元売り手が買い手として同世代の起業家を迎えた理由:iHack・富田真人氏とSEIRYO・宮阪健太郎氏が語るソーシャルワイヤーへのグループイン

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概要

20代から30代前半の起業家の間では、最初の起業で会社を上場企業に売却し、次のキャリアにつなげる選択が増えている。しかし、束縛を嫌う若い創業者を買収した側は、どうすれば成長を続けてもらえるのか。この動画では、約1年前に上場企業のソーシャルワイヤーへ会社を売却した株式会社iHackの富田真人氏と、その富田氏が買い手側の担当として迎え入れた株式会社SEIRYOの宮阪健太郎氏が並んで登場する。2人は売り手と買い手の両方の立場から、売却の決め手とグループイン後の関係を語った。聞き手はM&A BANKのスタッフと、MCの島袋直樹氏である。

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売却から1年、変化を実感したのはオフィス統合のとき

富田氏が率いるiHackは、主に化粧品会社向けにSNSを使ったマーケティングを支援する広告代理店である。約1年前、東証グロース上場のソーシャルワイヤー(証券コード3929)にM&Aでグループ入りした。開示されている評価額は7.6億円だという。創業から約7年が経ち、8年目に入るところで、M&Aは丸6年経営した時点での決断だった。

売却から1年の心境を聞かれた富田氏は、最近のオフィス移転でようやく変化を感じたと答えた。グループ入りした後も、iHackはしばらく自社のオフィスで仕事を続けており、会社全体としては大きな変化を感じにくかった。富田氏個人は親会社の仕事を多く担当しているため、自身の変化はあった。それでも社員全体で見れば、グループが1つのオフィスに集まったことで、ようやく変化の実感が出てきたのではないかと話す。

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お金の使い方と、会える人の変化

売却で資金を得て金銭感覚が変わったかという質問に対し、富田氏は「変わらないと言ったらさすがに嘘」としつつも、実際にはほとんどお金を使っていないと答えた。周りには車や時計を買う人も多いが、自身はまったく買っておらず、資金はほぼすべて資産運用に回しているという。生活面ではほとんど変わっていない。

付き合う人も基本的には変わっていない。ただ、会える人は少し変わったと富田氏は感じている。M&Aを経験した先輩経営者や上場企業の経営者を紹介してもらう機会が増えた。理由として、富田氏は「20代でM&A」という分かりやすいラベルができたからだろうと推測する。一方で、上を見ればきりがないとも語った。同じ20代でM&Aをした経営者の中にも、もっと企業価値の大きい人はたくさんいる。年上の経営者ならなおさらである。1つの形にはなったが、先は果てしないとも感じているという。

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モチベーションの変化と同世代の出口観

売却前の原動力について、富田氏は会社が大きくなっていくこと自体がただ面白く、「今年も伸ばそう」と思えたことだと振り返る。売却後もそれが一番大きなモチベーションであることは変わらない。そこに新しく加わったのが、親会社のM&A担当という役割である。これまで経験したことのない仕事なので、純粋に面白いと感じているという。

同世代の起業家が何を目指しているかについては、自分の周りに限った話かもしれないと前置きしたうえで、IPOを目指す人はあまり多くない印象だと述べた。外部資本を入れている場合は出口としてM&Aを考えている人が多く、そうでなければ出口を特に意識せずオーナー企業として伸ばしていく人が多いという。

約1年前にM&A BANKに出演した後、富田氏の元には若手経営者から何件か連絡があったという。その1人が、のちにソーシャルワイヤーに加わる宮阪氏だった。富田氏によれば、宮阪氏は意外にも富田氏の動画を見ていたらしい。

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新オフィスと2人の社長室

一行は移転したばかりの本社に移動する。ソーシャルワイヤーの一部の部門は別の場所に残っているが、iHackとSEIRYOは同じフロアに入っている。共用ラウンジ、大きな会議室3つ、管理部長や社長室メンバー用の個室がある。移転したのは前の週で、まだ片付いていないと宮阪氏は説明した。

富田氏の個室には、社内のMVP賞のトロフィーや、M&A時に仲介会社から贈られた記念品が置かれていた。富田氏の部屋にも宮阪氏の部屋にも筋トレ道具やプロテインがあり、取材者からその共通点を指摘される場面もあった。

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SEIRYOの事業と、売却前に抱えていた課題

会議室で島袋氏が加わり、宮阪氏が自社を紹介した。SEIRYOはInstagram、TikTok、YouTubeなどのショート動画を中心とした、獲得型のSNS広告代理店である。主に成果報酬型で、一部は予算型の案件も手がける。他社との違いは、インフルエンサーを幅広くキャスティングし、そのインフルエンサーを使って獲得型の広告を運用する点にあると宮阪氏は言う。ソーシャルワイヤーとiHackはインフルエンサーのキャスティングに強いので、グループとしてこの分野を伸ばしたいと話した。グループ入りは6月で、収録時点では3カ月目ほどだった。

島袋氏は、ネットマーケティング会社はM&A市場で人気が高いので他社からもオファーがあったのではないかと尋ねた。宮阪氏はそれを認めたうえで、ソーシャルワイヤーを選んだ背景を説明した。SEIRYOは営業部隊を一切持たず、案件の獲得を広告代理店に頼ってきた。市場が伸びていた時期は、マーケティングに集中していればクライアントとのコミュニケーションにコストをかけなくても事業は伸びた。しかし宮阪氏は、AIの発達、SNSユーザーのリテラシーの向上、CPMの上昇といった変化を挙げる。今後はマーケティングだけでなく、クライアントとのコミュニケーションや営業も含めて総合力で戦わなければ伸ばせないと、ずっと課題に感じていたという。そこで紹介や仲介を通じて、営業面を補ってくれる会社を探していたところに、ソーシャルワイヤーから話が来た。

富田氏も補足した。SEIRYOはクライアントと直接取引しないのに対し、ソーシャルワイヤーとiHackはクライアントに直接提案しており、営業は強い。一方で、PRやキャスティングは得意でも、SEIRYOのような獲得型は苦手だった。既存の顧客にはそうしたニーズがあるのに対応できていなかったので、連携しやすいという話はすぐにまとまったという。

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決め手は「1年後の自分」を見せてくれた同世代の存在

宮阪氏が一番の決め手に挙げたのは富田氏の存在だった。富田氏はトップ面談やデューデリジェンスの段階から社長と一緒に同席し、主な窓口として宮阪氏とやり取りした。

宮阪氏によれば、自分たちの世代はM&Aをすると決めたら、YouTubeなどで片っ端から情報を集めるはずだという。ただ、動画の中では多くの人が「これからこうしていく」「伸ばせそうだ」と語るにとどまる。富田氏の場合は、実際にグループ入りしたiHackが成長しており、富田氏本人も社長室で活躍し、社長とも良い関係を築いていた。宮阪氏はそれを初めて「実態」として見ることができたと話す。富田氏のように事業を伸ばしながら、社長室のポジションで別のキャリアを積み、新しいステップアップができるのではないかと考えて、ソーシャルワイヤーを選んだ。

宮阪氏は、トップ面談の依頼を受けたとき、M&A BANKの富田氏の動画を10回ほど見たと明かした。富田氏も、自身がM&Aを検討していたときはM&A BANKの動画をおそらく全部見たと話した。

トップ面談のときから同世代の富田氏が同席し、グループの中の様子を具体的に伝えてくれたので、他社との面談に比べて「1年後の自分の姿」をはっきり想像できたと宮阪氏は振り返る。CEOとの関係の良さも、おそらく意識して見せてくれていたのだろうと宮阪氏は推測する。それも含めて、ソーシャルワイヤーが一番、自分がグループに入った後のイメージを持てたという。

現在の関係について、宮阪氏は社長を含めて合同でトレーニングをしたり、飲みにもよく誘ってもらったりしていて、関係は本当に良いと語った。宮阪氏は格闘技の経験があり、昨年は4回試合に出た。次の試合ではグループのみんなに応援に来てもらうところまで行きたいと話した。

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同世代の間で共有される「グループイン後」の実情

島袋氏は、一度売却して次のキャリアをつくる流れが同世代で当たり前になりつつあるなら、「ここは危ない」といった情報も出回るのではないかと尋ねた。

宮阪氏は、ソーシャルワイヤーと話を進める中で、すでにM&Aでグループ入りした知り合い数十人に話を聞いたという。多くの人はシナジーを描いてグループ入りするが、事業の解像度は、グループ入りした後も自分たちが一番高いと宮阪氏は考えている。グループ入りした後に乗っ取られるとまでは言わないが、端から端まですべてを決められてしまうと、自分たちの世代はかえって事業を伸ばせない。そういう人は正直たくさんいるのではないかと宮阪氏は話す。

その点、富田氏のケースでは、事業の裁量をある程度持たせてもらいながら、バックオフィスや顧客基盤など足りない部分を親会社と連携して補っていた。宮阪氏は、過半数を持つエンジェル投資家のような関わり方だと表現し、それがとても良いと感じたという。SEIRYOにも足りない部分は多いが、そこを補ってもらいながら、事業の裁量は自分に持たせてもらえている。グループ入りした今も実際にそうなっているので、伸びるはずだと話した。

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買い手側の事情:シェアオフィス事業の打撃とデジタルPRへの集中

島袋氏は、ソーシャルワイヤーの状況がこうした関係を可能にしているのではないかと見る。新しいデジタルPR領域を若い人に任せて作っていくというメッセージのように見え、そのためにある程度の自由を与えているのではないか、という見立てだ。

富田氏はその通りだと答え、事業ポートフォリオの見直しを背景に挙げた。ソーシャルワイヤーが手がけていたシェアオフィス事業は、コロナ禍で最もダメージを受けたビジネスモデルの1つだった。一方、社内にあったデジタルPRのセグメントは時代の勢いを受けて伸びていた。そこで、デジタルPRを集中的に伸ばす方針になり、iHackに声がかかった。今回のSEIRYOも同じくデジタルPRの強化が目的で、タイミングがとても良かったと富田氏は話す。

島袋氏は、デジタルマーケティングを手がける若手経営者が売却を考えるなら、まず富田氏に連絡してみるといいと冗談交じりに勧めた。富田氏も、M&Aの文脈でなくても連絡はありがたいと応じた。

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親会社ジーニーとの関係

島袋氏は開示情報をもとに、ソーシャルワイヤーの株式の49%を上場企業のジーニーが持ち、取締役の過半数も出していて実質的な親会社になっていると指摘した。そのうえで、ジーニーとの連携があるかを尋ねた。

富田氏によれば、取引も含めて連携がある。ジーニーはエンジニアリングに強い。広告業界では、自社プロダクトを持つ会社を除けば、システム投資をしたり社内にエンジニアを抱えたりしている会社はあまり多くない。しかしソーシャルワイヤーは、ジーニーの力もあって社内のエンジニア比率が実はかなり高く、社内システムや実務オペレーションの改善に生きているという。最近はジーニーグループ全体で顧客基盤を連携できないか打ち合わせをしており、M&Aから1年経ってようやくそうした動きも始まったところだと述べた。ジーニーのカルチャーを押し付けられることについては、オフィスも別で独立しているので、あまりないと思うと答えた。

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買い手として宮阪氏を迎えた理由

今度は買い手側のM&A担当として、富田氏が宮阪氏を迎えた理由を語った。理由は大きく2つあった。

1つは、互いの強みがはっきり違い、パズルのようにはまることが分かりやすかった点である。

もう1つはかなり定性的な理由だという。グループとして一緒にやっていくなら、人としての相性が重要になる。デューデリジェンスを通じて会社や社長のことを知っていく中で、宮阪氏には変な駆け引きがなく、富田氏の言葉では「持ち球ストレート1本」のような人だった。何かを隠されたり駆け引きされたりすることもなかったので、グループ入り後のリスクややりづらさを少しも感じなかった。それが非常にポジティブだったと富田氏は話す。

島袋氏はこれを受けて、外から見ると分からないが、オフィスに来ると本当に若手の会社のような雰囲気がある、と述べた。だからこそ、その空気感を乱す人が入ると影響が大きいのではないかとも語った。

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若手起業家を迎える側が気をつけるべきこと

島袋氏は、若い優秀な社長を迎えたい上場企業の経営者も見ているはずだとして、迎える側がやってはいけないことを尋ねた。

富田氏は、規模の問題もあると断ったうえで、親会社の社長が創業者であり、自分たちとのコミュニケーションの前面にずっと立ってくれていることが大きいと答えた。社長がきちんとコミュニケーションを取ってくれるかどうかが非常に重要だという。創業者を一番理解しているのは創業者だと考えているからだ。

富田氏の知り合いの中には、担当の役員が会社の中の役員であって創業者ではない、というケースも多い。富田氏はそうした話を聞くと、価値観も含めて「生き物として」違うので、やりづらいだろうと感じるという。島袋氏が、創業者同士なら問題があってもすぐ解決できる可能性もあると応じると、富田氏も同意した。富田氏は、一番放っておいてくれるのも創業者だろうと話す。創業者なら、口を出されるのが嫌だということを分かっているはずだからだ。

宮阪氏も、親会社の社長も自分で創業し、会社を経営してきたので、M&Aされる側の気持ちが分かっているのではないかと述べた。富田氏も、売り手側にとって何がうれしくて何が嫌かを分かっていることは大きいと同意した。

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今後のM&Aで探している領域

最後に、ソーシャルワイヤーグループが今後どんな会社を対象にしているかが話題になった。宮阪氏は、既存事業を伸ばしながら、自分と富田氏が中心になってM&Aを進め、デジタルPR領域をさらに伸ばしていきたいと述べた。

島袋氏は、iHackのような化粧品など特定業種に特化した会社を集めるのか、SEIRYOのように業種を問わない会社を集めるのかと尋ねた。富田氏の答えは「どちらもある」だった。化粧品のような特定領域に強い会社も、SEIRYOのように特定の媒体や獲得型の手法に強い会社も歓迎だという。SEIRYOの加入で獲得型は強くなった。一方で、Amazonや楽天などのモールでの売上支援は専門性が高く、いきなり自社で始めるのは難しい。ライブ配信で商品を売るライバーの領域も含めて、引き続き積極的に探したいと話した。MEOやAIOの領域についても、ぜひ欲しいと答えた。

さらに、デジタルPRだけでなく、プレスリリース配信、クリッピング、リスクチェックといった既存サービスの周辺領域も積極的に探しているという。島袋氏は、BtoBの広告担当者の窓口から営業をかけられるような事業が一番良いのだろうとまとめ、対談は終わった。