せばさらに効果が上がる見込みで、実用化は薬よりずっと早いだろうと吉森は話した。

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20人の臨床試験と「5〜10歳分」の結果

吉森のグループは、阿波晩茶やウロリチンなどのサプリメントと生活習慣を組み合わせたプログラムを作り、人での小規模な臨床試験を行った。対象は50歳以上のボランティア約20人、期間は2ヶ月である。その結果、オートファジーが有意に上昇した。さらに、老化で低下する認知力、筋力、免疫力を測定したところ、大まかに言って5〜10歳分の若返りが見られたという。

吉森はこの結果を、オートファジーを上げれば若返り効果が期待できる根拠として示した。ただし、阿波晩茶だけでなく複数の要素を組み合わせた試験である。また、サプリメントは一般に薬ほど厳密な人での試験を経ないことが多いため、研究者として今後は100人、200人規模で調べたいと述べた。人工的に作る薬も天然の食品も、化合物という意味では同じであり、オートファジーを上げる作用が科学的に確かめられれば区別する必要はない、というのが吉森の考え方だ。

健康寿命の格差を避けたい

吉森は、薬以外の方法にこだわる理由として格差の問題も挙げた。老化は複雑な現象でオートファジーだけでは決まらないため、研究者たちはさまざまな方法を試している。究極の若返りは、山中伸弥のiPS細胞の原理を応用したリプログラミングのような、遺伝子を操作する方法になるかもしれない。ほかにもエクソソームや老化細胞をすべて殺す薬などが日米で研究されており、吉森はそうした研究も大事だと認める。

しかし、そうした方法が非常に高価になれば、一般の人は手が出せない。健康寿命に格差が生まれる社会になるのは残念だ、と吉森は言う。高度な方法もいずれは普及するかもしれないが、それまでのつなぎとしてでも、誰でもできる生活習慣や誰でも手に入るサプリメントで老化への対策をある程度実現したい。プログラムをあえて生活習慣とサプリメントの組み合わせにしているのはそのためだという。

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オートファジーに関わる食品

高橋の求めに応じて、吉森は阿波晩茶以外の食品も挙げた。納豆にはスペルミジンという成分が含まれ、よく研究されている。スペルミジンはもともと大豆に含まれるが、納豆では高濃度になる。おそらく発酵のためだろうと吉森は推測する。吉森自身は毎日ではなく、たまに食べる程度だという。チーズにもスペルミジンが含まれる。

ほかに、鮭やエビ・カニなどの甲殻類に含まれるアスタキサンチン、赤ワインに含まれるレスベラトロールも挙がった。レスベラトロールはブドウにも含まれるが、赤ワインの方が濃度が高いかもしれないという。本には醤油や味噌などの大豆製品、キノコも挙げられている。ただし吉森は、納豆が良いからと納豆ばかり食べれば栄養のバランスが崩れてかえって悪いと注意し、いろいろなものをまんべんなくとることを勧めた。

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食べ方:腹八分目とメリハリ

食事の量について、吉森はオートファジーの観点から説明した。オートファジーは一日の中で上がったり下がったりしている。アミノ酸を感知するとオートファジーは下がるため、食事で血中のアミノ酸濃度が一時的に上がると、オートファジーも下がる。アミノ酸そのものが悪いわけではないが、その状態がずっと続くのは良くない。間食をだらだら続けたり、ちょこちょこ食べたりするのは、オートファジーにとって好ましくない。断食までは必要ないが、食べるときは食べ、それ以外はあまり食べないメリハリがある方がいい、と吉森は話した。

腹八分目を勧めるのは、カロリーを80%に抑えると動物実験で寿命が延び、それはオートファジーが上がるためだという研究があるからだ。延びる幅は動物によって違うが、1.何倍という大きさだという。80%を計算するのは面倒なので「腹八分目」と言い換えている。重要なのはカロリーなので、カロリーの低い野菜でお腹を満たすのは構わない。

吉森は、昔から体に良いと言われてきたことばかりだと認めた。そのうえで、オートファジーが上がるという科学的な裏付けがあり、しかも測定できると分かれば、やる気も出るのではないかと述べた。

41:30

運動、睡眠、脂肪の多い食事

有酸素運動については、ネズミをベルトコンベヤーで走らせる実験で効果が分かっている段階で、人間がどの程度運動すればよいかはまだ分かっていない。20人の試験は50歳以上が対象だったため、激しい運動ではなく緩やかな運動で行った。

睡眠は7時間はとってほしいと吉森は言う。質も大事だ。オートファジーは体内時計(サーカディアンリズム)に従って上下しており、おそらく寝ている間が上がる時期にあたる。ただしオートファジーと睡眠の関係はまだそれほど分かっていない。吉森は睡眠研究者の柳沢正史と共同研究をしている。柳沢はノーベル賞を取るだろうと吉森は考えており、自身も推薦しているという。一方、吉森自身については、師匠の大隅良典がオートファジーの基本的な仕組みでノーベル賞を受賞しているため「ルビコンでは取れない」と笑った。ショートスリーパーを自称する人のほとんどは実際には寝られていない不眠症であり、睡眠不足は寿命を縮めることも分かっている。その原因の一つがオートファジーの低下かもしれない、と吉森は見ている。

脂肪の多い食事は避けた方がいい。脂質の多い食事をとり続けると脂肪肝になるが、その原因の一つが、肝臓でルビコンが増えてオートファジーが下がることだという。遺伝子操作でルビコンを持たないネズミを作ると、脂っこい食事を与えても脂肪肝にならない。人間で遺伝子操作は倫理的に行わないが、脂っこい食事を控えればルビコンは増えないと吉森は話した。

ルビコンをなくすことには副作用もある。精子を作るのに必要なセルトリ細胞でルビコンがなくなると、精子ができにくくなる。そのため人間にすぐ応用することはできない。吉森は、子作りを終えた後に対策するという考え方はありうるとしつつ、不妊になるわけではないとも補足し、注意が必要だと述べた。

48:15

冷水浴、寒冷、低酸素、人とのつながり

本で紹介されている冷水浴について、吉森はカナダのグループが人間で行った比較的確かな研究だと説明した。15度前後の水に毎日1時間浸かるという内容で、高橋は「絶対嫌だ」と反応した。ただ、この実験では何分以上で効果が出るかを試していないため、もっと短くても効果があるかもしれない。寒冷な環境や低酸素の環境でもオートファジーは上がるが、ずっとそういう場所にいると体に別の悪影響が出るため、吉森は勧めない。

人とのつながりが希薄だと寿命が縮むことは以前から知られており、オートファジーとの関連も指摘されている。ただしこれは研究が足りず断定はできない、可能性がある段階だと吉森は位置づけた。

50:24

百寿者の研究:遺伝は約25%

慶應義塾大学には100歳以上の人のサンプルを集めて研究している研究所があり、遺伝子や生活を詳しく調べている。そこでは長寿に対する遺伝の寄与はおよそ25%とされている。吉森はこれを大きいと見ているが、評価は人によるという。数字は今後変わる可能性もある。明らかに長寿の家系はあるが、裏返せば残りは食生活や生まれてからの暮らし方などの環境要因で決まる。そちらの方が大きいので、生活習慣が大事だと吉森は強調した。百寿者は基本的に炎症が少ないという。

52:10

慢性炎症、アレルギーと個人差

高橋は自分に慢性のアレルギー性鼻炎とアトピーがあると打ち明け、どうすればよいかと尋ねた。吉森も自身にアトピーがあったと話したが、専門外なので断定は避けた。

吉森によれば、アレルギーは自分を攻撃しすぎるような面があり、他の慢性炎症と似てはいるが同じではない。花粉症は季節性なので慢性炎症とは言えない。ルビコンが直接慢性炎症を起こすわけではないが、炎症は免疫細胞の働きで起き、免疫細胞が正常に働くにはオートファジーが必要だと分かっている。その意味でオートファジーは炎症に関わっている。さらに、ルビコンが増えるとゾンビ細胞が増え、オートファジーが活発だと細胞のゾンビ化を防げることも吉森らは実験で報告している。慢性炎症、老化細胞、オートファジーは互いに関係し合っているという。鼻炎は放置しない方がいいと思う、と吉森は答えた。

吉森はここで、人間に応用する際の難しさも説明した。動物実験では、比較できるようにあえて遺伝子が同じクローンのネズミを使う。だから効くときは一様に効く。しかし人間は一人ひとり遺伝的背景も育ってきた環境も違うので、効く人と効かない人が出てしまう。

56:22

NMN・サーチュインと、生殖をめぐる長寿の話

終盤、高橋はオートファジー以外の注目領域としてNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)を取り上げた。吉森の説明では、サーチュインというタンパク質が老化を抑える側にあり、遺伝子に傷が入ることで起きる老化を防ぐ働きをする。NADはサーチュインが働くのに必要な物質で、NMNはこの系に関わる。サーチュインはオートファジーとは直接関係しないという。

対談ではさらに、吉森が、細胞に侵入して病気を起こすA群連鎖球菌をオートファジーが殺していることを最初に発見したことにも触れた。続いて、精子を作れないオスは普通の個体より13%長生きするという話が出た。吉森によれば、生き物は生殖して子孫を残すと「用事が終わる」ような面があり、生殖細胞を除去すると長生きするという現象は多くの生き物に共通し、人間でも見られる。人間で実験は普通できないが、生殖細胞の除去についてだけは人間での例がある、と吉森が切り出したところで、字幕は途切れている。