半導体チップ上でオペアンプを自作する:オープンソースツールで設計し、シャトル便で製造したチップを測る

YouTubeで開く ↗
概要

イチケンは今回、トランジスタレベルからオペアンプを設計し、シリコンチップとして製造した。チップ上にトランジスタを作り、それをチップ上で配線した回路である。以前にはディスクリートのトランジスタ部品でオペアンプを組んだことがあり、今回はその「上位互換のようなもの」だと位置づけている。動画では、設計から製造までの流れを紹介し、届いたチップがオペアンプとして動くかを各種回路で検証する。

10分で読めます

約2か月の急ピッチな設計

設計を始めたのは2025年6月頃で、設計データの提出締め切りは8月上旬だった。この短い期間に、オペアンプの設計方法、ソフトウェアの使い方、半導体レイアウトを急いで学んだという。設計にあたっては、オープンソース半導体コミュニティのISHI会からさまざまな支援を受けている。

設計の基本的な流れは、回路図を書き、シミュレーションし、レイアウトを書き、そのレイアウトを検証するというもので、話者は電子回路設計とほとんど同じだと説明する。回路シミュレータのLTspiceを使ったことがあり、回路CADのKiCadで回路を書いたことがあれば、簡単なオペアンプ回路の設計とレイアウトはできるのではないか、と話者は見ている。ただし今回使うソフトは操作が少し難しい部分もあるため、初めて取り組むならロジックのNOT回路あたりから始めると挫折せずに進められるだろうと勧めている。

無償で使える設計環境

半導体設計用のソフトウェアは基本的に安くない。しかし、無償で使えるオープンソースのシミュレーターとレイアウトソフトウェアがあり、有志がセットアップを簡単にできるようまとめている。半導体設計に必要なプロセスデザインキット(PDK)も用意されており、環境は簡単にそろえられると話者は述べる。具体的な手順は概要欄の資料にまとめられている。

設計の自由度がかえって難しさになる

ディスクリート部品で回路を設計する場合、部品自体の性能は決まっているので、外付けの抵抗などで調整することになる。一方トランジスタレベルの設計では、トランジスタ自体の性能を自分で設定できるため、設計の自由度が大きく広がる。

話者は、この自由度が初心者にはかえって難しさになったと振り返る。トランジスタの性能をどの程度に設定すればよいかが分からないからだ。今回は「だいたいこのくらいの値で設計するとよい」という形でISHI会のメンバーに教わりながら進めた。概要欄のPDF資料を見ながらでも同様のことはできるだろうとしている。

今回はCMOSプロセスで設計しており、PMOSはNMOSより性能が低い。PMOSで同程度の性能を持たせるには、NMOSの2倍ほどの面積が必要になる。ディスクリート部品ならコンプリメンタリーペアを使えばよいので、こうした性能差を意識する場面は少ない。低いレイヤーから設計すると、こうした点も考えなければならない、というのが話者の実感である。

回路構成とブロック単位の検証

設計した回路は、入力の差動増幅回路、出力部、基準電流源といったブロックで構成されている。進め方としては、回路をブロックごとに小さく切り出してテストベンチを作り、すべてのブロックでテストベンチがうまく動いたら全体をつないでシミュレーションし、問題なく動作するかを確認した。

レイアウトで施した工夫

回路設計の次はトランジスタのレイアウトである。話者は今回の設計を通じて、トランジスタのレイアウトは非常に奥が深いと分かったという。完成したレイアウトには、入力の差動増幅回路、基準電流源、位相補償などを担う回路、出力回路が配置されている。その中から、力を入れた点がいくつか紹介された。

一つ目はコモンセントロイドである。差動増幅回路の部分は点対称のような構造になっている。差動増幅回路のようにペアで使うFETを点対称に配置することで、ペアのトランジスタAとBの間に温度差が生じにくくなり、温度特性が良くなるという。

二つ目はダミーポリシリコンだ。話者の説明によれば、端のほうにあるシリコンはどうやら製造時に削れてしまうらしく、トランジスタが削れると回路の特性が設計値から外れてしまう。そこで、回路の動作に寄与しないトランジスタを端に追加で置き、内部で実際に動作するトランジスタを守っている。

三つ目はダブルビアとダブルコンタクトである。ビアやコンタクトは配線に比べて抵抗値が高いため、複数設けて抵抗値を下げている。また非常に微細な構造なので、製造不良でビアやコンタクトとして機能しない可能性もある。複数作っておくことで、不良が起きても動作できるようにした。話者は、プリント基板でビアを複数開けて抵抗値を下げるのと同じだと説明している。このほか、電流が流れる配線は全体的に太くした。

最も時間がかかった検証作業

レイアウトができたら、それが回路図と一致しているか、デザインルールに違反していないかを検証する必要がある。レイアウトの誤りやデザインルール違反があれば、時間をかけて作ったものを削除して最初からやり直すことにもなりかねない。話者によれば、回路設計自体はそれほど時間がかからなかったが、レイアウト設計と検証作業に最も時間がかかり、30時間ほど費やしたという。

シャトル便による製造と費用

レイアウトが終わると、データをファウンドリーに渡してチップを作ってもらう。今回の製造はフェニテックセミコンダクターが担当した。利用したのは「シャトル便」と呼ばれるサービスで、1枚のウェハに他の人のチップも一緒に載せて安く作る。ウェハのある区画をISHI会が使い、別の区画を他の企業が使うといったイメージで、1枚のウェハに詰め込めるだけ詰め込んで経済的に試作チップを作る仕組みだ。

今回のチップは2025年のシャトルで作られた。設計データの提出期限が8月、完成したチップが届くのが12月末頃で、完成までにおよそ4か月かかっている。

費用は話者の想像よりずっと安かったという。ベアチップ20個で21万円、LQFPパッケージに入れる組み立てオプションを加えると合計30万円である。さらに一つのチップ上に他の人が設計した回路も載せているため、人数で割れば1人あたり数万円まで下がる。なお今回の製造費用はサンケン電気が負担した。設計もオープンソースソフトウェアを使えば無償でできるため、話者はオリジナルチップ制作の敷居がかなり下がっていると感じている。プロセスノードは0.6μmで、今回のオペアンプのようなアナログ半導体なら問題なく作れるだろうという見立てだ。国内には同様のシャトル便を提供するファウンドリーがほかにもあるという。

届いたチップを観察する

4か月後、ちょうど存在を忘れかけた頃にチップが届いた。ベアチップとパッケージ品を分けてもらっており、パッケージ品は見た目はよくあるICと同じである。ベアチップはカメラで拡大しても見える範囲に限界があるため、マイクロスコープで観察した。

チップ上にはイチケンの回路だけでなく、他の人が設計した回路も載っている。ICのピン数は決まっているので、それを参加者で分け合う形でチップ上の回路とリードフレームをつないでいる。ピン数が足りず、つながっていない回路もある。チップ中央にはISHI会とサンケン電気のロゴがあり、左上がイチケンの設計した回路だ。話者は、設計した通りに製造されていると思うと述べている。

測定の準備とピン構成

測定には、クラムシェルタイプの治具にICを入れ、ブレッドボード上で回路を組んだ。割り当てられたピンには、電源、外付けの位相補償用コンデンサを接続する端子、イチケン専用の電源端子VDD、電流源・カレントミラー用の端子、そしてオペアンプの入力と出力がある。

電流源はチップ内部に作ってあるので、電流源用の端子は短絡して使う。あえて端子を分けたのは、チップ内の電流源が万が一動かなかった場合に、外部から電流を供給して動かせるようにするためである。

バッファ回路での基本動作と消費電流

最初にバッファ回路を動かした。電源は5Vで、今回のオペアンプは単電源用のため、電源電圧の半分である2.5Vを中心とした交流信号を入力する。2.5V中心、ピークピーク1Vの入力を与えてオペアンプの電源を入れると、出力が入力に追従し、動作が確認できた。なお動画の撮影とは別に、設計に協力した人たちを集めて測定会も実施している。

消費電流は0.15mAだった。話者は、秋月電子などで売られている単電源オペアンプNJM3404の消費電流が2mAであることと比べ、結構低消費電流だと評価している。性能ではかなわないにしても「まあまあ」だという。

振幅・周波数・矩形波への応答

入力振幅を大きくしていくと、2.5V中心でピークピーク4Vほどの入力からクリップし始めた。出力の最大値はおよそ4.4Vである。波形の上側が先にクリップし、下側はなかなかクリップせず0V近くまで出力できた。

周波数は1kHzから上げていった。10kHz、100kHzでは波形は歪まなかった。200kHzでは波形の頂部が歪み、300kHzでは波形が三角波のようになり、話者はこれをスルーレートの問題だと考えている。300kHzから10kHzずつ下げていくと、実用上はおよそ200kHzまで使えるという印象を得た。ピークでわずかに歪むものの許容範囲だと判断している。

矩形波を入力すると、出力にはある程度のリンギングが出た。これは位相補償のコンデンサが大きく効いてくる部分だという。内部にも位相補償用のコンデンサは作ってあるが、外付けのコンデンサを追加して位相補償をさらに効かせることもできる。10pFほどのコンデンサを外付けすると、リンギングがかなり減ることが確認できた。

非反転増幅回路と反転増幅回路

次に非反転増幅回路を組んだ。振幅は2倍に増幅されており、問題なく動いている様子だった。ただし振幅を大きくすると、出力が3.2V程度でプラス側のピークがクリップした。話者は「内部の設計がまだまだということなのか」と推測している。

反転増幅回路でもきちんと反転増幅できた。ただしこちらも振幅を大きくするとクリップが生じ、入力電圧が2.9Vを超えたあたりから出力波形がおかしくなった。

負荷の駆動能力

最後に、バッファ回路で抵抗負荷をどこまで駆動できるかを試した。10kΩは駆動できなかった。話者によれば、今回はオペアンプ内部の出力段を強化していないため、重い負荷は駆動できない。重い負荷を駆動したければ、設計段階で出力の後段にバッファ回路を追加する必要があるという。

80kΩの負荷でもまだ出力波形は歪んでおり、かなり軽い負荷しか駆動できなさそうだった。入力振幅を小さくすれば少し重い負荷も駆動できるが、それでも10kΩ程度は駆動できなかった。

振り返り:レイアウトには時間がいくらあっても足りない

実際に作ってみて、話者は設計とレイアウトに多くの時間が必要だと分かったという。特にレイアウトは「時間が溶けていくレベル」だった。回路図上の接続は同じでも、トランジスタをこう配置・接続したほうが性能が出るのではないか、ファウンドリーのプロセスの影響を受けにくくするにはこうすればよいのではないか、回路図に表れないレイアウト技法も取り入れたい、と考え始めると、いくら時間があっても足りない。

半導体設計には締め切りがあるため、時間が足りなければある程度妥協したレイアウトで製造に出すことも実務ではあるかもしれない、と話者は述べる。今回も時間を割けなかった部分は妥協したレイアウトになっている。出力段の駆動能力やプラス側のクリップなど課題は残ったが、最終的にチップはオペアンプとして問題なく動作した。