ロシアの日本人記者拘束、エトロフへの中国代表団、スターリンク制限――日露関係とウクライナ支援をめぐる米露の思惑

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概要

2026年10月16日放送のBS日テレ「深層NEWS」は、二つの動きを取り上げた。一つはロシアで北海道新聞の日本人記者がスパイ容疑で拘束された事件で、もう一つはウクライナのエネルギー施設攻撃をめぐって米国とウクライナの溝が深まっている問題である。ゲストは防衛研究所研究幹事の兵頭慎治氏(ロシア政治・外交安全保障)と明海大学教授の小谷哲男氏(米国政治・外交安全保障)、コメンテーターは読売新聞編集委員の伊藤俊行氏。番組の問いは、ロシアがなぜ今このような手段で日本に圧力をかけるのか、そしてトランプ政権がウクライナ支援をどこまで政治的な道具として使っているのか、の二つである。

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1:05

北海道新聞記者の拘束とFSBの主張

番組の説明によると、ロシア連邦保安局(FSB)は13日、極東サハリン州で北海道新聞の日本人記者をスパイ容疑で拘束したと発表した。FSBが公開した映像には、記者が泊まっていたホテルに踏み込む場面や、記者のものとみられるパスポートやパソコンが映っていた。FSBは、記者が北方領土と千島列島からウクライナでの軍事作戦に動員された兵士などの情報を集めており、日本の情報機関の指示でロシアの安全保障を脅かそうとしたと主張している。北海道新聞は当日の朝刊に編集局長名の声明を載せ、政府の指示に基づいて取材や情報収集を行うことはないと反論した。

兵頭氏はまず、これまでの事案との違いを指摘した。ロシアでの外交官やメディア関係者の拘束は、短時間拘束されてもすぐ国外退去を求められて終わるパターンがほとんどだった。ロシアと接する専門家の間では、中国のような長期の邦人拘束はロシアではないだろうと考えられていた。兵頭氏は、今回は長期化が懸念され、その考えを改めざるを得ないと述べ、ロシアでも中国並みの邦人拘束が起きうることを残念に思うと語った。

小谷氏は、ロシアが日本の外交的な反応を見ていると分析した。高市政権はロシアとの関係改善に向けた動きを見せていたが、8月のプーチン大統領のエトロフ訪問を受けて制裁を強める動きも見せている。ロシアは、関係悪化を受けて日本がウクライナ支援を強めるのか、逆に関係改善のために支援から手を引くのかを見ているのだろう、というのが小谷氏の見方である。

4:16

取材がスパイ行為とされる危うさ

伊藤氏は、ロシア当局が根拠を示さずに取材活動を情報機関の指示によるスパイ行為と主張している点を問題にした。日本の報道機関は権力から独立しており、検閲もない。ロシアが報道を統制し検閲している自国と同じ感覚で日本のメディアを扱っているとすれば、それは国柄の違いであり、とても容認できないという。

伊藤氏によれば、記者は国内外を問わず情報を集めて発信する。人々の生活や命に関わる懸念がないようにするためであり、当局が隠している情報でも取材し、必要なら発信するのが記者の仕事である。それをスパイと決めつけられるのは非常に危うい。ただ、これが近年のロシアのやり方だということは分かってきているので、北海道新聞の記者も細心の注意を払って取材していたはずだと伊藤氏は述べた。何を根拠に拘束したのかが示されていない以上、ロシアの威圧や政治的圧力という印象を持たざるを得ないという。

5:58

作り込まれた拘束映像は誰に向けたものか

FSBは記者の部屋に突入し、床に引き倒して拘束し、連行する様子までカメラで撮影していた。兵頭氏は、4分弱の映像がかなり作り込まれていることから、政治的メッセージを伝える思惑があったとみる。根拠の一つは、FSBと書かれたジャンパーを着た人たちが記者を取り押さえている点だ。FSBはソ連時代のKGBの系譜を引く諜報機関であり、通常の活動でそうしたジャンパーを着るはずがない。兵頭氏は、FSBの存在と活動をアピールする狙いがあったと読む。

アピールの相手について、兵頭氏は日本への外交的メッセージに加えて国内向けの面もあると指摘した。FSBはヨーロッパ方面でもハイブリッド攻撃などで活動を活発化させているとみられ、ロシア国内でも外国人だけでなくロシア国民に対する取り締まりを強めている。したがって今回の事案はサハリンや日本に限った話ではなく、国内の愛国的なムードを高める狙いもあるのだろうという。

映像には、ロシアの一方的なスパイ主張を正当化する「絵作り」もあったと兵頭氏は見る。ロシア語の文書があたかも秘密情報として入手したもののように映され、さらに記者がそのままモスクワへ移送され、拘置所に連れて行かれる様子まで含まれていた。兵頭氏はこれを用意周到に準備された映像だと受け止めた。

9:08

なぜサハリンなのか

北海道新聞はモスクワとユジノサハリンスクに支局を置いている。兵頭氏は、サハリン州がロシアにとって二つの意味で敏感な地域だと説明した。第一に、ロシア側では北方領土をサハリン州が管轄しており、日露間の懸案に直結する。第二に、戦争の長期化のなかで、サハリン州は前線への兵士の動員と犠牲がロシアの地方の中でも比較的大きい場所だと言われている。兵頭氏は、そうした実態が国内外に知られることをロシアは望んでいなかったのではないかと推測した。ただし、記者が実際にそうした取材をしていたかは分からず、ロシアの一方的な主張を受け入れるわけにはいかないと断ったうえで、一般論として述べたものである。

北海道新聞が狙われた理由については、兵頭氏は、自身の知る限りユジノサハリンスクに日本人を常駐させていたのは北海道新聞だけであり、北海道新聞だから狙われたというより、サハリンで日本人の常駐記者を対象にした結果そうなったのではないかとみる。北方領土問題への関心が高い北海道の新聞として日露関係の取材に熱心だったとは思うが、それ以上に標的にされる理由は思いつかないという。

正規の記者登録をしたうえでの取材と、スパイ行為をロシアが意図的に混同したのかという問いには、兵頭氏はロシアではスパイ行為の定義が広がっていると答えた。戦争の長期化に伴い国内の言論統制と統治の強化が進み、ロシア人自身も反戦的・反政府的な声を上げれば拘束される危険がある。プーチン政権が置かれたそうした状況のなかで、この種の事案がさまざまな形で起きているという見立てである。

13:00

WSJ特派員事件との類似と長期化の懸念

番組は過去の記者拘束例として、2019年に極東ウラジオストクで共同通信の日本人記者がロシア軍の機密情報を入手しようとしたとして一時拘束された件と、2023年3月にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の特派員が米CIAの指示で情報収集していたとしてFSBに拘束された件を紹介した。WSJ特派員には懲役16年の判決が言い渡されたが、米露の身柄交換で釈放されている。

兵頭氏は、今回の拘束が長期化するとの見方が強まっているのは、WSJ事件との類似点が多いからだと説明した。地方でFSBにスパイ容疑で拘束され、裁判所と拘置所が同じ場所にあるモスクワのレフォルトボに移送され、2か月の勾留がすぐ決まる、という経過がここまで同じだという。インタファクス通信によれば、今回の記者もレフォルトボ拘置所に移送された模様だとされる。WSJの記者は懲役16年の判決を受け、拘束から1年半後に身柄交換で解放された。兵頭氏は、今回も同じような経過をたどることを懸念している。

小谷氏も、WSJの記者は勾留が何度も延長され、非公開の裁判で懲役16年となり、その後人質解放の一環で釈放されたと振り返り、これまでの流れを見る限り、有罪判決を前提に動いている可能性が高いと言わざるを得ないと述べた。

16:24

身柄交換という出口が日本にはない

日本はロシア側の誰かを拘束しているわけではなく、身柄交換で対応するのは難しいのではないかという問いに対し、小谷氏はWSJの記者も米露1対1では解放されなかった可能性が高いと指摘した。実際には米露だけでなく、ドイツ、ノルウェー、ベラルーシなど複数の国がそれぞれ拘束している人物を解放する大きなパッケージの中で解放された。最大の要素は、ドイツが元FSBの人物を拘束しており、プーチン大統領がその解放を強く求めていたことで、米国はこれをうまく利用したという。小谷氏は、日本がロシアのスパイを拘束しているとはおそらく考えにくく、同様の解決を目指すなら他国を巻き込んだパッケージが必要で、1対1の交換は難しいとの見方を示した。

伊藤氏もこれに同意し、日本単独で動いても出口はないだろうと述べた。そのうえで伊藤氏が問題視したのは、ロシアが日本を敵視しているというより軽視しているように見える点である。中国が日本を敵視した際には中国から日本への観光客が減ったが、ロシアからの観光客は増え続けており、昨年は倍になり、今年も8月までで前年比22%増えているという。一方で日本からはロシアへ行けない。ロシアから見れば日本は組みしやすく、敵視するまでもなく圧力をかけている可能性がある、というのが伊藤氏の見立てだ。だからこそ交換条件で日本が何かを譲ってしまうことは避けなければならず、同時に記者の安全も大事なので、各国を巻き込んだ対応を日本政府が考える場面だと述べた。

19:02

ロシア外務省声明と、制裁への「対抗」

ロシア外務省の報道官は13日、日本がロシアの安全保障を損なう目的で自国の記者に情報収集をさせようとするのは遺憾だと述べた。声明はさらに、日本の反ロシア政策による二国間協力の低下に加え、日本の再軍備化に対するモスクワの懸念に日本が耳を傾けようとしないことを踏まえ、今回の一件は日露関係をさらに悪化させる要因になると主張した。日本政府はこれに先立ち、制裁を逃れてロシア産原油を運ぶ「影の船団」への規制や、ロシアの軍事関係者ら9人・33団体の資産凍結を発表していた。

こうした日本の制裁への対抗として、これまでの短期拘束・国外退去から長期拘束へと一段引き上げたと見るべきかとの問いに、兵頭氏は、ロシアはそうとは言わないだろうが、政治的なニュアンスは出てしまっていると答えた。そのうえで、ロシア側の別の動きも想定されると述べた。日本人の入国禁止リストはこれまで何度か出ており、次のリストが出る可能性がある。また、ロシア国内の外国企業の資産をロシア政府が一時的に接収する動きがあり、15日付のプーチン大統領令でヨーロッパ企業について一部決定されている。日本企業や日系企業が次の対象になるのではないかという懸念もあり、日露関係がさらに悪化する可能性があるという。

兵頭氏はもう一点、ザハロワ報道官の「日本の再軍備化への懸念に耳を傾けようとしない」という表現は、中国がずっと使ってきたフレーズだと指摘した。プーチン大統領のエトロフ訪問以降に強まったロシアの対日強硬姿勢は、日本の動きだけに反応したものではなく、中国に寄り添い足並みをそろえながら日本に強硬な姿勢を示している側面がある、と留意を促した。

21:36

中国代表団のエトロフ訪問

記者拘束が発表されたのと同じ13日、中国の代表団が北方領土のエトロフ島を訪問したと発表された。代表団には中国・黒竜江省の政府関係者や企業経営者が参加し、ホテル事業や水産物の養殖など観光・インフラ整備に向けた投資候補地を視察した。茂木外務大臣は、北方領土があたかもロシア領であるかのように第三国が入域して活動することは受け入れられないとコメントしている。

兵頭氏は、背景にロシアの対日姿勢強化と中露連携があるとの見方が強まっていると述べた。これまでも中国系の民間企業が北方領土に入ってビジネスをしていることは確認されていたが、今回は地方政府関係者とはいえ代表団がエトロフを訪れた。兵頭氏は、北京とモスクワの間で了解がなければここまでの動きにはならないだろうとみて、プーチン大統領の訪問後に中国が政治的にエトロフへ足を踏み入れたことになると評価した。ロシアの中国依存が深まるなかで、日露関係に中国の影響力がどこまで広がるかが懸念されていたが、今回はその表れであり、今後この動きが強まることも懸念されるという。

一方、小谷氏はタイミングについて慎重だった。片方はロシアの情報機関、もう片方は中国の地方の経済関係の役人であり、同じ日に合わせるよう調整までしたのかは判断が難しいという。8月のプーチン大統領の訪問で外国からの投資を受け入れるというメッセージが出ており、その流れの中露協力がたまたま同じ日に重なったのではないか、というのが小谷氏の見方だ。ただ、結果として日本には二重の圧力になったと述べた。伊藤氏も、偶然だったとしても中露の連携ぶりがはからずも表に出たのであり、よほど用心しなければならないと述べた。

25:22

中露の間にくさびは打てるか

中露の連携を外交的に引き離すことは考えられないのかという問いに、兵頭氏は、これまでもうまくいかなかったうえ、戦争が続く限りロシアは中国の支援を必要とし、好むと好まざるとにかかわらず中国への依存を深めざるを得ないと答えた。そうなると力関係は中国が上になり、対日関係でもロシアが中国に引き込まれていく状況は、戦争が続く限り強まる可能性があるという。

小谷氏は、安倍政権もロシアとの関係を強化して中露協力が進みすぎないようにすることを目指したが、結果としてうまくいかなかったと振り返った。中露が本当の意味での同盟国になったとは思わないが、互いを必要とし、使えるパートナーだと考えていることは間違いなく、両者を離間させるのは現実的には難しいと述べた。

27:24

エネルギー施設攻撃をめぐる米ウ対立

後半はウクライナ情勢に移った。ロイター通信によると、13日夜から14日にかけてキーウや東部ハルキウなどがロシア軍の大規模攻撃を受けた。ゼレンスキー大統領は14日、弾道ミサイル39発と無人機120機以上が使われたと発表した。攻撃はエネルギー施設を標的とし、少なくとも60万人が停電の影響を受けたという。

これに先立つ11日、トランプ大統領はSNSで、ロシアとウクライナがエネルギー施設への攻撃停止で合意したと発表していたが、その後も大規模攻撃が行われた形である。ゼレンスキー氏は、ウクライナがロシアの製油所への攻撃を控えていたにもかかわらず、同盟国から弾道ミサイル攻撃の事前警告がなかったのは不公平だと不満を示した。この同盟国は米国を念頭に置いたものとみられる。米メディアは12日、ヨーロッパ当局者の話として、トランプ政権がウクライナと欧州の同盟国に対し、ロシアのエネルギー施設への攻撃を続ければ情報共有や米国製兵器の供給停止もあり得ると警告したと報じた。トランプ氏は13日、情報共有を停止したのかと問われ、ウクライナを支援し情報も共有している、戦争を終わらせるためにウクライナともロシアとも協力していると答えている。

トランプ氏は、ウクライナによるロシアの製油所への攻撃が世界的なディーゼル燃料価格の高騰を招いているとして攻撃停止を強く求めており、ゼレンスキー氏には何をしてもいいが製油所だけは攻撃するなと言った、標的はいくらでもあるのに攻撃した、米国の農家や牧場主に迷惑をかけている、と発言した。9日のプーチン大統領との電話会談後には、ロシアが30万トンを超えるディーゼル燃料を速やかに米国や国際市場に供給することで合意したと発表した。ゼレンスキー氏はこの合意を戦争を長引かせるための投資だと反発し、強いパートナーによる弱腰な決断だと批判した。番組冒頭では、ウクライナ軍がトランプ大統領の要請で停止していたロシアのエネルギー施設への攻撃を再開し、製油所で石油タンクが炎上する映像も紹介された。

32:38

早期警戒情報は止められたのか

トランプ氏の「情報を共有している」という主張と、ゼレンスキー氏の「事前警告がなかった」という主張は食い違っている。小谷氏は、実際のところはまだよく分からないとしたうえで、米国では法律上、情報共有を止める場合は議会への報告が義務付けられており、少なくとも議会にそうした報告はないので、政権としては止めていないという立場だと説明した。ただし、ウクライナが言っているのは事前通告がなかったということである。情報共有の枠組み自体は残っているが、今回は何らかの理由で事前通告をしなかったという可能性があり、そうであれば双方の主張は両立する。

小谷氏は、昨年2月28日にホワイトハウスでトランプ大統領とゼレンスキー大統領が口論した後、米国が実際に情報共有を一度止めた前例があると指摘した。そのためウクライナ側に相当な疑心暗鬼が広がっているのは間違いなく、大統領の指示でなくとも誰かが大統領を忖度し、一時的にウクライナに圧力をかけるためにやった可能性は否定できないという。技術的トラブルというより政治性があると見るべきかとの問いには、状況証拠からはその可能性があると答えた。トランプ氏がウクライナに、製油所攻撃をやるなら情報共有を止めざるを得ないと言ったという報道もあり、証拠があるわけではないが、何らかの意図が働いた可能性は否定できないとした。

兵頭氏は、この早期警戒情報がウクライナにとって極めて重要だと強調した。米国の弾道ミサイル早期警戒システムはロシアから発射されたミサイルの熱を探知し、着弾地点を予測する。事前に情報が提供されれば、ウクライナは迎撃の準備と効果的な態勢を早く整えられる。これが滞ればウクライナの迎撃態勢は大きく低下する。さらに、パトリオットの迎撃ミサイルがかなり少なくなっており、一部では10発未満になっているのではないかとの指摘も出始めている。数が限られるなかでいつ使うかは重要な判断であり、そこにも影響が出るという。しかも弾道ミサイルの早期警戒情報を出せるのは米国だけで、米国から遮断されればヨーロッパなどが代替することはできない。兵頭氏は、ウクライナはこの種の情報を米国に完全に握られている状況にあると述べた。

キャスターが、侵攻開始から4年7か月が経っても米国の早期警戒情報なしにはミサイルを迎撃できない、つまりウクライナの急所なのかと問うと、兵頭氏は、ロシアのミサイルと長距離ドローンによる複合的な攻撃が続き、防空態勢もぎりぎりのところにあるなかで、米国の情報提供がどうなるかが、空からの攻撃に最後に耐えられるかどうかに大きな影響を与えているとの見方を示した。

37:50

スターリンクとスターシールドへの制限

さらに、ウクライナのベスクレストノフ大統領顧問は14日、スペースXがウクライナに提供している衛星通信サービスに制限が設けられたとSNSに投稿した。事前の通告はなく複数の作戦に支障が出たとし、無人機を時速160キロ以上で移動させると通信が遮断される不具合が報告されているという。ウクライナ軍はスターリンクの軍用版であるスターシールドを使って無人機を操縦している。ロイター通信は15日、米政府当局者らの話として、スターシールドの利用を制限する命令がホワイトハウス内部から出されたと報じた。マスク氏も14日、スターリンクの軍用版の速度や利用制限は最終的に米国の大統領が決定するとSNSに投稿し、米政府の関与を示唆した。ゼレンスキー氏は、スターリンクや情報共有をめぐって問題が生じているのは残念だ、我々は米国との協力関係を頼りにしていると述べている。

キャスターは、今年2月にウクライナでアゾフ第1軍団の兵站拠点を取材した際、倉庫にスターリンクなどの最新の通信機器が多くあり、兵士も東部の戦線で極めて重要な機材だと話していたことを紹介した。

小谷氏は二つのサービスの違いを説明した。スターリンクはウクライナがスペースXと直接契約しているもので、偵察、早期警戒、迎撃といった防御的な作戦に使われる。一方スターシールドは米軍がスペースXと契約し、それをウクライナに供与している形で、攻撃用のミサイルやドローンにはこちらを使うことになっている。攻撃は民間企業がやることではないというマスク氏の持論もあって、こうした使い分けになっているという。今回速度制限がかかったのはスターシールドの方とみられ、小谷氏は、攻撃的な作戦が一時的にできなかった可能性が非常に高いと述べた。通信障害が起きた時期、ウクライナはロシアの製油施設への長距離攻撃を控えていたので、それへの影響はおそらくなかったが、前線での中距離の攻撃には一定程度影響があったと考えられるという。

これがホワイトハウスからのメッセージなら、ウクライナに「いい加減にしろ」と言いたかったのかという問いに、小谷氏は、スターシールドはロシアの奥にある製油施設を攻撃するためにウクライナが使ってきたものであり、これを止めれば攻撃は物理的にできなくなると答えた。トランプ政権は製油施設への攻撃をやめろと言っているが、そのための手段を断つことでさらに警告し、圧力をかけた可能性があるという。誰の命令かについては、正直分からないとしたうえで、技術的な問題も絡むので大統領が直接判断したとは思えず、国防総省が誰かから指示を受けたのだろうと推測した。分かっている範囲では、ウクライナに製油所攻撃をやめろと言ってきたのはトランプ大統領とバンス副大統領であり、この二人の周辺から国防総省に何らかの指示が出た可能性は考えておく必要があるという。

42:13

ディーゼル価格をめぐるトランプ氏の「ナラティブ」

キャスターは、ディーゼル燃料価格の上昇は中東情勢、つまりホルムズ海峡の封鎖が原因だというのが世界のコンセンサスではないかと問いかけた。小谷氏は、トランプ大統領にとって、自らが始めたイラン戦争でガソリン、特にディーゼルの価格が上がっていることは、中間選挙を目前にして到底認められないのだと説明した。9月に入ってホルムズ海峡を通るタンカーの数や原油の量は確かに増え、戦前の8割近くまで回復した日もある。トランプ氏からすれば、ホルムズ海峡はもう通れていて問題はない、それでもディーゼル価格が上がるのはウクライナがロシアの製油施設を攻撃しているからだ、という理屈になる。今月初めのSNS投稿がまさにその内容であり、中間選挙での有権者へのアピールとして、悪いのはウクライナだと盛んに訴えているのだと小谷氏は述べた。

実際にウクライナの攻撃が価格上昇の原因なのかという問いには、小谷氏は、一般的な見方はホルムズ海峡と中東情勢が前提にあるというもので、ウクライナの攻撃が主な要因とはされていないと答えた。ただ、ホワイトハウスとトランプ政権の中ではすでにそうしたナラティブが出来上がっているという。それを打ち破って事実を進言できる人はいないのかとの問いには、やった瞬間に首が飛ぶので誰もやらない、今の政権はトランプ大統領に忠誠を誓う人だけで固められており、本当のことが伝わりにくくなっていると述べた。

伊藤氏は、仮にウクライナが攻撃をやめたとして中間選挙までに価格にどれだけ効果があるのか、また中間選挙が終われば政策は転換されるのか、と疑問を投げかけた。小谷氏は、攻撃をやめても2〜3週間で価格が劇的に下がることは考えにくく、トランプ氏がロシアと結んだディーゼル供給の合意も価格を下げるほどの量ではないので、実際の影響は大きくないだろうが、アピールにはなると答えた。キャスターは、供給量は30万トンの後、11月に50万トン、12月に100万トンとされるが、米国で消費されるディーゼル燃料の1日分にしかならないとも言われていると補足した。

46:12

トランプ氏とゼレンスキー氏の関係悪化

トランプ大統領は15日、米ニュースマックスのインタビューで、ウクライナのエネルギー施設攻撃再開を「恥さらし」だと述べた。小谷氏は、何度攻撃停止を申し入れても聞き入れられなかったことにトランプ氏は非常に怒っていると分析した。関係は昨年2月末の口論の時に戻った、あるいはそれより悪くなっている可能性が高く、ゼレンスキー氏もやや感情的にトランプ氏を批判する発言をし始めている。中間選挙の有無にかかわらず、二人の関係が修復される可能性は高くないと言われているという。プーチン大統領との電話会談での働きかけが効いたのかとの問いには、それも一部あったかもしれないが、トランプ氏からすればこれまでさんざん支援してきたのに中間選挙を前にした自分の要請を受け入れなかったことが許せないのだろうと答えた。

キャスターは、早期警戒情報やスターシールドの扱いを見ると、米国の支援は侵略への反対や人道・防衛支援ではなく、米国の外交方針に従わせるための政治的なレバレッジとして扱われているのではないかと問うた。兵頭氏は、米国というよりトランプ大統領の、と言うべきかもしれないとしたうえで、米ウ関係はこれまでも行ったり来たりしてきたと述べた。プーチン大統領にとって今の関係悪化は歓迎すべきものであり、トランプ氏をうまく抱き込みながら、次の中国でのAPEC首脳会議の場で米露首脳会談を行いたいという期待を示しているのだろうという。

兵頭氏はまた、マスク氏が14日のX投稿で、スターシールドの速度制限は自分の決定ではなく米軍、最終的には米大統領の決定だと述べたことに加え、トランプ氏のゼレンスキー氏への姿勢悪化を踏まえてか、ゼレンスキー氏に退陣を呼びかけるような内容も投稿していると紹介した。スターシールドの運用を含めて米ウ関係がどうなるか、それが今後の停戦交渉や選挙にどう影響するかに注目する必要があると述べた。

49:40

残された課題

最後に、ウクライナの軍事行動が米国の意図に縛られる構造的な弱点を、ウクライナとヨーロッパがどう補えるかを問われた小谷氏は、残念ながら早期警戒情報やスターシールドに代わる技術は今のヨーロッパには出せないと答えた。米国しか出せないという強みがある以上、米国は今後ウクライナとヨーロッパにさらに圧力をかけてくると考えられ、その関係をどう修復するかを考えなければならないという。

伊藤氏は日露関係について、邦人拘束への日本の対応は難しいと述べた。ロシアは中国と一部連動しているため、日本の態度だけでロシアの姿勢を変えさせられるのかという問題がある。加えて、トランプ大統領のロシア寄りの姿勢が出てきたことで、本来なら足並みをそろえるべき同盟国の日米の間も微妙になってきたと指摘して、番組の議論は締めくくられた。