OpenAI会長が率いるシエラは、コールセンターをどうAI化しているのか:日本統括・森川馨太氏に聞く

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概要

コールセンターに電話すると長く待たされ、チャットボットに質問してもまともな答えが返ってこない。この問題に取り組んでいるのが、米スタートアップのSierra(シエラ)である。創業者はOpenAIの会長で、Salesforceの元共同CEOのブレット・テイラー氏だ。番組冒頭の紹介によれば、企業価値は約2兆5000億円に達し、ソフトバンクグループの孫正義社長がデモを見て「ファンタスティック」と評したという。シエラは今年3月に日本のスタートアップOPERA TECH(オペラテック)を買収し、日本に本格進出した。

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TBS CROSS DIG with Bloombergの番組「1on1 Tech」で、ビジネスエディターの中川雅博氏が、オペラテック創業者で現在シエラの日本事業を統括する森川馨太氏に話を聞いた。テーマは三つある。シエラのAIエージェントの実力、コンサルティングだけでは実現できない「本当のAI化」、そして最先端企業から見たAGIである。収録日は2026年9月8日。

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シエラは何を提供している会社か

森川氏によると、シエラは顧客体験(CX)向けのAIエージェントと、その構築プラットフォームを提供する会社である。「CX」という言葉だけでは曖昧なので、同氏は用途を三つに分けて説明した。一つ目はカスタマーサポート。二つ目は営業で、特に消費者向け(B2C)が多い。三つ目は最近増えている債権回収で、未払い金の回収などをAIエージェントが最初から最後まで担う。

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競合になる前に組むことを選んだ:オペラテック買収の経緯

シリコンバレーを代表する企業が日本のスタートアップを買収した例は少なく、スタートアップ界隈でも注目された。森川氏の説明では、オペラテックは「シエラの日本版」を目指していた会社だった。対象はコールセンター・コンタクトセンターで、なかでもシステム、セキュリティ、業務のいずれも複雑で保守的な大企業のコールセンターのAI化を手がけていた。

米国でシエラが急成長していることは当然知っていた。そこで研究目的で、さまざまなつてをたどってシエラ社内の人と話すようになったのが最初の接点だという。2025年の終わりから2026年の初めにかけて、森川氏は「シエラはいずれ日本に来るだろう」と感じていた。事実として確認したわけではないが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドからの出資も発表されていたからだ。シエラが日本に来れば、オペラテックの事業領域と完全に重なり、正面からの競合になる。

オペラテックは、ビッグテックや国内大企業とのコンペで勝つことも少なくなかった。それでも森川氏は、短期戦と長期戦は別物だと考えた。短期決戦なら局所的には勝てる。しかしブランド力、資金力、プロダクトの厚み、そこから得られる流通面での優位を考えると、資金と世界一のプロダクトと強力な創業者を持つプレイヤーと5年単位で正面から戦うのは非常に危険だ、と判断したという。

一方で森川氏は、本当に正面から戦う必要があるのかとも考えた。この領域は顧客ごとに個別開発が必要な、いわゆるFDEモデルである。現場の担当者とも経営層とも話せること、各顧客の事業を深く理解していること、AI開発の知識とエンジニアを持つこと、同じ領域の経験があること、日本語をネイティブに話し英語も話せること。森川氏は、この条件を満たすのは自分たちしかいないと売り込みに行った。当初の提案は、シエラのプラットフォームをオペラテックが使って実装し、その対価として一定の割合を受け取るパートナーシップだった。話を続けるうちに、シエラ側から買収を持ちかけてきたという。

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なぜコールセンターのAI化が「熱い」のか

森川氏は、課題もソリューションも明確でシンプルだからだと答えた。保留で10分待たされた末につながらない、という経験は誰にでもあるだろう。消費者の苦痛は大きい。

供給側の事情もある。日本では少子高齢化で、どの企業も採用に苦労している。さらにコンタクトセンターは、日本に限らず自然離職率が非常に高い業界で、年30〜40%程度だという。10人雇えば、年末には3〜4人が辞めている計算になる。森川氏によれば、この数字は米国、東南アジア、インドでも、金融や通信といった業界を問わず、カスタマーサポート、債権回収、営業といった用途を問わず、似た水準に落ち着くという。そこに日本の少子高齢化が重なり、運営体制の維持に頭を抱える顧客が多い。

AIで置き換えたときの効果が誰にも否定しにくい形で現れ、ビジネスとして分かりやすい点も大きいと森川氏は言う。市場規模も大きい。日本だけで外部委託のコールセンター市場が約1兆円、自社でコールセンターを抱える企業の分も約1兆円と言われ、合計で約2兆円になる。森川氏は「事業はマーケットサイズの暴力」という言い方をした。どれほど優れた製品でも市場が小さければ伸びず、市場が大きいところでは事業が伸びる、という意味だ。

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実演:本人確認から料金プラン変更まで一本の電話で

番組では、架空の携帯会社「シエラモバイル」のコールセンターに電話するデモが流れた。利用者は最初に三つの依頼をまとめて伝える。選べる料金プランを教えてほしい。自分の現在の契約プランを忘れたので調べてほしい。そのまま新プランへの変更もこの電話で済ませたい。

AIはまず依頼を三点に整理して復唱し、確認を取った。続いて申し込み可能なプランを読み上げ始める。データ量が多い人向け、ポイント還元重視の人向け、データ利用が少ない人向け、オンライン手続き中心のプランなどだ。利用者が「そこまでで一旦大丈夫です」と遮ると、AIは説明を止めて次に進んだ。次に本人確認として氏名と生年月日を尋ね、社内データベースと照合したうえで、現在のプランが「シエラたっぷり」だと伝えた。利用者が変更先を「シエラ1」と答え、AIが確認を求めたところで、利用者が「やっぱりシエラちょこっとにします」と言い直した。AIは変更先を訂正して再確認し、手続きを完了させた。

中川氏は、人間相手だと頼みづらいような依頼まで出していると感想を述べた。森川氏は、これまでのチャットボットやボイスボットは一問一答が基本だったと説明した。このデモでは、ChatGPTの音声モードと同じくらい柔軟に会話しながら、問い合わせへの回答、本人確認と照合、契約情報の提示、そして社内システムを更新して手続きを完了させるところまでを一続きでこなしている。最初から最後まで複数のシステムにアクセスしてアクションを完結させることこそがAIエージェントの本丸であり、これまで難しかった部分だ、と森川氏は語った。

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チャットボットとの違いを生む「ハーネスエンジニアリング」

ChatGPTとの違いについて、森川氏は次のように説明した。大企業向けでは、さまざまな社内システムと接続し、業界ごとの独特なナレッジを大量に参照して答えなければならない。そのうえで正確性と精度を担保し、一定の速さで返答する必要があり、これが非常に難しい。シエラはそこでブレークスルーを起こした会社だという。

森川氏は、そのブレークスルーを最近よく使われる「ハーネスエンジニアリング」という言葉で表現した。日本語にしにくいが、LLMを制御したり評価したりする周辺技術の総称だと考えてほしい、と同氏は言う。LLMは普通に使うとハルシネーションを起こしたり、見当違いのことを言ったりする。シエラは用途ごとに適したモデルを使い分け、それらを制御して、正確でテンポのよい応答を大企業の品質水準で実現している。森川氏は、シエラをこの分野を極めた会社だと評した。

技術的なポイントを問われると、森川氏は単一の決め手があるわけではないと答えた。例として挙げたのは二つである。音声を文字に起こしたときに正確に書き起こせているかを担保する技術。そして、メインのAIエージェントが推論の各ステップを正しく実行しているかを、別のエージェントが監視して修正する仕組みだ。こうした仕組みを地道に積み上げて、現在の安定性と精度に到達したという。

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裏では25〜50のモデルが同時に動く

「OpenAIやAnthropicのモデルがあれば自分たちで作れるのでは」と聞かれることがある、と森川氏は話す。それには「作ってみてください、やると分かりますから」と答えているという。森川氏が興味から調べたところ、時期や条件で変わるものの、シエラは裏側で25〜50程度のモデルを並行して動かしていた。これだけの投資ができるのはシエラだからで、AIに特化していない一般企業が同じことをするのはほぼ間違いなく無理だろう、と森川氏は見ている。

使っているモデルは大きく三種類ある。LLM、音声を文字に起こすモデル、文字を音声に変換するモデルだ。それぞれの中でも、用途に応じて軽いモデルと重いモデルを使い分けている。モデル提供企業のものもあれば、オープンウェイトを使って自社で開発しているものもあり、それらを組み合わせているという。

「AIラッパー」という批判は聞かなくなった

中川氏は、「AIモデルが一つあれば何でもできる」という議論がある一方で、価値がアプリケーションレイヤーに移っているという指摘も最近多く、今の話でそれが腑に落ちたと述べた。

森川氏はこれに同意し、自身の経験を語った。オペラテックを始めた頃は「AIラッパー」という言葉が流行していた。モデルにUIを付けただけだろう、という揶揄である。しかし最近はあまり聞かなくなったと森川氏は感じている。現段階では、特にB2Bのような要求水準の高い領域で、モデルにUIを付けただけでは使い物にならないことが広く理解されてきた。そのためアプリケーション層の価値が認められ、需要が伸びているというのが同氏の見方だ。

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孫正義氏の評価とソフトバンクとの協業

孫氏がデモを見た経緯について、森川氏は概略を説明した。シエラはビジョン・ファンドから出資を受けており、その後、ソフトバンク株式会社のいくつかのブランドでPoC(概念実証)を行った。その成績が非常に良かったこと、シエラが日本に本格進出することもあり、報告と今後の協議を重ねていたという。その一環で孫氏が実際のデモを見て高く評価し、一緒にやっていく流れになった。森川氏は細かな経緯は「色々ある」としつつ、孫氏のお墨付きのインパクトは非常に大きかったと話した。

現在、ソフトバンクとシエラは日本で一緒に販売を進めている。森川氏はソフトバンクの強みとして三つを挙げた。日本のほぼあらゆる大企業へのアクセスとそれを支える営業力、ブランドと信頼、そしてAIへの圧倒的なフォーカスである。海外のスタートアップや外資系テック企業が来ると、日本企業は「すごいらしいけどちょっと怪しい」という反応をしがちだ。そのためソフトバンクのお墨付きは大きい。同時に、ソフトバンクのブランドと信頼を損ねてはならないとも強く感じているという。森川氏はソフトバンクワールドにも参加した。孫氏の話も宮川氏の話もすべてAIで、メッセージが非常に明確だったと振り返り、使命感が共通しているので話が噛み合うと語った。

導入事例として中川氏が紹介したのがLINEMOである。森川氏によれば、LINEMOのチャット対応は現在、全面的にシエラで動いており、消費者がすでに使っている。中川氏が挙げた数字では、問い合わせ解決率が従来の83%から97%へ、顧客満足度が74%から93%へ上がった。

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日本の問い合わせ対応はいつ、どう変わるか

今後の見通しについて森川氏は、この1年ほどで「電話をかけたらAIが出る」ケースがぽつぽつ現れ始めると予測した。その後の2〜3年で、現在の水準の生成AIが電話やチャットに対応する事例が加速度的に増えるという。大企業向けの実装は、テストして終わりというものではない。本番に出して安定させるまでに時間がかかるため、市場全体ではその程度の期間が必要だというのが同氏の見立てだ。

ただしシエラ自身は実装スピードに自信を持っており、次の数カ月で事例が次々に出てくるとも述べた。その理由として挙げたのは、エージェントの設計、構築のためのプラットフォーム、実行部隊であるFDEとストラテジスト(社内では「エージェントデベロップメント」と呼ぶ部隊)の三つの組み合わせである。

コールセンターから人はいなくなるのか

森川氏は、人がいなくなることはないと考えている。人にしか対応できないこと、人の方が得意なことは残る。人らしいサービス品質が求められる場面も一定程度残るはずだという。たとえばクレーム対応をあえてAIに任せるか人が担うかは、ビジネスの形態や経営判断による。それでも、強い不満を持つ顧客に人が誠心誠意対応することにはインパクトがある。AIは責任を取れない、という中川氏の指摘にも同意し、今後はAIと人の住み分けが進むだろうと述べた。

用途の広がりについては、カスタマーサポートから営業、債権回収へと領域が広がってきた。「もしかしたら、よりリアルな場にも」という可能性に触れたが、中川氏の「フィジカル・シエラ」という冗談には「いろいろな方向がある」と答えるにとどめた。

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FDEとストラテジスト:「本当のAI化」を担う体制

第二部では、技術だけでは足りない部分に話が移った。森川氏は起業前にマッキンゼーにおり、そこでもコールセンター関連の案件を手がけていた。プロダクトがあるだけでも、コンサルティングだけでも、最後までやり切れない。そこで出てくるのがFDE(フォワード・デプロイド・エンジニア)である。

森川氏によると、ここ1年ほどで日本でも急速に広まったこの言葉の役割は、大きく二つしかない。一つは、顧客ごとに合わせて開発・実行すること。ただ、これだけならコンサルティングやシステムインテグレーターの伝統的なビジネスと変わらない。もう一つは、個別開発の中で見えてくる共通の課題をプロダクトやプラットフォームに還元し、次の顧客がプラットフォーム側で解決できるようにすることだ。毎回個社向けに作るのではなく、提供を重ねるほど皆のためのものになっていく状態を目指す。

森川氏は、これは新しい話ではないとも言う。B2BのSaaS起業家なら昔から同じことをしてきた。これまでプロダクトマネージャーと事業開発を兼ねる人がやってきたことを、チームを大きくして誰もができるようにした方法論がFDEだ、というのが同氏の整理である。パランティアが言い出して話題になったが、という中川氏の言葉にも同意した。

自身の起業経験の中で、森川氏には一つの疑問があった。開発の腕がありながら顧客と話し、顧客の組織も動かせるような人が本当にいるのか、という疑問だ。結論として、スーパースターはいるものの、一人ですべてをこなす例は少ない。そこでコンサルティングやプロダクトマネージャー出身の「デプロイメント・ストラテジスト」(パランティアの用語。シエラでは「ストラテジスト」)とFDEが最小単位で2人1組になり、実装を進めるのが今の標準になりつつあるという。

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「ラスト10マイル」と「AIは政治だ」

コールセンターでも個別対応が必要な理由として、森川氏は顧客ごとの違いを挙げた。扱う商材もビジネスも違う。システム構成も違う。セキュリティの要求水準も違う。自社で開発したい企業もあれば、すべて任せたい企業もある。シエラでは「ラスト10マイル」という言葉を使う。「ラストワンマイル」より長い、最後の詰めの部分が多く存在するという意味で、そこにFDEとストラテジストが入り込む。

中川氏は、新しいスタートアップのシステムならクラウドやMCPで比較的スムーズにつながるが、大企業には古いものから新しいものまでシステムが混在し、顧客情報を取りに行くのが迷路のようになるのではと問うた。森川氏はこれを認め、システムは一つではなく多数あると説明した。どこからつなげば大きなインパクトが出るかというビジネス上のROIの視点と、技術的な実現可能性、期間やスピード感を総合的に考える必要があるという。

そのうえで森川氏は、あるシステムをAPIでつなぐこと自体は技術的にそれほど難しくないと強調した。難しいのは、そのシステムを管理する部門の許可を取り、承認プロセスを通すことだ。大企業ほどガバナンスが効いており、勝手に進めることは許されない。だからFDEが技術的な接続を担い、ストラテジストが関係者を説得して組織を動かす。両者が互いの領域をある程度理解している必要がある。

中川氏が「めっちゃ社内政治ですね」と言うと、森川氏は別の場でも語った言葉を繰り返した。社内システムとつないでアクションを実行していくのは、技術ではなく政治である、と。多少大げさに言っているとしたうえで、さまざまな人のインセンティブや事情に配慮しなければ永遠にベンダーのままで終わると補足した。配慮しつつも積極的に説得して物事を進めるコンサル的な力と、実装力とをセットにするのがFDEモデルだ、と森川氏はまとめた。

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成果報酬型の課金はどう測るのか

シエラの課金は成果報酬型で、問い合わせがきちんと完了すると対価が発生する仕組みだという。中川氏は、どこまでできたら課金するのかを客観的に決めるのは難しそうだと問うた。

森川氏は、多くの企業との取引を通じて定義のスタンダードがあり、基本的にはそれを使うと答えた。カスタマーサポートでは、AIでどれだけ完結したかが基準になる。電話がAIで完結すれば、人が受ける入電量はその分減る。営業では売上に効いてくるため、アポイントの獲得数や、解約防止の場面で解約をどれだけ防げたかが成果指標になる。このように用途によって指標は少しずつ違う。営業ではシエラのエージェントが電話をかけるケースもあり、そこにはさまざまなバリエーションがあるという。

40:23

シエラ社内のAI化:「パインコーン」と「ゴーストライター」

顧客のAI化を進めるシエラ自身はどうなのか。森川氏は、オペラテックから移って感じたギャップも大きいとしたうえで、シエラは相当AI化されていると答えた。

中心にあるのが「パインコーン(松ぼっくり)」という社内AIエージェントだ。Slackやメール、ドライブ、資料、コードベース、そしてコアのプラットフォームにまでアクセス権を持つ。アクセス範囲は制御されており、答えられることと答えられないことの間にファイアウォールのような区切りがある。そのうえで「この顧客は今どういう状況か」といった質問に何でも答えてくれる。また、プラットフォーム上には「ゴーストライター」というAIエージェントもいる。森川氏はこれを、Claude CodeやCodexのCX向けAIエージェント版だと説明した。シエラは顧客向けのCXエージェントをすべてAIで作っているという。スライド作成も社内調査もコード開発もAIで行っており、AIが使われていない場所を探す方が難しいほどだと森川氏は語る。

買収が完了した3月末の時点では、開発用、営業関連の調査用など、用途別に五つほどのAIエージェントが社内に乱立していた。それが現在はパインコーンに集約され、あらゆる情報に答えてくれるようになって圧倒的に便利になったという。

社内の仕事をAIに任せて顧客と向き合うということか、と問われた森川氏は、仕事が二極化している感覚があると答えた。一方は、徹底的にAIを使って効率的に進める仕事。もう一方は、それで空いた時間を使う、極めて泥臭い仕事である。中川氏が、AI以前ならもっと多くの人と時間とお金が必要だったことが、スタートアップ規模でできるようになったということかと確認すると、森川氏はそうだと答えた。コンタクトセンターで人の役割が残るという先ほどの話も、本質的には似たことだという。

44:28

GPT-6 Astraの登場でAGIは来たのか

第三部では、OpenAIが先日公開したGPT-6 Astraが話題になった。中川氏は、これをAGIだとする声とそうではないとする声があり、NVIDIAのジェンスン・フアン氏の発言も話題になっていると紹介した。

森川氏は、完全に私見の「感覚値」と断ったうえで、「AGIが来た」という話は「3割ポジショントーク、7割は結構本当」だと答えた。AGIは定義が拡散しているため、議論に意味があるようでないところもある。一般論としての「あらゆる人間と同等以上の知性やタスク実行能力」に完全に到達したと言うのは、正直まだ難しいと考えている。一方で、そこに到達するためのサイクルの入り口についに入った、というのは事実に近いと思っているという。

森川氏が実際にAstraを使い、調べたうえで大きな進歩だと感じた点は三つある。

一つ目は、何も教えられていない状態から新しい方法を編み出す力、大げさに言えば発明する力だ。前世代のモデル(字幕では「5.6」と聞き取れる)と比べて劇的に上がったという。例として、ARC-AGI-3とみられるベンチマーク(森川氏自身も名称を「ですかね」と確認しながら挙げた)で、7〜8%程度だったスコアが一気に99.9%程度になったと述べた。AGIの核心は自己改善にある。セルゲイ・ブリン氏が社内で「再帰的な自己改善(リカーシブ・セルフインプルーブメント)が一番大事だ」と語ったらしいとして、森川氏はその基盤となる能力がついに出てきたと見ている。

二つ目は、シエラの事業にも関係する「コンピューターユース」の性能向上だ。AIが画面上でマウスを操作してクリックする能力である。社内システムとつなぐにはAPIやMCPといった接続口が必要だが、システムによっては接続口がない。作ろうにも古すぎて誰も触れない場合もある。そういうとき、裏側から直接データを取るのではなく、オペレーターと同じようにUIを操作すれば理論上は接続できる。大企業のセキュリティの壁やセキュリティ上の理由でできない部分もあり、細かな課題は残るが、大きな流れとして可能性が広がったと森川氏は話す。開発期間が短縮されるというより、つなげられなかったシステムを別の方法でつなげられるようになる、という意味だという。

三つ目は、長時間にわたる複雑なタスクを処理する「ロングホライズン」の能力が劇的に向上したことだ。シエラは複雑なビジネスアプリケーションを長期間扱うため、ここも個人的にインパクトが大きいという。総じて、AGIへ向かう最初の地点に立ったという感覚を、多くのAI業界関係者が持っているのではないか、と森川氏は語った。

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モデルの進化はプロダクトをどう変えるか

シエラ社内では、新しいモデルが出るたびに試し、それを前提にプロダクトを開発している。プロダクトが大きく変わる可能性はあるのかと問われると、森川氏は、実際に使って実験しないと分からないと答えた。理論上は大きく変わってもおかしくないとしつつ、逆の例も挙げた。

それが音声to音声(スピーチ・トゥ・スピーチ)のモデルである。シエラの現在の構成は、音声を文字に起こし、LLMで処理し、文字を音声に戻す「カスケード式」だ。これに対し、音声を音声のまま処理して返すモデルが少し前に話題になった(森川氏は「GPTライブ」と呼んだ)。こちらの方が反応は速い。しかしシエラ社内では、このタイプの完璧なモデルについて「あと9カ月ぐらいで来る」と過去27カ月言い続けてきたという。ずっと試しているが、大企業のサービス品質を満たす形での応用は結局できていない。そのため現時点では、完全に置き換わると断言できない。ただ普通に考えれば、大きなインパクトはあるだろうと森川氏は見ている。

膨大なサポート対応のやり取りを持つシエラなら、自ら基盤モデルを作れるのではないか。中川氏のこの問いに、森川氏は、どこまで話してよいかという前置きをしたうえで答えた。シエラはあくまで応用AI、アプリケーションAIの会社である。既存の基盤モデルをファインチューニングすることはよくやっている。しかし本物のフロンティアモデルを作るには桁違いの設備投資が必要で、それができる企業は世界にもう数社しかないというのが同氏の認識だ。

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1年後は予測できない、それでも見えていること

最後に1年後のAIエージェントの世界を問われ、森川氏は、この領域は1年後を予測するのが最も難しいと笑いながら答えた。そのうえで、AGIに近いものが次々に近づいている点について自身の考えを語った。

AGIが来たと言っても、その多くはパソコンやインターネット上、つまりデジタル空間に閉じた話だ。業界の人は興奮するが、朝起きてご飯を食べて寝るという日常が根本から変わる感じには意外とならないのではないか、と森川氏は考えている。本当に大きいインパクトは、AIによって新しい発明が次々に生まれることだという。すでに生まれ始めており、今後は加速度的に増えるはずで、その果実が他のあらゆる産業に及んでいく。

あわせて森川氏は、セーフティやセキュリティの問題にも触れた。これまで倫理的・哲学的な議論だったものが、ついに実務的な問題になってきたことが大きい、と指摘した。中川氏も、まだ予想がつかない世界でビジネスが行われていると応じ、対談は終わった。