CIO国産充電器の試作機はなぜ熱くなりすぎたのか:原因の特定と改善版の検証

YouTubeで開く ↗
概要

CIOとイチケンが共同で進める国産充電器プロジェクトの進捗報告である。前々回の動画では、中国で作った試作品をフルパワーで試験すると温度が高くなりすぎることが分かった。前回の動画では、中国のUSB充電器工場を訪ね、日本で作る前に組み立て性などを検証するため製造プロセスを確認した。今回の動画では、前回までの試作品の問題点を改善したアップデート版が届いたので、どこを改良し、それでどういう結果になったかを確認している。結論を先に書くと、シングルポートでは温度条件を満たした。一方、マルチポートはまだ接触温度の上限ぎりぎりで、対応を検討中である。

8分で読めます

前回の試作品で起きていた問題

前回の試作品の主な問題は温度だった。フルパワーで連続試験をすると、表面温度が高すぎるうえに温度分布も不均一だった。サーモグラフィーで見るとホットスポットができており、最高温度は90℃を超えていた。これはIECやJISで定められた接触温度の上限77℃を超える値である。

イチケンは最初に、充電器の電力損失が大きすぎるのではないかと疑い、電力変換効率を測った。最高効率は91%で、20V・65W出力時の電力損失は6.27Wだった。イチケンによれば、これは65W充電器としては標準的な値である。充電器としての動作に問題はないと確認できたので、回路設計ではなく、内部で発生した熱を外へ逃がす放熱設計に問題があると考えて検証を始めた。時期としてはちょうどこの頃に中国の工場を訪ねて試作品の製造工程を確認しており、そこで得た情報も原因の特定に使っている。

筐体とプレートの間の隙間

放熱がうまくいっていない最大の理由は、筐体の作り方にあった。この国産充電器は、普段のCIO製品と筐体の構造が少し違う。光沢のあるメインの筐体と、CIO製品おなじみのザラザラしたシボ加工の面がある。一見すると全体が一体で成形されているようだが、実際にはシボ加工の部分はプレートとして外れる。

このプレートと筐体の間に隙間、つまり空気の層ができていたため、熱が非常に伝わりにくくなっていた。イチケンの説明では、小型USB充電器の放熱は、熱を筐体の面全体に分散させ、空気の対流と放射で逃がすのが基本方針である。ところがこの隙間があるため、充電器の表面まで熱が届きにくかった。これまでのCIO製品は筐体とプレートに分かれておらず、基本的に全体が一体で、内部に空間はない。この問題は今回の製品に特有のもので、イチケンは「油断していた」と振り返っている。

湾曲した内面と、液体ギャップフィラーが使えない事情

筐体の形状にも課題があった。CIOのUSB充電器は、広い2つの面とコンセントプラグの面の計3面が平らで、残りの面は湾曲している。外側だけが湾曲しているなら問題ないが、この製品は内側も湾曲している。平らな面には熱源を密着させられるが、湾曲した面では基板と外装を密着させるのが難しい。

こうした形状で密着性を上げる方法として、イチケンは厚手のシリコン放熱パッドを使う方法と、液体のギャップフィラーを流し込む方法を挙げる。ただしこの国産充電器は、液晶や操作ボタンが回路と同じ空間にあるため、液体のギャップフィラーは流し込めない。ほかに最適な放熱材料が見つかったとしても、組み立てにくくなれば組み立てのばらつきや不良率の上昇につながる。そのため、組み立て性まで含めてよく考えて設計する必要があるという。

コンセントプラグの面も、本来はコンセント側へ熱を逃がすのに使える。しかし試作品ではギャップフィラーも熱伝導シリコンゴムも充填されておらず、この面を放熱に生かせていなかった。

回路側の問題:インダクターの部品選定ミス

電子回路にも問題が1つあった。外装を外した状態でどの部品が最も発熱しているかを観察すると、インダクターだけが極端に熱く、104℃になっていた。原因は単純な部品選定ミスと分かっており、すぐに修正した。

ほかにも改善点はいくつかあったが、主なものは以上である。イチケンは問題点をまとめ、どのような熱対策をとるべきかを記した報告書をCIOに提出した。その後の経緯を経て、改善版の試作品が届いた。

改善版の電力変換効率

改善版ではまず電力変換効率を測った。1ポート使用・20V・65W出力時の効率は、改善前の91%から改善後は92%になった。最高効率で比べると改善版は92%台中盤で、改善前より1.3ポイントほど高い。同じ条件での電力損失は、改善前の6.27Wから改善後は5.53Wに下がり、0.74W減った。使っている部品にも少し変更が入ったため、全体として効率が上がって損失が減り、そのぶん放熱も少しだけ楽になったという。

参考として、コンセント電圧200Vでの結果も画面に示された。200Vのほうが変換効率は高いため、前の動画でも話したとおり、放熱設計は基本的に100Vを前提に考える。

2ポート使用時の効率も測っている。電力損失が最も大きくなるのはポート2が9V出力のときで、損失は7.64Wだった。

表面温度の事前計算

実物の温度を見る前に、イチケンはUSB充電器の表面温度がどこまで上がるかを計算している。室温・表面積・電力損失が分かれば、実物がなくてもある程度は計算できる。シングルポートとマルチポートでは電力損失が違うので、条件を分けて計算した。前提は室温25℃、表面温度が均一でホットスポットがないことである。

計算結果は次のとおり。

  • シングルポート、全面が露出している場合:60℃
  • シングルポート、コンセントに挿した場合:65℃
  • マルチポート、全面が露出している場合:70℃
  • マルチポート、コンセントに挿した場合:76℃

シングルポートなら温度には余裕がある。一方、マルチポートはJISやIECが定める接触温度のぎりぎりで、条件によっては超える可能性もある。しかも計算は表面温度が均一でホットスポットがない前提なので、実物ではもう少し高くなりそうだとイチケンは見ている。

なお、今回は動画の構成上この計算を後半で扱っているが、実際の設計では実物を作り始める前の仕様段階で行うものだと補足している。許容できる電力損失や、放熱に使える表面積はこの計算から決まる。

改善版の実測結果

改善版の温度を室温26℃で測った。シングルポート65W出力では、表面温度は試験開始直後から上がり始め、60分後に70℃に達した。予想より5℃ほど高いが、イチケンは「こんなものか」と受け止めている。今回はサーマルスロットリングによる保護機能をオフにしているので、これがこの充電器の実力値になる。サーモグラフィーで見ても熱は比較的均一に広がっており、問題はなさそうだという。

マルチポートでは、サーモグラフィー上の最高温度が76℃程度で、かなりぎりぎりの状態だった。イチケンは、実際に使う人の安全を考えるとサーマルスロットリングはかけたほうがよいと考えている。製品版の扱いはまだ決まっていないが、シングルポートではスロットリングをかけず、マルチポートではかける、という条件付きの仕様になるかもしれないと話している。

分解して見る改善版の内部構造

続いて改善版を分解し、内部の熱設計がどう変わったかを示している。

まず、コンセント部分に熱伝導シリコンゴムが充填された。改善前は、電解コンデンサーまで伝わってきた熱の逃げ場がなかった。隙間をシリコンゴムで埋めたことで、コンセント面から熱が逃げるようになった。あわせて回路全体を熱的に結合させ、筐体表面へより均一に熱を伝えるようにしている。

シリコンを取り除いて回路を引き抜くと、筐体の内側に黄色いシールのようなものが貼られている。これはグラファイトシートで、内部の回路で発生した熱を面方向に拡散させる役割を持つ。今回もその目的で使っており、両面に貼られている。

外側のプレートを外すと、その裏には銅箔が追加されていた。こちらは熱を面に広げるというより、グラファイトシートとプラスチック筐体から伝わってきた熱をシボ模様のプレートへ伝えるためのもので、問題だった隙間を埋める役割がある。イチケンは「苦肉の策感が伝わってくる」と話す。銅箔の厚さも重要で、厚すぎるとプレートを貼り付けられず、薄すぎると貼り付け作業が難しくなる。そのため、ちょうどよい厚さを選んだという。

さらに、部品の間に充填する熱伝導シリコンゴムの量も増やし、全体の熱をより均一にしている。

改善前後の比較

サーモグラフィーで改善前後を比べると、改善前はやはり温度が高すぎた。熱の分布も均一ではなく、ホットスポットに近い箇所があり、一部は90℃を超えていた。イチケンはこれを製品として販売できない状態だったとしている。改善後は温度がおおむね均一になり、狙いどおりの効果が出た。最高温度は室温やシングル/マルチポートの条件によって70℃から76℃程度である。

イチケンはこの経験から、熱設計は設計の後半や実機を作った後に頭を悩ませる原因になるため、設計の初期段階から考えておく必要があると述べる。電力密度の高い小型充電器ほどその傾向が強いという。

現時点の到達点と残る課題

現状では、シングルポートでのフルパワー使用は温度条件を満たしており、サーマルスロットリングなしで常時フルパワーで使える状態になっている。一方、マルチポートは接触温度ぎりぎりで、安全面を考えるとサーマルスロットリングが入る可能性がある。この段階から熱設計でできることは限られているため、どう対応するかは現在検討中だとして、動画は締めくくられている。