不妊治療の3つのステップと費用、続けるうえでのつらさ:産婦人科医・岡田有香医師に聞く

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概要

ライフスタイルメディア「lumily」の対談後編である。前編では妊娠と卵子凍結、年齢ごとのデータを扱った。後編は「不妊治療のリアル」として、治療の種類、保険適用後の費用と助成、仕事との両立、心の負担、夫婦関係を取り上げる。ゲストはグレイス杉山クリニックSHIBUYA院長で産婦人科医の岡田有香医師。聞き手自身も卵子凍結や受精卵凍結、採卵周期を全額自費で経験しており、その体験談が医師の説明と並行して語られる。

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不妊治療は大きく3つのステップ

不妊治療には多くの種類があると思われがちだが、岡田医師によれば、大きく分けるとステップは3つしかない。

1つ目は、自然妊娠を目指すタイミング法である。クリニックが排卵日を予測し、妊娠しやすい日に合わせて性交を持ってもらう。岡田医師は、タイミング法を6回試すと9割の人が妊娠すると言われていると説明する。そのため、クリニックで行う場合も期間はおおむね半年ほどになる。

2つ目は人工授精である。「人工」という言葉から大がかりな印象を持たれやすいが、実際には精子をサポートしているだけだと岡田医師は言う。元気な精子を集めて子宮の中に入れ、卵子にたどり着きやすくする。排卵、受精、子宮内への着床といった残りの過程は、すべて本人の力で進むイメージだ。人工授精も3〜4カ月行うと9割が妊娠すると言われており、この段階の期間も3〜4カ月が目安になる。

3つ目が、いわゆる体外受精である。前の2つで妊娠しなかった場合や、検査の段階で問題が見つかり、早めに最終ステップへ進んだほうがよいと判断された場合に選ばれる。ここから治療の内容が大きく変わる。卵巣からできるだけ多くの卵子を採り、体の外で精子と受精させ、良い受精卵になったものを子宮に戻す。卵巣で多くの卵子を育てるために飲み薬や注射を使い、採卵では腟の側から卵巣に向けて細い針を刺す。このため体への負担が増えると岡田医師は説明する。

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必ずしも順番どおりには進まない

この3段階は順にステップアップするのが基本だが、必ずしもそうとは限らない。例として岡田医師は男性側に原因がある場合を挙げた。最も多いのは精子の運動率が低いケースで、その場合は最初から人工授精を選ぶこともある。卵子が非常に少ない、あるいは精子が非常に少ないといった場合は、できるだけ早く妊娠にたどり着けるよう、最初から体外受精を行うこともある。

一方で、検査結果から推奨する方法を伝えても、夫婦やカップルが「まだその段階はやりたくない」と考えるなら、タイミング法から始めることもできる。どこから始めるかは年齢と検査結果によって変わり、最終的には夫婦と相談しながら決めると岡田医師は話す。

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体外受精(ふりかけ法)と顕微授精の違い

よく耳にする「体外受精」「顕微授精」「ふりかけ法」の関係についても説明があった。岡田医師によれば、広い意味での体外受精が、狭い意味での体外受精と顕微授精に分かれる。

狭い意味の体外受精は「ふりかけ法」とも呼ばれ、採った卵子と持ってきてもらった精子を同じシャーレに入れ、自然に受精するのを待つ方法である。体内では卵管で卵子と精子が受精するが、それに近い環境の培養器にシャーレを入れておく。聞き手が「本来体の中で起こることがシャーレの中で起こっているイメージか」と確かめると、岡田医師はそのとおりだと答えた。

顕微授精では、卵子や精子を扱う専門家である培養士が、1個の卵子に1個の精子を注入する。自然な受精では受精率が良くない人や、1個の卵子に複数の精子が入ってしまう人がいる。複数の精子が入ると、受精しても赤ちゃんになる卵にならない。そこで1個の卵子に1個の精子が確実に入るように顕微授精を行い、良い受精卵をできるだけ多く作る。

どちらを選ぶかは、基本的には精子の状態による。体外受精が可能な基準があり、精液検査の結果が良ければ体外受精、良くなければ顕微授精を行う。体外受精を一度行ってうまく受精しなかった人には、次から最初に顕微授精を勧めることもある。年齢も関係する。年齢が上がると、精子が1個入った後に卵子が「壁を閉じる」力が弱くなり、多くの精子が入りやすくなる。これを防ぐため、40代以上では顕微授精を選ぶことが多いという。

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「半分ずつ」という選択と、顕微授精のリスク

聞き手は32歳のとき、採れた卵子を半分ずつ体外受精と顕微授精に分けたと振り返った。医師から長い説明を受けたことを覚えているという。岡田医師によれば、1回で採れる卵子がある程度多く、どちらが良いか分からないが1回で終わらせたい場合、特に受精卵凍結をする場合には、半々にすることがある。若くて多くの卵子が採れたことに加え、すべてを体外受精にすると万が一受精率が悪かったときに良い卵が一つもできないおそれがある。そのため半分ずつという選択肢になったのだろうと岡田医師は推測した。

顕微授精の技術も進歩しており、以前は卵子に針を刺していたが、現在は針を刺さずに精子を注入できるようになってきていると岡田医師は話す。リスクについて聞かれると、男性側に不妊の要因がある場合に顕微授精を行うと、生まれてくる子が男の子であれば、その不妊の要素が引き継がれる可能性があると言われていると答えた。

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不妊に悩むカップルの数と、受診の目安

不妊に悩むカップルは4組に1組と言われ、実際に不妊治療に来ているカップルは5組に1組と言われているという。岡田医師は、都内での体感はそれより少し多く、自然妊娠を試している段階まで含めればさらに多いのではないかと述べた。

受診の目安も示された。自然な妊娠を目指す場合、20代から30代前半なら1年ほどは自分たちで試してよい。30代後半に入ったら半年ほどでクリニックを受診するのがよい。40代からの妊活であれば、できれば始める段階からクリニックに相談しながら進めると、スムーズに妊娠にたどり着けるだろうという。聞き手はこれを「20代なら1年、30代なら半年、40代ならすぐ」と整理した。

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仕事との両立と、離職率28%

仕事との両立について、岡田医師は、不妊治療に伴って離職する人が以前のデータで28%ほどいると紹介した。岡田医師自身もこの点で悩んだことがあるという。離職して治療一本に絞った結果、最終的に子どもを持つのが難しかったとき、すぐに戻れる環境であればよい。しかし、しばらく離れたために仕事に戻れないという事態はできれば避けてほしいと話す。離職せずに治療を続けられる環境づくりを、職場だけでなくクリニック側としても支えたいという。

両立が難しい理由として、岡田医師はゴールが見えないことを挙げた。治療のための休暇制度があっても、いつまで続くのか本人にも周囲にも分からず、周囲に伝えにくい。周囲も仕事をどう調整すればよいのか分からなくなる。最終的にそこで調整が難しくなるケースが最も多いのではないかという。体外受精の段階になると負担が増すため、それより前の段階で妊娠にたどり着いてほしいという気持ちが個人的に強いとも話した。

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保険適用後の自己負担額

2022年から、不妊治療は最終段階の体外受精まで保険適用になった。岡田医師が示した自己負担額の目安は次のとおりである。

  • タイミング法:月1万円に届くかどうか
  • 人工授精:月2万円に届くかどうか
  • 体外受精(採卵まで):1回平均で約15万円。注射代、診察費、採卵の処置代などがかかる
  • 胚移植:良い受精卵を子宮に戻す際に5万〜10万円程度

合計すると1回で50万円ほどになり、こうした治療を3〜4回行えば50万〜80万円ほどかかるイメージだという。これは保険適用後の金額で、保険が適用されなければ約3倍になると岡田医師は話す。

保険適用には年齢と回数の制限がある。39歳までに体外受精を始めれば6回まで、40歳から始める場合は3回まで適用され、43歳からは適用されない。

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東京都の新しい補助

さらに岡田医師は、東京都で今年(2026年)4月1日から、保険診療の自己負担分に対する補助が始まったと紹介した。保険で3割負担となった採卵などの1回の費用に対して、15万円の補助が出る。回数制限と年齢の区切りは保険適用と同じだという。

30代前半から治療を始めた人は、胚移植3〜4回で妊娠するのが最も平均的だと岡田医師は説明する。これまでは1回あたり約15万円が3〜4回分かかっていたが、東京都の補助は6回まで使えるため、利用すれば総額5万円や10万円程度で済むイメージだという。申請は自分で行う必要があり、東京都のホームページで確認してほしいと呼びかけた。

聞き手は34歳のとき、受精卵を使った移植について「3回ほど行えば7〜8割が妊娠する」と説明されたことを覚えていた。当時は保険適用がなく、全額自費で非常に高額だったという。岡田医師は、現在なら同じ条件でほとんど費用がかからないだろうと応じた。

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最もつらいのは心の負担

日々患者と向き合うなかで最もつらそうに見えるのは何かと問われ、岡田医師は精神的な部分を挙げた。妊娠すれば嬉しいが、叶わなければ「今回もだめだった」という浮き沈みがある。1〜2回でも負担はあるが、3回目くらいになると気持ちが落ち込む人が多いという。

学会もこれが大きな負担になっていると認識しており、不妊治療を経験したピアサポーターや、医療職として専門資格を持つ不妊カウンセラーを増やそうとしている。岡田医師自身も心理面をサポートする資格を取得したと話し、医療職がより専門的に支援できる体制を並行して広げているという。

専門職に相談する意味について、岡田医師はこう説明する。パートナーに支えを求めると、かえって関係が悪化することがある。友人に相談しようにも、相手が経験者かどうか、子どもがいるかどうかによって、逆に精神的につらくなる場合もある。相談できることとできないことが出てくる。一方、専門職は「相談してよい人」なので、すべて話してよいと思えるだけでも気持ちが少し変わるという。

気軽な窓口としてはピアサポーターがあり、医療職による支援は不妊カウンセラーが担う。東京都にもピアサポーターの窓口があり、「不妊 悩んだら 東京」などと調べると無料の相談窓口や電話相談が見つかると岡田医師は紹介した。周りに何も言えずつらいなら、まずは電話を第一歩にしてほしいという。ピアサポートは東京都以外にも広がってきているので、自分の自治体でも調べてほしいと付け加えた。

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相談で最も多いのは「終わりが見えない」こと

相談で最も多い悩みは、お金ではなく終わりが見えないことだと岡田医師は言う。妊娠すれば治療は終わるが、それが次回なのか5回後なのかは誰にも分からず、医師にも正直分からない。その中で進み続けることが最も負担になるという。ゴールが明確なら頑張れる人でも、ゴールがない状態では「これをいつまで続けるのか」という不安が大きくなる。

岡田医師は、仕事を頑張ってきた人ほどこのギャップが大きいと見る。そうした人は、目標を立てて計画し、やり遂げて次のステップへ進むことを繰り返してきた。不妊治療は、試してはうまくいかないことを繰り返し、いつ着地するか誰にも分からない、まったく違う世界になる。医師としても次こそ妊娠してほしいと思うが、確率の話になってしまい、次で必ず妊娠するとは保証できない。

それでも、妊娠にたどり着いた人が不妊治療のクリニックを「卒業」し、分娩する病院へ移っていくのを見ると、一人ひとりについて本当に良かったと思う。それがあるからこの仕事を続けられていると岡田医師は話した。

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夫婦の「温度差」と不妊治療離婚

夫婦関係への影響について、岡田医師は、次第に二人の温度感が変わってくることがあると話す。最初は二人とも子どもを持ちたい気持ちが強い。しかし2年ほど経つと、女性が頑張り続ける一方で、男性が「そこまでやるのか」と疑問を持ち始めたり、女性にそこまで負担をかけてまで妊娠させるのはかわいそうだと感じたりすることがある。足並みがそろわなくなると、また誰にも相談できない状況になり、離婚につながることもあるという。

いわゆる不妊治療離婚は、以前は10%ほどと言われていたが、現在は20%ほどにまで増えている印象だと岡田医師は述べた。最終的な目標は二人の子どもを持つことなので、足並みをそろえて進められるよう、クリニックも支援すべきだと考えている。

うまくいっている夫婦について聞かれると、男性からの前向きな声かけに支えられてやってこられたという人が多いと答えた。体外受精では女性は月に4回ほど通院する必要があるが、男性が来る必要があるのは1回で済むこともあり、負担は女性に偏りやすい。その分を男性が声かけで補ったり、夫婦で一緒に来院して負担を分かち合ったりしているケースがあるという。

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聞き手が振り返る採卵周期の大変さ

話を聞くうちに、聞き手は自身の経験を思い出した。妊娠中も大変だったが、個人的に一番大変だったのは採卵周期だったという。岡田医師によれば、注射を使わない自然周期での採卵もあるが、卵子凍結や自然周期でない採卵ではホルモン注射を打つ。

聞き手にとって大変だったのは、注射の痛みに加えて、打つ時間が決まっていることだった。仕事中でも打たなければならない。飲み薬も1日3回あり、昼の会議を抜けて飲んでいたという。岡田医師によれば、方法はこの3年ほどでも変わってきているが、現在も1日1〜2回、多くは朝晩2回の飲み薬があるという。

移植の周期で使う貼り薬などについても、現在は使わない方法が主流になってきていると岡田医師は話す。聞き手は移植周期のたびにテープを4枚ほど貼り、1カ月ほど続けたため跡が残ったという。薬を持ち歩き、アラームをかけ、それを3週間ほど続けた。毎回の採血もつらく、ふらふらの状態で診察を受けていたと振り返る。薬の影響でホルモンバランスが崩れ、怒りっぽくなったり、理由もなく涙が出たりしたという。岡田医師は、薬で女性ホルモンを補充しているので変化は起こりうるし、同じことを訴える人もいると応じた。

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知識があれば計画は違ったか

聞き手は、当時は仕事に一生懸命で、ここまでの知識は持っていなかったと話す。最近は体験談や卵子凍結の情報を含め、SNSで手軽に知識を得られ、医師の話を聞く機会もある。20歳の頃にこの知識があれば、今のスケジュールにはしていなかっただろうという。30歳くらいで考えていたかもしれず、5年は早かったと思うと振り返り、「知っていたら確実に違った」と述べた。

岡田医師は、できるだけ不妊治療を経ずに、あるいは少ない回数で妊娠にたどり着いてほしいと話す。支援が必要な人には最大限の支援をし、最短で妊娠にたどり着けるようにしているという。

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働く女性へ:ライフプランから逆算する

最後に、働く女性に早めに伝えたいことを問われた岡田医師は、ライフプランから考えることを勧めた。産婦人科医も、30代後半で簡単に妊娠・出産できるならその時期を選ぶかもしれない。しかし不妊治療を頑張る人を間近で見ているので、子どもは1人、あるいは2人と決めているなら、特に2人を考える場合は1人目を早めに考えてほしい。そのうえで、2人目をどうするかを遅くなりすぎないうちに考えるとスムーズだという。

すでに30代後半で「ここからどうしよう」という人に対しては、30代のうちに妊活を始めれば、体外受精も含めて7〜8割は出産までたどり着けると岡田医師は述べた。2割しか望めないという世界ではないので、そこからいかに早く出産を考え始めるかが大事だという。まずは最終的に何人くらい子どもが欲しいのかを、単純なところから考え始めてほしいと締めくくった。

聞き手は、子どもを持つか持たないかを含め、自分の人生をどうしたいかと向き合うきっかけになればと話した。いま悩んでいる人には、まず夫婦間で話し合い、方向性をそろえるところから始めてほしいと述べて、対談を終えた。