2027年のミニマムタックス改正で株式売却益の税率は30%へ 相川聡志氏が語る「2026年中の出国」という選択

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概要

2027年1月から、個人向けのミニマムタックス(極めて高い所得に対する負担の適正化措置)が大きく改正される。M&Aで自社株を売却する経営者にとって最大の利点だった分離課税は、一定額を超える部分について所得税30%の課税に変わる。M&A BANKのMCでシンガポール在住の島袋直樹氏が、日本・シンガポール・バンコクで会計事務所を運営する公認会計士・税理士の相川聡志氏をシンガポールで訪ね、改正の中身と、今から何ができるのかを聞いた。相川氏の立場ははっきりしている。改正はすでに確定しており、海外移住を考えるなら2026年中に出国すべきだというものだ。

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改正の中身:閾値は3.3億円から1.65億円へ、税率は22.5%から30%へ

島袋氏は冒頭で改正の要点を整理する。株式を売却したときの所得税は、分離課税によってこれまで約15%(住民税を合わせて約20%)だった。現行のミニマムタックスでは、3.3億円を超える部分に22.5%の所得税がかかる。2027年からはこの22.5%が30%になり、しかも基準額が3.3億円から1.65億円に下がる。1億6500万円を超える部分に30%の所得税がかかることになる。

相川氏は、多くの人がこの改正を知らなさすぎると指摘する。2027年1月1日以降の分離課税の所得は、場合によっては15%ではなく30%で課税される。株式譲渡で分離課税を選ぶことを目標にしてきた人も、30%まで負担が上がる可能性がある。相川氏はこれを「確定事項」だと明言した。

島袋氏は今年までとの差を強調する。現行制度なら、たとえば5億円で会社を売っても、22.5%がかかるのは3.3億円を超えたわずかな部分だけだった。来年からは基準が1.6億円台まで下がり、それを超える部分すべてに30%がかかる。相川氏も、税負担はかなり大きくなると認めた。

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不動産売却にも及ぶ「ダブルパンチ」

相川氏によれば、影響は株式の譲渡にとどまらず、不動産の売却にも及ぶ。富裕層は株式だけでなく不動産も多く持っている。たとえば東京・港区では、2億円で買った物件がわずか2年で4億円、5億円に値上がりしている例がある。こうした不動産を売るとき、本来なら長期譲渡所得として所得税は15%で済むところ、改正後はそれが使えず30%で課税されると相川氏は説明する。

このため来年からは、30%の課税で大きな税金を払うことになった事例が出てくると相川氏は見ている。そしてこれは、移住するかどうかに関係なく、日本の居住者全員に適用される課税だと念を押した。

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なぜ反対の声もなく通ったのか

島袋氏は、経営者の間で署名活動のような動きがあったはずだが、どうなったのかと尋ねた。相川氏によれば、現行のミニマムタックスは2025年から始まっている。新しい仕組みを作る際にはヒアリングなどいろいろな動きがあったが、今回の改正はほとんど反対の声もないまま通ったという。

国として富裕層を作らない方針なのかという島袋氏の問いに、相川氏は、国がそう言っているわけではないと断ったうえで、政策は資本主義社会の方向には向いていないと答えた。富が一部に集中するのを防ぐという、資本主義とは逆の方向だという評価である。

相川氏はさらに、いま起きている現象を挙げる。ミニマムタックスの強化を前に、事業を売却する経営者が増えている。その多くは中小企業だ。売却先でのM&Aが成功すればよいが、これまで中小企業で雇用を担ってきた経営者たちが頑張る気持ちを失い、中小企業そのものが減っている。相川氏は、これは日本全体の国富にとって確実にマイナスだと述べた。

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30%という数字に理念はない

なぜ15%が22.5%になったのか。島袋氏の質問に対し、相川氏は、所得税の最高税率45%の少なくとも半分は負担してほしいという、ざっくりした計算だと説明した。45の半分が22.5である。

では30%の根拠は何か。相川氏によれば、30%にすることで税のあるべき姿を示すような理念はなく、単純に区切りのよい数字に上げただけだという。島袋氏は、22.5%と総合課税の最高税率45%の中間を取ったのではないかと推測した。相川氏はその見方を受けて、今後30%が35%になったり、一定額以上は分離課税をやめてすべて総合課税の45%にしたりすることもありうると述べた。日本人がこれまで当然のように使ってきた分離課税が、将来なくなるかもしれない出来事だったという見立てである。島袋氏は、これでは起業やスタートアップをしたくなくなるのではないかと応じた。

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日本は「二重課税ありあり」の国

相川氏は視点を変え、日本は何度でも税金をかける二重課税の国だと指摘する。たとえば上場株を売って売却益が出れば、まず所得税を払う。その税引き後の現金をそのまま相続すれば、今度は相続税がかかる。

あまり知られていない例として、相川氏は非上場会社からの配当を挙げる。日本の居住者が非上場会社から受け取る配当は、分離課税ではなくすべて総合課税になる。配当の原資は、会社が法人税を払った後に積み上げた利益剰余金であり、国に対してはすでに税を納めている。それでも受け取った個人には総合課税がかかる。相川氏の計算では、会社で100を稼ぎ、法人税で35を払うと65が残る。その65を配当すると半分ほどが所得税で消えるため、オーナーの手元に残るのは35程度にすぎない。相川氏はこれを「日本の税金のマジック」と呼んだ。

なぜそこまで取るのか、財政が逼迫しているのかという島袋氏の問いに、相川氏は、使い道が多すぎる、日本は政府が大きすぎるのでもっと減らせばいいと答えた。

島袋氏はさらに、売却後も負担は続くと指摘する。売却で手にした現金を運用すれば、その運用益にも同じように高い税率がかかる。売却時に15%、あるいはミニマムタックスで30%を払い、その後の運用益にもずっと30%がかかれば、資金はなかなか増えない。だからこそシンガポールやタイ、マレーシアなどへの移住を考える人が出てくるという流れである。

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出国税にも改正の影響が及ぶ

相川氏によれば、今年は海外に出る人が非常に多い。その理由の一つは、ミニマムタックスの改正が出国時の課税にも影響するからだ。

日本には国外転出時課税制度、いわゆる出国税がある。1億円以上の有価証券を持って出国する場合、実際には売却していなくても売却したものとみなし、含み益に課税する仕組みだ。このみなし売却益にも分離課税の15%に加えてミニマムタックスが関係してくる。2026年中に出国すれば30%の課税はかからないが、2027年に出国すると30%のミニマムタックスがかかる人が出てくる。そのため相川氏の事務所でも、2026年中に出国しようと急いで移住する顧客が多いという。

島袋氏が、今年中に会社を売れなくても出られるのかと確認すると、相川氏は、みなし譲渡の扱いで出国できるので、いずれ海外に出るなら税金の低いいまのうちに出たほうがいいと答えた。

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M&Aの条件がまだ揃っていないほうが出国に向く

相川氏は、逆説的な点も指摘する。M&Aの条件がまだ揃っていない人のほうが、出国には適しているというのだ。M&Aで株価がすでに決まっている場合、その価格を時価として出国税を払わなければならない。一方、ディールがまだ進んでいなければ、所得税法上の時価に算定し直すだけで出国でき、評価額は低くなる。そのため、まだディールが成立していなくても今年中に出国するという人がかなり多いという。

島袋氏はこれを受けて、とにかく今年中に出ることが重要で、売却自体は2年後でもいい、むしろそのくらいのほうがちょうどいいかもしれないと整理した。相川氏も「とりあえず今年中に出ることが重要」と同意した。

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残り3カ月でシンガポールは間に合うか

収録時点は2026年10月で、年内は残り3カ月しかない。島袋氏は、これからビザを取り、家を探すのはかなりハードルが高いのではないかと尋ねた。

相川氏の答えは、シンガポールで法人を作りビザを取ることは、すべて順調に進めばぎりぎり間に合うが、勧めはしないというものだ。どこかで手続きが止まってしまう恐れがあるからだという。

ビザについては、シンガポールではEP(就労ビザ)が取れないという噂があるが、相川氏はそれを否定する。月額給与を2万2500シンガポールドル以上に設定すれば、ほぼ問題なく取れるという。島袋氏は、COMPASSという審査制度ができ、学歴や職歴などの条件があると聞くが、中卒や高卒の人でも取れるのかと重ねて尋ねた。相川氏は取れると答える。2万2500シンガポールドルという給与水準なら、COMPASSの学歴などの審査を飛ばせるからだ。島袋氏の換算では、これは日本円で月250万円ほどの給与を、シンガポールで立てた自分の会社から受け取る設定にするということになる。この場合の所得税について、相川氏は年収が約26万シンガポールドルになり、累進税率なので実効税率は18%程度、16%程度で済むかもしれないと見積もった。

島袋氏は、最初にやりたい事業がなくても法人を作れるのかとも尋ねた。相川氏によれば、シンガポール法人は事業目的を2つまで定款に入れられる。特にやることがなければ、コンサルティングなど自分がいま手がけている事業を入れればよい。設立は、日本にいたまま進めて最短で1週間ほど、シンガポールに来れば1日で完了する。そのあと銀行口座の開設とEPの申請を並行して進めるよう、相川氏は顧客に勧めているという。

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確実性を取るならタイの「お金で買えるビザ」

それでも相川氏は、10月1日時点からスタートする今年については慎重だ。これまでの肌感覚では間に合うと思うが、税務上の居住者・非居住者の判定を考えると、間に合わなかった場合の結果は最悪になる。シンガポールへの期待は分かるが、確実に年内移住したい人には、お金で買えるタイのビザを勧めているという。

それがタイランドプリビレッジで、相川氏の事務所でも取り扱っている。反社会的勢力の排除などの審査はあるが、基本的には料金を払えば1カ月ほどで取れるという。最も安いもので5年300万円程度、1年あたり60万円で、シンガポール法人を設立して維持する費用よりも安いと相川氏は説明した。

申し込みの期限について、相川氏は年末に近づくほど混むと注意する。日本に限らず多くの国の課税年度が12月で区切られるため、12月はかなり混雑する。安全圏は遅くとも10月いっぱい、11月に入っても間に合うとは思うが、そうなると日本を出る側の手続きが間に合わなくなるので、自分の生活環境を踏まえて判断してほしいと述べた。

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非居住者になると配当課税は55%から20%に

島袋氏が「みんな海外に行こう」と呼びかけると、相川氏は、海外に出ることでかなり救われると応じ、先の非上場会社の配当の話に戻った。日本の居住者であれば、非上場会社からの配当は総合課税となり、所得税45%と住民税10%で最大55%がかかる。これが非居住者になれば20%の分離課税で済むという。

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「事業譲渡類似株式」の課税と香港の活用

相川氏は、M&Aを予定している人が改正前に出国する場合の流れを説明した。出国時には、現行の22.5%を前提にミニマムタックスを考慮した出国税を計算し、納税するか納税猶予を選ぶ。この時点では評価額が低い。しかし本人の最終的な目的は、その後に企業価値を大きく上乗せして売ることにある。

ここで問題になるのが、事業譲渡類似株式の課税である。日本の会社の株式を25%以上保有し、保有期間が6カ月以上ある場合、非居住者になってからの売却でも、その売却益には原則として日本で課税される。ただし、移住先が香港のように事業譲渡類似株式の課税がない国であれば、出国後に上乗せされた価値の部分には税金がかからず、出国時の小さな税負担だけで済むと相川氏は説明する。

一方で、香港に住むのは嫌だという人もいる。その場合の方法として相川氏が挙げたのは、出国の間際に香港法人を作り、日本法人の株式をその香港法人に譲渡するというものだ。納税猶予を選んでいた場合でも、評価額は出国時と同じなので新たな売却益は生じず、猶予が切れて出国税を納めるだけになる。本人は別の国に住んでいてよく、日本法人の株は香港法人が持つ状態になる。

実際にディールが成立する段階では、日香租税条約によって事業譲渡類似株式の売却課税が生じないという規定を適用する必要がある。相川氏は、これを条約の濫用と言われないために、香港法人をきちんと動かしておくべきだと強調した。売却が決まったら、自ら香港に移住する、スタッフを雇うなどして香港法人に実態を持たせ、そのアクティブな法人が株式を譲渡すれば、上乗せ部分の課税はなくなるという。

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税金を抑えることは経営者の使命か

こうした話をすると「税金逃れだ」と言う人が一部にいる。相川氏はそうした見方を「本当に島国だ」と評した。グローバル企業や大企業は当然のようにタックスストラテジーを組んでいる。Googleなどは、ロイヤリティをどの国で集めるか、アジアの統括拠点をシンガポールに置くか香港に置くかを考えている。相川氏は、事業を営むうえで国際税務をきちんと考え、手元の現金を賢く残して次の事業に再投資できる状態を作る時代になっていると述べた。

相川氏の論理は次のとおりだ。税金は会社にとって費用の一つである。株式会社は営利企業であり、会社法や旧商法にもあるように利益を追求しなければならない。利益剰余金は税引き後の金額なのだから、税金を抑えようとするのは当然のことだ。日本は自由主義の西側諸国、資本主義国の側にいるのだから、資本が貯まる行動をとるべきだという。

ただし相川氏は、脱税や法律違反はもちろん駄目だと線を引く。租税条約は国と国が話し合った結果の約束であり、それを使うことは脱税でも後ろめたいことでもない。資本主義社会で営利企業である株式会社を率いる以上、お金を貯めていくのは経営者としての使命だと相川氏は述べ、島袋氏も「使命ですね」と同意した。

島袋氏は最後に、2026年は残りわずかだが、M&Aを考えている人は相川氏に相談してほしいと呼びかけた。自身も海外で事業をしている立場から、これをきっかけに海外で事業をするのは大いにありだと述べ、海外に出る人が増えて現地のコミュニティも広がっていると話して対談を締めくくった。