「医学は世界共通、医療は地域固有」:CyMedが日本発の医療OSで世界を狙う理由

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概要

高齢化で医療の需要は増えるのに、それを支える人材と財源は増えない。この状況で、日本の医療モデルは世界のプラットフォームになれるのか。CyMed提供の対談セッションで、CyMed CEOの石川博一氏と社外取締役の渡部恒郎氏がこの問いを語った。石川氏の立場ははっきりしている。日本は高齢化の課題が世界で最も進んだ国であり、だからこそ日本で解決策を示せれば、それを世界に転用できるという。

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日常の医療の「入り口」を扱う会社

石川氏はCyMedを、国内外で医療DXに取り組む会社だと説明する。対象は「日常の医療」だ。手術や命に関わる重い病気で高度医療機関にかかるのは非日常の医療である。これに対し、風邪を引いた、少しお腹が痛いといったときにまず行くかかりつけのクリニックが日常の医療にあたる。CyMedはこの入り口を身近にするため、患者と医療リソースの配分を調整するプラットフォームを作っているという。

石川氏はもともとM&A業界にいた。業界を横断的に見るなかで、医療業界にはDXの面でまだ改善の余地が大きいと強く感じたという。2022年に「100年後の医療の常識を作る」というビジョンを掲げて創業した。売上は伸びているが人手が足りず、現在の社員約160人ではまだ不十分で、さらに増やしたいと話す。

M&Aを通じてさまざまな業界を良くしたいと考えてきた渡部氏は、石川氏の医療を良くしたいという思いの強さに惹かれ、社外取締役としてサポートすることにしたという。祖父母が医師で、子どもの頃は休みに病院へ帰省するような環境だった。その経験から、医療は20〜30年前からあまり変わっていないと渡部氏は見ている。一方で患者数は増え続けているため、何らかのアップデートが必要だと考えている。石川氏は渡部氏に、他業界の成功事例などを共有してもらうことを期待しているという。

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需要と供給が逆方向に動き、しかも自動調整されない

前半のテーマは医療の構造課題だった。石川氏は世界的なトレンドとして高齢化を挙げる。高齢化とは若者に比べて高齢者が多いことなので、医療の需要が増えると同時に供給が減る。需要と供給が同時に逆方向へ動くのだという。

石川氏によれば、医療は需要と供給のバランスが自動的には調整されにくい業界でもある。本来なら需要が増えれば、供給を増やすために資本や人材が投下される。しかし医療には公共性、免許制度、薬事のルール、情報・データの規制といったインフラ的な要素があり、民間がすぐに供給を増やす力は働きにくい。

渡部氏は薬局業界も見てきた立場から、同じ医療でも病院と薬局では課題が違うと補足する。医師不足や薬剤師不足は常に問題になっている。そして人の数は基本的に大きくは変わらないので、うまく配分することが大事だと話す。制度は2年に1回のように変わり、誰が薬を出すかといった仕組みは国によって違う。医療従事者は国が作った制度へのキャッチアップで精一杯になっているのではないか、と渡部氏は見ている。

配分を変えると何が変わるのか。渡部氏は投資先の問題を挙げる。病院や薬局が事業で得た収益を何に投資すべきかには、今のところ明確な答えがない。特にIT投資には正解が出ていない。CyMedはより良いIT投資のあり方を考えている、というのが渡部氏の説明だ。

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日本は課題の「最先端」にいる

この課題は日本でも同じなのか。石川氏は、共通というより日本は逆に進んでいると答える。人口4000万人以上の国38カ国のなかで、日本は高齢化率が最も高い。需要と供給が逆に動く現象が日本で顕著に現れているので、日本市場で解決策を示せれば、これから世界で起きる同様の課題にも解決策を提示できると石川氏は考えている。

日本での具体的な現れ方として、石川氏は配分の偏りを挙げた。医師の数は絶対的に足りないが、それだけではなく地域差がある。人口当たりの医師数は、多い東京都と少ない青森県で約1.8倍の差がある。診療科ごとにも偏りがあり、外科で約2.2倍の差があるという。

もう一つの例が病床数だ。日本の医師数はOECD諸国と比べて相対的に少ないが、入院できるベッドの数は平均の約4倍あるという。ただし医師がいなければベッドは稼働できない。石川氏はこれを、医療リソースが足りているのではなく、あるところにはあり、ないところにはないという偏りの状態だと整理している。

石川氏によれば、世界が日本と同じ医師数やベッド数の構造になるという意味ではない。高齢化という点で世界は共通しており、各国それぞれに配分が必要で最適化ができていないという点でも共通している。

渡部氏は経営の観点を付け加えた。病院の経営者はまだ医師が多く、技術者でもあり営業でもあり経営も担わなければならない。所属医師をどう生かすか、技術レベルをどう上げるかといった最適配分には、普通の経営として考えるとまだ改善の余地がある、と外から見て感じているという。救急医療の対応や、途上国と先進国の違いなど、国によって課題は異なる。それでも、どの国でも経営をアップデートして経営資源をうまく使うことが大事だと渡部氏は話す。

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中心課題は「医学は共通なのに医療は地域固有」というギャップ

CyMedが向き合う構造課題について、石川氏はこう説明する。医学は世界共通のものだ。病気の仕組みや治療のエビデンスは全世界で同じで、心筋梗塞が日本とアメリカで違うわけではない。医療従事者の多くは同じ英語の論文を読み、そうした知識は人類の財産として国境を超えて蓄積されていく。

一方で、その医学を届ける「医療」、つまりデリバリーの方法は、地域ごとに驚くほど差があると石川氏は言う。医学は世界共通なのに医療は地域固有だ。このギャップを主にテクノロジーの力で埋めることが、CyMedの中心的な課題だという。

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医療OS「Efficient Frontier」の構想

後半は解決策の話に移った。石川氏は自社を「システム会社」と呼び、自社システム「Efficient Frontier(エフィシエント・フロンティア)」を紹介した。一言でいえば医療のオペレーティングシステム、つまり「医療OS」である。診察や処方といった医療行為そのものではない部分には、プレイヤー間で共通化できる層がある。その部分をできるだけつなげ、医療に関わる人にとってストレスのない環境を作るという構想だ。現在約130万人が利用しており、これをさらに大きく広げていく段階だという。

医療に関わるプレイヤーとして、石川氏は患者、診療所や病院、医師個人、製薬メーカー、薬局、検査機関、医療物流の事業者などを挙げた。こうした多くのプレイヤーの情報をつなげることに価値があると考えている。

患者側の使い方として、石川氏は受診先の問題を例に出した。患者には自分の症状しか分からないため、何か起きたときにどの病院や診療科に行けばいいか迷うことがある。そこで最適な受診先を推薦し、予防や継続的な治療・ケアもフォローする。医療従事者側については、診療やケア以外のデータ入力や整理にかなりの時間を取られている。そうした業務から解放され、患者と向き合う時間に集中できることが提供価値だという。

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分断されたデータを1本につなぐ

この仕組みにはデータが必要だ。石川氏によれば、個々のデータはすでに存在しているが、つなぎ込みができていないことが課題である。人のバイタル情報は本来、生まれてから死ぬまで1本の連続したデータだ。ところが関わるプレイヤーが多いため、データがプレイヤーごとに分断されている。お薬手帳もあり、健康診断の結果もあり、どんな手術をしたかのカルテもある。しかし全部が点在している。それを一本化するイメージだと石川氏は説明した。

データがつながると何が可能になるのか。石川氏は、これまで治療に置かれていた重心が広がると話す。病気の前兆を捉えやすくなり、予防の介入、早期発見・早期治療、継続的なケアへと裾野が伸びていく。さらに、つながったデータから得られた知見が研究や治療を進化させ、それがまた患者に還元される。こうして改善が循環していくと石川氏は述べた。

渡部氏は、参加するプレイヤーが増えるほどプラットフォームの価値が高まると見ている。薬や健康診断に加え、物流を含めて医療に関わる全ての関係者が入ってくると、より価値を発揮するという。医薬品の物流には課題が多く、たとえばすぐに流通規制がかかることもある。そうした面でも最適化が進んでいくのではないか、と渡部氏は話した。

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日本から世界へ転用する

約130万人の利用者は日本が中心だが、インドやベトナムにもユーザーがいるという。石川氏は、前提として医療や医学は人類共通の財産だという考えから出発していると話す。日本だけを見ているわけではない。日本は最も高齢化が進み、課題が顕在化して見えているので、まずそこにアプローチし、それを世界各国に転用していくことを目指しているという。

事業機会の大きさについて、石川氏は世界の医療費を約10兆ドル、日本円で約1500兆円、世界のGDPの約10%と挙げた。その流通を支える基盤になりたいという。さらにGAFAを例に出し、かつて彼らが2000年代に情報と人とのインターフェースを作り替えて大きくなったように、CyMedは人類と医療のインターフェースを作り替えていきたいと語った。

渡部氏は、経営とはそもそも社会課題を解決するために事業として行うものだと前置きした。そのうえで、医療は世界の課題のおそらく1割ほどを占める大きな市場で、課題が明確にあり、市場も伸びていると評価する。同じことをしている企業は海外に多くあるのではないか、という司会者の問いに、石川氏は多くあると認めた。ただし日本は課題が最も進んだ「検証ができる場」であり、日本でこれに取り組むプレイヤーは本当に限られる、と付け加えた。

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組織と人材

社内の人材について、石川氏は比較的若い層が多く、自分で事業を進めたい起業家精神を持つ人が多いと話す。職種では、開発を担うエンジニアと、普及を担うマーケターが中心だという。責任とともに大きな裁量を与えて一緒に挑戦する文化があり、海外を含めてスピーディに進められると石川氏は説明した。システム自体が日本以外でも使われているため、エンジニアの成果はすぐ海外で使われる。エンジニアには海外出身者も多い。マーケティングについては、国内外での普及のために多くの予算を運用できる点を魅力に挙げた。

渡部氏は、何度か会社を訪れた印象として、全員が本当に仕事に打ち込んでいてスピード感があり、ベンチャー企業らしさにあふれていると語った。また、事業がほぼ手元資金だけでここまで伸びている点を強調した。多額の資金を調達してもそこまで達成できない会社が多いなか、自己資金だけで成長してきたのは全然違う世界観だという。来てほしい人材としては、スピード感があり、業界を良くしたいと思っている人を挙げた。

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締めくくり:20代の世代と「100年後の医療の常識」

最後に、日本から世界へどこまで本気で目指すのかを問われた。渡部氏は、ここまで伸びている会社はなかなかないので突き抜けてほしいと述べた。今の20代は、オーナーが自前で海外に出て成功する初めての世代だと渡部氏は考えており、CyMedにはその先陣を切ってほしいという。

石川氏は、医療が人類共通の課題であり、日本がその最先端で課題を感じているからこそ、日本から世界に発信できる解決策を示せる領域だと繰り返した。人口動態は10年後、20年後までほぼ確定している。だから自分たちが解決策を示さなければならないという使命感を、チームと会社全体で掲げ、自身も強く持っていると語った。

ビジョンにある「100年後の医療」について、石川氏は、患者、医療従事者、医療に関わる全ての人にとってストレスがなく、人類共通の財産としてリソースを活用できる医療だと定義している。その実現の裏で、100年後にCyMedが当たり前の存在として医療OSの根幹を支える企業になっていたい、と石川氏は述べた。