『VIVANT』プロデューサー飯田和孝が語る、日本のテレビドラマが世界と戦うための「時間」の使い方

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概要

TBS CROSS DIG with Bloombergの「1on1」で、竹下隆一郎がTBSのドラマプロデューサー・飯田和孝に話を聞いた。テーマは「世界と戦う日本発の作り方」である。竹下は、政府がコンテンツ産業で2030年代に20兆円を目指すと掲げていることに触れ、ドラマの考察文化や、Netflix時代にテレビドラマが通用するのかを問いかけた。飯田は『VIVANT』の制作を通じて考えてきたことを整理したいと応じた。話は作品の考察から、テレビドラマの強みと弱み、海外展開の壁、制作体制の改革へと進む。最後に飯田が強調したのは、お金を増やすことより「時間を確保すること」だった。

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シーズン2で考察が増えた理由

竹下はまず、第1シーズンと比べて現在のシーズン2のほうが視聴者の考察が多いのではないかと尋ねた。飯田は、前作のときから「考察ドラマではない」と言い続けてきたと前置きする。そのうえで、シーズン2は前作から続く物語であることを軸として打ち出している。そのため視聴者は、前作で回収されなかった事柄が今回すっきりするのではないかと期待しながら見ている。飯田は、考えながら見る姿勢が視聴者の間に根付いているという感覚を語った。

竹下は、ネタバレを避けながら、長野専務や新庄の正体がシーズン2で明かされていく展開はシーズン1の時点から考えていたのかと聞いた。飯田によれば、長野専務や新庄についてはシーズン1から考えていた。長野は第1シーズンでは野崎との取調室の場面で終わっているが、そのときから別班という設定だった。後で回収するために、演じる俳優もその計算を持って微妙な演技をしていたはずだと飯田は話す。

竹下は、ナイツの塙宣之らがYouTubeで発信している考察も紹介した。塙の説は、日曜劇場は過去作で家族愛をテーマにしてきたこと、登場人物の行動の根に野崎や乃木への思いがあること、今回AIが登場することを踏まえ、物語の軸は「AIではなく愛だ」というものである。飯田はこれに直接の答えを示さなかった。ただ、ドラマの基本は「主人公が何かをする物語」であり、伏線や考察と呼ばれるものはそこに付く枝葉だと説明した。人間がどう作用し合い、自分がどう変わっていくかがドラマの醍醐味であり、愛や感情、心は『VIVANT』でも軸になっていると述べた。

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「心のままに動く人々」と、乃木とFの二重性

『VIVANT』のテーマを一言で言うと何かと問われ、飯田はシンプルに言えば乃木憂助の冒険の物語だと答えた。感情面では「心のままに動いている登場人物たちの生き様」だという。登場人物はみな自分の心に素直に向き合い、それを行動に表している。それが裏切りになることもあれば、正面から気持ちをぶつけることになる場合もある。飯田は、今の社会や組織の中でありのままに動くのは難しいと話す。自分もそうありたいと思っており、気持ちいいほど心に素直に生きる登場人物の姿が視聴者を勇気づけることにつながればと考えている。

竹下は、優秀な別班員でありながら会社では上司に色々言われるサラリーマンでもある乃木の姿が、視聴者の共感を呼んでいるのではないかと述べた。飯田も、誰もが置かれた環境の中で戦い、抗い、ときには乗っかっていくのが人間の一生であり、普段はさえないサラリーマンである乃木の姿は視聴者が自分ごととして受け取れる要素になっていると応じた。

竹下が面白いと指摘したのが、乃木の中にFという別人格がいる構造だ。飯田は、キャラクター設定の段階でこだわった点を説明した。乃木の裏には別班員としての顔がある。もし普段の実直なサラリーマンの姿が演技だったとしたら、視聴者はがっかりするのではないか。そこで、演技ではない形にするにはどうすればよいかを考え、別の任務を担うもう一人の存在としてFを置いた。どちらかが偽りでどちらかが本物なのではなく、どちらも本物である。幼少期の体験からもう一人の自分を作り出し、Fがいることによって乃木も乃木でいられる。両方とも真実であることがこのキャラクターの妙だと飯田は語った。竹下は、劇中で長野専務が乃木に演技がうまいと言う場面があり、視聴者も騙されているのではと疑うが、そうではないと分かるエピソードがあることが一つの軸になっていると受け止めた。

8:26

同じ時間に見るというテレビの強みと、複雑さという両刃

話題はテレビドラマの価値に移る。配信やYouTubeが広がる中で、テレビドラマの良さはどこにあるのか。飯田は、考察が盛り上がる最大の要因は、決まった時間に同じものを見る人が圧倒的に多いことだと答えた。世帯視聴率10%で1000万人と言われる規模の人が、同じ時間に同じものを見る。いつでも見られる配信ドラマとは、見るタイミングが揃う点で異なる。21時からリアルタイムで見た人が次々に発信するため、乗り遅れたくない、ネタバレを先に聞きたくないという気持ちが働き、それが文化のようになっている。これはテレビだからこそだと飯田は考えている。

一方で飯田は、韓国のクリエイターから聞いた話も紹介した。日本のドラマは複雑なものが多く、それが海外に出る際の障壁になるのではないか。海外市場ではよりシンプルなストーリーやキャラクターが受け入れられることが多い、という指摘だった。そこで今回のシーズン2は、基本的には別班を奪還しに行く話という軸に立ち返ればシンプルな構造になっている。この点は第1シーズンより意識している部分かもしれないと飯田は言う。

竹下は、テレビはもう駄目だというステレオタイプもある中で、日本のドラマはシンプルではないところが特徴なのかと聞いた。飯田は特徴だと認めたうえで、事情を説明した。シンプルな作品は、今の指標である視聴率になかなか反映されない。毎回この時間にリアルタイムで見たくなるものを作ろうとすると、構成やストーリーを緻密に組むことになり、それが結果として好評につながっている。海外向けのシンプルさと国内での視聴率は裏腹の関係にあり、そこはまだ分析しきれていない部分だという。

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予算は通常の倍、それでもNetflixの5分の1

竹下が『VIVANT』の制作費を尋ねると、飯田はネット記事に出ている数字には触れず、通常のドラマと比べて予算はおおよそ倍という感覚だと答えた。億単位がかかることもあるのかという問いには、あると思うと応じた。ただし聞くところでは、それでもNetflixのオリジナルドラマと比べると5分の1程度で、作品によって当然違うという。

この差は埋まるのか。飯田は、現状のスキームでは難しいと見ている。差を埋める努力、つまりテレビドラマの価値を示し続けることは続ける。それと同時に、今の予算でもより深いものを作れるのではないかと考えている。

具体的な工夫として飯田が挙げたのは、制作期間を十分に取ることによる効率化だ。テレビドラマの撮影期間は大体4か月で、5か月取っているチームはそれほど多くないと飯田は話す。その中でエピソードを順番に撮っていくのが従来のやり方だった。『VIVANT』では前作のときから撮影前に台本が全部揃っていた。そのため、黒い印象の公安・野崎のセットであれば、3日間ほどかけて全話分のそのセットの場面を撮り続け、終わったらセットを壊して次を組むことができる。ロケーションでも、たとえば丸菱商事の場面を第1話から最終話まで、あるだけまとめて撮る。何日も行き来しなくて済むので、車両費や人件費、現場でかかる費用を削れる。そうして浮いたお金を映像品質の向上に回すというバランスの取り方ができるようになってきたという。

2010年代後半から感じていた制作現場の限界

竹下は、『ドラゴン桜』『マイファミリー』『アンチヒーロー』『御上先生』などを手がけてきた飯田に、制作の仕方を変えたいという問題意識は以前からあったのかと尋ねた。飯田は、『ドラゴン桜』以前の2010年代、コロナ禍を分岐点とするそれ以前の時期を振り返った。『半沢直樹』『陸王』『天皇の料理番』などに携わっていた頃、撮影スケジュールと放送がどうしても近接していた。納品というデッドラインに向けて作業するが、ぎりぎりになると詰めきれない部分が出てくる。テレビが4Kや有機ELなど高性能になるにつれて、画面の隅々まで詰めないと粗が目立つようになった。間に合わせる作業では立ち行かなくなると、2010年代後半から2020年に近づくにつれて少しずつ感じていたと飯田は語る。

16:21

アゼルバイジャンで聞いた「字幕が追いつかない」という声

シーズン1はNetflixで世界配信された。海外での反応について問われた飯田は、アゼルバイジャンでの撮影時の経験を語った。現地ではアゼルバイジャン語の字幕は出ておらず、英語字幕で見ることになる。ところが『VIVANT』は俳優のセリフ回しが速い。飯田によれば、これは特別なことではない。黒澤映画など昔の日本の作品もセリフは速く、海外作品も速い。むしろ近年の日本のドラマが特に遅いという印象があり、『VIVANT』では意識的にセリフを速くしている。その結果、英語字幕を追いかけられないという声を現地のスタッフから聞いた。

海外作品や韓国の作品には必ず吹き替えが付く。言語レベルの差や教育格差は世界中どこにでもあり、字幕を読めない人、文字を学ぶ機会がない地域の人もいる。耳から入る情報のほうが明らかに多くを伝えられる。第1シーズンは世界配信まではできたが、吹き替えはまだだ。Netflixのオリジナル作品は吹き替えが付いて世界に回っていくが、テレビドラマはまだその段階にない。いつか実現できればよいと考えており、そこが課題だと飯田は述べた。

18:10

強みは内面の描写、そして「今の日本」への関心

では日本のテレビドラマの強みは何か。飯田は、内面を深く描けることだと答えた。見た目の派手さよりも、『VIVANT』も実は繊細に描いている。日本人だからこそ作れる感情の機微やセリフが強みになる。もう一つは、これだけ多くの観光客が日本を訪れているという事実だ。建物、場所、食べ物、人など、日本への興味は当然ある。それを「見せます」と打ち出すのではなく、世界観としてそこにあるものの中で人物がどう動くか、その内面に深く掘り下げていく。そこに可能性があるのではないかと、自分の中だけの考えだと断りつつ「おぼろげながら」思っていると語った。

19:24

実在が知られていない「別班」だからこそ広がる想像の余地

竹下は、不利な点もあると指摘した。『007』や『ミッション:インポッシブル』に出てくるCIAやイギリスの情報機関は世界中に知られ、現実にテロと戦っている。一方、日本の別班は世界で知られているわけではなく、日本がテロ組織と戦う話は、良し悪しは別として国際政治的にはリアリティが薄いのではないか。

飯田はMI6のように、長く公には認められていなかった組織がある時期に認められた例に触れ、そうした組織は身近に感じられる面があると認めた。そのうえで逆の見方を示す。別班は、あるのかもしれない、あってほしいと思えるものだからこそ、ヒーロー化できる部分がある。飯田は子どもの頃アニメーションが大好きで、少年ジャンプのヒーローに憧れた。こういう人がいてほしいと思える妄想を膨らませる余地が、別班という組織にはある。

さらに飯田は、現代は情報があふれ、技術の発展で何でもすぐに調べられる。その中で想像や妄想、空想をする余地や時間は失われつつあると話す。フィクションだからこそ、こういう人がいたらいいのに、あの人は別班かもしれない、と思いを馳せてもらえる。劇中で乃木が長野専務に、年を取ったらどうすればいいのかと尋ね、長野は地位を得て組織を動かすことだと答える。そう考えると、どこかの企業の役員もそういう人かもしれない。CIAのように「こういう人」という具体像がないからこそ想像の余地が無限に広がり、それがデメリットを補って余りあると飯田は考えている。

竹下はインテリジェンス・コミュニティの関係者から聞いた感想も伝えた。その人は『VIVANT』を見ているが、防衛省は出てきても内部の組織図までは踏み込んでいないと言っていた。官房長官や内閣の構造を描いた『シン・ゴジラ』とは違う。これは意図的なのか。飯田は戦略的に説明を避けていると答えた。細かく描くと型にはまり、ドラマのスケール感が狭まってしまう。設定を説明する場面は実はあまりなく、物語が進む中で視聴者が自然と理解していくのがよくできた物語だと考えており、今回もそれを目指しているという。

世界に出たいが、第一は国内の視聴者

シーズン3があるとしたら、もっと世界に出ていきたいのか。飯田は、より多くの人に見てもらいたい思いは当然あると答えた。ただし第一は、日本の視聴者に深く見てもらい、愛してもらうことだ。テレビドラマである以上、それはずっと揺るがないと述べた。そのうえでアジアや世界に到達できればと考えている。

24:03

『SHOGUN 将軍』に感じた悔しさ

竹下は、Netflixが昭和や平成の昔の日本を題材にした作品を多く手がけ、それぞれ面白いと認めつつ、今の日本を描いたコンテンツがもっと世界に出てほしいと語った。例として、ジェンダーや政治の問題を描いた『エルピス』を挙げ、『VIVANT』もフィクションでありながら今っぽいと述べた。

飯田は、『SHOGUN 将軍』が賞を取ったとき日本中が沸いたことを振り返った。すごいと思うと同時に悔しさもあった。海外から見た日本は、時代劇、忍者、昭和といったイメージがまだ根付いている。『SHOGUN 将軍』も『忍びの家』も自分も大好きで面白かったと言う。そのうえで、テレビ局が作るものとしては、日本社会の今を捉え、それを表現しているもので勝負することが最も目指したい部分だと語った。

25:43

まず変えるべきは制作体制

決まった時間に見る視聴者を相手にしていた時代から変わった今、内容を変えるのか、プロモーションを変えるのか。飯田は、どんなものが海外で受け入れられやすいのかはまだ分からないと率直に認めた。そのうえで、現実的に分かっていてできることは制作体制の変革だという。

『VIVANT』は撮影前に台本がすべて揃い、準備が整った状態で撮影に入ったが、すべてのドラマがそうなっているわけではない。まずは撮影前に全話の台本があり、放送前に全撮影が終わっている状態を目指す。現在、連続ドラマ10本の撮影期間は大体3.5〜4か月だ。飯田は5〜6か月かけて10本を撮るのが理想だと考えている。準備期間を十分に取り、1日の撮影分量を減らし、そのぶん品質を上げていく。それを続けるには撮影期間を延ばす必要がある。

従来はオンエアの2か月前に撮影を始めるのが普通だった。すると放送が始まっても撮影が続き、編集やポストプロダクションも重なっていく。デッドラインが決まっているので、間に合わせるための選択肢しか取れず、「回す仕事」をずっとしてきたと飯田は話す。技術、美術、プロモーション、グッズ、イベントのチームなど、それぞれが企画の軸に対して自分がどう貢献できるか、得意分野をどう持ち込めるかを考える時間をきちんと作る。準備したものを現場で発揮し、その後にプロモーションなどに取りかかる。そうした時間を確保することで総合力が上がると考えており、個人としてこれから突き詰めていきたい制作体制だと語った。

竹下が、ビジョンを共有したうえで現場から下からアイデアが出てくることが海外での通用につながる流れか、と確認すると、飯田は自分個人の海外についての知見は限られていると答えた。技術、美術、プロモーション、俳優など、それぞれが勉強してきた知見を持ち寄るには、みんなに裁量を持たせる必要がある。そうなると海外を知っている人、勉強している人がチームの中で意見を出しやすくなる。それが正解の道かは分からないが、少しは近づけるのではないかと飯田は述べた。

30:16

『国宝』のキービジュアルと、日本の「独特さ」の可能性

飯田が目から鱗だったと語るのが、タイでのプロモーションに向かう際にグローバルビジネスの担当者から聞いた話だ。映画『国宝』を海外に売る際、国ごとに異なるビジュアルを使っていたという。業界の人には当たり前かもしれないが、ドラマだけを作ってきた飯田にとっては、キービジュアルを1つ作ってそれで勝負するのが普通だった。それがスタンダードではないと知った。海外に出る戦略として考えるなら、キャスティングよりさらに前の段階で、この国向けにはこのビジュアルを作ると決め、最初から関係者と話しながら進められる。それも時間があればこそできる。『VIVANT』は1年以上かけて進めてきたからこそ様々な試行錯誤ができ、それがプロジェクトの財産になると飯田は考えている。竹下は『パラサイト 半地下の家族』も国によってポスターが違うが、格差社会や貧困というテーマは共通しており、ビジョンさえしっかりしていれば表現が変わっても伝わるのではないかと応じた。

飯田はさらに、海外に見せるために作品を合わせる必要があるのかという疑問にも触れた。ある人から、『パラサイト』は韓国の格差社会を深く描いてアカデミー賞を取ったと聞いた。ならば日本のドラマを海外向けに変えることが本当に必要なのか。むしろ日本のコアな部分、海外の人が面白がる部分に入り込んでいくことも一つの突破口ではないかと考えるようになった。

飯田が例に挙げたのは、自身が『御上先生』を手がけていた頃に話題になった、山崎エマ監督による日本の小学校を描いたドキュメンタリーだ。前へ倣えや集団登校、合唱、児童による掃除など、日本では普通のことが海外の人には面白く、珍しく映った。日本の教育の仕組みは独特だと聞いたという。そうした部分を突き詰めることが海外に出る要素になるかもしれない。どんなことに挑戦するにも時間があれば少しずつ変わっていく、と飯田は語った。一番難しいのは時間を確保することだとも付け加えた。竹下は、『VIVANT』で社員が社員証を下げてずらりと並ぶ場面なども、海外から見れば日本らしく映るかもしれないと述べた。

34:03

照明20人の現場で見た「人数のメリット」

海外ロケで人数の違いを感じるかと問われ、飯田はプロデューサーの数も違うが、最も違うのは照明部だと答えた。日本では大体4〜5名で、5名いれば多いほうだ。海外では照明だけで20人ほどいると最初に聞いたときは驚いた。ただし役割が細分化されていて、機材の運搬などを分担している。機材も日本のテレビドラマではあまり見ないものが使われていた。韓国ドラマなどを見ると、ライティングや色味がやはり違う。その差は時間、機材、撮影の仕方によるもので、明らかに違うと飯田は言う。

タイでの撮影では、カメラを線路のようなレールに乗せて平行移動の映像を撮る場面で、飯田が見たことのない機材にカメラマンが乗っていた。驚いたのは、それを組み立てるチームの俊敏さと連携だった。人数がいることで機材のセッティング時間を減らし、撮影そのものにかけられる時間を多く生み出している。人数の多さは映像品質だけでなく時間の確保にも効いているのだと強く感じたという。

36:07

『VIVANT』を変化の「突破口」に

竹下は、取材で日本企業の経営者に話を聞くと、人の配置、つまり誰をどこに置くかがうまくいっていない例が多いと述べ、ドラマの現場ではどうにかなるものかと尋ねた。飯田は、ドラマにおいてはどうにかなるようにしたいと答えた。ただ、声を吸い上げて全体で共有すれば変わるのかについては、難しいところがあると認めた。変えようとしても変わらない時代が長く続いてきた。だからこそ、今こういうことが起きていて、こうすればこういう良いことがある、と粘り強く訴えていく。『VIVANT』はその試金石であり、変えるための突破口、あるいは砦と言える位置づけに置いていると飯田は語る。

まずは結果を出すことが大事だが、一過性であってはいけないとも飯田は言う。前作がある程度好評だったからこそ今作で様々なことを試せているのは紛れもない事実だ。だが多くのドラマは1作目であり、同じ施策を組めるかどうかは今後の課題になる。今回何がうまくいき、再現性があるから次もやるべきなのか、何が『VIVANT』だから可能だった特殊なものなのか。プロジェクトのメンバーはそれを総括して次につなげる義務があると飯田は考えている。別の1作目で同じことを試して成功すれば、再現性のある施策になり、やがて当たり前になっていく。そうなればよいと語った。

飯田は、自分はテレビの代表といった立場ではないと断ったうえで、テレビ局が作るコンテンツの力は計り知れないと述べた。『VIVANT』に限らず、スポーツイベントや大晦日のNHKの番組のように、多くの人が見るコンテンツであることは今も変わらない。業界としてもう一度、という動きのきっかけになればいいと話した。

竹下は、バラエティは長く続けながら試行錯誤できるが、ドラマは放送枠が決まっていて大変だと指摘した。飯田も、1回のクールにすべてを注ぎ込まなければならず、タイミングも重要だと応じた。だから成功例のある戦略に偏りがちになるのはドラマの宿命だという。勝ち筋の中で何が本当の要素だったのかを抽出し、そこから膨らませる新しい施策を試せるとよいが、それには勇気と理解が必要だと語った。

40:37

オリジナル作品の難しさと、企画段階でのAI活用

竹下は、漫画原作も好きだとしたうえで、『VIVANT』のようなオリジナル作品はプロモーション面でリスクがあるのではないかと尋ねた。ノベライズ本やコラボ商品を手に、まだ始まっていないドラマには企業も乗りにくいのではないかと問う。飯田は、今回の企業コラボはシーズン1があったからこそだと認めた。原作が売れていれば乗れることが担保されるが、オリジナルの場合は、台本と企画書の文字からどんな作品になるのかを理解するのも理解させるのも難しい。キャスティングでも各種施策でもプロモーション戦略でも同じで、社内でさえ、オリジナル企画を出したとき、企画を決める部署の人たちが同じ絵を描けるわけではない。

飯田は話がずれると断りつつ、そこにAIの進化を活かせると話した。実際の撮影前でも、どんな画になりどんなビジョンになるかを企画提案の段階で見せられるようになってきている。監督の仕事でも、こういう画面にするという絵コンテを絵にしやすくなっており、ビジョンの共有はしやすくなっている。そうしたものをより活用していくことが大事だという。TBSはオリジナル作品にこだわっており、そこで勝負できる輪を広げていきたいと語った。

43:22

湖池屋とのコラボに見た「理念での共鳴」

竹下は、CROSS DIGにもブランデッドコンテンツの営業部隊があることに触れ、今の企業は流行っているから乗るのではなく、作品のビジョンと深いところでつながる必要があるのではないかと述べた。飯田も、湖池屋はヒット作に乗ろうという感じではなく、理念や、日本の良いものを世界に届けようという挑戦に乗ってくれた感覚があると話す。打ち合わせは昨年から長く重ねてきた。湖池屋の社長がシーズン1を見てくれていて、ぜひということで実現したという。

飯田が驚いたのは、社長自らが打ち合わせに出てきたことだ。TBSのドラマチームと商品化チームに対し、湖池屋側は社長と若い社員が並んだ。入社3年目の社員が、アゼルバイジャンで野崎が手にしていたケバブ、それと対になる乃木側は島根をイメージした味、というコンセプトをプレゼンした。社長がもっとこうしたほうがいいのではと口を挟むと、その社員が「社長、それ違います、こうですよ」と返したという。飯田は、こうした企業とコラボできることに『VIVANT』がやる意義を感じると語った。VIVANTはフランス語で「生き生きと」という意味を持ち、今自分は生き生きと生きられているかという問いにも通じる、とも述べた。

竹下は、ファミリーマートが大谷翔平をおにぎりの広告に起用しているのも、大谷が日本から世界へという象徴を担っているからだと指摘し、これからのプロモーションは売れるものに乗るより理念を考えながら進むのではないかと述べた。

45:54

時間を生み出すことは、お金を増やすより大事だ

締めくくりに竹下は、今回の対話で「時間」が一つのテーマだったと述べ、どの業界にとってもグローバルでどう勝つかは課題だが、時間をかけることは一つのヒントだと感じたと語った。

飯田は、お金を増やすことよりも時間を確保することが大事だと答えた。時間は生み出せると考えている。たとえばコンビニとのタイアップは、通常のドラマで持ちかけると、コンビニ各社は1年前から綿密に戦略を組んでいるので入り込めないと言われることが多い。付け焼き刃では絶対にできないことが、今回は時間があったからできた。

ただし今回分かったこともある。プロジェクトの初期、飯田自身を含め、関係者は時間があることに慣れていなかった。1年あっても、1年前に何をすればいいのかが分からない。いつも「時間が足りない」と言っていた自分が、時間があるからこそ今何をすればいいのかと戸惑ったという。今回は、プロモーションを担う人たちが、この期間はこうする、放送直前はこうする、と1年間の戦略を綿密に組んでくれたことで様々な施策が実現した。

それでも飯田は、1年という時間を与えられれば全部が成功するわけではないと見ている。まず時間があることに慣れ、時間をかければこれができるから、こうしよう、と考えられるようになる。それが自分の体感としてスキームになるには、おそらく2回、3回の試行が必要だという。その難しさを感じると同時に、繰り返していくことが本当に大事だと強く感じた、というのが飯田の結論だった。