中国経済はデフレを脱したのか 李智雄氏が語る「強い外需・弱い内需」と米中の「管理された安定」
PIVOT 公式チャンネル中国経済は長く「デフレ」と語られてきた。今も停滞が続いているのか。モルガン・スタンレーMUFG証券の李智雄氏は、少なくとも現時点で中国はデフレを脱却していると答える。そのうえで、今の中国経済を、AI関連の外需が強く、住宅と消費を中心とする内需が弱い「二極化経済」と説明した。本稿では、李氏の成長率予測、米中関係の見通し、内需が伸びにくい理由を、話された順に沿って整理する。
「デフレ」という言葉は何を指しているのか
李氏はまず、デフレという言葉の使われ方に注意を向ける。本来は物価が下がる状態を指すが、日本では経済に明るい見通しを持てない漠然とした停滞感を表すために使われているように見える、という指摘である。
では中国の成長は停滞しているのか。李氏によれば、中国の成長率は昨年が5%で、同社の予測では今年も4.6%程度になる。日本やアメリカの潜在成長率を尋ねられれば、アメリカでさえ2%程度である。過去10年間の世界の平均成長率が3.1%であることと比べても、悲観するほどの数字ではない、というのが李氏の見方だ。10%に届かないから低い、減速感が続いているから弱い、といった評価があることは認めつつ、判断は人によって異なるとしている。
李氏は、停滞感という意味でも、物価という意味でも、中国はデフレを脱却していると述べる。PPI(生産者物価指数)、CPI(消費者物価指数)、経済全体の物価を示すGDPデフレーターはいずれも長くマイナス圏にあったが、直近では上昇している。
問題は、日本でもよく議論された「良いデフレ脱却」か「悪いデフレ脱却」かである。李氏は、直近の物価上昇はコモディティ価格、特にエネルギー価格の上昇によるものだとみる。そのため、経済がとても強いから物価が上がっているとは言いにくい。ここから二極化経済の話につながる。
強い外需:AIサプライチェーンの中核としての中国
二極化経済とは、強い部分と弱い部分がはっきり分かれている状態を指す。強いのは輸出である。李氏は、アメリカを中心に世界のAI需要が強く、AIに使われる物資の調達が必要になっていると説明する。その供給網で中核を担う国の一つが中国であり、輸出入のデータは突出して強い。
聞き手は、関税や米中摩擦で中国の輸出が減るという懸念もあったが、EVは売れ、最近は欧州でエアコンも売れていると述べ、輸出産業は好調なのかと尋ねた。李氏は、アメリカ向けの輸出が減っていることは認める。アメリカ側から見た中国からの輸入も、中国側から見たアメリカ向け輸出も、ともに落ちている。米中間の貿易が減っていることは間違いない。
それでも、中国の輸出全体が減っているとはいえない、と李氏は言う。アジアのグローバル・サプライチェーンでは、中国が主にコアな部品を作る。中国の1人当たりGDPは1万4000ドル近くになっており、時点によってはもう少し高い。そこから、より安い国に部品を移して組み立てや付加価値付けを行い、その国からアメリカへ輸出する構造が強く残っている。このため李氏は、対米貿易は減っていても、グローバル・サプライチェーンにおける中国の位置付けは落ちていないと判断している。最大の需要者は今もアメリカだが、欧州向けなども含め、中国の輸出競争力はしっかりしているという。
弱い内需:住宅投資と消費
弱いのは国内需要である。李氏が特に挙げたのは固定資産投資(FAI)で、これを大きく押し下げているのが住宅関連投資だという。日本でも中国のゴーストタウンなどが話題になったが、これは要するに過剰投資である。
中国政府がこの過剰設備の解消に積極的に動いているかというと、李氏はそうではないとみる。下手にてこ入れをすると再びバブルになり、その後遺症としての過剰設備がさらに膨らむおそれがあるからだ。政府は、在庫が自然にはけ、持続的に回復していくことを求めているように見える。その間は、設備投資に関わる部分で減速感が続くことになる。
消費も緩やかに弱い。李氏によれば、足元の物価上昇はエネルギー価格によるものなので、モノの値段が上がって購買力が下がってしまう。強い外需と弱い内需を合わせると、成長率はおおむね4.6%程度になる。サプライチェーンの一員としての強さと、以前からあった中国経済の弱さがそのまま並んでいるため、マクロ全体で大きな変化が起きているとは言いがたい、というのが李氏の整理である。
半導体をめぐる相互依存:AI半導体自給率は40%から70%へ
三つ目の論点が半導体である。アメリカの輸入に占める中国の割合は2割程度から半分以下に減った。このことから、米中関係は脆弱なのではないかという質問をよく受けると李氏は話す。
李氏は、長期的には何らかの競合関係が続くだろうとしたうえで、現状を示すデータとして、同社が計算した中国のAI半導体自給率を挙げた。直近ではまだ40%程度にとどまる。中国は2015年に産業政策「中国製造2025」を打ち出したが、当時の目標から見ると高いとはいえない水準だという。同社は2030年までにこれが70%まで上がると想定している。ただ、現時点ではまだ半分にも届いていない。そのため中国は、アメリカに代表されるコア技術をなお必要としており、アメリカの輸出管理規制が効いている。
一方、アメリカが一方的に優位なわけでもない。アメリカもレアアースに頼らざるをえない。李氏は、レアアースを代替できる技術ができればいずれ依存から抜け出せるが、現時点ではそうなっていないと述べる。中国側がレアアースをレバレッジとして使っているように見える状況は続いている。こうした相互依存があるため、対立を激化させることは両国にとって経済的に合理的ではない、と李氏は判断している。
9月24日の米中首脳会談と11月10日の期限
こうした状況で迎えるのが、9月24日の米中首脳会談である。李氏は、会談前の交渉で互いに交渉力を見せる必要があるため、さまざまなノイズが出る可能性はあると述べる。関税率を引き上げる可能性や、レアアース規制が強化されるのではないかという話が出ることも否定できない。実際、2025年10月に向けた局面でもそうしたノイズが多く出た。それでも最終的には「管理された安定」に落ち着くのではないか、というのが李氏の見立てである。
これを考えるうえで李氏が重視する日付は11月10日だ。現在の米中間の規制は、関税を含めてすべてが有効なわけではない。一部の関税は引き下げられ、レアアース規制も停止されるなど、互いに緩和している部分がある。関税措置やレアアース規制に関わるこうした緩和措置は、何もしなければ11月10日に期限を迎える。李氏は、互いが互いを必要としている以上、関係を大きく悪化させることは合理性を持たない可能性が高いと考えている。そのため、期限に向けた話し合いで延長などの措置がとられるとみている。李氏にとって、今回の米中の最大のテーマは、この管理された安定が本当に維持されるかを確かめることにある。
聞き手は、中間選挙を控えたトランプ大統領が、政治的なアピールとしてより強硬に出る可能性はないのかと尋ねた。李氏は、タイミングが非常に難しいと答えた。11月10日の期限のちょうど1週間前が中間選挙だからだ。これを政治的にどう見せるかは判断が難しいとしたうえで、有権者の関心が米中関係、移民、インフレ、雇用のどこにあるかを見ながら、政権は判断していくのではないかと述べた。
管理された安定に持ち込めれば中国経済にとってプラスかという問いに、李氏は「少なくともマイナスではない」と答えた。その場合、AI半導体自給率70%というシナリオの実現可能性は高まるのかという問いには、予測は毎回見直す必要があると断ったうえで、中国国内の技術力は着実に改善していると判断していると述べた。アメリカやその他の国の規制次第ではあるが、その方向に進む可能性は高まるだろうという見方である。
デフレマインドと「厳しい消費者」
話は二極化経済の内需に戻る。国内の弱さは続くのか。李氏は、表現が正しければという前提で、デフレマインドを次のように定義した。今後、経済成長が加速することはなく、良くて横ばい、どちらかといえば緩やかに鈍化していく。そうした成長率を前提に、家計や企業の行動が決まってしまう状態である。給料がもう上がらないと思えば、弁当も安いものを選ぶ、という例を挙げた。この前提に立ち、中国の成長率の鈍化を前面に出して考えると、鈍化する経済に向けて投資を増やしたり、大きく消費したりすることはおそらくないという。
ただ、李氏が興味深いと指摘するのは、中国の消費者向けに商品を売る企業から「中国での販売が振るわない」という声があまり聞かれず、「意外と売れている」という話も耳にすることだ。マクロでは消費の伸びは鈍化しており、弱いと言わざるをえない。しかし消費がまったくないわけではない。李氏の解釈では、消費者はより厳しくなっている。お金はある程度あるが、安物買いの銭失いにはなりたくない。かといって、超高級品に高い値段を払いたいわけでもない。ほどほどの価格で満足度の高いもの、いわば高コスパ・高機能の商品なら買ってもよいと考えるようになっている。そうした厳しい消費者に向けた商品はちゃんと売れているが、全体としては消費が鈍化している、というのが李氏の見方だ。
内需主導になりにくい理由:社会保障の薄さ
聞き手は日本の経験と重ねて質問した。日本はバブル崩壊後、内需主導への転換を目指したが、結局は輸出産業で稼ぐ構図が続いた。内需が成熟し、外需で稼ぐという過去20〜30年の日本で起きたことが、中国でより大きな規模で起きるのか、という問いである。
李氏はこれを非常に重要な論点だとし、消費者が将来の成長加速を見込んで積極的に消費できない理由の一つとして、社会保障が十分に手厚くない可能性を挙げた。GDPに対する社会保障費の比率を国際比較すると、中国は先進国と比べてかなり低い。老後の生活への答えが年金や医療保険で十分に用意されていないなら、貯蓄率を上げざるをえない。貯蓄を増やせば消費はできない。これが需要全体を抑えている可能性がある、と同社は考えている。
解決の鍵は、中国政府が社会保障を手厚くして安心感を与え、それを消費につなげていくことにある。李氏はその可能性は残されているとみる。しかし現時点では、社会保障は緩やかに強化されているものの、政策の重点はサプライサイド、特に中国に足りない技術を強化することに置かれているように見えるという。消費よりも供給側の強化に焦点が当たっているため、同社の見通しも成長の加速ではなく、緩やかな減速が続くというものになっている。
中国をどう見るか:日本の「中国崩壊論」への距離
聞き手は、日本では中国崩壊論のようなネガティブな見方が強調されやすく、客観的に見なければ判断を誤ると述べた。李氏も同意した。その晩に発表されたスマートフォンも結局は中国で作られており、スタジオにあるものもほぼすべてが中国製だろうという。一方で、これまでの事件などから中国を懸念したりネガティブに報じたりする理由もある程度あり、日本が作ってきたものに対する競争相手としての強さから、中国を前向きに見にくいという声も聞くと話す。それでも客観的に見れば、ハードウェア関連の製造の多くは、自動車も含めて中国で行われている。だから両面を見る必要がある、というのが李氏の立場である。
世界経済は「強気」:アメリカの意外な強さ
総括として、アメリカは堅調で、中国も言われるほど悪くないなら、世界経済は好調とみてよいのかと聞き手は尋ねた。李氏は、正直に言えば驚きながらだと前置きした。本来なら、金利がこれほど高く物価も高いアメリカ経済は減速するはずだと同社も考えていたが、まったく減速しない。その理由として李氏は、前編でも触れた、金利にほとんど反応しないAI投資と、資産効果をともなう消費の強さを挙げる。特にAI関連投資が強い状況では、これまで景気循環を説明してきた要素が当てはまらない。李氏は循環的な変化ではなく構造的な変化が起きていると述べ、今年と来年という同社の見通しの範囲では強気だとした。
アメリカのAI波及効果は中国でも起きるか
では、中国もAI半導体の自給率を高めてAI投資を増やせば、アメリカのような波及効果で国内経済が伸びるのか。李氏は、国内消費にどこまで効くかが問題だと答える。中国のAI関連投資は今も増えていると思われるが、最先端技術を導入する一方で、過去の過剰設備も多く残っている。そのため、アメリカほど加速しやすいとはいえない。さらに、それを受けて消費者が行動を大きく変え、需要が次々に刺激されていく兆しも、現時点では見えないという。補う要素があるとすれば社会保障の補強による需要の創出だが、それも同社が想定したほどには進んでいない。そのため、成長率が加速するストーリーは描けていないのが正直なところだと李氏は述べた。
資産効果による富裕層の消費拡大もアメリカほど強くないのかという問いに、李氏は現時点ではそうだと答えた。かつては不動産価格が上がると株価もつられて上がったが、今はそもそも不動産価格が上がっておらず、そこでリンクが一つ切れている。ただし、そのリンクが残っていればよいとも限らない。短期で終わるものなら当然反動が来るため、持続的で自律的な回復が最も望ましいという。
株式による資産効果についても、計算上はそれほど大きくないと李氏は言う。日本も同様である。エコノミストの間では、資産効果は実はあまり大きくないというのがこれまでの感覚だった。しかし住宅価格や現在の株価上昇による資産効果は、従来と計算が違ってきている可能性があり、データを見ながら判断する必要がある。李氏が強調したのは持続性である。今年資産効果が大きくても、来年も同じ効果を得るには同じ伸び率で資産価格が上がり続けなければならない。高い水準のまま横ばいになれば、前年比での効果はゼロになる。そのため資産効果だけに頼る見通しは立てにくいという。聞き手が「資産効果を過大評価しないほうがよい」とまとめると、李氏は人生もそうだと思うと応じた。
日本経済への見方
最後に、今年から来年にかけての日本経済に楽観的かを問われた李氏は、物価上昇による名目GDPの上昇にはさまざまなプラス面があると答えた。株価も名目値なので一緒に上がる構図になること、債務のGDP比が目減りしていくことなどを挙げ、その意味では非常に好調だと言えるとした。別の言い方をすれば、物価上昇やコモディティ価格上昇の圧力があるにもかかわらず、利上げができるほど日本経済は堅調だ、というのが李氏の締めくくりだった。
中国経済はどうなのかと、ずっとデフレなんじゃないかとかそういうこと言われてきましたけど、少なくとも現時点ではデフレは脱却しています。今の中国は強い外需と弱い内需。これをガッチャンコすると大体4.6%程度の成長率という形になっていまして、
アメリカはアメリカで完全に優位なのかと言われると、そのアメリカもなんだかんだ言ってレアアースというものに頼らなければいけないという状況で、中国側もレアアースというのをレバレッジとしてかけているように見える。お互いにとって今その対立を激化させることが経済合理的であるという判断にはなっていないんだと。
米中にとっての最大のテーマというのはこの管理された安定というのが本当に維持されるのかどうかを確認していく場になるんじゃないかという風に考えていますね。
ここからはパート2としてですね。では中国経済はどうなのかと、ずっとデフレなんじゃないかとかそういうこと言われてきましたけど、今も結構そういった状態が、低迷が続いているのか、マクロのところから含めて伺いたいんですけど、二極化経済になってるんですか、今。
そうですね。まずデフレかどうかっていうご質問は非常に重要でありまして、デフレというと基本的には物価が下がるような状況というよりも、どちらかというと経済に対してあまり明るいことを考えられないっていう、なんとなく停滞感を示したいように我々デフレってことを使うように見えるんですね。
じゃあ中国の経済成長率は停滞しているのかっていうと、去年は5%でありましたし、今年も我々の予測では4.6%程度なんで、十分に高いじゃないかという。つまり日本の経済成長率、アメリカの潜在成長率って何ぼでしたっけと言われると、アメリカでさえも2%。過去10年間の世界の平均成長率が3.1%であることを考えれば、そんな悲壮感漂ってますかっていうところがまずあるんだと思います。
これはもちろん人によって判断が異なるところで、10%じゃないから低いんだとか、減速感がずっと下方向なので弱いんだとか、いろんな言い方あると思うんですが、少なくとも現時点ではデフレは脱却しています。
想官という意味では脱却していますし、物価上昇という意味でも実は脱却していまして、右側のグラフを見ていただくと、PPI、CPI、もう1つはGDPデフレーター、経済全体の物価指標を見ていただいても、かなり長い間マイナスにいたんですが、直近上がってますよね。
問題はそれが、よく日本で議論になっていた良いデフレ脱却なのか、悪いデフレ脱却なのかって話なんですが、少なくとも直近の物価上昇は、ご存知の通りのコモディティ価格、エネルギー価格の上昇によってもたらされたものであるので、経済がひどく強いかって言われると、そんな気もしないっていうのが、まさにおっしゃっていただいた二極化経済の話なんですね。
二極化経済というのは強いところと弱いところがはっきりしているという形になっていて、強いのは先ほどからの話の延長で、アメリカのAI需要、世界のAI需要が強くて、そこのAIに使われる物資の調達が必要であり、そこに向けたサプライチェーンのコアな国の1つとしての中国の輸出はやっぱり非常に強いというのが、左側の飛び抜けている輸出入のデータであります。
なんですが、一方で弱いところも存在していて、それが国内需要。特に右側のグラフで見ていただくとFAI、これはフィクスト・アセット・インベストメントで投資なんですが、これを大きく押し下げている1つはやはり住宅関連の投資になっています。住宅は日本でも色々と騒がれ、中国の住宅事情、不動産関連というのは色々騒がれましたが、ゴーストタウンだとか、ゴーストタウンは要は過剰投資なんですけれども、この過剰設備に対して中国政府が今大きく解消をしようとしているのかと言われると、変にてこ入れをしてしまうともう1度バブルになってしまって、そのバブルの後遺症としての過剰設備が増してしまう可能性が出てくるわけじゃないですか。なので、今は政府はあまり積極的にそこをやりたいとは思っていない。どちらかというと、自律的に在庫が捌けて、自発的に持続的な回復というのを求めているという状況でありますので、逆にその間は減速感が続いてしまうというのが、特に設備投資に関わるところでありますね。
一方で消費なんですが、消費も緩やかに弱い。これは足元の物価上昇がエネルギーによってもたらされていることになってしまっているので、購買力はやはり低下してしまうんですね。物の値段が高いので。なので消費も全体としては弱い。なので、今の中国は強い外需と弱い内需。これをガッチャンコすると大体4.6%程度の成長率という形になっていまして、
その意味ではマクロとして大きく興味深いテーマがあるかと言われると、大きなサプライチェーンの中での一員という強さと、元からあった中国経済の弱さと言いますかはそのまんまありますので、すごく大きな変化が現れてるとは言い難い状況ではあるんですね。
その意味ではこの関税の話であるとか米中の摩擦であって、そこの中で中国が輸出するところが結構減るんじゃないかとか、そういうところも懸念としてありましたけど、EVも売れてますし、最近だと例えばエアコンなんかも欧州で売れてますし、輸出産業自体は今も絶好調ってことなんですね。
はい。まさに、どこ向けのっていう意味で行きますと、アメリカ向けの輸出は確かに減っているんですね。例えば米国と中国のやり取りを見ていただくと、これですね、左側のグラフを見ていただくと、これはアメリカから見た中国からの輸入。逆に言うと中国から見たアメリカ向けの輸出というデータも出させていただいてますが、共に落ちている。つまり米中間の貿易は落ちてることは間違いない。
ただそれが中国経済全体として見た場合の輸出が減ってるかって言われると、アメリカに直接輸出はできなくとも、グローバルサプライチェーンの中で特にアジア圏において中国が主にコアな部品を作り、中国も1人当たりGDP1万4000ドル近くなっているわけなので、時点によってもう少し上ですけども、そこからもっとより安いところにそれを移し、組み立てたり付加価値をつけることから、そこからまたアメリカに輸出するという構造は強く残ってますので、アメリカとの貿易関係においては減少してることは間違いないものの、しかしグローバルサプライチェーンの中での中国の位置付けが落ちてるというわけではないという風に判断しています。
迂回輸出もできますし、グローバルサウスであるとか他に売る場所はいくらでもあるってことなんですかね。
そうですね。主な需要者はやはりなんだかんだ言ってアメリカではあるものの、まさにその欧州に向けたとかもそうでありますし、輸出はその輸出競争力等の観点では非常にしっかりしているという判断になると思います。分かりました。
その中で、問題なのがやはり半導体の部分でありまして、おそらくこれが3つ目のトピックになっていくんだと思いますが、じゃあその米中関係というのは、例えばアメリカの輸入に占める中国の割合もですね、2割程度から半分以下まで減っているわけなので、いや、これはやはり米中関係というのは非常に、なんと言いますか、脆弱性が高いのかというような話もご質問としていただくわけなんですね。
ただ長期的に見て何らかの競合関係であることはあるでしょうと。しかし現時点での現実を見ていただくと、例えば右側のグラフ、こちらの16ページのグラフというのは、中国の、我々の計算で恐縮なんですけれども、AI半導体の自給率というデータであります。直近ではまだ40%程度ですね。高いか低いかで言うと、2015年時点で中国が中国製造2025という産業政策を一時発表していましたが、当時考えられていた目標からすると、おそらく高いとは言えない。しかしこれが、我々の予測では2030年までに70%まで上昇すると想定しているんですね。ですが、まだ5割も行ってないですよねと、半分も行っていない状況の中で、中国はやはり米国に代表されるコアな技術は必要としているわけであります。なのでアメリカ側の輸出管理の規制がやはり効果を持つ形になっている。
じゃあアメリカはアメリカで完全に優位なのかと言われると、そのアメリカもなんだかんだ言ってレアアースというものに頼らなければいけない状況で、レアアースを代替できる技術ができればいずれ脱却できると思いますが、現時点ではそうなっていないので、中国側もレアアースというのをレバレッジとしてかけているように見えるという状況は、現時点ではやっぱり続いてしまっているわけであります。
つまりお互いにとって今その対立を激化させることが経済合理的であるという判断にはなっていないんだと思うんですね。そこで迎えるのが9月24日の米中首脳会談でありますので、その米中首脳会談に向けては互いに交渉をする中で自分たちの交渉力を見せつけなければいけないという意味合いで様々なノイズが出る可能性はあるんですね。
やはり関税率を上げる可能性があるだとか、あるいはレアアースの規制が強化されるんじゃないかみたいな話は出てくる可能性は否定はできませんし、実際25年の10月に向けた時にはそういったノイズもたくさん出てきましたが、しかし結局は管理された安定という形での結果になるんではないかと思っていて、それを捉える上で重要なと言いますか、考えてもいいポイントというのは11月10日でありまして、9月24日に米中首脳会談があるんですが、11月10日は何があるかって言うと、今アメリカと中国はいろんな規制がありますが、関税を含めてですね、全部が全部有効ではなくて、一部関税を引き下げていたり、レアアースの規制も止めていたりと、お互いに緩和状況にある部分もあって、その代表がこの3つでして、関税措置、レアアースの規制、ここが今のまま放っておくと11月10日に期限を迎えてしまう形になります。
ただ先ほどから申し上げたかったことは、互いが互いを必要としているという現在の状況においては、結局のところ関係を大幅に悪化させるということは合理性を持たない可能性が高いと思いますので、その意味ではこの期限を迎える11月10日に向けての話し合いの中で、延長なり何らかの措置が取られていくという風に考えていただく必要があるんではないか。つまり米中にとっての最大のテーマというのは、この管理された安定というのが本当に維持されるのかどうかを確認していく場になるんじゃないかという風に考えていますね。
そうするとお互いにメリットのある形で落ち着くんじゃないかってことですかね。
おっしゃる通りですね。
それは、今後中間選挙を迎える中でトランプ大統領としては政治的にアピールはしなくていいんですか?もうちょっと強硬に行ってるみたいな。
これがタイミングとして非常に難しいなと思いますのは、11月10日に期限を迎えて、その1週間前が中間選挙なんですね。なのでそこに向けてこれを政治的に、なんて言いますか、どのように見せるかっていうのは我々の判断では難しいところではあるんですが、今の米国の有権者の皆様の関心どころが果たして米中関係にあるのか、あるいは移民にあるのか、あるいはインフレーションにあるのか、あるいは雇用にあるのかによって、それを見ながらおそらく政権としては判断していく可能性があるんじゃないかという風に思っています。
ここで管理された安定に持っていければ中国経済にとってもプラスに働くということですかね。
少なくともマイナスではないという方にはなると思います。
そうすると先ほど予測されていた半導体の自給率、あのシナリオがより現実的になってくると言いますか、可能性が高くなってくるってことは、70%まで行くってことですね。
ですね。この予想も毎回見直していかなければいけないところであると思うんですが、しかし少なくとも中国内における技術力は着実に改善しているという判断になってしまいますし、それはもちろん今後の米国やその他の国々の規制にもよりますけれども、蓋然性が高まるという方にはなるんじゃないかと思います。
そうですね。先ほどの二極化経済に戻りますと、国内はこのまま弱い状態がやっぱり続くんですかね。
はい。こういった表現が正しければという仮定で恐縮なんですけれども、デフレというものに代表される考え方というのは、今後経済成長率が加速することはなく、良くて安定、どちらかというと緩やかに鈍化していくという経済成長率を前提にした上で家計や企業の行動が決まってしまうというのがデフレマインドだとするならば、つまり私の給料もう上がんないと思えば弁当代も安いもの買っちゃいますよねって話だと思うんですが、そうなってしまっているという前提が正しいとするならば、中国経済の経済成長率は、先ほどは世界経済の平均成長率より高いと申し上げましたが、鈍化しているということを前面に出した場合、その鈍化する経済に向けて投資が増やせるのか、あるいは大幅な消費ができるのかっていうと、おそらくそうではないと思うんですよ。
その意味で非常に興味深いなと思うのは、消費も投資も弱いという言い方をさせていただきましたが、かと言って例えば中国の消費者向けに物を売ってらっしゃるような企業様の中では、中国での販売が別に芳しくないみたいなコメントはなくて、意外と売れてるんですよねって話もやっぱり聞いたりすると、これをどう考えるかなんですが、マクロとしては確かに弱いんですよ。
消費は全体としては伸び率も鈍化しますし、弱いと言わざるを得ないんですが、ただじゃあ消費が一切ないかっていうと、そうではなくて、おそらくデフレ的な考え方からすると、より厳しくなるんだと思います。物が買えないというよりも、金はあるんだと、ある程度あるんだけれども、使う時に果たしてこれは安物買いの銭失いにはなりたくない、かと言って超高級なものを高い値段で払いたくもない。ある程度ほどほどのもので、めちゃくちゃ満足させられるようなものだったら買ってもいいんじゃないかって考え方になるんだと思うんですね。いわば低価格・高機能品みたいなもの、要は非常に消費者が厳しい消費者になっている。そこに向けて売れるものはちゃんと売れてるように見えますが、全体ではそうではないので、全体としての消費は鈍化してるってところにあるんじゃないかという風に思います。
そうしますと内需主導の経済にはなかなかなりにくいんですかね。日本もずっとバブル崩壊後、内需主導になれるかなれるかっていう風な形で努力はしてきましたけど、結局あまりならずにやっぱ輸出産業で食っていくっていう構図がずっと続きましたけど、そういう感じの二極化、内需はある程度成熟していく、そして外需で儲けていくみたいな、過去20〜30年の日本で起きたようなことがより拡大バージョンで起きるような構図なんですかね。
中国という非常に重要な論点でありまして、なぜ消費者は将来、今後成長率が加速するという見通しのもと消費をバンバンできないのかに対しては、1つの表現として、社会保障が十分に手厚くない可能性がある。これは例えばデータで見ると、GDP対比でどれぐらい社会保障費用があるのかという比率を国際比較してみると、やはり今の中国というのは世界の先進国と比べてかなり低いんですね。
ということは、老後にどうやって生きていこうに対する答えが年金だとか医療保険が十分にあるという考え方ではないとするならば、どうしても貯蓄率が上がらなければいけない。その貯蓄率を上げるためには消費ができないって話になりますので、それが全体としての需要を抑え込んでる可能性があると我々としては考えていて、結果それを解く鍵になるのは、中国政府がより社会保障を手厚くしていくことによって安心感をより与え、それが消費につながっていくという可能性は残されてると思うんですね。
ただ現時点で我々の目に見えているものは、社会保障は確かに緩やかに強化はされているものの、どちらかというと政策のフォーカスというのはサプライサイドの中でも今中国に足りていない技術をより強化していくというところに見受けられますので、全体としての消費を強化するというよりも供給側を強化しているところにフォーカスが当てられているが故に、我々の成長率も加速ではなく、どちらかというと緩やかな鈍化が継続するんじゃないですかという方になっているというのが現実でありますね。
分かりました。その両面見ていかなきゃいけないんですね。
おっしゃる通りですね。
日本だとどうしても中国崩壊論的な、中国ネガティブなものが強調されやすい土壌があるので、そこをちょっと客観的にしっかり見ていかないと判断を誤りますね。
おっしゃる通りですね。今晩色々と発表されているスマホとかも結局中国で作られてますし、おそらくこちらのスタジオにあるほぼ全てのものもメイドインチャイナだと思いながらも、一方で中国に対して非常に懸念されたりネガティブなニュースをおっしゃるような理由もある程度あると思うんですね。これまでの事件があったりしますし、一方でこれまで日本が作ってきたものに対しての相手としての強みっていうところもあって、そこをあまりポジティブに見れないっていうようなことも聞いたりはするんですが、しかし非常に客観的に見てみると、我々の特にハ適に絡むものの多くの製造は、自動車も含めてなんですが、中国でなされているという現実もありますので、両面見ていく必要はあるのかなと思ってしまいますね。
分かりました。今日の話を総合しますと、やっぱアメリカも堅調であり、中国もそんなに言われるほど悪くないって意味では、グローバル経済全体としては結構好調であるという結論でいいんですかね?
いや、本当に驚きながらっていうところであるんですけれども、本来であるならばアメリカ、金利こんな高くてこんな物価高い、経済鈍化するに決まってるじゃないかと我々も考えていたんですが、全然鈍化しないと。これはどっから来てるんだって考えると、先ほど申し上げた金利の感応度が異常に低いAI投資であったりだとか、先ほどの資産効果を伴った消費の強さというのが牽引しているという現在の状況、特に前者のAI関連投資の方が強い状況においては、今までの経済の循環を説明する要素が成り立たないという意味で、かなり循環的な経済ではなくて構造的な変化が見られているので、我々としても少なくとも今年来年という我々の見通しの範囲内において
つまり強気ですね。
強気ってことですね。で、アメリカがこのAI投資によっていろんな波及効果でこんだけ潤ってるわけじゃないですか。そうすると同じことは中国でも起きるんですか?今後自給率を高めてAIにどんどん中国としても投資していけば、それが波及していって中国内の経済も伸びるという、そういった効果、アメリカで起きてるようなことが中国でも起きるんですか?
そこは、先ほどご指摘いただいたように国内の消費にそれがどこまで効いてくるかって話になります。もちろん中国は今後そのAI関連の投資が今明らかに増えてると思うんですが、ただ問題なのは最先端の技術を導入しながらも過去の過剰設備投資もかなり残っているという部分でありますので、加速しやすいかというと、そこがあんまり違うっていうところが1つありますのと、もう1つは、じゃあそれらを受けて消費者が行動を大幅に変えて需要がどんどん刺激されていくかっていうと、現時点ではまだそういう芽が見えないというところになっていますので、そこにおそらく欠けていると言いますか、より補足的に作用するものがあるとするならば、この経済全体での需要創造として社会保障等の部分が補強されていくところではないかと思っているんですけれども、なかなかそこが我々が想定してるほどには加速していないという状況であるので、現時点ではそこまで例えば成長率が加速するほどのストーリーというのを描けていないというのが正直なところでありますね。
中国の場合、資産効果による富裕層の消費拡大効果ってアメリカほど強くないんですか?
現時点ではそうですね。過去に、その不動産価格が上がるとそれに釣られて株価も上がってっていうところがありましたが、まずそもそも不動産価格がそうでもないので、そこでまずリンクが1つ切れてしまってるっていうところはあるんじゃないのかなと。ただそこのリンクが残ってることが果たしていいのかと言われると、短期的に終わるものでしたら当然ながら反動も来ますので、やはり持続的な、自律的な回復というのが最も望ましいという言い方になるんじゃないかと思います。
中国って株式による資産効果ってあんまりないんですかね。
計算上はそこまで大きくないという形になっています。日本もそれは実は同じなんですけれども、資産効果というのはエコノミストからすると、あんまり実は大きくないっていうのがこれまでの感覚だったんですが、しかし特に住宅価格による資産効果の部分だったり、現時点での株価上昇による部分っていうのは少し計算が違ってきている可能性がありますので、常にデータを見ながらっていうところであるんですが、何度も強調して恐縮なんですが、あくまで持続性の方がよっぽど大事でありますので、今年も資産効果が高いと言いますが、来年もその資産効果を享受するためには同じ伸び率で来年も伸び続けなきゃいけないっていう形になりますので、今の高い状態がずっと続けば、前年比で見るとゼロですよね。というところを考えると、なかなかそこだけに頼るような計算にはなりにくいのかなという風に思っちゃいます。
資産効果を過大評価しすぎない方がいいわけですね。
そうですね。人生もそうだとは思うんです。
人生もそうですよね。いや、分かりました。
すいません。
ということで今日は李さんにお話伺いました。一言で言うと日本経済に関しては楽観的なんですか?今年来年かけてはどうなんでしょう?
物価上昇があって名目GDPの上昇というのはいろんなプラス面がありまして、1つは株価も名目なので一緒に上がっていくって構図であったり、債務GDP比率という観点でいくと債務が目減りしていくという観点もあるので、その意味では非常に好調だという風な言い方ができると思います。もちろん、何と言いますか、別の言い方をすると、物価上昇、コモディティ価格上昇等のプレッシャーがあるにもかかわらず利上げができるほど経済は堅調であるという言い方はできるかと思います。
ありがとうございます。ということで、またお話伺えればと思います。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
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