白血病の再発をどう断つか:石川文彦教授が語る「眠る白血病細胞」と新薬開発

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概要

東京科学大学の石川文彦教授(包括病理学講座)は、難治性の血液がんとして知られる白血病の治療に、研究者として取り組んでいる。治療の副作用をどう減らすか、そして寛解の後に起きる再発をどう防ぐかが、石川氏の研究の中心にある問いだ。本稿では、石川氏による研究紹介と、後半の堀江貴文氏との対談で語られた内容をまとめる。

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白血病はなぜ治しにくいのか

石川氏はまず、白血病の仕組みから説明した。血液中には赤血球、血小板、白血球の3種類の細胞が流れており、これらはすべて造血幹細胞と呼ばれる「血液のもと」になる細胞から作られる。この造血幹細胞に遺伝子の異常が起きると白血病になる。白血病は悪性の病気で、腫瘍となる細胞がどんどん増え、正常な機能が失われていく。

石川氏が重要だと強調したのは、白血球が免疫を担う細胞だという点だ。感染症からもがんからも体を守っているのは白血球であり、白血病になるとその供給源が失われる。そのため免疫が働かなくなる。

もう一つの特徴として、石川氏は白血病細胞が骨の中で増え、そこから血液中へ流れ出すことを挙げた。固形がんには、肝臓がんが肺に転移する、乳がんが骨に転移するといった「転移」がある。白血病の場合は、診断がついた時点で病気のもとになる細胞がすでに全身を巡っている。石川氏はこれを、診断時点から「まさしく転移の状態」にあると表現し、白血病治療の難しさの一つに挙げた。

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臨床の現場で抱いた疑問

石川氏は学生時代、研究にまったく興味がなかったという。白血病研究を志したのは、医師として患者のそばにいた経験からだった。

当時、石川氏は患者や家族に、欧米の先端治療をもとに説明していた。この治療で助かる確率はおよそ何パーセントで、おそらくこれが良いのでこの薬で治療したい。ただし副作用は強く、髪の毛が抜けたり吐き気が出たりする、と頭を下げて伝える。欧米で一番良いとされた治療を日本に持ち込み、「それでもあなたが助かる確率は3割です」と伝える。そういうやり方で本当にいいのか、と石川氏は疑問に思った。一人ひとりの患者を大事にして、全員を助けたいと真剣に思ったことが、若い頃に白血病の克服を決意したきっかけだったと振り返る。

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寛解と再発、そして「残る細胞」

石川氏は、患者の体内の白血病細胞の数を縦軸に、時間を横軸にとったグラフを使って治療の経過を説明した。急性白血病の患者は、診断がつくとその日のうちに入院し、抗がん剤治療を始める。多くの患者で白血病細胞はいったん減る。その間にも熱が出たり、簡単に感染症になったりし、副作用とも闘わなければならない。白血病細胞が十分に減った状態を医師は「寛解」と呼ぶが、これは「治癒」ではない。

石川氏が最も困ると語るのは再発だ。医師にとっても非常に悲しい出来事だという。白血病細胞はどんどん減っていくのに、数は少ないものの抗がん剤で殺せない細胞が残っているらしい。臨床に携わる医師はみなそれを感じているが、その正体はわかっていない。石川氏は、そこを研究で明らかにしなければならないと考えた。

さらに、同じ急性骨髄性白血病でも、患者によって病気の勢いが違う。ほぼ同じ2種類の薬で治療しても効き具合は異なり、治る人もいる。石川氏は、患者ごとに違いがある中で再発の原因を明らかにしたいと考えた。再発を引き起こす少数の細胞、つまり再発の「責任細胞」を捉え、その特徴がわかれば、新しい治療を開発して患者に届けられるかもしれない。

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患者の細胞で患者の病態を再現する

ただし、病気の本拠地である骨の中を、患者の体内で直接のぞくことは基本的にできない。そこで動物実験を使うことになる(石川氏は動物倫理を厳しく遵守していると前置きした)。石川氏によれば、従来の研究ではマウスの遺伝子を改変し、マウスの細胞でマウスの白血病を作る手法が9割から95%を占めていた。石川氏らは、患者自身の白血病細胞を使って、患者一人ひとりの病態を個別に再現する手法をとってきた。

その結果として、石川氏は骨の断面の画像を示した。骨の中には白血病細胞がぎっしり詰まっており、本来いるはずの正常な赤血球などが暮らす場所がない。抗がん剤を投与すると、画像はすっきりして見える。多くの人はこれで効いていると思うだろうが、実際には濃い色の細胞がまだ固まって残っている部分があり、どうもそこから再発しているらしいと石川氏らは考えた。

たまたまそこにいるだけではないか、という疑いも当然ある。石川氏らは原因があるはずだと考え、細胞が増殖するときに緑色のタンパク質を作るようにして観察した。すると、骨の中心部では白血病細胞がどんどん増えていたのに対し、骨の端の部分では細胞が非常に穏やかに暮らしていた。石川氏は、固形がんについては中山先生という研究者が同様のことを指摘していたと紹介しつつ、白血病でもこれが従来の抗がん剤が効かない原因の一つだとかなり前に突き止めたと述べた。

石川氏の解釈では、同じ患者の中にもさまざまなタイプの白血病細胞がいて、骨の中の場所によって性質が変わる。中心部の分裂の速い細胞には抗がん剤が効くが、端で穏やかに暮らす細胞は殺しにくく、わずかでも残ればそこから再発する。逆に言えば、その細胞の特徴を捉え、治療の手立てを見つけられれば、再発を克服して根治できるのではないか。石川氏は、当時非常に意気込んだことを覚えているという。

亡くなった患者の細胞から治療を考える

石川氏はもう一つの方針として、研究では良い結果に目が行きがちだが、亡くなった患者の細胞こそ使うべきだと考えたと語った。石川氏らは2006年から19年間、虎の門病院と共同研究を続けている。虎の門病院に来た患者のうち、残念ながら亡くなった人の細胞を使って病気を再現し、どう治療すればよいかを考えなければならないと考えた。

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正常細胞にはない標的を探す

治療の標的選びについて、石川氏は「とにかく白血病細胞を徹底的に叩けばいい」という考え方を否定する。正常な造血幹細胞まで一緒に叩けば、白血球も赤血球も血小板も作られなくなり、貧血や出血が起きる。正常な造血幹細胞と白血病細胞の両方が持つ分子は、標的にしてはいけない。白血病細胞にだけあって正常な造血幹細胞にはないものを狙えば、副作用を抑えながら白血病細胞だけを叩けるのではないか、と石川氏は考えた。

候補はいくつも挙がったが、それらは単独で働くのではなく、蜘蛛の巣のように互いに関わり合って動いている。石川氏は、その蜘蛛の糸をほぐす、あるいは断ち切るようなイメージで研究を進めていると説明した。

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鍵と鍵穴:スーパーコンピューターによる薬の設計

石川氏は、標的となるタンパク質を鍵穴に、薬を鍵にたとえた。薬の候補はどれも炭素、水素、酸素などからなる似たような分子で、どれが鍵穴にうまく入るかを目で見て判断することはほぼ不可能だ。そこで、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」や東京科学大学の「TSUBAME」を使って計算する。

最初の薬の候補は、標的をつかむ部分の一部が鍵穴の奥まで届かなかった。届かないとふらふらして、やがて外れてしまう。外れれば白血病細胞は再び増え、再発につながる。そこで、うまく結合している部分は残しつつ、届かない部分の「足」を長くする設計を進めた。この設計は自分ではなく、デザインを担う別の人たちが行ったと石川氏は断っている。その結果、二つ目の候補はちょうどよく届くようになった。長すぎてもまったく駄目だという。これはコンピューターの予測だけでなく、実測でも確かめられると石川氏は説明した。

しかし、別の問題も出てきた。一つの白血病細胞には2万もの遺伝子がある。今回の薬の標的はそのうちのたった一つだ。2万もあるのに本当に白血病細胞が死ぬのか、という自虐的な思いもあったと石川氏は明かす。そこで、患者の病態を再現したマウスで治療効果を確かめると同時に、肝臓や腎臓に副作用が出ないかも検証する。こうした検証を経て、初めて患者への応用が可能になる。

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抗がん剤が効かなかった患者の細胞で示された効果

石川氏が示したのは、抗がん剤に抵抗性を示して亡くなった患者の白血病細胞で病態を再現したマウスの結果だ。骨は真っ白で、脾臓には白血病細胞がぱんぱんに詰まって大きくなっていた。抗がん剤はこの状態にまったく効かなかった。

新しい薬を投与すると、1週間で骨が赤くなった。石川氏によれば、これは出血による悪化ではなく、正常な赤血球が戻ってきたことを示している。脾臓も正常に戻った。1ミリの何分の一かの薄さに切った組織を見ると、薬の投与によって白血病細胞は大きく減っていた。よく見るとまだ少数残っていたが、治療を続けると、残っていた細胞もなくなった。その後に増えて見えた細胞は、染色の色から正常な白血球だと判断できたという。石川氏は、白血病細胞を消して正常な細胞が残ったことから、この薬は従来の抗がん剤のように正常な細胞まですべて叩くものではないとわかった、と述べた。

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次の一手:免疫を強化した細胞療法

白血病は複雑な難病で、一つの方法では簡単には殺しきれない。そこで石川氏らは次の手を考えた。虎の門病院の医師たちが行っている臍帯血移植や骨髄移植では、大量の抗がん剤を投与したうえで、多くは他人から骨髄や臍帯血をもらい、静脈から体内に戻す。すると造血幹細胞が骨の中に入り、再び免疫を作れるようになる。ただし、白血病は免疫だけでも簡単には潰せず、免疫が暴れて別の問題を起こすこともある。

そこで石川氏らは、白血病にだけ効く免疫を作りたいと考えた。それがCAR-T細胞だ。先ほどの薬は低分子と呼ばれるカテゴリーで、小さいので細胞膜の間から中に入り込んで攻撃する。一方の免疫のアプローチは、石川氏らが「免疫のエンジニアリング」と呼ぶものだ。T細胞が相手を認識する部分にB細胞が作る抗体の仕組みを使うことに加え、免疫細胞そのものをより強くする改変も施せるという。

マウスでの結果として、治療しなければ脾臓、骨、肝臓に多くの白血病細胞がいる。従来のCAR-T細胞療法では脾臓の白血病細胞はかなり減るが、骨と肝臓にはまだ相当残る。免疫を強化すると、骨と肝臓に残る細胞もかなり減った。石川氏はこれを、従来の療法では白血病細胞が残って免疫細胞が逆にやられるのに対し、強化すると免疫細胞が勝つ、と表現した。

研究は骨髄性白血病から始めたが、リンパ性白血病(B細胞性、T細胞性)や慢性骨髄性白血病なども対象にしているという。石川氏らは、まず低分子薬で白血病細胞の内部に入り込み、次に免疫で殺す「ワンツー攻撃」によって、どのタイプの白血病でも白血病細胞を減らし、なくすことを目指している。これまでの治療にもある程度効く部分はあるが、それを根治に近づけ、患者から再発の不安を取り除きたいと石川氏は語る。

石川氏は研究全体を次のように振り返った。患者の体の中は見えないが、亡くなる前に患者が送ってくれた細胞を使って病態を再現し、可視化することができた。正常細胞にはなく白血病細胞にだけあるものを攻撃すれば、副作用を最小限にできるかもしれない。そして最大の目標である再発の根絶についても、さまざまな手段を組み合わせることで、患者に届ける準備がだんだん整ってきた、と石川氏は述べている。

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対談:実用化はいつになるのか

後半は堀江氏との対談になった。堀江氏によれば、二人は同級生で(堀江氏は医学部ではない)、最近、白血病研究を患者に届けるために一緒に何かできないかという話があったという。

堀江氏が最初に尋ねたのは、人間に使えるのはいつかという点だった。石川氏は、1日も早く届けたいと前置きしたうえで、低分子薬は1年半から2年ほど先、免疫療法はその後3〜4年かかるだろうという見通しを示した。これは治験に入るまでの期間で、それまでに動物実験などで副作用がないかを確認する。

薬の物質は新しく作ったものかという問いに、石川氏はそうだと答えた。最初は他社が作った物質を使って治療がうまくいく可能性を報告したが、それでは開発を進めるうえで投資が得られないなどの問題が出る。そのため、完全に新しい物質を自分たちで作る方針に変えたという。堀江氏が時間もお金もかかると応じると、石川氏も同意した。

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「世界の中心で、愛をさけぶ」の時代の治療と、分裂の遅い細胞

堀江氏は、研究対象が急性骨髄性白血病であることを確認した。突然発症する病気で、映画「世界の中心で、愛をさけぶ」で描かれた病気もそれだったはずだと話題にした。堀江氏の理解では、従来は無菌室に入れて放射線を当て、すべての細胞を殺してから骨髄移植をしていた。なぜあの映画の患者は亡くなったのかという問いに、石川氏は映画を見たことがないのでわからないと答えた。そのうえで一般論として、すべての細胞をいったん殺そうとするので正常細胞も死んで副作用が強くなり、それでも一部の白血病細胞は残ってしまう、と説明した。堀江氏が、残った細胞が復活するのは分裂の遅い細胞だからかと確認すると、石川氏は肯定した。

それがわかったのは10年ほど前で、そこからはその細胞をどう殺すかが次の目標になった、と石川氏は語る。また、再発のタイミングが患者ごとに大きく違うことはまだ謎で、完全にはわかっていない。ただ、残る細胞の一部が「ゆっくりしている」ことが理由の一つだろうということはわかってきた。

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代謝の話と、標的が見つかった理由

堀江氏は、がん細胞が分裂に必要な材料を作るためにTCA回路ではなく解糖系を使うという話を持ち出した。解糖系を使わなくても正常な細胞は生きられるので、そこを狙う治療を開発している人たちもいる、という指摘だ。石川氏は、ゆっくりしている白血病細胞は両方を使っていると述べた。代謝やエネルギー供給を断ち切ることは現在の治療の重要な方向の一つだが、自分たちもそれがどうなっているかはまだ完全にはわかっていないという。

では今回の薬は何を断ち切るのか。石川氏は、白血病細胞が生き延びようとする仕組みを壊すものだと説明した。堀江氏は、分裂が遅い細胞は普通の細胞と区別がつきにくいのではないかと問う。これに対し石川氏は、白血病の原因となった遺伝子異常と、その下流で白血病細胞の生存に重要な分子がわかってきたと答えた。

石川氏は、これを見つけられたのはコンピューターのおかげというより、これまでにおよそ800人の患者が自分の白血病細胞を送ってくれたおかげだと強調した。自分たちには間に合わないかもしれないが、いつか同じ病気になった人を助けてほしいという思いで送ってくれたという。5人や10人ではわからなかったが、数百人分の細胞で何度も実験を繰り返したことでわかったのだろう、と石川氏は述べた。

標的のタンパク質は正常細胞にもあるが、正常細胞の生存にとってはそれほど重要な働きをしていないことがわかっているという。

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悪性リンパ腫への広がり

この標的はほかのがん細胞にもあるのかという問いに、石川氏は、同様のものがほかのがんにもあることはわかっていると答えた。開発する企業の立場からは、白血病以外のがんにも使えないかと聞かれることがあるという。その観点で調べたところ、悪性リンパ腫の一部の患者に非常によく効くことがわかった。これも狙って見つけたのではなく、虎の門病院のある患者がリンパ腫の細胞を送ってくれ、それをマウスで再現したところ、うまくいったのだという。

堀江氏の質問に答える形で、石川氏はリンパ腫について説明した。白血病は骨髄で始まり、血液中を巡っている。リンパ腫の多くはリンパ節の腫れで気づかれる。進行したものではリンパ節から骨の中、さらに血液中へ入っていく。リンパ節は、例えばコロナワクチンで見られるように、何かが体に入ってきたときにそれに対抗する特別な白血球を作る場所で、重要な免疫の拠点の一つだという。石川氏は、固形がんがリンパ節に転移すると、本来そこで作られるはずの免疫がうまく作れなくなり、がんがその場所を乗っ取ってしまうイメージだと説明した。

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白血病の原因と「未病」

急性骨髄性白血病はなぜ起きるのか。石川氏は、遺伝子異常であることは間違いないとしたうえで、異常には多くの種類があり、同じ骨髄性白血病でも病気の勢いが違うのは、どの遺伝子に異常が起きたかにある程度よるのだろうと述べた。異常は一つではなく、二つ三つと積み重なって初めて発症する。

発症には二つのピークがあるという。一つは子どもの白血病で、もう一つは50代から70代、血液や免疫の老化によって遺伝子に傷が入りやすくなって起きるものだ。乳児期に発症するケースもある。どんな人がなりやすいかについては、タバコが悪いことはわかっている。しかし、白血病を専門にしている石川氏でも、こういう生活をすれば白血病にならないということはまだわからないという。

石川氏は「未病」の考え方にも触れた。完全に病気にはなっていないが少し動き始めている状態を検出できれば、抗がん剤ではなく生活などで柔らかく抑えられるかもしれない。今は発症した患者を助けることが最優先だが、未病への対応が次の目標だという。ただし白血病の未病状態はまだわかっていない。

ヒントとして石川氏が挙げたのは、多くの人の遺伝子を徹底的に検査するようになって、白血病でない人でも年齢とともに特定の遺伝子に傷が入りやすいとわかってきたことだ。しかし、そこから白血病になりそうな人は100人のうち3人ほどしかいない。なぜ97人は大丈夫で3人が駄目なのかはわからないが、その遺伝子の傷が未病状態の一つなのだろう、と石川氏は述べた。

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前がん状態はつかめるか

堀江氏は、大腸がんのポリープ、胃がんのピロリ菌、子宮頸がんのHPVのように、予防しやすい手がかりが多くのがんにあることを挙げた。食道がんなどでも段階的な前がん状態がわかってきているのに比べ、白血病はわかりにくいと指摘した。それでも前がん状態は必ずあるはずだという点で二人の意見は一致し、堀江氏は、血液に流れ出しているのだから血液検査でわかりそうだと述べた。

石川氏は、人間ドックなどでは必ず採血しているので、そのデータを丁寧に見て2年、5年、10年と追いかけ、振り返ってこれが前がん状態だったと言えるようにしたいと語った。ただ、堀江氏が指摘したように、白血病になった人の発症前の血液は通常保存されておらず、振り返ることが今はできない。

関連する研究として、石川氏はイギリスで始まり自分たちも取り組んでいる手法を紹介した。2万の遺伝子をすべて調べると、どの遺伝子の異常が何年前に始まり、その次にいつ何が積み重なったかという歴史(系統樹)をたどれそうだとわかってきたという。ただし、なぜその遺伝子に異常が起きたのかはわからず、研究はまだ続ける必要があると石川氏は述べた。

堀江氏は、遺伝子異常が見つかった時点で予防的に何かをすればがんにならないのでは、と問いかけた。石川氏は、コロナワクチンで感染を予防したり重症化を防いだりするように、免疫を強くすることでがんや白血病を予防できるようになるかもしれないと答えた。腸内の善玉菌から全身の免疫を強くするという考えの人もいるといい、免疫と生活をもっと結びつけて病気を予防できる時代を築きたいと語った。

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一つの薬ではなく、複数の手段の積み重ねで

最初の薬が使えるようになれば急性骨髄性白血病の患者はほぼ助かるのか、という堀江氏の問いに、石川氏は、最初の薬で助けられるのはおそらく白血病の20%ほどだと答えた。そのため、この日紹介しきれなかったものも含めてさまざまな手段を作っているという。一つの薬で100人全員を救うというより、一つずつ積み重ねて手元に10個の治療薬がそろったときに全員を助けられる、というイメージだと石川氏は語った。堀江氏がHIVも複数の薬を組み合わせる方法で死なない病気になってきたと応じると、石川氏も同意した。

最後に石川氏は、研究の原点が患者とその家族と交わした誓いにあると語った。ある患者から「俺たち死んでも、先生が近くにおった方がええやん」という趣旨の言葉をかけられたことをよく覚えているという。それでも石川氏は研究で多くの人を助けると誓った。誓ったからには必ず実現し、今は天国にいる患者たちにも報告に行けるよう、毎日を大事にしたいと述べた。そして、何年後になるかはわからないが、いつか堀江氏と再会したときに「白血病が全部治る時代になりつつある」と言ってもらえる日を迎えたい、と結んだ。