ゴミを価値に変える「サステナブル・キャピタリズム」 長坂真護が語る、スラムへの再投資とアメリカでの挑戦

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概要

ガーナのスラム街で集めた廃電子機器を素材に作品をつくる美術家・長坂真護は、アートの売上をスラムへ再投資する仕組みを「サステナブル・キャピタリズム」と名付けている。この対談で長坂は、その仕組みが経済的にも成り立つことを語り、拠点をアメリカへ移す理由を説明した。最後に掲げた目標は、ゴミがなくなってガーナの作品をつくれなくなることである。

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文化・環境・経済の三角形

長坂の定義では、サステナブル・キャピタリズムは「持続可能な資本主義」である。利益だけを追うのではない。競争しながらお金を稼ぎ、同時に地球環境や人権の問題を解決する。そうした資本主義があり得るのではないかという問いを突き詰めた概念だという。

長坂によれば、覚えることは3つだけだ。資本主義のなかでモノやサービスを提供するとき、そこに「文化の提供」「環境への貢献」「経済への寄与」の3つが関わる状況をつくる。この三角形を持続させる、という意味である。

長坂は自作の「真実の湖」で説明した。作品をつくり、人を呼んで個展を開くことが文化の提供になる。素材を集めるために実際にスラムを掃除し、スラムのゴミそのものを作品に貼り付けるので、スラムがきれいになる。これが環境への貢献だ。作品の収益はスラムに再投資される。作品が売れるほどスラムに雇用が生まれ、環境もよくなる。文化を発信しながらゴミが減り、雇用と経済が回る。長坂はこれを「すごいシンプルな構造」だと言う。

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売上の95%を再投資する

還元の割合を聞かれ、長坂は具体的な数字を出した。アートの売上は年間8億円ほどで、作家としての報酬は5%だけと公表している。残る95%は、納税を経たうえで、スラムでの事業や、スラムのために設けたスタジオ(このアトリエ)の運営費に充てているという。投資額は「1億とか2億じゃない」規模だと長坂は話す。

最初の還元は、ガーナを題材にした初めてのシリーズが1500万円で売れたときだった。長坂はこの全額を、現地で運営する無料の学校の50年分の教育費に充てると決めた。学校に通っていない子どもが親のそばにいると親が働きにくい。そこで寺子屋のような小さな学校で子どもを預かっており、現在は230人が通う。最初のお金はこの学校のほか、ガスマスクの購入などにも使ったという。

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半分が亡くなった集合写真

ガスマスクが必要なのは、廃電子機器を燃やすときに有害な煙が出るからだ。長坂自身も何度も体調を崩したという。2017年に初めて現地へ行ったとき、45人ほどのスラムの仲間と集合写真を撮った。そのうち半分ほどがすでに亡くなっていると長坂は語る。最初にできた友人も先月亡くなった。

長坂は42歳で、日本で同世代の写真を見返しても半分が亡くなっていることはない、と話す。現地の人の多くは労働中にガスを吸って亡くなっており、「ちょっと守ってやれたんじゃないか」という悔しさがあるという。

原点は32歳のときに初めて見たスラムの光景だ。地平線の手前まで電子機器のゴミの原っぱが続いていた。長坂はその場に立ち尽くし、座り込んだ。「見ちゃいけないもの」を見た、資本主義のもう一つの顔を見た、という感覚だったという。

その後、長坂は皮肉を込めた反体制的な作品をつくり、これまでにおそらく50億円ほどを売ってきたと話す。資本主義が生んだ副産物であるゴミが、支援してくれる富裕層によって数字に変わる。長坂はこの仕組みを、資本主義に対する自分なりの「ハッキング」だと表現した。

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価格はどう決まるのか

これまでで最も高く売れた作品は3億円で、ガーナ素材ではない「月」のシリーズだった。ガーナ素材の作品では2億円ほどが最高だという。

価格の決まり方について、長坂は需要と供給で説明した。年間に制作できる作品はおよそ500点前後で、これまで数千点をコレクターに届けてきた。その500点を求める人が供給より多ければ、値段を上げざるを得ない。アメリカ進出などで市場が広がっても500点という絶対数は変わらないので、価格に転嫁されていく。加えて、アーティストとして段階的に「覚醒」していくことも価格の推移に表れると長坂は話す。

長坂は、現代アーティストの評価についても自分の見方を示した。プライマリー(最初の販売)ではなく、セカンダリー、つまりオークションに出てはじめて認められたことになる、と言う人がいる。長坂はそうは思わないという。その基準でいえば自分は「全然デビューしていない」。自分の作品がセカンダリー市場で流通したことは一度もない。株と同じで短期で売る人も長期で持つ人もいるが、自分のコレクターは圧倒的に売る気がない、と長坂は述べた。

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リサイクル工場からプロサッカーまで

再投資の先は学校だけではない。長坂が挙げた現地事業は、リサイクル工場、ギャラリー、モリンガ農園、コーヒー、タイル工場、電気自動車、そしてプロサッカーチームである。

サッカーチームは、スラムの地域オールド・ファダマにちなむ名前で、スラムの運動神経のいい若者を選手として支援している。かつて彼らは、家電やガラスの破片が散らばる地面を裸足で走り、空気の抜けたボールを蹴りながら「俺たちプロになるんだ」と言っていた。長坂たちはその若者たちを組織し、チームを運営する会社をつくり、コーチをつけた。いまは人工芝の上で、スポンサーとして支給したスパイクを履いて練習している。リーグでの位置は日本でいえばJFLほどで、前回は7位くらいだった。目標は、日本のJ1にあたるガーナのプレミアリーグへの昇格だという。

長坂がサッカーやEVのような事業を始めた狙いは、地域のイメージを変えることにある。スラムのあるアグボグブロシーで育った子どもたちは、なぜこんな土地で育ったのかとどこかで思っている。ガーナ人のタクシー運転手に行き先を告げても、行きたくないと断られる。リサイクル工場のような事業だけでなく、最先端の技術やスポーツのように夢のあるものに投資して、地元を「かっこいい」と思える状態をつくりたいという。

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1万人雇用の目標と、まだ1%という現状

現地の反応を聞かれ、長坂は数字で答えた。目標は1万人の雇用だが、現在の雇用は100人ほどだ。だから幸せそうにしているのは1%の人だけだという。うらやましがる人もいる。一方で、関わりはじめて10年近くになり、現地のチーフたちも、個人ではなく地域を変えようとしているのだと理解してくれるようになったと話す。

アーティストとしては、「月」の作品をもとにした立体作品「ムーンタワー」をスラムに建てるなど、地元にも文化を提供している。長坂は、測るべきは顧客満足度ではなく「スラム満足度」のようなものだと述べた。

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原価1万円の作品が1500万円で売れた理由

サステナブル・キャピタリズムは最初から構想していた概念ではなく、やってきたことに後から名前をつけたものだという。きっかけは「真実の湖」が1500万円で売れたことだった。それまで100万円の作品すら売れなかったアーティストが、1日の個展で1500万円の作品を売った。長坂は、この現象について考えた。

自分が覚醒して天才になったのか。絵が劇的にうまくなったのか。それとも別の何かが動いたのか。長坂が出した答えは、自分の技術は単なるきっかけにすぎず、ガーナのエネルギーが作品に乗って輝いて見えた、というものだった。ここに、価値にレバレッジをかける方法を見つけたと長坂は言う。

長坂によれば、「真実の湖」の原価は1万円ほどだ。同じ作品が、実は秋葉原で買った中古家電を貼り付けたもので、物語もAIで作ったものだったら、1500万円で買う人はいない。それは詐欺であり、価値は見いだされない。長坂は、サステナブルな取り組みと、資本にレバレッジがかかる資本主義の仕組みをかけ合わせたことが原点だと述べた。別の実験をしていてマイクロ波で物が温まることを見つけた発明家のような、偶然の発見に近かったという。

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コロナ禍の日本で売れた理由についての仮説

長坂のデビューはアメリカで、2019年の個展「Still A "BLACK" STAR」だった。ハリウッド映画化も決まった。しかしコロナ禍で活動の場は日本に移った。精神性の強い、しかも日本では伝わりにくい黒人文化を扱った作品が売れるのか、長坂は不安だったという。ところが実際には、長坂本人も会社もコロナ禍で大きく成長した。

映画の制作費はクラウドファンディング「CAMPFIRE」で募り、数百人から3000万円を集めて映画部門の1位になった。出資したのは日本の人たちだった。その後も全国の百貨店や上野の森美術館、地方の美術館で展示を重ね、延べ数万人を動員したという。

長坂は、なぜこれが日本で起きたのかを考え続けた。最近たどり着いた仮説として、長坂は日本人の宗教観を挙げる。日本人は自分を無宗教だと言うが、長坂はそうではないと考えはじめている。一神教の信者が神を信仰するのとは違い、日本には八百万の神という考え方がある。祖母から「ご飯には神様がいる」と教わって育つように、あらゆるものに精神的な因果関係があると叩き込まれている。だからこそ特定の何かを信仰していないと言うのではないか。その感覚があるから、ガーナのような一見無関係な世界の出来事も身近に感じられたのではないか、と長坂は推測する。

長坂はこの数年で日本全国で3000点の作品を売ったという。年間400〜500点を描き、そのほとんどが売れる。一般的な画家が年に20点ほどしか描かないことを考えると、これほど需要が回るのは「不可能」なことで、何か大きな理由がなければ説明がつかないと長坂は話す。

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自分の手で描くことへのこだわり

作品はすべて自分の手で仕上げているのかと聞かれ、長坂は「もちろん」と答えた。版画も出していない。背景をアシスタントに塗ってもらうことはあるという。

長坂は、制作スタイルの優劣を論じているわけではない。奈良美智のようにアトリエで一人で描く作家像は美しい。村上隆のように自分は指揮をとってファクトリーを動かす、というあり方もある。スタジオジブリのように大勢で良い作品をつくる場もあれば、一人で漫画を描く世界もある。どちらでもいいと長坂は言う。そのうえで、スラムの状況を見た一人の「代弁者」として、自分で筆を握ることにこだわった10年だったと振り返った。体も壊して大変だったが、職人のような感覚でやっているという。

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「パクられるほど地球がきれいになる」

一人で回しているからこの仕組みが成り立つのではないか。他のアーティストが同じことを始めたら、買い手が分散してしまうのではないか。聞き手がそう問うと、長坂は、それは本にも書いていると答えた。サステナブル・キャピタリズムは、誰かに真似されるほど地球がきれいになる仕組みだという。他のアーティストがこの方法で作品を売り、経済・環境・文化を巻き込む仕組みが広がれば、地球が喜び、人権の問題が解消に向かう。長坂はこれを「究極のパクっていい概念」と呼び、だから惜しみなく本に書いたと話す。ただし絵の描き方を真似されるのは嫌だと笑い、真似していいのはコンセプトだと付け加えた。若い起業家にも、この名のもとで起業してほしいという。

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金融機関の格付けが示したこと

長坂はアーティストであると同時に、ガーナと日本で会社を経営する起業家でもある。長坂によれば、CRDという、企業を格付けする金融関係の機関がある。長坂の会社が分類されるのは、ギャラリーや楽器店などを含む「その他小売業」の区分で、そこで5万4000社中1位、評価はAだったという。これはガーナとは関係なく、日本の企業としての評価である。

金融機関はこうした指標を見てお金を貸す。だからこの評価は、サステナブル・キャピタリズムが実行可能だという証明になった、と長坂は考えている。サステナブルというと、お金を稼がないことが美徳のように思われがちだ。しかし長坂は、ちゃんと稼ぎ、環境をよくし、雇用を生み、美術館での個展で文化面も広げたうえで、この数年で同業種の1位になったことを「一つの事実」として示した。この事例を英語で発信し、アメリカに伝えるつもりだという。

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なぜアメリカなのか

長坂は今年9月からアメリカへ移住する。日本の大きなスタジオは残したまま、観光ビザではなく研究員向けのJ-1ビザを取得し、スタンフォード大学で研究員として活動する。サステナブル・キャピタリズムの理論を本にまとめ、研究し、発表するという。

理由の一つは市場規模だ。長坂の会社は、実はほとんど成長していないという。売上は毎年8億円前後で推移している。調べてみると、日本のアート市場は1000億円規模とされ、一つの上場企業の売上より小さい。長坂の会社はそのおよそ1%を占めている。一方、アメリカのGDPは日本の8〜9倍なのに、アート市場の流通額は46倍あるという。

長坂は大谷翔平を例に挙げた。160キロの速球を投げても、日本での年俸はおそらく10億円ほどだった。それがアメリカで100億円規模の選手になったのは、世界一の才能があるのはもちろんだが、彼が年俸を動かしたのではなく、アメリカの市場が動かしたのだと長坂は言う。自分の技術がいきなり上がるわけではないので、場所を変えるしかない。長坂は今回の渡米を、1万人雇用に向けた「最後のチャレンジ」と位置づけている。師となるスタンフォード大学の筒井教授にサステナブル・キャピタリズムを説明したところ、その試合はスタンフォードでやろうと言ってもらえた。そこからアメリカを意識するようになったという。

ただし、長坂は楽観していない。誰でもアメリカに行けば年俸何十億円のメジャーリーガーになれるわけではない。資本主義の中心に近づくほど、一つ間違えれば弾き飛ばされる。日本で売れただけの無名のアーティストを、アメリカの現代アートのシーンがすぐに受け入れるほど甘くはないと長坂は言う。だからこそ、これまでの実績を信頼の糧にして、5年、10年かかっても自分の真理を貫きたい。チームは連れて行かず、一人で行くという。

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対抗ではなく「ハイブリッド」として

聞き手は、現在のアメリカの政権は環境問題やEVへの投資に消極的だと指摘した。長坂は、自分の提案は対案ではなく「ハイブリッド案」だと答えた。お金を稼いで地球をよくし、空気中の二酸化炭素を減らして空気の質をよくすることに、怒る人は誰もいない。それは生命体として当然のことであり、アメリカの政策の信条ともぶつからない、と長坂は考えている。強い資本主義で戦いながら地球もきれいにする生き方は、スーパーヒーローを好むアメリカ人にも受け入れられるのではないかという。

長坂によれば、アメリカは海外からアーティストを受け入れて現代アートを大きくしてきた。可能性のある人間がアメリカを訪れて経済を刺激することに、悪いことは一つもない。研究員として行くので表立ったビジネスは一切しないが、絵を描くことは基本的人権として認められている。絵を描き、自分の考えた概念を聴衆に発表し、その設計図に心を動かされた起業家が多く生まれればいい。長坂はこれを「三方よし」の思想だと述べ、自分はアメリカンドリームを信じて行くのだと話した。

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ゴミが消え、作品をつくれなくなる日

最後に聞き手は、この考え方が広がってゴミがなくなれば作品がつくれなくなるのではないか、と問うた。長坂は「その通り」と認めた。リサイクルが進んでスラムの問題が解決し、ガーナシリーズを描かなくてよくなる時こそが究極のゴールだという。そうなったら自分はノーベル賞を取っているだろう、と笑った。

画家が発信したことでスラムがなくなり、ゴミの問題が解決できれば、作品は美術館で語り継がれる。長坂自身は、ゴミにまみれたアーティストという立場からも、お金という概念からも卒業できる。そして本当の審美眼を持ったアーティストの生き方に戻れる、と長坂は語った。美術は「美しい術」と書く。混沌とし、汚れきった社会の上で、その術で何を描けるのか。それが次の目標になるのではないかという。ガーナシリーズが描けなくなることは、長坂にとって「めちゃくちゃ嬉しいゴール」だという。