スズキの軽EV「e SKY」 ガソリン車から無理なく乗り換えられることを狙った開発の考え方

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概要

スズキが初めて開発した軽EV「e SKY」の試乗会を、PIVOTの野嶋がレポートした。後半では、開発に関わった3人がコンセプト、スペック、開発の経緯、スズキのEV戦略を語っている。出演したのは、チーフエンジニアの津幡知幸氏、四輪軽自動車商品統括部長の鈴木猛介氏、商品企画本部長で常務役員の村松和成氏である。

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3人の話は一つの考えでつながっている。EVだから最先端の車にするのではなく、アルトやワゴンRに乗ってきた人が違和感なく使える「いつもの相棒」としての軽自動車をつくる、という考えだ。なお、本動画はスズキの提供番組である。

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「新しさ」を見せつつ、乗り心地はこれまで通りに

津幡氏によると、EVと聞くと「新しい車」だと受け止めるユーザーが多い。それでも開発陣が目指したのは、アルトやワゴンRのユーザーが違和感なく普通に乗れるEVであり、「いつもの相棒のように使える車」だったという。

外装では、デジタル数字のようなライトをワンポイントで入れ、ひと目で新しい車だと分かるようにした。津幡氏は、乗員空間はできるだけ広くしたい一方で、角に少しRをつける部分が「デザインさんの腕の見せどころ」だったと語る。限られたスペースの中で、表現と居住性のバランスを取ったデザインになっているという。

車内では、メーターとナビの液晶が一体に見える。実際には別々の部品だが、デザイン上つなげることで新しさを表現したと津幡氏は説明する。一方で、シフトレバーなどはガソリン車と同じ使い慣れた仕様を残した。センターコンソールのスイッチを含め、運転席から手の届く範囲で操作が完結するようにしており、津幡氏はこれを軽自動車の特徴だと位置づけている。野嶋は乗り込んでまず空間の広さに触れ、運転後には「これがこうだったらいいのにっていうのがない」と感想を述べた。

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発進はあえてガソリン車と同じに

試乗で野嶋が最初に挙げたのは、柔らかく滑り出す感覚だった。津幡氏によると、これは開発陣がこだわった点である。EVは電気を流せば勢いよく発進させることもできる。しかし、ガソリン車に乗ってきた人の感覚と揃えるため、あえてガソリン車と同じように発進するよう設定したという。

音のつくり込みも同じ考え方に基づいている。完全に静かにすると、自動運転のように感じて運転している感覚が持てないという人もいる。そこで違和感のある音は消しつつ、走っていることが耳でも分かる程度に車全体の音を調整したと津幡氏は説明する。

野嶋はハンドルを大きく切っても「しっかり」曲がること、見晴らしの良さ、前方と左右の開放感を挙げた。津幡氏は、デザインにこだわると運転のしやすさが犠牲になることが「あるある」だが、普段使う車だからこそ運転のしやすさを重視したと語った。「キュッと切るとキュッと曲がる」感覚について、野嶋は「ガソリン車っぽい」と表現している。

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EVならではの加速

一方で、EVの良さとして強調されたのが加速である。アクセルを踏み切った再加速では、野嶋は「Kの乗り心地でこんな経験ができると思ってなかった」と驚いた。ペダルの踏み込みと同時にすっと速度が上がる感覚は、ガソリン車にはできないEVならではのものだと津幡氏は言う。急加速の後のブレーキも、急ではなく自然に減速できたと野嶋は述べている。

試乗を終えた野嶋は、EVだからすごいのではなく「この軽がすごい」と感じたと振り返った。津幡氏は、ガソリン車の良いところとEVの良いところを、ユーザーが求めるところにうまく着地させた性能だと評価している。

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「Easy to Switch」というコンセプト

開発コンセプトは「Easy to Switch」である。ガソリン車のユーザーが自然に乗り換えられることを狙い、開発者全員がこのコンセプトを掲げてデザインも性能も作り込んだと津幡氏は話す。

津幡氏の認識では、ガソリン車に乗っている人の多くは、EVに乗らなくても生活に困っていない。だからこそ、まずは乗ってもらい、エンジン音の少ない車がこれほど静かに乗れるのかと体験してもらうことを意識した。そのうえで、なるべく自然な軽自動車を目指したという。走っている感覚を違和感なく伝えるためのバランス取りが「すごい大変だった」とも語っている。

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出演者と、それぞれのe SKYとの関わり

後半のインタビューでは、3人がそれぞれの立場を説明した。鈴木氏はもともとチーフエンジニアとしてスペーシアやアルトなどを開発してきた。今年4月からはチーフエンジニアを束ねる立場になり、軽乗用車全体を統括している。

村松氏は、このEVプロジェクトの最初のチーフエンジニアを務めた。完成した車を前に「色々あったなと思いながらここまで来た」と、感慨深さを口にしている。

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一充電走行距離310km、電池容量は増やしていない

スペック面で津幡氏がまず挙げたのは、一充電走行距離310kmという数字である。野嶋は、走行距離が伸びたのなら電池も大きくなったのではないかと尋ねた。津幡氏はこれを否定している。電池容量を大きくして伸ばしたのではなく、最初から決まっていた電池サイズの中で、技術者と「1kmでも多く」伸ばす方法を探った。今年に入ってからの最後の最後まで詰めた結果が310kmだという。

鈴木氏はこの数字について、開発の当初は「この電池容量からすると走行距離って難しいよね」というところから始まったはずだと話す。それが最後には大台に乗るかというところまで来たので、「よくここまで伸びた」というのが印象だという。

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充電時間と電池容量の決め方

充電について、津幡氏は二つの使い方を示した。普通充電は3kWで約8時間かかるので、使わない夜間に挿しておけば満充電になる。高速道路などで急に充電したい場合は、残量の少ない状態から80%まで25分で充電できる。津幡氏は、これで日常使いには問題のない性能を担保したとしている。

開発陣の一人はこの8時間という数字に注目した。毎日使う軽自動車を一晩寝ている間に充電し終えられるかどうか、そこを基準に電池容量を決めている。電池をこれより大きくすると、充電時間が10時間、11時間と伸びてしまう。この選び方を「絶妙」と評し、「日本で考えてる軽のEVってこれでしょ」というところだと述べた。

燃費にあたる指標として津幡氏が挙げたのは、交流電力量消費率97Wh/kmである。津幡氏は、現時点で軽EVの中でナンバーワンの性能だと説明している。

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初代チーフエンジニアが描いた出発点

村松氏によると、検討の出発点は、軽自動車を中心にやってきたスズキにとって、スズキらしい軽EVとはどういうものかという問いだった。

議論の中で軸になったのが、コーポレートスローガン「By Your Side」である。EVだからといって最先端で色々なことができる「すごいもの」をつくるのではない。ベーシックなお客様が一番使いやすいものであるべきだ、という結論にみんなで話し合ってたどり着き、そこから開発を始めたという。津幡氏も、電気自動車は走らせようと思えばぐっと走るが、それではお客様が困ってしまうと話し、抵抗なく乗り換えられることをコンセプトに据えたと説明している。

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開発の難しさ ガソリン車とは違う「使い方」を考える

開発の難しさについて、鈴木氏は横で見ていた立場から二つの点を挙げた。一つは、お客様の期待、実際にできること、自分たちが目指したいことのバランスを取らなければならない点だ。ここが従来のガソリン車とは違っていたという。

もう一つは、給油が「電気を挿す」行為に変わることで、ユーザーの行動、つまり車の使い方が大きく変わる点である。従来とは違う見方で企画を考える必要があり、その考えを設計・開発の担当者に伝えなければならなかった。鈴木氏はこう例を挙げる。普通に考えれば、モーターならキビキビ発進したほうが商品として売りになる。しかしEasy to SwitchやBy Your Sideを考えると、ガソリン車ユーザーの使い勝手はキープしてほしい。こうした要望を細かく一つずつ伝えていかないと良いものはできないと、性能向上も含めて実感したという。

開発現場の混乱について問われると、村松氏は「現場の混乱よりまず自分が混乱した」と笑った。プロジェクトに入って初めて電気自動車を運転したとき、振動もなくガソリン車とまったく違うことに「何これ」と思ったのが正直な第一印象だったという。その後たくさん乗るうちに良いところが多いと分かった。ただ、良いところをどこまでも突き詰めればよいわけではない。そのバランスを設計担当と何度も議論し、何度も車に乗って一つずつ決めていったと振り返る。

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なぜスライドドアの背の高い軽ではないのか

野嶋は、最近の軽自動車は背が高くスライドドアを備えた車種が増えているのに、なぜe SKYはそうしなかったのかと尋ねた。開発陣の答えは、バッテリーEVの弱い部分をなるべく感じさせない車にするには、ワゴンRから始まったクラスがぴったり来る、というものだった。

津幡氏は、ワゴンRは何にでも使えて乗りやすく運転しやすい「絶妙なポジション」をつくった車であり、EVで同じことができる点が狙いとして一番良かったと考えている。野嶋がこれを「一つに飛び抜けるのではなく総合力で1位を取る戦略」とまとめると、出演者はそろって同意した。

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チーフエンジニア交代の裏側

村松氏の後を引き継いだのが津幡氏である。津幡氏はもともと鈴木氏とともにアルトの開発に携わっていた。アルトの量産が近づいた大事な時期に、村松氏から「津幡をちょうだい」と言われたという。チーフになる前に「持ってかれちゃった」と鈴木氏は笑いながら振り返る。

村松氏によれば、数か月前から当時の部長に交渉していた。当時からEVにフォーカスしなければならないことは皆が分かっていた。自分がやるのではなく、実際に手を動かしている人にやらせたいという思いがあったと村松氏は話し、鈴木氏も「しょうがないな」と応じたという。

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価格は「手の届く範囲」に

具体的な価格は動画では示されていない。価格設定の考え方について、鈴木氏は「EVである前に軽である」点を強調した。軽自動車は多くの人に乗ってもらわなければ意味がない生活のインフラだ。性能を上げて価格も上げる方向は、軽自動車のポジションとは違う方向に行ってしまう。開発陣はそう認識しており、手の届く価格に抑えるつくり方を一生懸命やってきたという。

あわせて鈴木氏は、バッテリーEVにはライフスタイルとの相性がどうしても生まれると指摘する。自宅で充電しやすい人とそうでない人では価値が変わる。普段の生活で離れたガソリンスタンドまで行かなければならない人なら、EVのほうが便利かもしれない。単純な価格だけでなく、生活が変わるかどうかが判断基準に入ってくるので、迷っている人にしっかり勧められる形を目指したという。

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スズキのEV戦略 EV一本ではなく「マルチパスウェイ」

海外勢の参入もあり、軽EV市場は盛り上がっている。この状況について村松氏は、色々な車種が出てくるのは非常に良いことだとポジティブに受け止めている。そのうえで、スズキらしさを押し出し、お客様に寄り添った車を1台1台丁寧に届けていくと述べた。全国の販売店のサービスも含めた安心感を届けることも、その一部だとしている。

ただし、スズキはEV一本で戦略を組んでいるわけではない。村松氏が目指すのは「スズキらしいマルチパスウェイ戦略」である。ハイブリッド、FFV、インドでのCBGなど、各地域のお客様に合ったものを提供する開発を進めており、EVはその中の一つという位置づけだ。

カーボンニュートラルへの道筋について、村松氏は規制という目線は避けられないとしたうえで、それを見据えつつ「こういうお客様がいる」という視点から商品を企画していくと答えた。「なかなか難しいですけど」とも付け加えている。今後のEV事業の展望を問われても、繰り返しになるがEV一番ではなく、市場の状況とお客様の要望に応えながら商品を並べていくと述べた。

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開発者から 「迷ったらまず乗ってほしい」

最後に、3人とも実際に乗ってほしいと語った。鈴木氏は、買ってもらうことが最終的には嬉しいとしつつ、まずは見て、触って、運転して体感してほしいと話した。そのうえで、販売店を含めてその価値を説明していくことが自分たちの次の仕事だとした。

津幡氏は、見た目も使い勝手も軽自動車そのものでありながら、EVとしての違いは乗らないと分からないと強調し、「迷ったらまず乗ってください」と呼びかけた。村松氏は、スズキの力を結集し、自信を持ってつくった軽EVだと締めくくった。