年金積立金300兆円は「余剰資産」なのか 会田卓司氏が語る社会保険料引き下げと成長の関係

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概要

給料が上がっても社会保険料の天引きが重く、手取りが増えない。それでも少子高齢化のもとで年金制度を維持するには仕方がない、と考える人は多い。この対談では、クレディ・アグリコル証券チーフエコノミストで、政府の日本成長戦略会議の有識者構成員を務める会田卓司氏が、この前提に異を唱える。会田氏によれば、日本の年金積立金は「余っている」ため、社会保険料は下げられる。ただし積立金を取り崩すのではなく、経済成長によって下げるべきだという。聞き手はフリーアナウンサーの野沢春日氏である。

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日本経済を停滞させた「諦め」

対談は、会田氏の新著『何が日本経済を壊したのか 失われた30年の謎を解く18の経済講義』の問題意識から始まった。会田氏は、日本経済を壊したのは「我々の諦め」だと述べる。成長はできないと諦め、できるだけお金を使わず投資もせず、「細く長く」やっていこうとしてきたことが停滞の原因だという。

会田氏は、投資が生まれなければ細く長くやろうとしても長くは続かず、途中で切れてしまうと指摘する。これまでの日本は、停滞は仕方がないとあきらめ、将来の災害や有事に備えて節約し、財政余力を蓄えるという考え方で動いてきた。その結果、投資が増えなかった。会田氏は、これからは官民連携の戦略投資と産業政策で投資を拡大し、成長スピードを上げることで財政余力も生まれ、国民が豊かになる好循環を作るべきだと主張する。本書はその転換のきっかけになるものだと位置づけている。

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賦課方式と積立方式の違い

社会保険料の話に入る前に、会田氏は年金制度の仕組みを整理した。年金の運営方式には賦課方式と積立方式がある。賦課方式は、その年の収入でその年の支出を賄う方式である。積立方式は、現役世代のときに積み立てた資金を運用し、その成果で年金を支払う方式だ。

会田氏によれば、日本を含むG7各国はいずれも賦課方式で運営されている。その理由として会田氏は次のように説明する。賦課方式では、将来どれだけ年金を受け取れるかが確実に分かる。経済状況が変動しても支払い義務を果たすのは国なので、リスクは国が負う。一方、積立方式では運用次第で受給額が変わるため、リスクは国民が負う。将来という非常に長い期間のリスクを負う力は、国民よりも国の方が大きい。だからG7各国は賦課方式を採っている、というのが会田氏の説明である。

賦課方式であれば、その年の収入で支出を賄うので、巨大な基金を貯めておく必要はない。実際、日本以外のG7各国はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のような巨大な基金を持っていないと会田氏は言う。一方の日本には300兆円程度の巨大な年金基金がある。野沢氏が調べた最新データでは300兆円を超えており、会田氏は運用が好調だったためと説明した。

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なぜ賦課方式の日本に巨大な基金があるのか

会田氏によれば、戦後に年金制度が始まったとき、日本は賦課方式とも積立方式とも明言しないまま制度を始めた。高度成長期で、高齢者が非常に少ない人口ボーナスの期間でもあったため、積立金はどんどん積み上がっていった。その後、ある時点で賦課方式だと位置づけたときには、すでに基金が貯まっていたという。それをGPIFなどが運用してきた結果、賦課方式のもとで300兆円超の積立金が形成された。

会田氏は、本来の賦課方式では基金はいらないのだから、この基金は「ある意味で年金の余剰資産」だと述べる。その根拠として挙げたのが資金循環統計である。日本銀行などがまとめるこの統計で政府の資産と負債を見ると、資産側には年金基金の資産が計上されている。一方、負債側には「公的年金預かり金」が計上されていない。会田氏によれば、積立方式であれば、資産の反対側に国民へ返すべき負債が立つはずだ。それが存在しないのは賦課方式だからであり、したがって年金基金は余剰資産だということになる。

そのうえで会田氏は、同じ賦課方式でも基金を持たない他のG7各国と、基金を持つ日本と、どちらの財政が良好かと問いかける。答えは日本であり、年金資産は国の財政を考えるうえで支えになる資産だと会田氏は言う。ただ、こうした認識はあまり知られていないという。

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社会保険料は「取り過ぎてきた」

野沢氏が、その300兆円を払い続けてきたのは国民かと確認すると、会田氏はそうだと答えた。賦課方式では本来そこまで積み上がるものではないのに積み上がったのは、社会保険料を取り過ぎてきたからだと会田氏は考えている。

これに対して、日本の国民負担率はまだ低いという一般的な見方がある。会田氏はOECD比較のグラフを示した。賃金のうちどれだけを税金や社会保険料として負担しているかを示す労働者負担率で見ると、日本は低い方に位置し、高福祉の国は高い方にある。この数字をもとに、少子高齢化で人口動態が悪化するなか負担率を上げる余地があるとして、消費税や社会保険料が引き上げられてきたと会田氏は説明する。

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名目の負担率と「実感的な」負担率

しかし国民の実感はまったく違い、負担はものすごく重く感じられている。会田氏は、この違いがどこから来るのかを3つの要因で説明した。

1つ目は家計の貯蓄率である。家計が豊かで将来に向けて多額の貯蓄ができる状態なら、税負担が大きくても負担感はそれほどない。逆に、その日暮らしのような低い貯蓄率では負担感が大きくなる。2つ目は賃金上昇率である。毎年賃金が大きく上がるのであれば、今年の負担は相対的に小さく感じられる。3つ目は年金の所得代替率である。現役時代の賃金と同じくらいもらえる年金なのか、5分の1程度しかもらえない年金なのかで、負担感は当然違う。

会田氏によれば、日本は家計の貯蓄率が非常に低くなり、その日暮らしの世帯も相当多い。賃金上昇率も他国と比べて非常に低かった。国民年金などは支給額が少なく、所得代替率も高くない。これらの要素で各国を調整した「実感的な労働者負担率」を作ると、日本は上位5か国に入るという。計算方法について会田氏は、名目の負担率をベースに、各国の家計貯蓄率、賃金上昇率、年金所得代替率の大きさを均して調整したものだと説明した。

会田氏は、財務省などがよく示すのは名目の数字であり、国民が感じているのは実感的な数字だと述べる。名目の数字からは社会保険料をまだ上げられる、上げなければならないという結論になる。実感の数字からは、これ以上上げられたら重税すぎて回らないという結論になる。この食い違いによって議論がかみ合わなくなっているという。

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積立度合と財政検証の「メインシナリオ」

では、どうすれば社会保険料を下げられるのか。会田氏は年金基金の動きを追うことが重要だとして、厚生年金の積立度合のグラフを示した。積立度合とは、年間の年金給付額の何倍の積立金があるかを示す指標である。会田氏によれば、厚生年金では約5倍、国民年金では約4倍の積立金がある。

純粋な賦課方式であれば、収入と支出が釣り合えばよいので、理屈の上では基金はゼロでもよい。ただし何が起こるか分からないことや、円滑な支給を考えれば1倍程度の基金があればよく、それが純粋な賦課方式の姿だと会田氏は言う。それに対して現状は5倍も貯まっている。

会田氏は、社会保険料が引き上げられてきた理由を、5年に1度行われる年金の財政検証にあると説明する。グラフの黒い線は、財政検証でメインシナリオと見られている、もっとも下向きの線である。このシナリオでは、少子高齢化と人口減少のもとで基金を使いながら給付を続け、100年後に積立度合が1倍に戻る。つまり100年後に純粋な賦課方式に戻るというシミュレーションだ。

会田氏によれば、この黒い線は100年間ずっとマイナス成長が続くことを前提にしている。マイナス成長が続いても年金は破綻せず、基金が1倍に戻るだけだということになる。ただ、このシナリオは非常に悲観的なので、経済成長が低迷している分を社会保険料でどんどん取っていかないと黒い線にはならない。だから社会保険料が引き上げられてきたと会田氏は説明する。

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悲観論は自己実現する

会田氏が最も問題視するのは、悲観論の自己実現である。悲観論を前提に社会保険料が足りないとして引き上げを続け、現役世代が疲弊すると、実際に経済が低迷してマイナス成長になってしまう。会田氏は、これは政策で一番やってはいけないことだと強調する。負担が重いと感じれば国民はお金を使わなくなり、悲観的になって投資もしなくなる。本当はマイナス成長ではなかったかもしれないのに、結果としてマイナス成長になり、悲観論が実現してしまうという。

ここで会田氏は高市政権の考え方を対比させた。これまでの政府は、少子高齢化や人口減少、社会保障の問題があるから成長は望まず、節約で細く長くやっていこうという考え方だった。これに対して高市政権は、日本にはまだ力があり、日本経済の停滞の原因は国内の投資不足という「意思の問題」だと捉えていると会田氏は言う。宿命なら変えられないが、意思なら変えられる。だから投資計画を打ち出し、官民の戦略投資と産業政策によって成長スピードを上げようとしている、という説明である。

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年金財政を左右するのは人口動態ではなく成長

では成長スピードが上がった場合はどうなるのか。会田氏は、グラフの緑の線を示した。これは内閣府の「成長実現ケース」などのうち、実質成長率が1%程度の真ん中のシナリオに対応する積立度合の推移だという。このシナリオでは、現在5倍の積立度合がどんどん増え、100年後には25倍近くになる。実質GDP成長率が1.6%であれば、さらに上がるという。

野沢氏が「払いすぎだ」と反応すると、会田氏もそれに同意した。会田氏は、少子高齢化や人口減少が前提より早く進むケースも点線で示されていることに触れつつ、このグラフが示すのは、社会保障システムや年金システムの安定を左右するのは人口動態ではなく経済成長だということだと述べる。

会田氏の論理では、そうであれば成長スピードを上げなければならない。節約して社会保険料をどんどん引き上げれば実際にマイナス成長になってしまうが、投資をして成長スピードを上げれば、年金制度や社会保険システムは持続的になる。会田氏は、年金は相当悲観的なシナリオでも破綻しないので、いまの年金破綻論はミスリードだとする。他のG7各国も少子高齢化しているが基金は持っていない。日本は基金を持っている。会田氏は、これほど「ピカピカ」な年金制度を持った国はないと述べた。ただし社会保険料を引き上げる立場からは、ピカピカだとは言えず、制度は危機的だと言わざるをえなくなる、というのが会田氏の見立てである。

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「そもそも」で置かれる前提と、手段の自己目的化

野沢氏が、なぜそのようなことが言われ続けてきたのかと尋ねると、会田氏は「分かりません」と答えたうえで、やはり「諦め」だと述べた。会田氏は「そもそも」という言い方に注意を促す。そもそも日本は少子高齢化で成長できない、そもそも日本の財政は最悪だ、そもそも社会保障システムは危機的だ、と言われると、前提が勝手に置かれ、そこから議論が始まってしまう。本来はその前提が正しいかどうかをまず議論しなければならないのに、新聞などでも「そもそも日本の社会保障システムは危機的」という書き出しで始まると会田氏は指摘する。

会田氏はアメリカの大学で教育を受けた経験に触れ、前提を無批判に信じて議論することはもっとも批判される行為であり、前提を確かめ、さまざまな前提を置きながら議論するよう教えられたと語った。日本では、権威のある人が「そもそも」と前提を置くと、それを覆しにくい。こうした硬直的な考え方も日本経済を壊した原因ではないかと会田氏は考えている。

野沢氏は、悲観的すぎるシナリオの背後に、既得権益を守りたい人たちがいるのではないかとも尋ねた。会田氏はこれには直接同意せず、ほとんどの人が少子高齢化と人口動態の悪化を危機的だと信じ、正義感から社会保険料を引き上げようとしているのだと答えた。問題は、社会保険料の引き上げが自己目的化することだという。そうなると、名目の労働者負担率や、資産を見ずに負債だけを見た「政府債務残高はGDPの2倍」といったデータが引き上げの材料として次々に出てくる。本来の目的は社会保障システムの安定なのに、手段である社会保険料や消費税の引き上げが目的になってしまう。

会田氏は、これはプライマリーバランス黒字化と同じ構図だと述べる。財政健全化のための手段であるプライマリーバランス黒字化を目的にしてしまうと、経済が良くならず、結果として財政はもっと悪くなる。皆が無批判に前提を信じ込み、それを二十年、三十年と続けたことが、国民を苦しめ日本経済を壊す方向に向かわせたと会田氏は考えている。

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社会保険料をどう下げるのか

野沢氏は、骨太の方針がまとまり、自民党と日本維新の会がまとめた社会保障改革が示されたものの、現役世代の負担に関する文言は少なかったように感じたと述べた。そのうえで、実際に社会保険料をどの程度下げられるのか、GPIFの積立金を取り崩すのか、それがどう成長につながるのかを尋ねた。

会田氏は、これはシナリオをどう扱うかの問題だと答えた。現在の悲観的なメインシナリオ(黒い線)では、積立金の想定運用利回りは3%である。GPIFは資産の半分を海外に投資し、残り半分を国内に投資している。会田氏によれば、これまで超長期の日本国債の利回りは0%台だったため、3%の想定利回りを得るには足りず、海外の株式や債券に投資して3%超の利回りを目指し、実際に成功してきた。資産の約50%が海外にあるのはそうした経緯によるという。

ところが現在、超長期国債の金利は4%に上がっている。会田氏は、想定利回りが3%なら、国債を買っていれば達成でき、株式のリスクも、海外投資による為替リスクも負う必要がないと指摘する。非常に安定的な運用で利回りが達成できる環境になったのだから、GPIFは海外よりも国内に投資する方向に変化するはずだという。

ここで会田氏は成長戦略と結びつける。高市政権は官民連携の戦略投資と産業政策で国内投資を増やし、成長スピードを上げる政策に転換している。長期投資をしたいのであれば長期資金が必要であり、それは年金基金として存在している。年金基金がもっと国内に投資すれば長期投資がしやすくなり、それが成功すれば、マイナス0.1%程度の成長ではなく1%成長に上がるかもしれない。これが会田氏の考え方の第一段階である。

1%成長になれば積立度合は緑や青の線のように上昇していく。会田氏は、青い線のように上がりすぎた積立度合を、賦課方式本来の1倍に戻すように設計すれば、社会保険料を大きく引き下げるか、年金の支給をかなり増やすことができるはずだと述べる。そしてこれは基金を取り崩して社会保険料を下げるのではなく、成長によって下げるのだと強調した。成長のためには長期投資が必要で、そのための長期資金を日本は大きく持っている。それを国内に投資して成長スピードを上げれば、社会保険料の引き下げや年金支給の増加という形で国民に果実を届けられる、というのが会田氏の主張である。

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資産配分の見直しと、株式を増やさない理由

野沢氏は、財政検証が5年に1度で次は2030年になること、GPIFの資産配分には乖離許容幅があることに触れ、その幅を変えるということかと尋ねた。会田氏はそうだと答えた。現在は国内債券、国内株式、外国債券、外国株式に25%ずつ配分する均等なアロケーションで運用し、一定の乖離幅が認められている。しかしこの配分は、超長期金利が0%台だった状態で正しいとされていたものである。超長期金利が4%で想定運用利回りが3%の今、同じ配分が正しいとは考えにくいと会田氏は言う。しかも日本は、この30年なかった長期投資拡大の計画を持って成長スピードを上げようとしている。会田氏は、国民の資産を国内のために使えないかという話であり、成長スピードが上がれば国内投資した年金のリターンも上がると述べた。

野沢氏は、成長を掲げる会田氏がなぜ債券にこだわるのか、株式をもっと増やしてもよいのではないかと質問した。会田氏の答えは、GPIFは年金基金だということである。リスクにかかわらず最大の利回りを求める運用をするところはない。一定の想定リターンを決め、そのリターンを最も小さいリスクで実現するポートフォリオを組むのが金融の常識だと会田氏は説明する。そのためには想定リターンをはっきり決め、どれがメインシナリオなのかを明確にしたうえで運用しなければならないという。

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メインシナリオが曖昧で悲観的すぎる

会田氏が問題視するのは、メインシナリオの曖昧さである。黒い線は、メインシナリオとは明言されていないものの、事実上それに沿って制度が動いている。想定運用利回りも「3%」とは示されず、「名目賃金上昇率プラス1.9%」と表現されている。会田氏によれば、黒い線の前提では実質マイナス0.1%成長で名目賃金上昇率は約1%と推計されるので、1プラス1.9でおよそ3%という計算になる。3%と言ってしまうと、超長期国債で足りるのだから海外投資はやりすぎではないかと言われるため、このような表現にしていると会田氏は見ている。

さらに会田氏によれば、いま春闘などが好調で名目賃金上昇率が3%になると、想定利回りは約5%になり、超長期国債の4%では足りないという話になってしまう。しかし想定利回りが5%になるような状況なら、すでに緑の線に乗っていることになる。会田氏は、こうした「つじつま合わせ」によって、社会保険料は引き下げず運用も今まで通りという、国民にとってあまり良くない状況が続いていると批判する。自分にとって居心地のいい、これまでのやり方から出たくないという姿勢がこうした説明の仕方につながっており、状況が変わった今は一歩踏み出す勇気を持って見直す必要があるという。

会田氏は、財政検証の中で「過去30年投影ケース」が悪いシナリオであり、黒い線はこれに当たると説明する。日本成長戦略会議は17の戦略分野を中心に産業政策と官民連携の戦略投資を拡大し、少なくとも成長型の経済シナリオや成長実現ケースに持っていこうとしている。そうであれば年金のメインシナリオも過去30年投影ケースである必要はない、と会田氏は言う。

誰がこれを決めるのかという野沢氏の問いに、会田氏は、5年に1度の財政検証を踏まえて政府が検討し決めなければならないと答えた。ただし5年待たなくても、すでに財政検証は行われており、成長や運用についての多数のシミュレーションがある。その中からどれがメインシナリオかを明示することはそれほど難しくないという。あまりに悲観的なシナリオを選べば社会保険料を取りすぎて悲観論が自己実現し、あまりに楽観的なシナリオを選べば、うまくいかなかったときに年金がうまくいかなくなる。ある程度のところをメインシナリオにすべきだが、それでも今よりは楽観的になるだろうから、成長が生まれれば社会保険料の引き下げは十分考えられる、と会田氏は述べた。

積み上がった基金の扱いについても、会田氏はメインシナリオ次第だとする。黒いシナリオでは、だいぶ先ではあるが徐々に取り崩して1倍に戻していく。運用をどうするか、想定利回りを何%にするかによって基金の扱いはまったく変わる。悲観的なシナリオに立つ人と楽観的なシナリオに立つ人が別々の土俵で議論しても生産的ではないので、まずメインシナリオを1つに決め、同じ土俵で議論しなければならないと会田氏は主張した。

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年末の成長戦略実行計画

今後どう動くのかと問われ、会田氏は日本成長戦略会議での取り組みを説明した。日本成長戦略は7月にまとまり、年末までに日本成長戦略実行計画を作る。計画は2040年度までのものだが、最初の5年間は集中投資期間と位置づけられている。この5年間にどのような投資をし、どのような成果を得るのかを年末までに議論して作るという。

会田氏は、国民が成長スピードの上昇を実感できるようになれば、年金のメインシナリオをもう少し楽観的なものにし、必要な社会保険料や年金の想定運用利回りをより整合的に決めていくべきではないかと述べた。

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長期金利が早く上がった理由

野沢氏が、議論の大元は高市政権の「責任ある積極財政」であり、今まさに岐路に立っていると述べると、会田氏は、日本の超長期金利や長期金利が思ったより早く上がってきたのは事実だと認めた。会田氏によれば、高市政権の積極財政と官民連携の投資は、7月の日本成長戦略とそれを盛り込んだ骨太の方針から予算編成が始まり、2027年度予算から動き出すもので、まだ動き出していない。だから長期金利が早く上がる必要はなかった、と会田氏は言う。

それでも金利が上がった理由として、会田氏は2つを挙げた。1つは、高市政権の投資がうまくいき、現在の名目3%成長が今後も持続するという期待である。もう1つが年金基金だ。会田氏は、賦課方式なら基金はいらないのに日本には基金があるということは、言い換えれば政府が民間から長期資金を召し上げているということだと説明する。本来なら、その長期資金は生命保険会社の保険や年金などを通じて民間に残り、日本の長期国債を買う力になるはずだった。それを政府が召し上げ、その半分を海外に投資している。

会田氏は、日本の金利が低い時期ならそれでもよかったが、超長期金利が0%台から4%に上がる過程で、もっと機動的に海外から国内へ投資を移していれば、長期金利はもっと緩やかに上がり、高市政権の積極財政や官民連携の戦略投資、産業政策はもっとやりやすくなったかもしれないと述べた。実際には金利が上がったため、積極財政はできないのではないかという一部のプッシュバックも起きているという。会田氏は、年金の問題をしっかり整理すれば投資がしやすくなり、成長スピードを上げる可能性を高められるはずだと強調した。

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年金マネーで好循環をつくれるか

会田氏は、日本には投資のためのリソースも人材もあると述べる。それにもかかわらず、さまざまなシステム上の障害があり、状況が変わっても過去の居心地のいいやり方に閉じこもってしまう癖があるため、成長も投資も実現できていない。会田氏はこれを非常にもったいないことだと表現した。

最後に野沢氏は、海外資産の比率をどの程度にすべきか、会田氏の頭の中にイメージはあるかと尋ねた。会田氏は具体的な数字は示さなかった。メインシナリオをどこに置くかによって大きく違うので、すべてはメインシナリオを決める検証から始まるという。ただ、超長期金利が0%台のときと4%台の今とで資産配分が同じなのは合理的ではない、ということは最低限言えると述べた。

会田氏は、日本成長戦略会議は長期投資を進めたく、そのためには安定した長期資金が必要であり、日本にはそれがあると繰り返した。日本が成長すれば投資のリターンが生まれ、それが国民に果実として届く。この好循環の芽を育てるには、思い込みやこれまで通りやりたいという殻に閉じこもる姿勢を打破しなければならない、というのが会田氏の結論である。海外比率をどこまで下げるべきか、社会保険料を具体的にどれだけ下げられるかは、メインシナリオの選択にかかる未決の問いとして残された。