AI投資は米国経済をどこまで支えるのか:モルガン・スタンレーMUFG証券・李智雄氏の見立て
PIVOT 公式チャンネル原油価格が100を超え、インフレと利上げ圧力が意識される中でも、米国経済や世界経済が苦しんでいるという印象は薄い。PIVOTの対談で、モルガン・スタンレーMUFG証券プリンシパル・グローバル・エコノミストの李智雄氏は、その理由をAI関連の設備投資に求めた。李氏によれば、AI投資は米国の成長率の半分程度を牽引し、その需要は輸入を通じてアジアの輸出も押し上げている。少なくとも来年まではこの強さが崩れる可能性は低い、というのが李氏の立場である。一方で、AIが崩れればすべてが崩れる構図になっている点をリスクとして挙げた。本稿は、米国経済を扱ったパート1の内容をまとめる。
カバー範囲が広がるグローバル経済の分析
李氏は、担当地域が膨大であることに加え、世界経済が多様な形で結びついているため、なるべく深く見るように努めていると語る。例として挙げたのがAI関連銘柄だ。当初は1社か2社だったものが、さまざまな国の企業が「AI関連」と呼ばれるようになった。サプライチェーンがそれだけ広いため、分析対象の国も広げざるを得ない。
そのうえで李氏は、「世界」と言うときに中心になるのはやはり米国だと述べる。直近の金融政策やAI投資ブームを考えるには米国抜きでは語れず、米国経済が堅調である理由の一つがAI投資だからだ。
コスト高を生んでいる「需要」そのものが強い
李氏はまず現状の奇妙さを指摘する。原油価格は100を超え、コストが高い。インフレが起きれば金利を上げなければならず、金利とコストがともに上がれば経済は苦しくなると考えるのが普通だ。しかし世界経済が今ひどく苦しんでいるという印象はあまりない。
李氏の説明では、米国では経済の成長エンジンが設備投資として現れており、コスト高にもかかわらずというより、コスト高を生み出している主因そのものが非常に強い需要だという。その需要の中身がAI関連投資である。AIが必要とされるのは生産性を押し上げるため、あるいは経済安全保障の観点もあるが、AIを使うには多様なハードウェアが必要であり、それが設備投資を押し上げている。
米国経済の最大の構成要素は個人消費で、GDPの68%を占める。従来は米国の消費者が世界中のものを買い、その工場として中国があり、それが東南アジアに移るという構図で語られてきた。李氏によれば、消費は今も堅調だが、それを上回る、これまでにない強さで出てきているのが設備投資だという。
潜在成長率の半分程度をAI関連投資が担う
AI投資の範囲をどこまで含めるかは計算次第だと李氏は断ったうえで、その中身を説明した。まずデータセンターがあり、それを支える電力インフラがあり、それらを制御するPC関連機器があり、機能させるためのソフトウェアがある。
米国の潜在成長率、つまり「本気を出せばここまで成長できる」水準は2%強とされる。李氏によれば、そのうち半分程度がいまAI関連投資によって支えられているのが米国の現状だという。GDPを分解すると、設備投資にあたる「ビジネス・フィックスト・インベストメント」が大きく寄与しているのが特徴だ。
金利に反応しないAI投資
李氏が興味深い点として強調したのは、AI関連投資が景気循環に従っていないことだ。通常、中央銀行はインフレ、つまり景気の過熱に対して利上げで応じる。李氏はインフレを体温計にたとえ、走ったり興奮したりすれば体温が上がるように、景気が過熱すれば物価が上がると説明した。金利を上げれば借り入れコストが上がり、お金を借りて投資しようという意欲をそぐため投資は減る。逆に景気が悪いときは金利を下げて投資を活性化させる。そのため投資は金利と逆方向に循環するのが普通である。
李氏が示したグラフでは、米国の設備投資をAI関連とそれ以外に分けている。非AIの投資は確かに上下に循環しており、特に2024年以降は減少傾向にある。李氏はこれを、金融環境がタイトすぎることを示している可能性があると読む。ところがAI投資は全く循環せず、右肩上がりが続き、直近では角度がさらに上向いている。全体としてはタイトな金融環境が効かずに投資が伸び続けており、しかもその規模が大きいため、計算次第ではあるが米国の成長率の半分程度を牽引している、というのが李氏の説明だ。
米国の輸入がアジアの輸出を支える
李氏は、この話の含意として「AIが強い、米国が強い」だけでは終わらない点を挙げる。原油高でコストが上がり、インフレが高く、利上げを迫られている国は世界中にある。日本もエネルギーを海外に頼っており、東南アジアにも同様の国は多い。それでも「コストが上がり金利も上がって経済が大変だ」という国の話をあまり聞かないのはなぜか。李氏の答えは「輸出が強いから」の一言に尽きるという。
その仕組みはGDPの定義から説明された。GDPは国内総生産であり、国内でどれだけ付加価値を生み出したかを計算するものだ。米国は資本財、とりわけ電力インフラ関連やPC関連機器を大量に輸入している。輸入は国内で生産されたものではないため、GDPからは控除項目になる。李氏によれば、投資がGDP成長率の半分程度に寄与していても、その半分以上を輸入で賄っている状況だという。
輸出する側から見れば、これは非常に助かる話である。李氏はごく大ざっぱな比率として、米国のGDPを100とすると、中国や日本を含むアジア全域のGDPは120ほどだと示した。この前提で、米国のGDPが1%上がれば、アジアには0.8%ポイント程度の寄与があると李氏は説明する。米国の輸入の強さがアジアの輸出の強さを支え、それがさらに輸出品をつくるための設備投資を活発化させる。李氏は、この波及が現在の台湾経済や韓国経済に表れていると見ている。交易条件の面でコストが上がって大変なはずでも、輸出が強く、輸出価格にも上乗せできているので、それほど苦しくない。そうした状況が世界中に広がっているのが今の特徴だという。
米国向け輸出の典型が半導体かという質問に対し、李氏は半導体も含まれるとしつつ、それだけではないと答えた。半導体を使うための電力設備が足りない、データセンター向けの資材が足りないという状況であり、たとえば電線や、電線に使う素原材料も重要になる。あらゆるものが足りなくなっており、それに関わる分野がおおむね強くなっている。李氏は、AIに強気であれば米国の設備投資に強気になり、米国に輸出しているサプライチェーン上の国々にも強気にならざるを得ない、と整理した。
少なくとも来年までは崩れにくい
AIへの構造的な投資が当面続くなら、米国経済にも世界経済にも楽観的でいいのか。李氏は「まさにおっしゃる通り」と応じ、問題はこの強さがどこまで続くかだとした。少なくとも今年の残りと来年について、崩れることはなさそうだというのが李氏の見方だ。理由は、必要とされているものが多すぎて供給が追いついておらず、不足分をどんどん供給していこうという段階にあるためである。投資の強さが続くことで経済が支えられると李氏は考えている。
教育は「消費」か「投資」か
話は人的資本に移る。李氏は、お金を使うときにそれを消費と捉えるか投資と捉えるかで大きく違うと述べ、将来の成長率を考えるうえでは投資のほうが重要だとする。そして学びはちょうど消費と投資の境目にあるという。
国民経済計算、つまりGDP統計では、家計の教育支出は消費に分類される。しかし経済学では、教育は人的資本への投資と位置づけられる。李氏はこれを、統計上の分類と経済の実態がずれている典型例として挙げた。
さらに李氏は、このタイミングで学びの価値が上がる理由として、物的資本と人的資本の補完関係を指摘する。片方が急に潤沢になれば、もう片方の希少性が高まる。AIチップであるGPUが足りないうちはGPUがもてはやされる。しかし物は作ればいい。作るのは簡単ではないと李氏は断りつつも、いずれ積み上がってくれば、優位性は「それで何をするかを決められる人」の側に移る。AI関連の設備投資が進むほど、それを使う人の学びのリターンは上がると考えざるを得ない、と李氏は述べた。
個人レベルの例として、李氏は自身が大量に漫画や動画を見ていることに触れ、それを後で使うつもりで見るのか、単に消費するのかで残るものが違うと話した。残ると考えて見るならそれは資本になり、そうでなければならない。
李氏はさらに福澤諭吉の『学問のすゝめ』を引いた。人は生まれながらにして身分や貧富の別はないが、学問に励み物事をよく知る者は貴人・富人となり、無学な者は貧人・下人となる、という一節である。この一節は冒頭の「天は人の上に人を造らず」を受けたもので、生まれは平等だからこそ差を生むのは学問だ、という意味だと李氏は解釈する。しかも福澤の言う学問は教養ではなく、日常に役立つ実学である。李氏はこれを、150年前から学びは投資だと言っていたものと読めるとした。
設備を使いこなさなければ「消費」と変わらない
ただし李氏は、投資をすれば自動的に潜在成長率が上がるわけではないと強調した。物と人が補完的である以上、積み上げた設備を使いこなさなければ生産能力として残らず、償却されていくだけで、経済的には消費と変わらなくなる。しかもAIサーバーの償却期間は3年から5年と短く、使いこなすまでの猶予も短い。この点でAI投資はもともと、投資というより消費に近い性質を持っていると李氏は指摘する。
今は設備が足りず、米国は設備投資を進め、その多くを輸入している。しかし設備の不足は、工場を建てれば時間はかかっても解決していく。李氏は、次に足りなくなるのはそれを使う人間の側だと考えている。積み上げた設備を学んで使いこなして初めて、それが資本として蓄積され、潜在成長率を押し上げる、というのが李氏の論理である。
米国で人的資本投資がしっかり行われてきたかという質問に対しては、教育の大きな変化は制度などに左右されるもので、1年単位で動く話ではなく、判断が難しいと李氏は答えた。設備が増えるほど、それを使うさまざまな新しいやり方も出てくる。李氏はこれを「エンボディド」と呼ばれる、人に組み込まれた技術進歩が高まる可能性として語ったが、それはあくまで人的資本の質、つまり教育水準が高いという前提に立っているとも述べた。それをどう実現するかは、社会的にどんな仕組みが実装されるか、動画などをどう見せるか、学校がどうするか、さらには政権が教育にどう組み込むかといった長期的な課題になるという。そのうえで、少なくとも過去に比べてこうしたコンテンツにアクセスできる場は広がっており、それを活用する側にもある程度の責任がある、と李氏は述べた。
雇用はAIで減るどころか増えた
米国の雇用市場がAI型経済にうまく移行しつつあるかについて、李氏は結論を出すのはまだ非常に早いと答えた。労働市場の統計は月次どころか、議長のコメントにも出てきた新規失業保険申請件数のように週次で出るものもあり、それが本当にAIや新しい経済をどこまで反映しているかを判断するのは難しいという。
ただし直近で言えることとして、李氏は米国の民間部門雇用者数のグラフを示した。AIの話が出てきた当初は、李氏自身も含めて「AIに取って代わられるのではないか」という疑問があり、李氏は今もその疑問を強く持っているという。しかし実際には、今年の初めに民間部門の雇用者数は毎月おおむね10万人以上増え、どちらかといえば加速した。
李氏はその理由を、AIの実装に必要な設備投資を増やし、それに応えるものを大量に作らなければならないところで雇用が生み出されている面があるためだと見ている。今後はAIによる新しい仕組みや生産性上昇によって人手が少なくなる部門も多く出てくるだろうとしつつ、足元の雇用市場は全く弱くなく、議長の言葉を借りれば完全雇用と整合的な状態だという。AIによる雇用への影響は、いずれどこかのタイミングで局所的に表れる可能性は非常に高い。特に若手のホワイトカラー分野ではすでにその証拠も見えているが、経済全体の動きとして出てくるにはしばらく時間がかかる可能性が高く、影響が大きくなるかどうかも様々な条件に左右されるというのが李氏の見方だ。
一時期ニュースになった大手テック企業のレイオフは、コロナ期の採用しすぎを調整しただけだったのか、という質問もあった。李氏は「おそらく両方ある」と答えた。コロナという特殊な環境で、どれだけ続くか分からない中で保険として採用した分を削減した面と、削減してみるとAIによってさらに削減できる余地が生まれていたので追加で削減した面がある。どちらがどれだけかは判断が難しいが、作用はしている。ただ、それがレストラン、病院、教育現場、会計士などを含む米国経済全体に影響するほど大きいかというと、現時点ではそうは見えないと李氏は述べた。
所得の伸びは鈍いのに消費は強い
労働市場が強いなら消費も堅調と考えていいのか。李氏はここで、判断に悩んだ点を率直に語った。雇用者所得、つまり労働時間と時間当たり賃金を掛け合わせた名目所得の伸びは、横ばいから緩やかに鈍化している。所得の伸びが鈍化すれば消費はそれほど強くならないはずだ。李氏は日本を典型例に挙げ、失業率は非常に低い一方で賃金があまり上がらず、消費は全体としてそれほど強くなかったと振り返った。ケインズの消費関数で考えても所得と消費は連動するはずである。
しかも物価はエネルギーの影響で上がっており、実質購買力は減っている。それなら実質消費も減るはずだと考えたところ、実際には非常に強かった。李氏はその理由を二つ挙げた。
一つ目は、よく言われるK字型経済である。賃金で消費が左右されるのは主に中低所得層であり、高所得層は事情が異なる。米国では上位所得20%の層が金融資産の70%を保有しており、株価が今年はぶれがあるにせよ昨年と比べれば高いため、金融資産による資産効果が消費を支えている。李氏はこれをその通りだと認める。
減税が大型商品の購入に向かっている
二つ目の要因として李氏が示したのは、2026年前半の消費の内訳である。全体の消費の伸びを分解すると、基礎的な消費は弱い。物価が高かったことの表れだと李氏は見る。一方、選択的・裁量的な消費は伸びており、売れているのは大型家具や自動車だという。
李氏はその背景に、OBBBA(One Big Beautiful Bill Act)による大規模な減税策があると説明した。この法律では今後社会保障支出も削減されるためプラスとマイナスの両面があるが、少なくとも今年はプラスの効果が圧倒的に大きい。減税は低所得層だけでなく高所得層にも及んでいる。李氏によれば、高所得層ほど、想定していなかった臨時収入のような減税分を贅沢品的な商品、つまり大型商品に振り向ける傾向があるという調査結果がある。今の消費の強さはK字型経済の上側によるものであり、その層がさらに減税の恩恵を受けている。消費が所得とはあまり関係なく堅調に推移している、というのが李氏の整理だ。
減税効果は一時的なのかという問いに対して、李氏は、減税は10年間にわたって効果が出るが、今年の恩恵が最も大きく、後半になるほどメディケアやメディケイドなどの支出削減の影響が大きくなると説明した。同社の試算では、少なくとも来年まではプラスの効果が続くが伸びは鈍化し、その先はニュートラル、その後はずっとマイナスになる。今後は物価の安定や賃金の伸びでどれだけ消費を支えられるか、資産効果がどこまで続くかが重要な要素になるという。
資産効果による消費の強さも来年までは盤石かという問いに対しては、同社のストラテジストは現時点で米国株に強気であり、その前提に立てば資産効果はプラスに働き得ると李氏は答えた。ただしエコノミストとしては、それだけでは説明できないと考えざるを得ないという。株価が強いから消費が強い、米国経済の7割は消費だから経済が強い、だから株価が強い、という話は循環論法になり、そこから抜け出せない。株式市場のトレンドは間違いなく上向きだが上下動はあり、その変動は金融政策や、過剰投資を含む投資の循環など多様な要因に左右される。資産効果は大きなポイントの一つだが、それだけではない、と李氏は留保をつけた。
利上げは今のところ必要ないという判断
現在の経済状況で利上げは必要かについて、李氏は、ここが今マーケットで最も判断が分かれている点だと述べた。米連銀は物価の安定と雇用の最大化という二つのマンデートを持つ。雇用は最大雇用と整合的で、悪化も過熱も見られないため懸念はない。難しいのは物価のほうだ。
物価は2%の目標をずっと上回っている。しかし方向性を見ると発散しているわけではなく減速している。今の金利はおそらく中立金利より高く、タイトな状態にある。この状況を続ければ物価が下がっていくと考えるなら、利上げは必要ないという判断になる。逆に、下がらずに上がる不確実性が高いなら、今のうちにタイトにしておいたほうがよいという判断にもなり得る。
李氏は、米国の物価を決める要素を三つ挙げて検討した。一つ目は関税で、世界全体で見てここから加速するとは考えていない。二つ目はAIによるインフレだ。AIが消費者物価を大きく押し上げているかといえば、まだ消費者には届いていないように見えるうえ、そもそも消費に占めるシェアが低い。家賃、医療、交通費などを払う中で、AI関連の支出はそれほど大きくないはずだという。三つ目がトレンド物価を最終的に決めるサービス価格で、その最大の項目である家賃は、米国の住宅市場、特に賃貸市場で伸び率が鈍化している。
これらを踏まえ、李氏はトレンドとしての物価は鈍化していると判断し、連銀の利上げは現時点では必要ないと見ている。近く発表される消費者物価などによって判断が変わる可能性はあるとしつつ、今日時点で見えている物価からは加速していかないというのが同社の判断だという。
最大のリスクは「AIがこければ全部こける」構図
ここまでの話では米国経済にあまり不安はないように聞こえるが、中間選挙などを含め、あえて挙げるなら大きな変動要因は何か。李氏は、投資家から国内外で多く寄せられる質問として、AI投資が主役になっていることそのものを挙げた。その主役が米国の設備投資であり、さまざまな国の輸出にもつながっている以上、AIがこければすべてがこける話になってしまう。
李氏は、AIが今後社会実装されていく中でその可能性は現時点では低いと見ている。ただし、需給が逼迫しすぎて物の値段が異常に上がっている分野が存在するのも事実だという。たとえばメモリー価格や、電線などに使われる素原材料を含む一部のコモディティ価格である。これは需給がかみ合っていないだけだが、これだけ値段が上がれば供給側も対応するため、いずれ供給が増えて需要と釣り合うタイミングが来る。そうなれば上がりすぎた価格は調整され、今は高い価格を払ってもらうことで収益性が高くなっている企業も、今以上には収益を伸ばせなくなるのではないか、という見方をする投資家も多い。
李氏によれば、最終的な問いは、AI投資がいつ鈍るのか、あるいは収益性がいつ低下するのか、その先行指標として何が考えられるのかという点にある。その中で、一部のメモリー価格などが兆しを示す可能性があると考える投資家もいるという。今の経済成長率に関しては、AI投資がどうなるかで決まるという司会者のまとめに、李氏は「まさにその通り」と応じた。
米国経済、今どんな状況なんですかね?
経済の成長エンジンというのが、アメリカはこう設備投資として出てきている。コスト高を作り出している主因というのが非常に強い需要だという方になっている。
AI投資も投資なんで同じなのかなと思いたいんですが、全然循環してないと。
うん。右肩上がりですね。
米国経済成長率の半分程度、半分弱を今牽引しているという状況になっているわけなんですね。
米国の輸入の強さというのがアジアの輸出の強さを支えており、その輸出に使われるものを作らなきゃいけない設備投資を活発化させている。次に足りなくなるのはやっぱりそれを使う人間の方です。
米国経済はもうあんまり不安がないように感じるんですけども。
今AI投資というのが基本的に主役になっているわけでございますね。しかもその主役というのがアメリカの設備投資であったり、様々な国々の輸出につながってる話は、
AIがこければ全てこける話になってしまうわけであります。皆さんこんにちは。PIVOTの佐々木です。今回のPIVOT TALKは米国経済、中国経済、そして米中関係の現在地をテーマにお話を伺います。ゲストにお迎えいたしましたのは、モルガン・スタンレーMUFG証券プリンシパル・グローバル・エコノミストの李智雄さんです。よろしくお願いします。
よろしくお願いいたします。
はい。これ、プリンシパル・グローバル・エコノミストってのは、もうグローバルな経済全部を深く見るってことですよね。
そうですね。なるべく深く見るようにはしていまして、ただカバーしている地域が膨大でありますし、ご承知の通り今は世界経済というのはいろんな形でリンクしている形になっているので、AI銘柄とかって言うと、最初は1社2社だけだったのが、どんどん幅広い国の企業も「AI関連ですか」みたいな話になっていることを考えていただくと、サプライチェーンが広い。そうするとそういった国々もカバーしていかなければいけないという意味合いでは、おっしゃる通り幅広く、頑張って深く見ようとしているというのが現在の状況でありますね。
その中でも言うまでもなく、やっぱり米国と中国の2大国が一番大事ですよね。
はい。そうですね。中国ももちろん重要でありますけれども、大体皆さんが世界っておっしゃる時は米国の話がメインになってしまいまして、特に直近でのアメリカでの金融政策であったりだとか、最近のAI投資ブーム等を考えるにあたっては、アメリカ抜きでは考えられないところがやはりありまして、その米国経済の成長というのが非常に堅調である理由の1つがAI投資であるということを考えていただくと、やっぱりアメリカっていうのが前面に出てくる感じではありますね。
そうですよね。ということで今日はパート1で米国経済、パート2で中国経済、最後にちょっとこの米中関係の行方を伺っていきたいと思うんですけど。
はい。ありがとうございます。
米国経済、今どんな状況なんですかね?
ご承知の通り、この原油価格というのが100を超えていて、その意味ではコストが非常に高い状況であり、いろんなところでインフレーションがあると、そのインフレーションに対して金利を上げなきゃいけない。しかし金利が上がってコストも上がると、普通は大変だと思いがちなんですね。じゃあ、今世界経済が非常に低迷していて苦しいのかって言われると、そういう印象ってあんまりお持ちでないと思うんですね。これは米国に限らず他の国々もそうなんですが、やはり今一番面白いのは、その経済の成長エンジンというのが、アメリカはこう設備投資として出てきている。コストが高いにも関わらず、というよりも、そのコスト高を作り出している主因というのが非常に強い需要だという方になっているわけであります。で、この何がそんなに強いのかって言われると、ご承知の通りのAI関連投資になっていて、AIがなぜ必要かというと、生産性を押し上げる、あるいは経済安全保障の観点もあると思うんですが、ただそれを使うには様々なハードウェアが必要であるということで、そのハードウェアというのが今設備投資を押し上げてるんだと思うんですね。
だからそれが非常に最近、我々の特に世代では奇妙に感じてしまうのは、アメリカの経済で最も大きなパートってどこだってのは
もちろん個人消費ですよね。
いや、おっしゃる通りですね。68%を占めるのが個人消費になっているので、どちらかというと米国の消費者が世界中のものを買ってくれている。で、その工場の1つとして中国がいたり、それが東南アジアに移ったりって話だと思うんですが、今はその消費も堅調ではあるものの、より大きなエンジンと言いますか、これまでにない強さで出てきているのが設備投資でありまして、計算にもよるんですね、AI投資をどこまで含めるのか。つまりAIに必要なものというのは、まずはデータセンターであり、そのデータセンターを支えるための電力インフラであり、それらをさらにコントロールするためのPC関連機器であり、またそれらを機能させるためのソフトウェア、こういったものが必要になってくるわけなんですが、この設備投資というのが今ですね、非常に米国の経済成長率を大きく支えていまして、このAI関連投資をどこまで広げてみるかにもよりますが、アメリカの潜在成長率、頑張ればここまで成長できる、本気出せばここまで行けるっていう潜在成長率を考えていただいた場合、大体2%強という数字になるんですが、そのうちの半分程度が今AI関連で占められているというのが今のアメリカの現状であります。
米国を分解していただくとですね、今はこのビジネス・フィックスト・インベストメントという部分が設備投資に該当するものなんですが、これが非常に大きく寄与しているというのが特徴であるわけなんですね。で、その中で興味深いのがAI関連投資の動きでありまして、投資というのは基本的に循環するものだという印象であります。
なんで中央銀行は利上げすんねんっていう風に聞かれた場合、なんでかって言うと
インフレ。
そうですね。インフレというのはご承知の通り、景気が過熱していることの結果である。要は温度計みたいなものでありまして、我々も頑張って走ったりだとか、あるいはちょっと興奮したりすると温度が上がっていくわけなんですが、あれをインフレとして示していて、その景気の過熱感を抑えるためのものが、いわば金利の上昇である。なぜかと言うと、金利を引き上げると借入れコストが上がってしまって、借入れコストが上がるってことは、お金を借りて投資しようっていう意欲を削ぎますので、景気の過熱を抑えるために金利を上げれば、投資コストが上がって投資が下がる。逆相関でありますね。で、一方で逆に景気が悪い時は金利を下げて投資を活性化させるって話になりますので、その意味では金利が上がって下がるんだったら、投資は当然ながら下がって上がるという循環を描く形になっているわけなんですね。
ところがこの左側のグラフを見ていただきますと、アメリカの設備投資というのをAIとそうじゃないものに分けていて、青いものがAI、そうじゃないものが黄色いノンAIなんですが、黄色を見ていただくと、なんか確かに循環してる気がすると。上がったり下がったりしていて、特に24年以降というのは下がり傾向になっていて、おそらくは金利が高すぎる、タイトなんじゃないかっていうことを示しているわけなんですね。で、ここは循環していて、AI投資も投資なんで同じなのかなと思いたいんですが、グラフを見ていただくとお分かりになる通り、全然循環してないと。
うん。右肩上がりですね。
もうそんなの関係ねえという感じで。
構造的。
あ、すいません。笑っていただいて。右肩上がりっきりで、すいません。いや、そのずっと上がってるところに、しかも直近はボコっと上に角度が変わってきている。これがいわば上方修正という形になっていて、おそらく全体で見ればタイトである金融環境というのが効かずに、投資が右肩上がりになり続けているというのが今のAI投資で、かつその規模が非常に大きいので、先ほど申し上げたように、米国経済成長率の、計算にもよりますが、半分程度、半分弱を今牽引しているという状況になっているわけなんですね。ただこれが何がインプリケーションとして面白いかというと、AI強い、米国強い。ですよね、となんですが、先ほど申し上げたように、今は我々は原油価格が高くてコスト高いと、インフレも高いと、金利も上げなきゃいけないような国々は世界中に色々いるわけでして、日本もエネルギーはかなり外に頼っている。そのエネルギーコストが上がっている。物価負担にもなるわけですしっていう国々は東南アジアにはたくさんいるわけなんですが、じゃあコストが上がって金利が上がって経済めっちゃ大変っていう国の話を聞くかって言うと、あんまり聞かないと。
そうですね。
なんでですかって言うと、いや、輸出が強いんですよと、一言に尽きるわけなんですね。これなぜかと言うと、米国はご承知の通りAI関連投資ってブームになっていて、投資自体は成長に寄与しているんですが、我々が経済といった時はGDP、グロス・ドメスティック・プロダクトなので、国内総生産、「内」なんですね。内側の「内」でありまして、国内でどれだけ作ってるのかを計算したい。そこに輸入。アメリカというのは多くの資本財ですね。特に電力関連のインフラに関わるところであったりだとか、あるいはPC関連機器の部分っていう、資本財と呼ばれるものをかなり輸入している。で、輸入っていうのは国内で作ってないので、GDPからは控除項目になってしまうわけであります。で、その意味では、GDP成長率の半分程度を投資が寄与しても、その半分以上をですね、輸入によって賄うという状況になっていて、ただ賄うって言った場合に、つまりアメリカの需要が強いので他から買ってくれるって話になるんですが、そうするとどうかって言うと、輸出している国からするとめちゃ助かる話になっていて、しかもアメリカのGDPってかなり規模が大きいわけでありまして、非常にざっくり申し上げると、アメリカのGDP、経済規模を100だとした場合、中国や日本を含めたアジア全域のGDPって120ぐらいなんですね。非常にざっくりなんですが、ということは、アメリカのGDPが例えば1%上がるって話になると、アジアは0.8%ポイントぐらい寄与されるという形になるわけでありますので、米国の輸入の強さというのがアジアの輸出の強さを支えており、それがさらにですね、その輸出に使われるものを作る設備投資を活発化させているので、この広がりを非常に強く見せている。それが今の台湾経済であったり、韓国経済であったりってところにあるわけでございますので、交易条件、つまりコストが上がって大変ですよねと、でも輸出も強いし、その輸出価格も上乗せできているんで、あんまり大変じゃないですよっていうところが世界中に広がっているというところが今の特徴なのかなという風に。
そのアメリカへの輸出の典型的なものが半導体であるとか、そういったものなんですか?
おっしゃる通りですね。半導体も含まれていますが、半導体をそもそも使うための電力の設備自体が足りないって話であったり、それを支えるためのデータセンターに使われるものが足りないって話になるので、そうするとその半導体であったり、例えば電線とかもそうなんですが、電線に使われる素原材料も重要であったりってことになると、ありとあらゆるものが足りなくなってくるわけでありますので、その意味では、そういったものに関わるところが概ね今非常に強くなっているという形になっていますので、AIに強気であれば米国の設備投資に強気でありますし、一方で米国に輸出しているサプライチェーンの国に対しても強気にならざるを得ないっていうのが今の状況であるという風に考えていただいていいんじゃないかと思うんですね。
うん。そのAIの構造的な投資がずっと続く、まだ当分続くと考えると、米国経済についても世界経済についても楽観的でいいってことなんですか。
まさにおっしゃる通りでして、問題はこの強さがどこまで続くかという観点でありますが、少なくとも今年、今年も残り少ないですけれども、であったり来年に関して崩れることはなさそうで、理由としては先ほど申し上げた、今は必要とされているものが多すぎて、そこに足りていないものをどんどん供給していこうって状態でありますので、その投資の強さっていうところが継続するという意味合いで経済が支えられるんではないかという風に思っているわけなんですね。
ただ私自身、今回の局面で非常に面白いと思っているのが、我々お金を使う時って、消費と捉えるか投資と捉えるかってのはだいぶ違うように思われるんですよ。経済にとってはどっちも大事なんですけれども、将来の成長率を考える上ではやっぱり投資の方が非常に重要なんだと思うんですね。消費というよりも投資をして、それをどうつなげていくのか。学びってまさにその消費と投資のですね、境目にあるんですね。
どういうことかっていうと、国民経済計算上、つまりGDP上は家計の教育支出っていうのは消費に分類されています。でも経済学では教育というのは人的資本への投資という言い方になるので、この統計の分類と経済の実態っていうのがずれている非常に典型的な例なんですね。で、しかもこのタイミングでこの学び、教育の価値が上がる理由ってのがやっぱりありまして、この物と人、物的資本と人的資本っていうのは補完関係にあるわけでありまして、片方が急に潤沢になると、もう片方の希少性が非常に上がるわけなんですね。例えばAIチップと呼ばれているGPUが足りないうちはGPUが非常にもてはやされるわけなんですが、物ってのは作ればいいので、作ればいいってそんな簡単じゃないんですけども、作ればいいので、それが積み上がってくると、今度は優位性はそれで何をするか決められる人の方に移っていくわけであります。その意味ではAI関連投資の設備が進めば進むほど、それを使う人たちの学びのリターンっていうのが上がっていくと考えざるを得ないわけでありまして、個人のレベルでもそうなんですが、私も漫画、動画を大量に拝見させていただいておりまして、
えっと、そうなんです。それがですね、後で使うつもりで見ているのか、あるいはただ単に消費するのか。漫画も色々あるじゃないですか。学べる漫画って非常に日本にも多いと思うんですが、その意味ではそれを消費するのか投資するのかって考え方で残るものが違うという風に考えていただきたくて、残ると考えてみるんだったらこれは資本になりますし、そうじゃなければならないわけであります。で、例えば福澤諭吉も『学問のすゝめ』でこう書いていまして、AIとは書いてないんですが、「されば前にも言える通り、人は生まれながらにして貴賤貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり」と。つまりこれ、「前にも言える通り」っていうのは冒頭のですね、「人を造らず」これを受けているわけでして、生まれは平等であると、しかしだからこそ差を生むのは学問だっていう形で、あの有名な一文というのがここに繋がってくるわけでありますし、ご承知の通り福澤が言う学問っていうのは教養ではなくて、あくまで実学であり、非常に役立つ学問のことなので、150年前から学びっていうのは投資だったっていうことを言っているという風に解釈ができるわけなんですね。
ただこの投資をすれば、ただ単に潜在成長率が上がるとはならないわけでありまして、先ほど申し上げたように物と人っていうのは補完的であるわけであります。今はデータが足りないだとか電力が足りないだとか、足りないものばかりを挙げてですね、物理的にその設備を積み上げているって状況であるんですけれども、この積み上げたものっていうのを使いこなさなければ、生産能力としては残らずですね、償却されていくだけなので、経済で言えば要は消費と変わらなくなってしまうわけであります。しかもAIサーバーってのは償却期間が3年から5年と非常に短かったりするわけでありますので、使いこなすまでの猶予も元々短い、投資というよりは消費に近い性質を持っているわけなんであります。なので今は設備が足りない。それに向けて設備投資を作っていて、アメリカはそれをたくさん輸入もしている。ただ設備というのは工場を建てれば、時間はかかるんですが解決していく。次に足りなくなるのはやっぱりそれを使う人間の方だと思うわけなんですね。なので、積み上げられた設備を我々が学んで使いこなして初めて、それが資本として蓄積されたものが潜在成長率、やればできるを押し上げていく。
この人的資本の話と米国経済のこれからの話も結構繋がってきますよね、きっと。その人的資本投資も結構アメリカはしっかり行われてきてるんでしょうか?
教育自体に関しての大きな振れというのは、制度であったりそういったものが影響していくわけであるので、1年で動くという話ではやはりないと思います。そこは非常に難しいところではあります。
ただ設備が増えれば増えるほど、それを使う様々な実験のやり方も出てくるわけでして、我々はエンボディドって言い方をしますが、人に組み込まれている技術進歩率みたいなのが上がる可能性が高いんじゃないかという風に思っていますが、あくまでもそれは我々の人的資本のクオリティとしての、我々の教育水準というのが高いという前提に立っていますので、これをどういう風にやっていくかってのは、まさにそれ以外の部分ですね。社会的にどういったものが実装されていて、より動画だとか、それをどう見せるのか、あるいは学校がどうするのか。果ては政権がそれをどのような形で教育に組み込んでいくのか等が、長期的な課題としては出てくるんではないか。ただ少なくとも過去に比べて、こういったコンテンツにアクセスできるような場は広がっているという風に思われますので、それを活用していく我々にもある程度ですね、責任と言いますか、どのような形で今後出てくるのかを与えてくれるようなものがあるんじゃないかと思います。
その点では雇用増加ペースも含めまして、アメリカの雇用市場というのはこのAI型の経済にうまくシフトしつつあるんでしょうかね。
実際、現実問題としてその結論を出すのは非常にまだ早いと思います。と言いますのも、その労働市場というのはやはり、毎月出てきているどころか、直近のアメリカのウォーシュ議長のですね、コメントの中でも出てきていた新規失業保険申請件数だとか、毎週出てきてる統計もありますので、毎回見てると、実際それが本当にどこまでAI関連であったり、新しい世界において反映されてるか判断するのは非常に難しいんですね。
ただ直近で言えることというのは、こちらの左側のグラフはアメリカの民間部門の雇用者数になっていますが、元々我々このAIの話が出てきた時は、私も含めて、私もAIに取って代わられるんじゃないかと疑問を持っていて、今もその疑問は非常に強いんですが、いろんな人に言われるんですけれども、しかし実際に起こったことは、今年の初めに特にですね、民間部門の雇用者数は毎月大体10万人以上と、どちらかというと増加したんですね。
はい。
いや、AIで雇用者数がいらなくなるかと思いきや意外と増えたのは何なのかを考えていただくと、もちろん今後はAIによる様々な新しい新規であったり、生産性の上昇によって人が少なくなるような部門もたくさん出てくると思うんですが、今申し上げてるのは、そのAIの実装に必要な設備投資を増やさなきゃいけない。その設備投資に応えるようなものをたくさん作らなきゃいけないというところで、やはり雇用がかなり生み出されているようなところもあるようでありまして、それを考えると足元の雇用市場は全然弱くないと言いますか、ウォーシュ議長の言葉を借りれば完全雇用に整合的な労働市場になっていますので、おっしゃったことはおそらく今後どこかのタイミングで局所的に出てくる可能性は非常に高く、特に若手の方々の今の労働市場においては、特にホワイトカラーと呼ばれる分野に関してはそういった証拠も見えてはいるものの、それが経済全体の動きとして出てくるにはしばらく時間がかかる可能性が高く、しかも影響が大きく出るかどうかっていうのは様々な要件に左右されうるんではないかという風に考えられますね。
うん。はい。
一時期、GAFAのレイオフなんかがニュースになりました。あれも結局はコロナの時期にちょっと採用しすぎたのを調整したっていうだけの局所的なもので、AIによる構造的に人が必要なくなったとか、そういうことじゃ結局なかったってことなんですかね。
おそらく両方あるんだと思います。やっぱりそのコロナという非常に特殊な環境下で、どれぐらい持続するかが分からない中で、保険を張った部分が削減された部分と、しかし削減してみると、もう少し削減できる余地がAIによって生まれていたので、さらに削減したっていうところもありますので、その意味ではどっちがどっちっていうのは非常に難しい判断であるように見えますが、作用はしているものの、しかしそれが米国経済全体の中で
そうですよね。
レストランだとか病院だとか教育現場だとか、会計士、いろんなものを含めた全体に影響するほど大きいのかって言われると、現時点ではそうは見えない形になっておりますね。
局地的だったってことですね。その意味で労働市場もある程度強いってことを考えますと、消費も堅調に続くと考えていいんでしょうか?
そうですね。この右側のグラフが非常に興味深くてですね、これは雇用所得の伸び、要は労働時間かける時間当たり賃金というのを出させていただいている。我々が言う名目賃金みたいなものなんですが、この所得を見ていただくと、伸び率はどっちかっていうと横ばいから緩やかに鈍化しています。その意味では、所得の伸びが鈍化するってことは、消費はそこまで強くはないんじゃないのかと。労働市場がいかに堅調であっても、自分たちの給料があんまり上がらなければ。日本なんてまさに典型で、失業率は非常に低い一方で賃金があまり上がらなかった状況で、皆さんの消費はどうでしたかって言われると、少なくとも私はあんまり物が買えなくて、ちょっと小心者で大変恐縮なんですけど、いやもう本当に好きなものしか買わなくて恐縮なんですが、その意味では日本の消費は全体としてそんなに強くなかったように見えるのが、賃金であった。じゃあこのアメリカの賃金が今どちらかっていうと横ばいから鈍化している状況の中で、消費はどうかって、普通に考えれば弱いはずなんですよ。昔からケインズの消費関数とか考えれば、所得と消費は連動するんで弱いんじゃないかと思うんですけど、意外に強いみたいな話になっていて、ここが我々もちょっと最初悩んだところで、いや、おかしいと。所得は伸びが下がっている、名目は下がって、しかも物価は上がっている。これエネルギーの影響でございますよね。おかげでエネルギー価格が上がらずに済みましたが、絶賛上がりましたと。ということは実質購買力は減ってるんで、実質消費は減るんじゃねえのって思ったら、めちゃ強いって話になっていて。
へえ、なんですか理由は。
2つですかね。1つは皆さんがよくおっしゃるK字型経済という、要するに賃金で消費を左右する人というのは、いわばサラリーマン的な方々のみで、低中所得層がメインであると。しかし高所得層は、アメリカの上位所得20%が金融資産の70%を抱えてる状況で、要は株価が、今年は色々ブレがありますが、少なくとも昨年と比べれば非常に高いので、それを伴った金融資産による資産効果というのが消費を支えてるんだ。
これはその通りだと思いますし、実際そうだと思うんですが、そこにもう1つの要因があって、今回の特に2026年の前半の消費の特徴を少し見ていただくと、左側のグラフというのが消費なんですが、26年の上半期ですね、前半を見ていただくと、薄い水色が全体の消費の伸びなんですよ。ただそれを分解していただくと、青い濃い線、これが選択的な消費、裁量的な消費と言われるもので、一方で灰色というかネズミ色というかは基礎的な消費と呼ばれるものなんですね。基礎的な消費は弱いんですよ。あ、物価が高かったんだなと。で、一方でそうじゃないやつは伸びてて、何が伸びてんだって言われると、大型家具だとか自動車が売れているんですね。これ何なんだって話なんですが、先ほどのK字型経済の一部に、特に今回消費を支えているものの1つは、アメリカのOBBBAですね。ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル・アクトという大型財政政策がありまして、要は大幅な減税策をやっていると。減税策だけではなくて、実は今後社会保障支出が削減されるので、プラスマイナスあるんですが、少なくとも今年に関してはプラスの方が圧倒的に大きい。その減税というのは低所得だけではなく高所得にも行っているんですが、高所得層ほど、こういった減税によって出てきたお金、表現は難しいんですが、いわば想定していなかったという意味であぶく銭的なものは、家具的な商品に使うっていうところがあって、そういったものをより大型商品に振り分けるっていう調査結果があるんですね。要は今の消費の強さはK字型経済の上なんですが、その方々がさらにこの減税効果によって恩恵を受けている部分も出てきているという風に考えられますので、やはり消費は所得とはあんまり関係なく堅調になっているので、強いなっていうもう一言に尽きるっていうのが今のアメリカの経済になっていますね。
うん。はい。そうするとその資産効果がある限り、減税効果は一時的なんですか?
減税というのは10年間にわたって効果が出てくるんですが、今年の恩恵が最も強く、後半になればなるほど、メディケア、メディケイド等の支出の削減の方が大きくなる形になるので、我々の試算では、来年までは少なくともプラスの効果。しかしその効果自体は伸びが鈍化する。で、そっから先はニュートラル、0に行って、その後はずっとマイナスになるという形になりますので、今後はそれが、例えば物価の安定でありますとか、賃金が仮に伸びるだとかっていうことによってどれぐらい支えられるのかってところも見ていかなければいけないですし、先ほどおっしゃっていただいたように、資産効果がどこまで継続できるのかっていう話も当然ながら重要な要素となってきますね。
うん。はい。資産効果を反映した消費の強さも、これも来年ぐらいまではまだ盤石なんですか?
そうですね。我々のストラテジスト等に関しては、米国の株式市場に関しては現時点で強気でおりますので、その前提を元にすれば、おっしゃっていただいたように資産効果によってプラスになり得る。ただエコノミストとしては、このロジックというのはそれだけではないなと考えざるを得ないところがあって、ストーリーを組み立てていただくと、株価が強い、消費が強い。アメリカの7割程度は消費であるということは、米国経済が強い、ということは株価は強い、ということは消費が強くて経済が、みたいな、降りてこれないんですよね。なので、それ以外の、しかし株式市場はご承知の通り、トレンドとしては間違いなく上なんですが上下はありますので、ボラタイルな動き、循環をどのような形で作られているのかは、金融政策であったりだとか、投資それ自体の循環ですね、過剰投資になりますし、そういったものが多様に左右すると思っていますので、それだけではないんですが、間違いなく資産効果が1つ大きなポイントであることは言えると思います。
そうしますと、今の経済の状況を考えますと、金利の引き上げは特に必要ないんですか?早急には。
そうですね。ここが今最もマーケットで判断が分かれているところでありまして、特に米国の中央銀行である連銀というのは2つのマンデート、つまり物価の安定というところと雇用の最大化、両方を見ているわけであります。で、今、雇用は先ほど申し上げたように、最大雇用と整合的という言い方をしてるので、雇用は心配がない。心配というのは両方で、悪化もしてないし過熱感も見られないという意味で、懸念はない。しかし一方で物価に関して言えば、これが難しくて、まず現実問題、物価目標である2%はずっと上回っているという状況が続いているわけであります。その意味では物価は高いんですが、じゃあその方向性を見ていただくと、少なくとも発散しているわけではなくて、減速はしているので、減速を見て目標に近づいてくるんだったら、今の金利、今の金利というのはおそらくは中立金利よりも高い、要はタイトである状況なので、今の状況を続ければ下がっていくんじゃないのと思えば、金利上昇はおそらくは必要ないという判断にもなり得るんですね。なので、この下がってくることが明確であるならば上げる必要はなさそうですし、でも下がらずに上がるとか、こういう不確実性が高いんであるならば、今のうちタイト化しといた方がいいのかなという判断にもなるわけなんですが、
我々としては現時点では、アメリカの物価を決めている要素というのは色々ありまして、1つは関税。関税はこっから加速するわけではないと思っていますし、世界全体で見てですね。で、2つ目はAIによるインフレーションですね。要は我々AIを散々言ってますけれども、それが消費者物価、皆さんの消費構造の中で物価をひどく押し上げてる状況になってるかというと、まだ消費者には届いていないように見えますし、シェアがそもそも低いんですね。皆さん家賃だとか病院だとか交通費だとか払ってる中で、AI費ってのはそんなに大きくないはずなので、その意味では非常に低い。で、さらにもう1つは、じゃあその物の値段が関税であんまり上がらず、そのAI関連が上がっていない、上がっててもシェアが少ないんだとするならば、最終的にトレンド物価を決めるのは何かって言うと、サービスのうち最も大きいのがやっぱり家賃なんですが、今のアメリカの住宅市場の、特に家賃市場というのはどちらかというと伸び率が鈍化しているので、トレンドとしては物価は鈍化しているんではないかという判断をしており、それをベースに連銀の利上げは現時点では必要ないんじゃないかと。もちろん近々出てきます消費者物価等によって判断が変わる可能性はもちろんありながらも、今日今時点まで見えている物価ですと、加速していくことはないという風な判断になっています。
うん。そうしますと、今日の話を伺ってると、米国経済はもうあんまり不安がないように感じるんですけども、例えば中間選挙が近いでありますとか、何らかの大きい変動ファクターって、あえて挙げるとすると何かあるんですか?
そうですね。投資家の皆様からやっぱりご質問が内外で多いのは、今そのAI投資というのが基本的に主役になっているわけでございますね。しかもその主役というのがアメリカの設備投資であったり、様々な国々の輸出につながってる話は、AIがこければ全てこけるって話になってしまうわけであります。もちろんAIが今後社会実装化されていく中で、その可能性は現時点で低いと思いますが、ただやっぱり需給が逼迫しすぎていて、物の値段が異常に上がっている分野が存在してしまっている。例えばメモリー価格であったり、あるいはコモディティの価格の一部、使われる素原材料ですね。例えば電線だとか、いろんなものが上がっている中で、これはただ需給がマッチしていないだけなんですが、これだけ値段が上がると供給側も対応しますので、いずれは供給が増えてきて需要とマッチするタイミングは出てくるわけでございます。そうすると今上がりすぎた価格が調整されていくわけでありますし、そこの価格調整が行われてくれば、結局今高い値段を払ってもらうことによって収益性が高いような企業の収益性は、今よりは加速できないんじゃないかっていう見方を持つケースも多いので、要は最終的な質問は、AI投資がいつ鈍るのか、あるいは収益性が低下するのか、それの先行指標としてどういったものが考えられるのかの中で、例えば一部のメモリー価格等がその兆しを示してくれる可能性もあるんじゃないかという考え方をお持ちになる方はいらっしゃいますね。
うん。そうすると、AI投資が一番大事と。これが一番、これで決まるってことですね、今の経済成長率関係では。まさにその通りですね。
中国経済はどうなのかと、ずっとデフレなんじゃないかとか、そういうことが言われてきましたけど、少なくとも現時点ではデフレは脱却しています。で、今の中国は強い外需と弱い内需。これをガッチャンコすると、大体4.6%程度の成長率という形になっていまして、アメリカはアメリカで完全に優位なのかと言われると、そのアメリカもなんだかんだ言ってレアアースというものに頼らなければいけないっていう状況で、中国側もレアアースというのをレバレッジとしてかけているように見える。お互いにとって今その対立を激化させることが経済合理的であるという判断にはなっていないんだと。ATにとっての最大のテーマというのは、この管理された安定というのが本当に維持されるのかどうかを確認していく場になるんじゃないかという風に考えていますね。
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