HPVワクチン薬害訴訟の法廷で何が起きているのか:傍聴を続ける産婦人科医の報告

YouTubeで開く ↗
概要

HPVワクチンの「薬害」を訴える集団訴訟で、法廷では実際にどんな主張と反論が交わされているのか。予防医療をテーマにした対談シリーズ(第67回予防対談)で、堀江貴文氏が、産婦人科専門医・医学博士のたぬきち先生に話を聞いた。たぬきち先生は2019年からこの訴訟の傍聴を続けており、本人は「おそらく日本で一番傍聴している」医師として紹介されている。傍聴を通じて先生がたどり着いたのは、原告の診断そのものに重大な疑問があり、しかもその事実がほとんど報じられていないという認識である。

14分で読めます
0:25

傍聴を始めた経緯と、法廷で見えてきたこと

たぬきち先生が傍聴を始めたのは2019年である。裁判は平日に開かれるため、通常の勤務をしている産婦人科医はまず行けない。先生は当時、週末に働いて平日に休む働き方に変えており、大阪在住だったことから傍聴に通えるようになったという。

傍聴を始める前、先生は、ワクチン接種後に本当に脳症が起きていて、その原因をHPVワクチンだと決めつけている医師たちがいるのだろうと考えていた。多くの人もそう思っているだろう、と先生は言う。しかし実際に法廷で見えてきたのは、そもそも脳症の診断が診断基準を満たしていなかったり、画像診断に誤診があったりするという事実だった。

その後、コロナ禍で一般傍聴が止まり、先生が傍聴を再開したのは2024年である。

1:16

原告の半数が鹿児島大学病院で診断されている

先生が「一番クリティカルなポイント」として挙げるのは、鹿児島大学病院の存在である。約120人の原告のうち、およそ半数の60人ほどが鹿児島大学病院で診断を受けているという。全国の原告の半数が一つの病院から実質的に送り込まれている時点で、普通に考えればおかしいと先生は指摘する。

鹿児島大学病院では、脳のSPECT検査で異常があると言われた人たちが法廷で証言している。ところが別の専門家が同じ画像を見ると、異常所見はまったくない。先生の説明によれば、一部の医師が異常のない画像を異常だと言い張り、記憶障害や痛みなどの症状を「全部ワクチンのせい」だとして患者を訴訟に送り込んでいる構図が、法廷で明らかになってきている。

これに対し、大阪大学や東北大学など他の複数の大学病院の専門家が証人として法廷に立ち、これまでの記録を参照しながら、鹿児島大学病院の診断は誤っていると証言している。ただ、こうした事実は世間に知られていない。そこで先生は個人でnoteに傍聴記録を書いて発信している。他のメディアはほとんど動いていないが、先生のnoteを読んで大手メディアの記者が取材に来ることはあるという。

2:35

判決の見通しと、タミフル訴訟との共通点

一審の判決は「来年」(撮影は2026年5月)に出る予定だと先生は話す。ただし、どちらが勝っても負けても控訴されるため、最高裁まで争われ、あと10年ほどは終わらないのではないかと言われているという。

先生は、前例としてタミフルの薬害訴訟を挙げる。タミフル訴訟を起こした弁護士と今回の弁護士はおおむね同じ集団で、「薬害オンブズパースン会議」という組織だという。かつて薬害エイズ訴訟で勝って名を上げた弁護士たちだと先生は説明する。そのタミフル訴訟は、因果関係なしとして弁護団側が完全に敗訴している。

堀江氏は、タミフルで問題になった異常行動はインフルエンザ脳症のように、インフルエンザそのものによって起こるものではないかと問い、先生も「まさにそう」と応じた。堀江氏は、子どもの頃にインフルエンザにかかって変な行動をした覚えがあると自身の経験を語っている。

活動資金について堀江氏が尋ねると、先生は「噂レベル」「聞いた話」と断ったうえで、薬害エイズ訴訟のときの賠償金が莫大な額だったため、格安あるいは無料で活動できるらしいと述べた。堀江氏は、弁護士たちは当時の成功体験があり、本気で危険だと思って取り組んでいるのだろうと推測し、先生も同意している。

その根拠として先生が挙げるのが記者会見の様子である。世界中で安全とされるワクチンなのに危険だと主張するのか、と記者に問われた弁護団側は、世界が間違っていて自分たちが正しい、世界もやめるべきだ、と答えていたという。先生はこれを、その時点でもはやまともではないと評している。

4:52

名古屋スタディへの「反論論文」

堀江氏は、弁護団にとって名古屋スタディ(HPVワクチンと症状の関連を調べた大規模調査)はどう映っているのかと尋ねた。先生によれば、名古屋スタディに対抗する論文があり、聖路加国際大学の当時の准教授(のちに教授)が、同じデータセットを使いながら名古屋スタディは誤りで、本当は危険なワクチンだと主張する内容を、日本看護科学会の学会誌に発表しているという。

弁護団はこの論文のほうが正しいと主張しているが、先生は、その論文の著者も薬害オンブズパースン会議のメンバーだと指摘する。「確実に繋がっている」というのが先生の見方である。

5:41

4か所で分かれて審理される理由

訴訟は東京、大阪、名古屋、福岡の4か所でそれぞれ別に審理されている。なぜ分散しているのかという堀江氏の問いに、先生は法律に詳しいわけではないと断ったうえで、1か所だと全国の原告が通うのが難しいため、通いやすさに配慮したという建前だと聞いている、と答えた。

被害者団体の内部で何が起きているか

堀江氏が、薬害被害者の会のような団体は「足抜け」が難しいと聞いたと話すと、先生は、X経由で元所属者から内部の情報を得ていると語った。団体を取り仕切っているのは、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会の事務局長を務める池田氏という日野市の市議会議員で、一時はマスコミに引っ張りだこになり、NHKなどにも有識者として大きく取り上げられた人物だという。

先生の聞いたところでは、いったん団体に入ると、ワクチンはとにかく危険だという前提のもと、このサプリで解毒できる、この民間療法で治るのではないか、といったものが勧められる。所属している母親たちは心酔しているため、これをやれば治るかもしれないと始めてしまう。それらは高額なものが多く、話を聞かせてくれた元所属者は、おかしいと気づいて次第に目が覚め、娘と一緒に抜けることができたという。

池田氏本人がそうしたビジネスをしているかは分からない、と先生は留保する。ただ、ニコニコ動画に多くの有料会員がいて、全国で有料の反ワクチン勉強会を開催しており、参加者も一定数いるため、少なくとも収入にはなっているはずだと先生は見ている。反ワクチンがビジネスになっているのかと驚く堀江氏に、先生は「全然なると思います」と答え、自分も本気を出せばできるだろうが、さすがにやらないと付け加えた。

さらに先生は、この団体が鹿児島大学病院とつながっていると指摘する。当時はテレビを見て自分の娘もこの症状かもしれないと思った親に対し、NHKなども含めて連絡先として団体が紹介されていた。そこに連絡して入会し、サプリや解毒を試し、やがて鹿児島大学病院に紹介される、というルートが確立していると先生は説明する。

8:18

堀江氏の提案と、検察・裁判所の構造との比較

この状況をどうするかと問われた先生は、どうしようかと考えているところだと答えた。無力ながら内容を少しでも公開すれば、少なくとも同業者は異常さに気づけるはずだという。

これに対し堀江氏は、ウェブ番組「NoBorder」への出演を提案した。堀江氏自身は直接運営していないが、陰謀論に近い面もあるチャンネルだと説明しつつ、自身が検察の問題を扱う回に出演したことに触れ、今回の話も似た構造があると述べた。

堀江氏の説明によれば、戦前の日本は三権分立が明確ではなく、現在の最高裁にあたる大審院の中に検事局があり、司法機関の中に行政機関があるような状態だった。試験も検察官・裁判官と弁護士とで別だった。GHQによる司法制度改革で法曹は共通の試験を受けるようになったが、戦前の名残で「判検交流」が行われ、検察官が一定期間裁判官を務めたり法務省に出向したりして、ぐるぐる回る。そのため裁判官は検察官の気持ちは分かるが弁護人の気持ちは分からず、有罪判決を書きがちになる、と堀江氏は語る。真剣に犯罪者を断罪しようとしている検察官が嘘をつくはずがない、という無謬性の前提があり、途中でやめられなくなるという。

堀江氏は、そのNoBorderの回は陰謀論というより検察の問題を追及する内容になったとし、薬害オンブズパースンの話も地味だが「何これ変じゃない」と感じさせる題材として向いていると述べた。

先生も、医師や大学病院も基本的に間違いを犯さない前提になっており、組織として自浄作用が働きにくいと応じた。ただ今回は、愛知大学、東北大学、大阪大学、慶應大学、北里大学など複数の大学病院の専門家が、鹿児島大学病院のやっていることはおかしいと何年も言い続けており、それ自体が異常事態だという。先生によれば、信州大学病院でもかつて教授が暴走し、ワクチンで脳障害が起こるとテレビ向けに発表したが、これは厚労省と信州大学から処分されている。信州大学には一応自浄作用があったが、鹿児島大学にはそれがないのが異常だ、と先生は述べる。

12:22

メディアはなぜ報じないのか

堀江氏は、大手マスコミには旧来型のリベラル左派が多いため、この問題を取り上げないだろうと見る。先生も、マスコミなら日本中の大学病院が間違っていて、むしろ鹿児島大学病院は患者に寄り添う素晴らしい病院だ、という論調を取りかねないが、それはいくらなんでもおかしいと話す。

堀江氏は、NHKも含めて最高裁の判決が出るまでは報じず、むしろ引っ張ろうとしている感じすらすると指摘した。先生も、記者から判決が出るまでは動けないと言われていると明かす。そのうえで、そうしている間にワクチンを打てなかったせいで子宮頸がんの患者が増えていくのは先進国としてありえないことで、実際に人が死んでいる話だから、明らかにすべきだと強調した。

接種率について堀江氏が3割程度かと尋ねると、先生は現在はおおむね4〜5割だが、都道府県で差があると答えた。沖縄がワーストで、玉城デニー知事がこのワクチンは危険だと言い続けてきたこと、そして鹿児島がワースト2位で、沖縄と鹿児島がワーストの1位・2位のはずだと先生は述べる。

ウェブメディアも取り上げないという点で二人は一致した。先生は、HPVワクチンの報道は判で押したように「積極的勧奨は再開された、でも苦しんでいる人がいる、終わり」という構成で、最後に必ずもやっとすると不満を述べた。堀江氏は、それにはコロナワクチンの影響もあると付け加えた。

14:10

法廷での「お金」をめぐるやり取り

先生は、法廷でのお金をめぐるやり取りにも触れた。原告はほとんど実際にはお金を受け取っていないだろうという。一方、反証する側の東北大学などの大学病院の医師たちは、当然ながら製薬会社から報酬を受け取っている。タダ働きはしないので当たり前のことだ、と先生は言う。

法廷では弁護団が「お金をもらっていますよね」「もらっています」「それでいいんですか」と追及するが、先生はこれを完全な感情論だと評する。そもそも報酬がなければこんな仕事は誰も引き受けない。しかし会場にいる原告支持者からは、金をもらっているんだろうという野次がどんどん飛んでくるといい、会場にいると「すごい」と先生は振り返る。

14:47

原告の女性たちが置かれた状況

先生が「本当に気の毒」だと繰り返すのは、被害者とされる女性たちが、その集団に完全に取り込まれていることである。厚労省の前で大声でデモをするなど、思春期から反ワクチン思想の大人たちと接し続けてきたために、その思想に取り込まれてしまっていると先生は見る。堀江氏がグレタ・トゥーンベリ氏を引き合いに出すと、先生も「まさに」と応じた。

私たちの不幸は全部このワクチンのせいだ、製薬会社も国も責任を取れ、支持してくれるなら相手はどんな人でも構わない――そういう集団の中にいるのは人生として気の毒だ、と先生は話す。騒動が起こったのは2013年で今年で14年目、訴訟が始まってからも10年が経つ。当事者はすでに20代後半で、人生の半分をこの活動に捧げてきたことになる。

そのため、どんな判決が出ても受け入れがたいだろうし、鹿児島大学病院の診断は絶対に正しいと信じ続けるだろう、と先生は予想する。論文を出せないのは製薬会社が弾いているからだ、自分たちを認めない科学界が間違っている、という思想に取り込まれており、もう戻れないだろうという。堀江氏は、そこまでひどいとは思わなかったと驚き、先生も傍聴するまではここまでとは想像していなかったと述べた。

16:24

「カジュアルな反ワクチン」と支援者の熱狂

堀江氏は、反ワクチンの人の中にはカジュアルに主張している人も多く、そういう人たちも考え直すべきだと話す。先生によれば、芸能界に多いという。n=1の体験に基づいていたり、良くも悪くも感受性が豊かだったりして、苦しんでいる人がいるのだからと考える。しかし、その症状はワクチンのせいではないかもしれない、という点には触れない。

先生は、法廷の休み時間に支援者が雑談している様子も紹介した。何を言っているのかよく分からないが、ワクチンを打った後になったんだからワクチンのせいに決まっている、そうだそうだ、とシュプレヒコールのような盛り上がりが、主に60代ぐらいの男女から起こるという。先生はその雰囲気を「甲子園球場で応援するぐらいのノリ」と表現する。支援者にとってはそれが生きがいになっており、頑張っているかわいそうな女の子たちを自分たちが助けているという錯覚に陥っているのだろう、と先生は見ている。その中にいる女性たちを見ると本当にいたたまれない、と先生は語った。

17:45

海外の状況:米国のケネディ・ジュニア氏

他国ではどうかと堀江氏が尋ねると、先生は米国の例を挙げた。ロバート・ケネディ・ジュニア氏がHPVワクチンの訴訟を多数起こしており、反ワクチン派の間では勝っているという噂が流れているが、先生によれば1件も勝っておらず、今のところすべて負けている。それでも同氏はHPVワクチンは危険だと主張し続け、支持者を集めているという。

堀江氏は、政治的には一定の支持が集まってしまうと述べ、自身もワクチンの話をすると「まだワクチン打ってるのか」と絡まれると明かした。インフルエンザもワクチンを打たずにかかったら悲惨だと話しているが、反論する人が無限に湧いてくる、と二人は苦笑した。

18:56

裁判の争点:「可能性はゼロではない」

医学的には議論の余地がないように思えるが、裁判の争点は何か。堀江氏の問いに、先生は因果関係の有無だと答えた。医師の立場からすると、ワクチンのせいで発症した可能性は「絶対にゼロとは言えない」。言えるのは、極めて低い、限りなくゼロに近いということだけである。弁護団はそれを分かっているので、可能性はゼロではないですよね、という路線で医師に「イエス」と言わせようとする。法曹の論理では、ゼロでないならありうる、という話になる。

先生の見立てでは、原告弁護団は、可能性がゼロでない以上は補償すべきだという路線で主張している。医師と弁護士では見えているものが違い、裁判官がどう判断するかは、医療側の人間である自分には分からないという。堀江氏はこれを「悪魔の証明」のようだと表現し、先生も同意した。

先生は判決に期待はしているものの、最高裁までいけば10年後になり、実態が知られるには遅すぎると懸念する。その頃には、薬害だと煽った医師や研究者、関係者も軒並み引退しているだろう、それはあんまりだ、と先生は述べる。堀江氏も、100%安全なワクチンなどあるわけがないので、裁判の結果は微妙かもしれないと応じた。先生も、鹿児島大学病院の権威ある医師がそう診断したならそれが正しく、薬害である、という論調で判断される可能性も十分ありうると考えている。

20:40

STAP細胞騒動との対比と、メディアへの問い

先生は、STAP細胞の騒動を引き合いに出した。当時メディアは小保方氏を持ち上げた後に袋叩きにし、研究者の自殺者まで出した。それと同じレベルのことが起きているのに、今回はまったく報道されない、と先生は指摘する。本来メディアは、ワクチンのせいだと言う医師ばかりを取り上げるのではなく、その医師の主張が本当に正しいのか、まともな論文が出ているのかを検証できるはずなのに、それを一切していないという。

堀江氏は、それを個人がやっていることが面白いと評し、NoBorderで取り上げてもらおうと改めて提案した。先生も、いろいろな人に見てもらえるならぜひと応じている。判決が出るまで報じないメディアと、最高裁まで続けば10年かかる裁判の間で、実態をどう知らせるか。堀江氏の提案が実現するかは分からないまま、対談はここで終わった。