大人になっても足は速くなるのか――櫛部静二監督と三田翔平さんが語る市民ランナーの練習の組み立て方

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概要

大人になってからでも足は速くなるのか。PIVOT SPORTSの後編では、元NHKアナウンサーの西川典孝さんが聞き手となり、城西大学男子駅伝部監督の櫛部静二さんと、子ども向けランニングクラブ「KIZUNA TOKYO」を主宰する城西大学OBの三田翔平さんに、市民ランナー向けの具体的な練習法を聞いた。前編で扱った「VO2max(最大酸素摂取量)」「乳酸性作業閾値」「ランニングエコノミー」という3要素を、市民ランナーがどう練習に落とし込めばよいかが主題である。両者に共通していたのは、数字や流行りの言葉にとらわれず、練習の目的を考え、自分の体を知ることが先だという立場だった。

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40代・50代が多い市民マラソンの現状

西川さんはまず、走るビジネスパーソンが増えていることを示すデータを紹介した。2024年度のフルマラソン年間完走者は前年度から約2万人増えて33.6万人となった。週1日以上運動する大人の割合は、およそ10年で1.3倍になったという。フルマラソンの平均タイムが最も速いのは42歳で、完走者数が最も多い年齢は50歳だった。西川さんは、若い人がそもそもフルマラソンに出ないという事情もあるだろうと断りつつ、年齢が上がっても挑戦する人が多いと指摘した。サブスリー(3時間切り)の男性ランナーは10年で1.5倍に増えており、2012年度の3%から、最新データの2023年度には4.4%になった。

東京マラソン財団のスクールでも指導する三田さんは、自身の実感として、40代から50代の受講者が非常に多いと話した。走り始めるきっかけは、お腹が出てきた、健康診断の数値が気になったといったものが多く、いちばん手軽な運動としてランニングを選ぶ人が目立つという。そこに、この年代ならではのお金と時間の余裕が加わっている、と三田さんは見ている。

西川さん自身は36歳で、筋トレとランニングを組み合わせたフィットネスレース「HYROX」に出場した経験を持つ。HYROXは批判されているのも目にするが、出る側としては楽しく、運動することの良さを改めて感じたという。この体験は、後半の乳酸性作業閾値の話題で具体的なデータとして再び登場する。

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「速さはお金で買う時代」――シューズ・タイツ・時計の進化

市民ランナーの増加を後押ししているものとして、三田さんはまずシューズを挙げた。40歳以上の受講者からは「速さはお金で買う時代だ」という声をよく聞くという。前編で話題になったVO2maxについても、食べるだけで数値が上がる可能性があるとされる製品が大塚さんから出ていることに触れ、お金を出して速くなれるならそうしたいという気持ちがあるのだろうと話した。それと並んで、SNSや情報番組を通じて新しい情報を取り入れる人が増えたことも大きいと三田さんは見ている。

前編で城西大学の低酸素環境でのトレーニングが紹介されていたことを受け、西川さんが市民ランナーには敷居が高いのではないかと尋ねると、櫛部監督は、最近は街のいたるところに低酸素ジムがあると答えた。実は西川さん自身も低酸素ジムでトレーニングしていたという。

櫛部監督は、カーボンプレートの有無でシューズは明らかに違い、履いて走ると「なんて楽しいんだ」と感じるはずだと語った。三田さんは、シューズもタイツも時計もデザインがかわいく、かっこよくなったと付け加えた。中学・高校で400mをやっていた西川さんは、きつくてただ走るだけと思われていた陸上がおしゃれなものになったことに驚いている、と率直に述べている。

タイツについて櫛部監督は、最近の製品は体のラインに沿ってアシストするように作られ、脚が上がりやすくなっていると説明した。城西大学の選手のなかには、骨盤を締めるベルトのような機能が付いたタイツを使っている選手もいるという。三田さんは、年配のランナーには骨盤に問題を抱える人もいて、そこを締めると安定して楽に感じる人が多いと述べた。筋肉の揺れによる炎症やけがを抑えられる点も大きいという。ただし、若い選手のなかにはサポートがないほうを好む人もいると留保しつつ、近年はタイツを履いて走る選手が多いと話した。

時計については、VO2maxをどう測ればよいかという疑問に対し、三田さんは、GarminやCOROSなど手持ちの時計でボタンを押せば数値が出ると説明した。スマートフォンと連動して自分の頑張りを記録できる点も大きいという。

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ゾーン2は「疲労抜きジョグ」――練習の7割は楽に走る

本題に入り、西川さんは「ゾーン2」や「VO2max」といった流行りの言葉とどう向き合えばよいかを尋ねた。三田さんの答えは「あまり気にしないほうがいい」だった。大事なのは目的を考えて練習することであり、こうした数値は一つの指標にする程度でよい、というのが三田さんの考えだ。

三田さんによれば、ゾーン2は陸上選手が言う「疲労抜きジョグ」のイメージに近い。市民ランナーはジョギング中に、タイムが遅いから上げなきゃ、距離がまだ足りないからもっと走ろう、と数字に追われがちだ。しかしジョギングやロング走のいちばんの目的は、前編のランニングエコノミーの話にもつながるが、その時間をどれだけ楽に走れるかにある。ペースを意識すると頑張ってしまい、心拍数が上がりすぎる。「楽に走るから強くなる」のではなく、どれだけ省エネで走れるようにするかという意味で、ゾーン2を意識して走ることが大事だと三田さんは説明した。

トップ選手の1週間の練習のうち、楽に走る練習の割合を尋ねられると、三田さんはボリュームで7割程度だと答えた。週にポイント練習(強度の高い練習)が2〜3日あれば、残りの4〜5日は疲労抜きジョグにあてる。ポイント練習の中身は、インターバルトレーニング、坂ダッシュ、ペースランニングなど、ジョギングではない強度の高い練習だ。

三田さんは、一般ランナーもこの割合で考えてよいとした。市民ランナーはジョギングそのものが「トレーニング」になってしまい、いつも頑張るので疲れて回復できず、ポイント練習の質が上がらない。量を積もうとしても土台ができていないので、すぐに疲れてしまうという。時間が取れないためにやむを得ずそうなっている面もあると理解を示したうえで、週4日走れるなら2〜3日はゆっくりのジョグ、1日だけ強度の高い練習にするほうが、毎回頑張って走るより「絶対効果はある」と三田さんは述べた。

櫛部監督は、トレーニング学の視点から補足した。現在は強度をいかに高めて短時間でどれだけ能力を上げるかという考え方も言われていて、そこに低強度のトレーニングを組み合わせる「ポラライズド(二極化)」的なトレーニングが提唱されている。これは市民ランナーにもとても良いと思う、というのが櫛部監督の見解である。

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最大心拍数をどう知るか――「220−年齢」は大ざっぱすぎる

強度を管理する前提として、ゲスト側は事前に「最大心拍数」を知っておく必要があると挙げていた。自分の最大の能力を把握しておくべきだという考えからだ。

最大心拍数は昔から「220−年齢」で求めると言われてきた。しかしこの式では同じ年齢の人は全員同じ値になってしまうため、大ざっぱすぎるという指摘があった。一方で、一般の人がいきなり全力で測定するのは倒れてしまう危険がある。

具体的な測り方としては、十分にウォーミングアップをしてから2分間の全力走を行うと最大心拍数が出やすいとされる。距離にすれば700〜800m前後、あるいは2分間か90秒ほどの坂道での全力走だ。最初からマックスで走り、それを3回繰り返すという。西川さんは、2分の全力走など20秒で精一杯になってしまい、あと100秒もやるのは無理だと笑いながら驚いていた。年齢的に筋力がついていかない人には危険でもあるため、プールで50mを全力で泳いで1分休む、を3〜5回繰り返す方法も紹介された。ただしこちらも楽ではない。

市民ランナーはどこまで妥協してよいのかという問いに対しては、最大心拍数を知ることは大事だが、正直ある程度の値でよいという答えだった。目安として示されたのが「208−0.7×年齢」という計算式である。この値を出発点にしてトレーニングを続け、実際の練習でそれを超えたら記録して更新していく。こうしておよその最大心拍数を把握し、時計に入力しておけば、自分の最大値に対してどの程度の割合でトレーニングしているかが表示されるようになる、という説明だった。

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VO2maxを高めるには「天井」に当たり続ける時間を積み重ねる

VO2maxの鍛え方は、グラフを使って説明された。縦軸が酸素摂取量、横軸が運動開始から24分間の経過時間で、学生がよく行う2000m×4〜5本のインターバルをイメージしたものだという。インターバル中に酸素摂取量がグラフ上の「マックス」に到達し、そこにとどまっている時間(タイム・アット・VO2max)が、体が相当の刺激を受けている時間にあたる。この時間は長いほど良い。

最大酸素摂取量を改善したいなら、最大酸素摂取量が出現するポイントで練習しなければ効果は得られない、という説明だった。その例えとして挙げられたのがウェイトトレーニングである。100kgのベンチプレスを上げたいなら、100kgか、それより少し軽い重さで練習する必要がある。西川さんは「天井に当たり続けて、ようやく天井が高くなる」と言い換えた。

注意点として、かなり低い状態から運動を始めた場合、どれだけ必死にやっても最大酸素摂取量に到達するまで約2分かかるとされている。実際にはウォーミングアップをしているので必ずしもそうではないが、通常はそう言われている。そのため、2分頑張って終わってしまう練習では効果が得られにくい。200mのような短いインターバルでは最大まで届かないため、1000mや2000mのインターバルにして距離を伸ばす、という考え方になる。

短い距離で行う場合は、リカバリーを短くする。息が少し残っている段階で次の本数に入ると立ち上がりが速くなり、2分かからずに最大酸素摂取量相当に達することができる。例として、2000mを主として2分休むメニューや、学生が70秒を切るペースで走る400mのインターバルが挙げられた。400mでは2分に届かないが、不完全な回復のまま次を走ることで最大酸素摂取量に近い時間を積み上げていく、という意味合いだという。西川さんは「休みすぎると貯金が消える」と表現した。

一般ランナーが自分の練習に落とし込むなら、頑張って走る時間とレストの時間を同じくらいにするとわかりやすい、という提案もあった。たとえば200mを30秒で走り、30秒休み、また30秒走るといった形だ。

強度の目安は最大心拍数の93〜95%程度とされた。100%で走ると5分ほどで続かなくなってしまうからだ。最大に到達している時間を積算して15分程度は確保してほしいという。西川さんが「結構追い込まなきゃいけない」と反応すると、この値はその人自身の最大値に対する割合なので全力ではなく、95%以下に5%落とすだけでかなり楽になるはずだ、という答えが返ってきた。

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乳酸性作業閾値――心拍数で2段階の強度を設定する

2つ目の要素である乳酸性作業閾値も、考え方は同じだという。狙いたい能力に関係する強度でトレーニングを行う。VO2maxの練習が最大酸素摂取量の少し下で刺激を入れるものだったのに対し、こちらはもっと低い強度で行う。具体的には最大心拍数の79〜85%と85〜91%という2つのパターンが示された。数字が高いほうが速度は速くなる。この範囲で走ることで閾値を刺激する、という説明だった。

サブスリーやサブ3.5を目指すランナーはどう考えればよいかと聞かれ、三田さんは、ランニングで行うならレペティションと呼ばれる練習などがこの領域に入ってくるが、筋力的に厳しい人も多いと話した。そのため三田さんのクラスでは、ランニングだけでなくサーキットトレーニングを取り入れ、筋肉に負荷をかけてから走らせることがあるという。乳酸は筋肉をどれだけ使ったかによって出てくる部分が大きいと考えているからだ。あえて筋トレをしてから走る、それこそHYROXのような形式が、乳酸性作業閾値を鍛えるうえで大事だと三田さんは述べた。

三田さんはさらに、フルマラソンで「30km以降に動かなくなった」という話をよく聞くと続けた。走り方の問題で太ももの前などに負担がかかり続け、グラフ上の緩やかな乳酸の上昇が徐々に急になり、最後は動かなくなる。効率のいい走りを身につけるエコノミーの観点ももちろん重要だが、あえて筋力に負担をかけた状態で走る練習も、一般ランナーにとって取り組みやすい方法になるのではないか、というのが三田さんの考えだ。

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HYROXの心拍データが示したもの

ここで西川さんは、自身がHYROXに出場したときの心拍データを紹介した。平均心拍数は166、最高心拍数は197で、およそ100分間動き続けた。心拍ゾーンごとの滞在時間を見ると、ゾーン1はわずか1分で、ゾーン5が38分、ゾーン4が30分あった。合わせて70分近くをゾーン4・5で過ごしていたことになる。終盤はもはや走れずに歩いていたが、歩いても心拍数が下がらなかったという。筋トレを組み合わせるとこんなにきついのかと身をもって感じた、と西川さんは振り返った。

これに対して、HYROXは乳酸性作業閾値というより最大心拍数に近い高いところで行う競技であり、最大値付近でのトレーニングを大量にこなすことになる、という指摘があった。そのうえで、さらにその先にある「筋の緩衝能力」、つまり乳酸がたまってもどれだけ体を動かし続けられるかという能力が求められると説明された。

その能力を鍛える方法を聞かれると、答えは競技と同じ様式で練習を繰り返すことだった。具体的には階段ダッシュや坂ダッシュ、そして筋トレをしてから走ることを繰り返す。HYROXはまさにそういう競技なので、それを模した形の練習がよい、という説明である。

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ランニングエコノミーと「真下に着地」の意味

3つ目の要素、ランニングエコノミーについて三田さんは、ランニングとはどれだけ力を使わずにスタートからゴールまでたどり着けるかを競うスポーツだと説明した。短距離ならどれだけ速く、マラソンなら自分のベストに近いタイムで走るために、効率よく走る必要がある。そのためにフォームが重要になる。ロング走を含むジョギングで効率のいい走りを定着させ、ドリル(動き作り)で正しい筋肉の使い方を意識していくことが求められるという。

西川さんは、着地について「缶を潰すように」と教わってきたが、そのイメージは正しいのかと尋ねた。三田さんは、ある意味では正しいと答えた。ただし真下に向かってというより、前に振り出した脚が戻ってきたところで着くイメージだという。前方から地面をかくように着く動きを「パウイング」と呼ぶが、その動きから入るとなかなかお尻に乗り込めない。そこで、止まった状態に近いドリルでまず真下に着いてお尻に乗り込む練習をする。膝が伸び、股関節も伸びた状態で着くのが、立っているときと同じく体重がいちばん安定する位置だからだ。

ただし、それをそのまま走りながらやろうとすると訳がわからなくなる。だからこそ、真下に落として乗り込むドリル、パウイングを意識するドリル、膝をスイングさせて前に運ぶドリルなどを組み合わせて定着させていく必要がある、と三田さんは説明した。走りは基本的に片脚に乗り込み、それをいかに効率よく前に運ぶかが重要になる。ドリルで動きを身につけ、それをジョギングに落とし込む。それを支える筋力が足りなければ筋力トレーニングで補い、接地時間の短さを追求するならスプリントを取り入れる、というように要素が連なっていくという。

三田さんによれば、ランニングエコノミーがうまくできている一般ランナーは非常に少ない。いまだに速く走るにはストライドを伸ばして遠くへ進もうと考える人が多く、足を体の前方に着いてしまう「リーチアウト」の走り方になりやすいという。

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ドリルで神経系を整え、短い距離のスプリントから始める

フォームの話は奥が深いという西川さんに対し、簡単に言えばドリルで神経系を改善することが核になる、という説明があった。筋肉を動かすのは神経なので、ドリルによって自分の骨格や筋肉に合った正しい動きをインプットする。それが実際に走るときに記憶として残り、フォームになっていく。各要素は微妙につながっていて、スプリントも速く動くことで神経系を機能させる練習になるという。

自分のフォームがきれいではないので直したい、という相談に対しては、短い距離を走ったときの自分がいちばんきれいだと思いませんか、と問いかけるという。実際にそうであり、その走りをできるだけ持続させることが重要になる。だからまずスプリント練習をする。その前にドリルや動き作りで体を活性化させてから、実際にダッシュをする。距離は100mより短くてもよく、50mや60mで徐々に速度を上げていくところから始めると、市民ランナーにはよいのではないかという提案だった。

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時計に頼りすぎず、ゾーンは体調を確かめる指標に

最後に改めてゾーン2の測り方を聞かれ、三田さんは、前提として時計に頼りすぎないことを強調した。時計に頼ると、自分がいま疲れているのか、心拍数が上がっているのかを自分で感じ取らなくなり、体と対話しなくなる。時計は、自分が余裕だと感じている状態が数値のうえでも余裕なのかを確かめるために使うほうが絶対にいい、と三田さんは話した。学生には、ジョギングのときはむしろ時計を使わせないこともあるという。

時計のメーカーによって算出方法も異なるが、最大心拍数を把握したうえで、その60〜70%程度を目安にし、それ以上にならない範囲で走ればよい、という助言もあった。三田さんは、ゾーン1だから駄目、ゾーン3だから駄目というわけではないと付け加えた。いつもどおり走って疲れたと感じ、時計を見たらゾーン3だった、それなら体が疲れているんだな、と判断する程度の指標にすべきだという。ゾーン2でなかったから走り直さなきゃ、という必要はまったくない、というのが三田さんの考えである。

西川さんが、走行距離だけを気にする人も多く、月100km、200kmといった数字で安心を買っているように思えると話すと、三田さんは、それ以前にまだやることがたくさんあると応じた。

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市民ランナーへの助言――自分を「解剖」し、週末に強い練習を

三田さんは市民ランナーへの助言として、まず自分のフォームを一度客観的に見ることを挙げた。陸上競技は物理であり、加速する動きにブレーキがかかっていないか、うまく反発を得られているかがいちばん大事だという。自分の走りを解きほぐし、できていない部分はなぜなのかを探っていく、つまり自分自身を解剖して必要なところを見つけることが近道だと話した。三田さんが多いと感じているのはフィジカル面の問題で、アウターマッスルばかり鍛えてムキムキになり、走れなくなっている人も多く見てきたという。体幹をしっかりさせ、使うべき部分の筋力を使える準備をしたうえでフォームを改善していく。走る距離より先に、まず自分を知ることがいちばん大事で、数字と距離にとらわれすぎないことだと三田さんはまとめた。

目的の持ち方も話題になった。西川さんが、大会までと決めて走り、終わったら燃え尽きて走らなくなるのは「あるある」だと言うと、三田さんは、目標の大会を決めることや、毎回行きたくなるコミュニティを作ることが継続には重要だと応じた。三田さん自身は現役時代、箱根駅伝がすべてになっていたという。そのために周りが見えず、ただ頑張るだけで、自分の走りをひもとくことはできていなかったと振り返る。指導者の立場になった今、当時櫛部監督に言われていたことに「そうだよな」と思うことが多いという。

櫛部監督は、箱根は通過点だと考えていたと話した。大学4年間ですべてを教えきることはできないので、卒業後に花開いたほうがいいという考えだったという。ただ、実際には箱根がすべてで、その後は走らなくなる学生が大半であり、そうした選手には箱根に向けた指導をしてきたとも述べた。

櫛部監督は市民ランナーへの助言として、仕事などの制約があるなかでも週末は時間が取れることが多いだろうから、そこにポイント練習や強度の高い練習、あるいは長い練習を入れればよいと話した。目標がフルマラソンなら長く走ることが求められ、強度はさほど必要ない。ただしレースが近づいたら強度を上げ、VO2maxなどの上限を高くしてから試合に臨むことで、自分のレンジの幅を広げるのがよいという。

さらに櫛部監督が勧めたのが、坂ダッシュのように普段やらない練習だ。新しい刺激は非常に有効で、自分にできる範囲でダッシュをすると筋や神経が活性化し、エコノミーの改善にもつながる。動きが大きくなるので、ゆっくり走るときに余裕が持てるようにもなる。特にやったことがない人にはぜひ取り組んでほしい、と櫛部監督は話した。これを受けて三田さんは、前日に東京マラソン財団の「ONE TOKYOスクール」で、自分のクラスでも坂ダッシュをやったと明かした。

西川さんは、テーパリングや30km走は本当に必要なのかといったテーマも今後扱いたいと話し、箱根駅伝が近づいたら関連企画をやりたいと持ちかけた。ゲストの二人がこれを快諾したところで、この回は締めくくられた。