対話による平和:ミシェル・カーレがFBIの危機交渉術を学んだ1週間
Michelle Khare翻訳元 English
Challenge Accepted の今回のエピソードでは、ミシェル・カーレがサンディエゴのFBI支局とサンディエゴ市警で1週間を過ごし、危機交渉担当者が危険な状況を沈静化させるために使う手法を学ぶ。週の最後には、人質を取った銀行強盗という想定の訓練で、ミシェルが主任交渉担当者を務める。ミシェルは「誰にでも思いどおりのことをさせられる魔法の言葉をいくつか」学べればと期待して1週間を始める。しかし訓練が示したのは別のことだった。核心となるスキルは説得力のある言い回しではなく、聞くことだったのだ。
交渉担当者の役割:言葉による封じ込めと感情の吐き出し
講師を務めるのは、FBIカリフォルニア州南部地区の危機交渉コーディネーター、ジェフ・ホーナー特別捜査官だ。ホーナーによれば、交渉担当者の主な目的は激しい感情を鎮めることだという。現場に到着すると、チームはまず対象者との意思疎通の回路を開こうとする。ホーナーはこれを「言葉による封じ込め」と呼ぶ。交渉担当者と話している対象者は、人質や警察官、あるいは自分自身を傷つける可能性が低くなる、というのがその理由だ。
2つ目の目的は、対象者にネガティブなエネルギーを放出させることだ。ホーナーによれば、対象者は「怒りに満ち、恐怖に満ちた」状態でその場にいる。交渉担当者の仕事は、彼らに感情を吐き出す機会を与えることだという。そのための主な手段がアクティブリスニング(積極的傾聴)だ。ミシェルはセラピーでこの言葉を知っていたが、ここでも同じ意味なのか最初は確信が持てない。ホーナーはこれを「聞くことを通じて前向きな変化をもたらす」試みだと説明する。
訓練なしで現場へ:カージャックのシナリオ
まず様子を見るため、チームはまったく訓練を受けていないミシェルを難しいシナリオに送り込む。ジェシーという名のカージャック犯が、罪のない男性デールを助手席に乗せたまま車を奪い、警察がその車を停止させた。ミシェルの任務は、厳格なルールの下でこの事態を平和的に解決することだ。人質を別の人質と交換することはできず、逃走手段を提供することもできず、指揮部が事前に承認していない約束は一切できない。
ミシェルはまずデールに話しかけ、無事であることを示すために窓から腕を出してほしいと頼む。ジェシーは応じようとせず、「話はもう終わりだ」と言って窓を閉めてしまう。ミシェルはジェシーに「平和的に解決するまで、お互いどこにも行けないことはわかっているでしょう」と告げる。ジェシーは、ミシェルが立ち去れば解決すると答える。
チームはサンディエゴ市警の交渉用車両まで後退する。ホーナーによれば、この車両はホワイトボードやマイクを備え、交渉チーム全員が入れるスペースのある最新鋭のものだ。ホーナーは、主任交渉担当者を支えるチームの価値をミシェルに理解してもらうことが目的だと語る。彼らはジェシーの携帯電話に電話をかける。ジェシーは、車のタイヤをパンクさせたのは警察だと非難し、店に入ったのは食べ物を買うためだけだったと言い、別の車を要求し続ける。さらに、「わかっている人間」に交代しろと要求する。
ミシェルは、固まってしまったことを認める。言っていいこと、いけないことに関するルールは数多く、人の命がかかっている中で、ミシェルは完璧な言葉を探し続けてしまう。チームの一員は、そうしたことはすべて忘れて、ジェシーと普通の人として話すよう助言する。「電話の相手が自分の姉妹だと思って」話せばいいというのだ。しかし次の電話はさらに悪い方向へ進む。ミシェルはジェシーにどんな車が欲しいのかと尋ねてしまい、これは逃走の要求が交渉可能なものだと暗に認めることになる。するとジェシーは、デールが怪我をすることになる、そしてそれはミシェルのせいだと脅す。ミシェルは、もしデールが傷つけられたら「あなたが望むような結末にはならない」と返す。ジェシーはこれを脅しと受け取り、反発する。「最後通告なんかするな。仕切っているのはこっちだ」。ミシェルは「どうしたらいいのかまったくわからない」と言って電話を切り、シナリオは中止となる。
振り返り:聞いていることを示す
ホーナーのフィードバックは、問題の捉え方を変えるものだった。ミシェルは何を言うかを気にするよりも、対象者の言葉がきちんと聞かれていることを示すことに意識を向けるべきだという。ホーナーの説明によれば、自分の話を聞いてもらえたと感じた対象者は、より理性的な判断ができる状態に戻る。そうなって初めて、交渉担当者は対象者の選択に良い影響を与えられるのだ。
ホーナーは長所も指摘する。思いやりのある優しい口調と、いくつかの良いオープンクエスチョンだ。彼はオープンクエスチョンを、「はい」か「いいえ」では答えられない質問だと定義する。「誰が」「何を」「どこで」「いつ」といった質問は有効だ。避けるべきなのは「なぜ」という質問で、相手を責めているように受け取られかねないからだという。オープンクエスチョンは対象者に話をさせ、話すことで対象者は感情を吐き出すと同時に、チームに情報を提供することになる。
バック・トゥ・バック:視覚的な手がかりなしで
次に行われるのは「バック・トゥ・バック」と呼ばれるロールプレイだ。ミシェルとロールプレイヤーは互いに背を向けて座り、危機的状況にある人からできるだけ多くの情報を引き出すことが目標となる。ナレーションによれば、アイコンタクトや表情の手がかりがあればコミュニケーションは容易になる。それがない状況では、電話での交渉と同じように、ミシェルは相手の言葉だけに集中しなければならない。
ロールプレイヤーは上司と揉めたという設定で、すぐに、警察を呼んだのは誰か、ボブという同僚ではないのかと尋ねてくる。ミシェルは、上司の名前がグレッグであること、そしてその男が対象者の手柄を横取りしていることを聞き出す。しかし、ボブが通報したのかどうかという問題にミシェルが絡め取られ、やり取りは行き詰まる。フィードバックでロールプレイヤーは、上司の名前や揉め事の内容を尋ねるなど、ミシェルは良いオープンクエスチョンをしていたと評価する。助言は、実際の問題をさらに掘り下げ続けることだった。交渉担当者は通常、直前の24〜48時間に何があったのかを知ろうとする。たいていの場合、感情の大部分はそこから来ているからだ。
感情のラベリングと「セラピー的なもの」
ホーナーは、アクティブリスニングのスキルを表す「MORE PIES」という頭字語を紹介する。技法は全部で8つあるが、ホーナーはその中で最も効果的だと考えるいくつかにミシェルを集中させる。最初は感情のラベリングだ。「追い詰められていると感じているのでしょうね」「声から絶望が伝わってきます」のように、聞き取った感情に名前をつけることである。ホーナーによれば、これは相手が経験していることに共感していると示すことになる。
練習のやり取りで、ロールプレイヤーは、愛する人が脳腫瘍で余命はおそらく1か月だと話す。ミシェルは「怖いと感じているようですね」と応じる。ホーナーは、ラベルが間違っていても致命的ではないと説明する。対象者は「怖いんじゃない、私は……」と訂正してくれるし、それでも理解しようとする努力は伝わるからだ。ホーナーはまた、感情を表す言葉を並べた図表「感情の輪」をミシェルに見せる。これがあれば、交渉担当者は「悲しそうですね」のような同じラベルを何度も繰り返さずに済む。
ミシェルは、これがいかにセラピーに似ているかに驚く。学ぶ内容は人間関係と聞くことについてのものであり、このスキルは危機的状況だけでなく、友人や同僚、家族との関係にも応用できるとミシェルは指摘する。
実際の銀行事件と「アイ・メッセージ」
ホーナーはミシェルを、最終課題の現場に似た地元の銀行へ連れて行き、同僚が担当した事件について語る。武装した男が銀行を占拠し、人質を取った。最初に男と交渉したのはホーナーの同僚だった。約3〜4時間後、対象者は人質を解放し、最終的に平和的に投降した。ホーナーはこれを「ホームラン」と呼び、オープンクエスチョンと感情のラベリングのおかげだとしている。
続いて彼は「アイ・メッセージ」を教える。これは、対象者の言動に対する賛意や不賛意を伝える方法だ。型は「あなたが[行動]すると、[理由]なので、私は[感情]と感じます」というものだ。ホーナーは実際の911通報の音声を流し、ミシェルに応答させる。
女性に危害を加えると脅す通報者に対し、ミシェルは「あなたが彼女に危害を加えると言うと、その必要はないので、私は傷つきます」と答える。ホーナーは自分なりの例を示す。「あなたが彼女の口に銃を入れると、誤って暴発してほしくないので、私は不安になります」。これは対象者の立場を捉え直させるものだと彼は説明する。対象者は虚勢を張っているだけかもしれないが、もし銃が誤って発射されれば、対象者は深刻な事態に陥ることになる。刑務所に行くくらいなら死んだほうがましだと言う通報者に対しては、ミシェルは「死んだほうがましだと言われると、一緒により良い解決策を見つけられると思うので、私は悲しくなります」と答える。ホーナーの反応は「素晴らしい」だった。
ミラーリング、そして冷静さより共感
ホーナーはさらにいくつかの技法を教える。ミシェルが特に取り上げるのはミラーリングで、対象者が最後に言った数語を繰り返すというものだ。「うまくいっていないんだ」/「うまくいっていないんですね」。ミシェルはこれを、ジェダイのマインドトリックのようなものだと表現する。単純な方法だが、相手に話を聞いてもらえている、対等な立場にいると感じさせる効果がある。
ミシェルは、メディアでは優れた交渉担当者が毅然として冷静沈着で、声が大きい人物として描かれることが多いと振り返る。ホーナーのやり方はそうした原則を保ちつつ、そこに共感を加えている。ミシェルはまた、今の人々は主に自分自身のことばかりを話していると指摘する。ミシェルの考えでは、他者に心から関心を持ち、相手に経験や感情を語らせることで、はるかに強い人間関係が築かれるという。
失敗に終わった交渉
最終課題の前に、ホーナーはもう一つの教訓を、自身が関わった実際の交渉の現場で伝える。ある軍人が、約2年半の間で3度目となる派遣を控えていた。子どもが生まれたばかりで、再び派遣されることを望んでいなかった。その軍人は拳銃を持ってガレージに立てこもった。交渉チーム全員が懸命に努力したにもかかわらず、その軍人は自ら命を絶った。ホーナーはそのとき、その人の配偶者の隣に立っていた。今でも配偶者の叫び声が聞こえると彼は言う。
交渉担当者はそうした経験からどう立ち直るのかと問われ、ホーナーは、訓練とチームの仲間に頼るのだと答える。また、自分たちは相手を気にかけているからこそそこにいるのであり、相手が生きることを選ぶよう働きかけるためにできることはすべてやるのだと、自分に言い聞かせるという。彼は交渉を山登りにたとえる。もうすぐ頂上だと思っていても、「何か馬鹿なこと」を言ってしまえば(自分もやったことがあると彼は認める)、一番下まで転げ落ち、また振り出しからやり直すことになるのだ。
最終課題:銀行での模擬人質事件
最終課題として、ミシェルは地元のクレジットユニオンで行われる人質事件の想定訓練で主任交渉担当者を務める。現場にはSWATも待機している。実際の交渉と同じく、ミシェルには銀行の中は見えず、電話とチームに頼るしかない。任務は、人質を取った犯人も含めて全員を生きたまま外に出すことだ。
対象者はジョーと名乗る。ジョーは、金を手に入れるために銀行に来たが、今は見知らぬ人たちと一緒に閉じ込められていると言う。彼は車と道路の封鎖解除を要求し、それが得られなければ人が傷つくことになると警告する。ミシェルがそうしたことには時間がかかると伝えると、ジョーは5分の期限を設ける。彼はまた、仲間だというランディという人物に怒鳴るために、何度も話を中断する。ミシェルは彼の注意を引き戻そうとし(「ジョー、私に集中して」)、アイ・メッセージを使う。「人が傷つくかもしれないと聞くと、私はとても残念に思います」。
序盤は難航する。ミシェルはチームに「ここからどう進めればいいのか、よくわからない」と打ち明ける。チームの一人が、ジョーの朝がどう始まったのかを聞いてみるよう提案するが、ジョーはそんなことが何の関係があるのかと反発する。ミシェルは、ジョーが銀行に来た理由を問い詰める。ジョーは、2万ドルを引き出しに来たこと、そして話したくない持病があることを明かす。ミシェルが同情を示すと、ジョーは「あんたの気持ちなんかどうでもいい」と言い放つ。そしてミシェルは、カージャックのシナリオでの失敗を繰り返してしまう。ジョーが立ち去ることを選べば「あなたが望むような結末にはならない」と言ってしまったのだ。ジョーはまたしても、脅しているのかと問い返す。
転機:妊婦の人質の解放
車両の中で、チームは2つの考えを軸に態勢を立て直す。人質は明らかにジョーにとって気を散らす存在になっているので、ミシェルは人質の解放を提案できる。また、感情のラベリングを試すこともできる。チームは、ジョーが感じているかもしれない感情を出し合う。苦々しさ、屈辱、軽んじられている感覚、追い詰められている感覚。ミシェルは彼に「屈辱」という言葉は使いたくないと考え、「追い詰められている」に決める。チームはまた、ジョーの話を遮らずに感情を吐き出させるよう助言する。
ジョーが再び車のことで電話してくると、ミシェルは話を人質の解放へと向けるが、ジョーは拒否する。中の混乱が激しくなる中、ジョーは妊娠中の女性がいると言う。ミシェルが誰か怪我をしているかと尋ねると、ジョーは誰も怪我はしていないが、それがいつまで続くかは保証できないと答える。ジョーは自分は「善人」だと主張し、誰も傷つけていないし、少し金を取っただけだと言う。ミシェルは感情にラベルをつける。ジョーは追い詰められていると感じているに違いない、もしかしたら閉所恐怖症のような感覚かもしれない、と。ジョーは、確かに追い詰められていると感じていると同意する。ミシェルは、人質は彼の計画の妨げになっているのだから、人質が解放されるまでは何も提供できないと伝え、彼が人質を傷つけたくないと思っていることはわかっていると言う。するとジョーは、妊娠中の女性を外に出すのを手伝ってほしいとミシェルに頼む。
解放そのものも、危うく失敗しかける。外に武装した警察官がいると知ったジョーは、ミシェルが約束を破ったと非難し、20年間働いてきたのだからこの金が必要なのだと言い張る。ミシェルはこれを称賛に変える。20年間働いてきた人はとても勤勉な人なのだろう、だからこそジョーは誰も傷つけていないし、これからも傷つけないのだ、と。ジョーは女性を外に出す。ミシェルは彼に感謝し、それは正しい行動だったと伝える。
信頼関係の構築:腰の怪我と子どもたち
チームは、ミシェルがジョーを「追い詰めている」と言う。彼らは、誰も傷ついていないことをジョーに思い出させ、妊娠中の女性を解放したことは彼の人間性を示しており、裁判官もそれを考慮するだろうと伝えるよう助言する。ミシェルは次の電話の冒頭で、解放された人質は無事で、彼の選択のおかげで家族のもとに戻れたとジョーに伝える。
続いてミシェルはジョーの過去を探り、警察との間で嫌な経験をしたことがあるのではないかと水を向ける。ジョーは心を開く。彼は、社会の仕組み全体が自分に不利にできていると感じている。配管会社で約20年間給湯器の設置をしてきたが、腰をひどく痛め、それ以来元に戻らない。薬を試し、医者にもかかり、生きていくためには薬が必要だが、解雇されてしまった。この金は自分が稼いだものであり、ただ普通の生活がしたいだけなのだと彼は言う。
ミシェルはこれを彼の人柄に結びつける。彼は人を助けるのが好きな人のように見える、だからこそ人質を解放したのだし、何年も人々の家で人助けをしてきたのだ、と。ミシェルはジョーに子どもがいるかと尋ねる。6歳と9歳の2人で、名前はベンとサラだという。ミシェルは、子どもたちは父親を尊敬しているに違いないと言う。ジョーの手元にはまだ3人の人質がおり、どうしたらいいかわからないと彼は言う。人質を解放したら、警察が突入してきて撃たれるのではないかと恐れているのだ。ミシェルは、警察は突入してきておらず、これまでのやり取りのたびに約束を守ってきたと指摘する。そしてミシェルは彼の子どもたちの話を持ち出す。今ここで解決すれば、ベンとサラは、父親が人々を人質に取っている姿をニュースで見ずに済むのだ、と。
過剰な約束をせずに交渉をまとめる
ジョーは減刑の保証を求める。これは、指揮部が承認していないことは何も約束できないという、週の初めに学んだルールの一つが試される場面だ。ミシェルは、それは保証できないと伝える。ミシェルが提示できるのは、ジョーが誰も傷つけなかったことが裁判官に伝わること、そして報告書には2人が話した内容の正確な記録が含まれることだ。ジョーは「約束するか?」と尋ねる。ミシェルが「はい」と答えると、ジョーは残りの人質を外に出すことに同意する。ミシェルはジョーに、誰でも過ちは犯すものであり、あなたは正しい選択をしたと伝える。シナリオは、警察官の指示に従ってジョーが外に出てくるところで終わる。ミシェルはこれを「人生で最も長い2時間であり、同時に最も短い2時間だった」と表現する。
交渉担当者がこの仕事をする理由
なぜこの仕事をしているのかと問われ、ホーナーは、誰もが困難に直面するものだと答える。自分自身がつらい時期にあったとき、人々が助けてくれた。その恩を次の人に返したいのだという。罪のない人を暴力から守ることは、彼の言葉を借りれば「変化をもたらすことの究極の形」だ。彼は最後に、FBI本部の危機交渉部門のモットーである Pax per colloquium を紹介し、それを「対話による平和」と訳す。「それができたなら」と彼は言う。「それはもう、勝利なんだ」。
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