高校留学は語学以上に何をもたらすか:若松千枝加氏が語る三つの留学スタイルと費用

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概要

PIVOTのこの回では、子どもの留学のなかでも高校留学を取り上げている。ゲストは留学情報サイト「留学プレス」編集長で、30年以上留学に関わってきた若松千枝加氏。前回の社会人留学に続く企画で、聞き手は自分の子どもの将来を考える親の立場から質問を投げかけた。

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中心となる問いは二つある。高校で留学すると何が身につき、どこでつまずくのか。そして、どんな制度があり、費用や奨学金はどうなっているのか。若松氏は、高校留学の価値を発音や語学力よりも「議論を組み立てる力」に置いている。

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「高校留学はコスパがいい」という仮説

聞き手はまず、自分の周りで高校時代にアメリカなど英語圏へ留学した人たちを見て、コスパがいいと感じてきたと話した。語彙力と発音のバランスがよく、1年しか行っていなくても非常に話せるようになっているという印象からだ。

若松氏はこの見立てにおおむね同意した。語学力のなかでも発音やフルエンシー(どれだけ滑らかに話せるか)を身につけるなら、若いうちに行ったほうが圧倒的に有利だという。若松氏自身も小中学生時代を米国で過ごした帰国子女だ。帰国後は長く日本で教育を受け、英語を話す機会は減ったが、今でも発音やフルエンシーを測る機会があると高いスコアが出るそうだ。大人になってから留学する人と比べると、この点で若い人には有利な面があると話した。

聞き手はさらに、高校で留学した人は小学生で身につける語彙よりも大人に近い語彙を持っていると指摘した。若松氏は、海外の高校生が将来を真剣に考えて勉強しており、大人びた会話や議論に慣れていることを理由に挙げた。その中に日本の高校生が入って揉まれるので、小中学生時代とは違う大人っぽさが身につくのかもしれないという。

一方で若松氏は、高校で留学するのは「楽ではない、大変」だとも述べた。20年ほど前は、日本で高校に進学できなかったから海外へ行かせる家庭もあったが、最近はそれまで語学に取り組んできた生徒が行くケースが増えているという。そういう生徒はある程度自信を持って渡航するが、ネイティブの高校生の話すスピード、迫力、量は大人が入っても何を言っているかわからないほどだ。そこへ毎日通い、友達を作り、授業にもついていくのは本当に大変だと話した。

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メリット1:主張を議論として成立させる力

メリットを改めて整理すると、若松氏は語学力、とくに発音は分かりやすい例にすぎず、留学すれば自然に付いてくるものだとした。それ以上に大きいのは、話を組み立て、自分の主張を議論として成立させる能力を高校生のうちから鍛えられることだという。

授業に限らず、生徒同士の日常会話でも将来像や、選挙の時期ならその話題が、日本にいるときより自然に交わされることが多い。語学力に加えて社会についての知識や考える力が養われ、それが大づかみに言えば「グローバル力」につながる、というのが若松氏の説明だ。

若松氏によれば、言葉ができる日本人は多い。スピーキングで高得点を取る人でも、話すことがなければ話せない。海外の人とミーティングをすると、質問の回数が日本人より圧倒的に多く、よくそこまで疑問に思うなという質問が次々に出てくるという。「自己紹介して」と一言頼んだだけでも話す量がまるで違う、という経験もよくあるそうだ。若松氏は、そうした土台は若いうちから自然に培われたもので、知識を咀嚼して外へ出す力が大きく変わってくると述べた。

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メリット2:家族のありがたさと異なる境遇への実感

もう一つ、高校で留学した人がよく口にするのが「家族のありがたみが分かった」という感想だという。それまで親がやってくれていたことを、自分で洗濯機を回し、時間を管理して朝起きるところから自分でやるようになる。

若松氏はさらに、国によっては一定割合の難民を受け入れることが決まっていると話した。そうした国では、自分とは違う苦しいバックグラウンドを持ちながら学んでいる同級生と自然に接することになる。その違いを書物で読むのではなく肌で感じ、彼らの学ぶ意欲に直に触れるなかで、自分がいかに恵まれていたかに自然と気づく。若松氏はこれをぜひ伝えたいメリットとして挙げた。

聞き手が「真の意味でのグローバル人材になれる」とまとめると、若松氏は「おそらくそうでしょう」と応じた。語学ができることではなく、家族も自分のキャリアの一部であり、隣人も含めて自分を取り巻く環境すべてが見ていくべき世界だと捉える視野の広さが、グローバル人材の大きな要件の一つだと若松氏は考えている。それが自然に目の前にあることは大きなメリットだという。

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デメリット:自信喪失という壁と「一言質問する勇気」

費用以外のデメリットとして聞き手が挙げたのは、ハイレベルな環境で数学や理科の授業についていけるかという点だ。若松氏は、日本である程度語学のバックグラウンドを持って渡航する生徒ほど自信をなくしてしまうことがよくあると答えた。とくに慣れるまでの最初の時期には、ホームシックも含めた「自信」の壁がある。程度の差はあれ、誰にでもあるものだろうという。

若松氏は、高校生を子どもだと大人が思ってはいけないとも強調した。精神的にはかなり成熟し、大人としての自覚が芽生えている。だからこそ、それまでやってきたことが通用しないと感じたときのショックは大きい。

具体例として若松氏が挙げたのが、一言質問する勇気が出るかどうかだ。授業中だけでなく、登校初日にどの席に座ればいいかも分からない。それを隣の、今日初めて会った人に聞けるかどうか。単純に思えるが大きな一歩で、聞ける子は大丈夫だが、聞けない子はそのたびにストレスを溜めていく。

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向いているのは「新しい発見を楽しめる子」

あえて高校留学に向く子の特徴を定義するなら、と問われた若松氏は「新しい発見を楽しめる子」と答えた。好奇心があり、偶然起きることも楽しみ、今日こんな発見があった、今日この子と話したら通じた、ということを一つひとつ喜べる子だ。今はそうではないと感じる場合も、高校留学を考えているなら今のうちからそうしたことを習慣にしていけば、向いている人になっていけるという。

一方、小さい頃から英語に親しんでいることが前提かという問いには、一概にそうとは言えないと答えた。前述のとおり、語学のバックグラウンドがあるほど現地でのギャップにショックを受ける率も高くなる。現在は各高校や付属の語学教育機関の支援が充実しており、語学力要件が低めの高校から始めたり、第二言語としての英語(ESL)の補習を行う高校に通ったりする手もある。英語はやったほうがいいし土台はあったほうがいいが、なくてもサポートはあるので上手に使ってほしい、というのが若松氏の考えだ。聞き手はこれを意外だったと受け止めていた。

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低年齢化する「初めての留学」

子どもの留学のなかで高校留学はどれほどメジャーなのか。若松氏は海外留学協議会の調査結果を示し、初めて留学する年齢が低年齢化していると説明した。中学生の段階で留学体験を始めることが多くなっており、実際に留学した年齢は13歳から17歳がマジョリティ、初めて留学させた年齢では13〜15歳が多いという。

背景として若松氏が挙げたのは二つだ。一つは、業界で「海外教育旅行」と呼ぶ海外への修学旅行の増加である。少子化のなかで学生を獲得する手段として、またグローバル教育の一環として取り入れる中学・高校が増え、そこで初めて海外で学ぶ経験をする子どもが増えた。もう一つはコロナ禍だ。渡航できなかった時期に、家庭から海外とつないで国際交流する小学生から高校生向けのオンラインプログラムが数多く開発された。そこで得た小さなグローバル体験から興味が膨らみ、実際に行ってみるという流れが、ちょうど今の時期に重なっているという。

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三つのスタイル:卒業を目指す私費留学、ターム・単年留学、交換留学

若松氏は高校留学を大きく三つに分けて考えるとよいとした。

  1. 卒業を目指す私費留学:1年生や2年生から現地の高校に入り、卒業資格を得る。最初から入っても、途中から入ってもよい。
  2. ターム留学・単年留学:卒業までは目指さず、1年間や学期単位で現地の高校に正規の生徒として入学する。日本の高校に籍を置いたまま行き、日本の高校を卒業する。
  3. 交換留学:基本は1年間。海外から来る参加者数と日本から行く人数が原則同じになる「エクスチェンジ」の仕組みで、決められた団体を通して海外の高校に通う。
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卒業を目指す留学:海外大学への直結と現地感覚

卒業を目指す留学の利点として、若松氏はまず海外大学進学での有利さを挙げた。分かりやすい例がイギリスだ。イギリスでは、日本の大学でいう一般教養課程に当たる教育を高校で済ませてしまう。そのため日本の高校を卒業した生徒がイギリスの大学に入るには、その部分を補うプログラムを経なければ直接入学できない。イギリスの高校を出ていれば、そのまま大学1年生に入れる。加えて、長期間ローカルの一員として暮らすことで、純粋な意味での現地感覚が得られるのも大きいという。

費用以外のデメリットを問われると、若松氏は、日本の大学に戻りにくいということもないと答えた。AO入試や帰国生枠を使って日本の大学に進む人も多い。自信喪失といった高校留学全般のデメリット以外には、あまり見当たらないという。途中で現地での卒業が難しくなった場合も、日本の高校に編入し直すか現地で転校する手があり、それほど難しいことではないそうだ。

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ターム・単年留学:戻る場所の安心感と費用の現実

ターム・単年留学の良さは、日本の高校に籍があり、帰る場所があるという安心感だと若松氏は話す。費用の面でも、高校3年間分の留学費用を出すのは大変でも、タームだけなら出せるという家庭が増えているという。名門校やボーディングスクールは費用がどんどん上がっており、そうした学校にタームだけ行って世界の優秀な生徒の中に飛び込むこともできる。逆に、ある国の公立高校で、長期滞在は初めてという生徒が自然と触れ合いながらのんびり過ごすこともできる。ターム留学の期間は3〜4か月程度が一つの目安だという。

交換留学:強みは安さ

交換留学の強みを聞かれた若松氏の答えは「安いってこと」だった。この点は次の費用比較で詳しく語られた。

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国別費用:アメリカは私立のみ、カナダ・豪・NZは公立が選択肢

番組では私費留学1年間の費用を国別に比較した資料が示された。若松氏によると、アメリカは教育制度上、留学生が公立高校に行けない。公立は義務教育として地元の子どものためにあるからだ。私費なら私立高校しか選択肢がなく、費用を抑えたいなら交換留学という選択になるのが基本だという。

資料でカナダ、オーストラリア、ニュージーランドを公立高校としたのは、これらが日本人に人気の選択肢だからだ。若松氏によれば、これらの国は高校教育の質の担保を法律で定め、留学生を保護する法制度も整備している。留学生を受け入れる教育機関への通達は厳しく、守れなければ評価が下がるといった罰則も設けられているという。

資料にはマレーシアも入っていた。これは聞き手が冒頭で「意外と知られていない穴場」を尋ねたことを受け、その例として加えたものだ。資料では年間400万円台だったが、実際には700万円ほどかかる学校もあるという。若松氏によると、マレーシアは近年、高校・大学の留学先として日本で人気が上がっている。火がついたきっかけは、イギリスなどのエリート校と呼ばれるボーディングスクールがマレーシアに分校を作ったことだ。イギリスへ行けば費用も入学のハードルも高いが、マレーシアキャンパスなら費用を抑えながら世界トップレベルのボーディング教育を受けられる。さらに、マレーシア国内のローカルのインターナショナルスクールや、オーストラリア系、アメリカ系など、さまざまな国にルーツを持つインターナショナルスクールが次々に現れていることも注目の理由だという。

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私費で英語圏なら「現実的にはニュージーランド」

私費で英語圏に行く場合、費用を抑えるなら公立という選択肢のある3か国かという問いに、若松氏は「現実的にはニュージーランドでしょうね」と答えた。費用面に加え、政府が留学生誘致に力を入れているからだという。日付ははっきり覚えていないとしつつ、9月にはニュージーランドの高校が多数来日する大規模な留学フェアも行われるはずだと話した。費用が手頃で質もよく、選択肢も多い。その結果、中高生の私費留学ではニュージーランドの人気が非常に高く、若松氏によれば5割を超えているという。

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交換留学の費用と選考

交換留学については、そもそも営利目的のプログラムではなく、受け入れのホームステイもボランティアがベースにあるため、私費留学より費用を抑えやすいと若松氏は説明した。私費では突出して高かったアメリカも、交換留学の中では比較的安いほうになる。ただしアメリカも年々上がっており、来年どうなるかは分からないという。私費留学で行く高校と比べ、都市部だけでなく郊外型や田舎の学校に通うことが多いのも、費用が安くなる理由の一つだという。

誰でも行けるわけではなく、試験がある。交換留学プログラムを主催する団体(財団や一般社団法人など複数ある)に応募し、試験と面接を経て合格すれば、晴れて留学先に行ける。若松氏は、まずこの試験をしっかり突破してほしいと話した。

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奨学金:高校と大学、どちらで1年行くべきか

高校生が使える奨学金の代表例として、若松氏は「トビタテ!留学JAPAN」を挙げた。制度開始以来、高校生の利用は増え続けている。高校に通うだけでなく、STEAMコースや興味探究コースなど、若松氏の記憶では現在4つほどのカテゴリーがあり、自分の興味に合わせて応募し、通れば奨学金を得て希望の留学を実行できるという。

聞き手は、1年間留学するなら高校と大学のどちらがよいか、制度の通りやすさや奨学金の取りやすさで差があるかを尋ねた。若松氏によると、大学生が1年間の留学で得られる奨学金の選択肢はかなり限られている。高校生の場合は、1年の留学でも奨学金を出す現地高校のスカラシッププログラムなどがあるため、単年留学で比べれば高校のほうがチャンスはやや多い。大学生の単年留学向け奨学金は機会がわずかなので、競争率も激しくなるという。

ただし大学には、所属大学が協定を結ぶ学校に行く協定校交換留学というルートがある(高校にもある)。普段払っている授業料と相殺されることもあるので、奨学金ばかりに気を取られず、それも含めて考えれば選択肢は広がる。若松氏は、高校と大学は一概に比べられず、費用面ではそれぞれに手があるので、純粋に「今行くか、いつか行くか」で考えたほうがよいと述べた。地方自治体も高校生向けの手厚い奨学金制度を始めたり拡充したりする動きがあり、今後チャンスは広がる可能性があるという。

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世界の名門校UWC:王族も奨学生も集まる学校

聞き手が最後に尋ねたのが、ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)だ。若松氏は、UWCは制度ではなく学校の名前だと考えてほしいと説明した。世界に現在18ほどのキャンパスを持つ教育グループで、世界の優秀な高校生が応募してやってくる。IBプログラムを中心に教えている。

若松氏は、聞き手がこれを「穴場」として聞いたのなら、奨学金の幅が広いからではないかと推測した。UWCの学費はしっかりかかり、高いと言ってよい。世界中の王族や貴族の家系の子女が来ることもあるという。一方で、優秀だが経済的事情で来られない生徒には奨学金をしっかり出している。その多様性がUWCの良さであり、全額負担が大変な家庭は奨学金を含めた申請を出すのがよいという。

日本の一般家庭でも支援対象になりうるかという問いに、若松氏は、円が相対的に安くなっているため、世帯年収を申告すると以前より経済的に厳しい家庭とみなされる可能性はあると答えた。

女子に人気で男子の応募が少ないので男子は狙い目、という噂についても聞かれた。若松氏は、UWCのレポートによれば2025年の応募者は世界で男性が約40%であり、男子の応募が少ないのは事実だが、だから男子が有利とまでは言えないと述べた。日本人の合格者数ははっきりとは知らないものの、日本人学生も実際に進学しているという。

若松氏は在学中の学生に会ったことはないが、卒業して大学に進んだ人と何度か話したことがある。その印象は、視野がとても広いということだった。経済事情も国籍も考え方も宗教も多様なのが当たり前の環境で育つので、ものの見方が広がるのは当然だが、それだけでなく将来に対する視野も広い。これからしたいことのビジョンが大きく、そこから逆算して今できることを考えるだけでなく実行している。若松氏は、それは本人の資質もあるだろうが、周囲の影響も大きいのではないかと感じているという。IBに関心があるならUWCも大きな選択肢の一つになる、というのが若松氏の見方だ。

41:59

親として知っておきたいこと

聞き手は、子どもに強制はしたくないが、情報は知っておきたいと改めて感じたと話した。高校留学といえば現地で卒業まで通うものだと思い込んでいたが、ターム留学もあること、交換留学なら費用を抑えられること、私費でも公立という選択肢があることを、子どもが大きくなったときに伝えられるようにしておきたいという。

若松氏は、そう考えながら子どもと接していくことで、また違う影響が子どもに生まれるかもしれないと応じた。そして今回は触れなかった選択肢として、日本の学校に通いながら夏休みや冬休みに海外のサマースクールやウィンタースクールに行く方法を挙げ、これも非常に人気があると紹介した。聞き手はそれを次回の企画で取り上げたいと述べ、この回は締めくくられた。