水を使わず「音」で火を消すSonic Fire Tech――山火事を最終目標に据えながら、なぜ屋内から始めるのか

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概要

東京大学FoundXの番組「FoundX Review Startup IdeaCast」は、海外スタートアップのアイデアをAIで整理・分析して紹介している。今回取り上げたのは、低周波の音で初期火災を抑える消火インフラを開発するSonic Fire Tech(ソニック・ファイア・テック)だ。番組冒頭で断っているとおり、内容はAIを使って整理した情報に基づくため、古い情報や誤りを含む可能性がある。

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紹介役の話者は、社名と事業内容から、気候変動で深刻化する山火事に挑む会社だと考えて調べ始めたという。実際に最終目標は山火事だったが、足元では厨房やデータセンター、住宅といった屋内から市場に入ろうとしている。話者はこの判断を面白いと感じ、題材に選んだと説明する。

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山火事、保険、消火手段をめぐる課題

番組は、Sonic Fire Techが向き合う課題をいくつかの層に分けて整理している。まずカリフォルニアなどでは、気候変動の影響もあって山火事が激化している。その結果、保険会社の採算が悪化し、新規契約から撤退する「保険の危機」も起きているという。

既存の消火手段にも問題がある。従来の泡消火剤にはPFASが含まれ、環境汚染が問題視されているため、代替手段が急がれている。水に頼るにも限界がある。災害時には断水のリスクがあり、アメリカでは特に、枯渇しつつある水資源への依存から抜け出す必要があるという。火災で停電すれば汲み上げポンプが止まり、各所で同時に消火活動が行われれば水圧が下がって水が出なくなることもあるそうだ。こうした事情から、Sonic Fire Techのシステムは商用電源が落ちてもバックアップバッテリーで動くよう設計されていると紹介された。

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「火は消えても被害が残る」という二次被害

番組が特に強調したのは、消火手段そのものが生む二次被害である。スプリンクラーで建物を消火すれば水浸しになり、建物や、データを保存している機器が壊れてしまう。商業用厨房でスプリンクラーが作動した場合、水損と休業によって75%が二度と再開できないという話もあると話者は紹介する。

泡消火剤には先述の環境汚染の問題がある。窒素などのガスを注入して酸素をなくす方法もあるが、酸素濃度が下がるため人がいる空間では命に関わるリスクがあり、居室での使用は難しい。結局のところ、火から建物を守るか、水や化学物質で建物を傷めるかという選択を迫られているのが、データセンターや、山火事の危険がある地域の住宅所有者の現状だと番組は整理している。

聞き手からデータセンター火災の実態を問われた話者は、サーバーが水に濡れれば全損し、ガス系の消火設備を使えば人が立ち入れなくなるためダウンタイムが長引く、と説明した。データそのものの損失に加え、そこから派生する業務停止がビジネス上の大きな痛手になるという。

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低周波で酸素を「揺らす」仕組み

Sonic Fire Techが使うのは、人間には聞こえないとされる20Hzの低周波だ。燃焼に必要な三要素(燃料・熱・酸素)のうち酸素を音波で物理的に揺さぶり、火を消す。水も化学物質も使わないため、二次被害は起きないはずだという位置づけである。NASAの熱音響技術を応用し、非常に少ない電力で効率よく音波を発生させることに成功したことが起業につながったと紹介された。

酸素を揺さぶるとはどういう現象なのか、という聞き手の質問に対し、話者は同社のYouTubeでの説明をもとに答えている。音波が空気を揺らし、燃料と酸素が結びつく化学反応の速度を上回る速さで酸素を動かしてしまうため、燃焼が維持できなくなる。ただし分子の動きは目に見えないので、あくまでイメージの説明になると話者は断っている。

提供するシステムは消火だけではない。初期火災の検知、音による消火、そして検知と同時にスマートフォンへ通知するまでの一連の流れが、家庭向け製品には含まれているという。

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初期市場が厨房とデータセンターである理由

市場の捉え方について、最終的に狙う最大の市場(TAM)は、山火事から住宅を守る巨大な市場だ。しかし初期市場として定めているのは商業用厨房とデータセンターである。屋外の山火事では風が吹き、環境も広大で、変数が非常に多い。そこでまずは、温度などの環境がある程度制御された屋内で、しかも水で壊れることを極端に嫌う場所から始める、という考え方だという。

次の段階の市場(SAM)としては、カリフォルニア州などで新築時に義務化されている屋内用スプリンクラーの代替を狙う。聞き手は、規制をきちんと狙いにいく点が面白いと評した。

では、なぜ厨房なのか。話者によれば、住宅火災の約50%はキッチンから発生し、その多くは油や電気に由来する。油に水をかけたときのことを想像すれば分かるように、水のスプリンクラーは油火災に弱い。だからこそ音で消す方式の優位性を示しやすい、というのが厨房を選んだ理由だと説明された。

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消防向けバックパックから住宅インフラ、保険連携へ

ビジネスモデルは、単にガジェットを売る段階から、住宅インフラ化、さらに保険エコシステムへの移行を段階的に狙う構想になっている。

フェーズAでは、消防機関向けに「Sonic Backpack」という背負い式デバイスを2万5000ドルで販売し、プロの現場で実績を作る。フェーズBでは、住宅や建物に組み込むインフラとして販売する。価格は住宅価格の12%を想定していると紹介され、話者は「めちゃくちゃ高い」と反応している。一方で優位性としては、従来のスプリンクラー配管工事と同等のコストで導入でき、配管をつなぐような水インフラが不要なためスケーラビリティが高いと整理されている。将来的には、このシステムを導入すると火災保険料が割り引かれる仕組みを作り、保険会社と提携して普及を加速させたい考えだという。

聞き手は、2万5000ドルのバックパックが本当に売れるのかと疑問を投げた。話者の説明では、水や薬剤を補給する必要がないため、水が足りなくなって戻るといった手間がなく、連続して運用できる。山間部など水を確保しにくい現場での初期対応の道具として価値が高いと見られているようだ。ただ、高額なため購入してもらうのは簡単ではないからか、カリフォルニア州の消防機関などに実証用として100台を提供するキャンペーンも発表されているという。

13:57

規制当局と建設業者を通じたB2B2C戦略

市場参入の戦略はB2CではなくB2B2Cだ。自社で直接消費者に売り込むのではなく、規制当局の法的基準や標準仕様に採用されることを最優先にしている。規制の承認を得たうえで、建設業者が新築時に入れる標準的なインフラに組み込んでもらう、という流れである。製造面でも、自社で巨大な工場を抱えるのではなく、外部のエンジニアリング人材やモーター製造インフラを活用するネットワーク戦略を取っているという。

さらに10〜20年後の長期的なビジョンとして、水が使えない月や火星での居住施設向けの消火システムも視野に入れているそうだ。宇宙での利用は本当に可能なのかという聞き手の問いに、話者は、創業者がもともとNASAで宇宙向けの技術に携わっていたこと、宇宙では水が非常に貴重であることから、ありうる話ではないかと答えている。

15:17

屋内から屋外へのロードマップと認証の壁

ロードマップは、本来やりたかった最難関の山火事を後回しにし、屋内から段階的に攻める形になっている。フェーズ1では認証の取得を進め、変数が少なく二次被害回避のニーズが強い屋内消火で実績を作る。次に住宅の屋内設備に入り、新築時に義務化されている水スプリンクラーの代替手段として法的な認証を得るとともに、コストを下げていく。最終的には屋外、つまり山火事からの防御へ拡張するが、ここは環境の変数が多く複雑な領域だ。研究開発を回しながら、最終的には数キロ規模で音響シールドを展開することを狙っているという。話者はこれを「SFみたい」「結界みたいな感じ」と表現した。

聞き手は、第2段階で必要になるNFPA 13Dの証明がどれほど難しいのかを尋ねた。NFPA 13Dは、一戸建て・二世帯住宅のスプリンクラー設備に関するアメリカの標準規格だという。これと同等であることを証明するには、第三者の防火エンジニアから、水のスプリンクラーと同等以上の性能があると評価される必要がある。だが、そもそも「音響」というカテゴリーが存在しないため比較が難しく、どう評価するかというルール作りから始めなければならない。そのため数年単位の時間がかかると見込まれている、と話者は説明した。

17:34

競争優位:ダクト活用、省電力、そして認証プロセス

競争優位(モート)について、話者は特許として出てくるいくつかの要素を挙げた。一つは、部屋ごとにスピーカーを置くのではなく、住宅のダクトを通じて空間全体に音波を行き渡らせる特許技術だ。音波をエアコンのダクトや屋根裏の隙間を通して、火災が起きている部屋や屋根の下にピンポイントで届ける。スピーカーを大量に設置する必要がなく、一つの装置からダクト経由で消火できるという。

もう一つは、NASAの研究を基にした高いエネルギー効率で、消費電力は電球1個分程度だと紹介された。水インフラが不要なので施工コストも低く、ガス系消火設備と比べて人命へのリスクも低い。加えて、認証取得のために実証と規制認証のプロセスを踏んでいること自体が、技術とは別の参入障壁になるのではないかと考えられているという。

19:17

「見えない・聞こえない」技術をどう信じてもらうか

音で火が消え、しかもその音は人間に聞こえない。五感で感じられないため、なかなか信じてもらえない。そこで同社は、カリフォルニア州の消防機関や顧客の目の前で実際に火を消す公開実演を行ってきたという。2026年4月には、シリコンバレーに近いコンコードで大規模な公開実演も実施したそうだ。

住宅システムを売る前に、目に見える形のSonic BackpackをMVPとして現場に投入している点も、この戦略の一部として紹介された。新技術に最も懐疑的であろうプロの消防士を支持者に変え、フィードバックを得ながら改良を進めているという。消防士の反応について話者は、肯定・否定どちらの反応もありそうだとしつつ、実演の場では、火が小さいうちに消せれば保険料の低下にもつながるという肯定的な評価があり、初期消火の道具として関心を集めていると紹介した。

20:56

創業の経緯:LinkedInのメッセージから始まった

創業メンバーは2人いる。技術面を担うジェフ・ブルーダー氏は、NASAで、表面温度480度・93気圧という金星の極限環境に耐えるローバー向けの熱音響発電を研究開発していた。ビジネス面を推進するマイケル・トーマス氏は弁護士で、カリフォルニアの深刻な山火事を目の当たりにし、音で火を消すというDARPAの過去の研究を知ってビジネスを構想したという。

2019年、トーマス氏がLinkedInでブルーダー氏の特許を見つけてメッセージを送り、チームが結成された。最初の検証では、ホームセンターで買った部品で試作品を作り、自宅のガレージで離れた位置の火を消すことに成功したという。聞き手は、ビジネス側の人物が研究者を口説いて始まる話として好ましく、接点がなくても「興味があります」から始まるのは日本でもありうると述べた。

元のNASAの技術は消火用ではなかった。音響の圧力波から電力を取り出すエネルギー変換技術だったものを逆転させ、電力から高効率で音響を生み出し、それを消火に応用したと説明された。

23:02

山火事から屋内へ:初期仮説の見直し

山火事への憂慮から始まった経緯のとおり、当初の仮説は、山火事のど真ん中にドローンを飛ばし、上空から音波で森の火を消すというものだった。しかし屋外の山火事は風や天候などの変数が非常に多く、ハードウェアスタートアップが生き残るのに必要な売上が立たないと判断したという。そこで、変数が少なく、法令で消火設備の設置が義務付けられている屋内のキッチン火災や住宅設備へとターゲットを移した。

このピボットを投資家はどう見ているのかという問いに対し、話者は、評価は分かれるかもしれないとしながらも、今回1500万ドルの追加出資を受けていることから、規制や認証を見据えた現実的なビジネスモデルへの移行が好意的に受け止められている面はあるのではないかと述べた。またブルーダー氏は過去の起業経験から、製品が完全に準備できるまではメディアへの露出を控えるステルス方針を取ったといい、ある程度出来上がってから世に出てきた会社のようだと紹介された。

24:36

拠点をシリコンバレーに置かない理由と資金の使い道

同社の拠点はシリコンバレーではなく、オハイオ州クリーブランドにある。航空宇宙系のエンジニア人材と、地元の手頃で速い機械加工インフラにアクセスできることが理由だという。話者によれば、ソフトウェア中心のシリコンバレーに比べ、オハイオは試作加工やモーター製造のサプライチェーンが厚く、ハードウェアを作って試すサイクルを回しやすい環境だそうだ。

資金面では、シードで350万ドル、拡張シードで1500万ドルを調達したと紹介された。1500万ドルはマーケティングではなく、認証試験の完了、NFPA 13Dとの同等性の証明、そして国内での製造のスケールアップに振り向けるという。

26:03

日本で同じアイデアを事業にするなら

番組では、日本で似たアイデアで起業する場合の案もAIに整理させている。話者自身は、火災に限らず、日本で気候変動の影響を受けて深刻になっている別の問題に応用する考え方もあるのではないかと個人的な見解を添えたうえで、火災に関する3案を紹介した。

案Aは地震レジリエンス型の防護である。大地震で水道管が断裂すると水のスプリンクラーは機能しなくなるため、バッテリー駆動の音響消火をデータセンターや重要インフラの災害時BCP対策として導入する。案Bは木造密集地域の延焼防止システムだ。話者の身近な地域にも木造住宅が密集する場所があり、強風下で出火すれば飛び火で大規模火災になりうる。その飛び火を音波で物理的に弾き落とす地域インフラとして展開できないか、という案である。案Cは高齢者施設向けの二次被害ゼロの消火だ。スプリンクラーが作動すると水濡れでパニックになったり転倒しやすくなったりするため、それを避けられる安全なシステムとして提供する。

聞き手が日本の消防法との関係を尋ねると、話者はハードルは高いだろうと答えた。日本にも音響というカテゴリーはおそらくなく、どう比較・評価するかという壁はアメリカと同様に立ちはだかる。最初は消防法で義務付けられていない任意の設備として導入し、実績を積んでから認証を取っていく長期戦になるのではないか、という整理である。日本でも過去に音波消火の研究は行われていたが、インフラとして実装された例はまだないそうで、話者は日本特有の別の難しさもあるのではないかと付け加えた。

28:31

番組が引き出した3つの教訓

最後に番組は、ディープテックの社会実装には技術の探求と同じだけの忍耐が要るとして、3点をまとめた。

1点目は、最も困難な戦いから始めないこと。山火事という壮大なビジョンを持ちつつ、最初は変数を制御できる屋内から始める。ビジョンと最初の一歩をどう橋渡しするかが重要だという。2点目は、規制の承認こそがプロダクトになるということ。ディープテックでは技術そのものより規格への適合が参入障壁になるため、ルールを作る側の機関や規格団体などを巻き込むB2B2Cの戦略が欠かせない。3点目は、二次被害が隠れた巨大市場かもしれないということ。水濡れや化学汚染のように、既存の解決策が引き起こし「仕方ない」とされてきた副作用をなくすことが、市場への入口になりうる。そこから、自分の業界で既存の解決策がもたらしている痛みをゼロにする代替手段はないか、気候変動による大きな問題を今とは違う手段で解決するとしたら何ができるか、を考えることが起業のヒントになるかもしれないと話者は述べた。

聞き手は、一つの解決策が引き起こす課題への解決策が求められている点、何もない領域だからこそ自らルールメイキングしなければならない点、最終構想とは別の場所から一歩目を踏み出す点を挙げ、ディープテック起業の教訓としてよくまとまっていると評した。話者も、ディープテックの戦い方の手本のような事例だと応じる一方で、調べながら個人的に気になったのは、この会社がスタートアップとして最終的にどこまで大きくなれるのかという点だったと述べ、その問いは答えの出ないまま番組は締めくくられた。