電源ケーブルのフェライトコアは伝導ノイズを減らせるのか:怪しいスイッチング電源で検証する

YouTubeで開く ↗
概要

パソコンやスイッチング電源の電源ケーブルには、筒状のフェライトコアが付いていることがある。多くの人は特に気にせず使っているが、実際にどれくらい効果があるのか。イチケンはLISN(疑似電源回路網)とスペクトラムアナライザ機能を使って伝導ノイズを測り、フェライトコアの効果を確かめた。比較のために、市販のACラインフィルター、ノイズカットトランス、品質の高い電源も測定している。結論として、試した電源に限ってはケーブルのフェライトコア程度では伝導ノイズはほとんど減らなかった、と話者は報告している。

7分で読めます

フェライトコアは何をするものか

話者によれば、電源ケーブルのフェライトコアは、電化製品の内部で発生したノイズが電源コードを伝って外に出ていかないようにするための部品である。フェライトコア付きケーブルを開けると、分割されたフェライトコアが入っている。これで電線を挟んで閉じると磁路ができ、フィルターとして働く。電線を全部まとめて挟むので、主に効くのはコモンモードノイズだという。

ノイズには大きく分けて伝導ノイズと放射ノイズがある。伝導ノイズは、スイッチング電源などのノイズ源につながった電源コードを伝わってくる電磁ノイズである。放射ノイズは、ノイズ源から空間に放射される電磁ノイズを指す。フェライトコアで減らせるのは主に伝導ノイズのほうで、コードの途中や根元に付けることで、ノイズ源から伝わってくる伝導ノイズを減衰させられる。「減衰」とは言うが、実際にはフェライトコアの部分でノイズを熱に変えている。

伝導ノイズを減らせれば、電源タップなどでつながっている他の機器にノイズが伝わりにくくなる。ノイズが強すぎると他の機器が誤動作するおそれもある。逆に、外から入ってくる伝導ノイズを減らす役割もある。

ただし話者は一つ注意を加えている。電源ラインのフェライトコアには、ノイズ源そのものが出す伝導ノイズを小さくする効果はない。ノイズを外に出さない、あるいは中に入れないようにしているだけである。発生量を減らすにはノイズの根本原因を消す必要があるが、それは難しいことが多いという。

測定のセットアップ

測定系は、ノイズカットトランス、LISN、供試体(今回のノイズ源)、計測器の4つからなる。交流電源にノイズカットトランスをつなぎ、その先にLISNを置き、LISNにスイッチング電源などの供試体を接続する。LISNにはノイズ源から出る伝導ノイズだけを取り出す端子があり、そこに計測器をつなぐ。

各機器の役割は次のとおりだ。ノイズカットトランスは、他の製品から来るノイズを取り除き、比較的クリーンな電源を供給する。LISNは入力側から来る伝導ノイズをさらに除去したうえで、測定対象のノイズ源から伝わる伝導ノイズの成分だけを信号として取り出す。計測器にはスペクトラムアナライザを使うのが普通だが、今回はオシロスコープ(ローデ・シュワルツ MXO3)のスペアナ機能を使った。

話者は測定条件の限界も明言している。再現性を確保するため、本来は接地した金属導体の上で実験するが、今回は設備の都合で行っていない。この点が後の結果の解釈にも関わってくる。

「ヤバそうな」スイッチング電源で測る

最初の供試体は、そこら辺に転がっていたというスイッチング電源である。回路を見る限り電源ラインのノイズフィルターは入っていないようで、PSEマークもない。話者はこれを「いろいろとノイズを撒き散らしていそうな、ヤバそうな電源」と評している。

画面の横軸は150kHz〜30MHzで、伝導ノイズ測定の規格と同じ範囲である。縦軸は伝導ノイズの強度で、大きいほどノイズが強い。何もつながない状態のバックグラウンドノイズを確認してから、フェライトコアのない通常のケーブルでこの電源を接続すると、伝導ノイズが「かなりバンバン出ている」状態になった。

フェライトコア付きケーブルと大型コアの結果

次にフェライトコア付きの電源ケーブルに替えた。見た目ではほとんど変わらない。あり・なしを比べると、5MHz以下で伝導ノイズが少しだけ減っているようだった。ただし話者は、セットアップの再現性の問題でこうなった可能性もあると留保し、若干減っているので効果は少しあるのかもしれない、という程度の評価にとどめている。

効果がはっきりしなかったので、追加で電源ケーブルをループにして大型のフェライトコアに通した。話者の説明では、コアが大きくなって断面積が増え、ケーブル側でもインダクタの巻き数が増えるので、原理的にはノイズフィルターとして有利になりそうだった。しかし結果は、大型コアのあり・なしでもあまり変わらなかった。話者は、どちらかといえば実験の再現性の問題のほうが大きそうだと見ている。

インダクタンスを測ってみると

なぜ効かないのかを確かめるため、話者は各ケーブルのコモンモードインダクタンスを測った。フェライトコア付きケーブルは5.5μH、コアなしは4.0μH、大型コアに通した状態は150μHだった。

電線を1回通しただけのフェライトコアでは、インダクタンスはコアなしのケーブルとほとんど変わらない。実際に伝導ノイズもあまり減っていなかった、と話者は結びつけている。一方で、インダクタンスが大きく増えた大型コアでも伝導ノイズの状況はほとんど変わらなかった。このため話者は、今回のスイッチング電源ではフェライトコアを付けるだけでは効果がなさそうだと結論づけた。

市販のACラインフィルターを使った場合

続いて、電源ライン用の既製品ノイズフィルターを試した。内部にはキャパシタと0.3mHのコモンモードインダクタが入っている。

結果は、低域はほとんど変わらなかったが、500kHz以上でノイズがかなり少なくなった。一方、20MHz付近のピークは残った。はっきり効果が見えたので、話者はフェライトコア単体よりもACライン専用のノイズフィルターを使うほうがよさそうだと述べている。この種のフィルターは外に出ていく伝導ノイズだけでなく、外から入ってくる伝導ノイズも減らすので、ノイズの多い環境ではほぼ必須だという。

ノイズカットトランスをフィルターとして使う

次に、ノイズカットトランス自体をノイズフィルターとして使う構成に変えた。この構成ではNF回路設計の交流電源を使っているため、何もつながない状態でも若干のバックグラウンドノイズが見える。話者はこれは仕方ない部分だとしている。

ここにノイズ源の電源をつなぐと、低域の伝導ノイズはかなり減衰し、高い周波数でもバックグラウンドノイズとほぼ同じレベルになった。話者は「かなり優秀」と評価している。ただし、ノイズカットトランスを装置ごとに用意するのは、特別な事情がない限り現実的ではない。そのため実用上は、先ほどのACライン専用フィルターを使うことになるという。

ちゃんとした電源はそもそもノイズが少ない

ここまでの電源は「かなりひどいレベルのノイズ撒き散らし電源」だった。そこで、ちゃんとした会社が作った一般的なスイッチング電源も測った。ノイズフィルターを入れていない状態でも伝導ノイズは低く、電源自体が出すノイズが少ないことが分かった。話者は、電源の伝導ノイズは本来こうでなければならないと強調している。

中を開けると、AC入力部にキャパシタやコモンモードチョークなどが入っている。ノイズは電力変換部分で発生しているが、回路内にすでにフィルターがあるので、外に出ていく伝導ノイズも低い、というのが話者の説明である。

さらに、低ノイズ電源として売られているダイトロンの製品も測った。伝導ノイズはかなり低いレベルで、話者は非常にノイズ性能の高い製品だと評している。理由として話者が挙げるのは、この電源の内部回路がソフトスイッチングで設計されていることだ。電源が出すノイズ自体が少ないので、伝導ノイズも少なくなる。

結論:後付けのフィルターは対症療法

話者のまとめによれば、今回試した電源に限っては、電源コードに付いているフェライトコア程度では伝導ノイズはあまり減らせなかった。ACラインフィルターやノイズカットトランスには効果が見られたが、こうしたフィルターの後付けは対症療法的な対策であり、ノイズ源が出すノイズそのものを減らすわけではない。本気でノイズに向き合うなら、良い電源の例が示したように、ノイズ源が出すノイズを減らす設計をしていく必要がある、というのが話者の結論である。