ボトックスは脳に届くと危険なのか――友利新氏が2本の論文から安全性を検証する

YouTubeで開く ↗
概要

SNSで「ボトックス注射は危険なので打たない方がいい」という投稿が話題になった。皮膚科医の友利新氏はこの動画で、投稿の根拠とされた2本の研究を読み、何が事実で、どこに誤解があるのかを解説している。友利氏は、論文の内容自体は事実でも、そこから「美容目的のボトックスは危険だ」とは言えないと考えている。そのうえで、不安があるなら無理に打つ必要はないとも述べている。

5分で読めます
0:08

話題になった投稿の主張

友利氏によれば、投稿の主張は次のようなものだった。ボトックスにはボツリヌストキシンという毒素が含まれており、2008年の研究で、この毒素が脳に到達することが示された。その結果、頭がぼんやりする、物忘れしやすくなるといった異常が多数報告されている。こうしたことを美容外科は教えてくれないので、基本的にボトックスは打たない方がよい、というものである。

友利氏は、美容医療に関わる立場の人間がこれを否定しても説得力に欠けると受け取られるかもしれないと前置きしたうえで、根拠となった論文の中身を順に説明している。

0:53

2008年の研究:毒素が脳に届いたことは事実

1つ目の根拠は2008年に発表された研究である(友利氏は発表者を「アントヌッチさん」と紹介している)。友利氏は、ボトックスの毒素が脳内に到達したという点は事実だと認めている。

この研究では、ラットの顔の筋肉にボツリヌストキシンを注射した。すると毒素が神経を逆向きにさかのぼる現象(逆行性の軸索輸送)が起き、脳の方まで届いたことが確認された。

1:23

「脳に届く」と「脳に障害が起きる」は別の話

友利氏は、神経をさかのぼって脳に届くと聞けば怖く感じるのは自然だと理解を示す。ただし、脳に届くことと脳障害が起こることはイコールではなく、まったく別の話だと強調する。

例として友利氏が挙げるのは、睡眠薬など身近な薬である。こうした薬はすべて脳に届いて効果を発揮する。お酒を飲んで気分がふわっとするのも、アルコールが脳に届いて作用しているからだという。友利氏は、薬やアルコールがボトックスと同じ作用をするわけではないと断ったうえで、大事なのは「脳に届いたか」ではなく「そこで何が起きるか」だと述べている。

この観点から友利氏は2008年の研究を読み直す。論文に書かれているのは、ラットで毒素が神経を通じて到達したところまでである。脳が萎縮した、認知機能が低下したといったことを示した研究ではない。さらに友利氏は、この動物実験はかなりの量を投与した条件での結果であり、人の顔への通常の施術とは条件が違うという点も押さえておくべきだと話している。

2:45

2018年の研究:無許可サロンでの高濃度注射による中毒

2つ目の根拠は「ボトックス中毒患者の脳画像に明らかな異常が報告されている」という主張で、これにも元になった論文がある。2018年に発表されたもので、中国で美容目的のボトックス注射を受けた人が全身性のボツリヌス中毒を発症した9人の患者のデータである。友利氏自身は、ボトックス中毒の発症例を実際に見たことはないという。

「やはり美容目的で打った人が中毒になっているではないか」と受け取られそうな話だが、友利氏が注目するのは注射を受けた場所と中身である。患者たちが施術を受けたのは医療機関ではなく美容サロンで、それも無許可のサロンだった。そこでは超高濃度に精製されたボトックスが注射されていた。非正規のルートで入手した、本物かどうかも分からない製剤を、技術のない人が分からない量だけ注射した。その結果ボツリヌス菌による中毒が起こり、中毒患者の脳画像に異常が現れた。友利氏は、これは普通の美容施術とは前提条件がまったく違うと指摘する。なお、論文の最後には、9人の患者は治療によって回復したと書かれているという。

友利氏の結論はこうである。誤った使い方をしたり高濃度で注射したりすれば、中毒などの危険は確かにある。しかし承認された薬剤を、きちんとした医療機関で、用法・用量を守って使っていれば、それほど怖いものではないのではないか。

4:27

優れた薬剤だが、使い方を誤れば危険もある

ここまで聞いて「大丈夫なのか」と安心する人が多いだろうと前置きしつつ、友利氏はボトックスの位置づけを改めて説明する。ボトックスは効果の強い薬剤で、理解したうえで正しく使えば素晴らしいものだという。シワを抑えるだけでなく、斜頸やけいれんの抑制など、さまざまな用途がある。

一方で、使い方を間違えれば先に述べたような危険がある。打ちすぎると抗体ができて効かなくなることもあるという。

4:49

不安なら打たなくていい

友利氏は、シワなどはあっても生きていける、とはっきり言う。ボトックスを怖いと思いながら打つくらいなら、打たなくていいというのが友利氏の考えだ。全員にボトックスを勧めるわけではない。シワやエラに悩んでいる人にとっては良い手段だが、心配や不安があるなら無理をする必要はないとしている。

問題の投稿については、誤解の多い内容だったかもしれないとしつつも、自分にその美容施術が本当に必要かを考えるきっかけにはなったのではないかと評価している。また、美容医療に携わる人でも「絶対に安全」と考えている人はそれほど多くないだろうとも述べている。

友利氏が大切だとするのは、リスクとベネフィットを比べ、自分の中でベネフィットの方が大きいと判断したときに施術を受けることである。今回の論文の内容を知ってもなお心配なら受けなくていいし、この程度の論文なら自分は大丈夫だと思えるなら受けてもいい。これはボトックスに限らず、薬など何を使う場合でも同じだという。

友利氏自身は、これらの論文の一部を以前から知っており、それを踏まえたうえで今後もボトックスを続けたいと考えている。毎回打つたびに痛いと感じるが、自分にとってはやった方が良いと感じているからだという。動画は、最終的にはやらなくてもかまわないので、各自で判断してほしいという呼びかけで締めくくられている。