聞こえにくい人にとって電話の何が難しいのか 相手の声を文字にする「ヨメテル」を難聴の当事者と専門家が検証

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概要

聞こえにくさを抱える人にとって、電話は特にハードルの高い道具である。番組「&新常識」は今回、「『きこえの壁』をなくす電話の世界の新常識」をテーマに、耳鼻咽喉科医でオトクリニック東京院長の小川郁さん、6歳から補聴器を使う気象予報士の舩橋沙貴さん、日本財団電話リレーサービスの上村麻子さんに話を聞いた。進行は西岡さんが務めた。議論は三つの段階で進む。聞こえにくさがなぜ周囲に気づかれにくいのか。それでも電話が生活から消えないのはなぜか。そして、通話相手の声をAIで文字にするサービス「ヨメテル」が電話の何を変えうるのか。

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舩橋さんの聞こえ方と、電話が苦手な理由

舩橋さんは2025年6月に、両耳に難聴があることを公表した。診断は両耳の感音性難聴である。音が小さく聞こえるだけでなく歪んで聞こえ、普通の会話でも言葉がはっきり聞き取れないことがあるという。左右差も大きく、本人によれば右耳は80〜90デシベル、左耳は50〜60デシベルの聴力だ。左耳はまだ聞こえやすいが、右耳だけで言葉を聞き取ったり音を判別したりすることは「正直できない」と話す。大きな音が鳴ってようやく何となく感じ取れる程度だという。

電話については「やっぱり苦手です」と答えた。舩橋さんは子音が聞き取りにくいため、「か」なのか「た」なのか「ぱ」なのかといった細かな違いを、普段は口元を見て判断している。電話ではそれがまったくできず、相手の表情も読めない。そのため強く緊張し、しっかり聞き取らなければならない、何度も聞き返したら悪い、と気持ちの面での負担も大きいという。

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「きこえの壁」はなぜ見えにくいのか

前半では、厚生労働省が推奨する「耳の健康チェック」の項目を出演者が一緒に確認した。西岡さんは「家族からテレビやラジオの音量が大きいと指摘される」に心当たりがあると話した。もともと大きめの音量に慣れているため、家族が小さめにしていると聞こえず、つい上げてしまうという。電子レンジやドアチャイムの音が聞き取りにくい、特にドアチャイムはかすかに聞こえる、という経験も挙げた。

舩橋さんがよく当てはまると話したのは、補聴器をしていてもいなくても、集会や会議で数人の会話がうまく聞き取れないという項目だ。人数が多いほど話題はあちこちに移り、話し手も目まぐるしく入れ替わる。誰が何を話しているかまで聞き取らなければならず、そのスピードも人数に比例して上がるので「しんどい」という。

小川さんによれば、診療で多い相談もまさに大人数での会話や騒がしい場所での会話が聞き取れないというものだ。難聴の人は夫婦で来院することが多く、夫は「あまり困っていない」と言う一方、妻は「とにかくテレビが大きい」と訴える、という典型的な場面も紹介された。

小川さんは、聞こえの衰えは高い音から始まると説明する。人の耳は30代からすでに加齢の影響を受けている。最初に聞こえなくなる例として挙げたのが「モスキート音」で、20代では聞こえても30代になると聞こえなくなってくるという。その後、高い音から順に聞こえにくくなり、電子レンジや体温計の「ピッピッ」という音が聞こえなくなる。ただ、会話には支障がないため、日常生活で本当に困ることは少ない。難聴が「見えない障害」とも呼ばれ、気づきにくい症状だと小川さんが言うのはこのためだ。

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検査で「正常」でも聞こえにくいことがある

なんとなく聞こえにくさを感じていても言い出しにくい人は多いのか。この問いに小川さんは「結構いらっしゃる」と答え、正常値の幅の広さを理由に挙げた。視力2.0と1.0はどちらも正常と判断されるが、見え方はかなり違う。聴力も0〜20デシベルが正常範囲で、この幅は非常に広い。そのため、検査では正常と言われても聞こえにくさを常に感じている人が少なくないという。

さらに、聴力検査は音の大きさで判断するが、言葉の聞き取りは別の要因にも左右される。早口の人や、もごもごとはっきりしない話し方の人の言葉は当然聞き取りにくい。小川さんは、検査上の正常・異常だけでなく、さまざまな要因が加わっていると考える必要があると指摘した。

視力なら眼鏡やコンタクトレンズで気軽に矯正できるが、聴力はどうか。舩橋さんは、補聴器について「眼鏡と同じだから気にしなくていい」と励ましてくれた人が多く、その気持ちはありがたいと話す。一方で、6歳から補聴器をつけ、思春期を含む小中高時代を過ごしてきた自分としては「眼鏡とは違う」という思いがあるという。恥ずかしいわけではないが、補聴器をつけていると言って驚かれなかったことがない。馴染みのないものとして珍しがられ、自分でも目立っていると感じることが多かった。

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1400万人という規模と、社会生活への影響

小川さんは日本補聴器工業会の試算を引き、何らかの医療的介入が必要な聞こえにくい人は国内に約1400万人いると紹介した。日本財団電話リレーサービスのデータでは、日常生活で聞こえに困っている人は約641万人、電話が使いにくい人は約416万人である。小川さんは、日常生活ではさまざまな方向からの音を聞き取る必要があるのに対し、電話は音源が一つで、使い方をある程度自分で把握している人もいるため、数が少し減っているのではないかとの見方を示した。

聞こえの壁は、聞き取りづらさ以外にも社会生活に影響する。小川さんがまず挙げたのは、他人とどれだけ正確にコミュニケーションが取れるかという点だ。会話が成り立たないと社会的に孤立し、集まりに足が向かなくなる。人によっては抑うつ状態になったり気分が塞いだりし、それがひいては認知機能にも影響すると最近言われている、と小川さんは説明した。

舩橋さんは「首が取れそうなぐらい」うなずきながら聞いていたと話し、自身の経験を語った。みんなでおしゃべりするのは好きだが、騒がしい居酒屋での会話にはついていけず、聞き役に徹してしまう。面白いことを言いたいし言えるはずなのに言えない。周りに楽しくないのかと思わせていないか気になり、自分にはトーク力がないのかと自信をなくして落ち込むこともあるという。

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「音に頼らない電話」という公共インフラ

後半から上村さんが加わった。上村さんによれば、2021年に「音に頼らない電話」が公共インフラとして提供され始めた。根拠は令和2年に制定された「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」で、日本財団電話リレーサービスがこの法律に基づいてサービスを提供している。上村さんはその広報を担当している。

サービスは二つある。一つは令和3年7月1日に始まった「電話リレーサービス」だ。手話や文字でかける電話で、間に通訳オペレーターが入る。利用者の手話や文字を音声にして相手に届け、相手の話した言葉はオペレーターがビデオ通話で手話などに通訳する。もう一つが、上村さんの言う「昨年の1月23日」にリリースされた「ヨメテル」である。上村さんの説明では「相手の声が読める電話」で、利用者は自分の声で普通に電話をかけ、相手の声はAIが即座にスマートフォン上で文字にする。聴力を使わなくても会話できる仕組みだ。上村さんは、民間サービスとの最大の違いを、音声電話とまったく変わらない条件で使える点だと強調した。

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メール・SNSの時代に、なぜ電話なのか

「電話ってもう使わないじゃん」とよく言われる、と上村さんは話す。しかし、上村さんが紹介した総務省の令和6年度のデータでは、国内の通話だけで年間570億回の通話が行われている。1回の通話には必ず2人が関わるため、延べ1140億人が電話に接している計算になる。社会人で1年間まったく電話を使わなかった人はそういないだろう、とも上村さんは述べた。この数字から見れば、電話はあまり使われなくなったとは言いがたいというのが上村さんの考えだ。

聞こえにくさを感じている人も電話を使っている。調査では、そうした人のうち音声だけの電話を週1回以上使う人が60.9%、月1回以上では78.2%に上った。上村さんは、聞こえにくいかもしれないと思いながら電話を使っている人が多いことが分かってきたと話す。

上村さんは、他のコミュニケーションツールとの決定的な違いとして、「知り合いじゃなくても番号が分かればかけられる」点を挙げた。SNSなどは互いにつながっていなければ連絡できないが、電話は番号さえ分かればかけられる。

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舩橋さんにとっての電話の場面

舩橋さんは、気心の知れた相手とは顔が見えるビデオ通話が大好きでよく使う。それでも、生活の中には音だけの通話をしなければならない場面がたくさんある。お店はできるだけネット予約で済ませるが、今もネット予約のない店があり、その場合は「仕方ない」と気合を入れて電話をかける。予約では日時や「何時が空いていますか」といった数字のやり取りが出てくるため、自分の聞き取りが合っているか不安になり、余計にドキドキするという。

西岡さんが、困ったときほど電話を使わなければならないのではないかと問いかけた。舩橋さんは役所への電話を例に挙げた。引っ越しのときなど、自分が疲れているときに電話しなければならない場面もあり、余計に緊張して疲れる。そういうときは「電話嫌だな」と思うという。

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ヨメテルの使い方

上村さんによれば、ヨメテルは純粋に通話相手の声をスマートフォン上で文字にするサービスだ。使い方は一つに限られない。相手の声をまったく聞かずに文字だけで会話することもできるし、普通に通話しながら聞き取れなかった箇所だけ画面を見ることもできる。補聴器やワイヤレスイヤホンを使う人はBluetoothで接続できるので、個室にこもる必要もない。音を耳元に飛ばし、文字を読みながら会話できる。

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実演:居酒屋の予約電話

番組では、舩橋さんがヨメテルで架空の店「居酒屋PIVOT」に予約電話をかけ、西岡さんが店員役を務めた。アプリを開き、AIによる文字化の方法を選んで発信すると「この通話を文字にします」というガイダンスが流れ、通話が始まった。

舩橋さんが今週土曜の夜6時か7時は空いているかと尋ねると、店側は18時は空いておらず19時なら空いていると答えた。舩橋さんは19時で予約し、人数は4名と伝えた。食べ飲み放題の値段を尋ねると、店側は飲み放題付きコースとして5000円、7000円、1万円の3種類があると説明した。1万円のコースは「体育会が来ても大丈夫なぐらい」のボリュームだと冗談交じりに紹介され、舩橋さんは1万円のコースを選んだ。

通話後、舩橋さんは「すごく面白かったです」と感想を述べた。舩橋さんにとって「7時」は聞き取りづらい言葉で、「19時」も「10」の部分が消えると9時なのか19時なのか迷う。自分では19と聞こえたつもりでも本当に19なのか不安になることがあるが、文字で表示されるので安心できた。普通の会話がテレビの字幕のように見える安心感が大きく、楽しかったという。

店員役の西岡さんは、受ける側としてタイムラグをまったく感じなかったと話した。舩橋さんは通話中、文字を目で追い、ときどき読み返していたというが、西岡さんはそれにも気づかなかった。

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AIの誤変換と「プラス修正」

通話後の画面では、会話を文字で読み返すことができた。読み返せるのは1時間に限られ、ヨメテルの利用者の端末に会話が永久に保存されることはないと上村さんは説明した。

実演では、AIが「体育会」を2回とも「大会」と文字にしていた。上村さんは、AIの文字起こしでは誤字や誤変換が出ることもあるが、今回のように2人のやり取りの中で「体育会」と確認できていたので、基本的には会話の中で調整していけばよいとの考えを示した。舩橋さんも、この場面で文字が役に立ったと話す。舩橋さんの耳には「体育会」が「た」から始まる何かがもにゃもにゃと聞こえただけで、音だけでは推測できなかった。画面に「大会」と出たおかげで、文脈から「体育会かな」と判断できたという。

誤変換が気になる人のために、上村さんはもう一つの文字化方法「プラス修正」も紹介した。AIの後ろに専門職の文字入力オペレーターがぴったりついているイメージで、AIが起こした文字を文脈から判断し、誤りを即座に追いかけて修正していく。料金はAIのみの場合とまったく同じで、通話ごとにどちらにするか選べる。

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050番号、費用、緊急通報

ヨメテルを使うには、手持ちの携帯電話番号(080や090)とは別に、050で始まる番号を取得する必要がある。上村さんは、050番号からかかってきた電話に出て「この通話を文字にします」というガイダンスが流れたら、それはヨメテル利用者からの着信だと知っておいてほしいと呼びかけた。ヨメテルはSIMとは関係なくIPで動くため、1台のスマートフォンで080や090の番号と050番号を共存させられる。いまの携帯電話番号を変える必要も、スマートフォンを2台持つ必要もない。

費用について上村さんは、このサービスが法律に基づく公共インフラであることを改めて説明した。文字化の開発費やサービス提供にかかる諸経費は、「電話リレーサービス料」を原資とする交付金で賄われている。国内のほとんどの電話番号から年間12円を徴収し、事業費に充てているという。利用者自身が負担するのは携帯電話会社と同じ通話料で、かけるときだけ払い、受けるのは無料、緊急通報も無料だ。

年間12円について上村さんは、誰かのためにお金が使われているというより、社会が変わるために使われていると捉えてほしいと述べた。自分にはヨメテルは必要ないという聞こえる人でも、聞こえにくい人がヨメテルを使っていれば、その人に電話をかけられるようになる。電話は通話相手がいなければ成り立たないため、上村さんは音声電話の利用者も「間接的なヨメテルの利用者」だと考えている。

国の制度で提供されるサービスとしての強みについて、上村さんはまず緊急通報ができる点を挙げた。警察、消防、海上保安庁にかけられる。また、音声電話とまったく同じように24時間365日使える仕様になっている。

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登録の手軽さとプライバシー

舩橋さんは、ヨメテルの存在は知っていたが、説明を聞いて「知ってたっていうのがちょっと恥ずかしいぐらい」手厚い中身だと感じたと話した。上村さんは、思い立ったらすぐ使い始められるよう工夫していると説明した。アプリをダウンロードし、案内に従ってカメラに顔をかざして本人確認をすれば、早い人では10分で番号が発行されるという。

会話の内容が守られるのかという質問もよく受けるという。上村さんによれば、電話リレーサービスとヨメテルの根拠となる法律には、提供業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならないと明記されている。利用者の個人情報も通話内容も外には出ない枠組みで提供されている。技術面でも、通話内容を音声でも文字でも永久には保管しない。文字の1時間限定表示のために一時的に保管はしているが、1時間を過ぎると消去するので、音声電話とほぼ同じと考えてよいと上村さんは話した。

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専門医から見たヨメテル

小川さんの率直な感想は「なかなかよくできている」だった。難聴の人や補聴器を使う人にとってハードルが高いのは、騒がしい場所での会話と電話である。電話をかけるときと出るときのストレスは、難聴者や補聴器利用者に共通する問題だと小川さんは言う。実演で舩橋さんが安心して相手の話を聞き取っている様子を見て、十分に使えるのではないかと評価した。

小川さんは相手側にとっての意味にも触れた。050番号とガイダンスが広く知られれば、電話を受けた健聴者も、聞こえにくい人からの着信の可能性があると分かり、話し方などで対応できる。その意味で、難聴者にも健聴者にもメリットがあるサービスではないかと述べた。

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目指す社会と「マゴみみチャレンジ」

最後のパートで上村さんは、財団として大切にしているのは「電話の世界を広げる」ことだと話した。使いやすいと言ってもらえるものを考え続け、まずは24時間365日、音声電話と同じように途切れなく提供することを念頭に置いている。

ヨメテル以外の取り組みとして紹介されたのが「マゴみみチャレンジ」だ。上村さんは、聞こえにくい人の中で最も多いのは加齢性難聴の人だと考えている。ただ、ヨメテルはスマートフォンのアプリなので、高齢者には若い人ほど馴染みやすくないかもしれない。そこで、祖父母の聞こえを家族全員で知るための簡単な絵本を作った。孫が祖父母に電話をかけて一緒にやろうと誘う想定で、絵本の中には聞き間違えやすい単語が散りばめられている。読み終えた後に家族全員でクイズをし、例えばお土産にもらったのが「さんご」なのか「だんご」なのかを答える。聞き違いやすい人が分かるが、「おじいちゃん、最近聞こえにくくなってるんじゃないの」と指摘するのではなく、家族みんなの聞こえを確かめようという形にしているという。

舩橋さんは、実際に使って感じたのはやはり安心感だと述べた。文字で表示される安心感があれば、電話は遠い存在ではなく、もっと気軽に使えるものになっていくのではないかと話した。

小川さんは、若い人には難聴を自分たちの問題ではないと見る人も多いと前置きした。そのうえで、家族内の会話を円滑にする手段の一つとして補聴器の普及に取り組んでいると語った。これまで病院では難聴の患者と筆談でやり取りしていたが、最近は音声変換ソフトを使う難聴者も非常に増えている。電話でこうしたサービスが提供されていることは、家族や社会でのコミュニケーションをさらに活性化させるツールになるのではないか、というのが小川さんの見立てだ。

上村さんは、ヨメテルを電話で相手の声が聞こえにくいことがあると感じる人にぜひ使ってほしいと呼びかけた。電話リレーサービスとヨメテルの二つを社会に浸透させ、「誰一人取り残さない電話の世界」をアップデートしていきたいと述べ、番組は締めくくられた。