『機動戦士ガンダム』第27話「女スパイ潜入!」を読む:カイ・シデンとミハルの物語として
岡田斗司夫岡田斗司夫のガンダム講座の第77回と第78回をまとめた回で、テレビシリーズ第27話「女スパイ潜入!」を扱う。岡田は、第26話「復活のシャア」、第27話、第28話「大西洋、血に染めて」の3本をひとつながりの物語と見ている。そこで描かれるのは、カイ・シデンとミハルという2人である。第26話が2人の出会いなら、第27話は赤の他人だった2人が互いを深く知る話だと岡田は位置づける。三部作の2本目は面白いに決まっている、とも言う。
岡田の整理では、カイは自分の中の違和感を大事にし、自分の考え方を守るためにホワイトベースを捨てる。そして、幼い弟と妹を食べさせるためにジオンのスパイという汚い仕事をしているミハルを見て、自分自身のあり方を問い直すことになる。一方のミハルは、自分と弟妹以外をすべて敵と見なさなければ毎日を生きていけない。そのミハルが、利用するために家へ招き入れたはずのカイから、自分の立場を見抜かれたうえで親切にされていたと知る。今回の講座は、このドラマ部分を重点的に解説している。戦闘パートの話は最後に追加で語られる。
アバンタイトル:ノリノリのアムロと、廊下で壁を叩くカイ
第27話は、タイトルが出る前から話が始まる。冒頭はアムロのプレゼンだ。レビル将軍から与えられ、マチルダが懸命に運んできた新兵器Gメカの運用法を、アムロが説明している。Gブルの状態ではガンダムを内部に収容できるが、盾が両側に付く。ガンダム単体で出撃するときには盾が1枚余るので、盾2枚を重ねるジョイントの開発と補給部品が必要になる、といった内容である。
岡田は、このときのアムロが「かなりノリノリ」である理由に注目する。アムロが広げている資料には、マチルダとの記念写真が貼ってある。この写真があるから、アムロは「マチルダさんが僕に届けてくれた。その思いを僕が受け継いでいる」と思える。だから上機嫌で、これからの戦闘について熱心にプレゼンしている、と岡田は読む。後ろのパイプ椅子にはレビル将軍まで座っている。
その場でカイは笑いながら「ちょっとトイレに行かせて」と言い、中座する。ところが廊下に出た瞬間、壁をドンと叩き「冗談じゃねえよ」と吐き捨てる。トイレには行かず、壁にもたれて、聞こえてくるアムロの声をぼんやり聞く。そして「みんな一生この船にいるつもりらしいや」とつぶやいたところでタイトルが入る。
岡田によれば、冒頭でアムロのプレゼンを見せる狙いは、カイとアムロの対比にある。以前は戦闘を嫌がっていたのはアムロのほうで、アムロがホワイトベースから逃げ出したときには、カイは見つかったら死刑だと言うほど怒っていた。カイの本音の部分をアムロが代わりに口にしてくれていたから、カイは「そんなこと言ってられないだろう」と言えたのだ、と岡田は説明する。ところが今、そのアムロは誰よりも積極的に戦い方をプレゼンしている。カイはもう同じ言い方ができず、居心地がどんどん悪くなっている。
さらに岡田は、カイが前回のゴッグ上陸の不安を引きずっていると指摘する。アムロがゴッグに勝てずホワイトベースに逃げたと思い込み、ガンダムでも勝てないのかという絶望の中にいる。オデッサ以来のアムロへの劣等感もある。前回の冒頭では、休暇を楽しみにしていたカイに対してアムロが「僕たちもこれで軍人ってことになっちゃうんですよ」と返し、カイは落ち込んでいた。アムロにはマチルダという戦う動機があるが、カイにはすがれるものが何もない。それを見せてからタイトルを出すことで、今回はカイが主役だと示している、と岡田は言う。アムロの心理はほとんど描かれない。
艦を降りるカイと、アムロ・ブライトとの三者の会話
レビル将軍がホワイトベースに南米ジャブローへ向かうよう告げている間に、カイは軍服を脱いで私服に着替え、出て行こうとする。アムロに呼ばれても、聞こえないふりをする。「カイさん、どこへ行くんですか」とはっきり声をかけられて、ようやく足を止める。それでもアムロの方は見ずに「軍人なんておカタいのは性に合わねえんだが」と答える。岡田はこれを本音ではないと見る。相手に本音を言わないのが、カイなりの美学なのだという。
アムロは「カイさん、僕はあなたの全部が好きというわけではありません。でも、今まで一緒にやってきた仲間じゃないですか」と言う。岡田は、アムロのセリフは基本的にすべて本音だと述べる。だからカイはアムロが苦手なのだ。嫌いというより苦手で、アムロのようになりたくてもなれない。最終回でハヤトがフラウ・ボゥに「アムロになれなかった」と弱音を吐くが、その気持ちをカイはこの時点でずっと抱えている、と岡田は重ねる。
カイはやっとアムロをちらりと見て「そういう言い方、好きだぜ、アムロ。ま、元気でやれや」と返す。岡田の読みでは、「好きだぜ」は嫌味である。嫌味を先に言ってアムロに嫌悪感を持たせ、言葉を真面目に受け取られない状態を作ってから、本気の「元気でやれや」を言う。岡田はカイを「本当にこじらせた男」と評する。
後ろにいたブライトは、アムロに向かって「好きなようにさせてやれ」と言う。艦長なら止めるべき場面なので、これはブライトにとって背伸びであり、無理をしているのだと岡田は言う。カイはその無理を見逃さない。ブライトと目を合わせないまま「ブライトさんよ、無理のし過ぎじゃ戦いは勝てねえぜ」と言う。岡田の解釈では、これは「俺と同じようにあんたもまだ逃げていいんじゃないか」という意味だ。この時点では、まだ全員が正式に軍人として認められているわけではなく、それはジャブローでのことだと岡田は補足している。
ブライトは初めて視線を階段の下のカイに向け、「無理はジオンの連中だってしてるんだろ」と返す。自分は軍人であり、お前のように無責任には生きられない、という意味だと岡田は読む。ブライトが本気で突っかかってきたことで、カイもようやくブライトの目を見る。そして「俺は限界を超えたのよね」と言い、笑いながら去っていく。
限界という言葉と、ワンカットの芝居
岡田は「限界を超えた」を割と本音だと見る。アムロやブライトは限界に近いかもしれないが、自分はもう限界を超えて頑張っている。これ以上やれば、いつも平気な顔でへへっと笑っている自分のスタイルが崩れてしまう。それが怖いから、こんなのは自分らしくないと思って逃げるのだ、という解釈である。ブライトがカイを逮捕して牢屋に入れていたらどうなったか、という「もしも」の展開もあり得たとも触れている。
岡田はこの場面の作画演技も高く評価する。最初は立っていたアムロが、カイが降りていくにつれて手すりに体重をかけ、カイが見えなくなると手すりの先へ走って追いかける。ブライトは逆に廊下の奥へ消えていく。小さなコマの中でこれだけの演技をさせ、緊張感を保つためにカットを割らない。カットを割るのは、キャラクターの目線を見せたいときなど、必要なときだけだ。
ここから岡田は、自分で映像を作りたい人やYouTuberへの勧めに話を広げる。テレビ版『機動戦士ガンダム』には演出のすべてが詰まっていて、なぜここでカットを割るのか、なぜアップになるのかに全部合理的な理由がある。だから一度見て、自分で絵コンテを書き起こしてみるとよい、と岡田は言う。
ドックの構図とボーディングブリッジの伏線
アムロがカイを追う前に、タイタニック号が建造されたドックで整備されるホワイトベースの全景が映る。岡田によれば、カメラは最初、下から見上げる煽りの構図で、主翼やブリッジの下面が見えている。ところがカメラが降りていくと、いつの間にか上から見下ろす俯瞰になる。1枚の絵に煽りと俯瞰を収めるのは「アニメーションの嘘」であり、カメラを動かすことで遠近感のおかしさに気づかせない工夫だという。
さらに岡田は、メガ粒子砲のドームが、描くのが大変なホワイトベース後半部のエンジン周りを隠していると指摘する。前方のカタパルトの斜線とブリッジ周りさえ描けば、後ろは巨大なドームが隠してくれる。次のカットでも黄色と黒のドームが背景にあることで、パースの難しい部分を描かずに済み、絵にもなる。作画のカロリーを減らしつつ絵を効果的に見せる方法だ、と岡田は言う。
このボーディングブリッジの構図は、Bパートでミハルが潜入する場面と同じポジションである。岡田はこれを映像的な伏線と見ている。カイには引き止めてくれる仲間がいるが、ミハルは誰にも見られずにたった1人で潜り込む。その対比を同じ構図で描いているのだという。
アムロの工具箱とセイラ・子どもたちの見送り
追いかけてきたアムロは、カイを止めようとはしない。「これを持っていってください。売ればいくらかにはなります」と工具箱を差し出す。カイの視線は、アムロ、工具箱、またアムロとワンカットの中で動く。岡田によれば、カイは最初、戦力が減るから引き止めに来たのだろうと思っていた。だから驚くのだ。
「それはお前の工具箱だろう」と言うカイに、アムロは「どこへ行くにもお金はいるでしょ」と返す。岡田はここで、工具箱がホワイトベースの備品ではなく、アムロの私物だと強調する。ハロと工具箱くらいしかアムロには私物がなく、いわば全財産である。それを受け取ってしまったことで、カイはホワイトベースの人々とのつながりをまだ持ってしまった、と岡田は読む。
カイは「ありがとうよ。俺だってお前の全部が好きってわけじゃねえけどよ。恩に着るぜ」と答える。岡田はこれを、ようやく出たカイの本音だと見る。「全部が好きってわけじゃない」は、「ほとんど好きだ」と言っているのに等しいのだという。そして、このまま船にいたらアムロのような「いいやつ」になって自分ではなくなってしまう。それも出ていく理由の一つだと岡田は付け加える。
続けてカイは「世話になったね、ありがとう」と急にピースする。アムロが振り返ると、かつて「軟弱者」とカイを張り飛ばしたセイラと、カイをあまり好きではない子どもたちが見送りに来ている。岡田は、カイにとってはこの瞬間がいちばん辛いのだと言う。みんなに呆れられ、罵られて逃げるほうが楽だからだ。工具箱と見送りによって、カイは「借り」を作ってしまった。これが後にホワイトベースへ戻る原因として、ここで明確に用意されている、と岡田は説明する。
シャアとブーン:悪意のない「悲劇の連鎖」
Aパート後半では、霧の中で浮上したユーコンの見張り台に、シャアとブーンが立っている。前回から数時間後と岡田は見ている。シャアはズゴックでホワイトベースの足を止めるよう命じ、「木馬がどこへ行くのか知りたい」と言う。岡田によれば、シャアはホワイトベースを無理に攻略しろとは言っていない。連邦の兵力に囲まれている中で、潜水艦に積める程度のモビルスーツで勝てるはずがないと考えているからだ。ブーンは「探りは入れさせています」と答え、これが潜入の伏線になる。
その後、107号から「右エンジンの修理に手間取っている」という報告が入る。シャアは、ゴッグとズゴックで攻撃している間に107号を木馬に潜り込ませろと命じる。そして、うまくいけばジオンに帰れる手続きを取ってやるとブーンに約束し、マッドアングラーへ戻っていく。
岡田はこの流れに悪意がどこにもないことを強調する。シャアは107号が小さな女の子だとは知らない。ブーンはジオンに家族がいて、そこへ帰るのを目的にしているのかもしれない。誰も悪くないのに、悲劇への連鎖が作られていく。スパイをホワイトベースに潜り込ませる発想は、シャアが思いつかなければ生まれなかった。それが全員の人生を左右する。
岡田は、この役割はシャアだからこそ果たせるのだと論じる。マ・クベなら、先を読んで勝つために打った手という印象になる。ランバ・ラルなら、スパイの身を心配するような雑味が入ってしまう。有能で目的に一直線だが非情ではない。大気圏で部下を失って「すまない」と謝ったシャアだからこそ使える、と岡田は言い、シャアを戻してよかったと述べている。
ベルファストの廃墟と、ミハルの家での駆け引き
カイがベルファストの町へ行くと、前回はきれいだった町が廃墟になっている。ミハルに「軍艦を追い出されたのかい」と声をかけられ、カイは「そんなところだ」とはぐらかす。泊まるところがないならおいでと誘われ、怪しみながらついていく。ミハルは丘の上の空き家に潜り込んで暮らしていた。弟と妹はカイをあからさまに警戒する。ミハルだけがやたらと馴れ馴れしい。
岡田は、カイが懐かない弟妹に対して「可愛くねえな」と言いつつ、どこか嬉しそうにしていると読む。本音を見せる相手にはカイは安心できるが、表面を取り繕って優しくしてくる相手には心を開けない、というのだ。
ミハルが席を外したとき、カイはバスケットの底に銃があるのを見つけ、「本当、やだね」とつぶやく。岡田はここで対比を指摘する。アムロの無骨な工具箱には敵意がなく愛情があるのに、優しく寄ってくる少女のバスケットの底には敵意の塊である銃が隠されている。「やだね」には世の中の世知辛さへの嘆きと、騙されれば楽なのにそれを見抜いてしまう自分への嫌気の両方がある、と岡田は言う。目元に髪がかかる描写も、カイの心の表現だと評している。
戻ってきたミハルの前で、カイはソファに寝転がり、自分から「ホワイトベースは夜にはここを出る」と話す。ミハルは思わず立ち止まり、カイを見てしまう。岡田によれば、カイにも確信はなかった。銃を持っているからスパイだろうと思っていただけだ。しかしベテランなら聞き流せたはずの場面で反応したことで、それがはっきりする。カイはさらに「右のエンジンが手間取ってるらしいんだ。あそこ狙われたらまた足止めだろうけどさ」と続け、驚くミハルに「弟や妹の面倒を見てるあんたの気持ちはよく分かるぜ」と言って目を閉じる。
なぜカイがこんなことをしたのか、岡田自身もしばらく分からなかったと言う。たどり着いた答えは、ホワイトベースに子どもたちを置いてきた自分への罪滅ぼしだというものだ。見送りに来てくれたことで、カイは自分があの子たちを好きで心配していたと気づいてしまった。だから、自分に懐かないこの子どもたちにも何かしてやりたかった。同時に岡田は、カイが自分もミハルも裏切り者だと思っていたとも読む。銃を隠しているのは使う気があるということで、情報を全部話した後に始末されることも頭の切れるカイは想定していた。それでも構わないと半ば自暴自棄になり、相手がためらわず殺せるように寝たふりをしたのだ、というのが岡田の解釈である。
コノリーとの接触、そして弟妹との別れ
ブーンは私服の兵士コノリーをゴムボートで上陸させる。霧の垂れ込めるベルファスト、沖から進むボート、その向こうでミサイルを撃つ潜水艦。岡田は、これらを一つの絵に収めた説明的なカットのうまさを挙げる。私服で潜入する軍人は、見つかれば捕虜扱いされず、その場で銃殺される決死隊だとも説明する。ゴッグとズゴックの出撃も含め、この作戦全体はミハルをホワイトベースに潜入させるための小さな作戦のためにある。シャアは前線を見ようともせず帰ってしまう、と岡田は言う。
Bパート冒頭で、寝たふりのつもりが本当に眠っていたカイは戦闘音で目を覚ます。窓の外では弟妹が爆発に照らされている。姉の居場所を聞いても2人ははぐらかす。カイはこの後家を離れるが、その理由はまったく説明されず、視聴者に委ねられている、と岡田は指摘する。
ミハルは自転車で海岸へ走り、合言葉でコノリーと接触する。コノリーは「まさかあんたみたいな子が」と驚く。金の入った袋と連邦の制服を渡し、潜入の方法は自分で考えろと言い、成功したらまた金をくれるそうだと伝える。ミハルは「やるよ。チビたちを食べさせなきゃいけないからね」と答え、コノリーは思わず「偉いな」と言う。岡田は、ここで一瞬だけ普通の大人と子どもの会話になると指摘する。スパイが同僚にかける言葉ではないが、コノリーはつい素に戻ってしまった。この話数の中で唯一まともな会話だという。
家に戻ったミハルは、まず「あいつは?」と聞く。カイにまだ心を許していないからだ。少し前に荷物を持って出て行ったと聞いて、通報されるのではと驚き、険しい顔で何か言っていなかったかと詰め寄る。妹が「頑張れよって」と答える。ミハルは空を見上げる。岡田によれば、空を見上げる演技は、アニメでは目の前の相手ではなく誰かのことを考えているという意味だ。そこで初めて、ミハルは相手のいないところで「カイさん」とつぶやく。
ミハルは2人の肩をつかみ、今度は長くなるかもしれないと告げる。お金は少しずつ使うこと、置き場所は誰にも教えないことを言い聞かせる。本来はそこで終わるはずだったが、つい2人を抱きしめてしまい、「この仕事が終わったら戦争のないところへ行こうな、3人で」と言う。妹が「母ちゃんの匂いがする」と言うと、ミハルは「思い出させちゃったかね」とだけ返し、弟妹に見えないところで涙を流す。そこへ戦闘の光が横から差す。
岡田は、この戦闘はミハルが情報を流した結果であり、ベルファストが廃墟になったのも死者が増えているのもミハルが原因だと述べる。その光が3人を美しく照らし、カメラは何も語らずロングへ引いていく。最終的なカット自体は平凡で、ミハルの顔も映らない。それでもそこに至るまでのプロセスの作り込みが、この画を名場面にしていると岡田は言う。金を受け取る罪悪感については、キリストを裏切ったユダや、シータを金貨で売ったパズーになぞらえている。コメント欄の指摘を受けて、これは『この世界の片隅に』を1979年にやっているのに、なかなか見つけてもらえない、とも語った。ムックやWikipediaはミハルの悲運に注目しがちで、カイを軸にした構造が見えにくい、というのが岡田の見方である。
戦闘の光が炙り出すカイの本音
丘の上のカイは、タイタニック号を造ったドックを見下ろしている。中のホワイトベースが攻撃されているのを見ながら、「俺にはもう関係ないんだよ、ドンパチなんか」と自分に言い聞かせる。しかし戦闘の光に何度も照らされるうち、回想が始まる。ブライトに張り倒されたこと、仲間に罵られたこと、セイラに「軟弱者」とはたかれたこと。ろくな思い出ではない。
岡田は、回想の色が戦闘の光と同じオレンジであることに注目する。思い出されるのは、仲間が本気で自分に向かってきた場面ばかりだ。オレンジの光は本音を炙り出す象徴であり、ミハルが涙を見せたのも、カイが変わるのも、この光によるのだという。光が去った後のカイは「軟弱者かもね」とつぶやき、表情が変わっている。
岡田の解釈では、理屈をいろいろ並べていたが、要するに怖かったのだとカイは認める。怖くて子どもたちを見捨てて逃げた。逃げた先で同じく子どもを守ろうとする少女に情報を話し、その結果ホワイトベースが攻撃されている。その中には子どもたちがいる。戦闘シーンは挟まるが、それらはカイとミハルの「オペラ」のための背景音にすぎない、と岡田は言う。
カイは走ってきたバイクを止め、「軍のものだ」と身分証を示す。「後で基地まで取りに来てくれよな」と言うときの顔がとてもいい、と岡田は言う。軍人にはならないと艦を降りた男が、自分から軍の者だと名乗る。俺は俺だという中二病的な自我が切れ、立場を引き受けた覚悟の顔だという。坂を下る背景にはドックが見え続け、位置関係と目的が分かる。同時に上手から下手へ進むという映像の原則も守るための構図だ、と岡田は解説する。
ズゴック撃破と、本音を言わない帰還
ハヤトのガンキャノンはズゴックに腕をつかまれて苦戦し、カイはガンタンクで駆けつける。ズゴックは海中へ逃げるが、すでに今回もゴッグを水中で倒しているため、同じ戦いを繰り返す工夫のなさを避けた展開になる、と岡田は言う。一方、連邦の制服に着替えたミハルは、怯えた小動物のように周囲を警戒しながら走る。ボーディングブリッジの前で一度だけ後ろを振り返る。それまでの左右確認とは違い、弟妹と家をもう一目見たかったからだと岡田は読む。カイが去った場所と同じ構図で、誰にも見送られずに入っていく。
戦闘では、アムロがズゴックを海上に誘い出し、カイのガンタンクが撃ち、ガンダムがビームサーベルで真っ二つにする。子ども向けには「友情パワー復活」でここで終わるのだ、と岡田は言う。
帰ってきたカイは工具箱を突き返し、「よう」とだけ言う。「一銭にもならねえでよ」と、売れなかったことが理由であるかのように話す。アムロは「そうですか」と受け取り、それ以上追求しない。セイラの「あら、カイ君」には、「いや、皆さんを見てんの辛くてね」と答える。カイは最後まで本音を話さない人物だ。だから途中から見た人には、彼の内面の変化が分からないままだ、と岡田は言う。
マッドアングラーで報告を受けるシャアは、紅茶を飲みながら「そんなところだろうな」「ブーンの責任だ」「彼にスパイと接触させろ」と言う。これは次回ブーンが自らホワイトベースに乗り込む伏線になっている。岡田はシャアが取っ手に指を入れないイギリス式のカップの持ち方をしていると指摘し、『岸辺露伴』の「富豪村」に出てくるマナーとして紹介する。育ちの良さを感じさせる細部だという。
ラストカット:窓を覗けないミハル
ホワイトベースは霧のベルファストを飛び立ち、ようやく星空が見える。ナレーションは「その真夜中、ホワイトベースは破壊された町を後にした」と語る。岡田は、町を破壊した原因はホワイトベース自身であり、ミハルとカイでもあると言う。彼らは行く先々で破壊と死を生みながら生き延びるしかなく、決して無罪ではない。
カメラは窓から縦パンで下がり、隠れているミハルを映す。そこで「1人のスパイを乗せて」と続く。窓を描いたのは、ミハルが弟妹のいる町を一目でも見たいのに、それを抑えて隠れていなければならない葛藤を見せるためだ、と岡田は説明する。最後は警戒する顔のまま画面が暗転し、ミハルが闇に溶け込んで終わる。この回の主人公はカイとミハルだけであり、シャアもアムロもブライトもレビルも話を進める駒にすぎない、と岡田は総括する。
追加の話:おもちゃの宣伝と、ゴッグからズゴックへ
最後の追加パートで岡田は、カイ三部作は戦闘を飛ばしても『火垂るの墓』や『この世界の片隅に』のような戦争ドラマになっていると言う。そのうえで、子ども向けロボットアニメの枠を外していない点をテレビ版のすごさとして挙げる。冒頭の作戦会議はカイの違和感を描くシーンだが、同時に新商品Gメカの宣伝にもなっている。分解と合体をおもちゃと同じように見せ、Gファイター、Gブル、そしてGスカイは無駄が多いので下半身を外したGスカイ・イージーとして使う、と説明する。「Gスカイはアニメに出ない」という言い訳まで入っている、と岡田は言う。ガンダムがGファイターに乗る場面は富野監督が嫌がっていたそうだが、嫌なことでもちゃんとやった、とも語る。
ゴッグとズゴックについて岡田は、名前の頭に一字足すと強化版に聞こえる、ドラクエの呪文と同じ法則だと言う(ドラクエよりガンダムが先だが)。ゴッグは分厚い装甲で、前回はバルカンやハイパーハンマーを弾いた。しかし今回はビームライフルで腹を貫かれる。前回はビームライフルを修理中にして、ゴッグを強い敵に見せていた。その流れの作り方がうまい、と岡田は評価する。ズゴックは装甲が薄い代わりに素早く、なぜ速いかはあえて説明しない。両腕のビーム砲は、ジオンのモビルスーツがガンダムの性能に近づいた表れだと岡田は見る。ビームの時代になれば装甲は役に立たず、軽量化と機動力に進む。その先にゾックやアッガイのような迷いの機体があり、地球を追われた後は宇宙専用機に戻っていく。そうした歴史の流れをズゴック1機で表している、というのが岡田の見方だ。最後にガンタンクで仕留めさせるのは、主役のカイに花を持たせる演出でもあるという。
岡田は、ガンダムは隣の部署の『ザ☆ウルトラマン』よりはるかに予算もスタッフも乏しい、劣った体制で作られたと語る。その制限の中でドラマもロボットアクションも成立させたことこそ味わってほしいと言う。だから今は個人や少人数で作られた短いアニメに注目している、とも述べた。次回の第28話「大西洋、血に染めて」は全10回分の講義をまとめることになり、3時間を超えそうだと予告して講座は終わる。
おはようございます。岡田斗司夫です。テレビシリーズの『機動戦士ガンダム』を毎回1話ずつ配信していく、ガンダム講座のお時間です。今日は第27話「女スパイ潜入!」。すごいですね、昭和の時代の安っぽいアクションアニメ、アクション映画みたいですね。これについて話します。
先週の動画でも話した通り、第26話「復活のシャア」、第27話「女スパイ潜入!」、そして来週話す第28話「大西洋、血に染めて」。これ、3本で1つの話になっていて、カイ・シデンとミハル・ラトキエという2人を描いた物語になっています。今日はその3部作の真ん中、2本目になります。3部作の2本目って絶対面白いに決まってるんですよね。前回の「復活のシャア」が2人の出会いのエピソードだったとすると、今回はその赤の他人だった2人がお互いのことを深く知るようになるって話です。
自分の中にあった違和感を大事にして、自分の考え方、主義を守るためにホワイトベースを捨てたカイ・シデンですね。カイ・シデンは、幼い弟と妹を食わせていくためにジオンのスパイという汚い仕事をしているミハルを見て、自分のあり方、じゃあ自分はそもそもどうなんだよと。彼女を敵として見られるのか。ジオンは敵で、俺たちサイド7にいた、いわゆる地球連邦側は味方。その考え方が俺はそもそも嫌いだったんじゃないのかというふうに、自分自身を見直す話になります。
ミハルはミハルで、利用するためだけに家に引き入れたカイですね。ミハルは幼い弟と妹を食わせるためにスパイをやってるわけですね。ということは、もう自分と弟と妹以外は全部敵というふうに見なければ、毎日生きてられないんですね。別に周りの人と愛想よく接してもいいんですよ。でもそんなことをやっちゃうと、自分の中で築いてる砦というのが崩れてしまって、ジオンのスパイであることに疑問が出てしまうんですね。そうすると、もう食わせられなくなってしまう。こういう矛盾を抱えたまま生きてるわけですね。
なので、自分たちが生きていくための手段として、家に自分で招き入れたはずのカイが、そういう自分の立場を全部見透かした上で、「分かってるぜ」という感じで親切にしてくれたことを知ってしまうんですね。こういったドラマが、次回の3部作の最終話、第28話「大西洋、血に染めて」に繋がっていくわけです。もう大盛り上がりですよ。今回はそんな第27話のドラマ部分を重点的に話します。
この動画は、岡田斗司夫ゼミのガンダム完全講座、第77回と第78回をまとめたものです。動画の最後には追加の話ですね。ドラマ以外の部分もちょっとしたいので、追加の話があります。それでは、ここから無料動画スタートです。
『機動戦士ガンダム』講座ですね。ガンダム第27話「女スパイ潜入!」です。今日はAパートをお届けします。第27話はいきなりアバンタイトルって、タイトルが出る前からお話が始まります。一番最初、いきなりスライドショーが始まって、アムロ君がここにいます。
アムロ君が新兵器Gメカですね。レビル将軍から与えられて、マチルダさんが一生懸命運んでくれた新兵器Gメカの説明をしています。「こういう運用ができます」と。例えばこれは単体で見ている状態で、このGブルの状態は中にガンダムを収容してるんだけれども、Gブルの状態だと盾が両方についてる。このままガンダムとして発進する時は盾が1枚いらないから、実は盾2枚を重ねるジョイントの開発と補給部品が必要だというふうに説明しています。
この時のアムロ君、かなりノリノリなんですね。なんでノリノリで喋ってるのかというと、アムロ君が見ている資料ですね。目の前に、アンチョコというか、用紙を広げてこれを読んでるんですけども、そこにマチルダさんとの記念写真を貼ってるんですね。このマチルダさんとの記念写真があるから、「マチルダさんがこれを僕に届けてくれたんだ。マチルダさんの思いを僕が受け継いでるんだ」というふうに思える。この後、マチルダさんの写真のアップもあるんですけど、それを見てるからアムロ君は割と上機嫌というか、「これからの戦争、戦闘はこういうふうにやっていきます」というプレゼンを一生懸命やるわけですね。
このアムロ君がノリノリでプレゼンをして、カイも笑顔で「ごめん、ちょっとトイレ行かせて」っていうふうに言うんです。ブライトさんは「ああ、さっさと帰ってくるんだ」とか言うんですけども、「へへへ、すいません」というふうに、笑いながらカイ君は中座するわけですね。席を立つんですよ。しかしカイ君は席を立った後、廊下に出た瞬間に壁をドンと叩くんですね。「冗談じゃねえよ」っていうふうに言います。
カイ君は壁にもたれて、実はトイレに行ってないわけですね。サボるわけですね。そうすると、向こうからアムロの声だけは聞こえます。アムロがこれからの戦い方、これからどんなふうに戦わなきゃいけないのか、どういう戦略が考えられるのかっていうのをずっと話してるんですけど、それをぼんやり聞いてます。その後、呆れたように吐き捨てて、「へっ、みんな一生この船にいるらしいや」っていうふうに言います。「みんな一生この船にいるつもりらしいや」っていうふうに言います。そこでタイトルですね。ダドダンドダドン、「女スパイ潜入!」っていうふうになるわけですね。
ここでタイトルに切り替わるんですけども、ここで一番最初にアムロのプレゼンから見せる理由は何かというと、カイとアムロの対比を見せたいわけですね。この2人の対比を見せると、以前はアムロの方が戦闘を嫌がったんですよ。カイはそのアムロに対して怒ってたわけですね。アムロが戦闘を嫌ってホワイトベースから逃げ出した時は、「見つかったら死刑だぞ」というふうに言うぐらい怒ってた。腹が立ってたわけなんですけども。しかし、いつの間にかそのアムロは、みんなの前でこれからの戦い方をプレゼンするぐらい積極的なんですね。
そのプレゼンを見ると、ホワイトベースのクルーと連邦軍の士官がいて、一番後ろにはパイプ椅子にレビル将軍まで座ってるんです。レビル将軍が前に来て、「いやいや、よく分かったよ」とか言ってるんですけど、それぐらいノリノリで戦い方をプレゼンするようなアムロに対して、カイは「ふざけんな」と。「いつまで俺たち、ただ単に避難民だったはずなのに、なんでいつの間にかこんなことになってんだ。なんで一番戦闘を嫌ったはずのアムロが」。一番戦闘を嫌ってくれた、つまりカイの本音の部分をアムロが言ってくれたおかげで、カイは「そんなこと言ってられねえだろ」とか言えたわけですね。でもそれももう言えなくなってきて、カイはどんどん居心地が悪くなってるわけですね。
カイは前回のゴッグの上陸で、まだ不安なままなんですよ。アムロがゴッグとの戦闘で、ゴッグには勝てないと思ってホワイトベースに逃げたと思ってて、「ガンダムでも勝てないのかよ」という絶望のままの状態で今回いるわけですね。おまけに、オデッサの戦いではアムロに劣等感を抱いてるわけですね。
前回の冒頭では、アムロとブリッジで他愛ない話をして、「オデッサ以来、休暇久しぶりだよな。楽しみだよな」って言ったら、「そうですか。僕たちもこれで軍人ってことになっちゃうんですよ。行けって言われたら、どこでも行って戦わなきゃいけないんですよ」っていうふうに言われて、カイは落ち込んだりしたんですけども。そんな状態なんですよ、カイっていうのは。
アムロにはマチルダさんという戦う動機があるんですね。資料のところにマチルダさんの写真を挟んで、「この人が僕にGメカを届けてくれた」。だからGメカの使い方のプレゼンをやってるんですよ。でもカイには、そういうすがるべきもの、すがれるものが何もないという状態を、まずタイトルの前に見せてから、「女スパイ潜入!」、ドーンと来るわけです。ここら辺の流れですね。「今回はカイ主役でお話を作りますよ」という感じですね。アムロの心理というのは、ほとんど描かれないわけです。
一番後ろの席で、パイプ椅子でプレゼンを聞いていたレビル将軍は、このままホワイトベースに「南米のジャブローに行ってくれ」っていうふうに言うんですね。それをホワイトベースのクルーは「分かりました」って言ってるんですけども、その間にカイは私服に着替えてるんですよ。もう軍服を脱いで私服に着替えて、そのまま出ていこうとするんですね。しかし、出ていこうとするところをアムロに見つかってしまいます。アムロが「カイさん」って呼んでも返事しないんです。そのまま多分、聞こえないふりをして出ていこうとしたんですね。ところが「カイさん、どこ行くんですか」とアムロにはっきり声をかけられて、カイは仕方なく足を止めます。
一番上ですね。立ち止まって、それでもアムロの方を見ないんですね。「しゃあねえな。軍人なんてお堅いのは性に合わねえんだが」っていうふうに答えます。このセリフ、やっぱり本音じゃないんですよ。「軍人なんてお堅いのは性に合わない」が本音じゃないんですけど、とりあえず相手に対して本音を言わないっていうのは彼なりの美学なんですね。アムロが心配そうに見て、後ろでブライトが睨みつけています。
アムロはカイに対してはっきり言います。「カイさん、僕はあなたの全部が好きというわけではありません。でも今まで一緒にやってきた仲間じゃないですか」って言うんですね。このアムロの言葉、アムロのセリフは基本的に全部本音なんですよ。だからカイはアムロが苦手なんですね。嫌いっていうよりは苦手なんですよ。アムロみたいになりたくてもなれない。戦闘もアムロみたいにうまくなれないし、マチルダさんから思いを受け継いだメカみたいなものもないし、だからそんなに戦いもうまくならないと。
だから最終回でハヤトがフラウ・ボゥに弱音を吐くんですね。「僕はアムロになれなかった。悔しい。俺はアムロには敵わないんだ」って言うんですけど、それはもうカイがこの時ずっと感じてる心なんですね。カイも同じようにずっと考えてるんですけども、でもそうは言いたくないので、「軍人なんてお堅いのは性に合わない」。それに対してアムロは「あなたの全部が好きというわけではありません。でも今まで一緒にやってきたじゃないですか」。もう本音で答えてしまうんですね。
そうするとカイは、やっとアムロの方をちらっと見て、「そういう言い方好きだぜ、アムロ。まあ、元気でやれや」って言うんですね。もちろん、このカイの「そういう言い方好きだぜ」っていうのは嫌味です。本音じゃありません。「まあ、元気でやれや」という部分だけは本気のセリフだから、嘘に聞こえるように言うんですね。「そういう言い方好きだぜ」って言ったことによって、嫌味を言ったことによって、アムロがちょっと嫌悪感を持って、カイの言葉を真面目に受け取らない状態を作ってから、「元気でやれや」っていうふうに本音を言っちゃう。カイは本当にこじらせた男なんですよね。こういうのが美学なんですよ、彼。
それに対して、後ろにいたブライトさんがむすっとしてます。アムロに向かって「好きなようにさせてやれ」って言うんですね。この時の目線はカイの方を見てもないんですよ。アムロの方を見てる。ここで何をしてるのかというと、「好きなようにさせてやれ」っていうのは、カイを見逃すんですね。本当はこの状態でカイが出ていくことを艦長としては止めなきゃいけないんですけども、「見逃してやれ」っていうふうに言うんです。
ちょっと無理してるんですよ。これ、ブライトにとっては背伸びなんですね。本当にブライトがただ単に堅物の、真面目野郎だったら、カイを止めて牢屋に入れるはずなんですよね。でもそうじゃなくて、「アムロ、行かせてやれ」って言うんだよ。それはちょっと無理してるからですね。「逃げたい奴がいるんだったら、逃げてもいいよ」っていうふうに無理をしてる。その無理をカイは見逃さないんですね。
なのでカイは、ブライトを見ないように、ちょっとアムロの方までは見てるんですけど、分かりにくいんですけど、ブライトには目線を合わせないようにして、「ブライトさんよ、無理のしすぎじゃ戦いは勝てねえぜ。だから俺は降りるんだ」って言います。「俺たちは軍人じゃないんだ。俺と同じようにブライトさんも、まだ逃げていいんじゃないか」というふうにカイは言うわけですね。
この時に全員、本当に正式に任官はしてないんです。この後ジャブローでようやっと全員、軍人として任官する。まだみんな民間人なんですね。ブライトだけは士官候補だから、そうじゃないかも分かんないけど。でも「ブライトさん、無理のしすぎじゃ戦いは勝てない」っていうのは、「あんた無理してると。今、俺を見逃すのも無理なんだろ」って言うんですね。「俺と同じように逃げていいんだよ」って言うんですよ。
ようやっとブライトはカイに目線を移します。目線を下げるんですね。この上の1コマ目の、アムロを見てるところから来ると、明らかに階段の下にいるカイの方にはっきりと目を向けて、「無理はジオンの連中だってしてるんだろ」って言います。つまり、「俺は軍人だ。ジオンのプロの軍人と同じように俺も軍人だ。だから無理なんか当たり前じゃないか。お互いしてるんだ」って言うんですね。「お前みたいに無責任には生きられない」。
そうするとカイは、やっと目線をブライトさんに向けるんですね。さっきまで本当にアムロとも最初は目線を合わせずに、前だけを向いて喋ってる。アムロが本音を話したので、やっとアムロに目線を合わせる。ブライトさんに「無理すんなよ」って言う時もブライトの顔は見ないんですね。ところがブライトが本気になって突っかかってきてくれたおかげで、カイはやっとブライトの目を見て、「俺は限界を超えたのよね」って言います。「へへ」って言いながら、そのまま去っていくんですね。そのまんま後ろも見ずに、カイは降りていくと。
この時にアムロは心配で、手すりに手をかけてもたれています。ブライトはまだカイを見ています。この辺りの、手すりにもたれて体重をかけてるアムロの演技というのはすごくうまいです。すごく小さいんですけども、この時アムロは最初立ってるんですよ。でもカイが降りていくのに対して、だんだん体重を手すりにかけて、カイが見えなくなると、アムロはこの手すりを越えて下に走って降りていくんですね。ブライトは逆に廊下の奥に消えていく。
かなり小さいコマの中で、めちゃくちゃ微妙な演技。さっき言った、カイが見えなくなるから体重をかけて手すりの向こうを覗いて、その後、手すりで走る。ブライトは後ろへ下がって消えていくという演技をやってます。本当にうまいですね。この辺り、やっぱりカットを割らない。ここでカットを割らないのも、緊張感を出すためですね。カットを割る時は絶対に必要に応じて、このキャラの目線を見せたい時とか、そういう時にだけカットを割るんですね。
アニメとか映像作品ですね。これから本当にスマホとかのカメラの性能がどんどん良くなっていくじゃないですか。だから皆さんも、自分で映画を作ろうとか考えることが多いと思うんですけども、その時にはガンダムのテレビ版を見てください。本当に、ここには演出の全てが詰まってると言っても過言ではないです。なんでこういうふうにカットを割ってるのか、なんでここでキャラクターがアップになってるのか、全てに合理的な理由があって、全てが面白くなるために作っているので、一度ガンダムを見て、その絵コンテを自分で描いてみると、何をやってるのかすごく分かると思います。映像業界を目指してる人とか、YouTuberでも一段自分の表現を上げたい人は、できれば『機動戦士ガンダム』のテレビ版を見て、絵コンテというのを作ってみてください。
3者の思惑は、ブライトの方は「もう無理だと言ってる奴を止めても仕方がない。自分だって逃げていいなら逃げるよ」っていうぐらいの立場だと思います。アムロは、カイのことが好きかどうかと聞かれたら困るけど、でも仲間じゃないかと、言ってることそのままですね。カイは「俺は限界を超えちゃったのよね」ってブライトに言うセリフ、あれは割と本音なんですよ。「すでに限界以上に、実は俺は頑張ってるな。アムロとかブライトは限界に近いかも分かんないけど、実は俺はもう限界を超えて頑張ってるんだよ」と。
こんな限界を超えて頑張ったら、もういつもの自分のスタイルは保てないというふうに彼は思ってるんですね。だから限界なんですよ。彼が言う限界というのは、これ以上やると、いつも何でも平気だ、「へへ」って笑っている自分が崩れそうなのが怖いんですね。こんなの自分らしくないと思うから、ホワイトベースを逃げるわけです。
だからこの時にブライトが止めて、カイを逮捕して牢屋に入れちゃったらどうなってるのかっていうのは、別の話、もしも話になっちゃうんですけど、そういう展開もあり得たとは思いますね。でもカイは出ていってしまうんですね。アムロは追いかけます。
追いかける前に、全景ですね。ドライドックですね。このタイタニック号が建造されたドックの中にホワイトベースが整備されてるんですけども、この全景が映るんですけど、最初、カメラの画角はここです。これだけ映ってるんですね。だからこの上半分しか映ってないので、パースとしてはホワイトベースの主翼の下が見えてます。ブリッジの下も見えてます。つまり煽りですね。下から上を見る構図でカメラが捉えるんですけども、カメラが降りていくと、いつの間にか上から下を見てる構図になってるんですね。カメラが俯瞰で物事を捉えてると。
これを1枚の絵で描けちゃうところが、アニメーションの嘘ですね。これをカメラを動かすことによって、見てる人間に「あれ、この絵、パース変だぞ。遠近感変だぞ」っていうのを分からないようにしながらも、1つの絵として、下から見たホワイトベース、上から見たホワイトベースっていうのを1枚の構図の中に収めてる。これ、うまい。
あと僕がうまいなと思うのは、このメガ粒子砲を入れているドームですね。このドームがあるおかげで、難しいホワイトベースの後ろ半分のエンジン周りとかを描かなくて済むんですよ。ここら辺、ちゃんと描いたらパースがめちゃくちゃ大変なんですよ。でもホワイトベースって形が複雑なんですけども、要するに、この前のカタパルトの斜線、斜めの線と、ブリッジ周りのこの線さえちゃんと描いたら、後ろ半分って案外この巨大なドームが隠してくれるんですよね。だから、この巨大なドームがあるんだっていうのが分かると。
次のカットもそうですね。次のカットもボーディングブリッジ、乗り込みブリッジが伸びていて、シャアがホワイトベースを離れると。シャアじゃないか、カイが離れると。その後アムロが追いかけてくるって話なんですけど、ここも後ろに巨大な黄色と黒のドームがあるから絵になるわけですね。おまけに、後ろの描くのが難しい、パースを取るのが難しいものを隠してくれる。ここら辺も作画のカロリーを減らして、絵を効果的に見せる方法だと思います。うまい、本当に。
これ、実はBパートでミハルがホワイトベースに潜入する時も、このブリッジを使う。同ポジションだから、これも映像的な伏線というわけですね。カイが離れる時と全く同じ構図を使って、ミハルが1人で忍び込む。カイには「行くのをやめてください。僕たちは仲間じゃないか」と言ってくれる人がいるんだけども、ミハルは誰にも見られることがなく、たった1人でホワイトベースに侵入するっていうのを、全く同じ構図でやる映像的な伏線になってますから、後で覚えておいてください。
アムロがそこで追いかけてきたのはなんでかというと、もう止めるためじゃないんですね。「これを持っていってください。売ればいくらかにはなります」って言って、工具箱を渡すんですよ。カイは驚いて振り向くんですね。カイの目線がこの時にちゃんと動くんですね。アムロを見て、工具箱を見て、またアムロに戻るっていうのを、このワンカットの中でちゃんとやってます。
アムロが喋りかけて、最初カイは「うん、なんだろう。俺を止めたいのか、引き止めるのか。ああ、俺がいなかったら戦力が減るもんな」と思ってたら、アムロが言って驚いて、工具箱を見て、またアムロの方に顔を戻すんですね。これでカイは「それはお前の工作箱だろう」って言うんです。そうすると「どこへ行くにもお金はいるでしょ」ってアムロが返すんですね。
どういう意味かというと、ホワイトベースの備品じゃないんですよ、この工具箱って。アムロの私物なんですね。多分アムロの、もう全財産みたいなものなんですよ。ハロとこの工具箱ぐらいしかアムロの私物ってないんですね。その私物であって、売ったらいくらかになるようなものをカイに渡す。全財産を渡すっていうのは、これにカイはショックを受けるんですね。びっくりすると。
アムロが本音で話してくれて、カイは「そういうところ苦手だな」と思いながらも、ちょっと本音を返すのと同じようにですね。アムロが自分を止めるのは、自分が助かりたいためだと。ホワイトベースとしてはガンキャノンのパイロットのカイがいた方が安全で、戦闘力が上がる。だから、所詮俺を止めてるだけだろうっていうふうにカイは思い込んでるわけですね。ところがアムロはそうじゃないと。自分の全財産を差し出して、「これを売ってください。それで、どこに行くにしてもお金ぐらい必要でしょ」って言うんですよ。だから、これを受け取っちゃったことが、カイにとってホワイトベースのみんなとの繋がりを、まだ持ってしまったということなんですね。
それに対してカイが「ありがとうよ。俺だってお前の全部が好きってわけじゃねえけどよ。恩に着るぜ」って言うと、やっとカイの本音ですね。「俺だってお前の全部が好きってわけじゃねえけどよ」って言ってるのは、もう「お前のこと、ほとんど好きだけどよ」って言っちゃってるんですよ。でも、そんなふうにはっきりと「あなたのことが心配です」って言うようなのは、俺は苦手でとても言えねえと。このままこの船にいたら、多分俺はお前みたいな奴になっちゃって、いい奴になっちゃって、俺じゃなくなっちゃう。それもカイが出ていく理由の1つなんですよね。だから「恩に着るぜ」って、カイの本音をまっすぐに伝えます。
そのままカイが、これ同カットなんですけども、「世話になったね。ありがとう」って急にピースするんですよ。カイがそんなことをやったからアムロが「えっ」と思って振り返ると、そこには、かつてこの船に乗ろうとするカイのことを「軟弱者」と言って張り飛ばしたセイラさんと、実はカイが心配で心配でしょうがないちびたちが、あんまりカイのことを好きじゃないちびたちが、一応見送ってくれてるんですね。
見送りに来られた時、多分この瞬間が彼には一番辛いんですよ。みんなに罵られて、呆れられて、「やっぱり軟弱者ね」とか「怖いから逃げるんでしょ」と言われて、「へい、そうなんですよ。すいません。俺ってそういう奴なんですよ」と言って、みんなに「もう来るな」って言われて逃げる方が楽なんですね。でもそうじゃなくて、ここでカイは借りを作っちゃったんですね。アムロの工具箱を受け取って、アムロが自分のことを心配してるという好意を受け取ってしまって、そして帰ってきてほしいと思ってる人たちの見送りを受けてしまった。借りを受けてしまった。後にカイがこの話でホワイトベースに戻ることになってしまう、この伏線というか原因を、ここではっきり作ってるんですね。
さて、第27話「女スパイ潜入!」、Aパートの後半です。霧の中を浮上してくる、もうフリップありません。潜水艦が浮上してきて、その露天の見張り台にシャアとブーンが立ってます。前回の続きなんですね。多分、前回からいうと数時間後ぐらいの話です。だから、まだシャアはブーンの潜水艦に乗ったままですね。新型モビルスーツ、ズゴックでホワイトベースの足を止めようというふうに、シャアは命令します。
シャアは「木馬がどこに行くのか知りたい」という意味ですね。だからホワイトベースを無理に攻略しろとは言ってないんですよ。ブーンはそれに対して「探りは入れさせてます」って言います。ズゴックの出動命令も、ホワイトベースの足を止めるだけなんですよ。その間に、シャアの方針としては、ホワイトベースを落とすっていうのは、まだまだステップとしては先だと。今、無理にこの兵力でできるはずがないと。だって連邦軍の兵力に囲まれているもので、潜水艦の中に積める程度の機数のモビルスーツで、勝てる戦争ができるはずがないというふうに思ってるんですね。それに対してブーンは「探りは入れさせてます」ということで、今回の潜入の元になる伏線が張られるわけです。
カイはベルファストの町へ行くと、前回の戦闘で、綺麗だった町は街灯も歪んで、町全体が焼け野原になってるんですね。前回綺麗だった町も、まあまあ廃墟になってると。その焼け野原になったベルファストの町を歩いてると、ミハルに話しかけられるんですね。「軍艦を追い出されたのかい」って話しかけると、「まあ、そんなところだ」って、やっぱり本音を言わないんですよ。「軍艦を追い出されたのか」って、「そうじゃない。俺の方から出てったんだよ」っていう本音を言わずに、いつもはぐらかすんですね。
「泊まるところがないならおいでよ」ってミハルに言われて、誘われてついていくと。怪しみながらついていくと。「この女、前回も戦闘地帯の危ないところにいたし、今回も俺がホワイトベースのクルーだと知ってながら、ついてこいって言うし、なんか怪しいな」というふうに思ってるんですね。ついていくと、ミハルは丘の上の例の一軒家に住んでるんですよ。「空き家に潜り込んで生活してるんだ」って言います。つまり、これミハルの家でも何でもなくて、今は戦争だから空き家になっていて、そこに潜り込んで生活してると。
弟と妹をカイに紹介します。弟と妹は、あからさまにカイを警戒してます。それに対してミハルだけは、やたら馴れ馴れしいんですね。本来は、この弟とか妹がカイに対して心を開かないのが当たり前で。そういう心を開かない弟や妹に対しては、「ああ、懐かねえな、こいつら。可愛くねえな」って言いながら、ちょっと嬉しそうなんですね。人間の本音を見せてくれてるから。アムロみたいに本音を見せてくれてる人間に対して、カイは安心するんだけども、そうじゃなくて、表面を取り繕って自分に優しくしてくれる人には、彼はどうしても心が開けないんですよ。逆に、つっけんどんな弟か妹の方を見る目の方が、ちょっと優しいんですよね。
ミハルは馴れ馴れしく食事を出して、ホワイトベースについて聞き出そうとします。カイはだんだんミハルのことを疑い、ミハルがちょっと席を外した時に、ミハルが持っているバスケットですね。いつも「何か買ってくれないかい」と言ってくるバスケットの底に、銃があるのを見つけるんですね。カイは「本当、嫌だね」っていうセリフを言うんですよ。
これってカイが持っているアムロの工具箱、つまり無骨な工具箱には敵意がない。愛情があるんですね。「カイさん、行くんだったらこれを持っていってください。売ればお金になります」という全財産。アムロの無骨な工具箱には敵意がなくて、優しくすり寄ってくるミハルの、一見女の子らしいバスケットの底には、敵意の塊である銃が隠してあると。これにカイは「本当、嫌だね」というふうに言うんですね。
それは「世の中辛いね、世知辛いね」っていうのもあれば、「ああ、こういうのを見てしまう俺って、相手の言ってることに騙されたら楽なんだろう。騙されてホワイトベースの秘密とかをペラペラ喋って、この女、俺に気があるんだと思い込めれば俺は楽なんだけど、そうじゃないな」と。「本当、嫌だね」っていうのは、自分自身にも言ってるわけですね。そういうセリフを言う時のカイは、目の前に髪の毛がちょっと降りてくるんですよね。これはカイの心の表現で、優れてるものだと思います。
カイとミハルのやり取り、帰ってきたミハルとのやり取りですね。カイはここでゴロンと椅子に横になって、「手間かけるね」って言うんです。ミハルが「気にしないで」って言うと、カイは自分から情報を言います。「ホワイトベースな、夜にはここを出るって。今日の夜にはここを出る」って言います。ミハルは驚きます。驚いて、そのまま立ち止まってカイを見ちゃいます。「えっ」って言うと、これでミハルがホワイトベースの情報を知りたがってることが、カイとしてもはっきりするんですね。
カイも確信はないんですよ。銃を持ってるから多分スパイだろうと思いながら、ホワイトベースが今晩出ていくって言ったら、ミハルがまっすぐ、思わず自分の方を見てしまったので。ミハルもベテランスパイだったら、「そうなの。どうでもいいけど」って言えたはずなんですけど、「えっ」って言ってしまったと。カイはミハルの方をまっすぐ見ながら、「右のエンジンが手間取ってるらしいんだ。あそこ狙われたら、また足止めだろうけどさ」って言います。
ミハルは驚いて「カイさん」って言います。カイは「いいじゃねえか。弟や妹の面倒を見ているあんたの気持ちは、よく分かるぜ」って返すんですね。カイはこのまま目をつぶって、以上、ホワイトベースの秘密をばらして寝たふりをするんです。目をつぶって寝たふりをする。それに対して「カイさん」ってもう1回言うドラマです。
これ、なんでこんなことをやってるのか、僕もしばらく分かんなかったんですけど、なんでかというと、ホワイトベースにちびたちを置いてきた自分への罪滅ぼしなんですね。だから弟や妹を見たからカイは裏切ったんですよ。カイがホワイトベースを裏切るってことでもないですね。つまり、ミハルがスパイであって、ミハルの得になることを言ったのはなんでかというと、ミハルの弟と妹を見ちゃったからですね。
ホワイトベースのちびたちを自分は心配してたんだけど、そのちびたちから逃げてしまったっていうのがあるから、せめてここのちびたちには何かしてあげたいというふうに思った。だから「弟や妹の面倒を見てるあんたの辛さは、俺には分かるぜ」って言ってしまうと。それはなんでかというと、ホワイトベースで自分はちびたちの面倒を見てきた。でも、ちびたちに好かれてない。それはちょっと辛かったんだというカイの本音が、ちょろっとだけ出てくるところなんですよね。
カイがホワイトベースを抜け出す時も、ちびたちが見送りに来てくれたじゃないですか。見送りに来てくれたっていうので、自分はホワイトベースのちびたちが好きで、心配なんだなって彼は気づいちゃったわけですね。だから、こっちの可愛くない、自分に懐かないちびたちにも何かできないのかと思っちゃって、カイはミハルに情報を喋ってしまうわけですね。
同時に、カイにとっては「俺もミハルも裏切り者だ」と思ってるんですね。「俺はホワイトベースから逃げて、そしてホワイトベースの情報を喋っちゃったりする裏切り者であって、ミハルは地球に住んでいて、連邦軍に近い立場のはずなのにジオンに身売りして、カイのことを騙して」。バスケットの下に銃があるんだから、ひょっとしたら自分はホワイトベースの情報を喋った後、殺されるかもしれないというふうに思ってるわけですね。
お互い戦争なんだから、銃を隠してるっていうのはどういうことかというと、使う気満々っていうこと。もちろん護身のため、念のため持っていくってことはあるでしょうけど、カイぐらい頭の切れる人間だから、相手が本当に聞きたい情報を全部喋っちゃったら、その後始末されることも視野に入ってるんですよ。でも、それでもいいと思ったから、かなり自暴自棄になったから、持ってるセリフを全部言ってから寝るふりをしたわけですよね。相手がためらわず自分を殺せるようにですね。だから、このミハルの気持ち、「お前の気持ち、俺には分かるぜ」って彼が言ったのは、ここら辺でじわっと出てくるカイの本音なわけです。
たまにはある、カイとミハル以外のシーンですね。ユーコンの露天艦橋です。相変わらず霧です。報告が入ります。「107号から報告。右エンジンの修理に手間取ってる」ということで、さっきミハルが早速聞いた情報をジオンに流したわけですね。それの報告があると。シャアは「ズゴックで攻撃をかけてる間に、107号を木馬に潜り込ませろ」って言うんですよ。
ブーンに対してシャアは、「うまくやれたら、ジオンに帰れる手続きを取ってやるよ」って約束するんですね。ここら辺のシャアのやり方です。ブーンはすごい張り切ります。シャアはこのままマッドアングラー、いわゆる潜水母艦の方に戻ります。だから、どこにもここの流れの中に悪意はないんですよ。ちゃんと仕事をしてる男たちがいるだけで、「107号を木馬に潜り込ませろ」。107号が小さい女の子だということも、シャアは知らないわけですね。
それがちゃんと首尾よくできて、うまくいったんだったら、ブーンはここまでの手柄、つまりゴッグを例えば2機失ったとか、そういうことは全部目をつぶって、「お前がジオンに帰れる手続きを取ってやろう」というふうに、目の前に褒美を見せるわけですね。なので、ここからブーンはすごい張り切ることになるんです。すごい張り切ったブーンは、次の話数でやっぱり大変なことになっちゃうんですけども、でもそこには悪意は1つもないんですね。
悪意は1つもなく、シャアにしてみればやるべきことをやり、ブーンはブーンで、多分ジオンに帰れば家族がいるんでしょう。ひょっとしたら子供がいるのかもしれない。そこに帰るのを目的にしてるのかもしれないと。誰も悪い人がいない。だけども、悲劇への連鎖がどんどん作られてるわけですね。
シャアの何気なく思いついた、この107号を潜り込ませるという作戦。この時驚いたんですよ。だから、ジオンのスパイをホワイトベースに潜り込ませるというのはブーンの発想の外だから、シャアが思いつかなかったらなかったんですね。でもそれが全員の人生を左右すると。やっぱりこれってシャアだからなんですよ。シャアだから、ここまで先を見通したことと、悪意はないんだけど全員の命に影響があるようなことができちゃう。
マ・クベとかランバ・ラルだったら、ここまで使いやすくない。監督にとって、演出家にとって、ここまで使いやすくない。マ・クベだったら、もっと先を読んで効果的な手を打った、勝つためにやったという印象になっちゃうし、ランバ・ラルだったら、そのスパイのことを心配しちゃったりするんですね。余計な雑味が入るんだけども、シャアという、有能なんだけど目的のために一直線、だからといって非情なわけではないと。
大気圏で部下が脱出して、部下のモビルスーツが爆発する時に「すまない」と謝って、「今のモビルスーツには大気圏を突破する性能がないのだ」って言って傷つくシャアだからこそ、ここで使えるわけですね。ここら辺は本当に、シャアを戻してよかったっていうことですよね。
水中からズゴック発進です。この色のズゴックが一番好きなんですけどね。今回のカラハというパイロットが、やたら張り切ってると。実際、みんな第27話を見てください。面白いところは、このカラハというモビルスーツのパイロットが全く深刻じゃないんですよ。ずっとノリノリなんですよ。「ヒャッハー、このズゴックは俺に一番合ってるぜ」とか言いながら、「そんな攻撃がズゴックに効くもんか。このモビルスーツの腕を引きちぎってやろうか」って、延々このおっさん楽しそうなんですね。
このおっさんが楽しそうでノリノリなところが、ウェイ系ですね。ウェイ系なんですけども、それのおかげでこのズゴックが強く見えたり、あと珍しくハヤトがガンキャノンで出場するんですけど、そのハヤトのガンキャノンがピンチに見えたりするのも、このカラハというキャラクターが本当にウェイウェイで、楽しそうに戦闘して、「すごいぜ、このズゴックというメカ」ってやってる。この敵のモブキャラも、いちいち注意深い奴、自信に溢れた奴、呑気な奴というのを、色々変えて出すことで面白みを出してる。そこら辺もガンダムの魅力だと思いますね。
と同時に、潜水艦の中でもう1つのドラマも動いてます。もうシャアは行ってしまったので、ブーンがコノリーという男に上陸を命令してます。コノリーは軍人なのに私服です。これ、別にベルファストに住んでる市民じゃないんです。私服を着せてるんですね。霧の中、ゴムボートを出して、コノリーはゴムボートでベルファストに向かいます。その向こうでは、この2号機、2番艦がミサイルを発射してます。
これを1つの構図で見せるのがいいですね。霧が重く垂れ込めた、厚い雲が垂れ込めたベルファストの町ですね。それが遥かに見えて、沖の方から一隻のボートがゆっくりと進んでいくって。
そのほかには潜水艦がいて、地上を攻撃するためにミサイルを発射してるという説明的なカットが、もう全部一つの絵に収まってるんですね。説明的な要素がですね、この辺うまいです。
軍人が私服に着替えて敵地に潜入するから、もう見つかると問答無用で銃殺刑になるんですけど、軍法会議もなしです。これはスパイと見なされて、問答無用でその場で銃殺になるんです。本当に見つかっただけで殺されるから、普通だったら見つかったら「降伏」って言って手を上げたら、その場で逮捕されて、刑務所に送られて捕虜になって、飯を食わせてもらえるんですけど、スパイは違うんですよね。その場で銃殺だから、本当に決死隊なんです。
今回の作戦全体、全てスパイ107号ミハルに、ホワイトベースに潜入するための作戦なんですね。だから相変わらずゴッグとズゴックが二機で出撃しようと、もうどうでもいいわけです。シャアはもうマッドアングラーに帰っちゃうわけです。前線で戦いを見ようとせずに、もうマッドアングラーに帰っちゃうんですよね。
ユーコン二号からズゴックが出て、一号からゴッグですか、が出て、連邦が防戦態勢に入る。海岸に近づいてミサイルが飛んでくると見せかけて、コノリーのボートを上陸させる。このすごい流れっていうのは全部、ミハルに連絡を取って、ミハルに金と連邦軍の服を渡して、ミハルにホワイトベースに潜入させるという小さい作戦をやるために、モビルスーツを発進させてるわけですね。
ホワイトベースも戦闘態勢になります。ズゴックが近づいてくるのが分かったから。セイラのGファイターは、今回Gファイターにセイラが乗って出撃するんですけど、相変わらずゲートが開かない。前もガンダムが、ゲートが開かないから、ホワイトベースを囲ってるものが開いてくれないんですね。だからガンダムが歩いて出てきて、ロケット噴射でジャンプして飛び越えるってことをやったんです。
今回セイラさんは、発進すると同時にビーム砲で壁に穴を開けて、そこを通ってくれって言われるんですね。セイラさんが「そんなのできるの?」って言ったら、「セイラさんならできますよ」って言われて、セイラさん、できるかなと思ってからパッと行ったら、ちゃんと壁に穴を開けて、そこを通って出てくるんですね。
すごい小さいんですけども、セイラさんの腕もどんどん上がっていくし、やっぱり毎回一回は、この新しいおもちゃ屋さんのメカの見せ場を作ろうという、富野さんの一応仁義を切ってるところが見えて面白いですよね。27話で見てください。本当に小さいシーンなんですよ。でもセイラさん、かなり無茶振りされて、「できるかな」って言いながら、できちゃったということで、シューカーッと抜けていって、すごいシーンなんですけどね。
ガンダムは今回はちゃんとビームライフルがあります。ビームライフルを持って歩きで出撃ですね。相変わらずゲートが開かずに出撃して、このGファイターの上に乗って、このままガンダムが出撃してきます。
前回のゴッグに続いて、二機目の新型モビルスーツ、ズゴックですね。ズゴックが登場しました。まだズゴックはAパートで上陸してません。Aパートで水を進んで、さっきのパイロットから「ウェイウェイ」って言ってるだけの状態なんですけども、どんな戦いをするモビルスーツなんでしょうかということで、『機動戦士ガンダム』第27話「女スパイ潜入!」のAパート前半、ここで終わりです。お疲れ様でした。
機動戦士ガンダム講座、第27話「女スパイ潜入!」の、今日はBパートですね。Bパートの前半部分を無料でお届けします。Bパートの冒頭は、ソファーで寝ていたカイが戦闘音で起きる場面からです。ミハルの家でソファーで寝てましたカイ君が、ドンドンと外でドンパチ戦争の音がしてるので、「えっ」って思って起きる。寝たふりしてたのに、いつの間にか本当に寝ちゃったんですね。「空襲?」っていうふうにして驚きます。
外を見ると、これカイが窓の外を見ると、窓の外に見える風景です。手前に手すりがあって、幼い兄弟が町を見下ろしてる。町を見下ろすと、そのはるか向こうの町では爆発が連続して見えてて、二人を照り返してるわけですね、爆発が。「ホワイトベースが攻撃されてるのか」ってカイが思って、心配になって外へ出ます。
兄弟に「お姉ちゃんは?」って聞いても、二人はしらばっくれるんですね。彼は嫌な予感がします。ここでしらばっくれるということは、ミハルがいないってことは、危険なところに一人で行ってるに違いないわけですね。カイは、ちょっとこれが変わっちゃったんですけど、実はこの後、この家を離れるんですよ。でも、なんでカイがこの家を離れるのかの説明が一切されてない。だから視聴者に預けられた状態なんですね。
カイの心理って、これまでにないぐらいちゃんと表現されてるんですけど、肝心なところをセリフで説明してくれないから、僕らは何を伝えようとしてるんだろうっていうのを自分たちで考えて、キャラクターの行動っていうのをトレースしなきゃいけないわけです。そのお姉ちゃんは今何してるのかですね。お姉ちゃんはですね、おっと、もう一枚あった。
ミハルは、この戦闘中で危険な海岸ですね。これ海があって、船が沈没してます。座礁、沈没してますね。お姉ちゃんは自転車でガーッと走ってるんですね。そこでコノリーですね、前回、これAパートでジオンのスパイとして上陸していたコノリーと出会って、お互いに暗号を言って分かります。
ミハルはこのコノリーのことをすぐに、ジオンのスパイの人だって分かったんですけど、コノリーは「まさかあんたみたいな人が」って言うんですね。そんな幼い子供みたいな女の子が、自分の相手と思わなかったんですよね。コノリーは金の入った袋と、あと連邦の制服を渡します。「これで潜入しろ」って言うんですね。「どうやって?」って言ったら、「そこは自分で考えるんだな」っていうふうに言うんですね。
最後のコマですね。コノリーは「成功したらまた金くれるってさ」。最初、金をもらった時にミハルは驚くんですよ。「こんなに」って言うんですね。こんなにもらえると。今回の作戦って、このミハルがもらってるの、多分金の塊なんですけどね。金貨なんでしょう。それをもらって「こんなに」と驚くと、「成功したらまた金をくれるってさ」っていうふうに言うんです。
ミハルはホワイトベースに潜入するという任務がかなりきついことを分かってるんで、「やるよ。あたし、食べさせなきゃいけないからね」っていうふうに言います。自分の弟と妹を食べさせるためにやる。危険だけどやる、こんなにもらえるんだったら。そうするとコノリーは「偉いな」っていうふうに言うんですよ。
この一瞬だけ普通の大人と子供の会話なんですよね。その子供に対してちょっときつめのバイトをお願いして、子供の方は「やるよ」と。でもやる理由が何かっていうと、幼い弟と妹を食べさせなきゃいけないからねって言うと、コノリーはふっと素に戻ってしまって、「偉いな」っていうふうに言っちゃうんですね。スパイがその同僚にかける言葉じゃないんですね。
こんなことをやっちゃうと、後でスパイは気持ちがつらくなっちゃうから絶対やっちゃいけないんですけど、コノリーはついついやってしまう。唯一このガンダムのこの話数の中で、ちょっとまともな会話が交わされるんです。
発進して、アムロはこのGファイターの上にまたがって乗っかって、海中を捜索してます。海中のゴッグから、海中をバーッと走ってるゴッグから攻撃を受けて、手分けして戦うためにガンダムは水の中へドボーンと落ちて、ゴッグと戦い、あ、ズゴックだ、ズゴックと戦いを始めると、こういう展開になってますね。
ミハルはその間、ガンダムとズゴックが戦闘してる間に家に帰ります。当然カイがまだいるんだろうと思ってるのを、どういうふうに始末しなきゃいけないのかというふうに考えながら帰ったんだと思います。
帰ると、この後、実はこの後のカットを先に見せてるんですけども、この後ミハルはこの兄弟二人をぐっと抱きしめると。これ横に流せるですから、この左のカットから始まって、ずっと弟を見せてから妹を見せるっていうカットになってるんですけども、最後はミハルはこのカットで幼い兄弟を抱きしめて別れを告げる。「姉ちゃんちょっと行ってくるけど、二人で頑張るんだよ」って言うんですね。
これ、一見平凡なんですよ。絵的にもそんな工夫もないんですよ。肝心のミハルの顔も見せてないんですね。でも、この平凡なカットに行き着くまでのドラマのプロセス、どうやってこのカットをいいカットにしてるのかっていう、この精密な作り込みをちょっと見てほしいので、これからどうやってこのカットに至るのかというのを説明します。
ミハル、家に帰ります。そうすると兄弟が外に立って待ってます。まずミハルは兄弟に「あいつは?」って聞くんですね。カイに実は心を許してないんですよ。カイに心を許してないから、この時に兄弟に対して「あいつは?」って、あいつ呼ばわりして聞くんですね。まず最初にそれを聞くと、兄弟が「少し前に荷物を持って出ていったよ」っていうふうに言うんです。
ミハルはすごい驚く。なんで驚くのかというと、自分のことを通報されるんじゃないかというふうに思ったからですね。だから驚く。これ見てください。この驚いた後、かなり険しい顔になって兄弟に詰め寄ります。自分の弟に「なんか言ってたかい? なんか言ってたら、ちょっと覚えてるだろ? なんて言ったかい?」って詰め寄ると、妹の方が「頑張れよ」っていうふうに答えるんですね。
この兄弟にカイは「頑張れよ」って告げて出ていった。あ、違うな、兄弟に言ったんじゃないな。「なんか言ってなかったかい?」だから、ミハルに対しての伝言を聞くと、「頑張れよ」っていうふうに言われたと。それで驚いちゃうんですね。
ミハルは空を見上げます。空を見上げるという演技は、アニメでは目の前の人ではなくて、誰かのこと、何かのことを考えてるって意味の演技です。この時にミハルが独り言で言うのが「カイさん」なんですね。「あいつ」だったのが、初めて自分で相手のことを「カイさん」っていうふうに、相手がいないのに、別にご機嫌を取る必要がないのに、「カイさん」っていうふうに出てくる。この時にようやっとカイのことを思うようになるんですね。
ミハルは二人の肩をつかみます。肩を抱き寄せて、「仕事に行ってくる。今度は少し長くなるかもしれないけど、いいね」っていうふうに言います。そうすると二人はうなずきます。「お金は少しずつ使うんだよ。置き場所は誰にも教えちゃいけないよ」。あの大金ですね、ジオンからもらった時に「こんなに」って驚いたお金を二人に渡して、「少しずつ使うんだ。置き場所は絶対に言っちゃいけないよ」って言うと、弟の方が「分かってる」っていうふうに答えるんですね。
この肩をつかんで二人に諭して、ここで終わるはずだったんです。でも、その時についついミハルは抱きしめちゃうんですね。心配かけないように軽く、「ちょっと姉ちゃん出かけてくるんだけども」っていうふうに言って行くつもりが、ついつい二人を抱きしめてしまう。肩をつかんでいたはずのミハルは思わず抱きしめてしまって、二人に「この仕事が終わったら、戦争のないところに行こうな、三人で」っていうふうに言います。
そうすると、ぐっと姉に抱きしめられて、兄弟は、姉だけ抱きしめて、妹の方が「姉ちゃん、母ちゃんの匂いがする」っていうふうに言うんですね。そうするとミハルは「思い出させちゃったかね」っていうふうにだけ言うんですよ。
この時にミハルがちょっと泣いちゃうんですね。ちょっと泣いちゃうのはなんでかっていうと、ミハルは涙を見せないはずだったんですよ。だから二人が「母ちゃんの匂いがする」って喜んでると。これからミハルがどんな危険なところに行くのか知らないから。兄弟はすぐに帰ってくると思ってるから安心したんです。安心したから、ミハルに「母ちゃんの匂いがする」と言うんですね。でもミハルはしばらく帰れないことが分かってる。下手したらずっと帰れないことが分かってるから、兄弟に見えないところで泣いてるんですね。
そこに横から光がビカーッと当たると。この光は何かっていうと、戦争の光ですね。なんで戦争してるのか。ミハルがジオンのスパイだからです。この戦争、このベルファストの戦闘に関しては、完全にミハルが原因なんですよ。ミハルが犯人なんですよ。ミハルがジオンのために、金のために、弟と妹を助けるために情報を送ったから。
ベルファストの町は綺麗な町だったんですよ。さびれてるとはいえ綺麗な町だったんだけども、前回の攻撃で町全体が廃墟になって、今、町が攻撃されて死人がどんどん増えて、そして爆撃の光が自分たちを照らしてる。これは全てミハルが連邦の裏切り者になって、ジオンのスパイをやってるからなんですね。でもそれを、まるで美しいもののように明かりが照らしてると。かっこいいでしょ。
抱きしめたままのミハルと兄弟二人を、何も言わないままカメラはどんどんロングになるんですね。俯瞰からロングになっていって、そしてそこに時々、爆撃の光ですね、ガンダムとズゴックの戦闘の光だけが、時々この三人を照らしていくと。この世界に三人だけいるような感じになってると。いや、うまい。
本当に「復活のシャア」から「女スパイ潜入!」に至るまで、光の使い方とか、あと天気の使い方とか、町の使い方。一番最初に綺麗な町を見せて、廃墟を見せて、その廃墟の中を自転車で走るミハルっていうのがいて、そこでお金の受け渡しがあって、金のために裏切ってるっていう、いわゆるキリストを裏切ったユダとか、シータを金貨で売ってしまったパズーみたいな、罪悪感のある金の受け取りっていうのを見せた上でこの別れをするから、めちゃくちゃ盛り上がるんですよね。
ただ、こんなにすごい話数なんですけども、やっぱり、ちょっとお茶飲みますね。Wikipediaとか、ガンダムのムックとかを見ると、ミハルの悲しい運命とか、そっちの方に注目してるから、カイを中心とした、この弟と妹っていうのがいる、ホワイトベースのちびたちっていうのがいるから、どんなすごいドラマになってるのかっていうのは、なかなか分かりにくいんです。
本当にそうだ。今コメントで流れたんだけど、『この世界の片隅に』をやってるわけですよ。『この世界の片隅に』をもう1979年にやってるんだけども、なかなかこれは見つけてもらえないわけですね。すずさんのように見つけてもらえない、この世界の片隅がここにあるんですけども。ということで、抱き合う三人に爆発の照り返しっていうのがあるんですね。
ホワイトベースに場面が変わります。ドックの中のホワイトベースは、ついに攻撃されます。ホワイトベースはそれまでドックの中にいて、敵の攻撃を受けてないんですね、前の話数では。ところが、そのドックの中にどんどん攻撃が入ってきて、常に攻撃が当たりだします。
ハヤトはガンキャノンで出撃。カイがいないから、とりあえず使いにくいガンタンクではなくて。っていうか、ガンタンクって元々長距離攻撃用なんで、モビルスーツが上陸してきて近づいたら、ガンタンクって使いようがないんですね。それよりはガンキャノンを出そうということで、ガンキャノンに乗ります。ズゴックは上陸して、ホワイトベースを攻撃し始めます。次のカットもですね。うん、大丈夫かな。
カイです。カイが丘の上から町を見てます。町の何を見てるのかというと、実はここを見てるんですね。これ何かっていうと、前の話数でホワイトベースがドックに入る時のドックなんですよね。ベルファストの町の中にある、昔タイタニック号を作った最大のドックを見てると。あの中にホワイトベースがいる、仲間がいると。それが今攻撃を受けている。
俺はどんな気持ちかっていうと、カイは「俺にはもう関係ないんだよ、ドンパチなんか」っていうふうに言うんですね。自分にまるで言い聞かせるように言う。この時のカイはまだ余裕なんですけども、さっきミハルと幼い兄弟たちを照らしていた、この戦闘の明かりですね。この戦闘の明かりが、やっぱり人間の本音をあぶり出すんですよ。
ミハルは黙って行くつもりが、この光に照らされて本音として涙が出てきてしまったし、カイも今、本音をあぶり出されようとしてるんですね。「俺は関係ねえよ」って言ってるんですけども、その光に何回も照らされて、ここからカイの回想シーンが始まります。
前のシーンのミハルのリフレインとつながってるんですけども、回想シーンのカイは、ろくなことないですよ。ここにちょっと出してないんですけど、まずカイが最初に思い出したのは何かっていうと、ホワイトベースのブリッジでブライトさんに張り倒されたシーンを思い出すんですね。張り倒されたシーンを思い出して、次にぶざまに倒れてるところを、リュウさんに指さされて罵られるところを思い出して、最後にセイラさんにひっぱたかれて、「この軟弱者」っていうところを思い出すんですね。
だからろくな思い出がないんです。ろくな思い出がないはずなのに、カイはその見捨てたはずのホワイトベースが気になって、ようやっと自分がそれを気になってることが分かるんですね。気になったことに腹が立つんですよ。
これ、ホワイトベース、戦闘で照らされてるじゃないですか。照らされてる色と回想シーンが同じ色なんです。同じオレンジで、自分がホワイトベースの仲間と本音で関わったシーンばっかりなんですね。ブライトさんが、それまでの取り澄ました「俺は軍の候補生だから、民間人なんかに腹を立てたりはしない」って言ってるのを、カイに向かって思わず本気になっちゃったり、リュウさんが「なんでお前そうなんだ」って怒鳴ってたり、セイラさんが「軟弱者」って殴ったのって、やっぱりカイが一番ハートをつかまれる、本音で自分に向かってくれた瞬間なんですね。
それらがオレンジ色の回想になって、このオレンジ色に顔が照らされるっていうことは、やっぱりその戦闘の光がカイの本音をあぶり出してるという象徴なんですね。だから、この光が去った後のカイは、さっきのばかにしてたカイと、「俺には関係ないよ」っていうカイと、表情が変わっちゃってるんですね。心の変化をこの色で表現するって、かなり高度な演出をやっています。
いろいろ理由らしきものを自分に言い聞かせたり、ブライトに話したりしたんだけども、要するに自分は軟弱者だったんだと。ここでカイは、軟弱と言われて、「本当、軟弱者かもね」っていうふうに独り言で言って、ノーマル色に戻るんですね。
軟弱っていうのはどういうことかっていうと、「俺らしくない」とか、「俺たちは軍人じゃないだろう」って言ってたんだけど、要するに何だったんだ? 怖かったんだと。このままジオンにはもう勝てないんじゃないかと。無理して戦ってるアムロ、無理して戦ってるブライトさんと違って、俺にはもう無理だ。俺にはもう怖くて戦えないんだと。もう無理だと思ったと。だから、あんなにかわいがっていたちびたちを見捨てて、俺は逃げたんだと。
逃げてきた先で何があったのかっていうと、同じように子供を守ろうとしている女の子に出会って、その女の子に、もう俺はホワイトベースのことを裏切ったから構わねえやと思って話したら、その結果ホワイトベースが今攻撃を受けてる。ちびたちが今、ひょっとしたら死ぬかもしれない戦艦の中にいるっていうので、カイはようやっとそこで「本当、軟弱者かもね」っていうふうに自分のことを言うんですね。
自分の弱さっていうのかな。弱さを認めるって言ったら、もう本当に当たり前のことになるんですけども、本当にいろいろ、カイっていうのは複雑な人間なんですけども、それが一気にこの光によってあぶり出されるって、ちょっとすごいシーンなんですよ。
こういうシーンを見せながら、合間合間に、カイの回想シーンの合間にもガンダムとゴッグの戦闘シーンがあるんですよ。ホワイトベースがやられてるシーンが入るから、もう忙しくてしょうがないんですけど、要するにそれはもう全て背景なんですよ。背景音であって、これはもうカイとミハルという二人のオペラを、歌劇を作るための背景音とか、サブの歌でしかない。これを本当にやるために、この話数っていうのは作られてるわけですね。カイ・シデンっていうのを表すためにです。
ようやっとゴッグを倒して、海中でゴッグとアムロの戦闘があって、ゴッグだけ水の中で倒して、アムロはハヤトの援護に向かいます。ハヤトはその頃、ズゴックにもうボロボロにやられそうになってるんですけど。
その中、カイは、よいしょ、走ってくるバイクを徴用するんですね。走ってくるバイクの前に立って、カイが「止まれ」っていうふうに言うんですよ。「軍の者だ。止まれ」って言うんですけど、やっぱりここの転換ポイントですね。「軍の者だ」っていうふうに、自分のことを初めて言うんですね。
カイは「軍隊に入った覚えがない。このままでは兵隊になっちまう。命令次第でどこでも行くのは嫌だ」って言いながら、この時に「軍の者だ、止まれ」と言って、身分証明書を見せて、「後で基地まで取りに来てくれよな」。すごいいい顔で言うんですね。つまり自分がもう軍隊の一員であるっていうふうなことを受け入れて、めっちゃかっこいいですね、ポーズ。
これ、なかなか描けないですよ。左手で身分証明書をこう出して、こうやるっていう、すごいパースが決まってるんですよね。いい顔で言って、その後、坂を下りていく。坂を下りていく、その向こうにあるのは何かっていうと、さっきの、まだこのホワイトベースが入ってるドックが見えたままですね。これをちゃんと見せたままにして下がるかどうかっていうのが、富野演出ですね。
ちゃんとその位置関係が分かって、彼が何のために戦って、どこに向かってるのかっていうのが、俯瞰でちゃんと、見てる者が混乱しないようになると。そうでありながら、映像演出の原則である上手から下手っていう、状況を進める流れにすると。それをするために、この不自然な構図があるわけですね。カイの顔はいつもこちら側を向いてなきゃいけないんですよ。この時からこういうふうにやってるわけです。
軍人にはならないとホワイトベースを離れたが、自分から「軍の者だ」って言うっていうのは、「俺っていうのは何だ」「軍人じゃねえよ」とか、「俺のことを勝手に決めないでくれ。俺は俺なんだ。軍人なんだ、そんなふうに決めないでくれよ。俺はもっと自由な俺なんだ」っていう、そういうしょうもない中二病的な自我が切れた。「俺は軍人なんだ」っていう立場を受けるんですね。だから、この覚悟を決めた顔がかっこいいわけです。
というわけで、無料はここまでです。続きの限定は、限定会員の方のみになってます。よろしくお願いします。お疲れ様でした。
『機動戦士ガンダム』第27話「女スパイ潜入!」、Bパート後半。これで最後です。その頃、ハヤトのガンキャノンはズゴックに苦戦してます。もう負けそうになってます。それに対してカイはバイクで走ってホワイトベースに向かってます。ホワイトベースに到着すると、ガンタンクだけ残ってるんで、ガンタンクに乗って出撃するんですね。
ガンキャノンはその頃、このズゴックに腕をガッとつかまれて、「腕を引きちぎってやる」と、もうノリノリの、こういう「腕を引きちぎってやるぜ」という『北斗の拳』の悪者みたいなやつに言われて、「うわあ」って言って、ちびのハヤト君がもう駄目だみたいなことになってるわけですね。ピンチと。
そこにようやっとガンタンクですね、カイの乗った、いつもと違ってガンタンクに乗ったカイが助けに来ます。しかし、パワーでは勝るズゴックに、やっぱりガンタンクでは勝てないわけですね。さらにそこにガンダムが助けに入るんですけど、ズゴックは海の中へ逃げてしまいます。
海の中にガンダムを誘い込んで、ガンダムも海の中へ飛び込んで、さあ海中の戦闘。ところが、この海中の戦闘のままやると前回のゴッグの戦いと同じだし、それにもうすでにゴッグとズゴック、今回二機来てて、ついさっきゴッグをガンダムは水中で倒したところだから、工夫がないんですね。『機動戦士ガンダム』っていうのは、一話ごとのモビルスーツの戦いっていうのは必ず工夫を積み重ねていくので、同じようなことを本当にやらないんですよ。どういうふうになるのかと、戦闘のちょっと続報があります。
その頃、ミハルは連邦軍の制服に着替えてます。家で弟たちと別れを告げた後、着替えたんですよ。制服に着替えて、周りを警戒しながら走るんですけども、このちょっと走るごとにしゃがんだり、周りを警戒するところが、ちょっと小動物みたい。もうおびえきったリスとかみたいで、めちゃくちゃリアルなんですね。
そうやりながら、故郷の、もう人が住めなくなってるような廃墟ですね、ベルファストの町を走りながら逃げていきます。ホワイトベースがやっと見つかったと。もう警戒してないっていうか、警戒してる人間は戦闘するか死んでるので、見張りの人間はそういうふうになってるので、誰もいないホワイトベースにミハルが近づいていきます。
ここでミハルが後ろを見てしまうんですね。振り返って後ろを見るのはなんでかっていうと、これまでの周りを見るじゃないんですよ。これまで左右を見て、大丈夫と確認しながらミハルは行ってるんですけど、ホワイトベースに乗る時にミハルが後ろを向くのは、兄弟が心配だからですね。もう一目だけでも兄弟に会いたかった、自分が住んでいたあの家が見えないだろうかと言って、振り返ってるシーンですね。
ボーディングブリッジからミハルですね。ここにミハルがいて、ホワイトベースのボーディングブリッジから忍び込みます。これ何かっていうと、ここですね。ミハルの今の忍び込みのシーンなんですけども、全く同じ構図で、カイが出ていく時にアムロが追いかけてくるシーンですね。これと対応して、つまり映像的な伏線の回収ですね。カイが出ていったボーディングブリッジに入っていく。
カイはアムロに引き止められて、そしておまけに三個目ですね、仲間の見送りを受けて、ちびたちの見送りを受けながら、カイは振り返らずに帰って、それに対してミハルはたった一人で、誰にも見てもらえずに、幼い兄弟たちを後に置いて黙って行かなければいけない。このつらさですね。これ、やっぱり映像的な伏線って、こういうふうに張られることで、ドラマがいきなりドーンと分厚くなるんですよね。
その間に、海の上ではセイラがユーコンの二号機、潜水艦を撃破します。アムロはズゴックを海の上に誘い出します。ズゴックにわざと追いかけさせて、ガンダムが海の上にドーンと出たところで、ズゴックが追いかけて海の上に出た瞬間に、カイのガンタンクがドーンとキャノンで射撃するわけですね。この巨大な砲でズゴックを射撃するわけです。
それでズゴックに穴が開いたところで、ガンダムがズゴックを唐竹割りに、頭から真っ二つに切るというふうなことで戦闘は終了。いわゆる子供たちにとっての『機動戦士ガンダム』っていうのは、ここで終わりなんですね。ガンダムがかっこいい。逃げてしまったカイ・シデンがもう一回帰ってきて、友情パワー復活だ。カイ・シデンの友情のおかげで連携プレイができて、そしてズゴックを倒すことができたぞ。もうロボットアニメで散々見たようなシーンを、ちゃんとやってくれるんですよ。
ちゃんとやってくれた後に、カイが帰ってきます。帰ってくる時も、やっぱりカイが面白いことに、本音を言わないんですね。ガンタンクのコックピットから下りてきて、工具箱を持ってますね。この工具箱をほいっとアムロに突っ返すんですよ。「よう」って言うんですよ。「よう」という一言で、「ただいま」とか、「ごめん、ごめん」とか、「やっぱり帰ったわ」とか一切なしです。「よう」の一言だけなんです。
その言いながら、アムロのこの工具箱、「一銭にもならないってよ」っていうふうに言うんですよ。まるでこの工具箱が売れなかったことが原因のように話すんですね。アムロもそれを受け取る時に「そうですか」って言うんですよ。「そうですか」と言って、それ以上追及しない。多分カイさんは帰ってきたいから帰ってきたんだっていうふうにアムロも分かってるんですけど、アムロもちょっと大人だから、「一銭にもならないってよ」って言った瞬間に、「そうですか。そんなはずないんですけどね」っていう言葉を飲むだけの大人があるんですね、アムロの中には。
そこに例のセイラさんも現れて、「あら、カイ君」っていうふうに言うんです。セイラも何も言わない。「あら、カイ君」っていうふうに言うと、カイは「いや、皆さんを見てるのつらくてね、へへ」って言うんですね。皆さん、俺がいないと結構苦戦してましたよね。それを見てるとつらくって、だから帰ってきちゃったんですよってことで、「皆さん見ていてつらくてね、へへ」って言う。
やっぱりカイ・シデンは本音を話さない人なんですよ。それはもうこの『機動戦士ガンダム』というお話の中の最後までも変わらないんですけども。だから、はたから見てカイ・シデンに実はこの回でどんなことがあったのか、分からないままなんですよね。カイ・シデンの中で実はいろんな変化があったんですけど、カイ・シデンは相変わらず「よう」って言って帰ってきて、アムロに憎まれ口をたたく。「こんなもん一銭にもならないんだぜ」って言って、「皆さんを見てたら、もうつらくてね」っていう、カイの本音を出さないしゃべりっていうのしか見てないから、カイの中の内面的な変化は分からないままなんですよね。
その頃、シャア・アズナブルですね。海中深く潜航するマッドアングラーの中で、素敵なティータイムです。なんかいいカップを持ってるんですよ。報告を受けてます。「スパイは木馬に潜入しました。ゴッグとズゴックは撃破されました」って言ったら、シャアはお茶を飲みながら、「そんなところだろうな」っていうふうに言うんですね。そりゃそんなところだろうと。あんなもの勝てるはずがないと。「ブーンの責任だ」っていうふうに冷たく言うんですね。「彼にスパイと接触させろ」っていうふうに言うんです。
この一連のセリフですね。「そんなところだろうな。ブーンの責任だから、彼にスパイと接触させろ」。つまりブーン自体がもう、スパイと接触するぐらいリスクを取れっていうふうに言うんですけども、シャアは冷たいっていうのと同時に、次回への伏線ですね。次回、ブーンがわざと飛行機に乗ってホワイトベースに侵入して、ミハルとコンタクトを取るというシーンがあるんですけど、そこへの伏線をちゃんとここで張ってます。
注目を僕がしたのは、シャアのカップの持ち方ですね。ベルファストというか、イギリスに来てるので、イギリス風の持ち方をしてるんですね。カップの取っ手の中に指を入れてないんですよ。イギリス風の正式なマナーでは、指を入れてはいけないって。『岸辺露伴』の「富豪村」にも出てきたですね。ちゃんとその持ち方をしてるんですよね。面白い。
ガンダムは変なところにこだわりがあって、英国式のお茶を飲んでる時は、シャアは英国マナーを守るっていう、ほんのちょっとしたところが、こいつ育ちがいいんだなというふうにも思いますよね。
このシーンの後、ホワイトベースはベルファストを飛び立ちます。ずっと霧の中ですけども、飛び立ったらようやっと空が晴れて、星空が見えると。つまり、この話数が終わったってことなんですけど、ここで星空を見せるっていうのは、この一連の雲が立ち込めてるような地を逃げて、でもベルファスト自体は霧の中にあるから煙ってるんですね。ホワイトベースは飛び立っていった。
「その真夜中、ホワイトベースは破壊された町を後にした」っていうナレーションがあります。ナレーションも冷たくていいですね。「ホワイトベースは破壊された町を後にした」っていうのは、このベルファストって町が破壊されて、もう基地としても住みかとしても役に立たないっていうふうに言ってるんです。破壊された原因は本当にホワイトベースのせいなんです。ホワイトベースがこんな町に泊まったから、この町は破壊されたし、それはいわばミハルとカイが原因でもあるんですね。
その破壊された町を後にした。そういう運命なんです。彼らは破壊と死を行く先々で作っていきながら、自分たちが生き延びるために戦うしかないっていう。決して無罪ではないんですね。罪深い人間として破壊された町を後にして、次のジャブローへ向かっていく。星空だけがようやっとちょっと晴れて見えてきてるっていう。「信じていれば星空が見える」っていうのは、ここでもちゃんとやってるんですけど、深さが違うぜとか思っちゃいますよね。
ナレーションは続くんですね。「その真夜中、ホワイトベースは破壊された町を後にした」。カメラ位置、最初ここです。縦パンで、最初この構図からゆっくりと下に下りていくんですね。窓が見えて、ゆっくり下に入れていくと、ここに隠れてるミハルを見せるんですよね。「ホワイトベースは破壊された町を後にした」。ここで「一人のスパイを乗せて」っていうふうに続くわけです。こういうふうにナレーションが続きます。
カットの意味を説明します。前のカットの飛び立つホワイトベースは、霧に消えていくベルファストっていうのが見えるんですけども、なんでここで窓を描かなきゃいけなかったのか。なんで窓を描かなきゃいけなかったのかっていうと、これなんですよ。
ミハルは幼い兄弟を、兄弟と一緒に住んだ家を、もう一回だけ見たかったんですよ。だから振り返った。でも、この時に見えなかったんですね。ベルファストの町がどんどん見えなくなってるから、本当はミハルはここに上って、町を一目だけでも見たいんですね。自分の弟たちがいる町を、せめて消えていく町を一目だけでも見たい。その見たい心を抑えて隠れなければいけないっていう、この葛藤が描いてあるんです。これをワンカットの中で見せる、この演出のうまさですよね。
生まれ故郷を離れてなんですけど、生まれたところかどうか分かんないですけど、少なくとも兄弟と一緒にいた町を離れていく時に、ミハルはホワイトベースに入る時、周りからいつスパイと疑われて撃たれるかも分かんない時に、もう一回振り返った。それぐらい見たかったんですね。自分の家を見ずに我慢して、窓があるのに我慢して、ミハルは隠れるしかないんですよね。それぐらい、やはりミハルの心情っていうのを深く厚く描いてるんです。
このちっちゃい窓からも、のぞくことも許されなくて、隠れなければいけない立場っていうのは、さっきも言ったように、上から下へカメラが動いてミハルを映して終わりと思ったんですよ。でも「一人のスパイを乗せて」ってナレーションが言った後、暗転するんですね。ミハルのこの警戒している、こちらを向いてる顔っていうのを映したまま、画面がだんだん暗くなって、闇の中に溶け込んでいくミハルで終わるんですよね。いや、もううまい。めちゃくちゃ余韻が残る終わり方です。
本当に『機動戦士ガンダム』の27話「女スパイ潜入!」は、カイとミハルだけが主人公。前回からもそうですよね。「復活のシャア」からも、シャアを見せるように見えて、シャアとかアムロっていうのは、いわゆるお話を進めるための駒としての機能しかないんですよ。レビル将軍にしてもブライトさんにしても、全てがミハルとカイのキャラクターを立てるために、いろいろ聞いてくれたり動いたりするための役割、お話を進めるための役割で、ドラマっていうのは全てこの二人に集中してるというところが、二話のいいところだと思います。
次の「大西洋、血に染めて」という回は、やっぱりこのまま行くんですけども、どんどん追い詰められていって、もっとつらくなっちゃうわけですけどもね。ということで、お疲れ様でした。さっきアンケート取るの忘れちゃったよね、無料の終わりに。はい。ああ、取って。あ、取った、取った。じゃあ、ここでアンケートお願いします。はい。やっと限定終わりですよ。
はい。「当時はまだフラグの概念がなかった」。そう、本当にそうですよね。フラグの概念、なかったんですよね。三時間超えちゃいましたよね。はい、じゃあ出してください、アンケート。わあ、すげえいいな。ありがとうございます。
もう本当に心配なんですよ。みんな見てないアニメだろうというふうに思ってるから。生放送で見てくれてる人もどうかも分かんないですけど、録画で見てる人も、ニコ生のいわゆるタイムシフトを見てくれてる人も、YouTubeで、なんかこんなのがあるんだと思って、岡田斗司夫のほかの動画を見て、なんか新しいのが上がってるんだと思ったら、もう大昔の、タイトルだけは知ってるけどガンダムだろ、オタクの古いおっさんたちが夢中になってるだけのやつだろうって思ってる人に、やっぱり面白く見てほしいから一生懸命話すんですけど、喜んで見てくれたおかげでよかったです。ありがたかったです。
はい、お疲れ様でした。今日の動画はここまでです。動画の中で話した通り、「復活のシャア」「女スパイ潜入!」「大西洋、血に染めて」は、カイ・シデン三部作は、戦闘パートを全部飛ばしてドラマパートだけつなげてみても、実はこの高畑勲監督の『火垂るの墓』とか、あと
片渕監督の『この世界の片隅に』のような、戦争物のアニメ、人間ドラマになってるんですね。なので今回の解説も、戦闘パートはささっと済ませて、ドラマパートを重点的に話してます。
ただ、初代テレビ向けの『機動戦士ガンダム』のテレビアニメの本当にすごいところは、そんな重厚な戦争ドラマを展開しつつも、ちゃんと隙間時間で、合間合間で、子供向けの面白いロボットアニメの枠を外してないってことなんですね。
例えば、冒頭の会議のシーンで、他の全員が連邦軍の作戦にまあまあ前向きの中で、カイ・シデンだけは違和感を感じているという、ドラマのためのシーンがあるんですよ。つまり、連邦軍の作戦会議が部屋の中にあって、カイが廊下で「こんなことやってられるかよ」というシーンなんですけども、その連邦軍の会議の中で、ちゃんと新商品であるGメカの宣伝をやってるんですね。
つまり、Gメカの宣伝として出てくるシーン、これなんですけども、おもちゃと全く同じですね。分解と合体の仕組みを絵で見せて、パーツの組み合わせだけで作ることができると。この形態の名前を、「これはGファイターで、これはGブルです。これがGスカイだけど、Gスカイは無駄が多いので、下半身を外してGスカイ・イージーとして使うことになります」と。つまり、「Gスカイはアニメには出てきませんよ」という、ちゃんと言い訳も入ってるんですね。こんなふうに解説していくんですよね。これを見ると、見た子供はおもちゃを手に取って同じことをやりたくなるに決まってるんですよ。なかなかいい宣伝だと思います。
戦闘が始まれば、この下の段のように、セイラさんの操縦するGファイターですね、基本の戦闘機形態の上に、ちゃんとガンダムが乗って出撃するんですね。本当にこのシーンね、富野さんは嫌だったそうですけども、嫌なことは嫌なことでちゃんとやるっていうか。だから、みんなカイ・シデンを見てくれって話にちゃんとなってるんですね。
僕の解説動画の中で、こんなところまで解説してたらいくらあっても足りないということで、ばっさり切ったパートも、実はかなり多いんですね。初登場となるモビルスーツ、ズゴックですけども、ズゴックの見せ方がすごいんですよ。こう、前回倒されたゴッグを引き連れてくるところですね。
名前からも、なんとなく連想できるんですけど、おそらくズゴックというのはゴッグの強化なんですよ。ドラクエの呪文で、前に一つ、なんかメラミ、メラゾーマみたいな感じで、ゴッグがあってズゴックがあったら、「ズゴックのほうが一段すごいんだな」っていうのは、ドラクエよりもちろんガンダムのほうが前なんですけど、なんとなく人間、反射的にというか、何なんでしょうね、納得しちゃうんですか。これ、うまくこの法則を使ってるんですね。
今回の戦闘パートでは、この二つのモビルスーツの特徴の違いっていうのを、この話数でうまく表現してるんですね。まずゴッグです。このフィギュアを出してきました。ゴッグの特徴というのは、何よりもこの、見てわかるとおり、ずんぐりむっくりで分厚い装甲なんですよ。なので前回の話では、この分厚い装甲によって、バルカンとかハイパーハンマーが弾き返されたんですね。本当にみんな大好きハイパーハンマーが弾き返された。
しかし今回のゴッグは、ガンダムのビームライフルであっという間にお腹のど真ん中を貫かれて倒されてしまう。つまり、バルカンやハンマーなどの物理的な攻撃とか、衝撃ですか、質量の衝撃には強くても、超高熱のビームで金属を溶かして貫くというビーム攻撃には無意味というのがわかります。ちなみに、前回はちゃんとビームライフルが修理中で使えなかった。こういう流れの使い方、うまいですよね。
つまり、次の回でビームで一発やられる、やられメカ。この『大西洋』……違うな。『女スパイ潜入!』では、このゴッグはやられメカなんですよ。でも、その一つ前の『復活のシャア』では、ゴッグは主役メカというか、すごく強くなければいけない敵メカなんですね。だから、あえて弱点として最初に作った、ビームに弱いっていうのを出さないために、「ビームライフルは修理中です」っていうのを入れてると。流れ作り、うまいよな。次回は雑魚扱いですよね。すごい。これ、うまいよなと思うんですけど。
今回はドーンと、このズゴックです。ゴッグに対してズゴックはどうかというと、装甲というのは、これを見てわかるとおり、ズゴックのほうが小さいですよね。つまり、装甲はそんなに分厚くないんですよ。その代わり速いんですね。素早い。これが後に、こう赤く塗ってるところからわかるとおり、シャア・アズナブルの乗機になるわけですね。
水中でも陸上でも、とにかく素早く動いて攻撃が当たらないと。なんで速いのか、もう書かないんですよ。とにかく速いとだけ書く。これね、あえて説明しないほうがわかりやすいわけですね。とにかく素早く動き回るから、攻撃が当たらないんですね。そして両腕に装備されたビーム砲ですね。ガンダムのビームライフルと同じ、多分ちょっと出力が低いビーム砲を持ってるわけですね。
これは、ジオンのモビルスーツがどんどんガンダムの性能に近づいている。つまり、モビルスーツの戦闘が一つのステージに移り変わってるという表現だと思います。ザクの改良型のグフ、そして地上戦専用のドムっていうのは、そんなにガンダムに迫る性能というわけではなかったんですね。
というのは、ガンダムっていうのは、いろんな武器を使い分けることができることが、ものすごい強さの一つでもあったんですけども、ジオン軍はこれを逆にモビルスーツの中に内蔵することによって、どんどん個別のモビルスーツの性能を上げていき、その代わり派生モビルスーツがいっぱい出る、イコールおもちゃがいっぱい作れるというふうになるわけですね。
なので、ジオンのモビルスーツというか、モビルスーツ同士の戦闘がワンステージ上に上がったというふうに言ったんですけども、ステージが上がった結果、武器がマシンガンとか大砲からビームに変わってくるわけですね。そうなると、装甲は役に立たなくなるので、むしろ軽量化して機動力を上げる方向に進むんですね。
だからゴッグの先にはズゴックがいて、そのさらに下には、どっちが前か後ろかわかんない、なんてモビルスーツだっけ? ゾックだ。ゾックもいるわけですし、あと、みんな大好きアッガイもいるわけです。あそこら辺も、ジオンの悩みみたいなメカなわけです。地球上でも戦闘しなきゃいけないというようなことで、重くしなきゃいけない、でかくしなきゃいけない。出力を上げていけばいいだろうということで、どんどんゾックとかアッガイのほうになるんですけど。
その後、地球から追い出される、オデッサだと。あと、言っちゃえばジャブローの戦いの後ですか、地球はもう連邦に取り戻されてしまった。さあ、宇宙の戦闘だ。いよいよジオン本国の防衛戦ってことになってくると、ジオンは振り切って、宇宙戦闘専用のモビルスーツにまた戻っていくわけですね。ここら辺の流れも、メカマニアとしては見ててすごい楽しいところなんですけども。
ズゴックというモビルスーツは、この大きな歴史の流れを、たった一機で、大河ドラマの中の戦略ですね、長篠の戦いみたいな、信長のお話みたいな、こんな感じで表してると思います。
そんなズゴックは、持ち前の機動力で、ガンダムとかガンキャノンの攻撃をよく避けるんですけども、しかし最後は、ガンダムに気を取られたところを、カイの乗ったガンタンクに狙撃されて、さらにガンダムのビームサーベルを受けて撃破されるわけですね。この倒し方も、今回の主役のカイに花を持たせる、いい演出ですよね。
モビルスーツ同士の戦闘では、ほとんどこれまで役に立たなかったガンタンクを、ちょっとうまく活躍させてます。つまり、いつも成果が出なかったガンタンクも、カイ・シデンが使えばこんなふうに強いんだというような表現にもなってる。本当にね、小林君はかわいそうなんですけど、ハヤト・コバヤシ君はこの後いいことがいっぱいあるから、別にいいと思います。
本当にね、こんなふうに戦闘パートだけ、ロボットアクションだけを切り取っても、やっぱりかなり面白いロボットアニメなんですね。そしてドラマも120点の出来ですよ。この両立を、決して高くない予算、そして完璧とは言いがたい制作体制っていうか、どちらかというとちょっと劣る制作体制の中で作り上げてるわけですね。
同時期にサンライズの隣の部署では、『ザ☆ウルトラマン』っていう、今では本当にガンダムと比べたらどうなんだろうね、みたいな作品なんですけど、そっちのほうがはるかに予算もスタッフも充実してるんですね。そんな中、「俺たちは所詮、サンライズの中の捨て石だ」とか、ちょっと若者向けに作られているおとり部隊だ、みたいな感じでガンダムは作られてるわけですね。
面白いアニメとか優れたアニメっていうのは、いくらでもあるんですけども、限られた今の話の中の条件の中で、ここまでやり切ったアニメっていうのは、なかなか存在できないと思います。逆に言えば、個人が作ったアニメ、一人か二人かのスタッフで作ったアニメのほうが、この状況になりやすいから。だから僕は今、短いアニメとか個人が作ったアニメに注目しつつあるんですけどね。
みんなにも、こんな『機動戦士ガンダム』の素晴らしさですね。つまりドラマの面白さもあるし、ロボットのアクションの面白さもあるんですけど、この制限の中で大人が本気で作ったから、こういうドラマにするしかなかった。なのにこんなに面白いっていうのを味わってほしいと思いました。
それでは、今日の動画はこの辺にしましょう。次回、第28話『大西洋、血に染めて』ですね。これね、『復活のシャア』と『女スパイ潜入!』は、二回分の講義を一本にまとめたんですけども、ついに『大西洋、血に染めて』は全10回であります。全10回のまとめになるんだ。あれ、何時間になるんだっけ? 30時間は超えると……3時間超えるよね。3時間になるとしてください。それではまた来週。バイバイ。
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