『機動戦士ガンダム』第27話「女スパイ潜入!」を読む:カイ・シデンとミハルの物語として

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概要

岡田斗司夫のガンダム講座の第77回と第78回をまとめた回で、テレビシリーズ第27話「女スパイ潜入!」を扱う。岡田は、第26話「復活のシャア」、第27話、第28話「大西洋、血に染めて」の3本をひとつながりの物語と見ている。そこで描かれるのは、カイ・シデンとミハルという2人である。第26話が2人の出会いなら、第27話は赤の他人だった2人が互いを深く知る話だと岡田は位置づける。三部作の2本目は面白いに決まっている、とも言う。

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岡田の整理では、カイは自分の中の違和感を大事にし、自分の考え方を守るためにホワイトベースを捨てる。そして、幼い弟と妹を食べさせるためにジオンのスパイという汚い仕事をしているミハルを見て、自分自身のあり方を問い直すことになる。一方のミハルは、自分と弟妹以外をすべて敵と見なさなければ毎日を生きていけない。そのミハルが、利用するために家へ招き入れたはずのカイから、自分の立場を見抜かれたうえで親切にされていたと知る。今回の講座は、このドラマ部分を重点的に解説している。戦闘パートの話は最後に追加で語られる。

3:17

アバンタイトル:ノリノリのアムロと、廊下で壁を叩くカイ

第27話は、タイトルが出る前から話が始まる。冒頭はアムロのプレゼンだ。レビル将軍から与えられ、マチルダが懸命に運んできた新兵器Gメカの運用法を、アムロが説明している。Gブルの状態ではガンダムを内部に収容できるが、盾が両側に付く。ガンダム単体で出撃するときには盾が1枚余るので、盾2枚を重ねるジョイントの開発と補給部品が必要になる、といった内容である。

岡田は、このときのアムロが「かなりノリノリ」である理由に注目する。アムロが広げている資料には、マチルダとの記念写真が貼ってある。この写真があるから、アムロは「マチルダさんが僕に届けてくれた。その思いを僕が受け継いでいる」と思える。だから上機嫌で、これからの戦闘について熱心にプレゼンしている、と岡田は読む。後ろのパイプ椅子にはレビル将軍まで座っている。

その場でカイは笑いながら「ちょっとトイレに行かせて」と言い、中座する。ところが廊下に出た瞬間、壁をドンと叩き「冗談じゃねえよ」と吐き捨てる。トイレには行かず、壁にもたれて、聞こえてくるアムロの声をぼんやり聞く。そして「みんな一生この船にいるつもりらしいや」とつぶやいたところでタイトルが入る。

岡田によれば、冒頭でアムロのプレゼンを見せる狙いは、カイとアムロの対比にある。以前は戦闘を嫌がっていたのはアムロのほうで、アムロがホワイトベースから逃げ出したときには、カイは見つかったら死刑だと言うほど怒っていた。カイの本音の部分をアムロが代わりに口にしてくれていたから、カイは「そんなこと言ってられないだろう」と言えたのだ、と岡田は説明する。ところが今、そのアムロは誰よりも積極的に戦い方をプレゼンしている。カイはもう同じ言い方ができず、居心地がどんどん悪くなっている。

さらに岡田は、カイが前回のゴッグ上陸の不安を引きずっていると指摘する。アムロがゴッグに勝てずホワイトベースに逃げたと思い込み、ガンダムでも勝てないのかという絶望の中にいる。オデッサ以来のアムロへの劣等感もある。前回の冒頭では、休暇を楽しみにしていたカイに対してアムロが「僕たちもこれで軍人ってことになっちゃうんですよ」と返し、カイは落ち込んでいた。アムロにはマチルダという戦う動機があるが、カイにはすがれるものが何もない。それを見せてからタイトルを出すことで、今回はカイが主役だと示している、と岡田は言う。アムロの心理はほとんど描かれない。

8:11

艦を降りるカイと、アムロ・ブライトとの三者の会話

レビル将軍がホワイトベースに南米ジャブローへ向かうよう告げている間に、カイは軍服を脱いで私服に着替え、出て行こうとする。アムロに呼ばれても、聞こえないふりをする。「カイさん、どこへ行くんですか」とはっきり声をかけられて、ようやく足を止める。それでもアムロの方は見ずに「軍人なんておカタいのは性に合わねえんだが」と答える。岡田はこれを本音ではないと見る。相手に本音を言わないのが、カイなりの美学なのだという。

アムロは「カイさん、僕はあなたの全部が好きというわけではありません。でも、今まで一緒にやってきた仲間じゃないですか」と言う。岡田は、アムロのセリフは基本的にすべて本音だと述べる。だからカイはアムロが苦手なのだ。嫌いというより苦手で、アムロのようになりたくてもなれない。最終回でハヤトがフラウ・ボゥに「アムロになれなかった」と弱音を吐くが、その気持ちをカイはこの時点でずっと抱えている、と岡田は重ねる。

カイはやっとアムロをちらりと見て「そういう言い方、好きだぜ、アムロ。ま、元気でやれや」と返す。岡田の読みでは、「好きだぜ」は嫌味である。嫌味を先に言ってアムロに嫌悪感を持たせ、言葉を真面目に受け取られない状態を作ってから、本気の「元気でやれや」を言う。岡田はカイを「本当にこじらせた男」と評する。

後ろにいたブライトは、アムロに向かって「好きなようにさせてやれ」と言う。艦長なら止めるべき場面なので、これはブライトにとって背伸びであり、無理をしているのだと岡田は言う。カイはその無理を見逃さない。ブライトと目を合わせないまま「ブライトさんよ、無理のし過ぎじゃ戦いは勝てねえぜ」と言う。岡田の解釈では、これは「俺と同じようにあんたもまだ逃げていいんじゃないか」という意味だ。この時点では、まだ全員が正式に軍人として認められているわけではなく、それはジャブローでのことだと岡田は補足している。

ブライトは初めて視線を階段の下のカイに向け、「無理はジオンの連中だってしてるんだろ」と返す。自分は軍人であり、お前のように無責任には生きられない、という意味だと岡田は読む。ブライトが本気で突っかかってきたことで、カイもようやくブライトの目を見る。そして「俺は限界を超えたのよね」と言い、笑いながら去っていく。

14:06

限界という言葉と、ワンカットの芝居

岡田は「限界を超えた」を割と本音だと見る。アムロやブライトは限界に近いかもしれないが、自分はもう限界を超えて頑張っている。これ以上やれば、いつも平気な顔でへへっと笑っている自分のスタイルが崩れてしまう。それが怖いから、こんなのは自分らしくないと思って逃げるのだ、という解釈である。ブライトがカイを逮捕して牢屋に入れていたらどうなったか、という「もしも」の展開もあり得たとも触れている。

岡田はこの場面の作画演技も高く評価する。最初は立っていたアムロが、カイが降りていくにつれて手すりに体重をかけ、カイが見えなくなると手すりの先へ走って追いかける。ブライトは逆に廊下の奥へ消えていく。小さなコマの中でこれだけの演技をさせ、緊張感を保つためにカットを割らない。カットを割るのは、キャラクターの目線を見せたいときなど、必要なときだけだ。

ここから岡田は、自分で映像を作りたい人やYouTuberへの勧めに話を広げる。テレビ版『機動戦士ガンダム』には演出のすべてが詰まっていて、なぜここでカットを割るのか、なぜアップになるのかに全部合理的な理由がある。だから一度見て、自分で絵コンテを書き起こしてみるとよい、と岡田は言う。

17:13

ドックの構図とボーディングブリッジの伏線

アムロがカイを追う前に、タイタニック号が建造されたドックで整備されるホワイトベースの全景が映る。岡田によれば、カメラは最初、下から見上げる煽りの構図で、主翼やブリッジの下面が見えている。ところがカメラが降りていくと、いつの間にか上から見下ろす俯瞰になる。1枚の絵に煽りと俯瞰を収めるのは「アニメーションの嘘」であり、カメラを動かすことで遠近感のおかしさに気づかせない工夫だという。

さらに岡田は、メガ粒子砲のドームが、描くのが大変なホワイトベース後半部のエンジン周りを隠していると指摘する。前方のカタパルトの斜線とブリッジ周りさえ描けば、後ろは巨大なドームが隠してくれる。次のカットでも黄色と黒のドームが背景にあることで、パースの難しい部分を描かずに済み、絵にもなる。作画のカロリーを減らしつつ絵を効果的に見せる方法だ、と岡田は言う。

このボーディングブリッジの構図は、Bパートでミハルが潜入する場面と同じポジションである。岡田はこれを映像的な伏線と見ている。カイには引き止めてくれる仲間がいるが、ミハルは誰にも見られずにたった1人で潜り込む。その対比を同じ構図で描いているのだという。

20:13

アムロの工具箱とセイラ・子どもたちの見送り

追いかけてきたアムロは、カイを止めようとはしない。「これを持っていってください。売ればいくらかにはなります」と工具箱を差し出す。カイの視線は、アムロ、工具箱、またアムロとワンカットの中で動く。岡田によれば、カイは最初、戦力が減るから引き止めに来たのだろうと思っていた。だから驚くのだ。

「それはお前の工具箱だろう」と言うカイに、アムロは「どこへ行くにもお金はいるでしょ」と返す。岡田はここで、工具箱がホワイトベースの備品ではなく、アムロの私物だと強調する。ハロと工具箱くらいしかアムロには私物がなく、いわば全財産である。それを受け取ってしまったことで、カイはホワイトベースの人々とのつながりをまだ持ってしまった、と岡田は読む。

カイは「ありがとうよ。俺だってお前の全部が好きってわけじゃねえけどよ。恩に着るぜ」と答える。岡田はこれを、ようやく出たカイの本音だと見る。「全部が好きってわけじゃない」は、「ほとんど好きだ」と言っているのに等しいのだという。そして、このまま船にいたらアムロのような「いいやつ」になって自分ではなくなってしまう。それも出ていく理由の一つだと岡田は付け加える。

続けてカイは「世話になったね、ありがとう」と急にピースする。アムロが振り返ると、かつて「軟弱者」とカイを張り飛ばしたセイラと、カイをあまり好きではない子どもたちが見送りに来ている。岡田は、カイにとってはこの瞬間がいちばん辛いのだと言う。みんなに呆れられ、罵られて逃げるほうが楽だからだ。工具箱と見送りによって、カイは「借り」を作ってしまった。これが後にホワイトベースへ戻る原因として、ここで明確に用意されている、と岡田は説明する。

32:54

シャアとブーン:悪意のない「悲劇の連鎖」

Aパート後半では、霧の中で浮上したユーコンの見張り台に、シャアとブーンが立っている。前回から数時間後と岡田は見ている。シャアはズゴックでホワイトベースの足を止めるよう命じ、「木馬がどこへ行くのか知りたい」と言う。岡田によれば、シャアはホワイトベースを無理に攻略しろとは言っていない。連邦の兵力に囲まれている中で、潜水艦に積める程度のモビルスーツで勝てるはずがないと考えているからだ。ブーンは「探りは入れさせています」と答え、これが潜入の伏線になる。

その後、107号から「右エンジンの修理に手間取っている」という報告が入る。シャアは、ゴッグとズゴックで攻撃している間に107号を木馬に潜り込ませろと命じる。そして、うまくいけばジオンに帰れる手続きを取ってやるとブーンに約束し、マッドアングラーへ戻っていく。

岡田はこの流れに悪意がどこにもないことを強調する。シャアは107号が小さな女の子だとは知らない。ブーンはジオンに家族がいて、そこへ帰るのを目的にしているのかもしれない。誰も悪くないのに、悲劇への連鎖が作られていく。スパイをホワイトベースに潜り込ませる発想は、シャアが思いつかなければ生まれなかった。それが全員の人生を左右する。

岡田は、この役割はシャアだからこそ果たせるのだと論じる。マ・クベなら、先を読んで勝つために打った手という印象になる。ランバ・ラルなら、スパイの身を心配するような雑味が入ってしまう。有能で目的に一直線だが非情ではない。大気圏で部下を失って「すまない」と謝ったシャアだからこそ使える、と岡田は言い、シャアを戻してよかったと述べている。

25:19

ベルファストの廃墟と、ミハルの家での駆け引き

カイがベルファストの町へ行くと、前回はきれいだった町が廃墟になっている。ミハルに「軍艦を追い出されたのかい」と声をかけられ、カイは「そんなところだ」とはぐらかす。泊まるところがないならおいでと誘われ、怪しみながらついていく。ミハルは丘の上の空き家に潜り込んで暮らしていた。弟と妹はカイをあからさまに警戒する。ミハルだけがやたらと馴れ馴れしい。

岡田は、カイが懐かない弟妹に対して「可愛くねえな」と言いつつ、どこか嬉しそうにしていると読む。本音を見せる相手にはカイは安心できるが、表面を取り繕って優しくしてくる相手には心を開けない、というのだ。

ミハルが席を外したとき、カイはバスケットの底に銃があるのを見つけ、「本当、やだね」とつぶやく。岡田はここで対比を指摘する。アムロの無骨な工具箱には敵意がなく愛情があるのに、優しく寄ってくる少女のバスケットの底には敵意の塊である銃が隠されている。「やだね」には世の中の世知辛さへの嘆きと、騙されれば楽なのにそれを見抜いてしまう自分への嫌気の両方がある、と岡田は言う。目元に髪がかかる描写も、カイの心の表現だと評している。

戻ってきたミハルの前で、カイはソファに寝転がり、自分から「ホワイトベースは夜にはここを出る」と話す。ミハルは思わず立ち止まり、カイを見てしまう。岡田によれば、カイにも確信はなかった。銃を持っているからスパイだろうと思っていただけだ。しかしベテランなら聞き流せたはずの場面で反応したことで、それがはっきりする。カイはさらに「右のエンジンが手間取ってるらしいんだ。あそこ狙われたらまた足止めだろうけどさ」と続け、驚くミハルに「弟や妹の面倒を見てるあんたの気持ちはよく分かるぜ」と言って目を閉じる。

なぜカイがこんなことをしたのか、岡田自身もしばらく分からなかったと言う。たどり着いた答えは、ホワイトベースに子どもたちを置いてきた自分への罪滅ぼしだというものだ。見送りに来てくれたことで、カイは自分があの子たちを好きで心配していたと気づいてしまった。だから、自分に懐かないこの子どもたちにも何かしてやりたかった。同時に岡田は、カイが自分もミハルも裏切り者だと思っていたとも読む。銃を隠しているのは使う気があるということで、情報を全部話した後に始末されることも頭の切れるカイは想定していた。それでも構わないと半ば自暴自棄になり、相手がためらわず殺せるように寝たふりをしたのだ、というのが岡田の解釈である。

41:36

コノリーとの接触、そして弟妹との別れ

ブーンは私服の兵士コノリーをゴムボートで上陸させる。霧の垂れ込めるベルファスト、沖から進むボート、その向こうでミサイルを撃つ潜水艦。岡田は、これらを一つの絵に収めた説明的なカットのうまさを挙げる。私服で潜入する軍人は、見つかれば捕虜扱いされず、その場で銃殺される決死隊だとも説明する。ゴッグとズゴックの出撃も含め、この作戦全体はミハルをホワイトベースに潜入させるための小さな作戦のためにある。シャアは前線を見ようともせず帰ってしまう、と岡田は言う。

Bパート冒頭で、寝たふりのつもりが本当に眠っていたカイは戦闘音で目を覚ます。窓の外では弟妹が爆発に照らされている。姉の居場所を聞いても2人ははぐらかす。カイはこの後家を離れるが、その理由はまったく説明されず、視聴者に委ねられている、と岡田は指摘する。

ミハルは自転車で海岸へ走り、合言葉でコノリーと接触する。コノリーは「まさかあんたみたいな子が」と驚く。金の入った袋と連邦の制服を渡し、潜入の方法は自分で考えろと言い、成功したらまた金をくれるそうだと伝える。ミハルは「やるよ。チビたちを食べさせなきゃいけないからね」と答え、コノリーは思わず「偉いな」と言う。岡田は、ここで一瞬だけ普通の大人と子どもの会話になると指摘する。スパイが同僚にかける言葉ではないが、コノリーはつい素に戻ってしまった。この話数の中で唯一まともな会話だという。

家に戻ったミハルは、まず「あいつは?」と聞く。カイにまだ心を許していないからだ。少し前に荷物を持って出て行ったと聞いて、通報されるのではと驚き、険しい顔で何か言っていなかったかと詰め寄る。妹が「頑張れよって」と答える。ミハルは空を見上げる。岡田によれば、空を見上げる演技は、アニメでは目の前の相手ではなく誰かのことを考えているという意味だ。そこで初めて、ミハルは相手のいないところで「カイさん」とつぶやく。

ミハルは2人の肩をつかみ、今度は長くなるかもしれないと告げる。お金は少しずつ使うこと、置き場所は誰にも教えないことを言い聞かせる。本来はそこで終わるはずだったが、つい2人を抱きしめてしまい、「この仕事が終わったら戦争のないところへ行こうな、3人で」と言う。妹が「母ちゃんの匂いがする」と言うと、ミハルは「思い出させちゃったかね」とだけ返し、弟妹に見えないところで涙を流す。そこへ戦闘の光が横から差す。

岡田は、この戦闘はミハルが情報を流した結果であり、ベルファストが廃墟になったのも死者が増えているのもミハルが原因だと述べる。その光が3人を美しく照らし、カメラは何も語らずロングへ引いていく。最終的なカット自体は平凡で、ミハルの顔も映らない。それでもそこに至るまでのプロセスの作り込みが、この画を名場面にしていると岡田は言う。金を受け取る罪悪感については、キリストを裏切ったユダや、シータを金貨で売ったパズーになぞらえている。コメント欄の指摘を受けて、これは『この世界の片隅に』を1979年にやっているのに、なかなか見つけてもらえない、とも語った。ムックやWikipediaはミハルの悲運に注目しがちで、カイを軸にした構造が見えにくい、というのが岡田の見方である。

54:32

戦闘の光が炙り出すカイの本音

丘の上のカイは、タイタニック号を造ったドックを見下ろしている。中のホワイトベースが攻撃されているのを見ながら、「俺にはもう関係ないんだよ、ドンパチなんか」と自分に言い聞かせる。しかし戦闘の光に何度も照らされるうち、回想が始まる。ブライトに張り倒されたこと、仲間に罵られたこと、セイラに「軟弱者」とはたかれたこと。ろくな思い出ではない。

岡田は、回想の色が戦闘の光と同じオレンジであることに注目する。思い出されるのは、仲間が本気で自分に向かってきた場面ばかりだ。オレンジの光は本音を炙り出す象徴であり、ミハルが涙を見せたのも、カイが変わるのも、この光によるのだという。光が去った後のカイは「軟弱者かもね」とつぶやき、表情が変わっている。

岡田の解釈では、理屈をいろいろ並べていたが、要するに怖かったのだとカイは認める。怖くて子どもたちを見捨てて逃げた。逃げた先で同じく子どもを守ろうとする少女に情報を話し、その結果ホワイトベースが攻撃されている。その中には子どもたちがいる。戦闘シーンは挟まるが、それらはカイとミハルの「オペラ」のための背景音にすぎない、と岡田は言う。

カイは走ってきたバイクを止め、「軍のものだ」と身分証を示す。「後で基地まで取りに来てくれよな」と言うときの顔がとてもいい、と岡田は言う。軍人にはならないと艦を降りた男が、自分から軍の者だと名乗る。俺は俺だという中二病的な自我が切れ、立場を引き受けた覚悟の顔だという。坂を下る背景にはドックが見え続け、位置関係と目的が分かる。同時に上手から下手へ進むという映像の原則も守るための構図だ、と岡田は解説する。

1:02:09

ズゴック撃破と、本音を言わない帰還

ハヤトのガンキャノンはズゴックに腕をつかまれて苦戦し、カイはガンタンクで駆けつける。ズゴックは海中へ逃げるが、すでに今回もゴッグを水中で倒しているため、同じ戦いを繰り返す工夫のなさを避けた展開になる、と岡田は言う。一方、連邦の制服に着替えたミハルは、怯えた小動物のように周囲を警戒しながら走る。ボーディングブリッジの前で一度だけ後ろを振り返る。それまでの左右確認とは違い、弟妹と家をもう一目見たかったからだと岡田は読む。カイが去った場所と同じ構図で、誰にも見送られずに入っていく。

戦闘では、アムロがズゴックを海上に誘い出し、カイのガンタンクが撃ち、ガンダムがビームサーベルで真っ二つにする。子ども向けには「友情パワー復活」でここで終わるのだ、と岡田は言う。

帰ってきたカイは工具箱を突き返し、「よう」とだけ言う。「一銭にもならねえでよ」と、売れなかったことが理由であるかのように話す。アムロは「そうですか」と受け取り、それ以上追求しない。セイラの「あら、カイ君」には、「いや、皆さんを見てんの辛くてね」と答える。カイは最後まで本音を話さない人物だ。だから途中から見た人には、彼の内面の変化が分からないままだ、と岡田は言う。

マッドアングラーで報告を受けるシャアは、紅茶を飲みながら「そんなところだろうな」「ブーンの責任だ」「彼にスパイと接触させろ」と言う。これは次回ブーンが自らホワイトベースに乗り込む伏線になっている。岡田はシャアが取っ手に指を入れないイギリス式のカップの持ち方をしていると指摘し、『岸辺露伴』の「富豪村」に出てくるマナーとして紹介する。育ちの良さを感じさせる細部だという。

1:10:51

ラストカット:窓を覗けないミハル

ホワイトベースは霧のベルファストを飛び立ち、ようやく星空が見える。ナレーションは「その真夜中、ホワイトベースは破壊された町を後にした」と語る。岡田は、町を破壊した原因はホワイトベース自身であり、ミハルとカイでもあると言う。彼らは行く先々で破壊と死を生みながら生き延びるしかなく、決して無罪ではない。

カメラは窓から縦パンで下がり、隠れているミハルを映す。そこで「1人のスパイを乗せて」と続く。窓を描いたのは、ミハルが弟妹のいる町を一目でも見たいのに、それを抑えて隠れていなければならない葛藤を見せるためだ、と岡田は説明する。最後は警戒する顔のまま画面が暗転し、ミハルが闇に溶け込んで終わる。この回の主人公はカイとミハルだけであり、シャアもアムロもブライトもレビルも話を進める駒にすぎない、と岡田は総括する。

1:17:07

追加の話:おもちゃの宣伝と、ゴッグからズゴックへ

最後の追加パートで岡田は、カイ三部作は戦闘を飛ばしても『火垂るの墓』や『この世界の片隅に』のような戦争ドラマになっていると言う。そのうえで、子ども向けロボットアニメの枠を外していない点をテレビ版のすごさとして挙げる。冒頭の作戦会議はカイの違和感を描くシーンだが、同時に新商品Gメカの宣伝にもなっている。分解と合体をおもちゃと同じように見せ、Gファイター、Gブル、そしてGスカイは無駄が多いので下半身を外したGスカイ・イージーとして使う、と説明する。「Gスカイはアニメに出ない」という言い訳まで入っている、と岡田は言う。ガンダムがGファイターに乗る場面は富野監督が嫌がっていたそうだが、嫌なことでもちゃんとやった、とも語る。

ゴッグとズゴックについて岡田は、名前の頭に一字足すと強化版に聞こえる、ドラクエの呪文と同じ法則だと言う(ドラクエよりガンダムが先だが)。ゴッグは分厚い装甲で、前回はバルカンやハイパーハンマーを弾いた。しかし今回はビームライフルで腹を貫かれる。前回はビームライフルを修理中にして、ゴッグを強い敵に見せていた。その流れの作り方がうまい、と岡田は評価する。ズゴックは装甲が薄い代わりに素早く、なぜ速いかはあえて説明しない。両腕のビーム砲は、ジオンのモビルスーツがガンダムの性能に近づいた表れだと岡田は見る。ビームの時代になれば装甲は役に立たず、軽量化と機動力に進む。その先にゾックやアッガイのような迷いの機体があり、地球を追われた後は宇宙専用機に戻っていく。そうした歴史の流れをズゴック1機で表している、というのが岡田の見方だ。最後にガンタンクで仕留めさせるのは、主役のカイに花を持たせる演出でもあるという。

岡田は、ガンダムは隣の部署の『ザ☆ウルトラマン』よりはるかに予算もスタッフも乏しい、劣った体制で作られたと語る。その制限の中でドラマもロボットアクションも成立させたことこそ味わってほしいと言う。だから今は個人や少人数で作られた短いアニメに注目している、とも述べた。次回の第28話「大西洋、血に染めて」は全10回分の講義をまとめることになり、3時間を超えそうだと予告して講座は終わる。