情報漏洩は「まだ序の口」:安野貴博がフランス視察から考える日本の「AI主権」と第三の道

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概要

PIVOTの番組で、チームみらい党首の安野貴博は二つの問いについて語った。日本のように巨大なフロンティアモデルを自前で持たない国は、AIとどう付き合えばよいのか。私たちのデータや仕事で使うAIは、誰が管理し、誰が守っているのか。安野はこの夏にアメリカ、中国、フランスを視察しており、とくにフランスでの取材をnoteで発信していた。番組ではまず、相次ぐ情報漏洩とAIの攻撃能力の関係が話題になった。そこからAI主権の考え方、トークン費用の問題、日本政府のAI活用の課題を順にたどり、最後に「第三の道」としての三正面作戦が提案された。

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9〜10月の情報漏洩ラッシュは「氷山の一角」

番組冒頭では、9月から10月にかけて企業の情報漏洩が相次いでいることが取り上げられた。聞き手によれば、数時間に1回のペースで事故の記事が出ている状況だという。安野は「これはまだ序の口」であり、今後さらに悪化する可能性の方が高いと見ている。

安野の考えでは、公表されている事案はまだましな方かもしれない。内部で侵害や漏洩があっても公表に至っていない事案や、漏洩していることに会社自身が気づいていない事案もあると考えられるからだ。今後、数十社から数百社の事案が出てくる可能性もあると安野は述べた。

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攻撃コストを下げたAIと、「ミュトス級」能力の拡散

急増の背景として、安野はAIの影響を挙げた。2025年夏ごろから、AIがサイバーセキュリティの攻撃能力をかなり獲得してきたと指摘され始めていた。決定的に話題になったのは、2026年4月に公開された「Claude Mythos(クロード・ミュトス)」だった。従来の脆弱性スキャンでは見つからなかった脆弱性を大量に発見したと報告されたのである。

安野によれば、こうしたAIの増強によって攻撃のコストが下がり続けている。以前は訓練された攻撃者でなければ企業のセキュリティを破れなかった。いまはAIに頼めば脆弱性を見つけ、それらを組み合わせて実際の攻撃を遂行するところまでできるようになりつつある。安野は、これが一連の事案につながっているという観測があると説明した。

では、ミュトス級の能力がすでに攻撃者の手に渡っているのか。安野はこの問いを二つに分けて答えた。

一つ目は能力の拡散である。安野は、拡散はすでに起きたと考えている。データがすべて公開されたオープンウェイトモデルのうち、8月28日に出た中国製の「GLM5.3」は、性能評価がおおむね4月のClaude Mythos Previewと同程度だった。つまり、4月に大量の脆弱性を発見したとされた水準のAIに、いまは誰でもアクセスできる。

二つ目は時間差である。9月に公表されている事案の多くは、数カ月前の出来事を調査したうえで公開されたものだ。8月末に出たモデルが攻撃に使われたとしても、公表までにはまだ時間がかかる。安野は、ミュトス級のモデルが攻撃者に実際に使われた事例は年末から年始にかけて出てくるだろうと予想し、現時点ではまだ表に出ていないとの見方を示した。

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「年1回の脆弱性診断」では足りない

被害を公表しているのは大企業が多い。聞き手は、これらの企業のセキュリティがずさんだったのかと尋ねた。安野は、結果的にずさんだったケースもあるだろうと認めつつ、間違いなく言えるのは従来の守り方では足りないということだと答えた。

例として安野が挙げたのは、年に1回の脆弱性チェックで穴を探して塞ぐという、多くのシステム会社が続けてきたやり方である。いまのAIは数カ月ごとに新しいものが登場し、そのたびに見つけられる穴の量が増えていく。そのため安野は、年1回では全く足りず、AIに継続的に攻撃をさせて穴を探し続ける必要があるのではないかと述べた。

セキュリティパッチについても安野は触れた。見つかった脆弱性をパッチで塞ぐことの重要性は変わらない。ただ、AIによって未知の脆弱性を突かれることが増えるため、パッチが届くのを待っていては遅い可能性がある。だから守り方を根本から変える必要がある、というのが安野の主張だ。

聞き手が「攻撃側が使っているAIを守る側でも使わなければ互角に戦えない時代なのか」と確認すると、安野は同意した。そのうえで、AIを使えるセキュリティ人材だけでなく、それを担う会社も計算資源も大量に必要になり、現状はあらゆる意味で足りていないとの認識を示した。

8:21

なぜフランスを見に行ったのか

話はここからAI主権に移った。安野はこの夏、日本のAI政策を考えるためにアメリカ、中国、フランスの3カ国を訪れた。アメリカと中国はAIの最先端を走る国なので学ぶことは多い。しかし日本とは置かれた状況が違いすぎて、「全く真似できない」と感じたという。

一方で、フランスは日本にかなり近い立場にあると安野は見た。AI企業はあるものの、ChatGPTやClaudeを作るようなフロンティアラボはそれほどない。それでも何もできないわけではない。大国ではないがそれなりの投資力を持つ「ミドルパワー」の国である。そうした国がどう舵取りをしているかを学ぶ価値があると考え、安野は1週間ほどかけて、AI関係の企業関係者や政府の政策立案者に話を聞いて回った。

9:36

懐疑的な国フランスが、政府でDeepSeekを使う理由

フランス視察で一番の学びを問われると、安野はまず、フランスは技術に対して非常に懐疑的な国だと説明した。この技術は人間のためになるのか、本当に信じてよいのかを徹底的に議論する国だという。その国がたどり着いた結論として、フランス政府内で最も使われているAIモデルは中国製のDeepSeekだった。

一見すると逆説的な結論だが、よく考えれば納得できると安野は言う。フランス政府にはいくつかの割り切りがあった。

一つ目の割り切りは、政府の業務にフロンティアレベルの性能は必須ではないという判断だ。半年遅れ、1年遅れのオープンウェイトモデルを使いこなすことの方が大事だと考えている。

二つ目は、ChatGPTやClaudeのようなフロンティアモデルは確かに賢いが、いつアクセスを遮断されてもおかしくなく、自分たちで取り扱うこともできないという点だ。実例として安野は、6月の「Claude Fable 5」の件を挙げた。一度公開されたものの、ホワイトハウスによって輸出管理規制の対象に指定され、突然アクセスが遮断されたという。いま普通に使えているモデルでも使い続けられる保証はなく、アメリカとの政治的摩擦があればいつ止められてもおかしくない、と安野は指摘した。

こうした事情から、フランス政府はAI主権(ソブリンティ)を非常に重視している。それを最も確実に担保する方法は、フランス国内のクラウドサーバー上で自分たちでAIモデルを動かすことだ。そうすれば、電力を自前で供給できる限りアクセスは止まらないし、データも外に出ない。ChatGPTなどを使えば、アメリカのサーバーや政府外のサーバーにデータを渡すことになり、データの主権が失われる。

この考えを突き詰めると、自前のサーバーで動かせるモデル、つまり中身まで公開されたオープンウェイトモデルを使うのが最善だという結論になる。フランス政府の基盤では、国産のMistralや、OpenAIのOSSモデルなども選べるようになっている。それでも現場で最も使われているのは「DeepSeek V4」だという話だったと安野は紹介した。

13:07

AI主権を四つに分解する

聞き手は、日本では中国製オープンウェイトモデルへのアレルギーが企業の間でも強いと述べた。そのうえで、まず「AI主権」「データ主権」という言葉の整理を求めた。

安野は、AI主権とは国産モデルをゼロから作れれば済む話ではないと述べ、よく言われる四つの要素に分けて説明した。

  • データ:自分たちのデータを自分たちで管理できているか。海外のAI事業者のサーバーに送れば、データは外に出ていく。
  • 計算資源:GPUやデータセンターを国内で確保できているか。国内にデータセンターがなければ、計算を国内で完結できない。
  • モデル:AIモデルを自分たちで持ち、自分たちの価値観とモデルの価値観を合わせられるか。
  • 人材:これらを支える人材がいるか。

データについては、聞き手が自身のClaude利用を例に挙げた。安野は、入力したデータはアメリカに本社を置くAnthropicに残り、政府が一定の令状を出せば企業は情報を開示する義務を負うだろうと説明した。これは中国企業も同じであり、機密情報を安心してAIに入れられる状況ではないと安野は述べた。

この四つを各要素で一定程度確保していくことが大事だ、というのが安野の整理である。フランスはモデルの層でオープンウェイト中心に運用し、米国のクローズドモデルを使わないことで主権を確立している。安野は、その方がアメリカのクローズドモデルを使うよりも主権を確保できるという判断だろうと解説した。

16:14

日本にも必要な理由①:トークン赤字

日本にもこうした取り組みが必要な理由として、安野は二つを挙げた。一つ目は「トークン赤字」である。

AI活用はまだ始まったばかりなので、費用の問題は一部の先進的な企業でしか顕在化していない。しかしそうした企業では、使えば使うほど生産性は上がる一方で、トークン費用も急激に膨らんでいる。国全体で見れば、トークン費用として大量のお金が海外に流れていく可能性がある。国内のデータセンターで処理する分は対外的な赤字にはならないので、ある程度は緩和できると安野は考えている。

安野は、すべての作業に最先端のモデルが必要なわけではないとも指摘した。メールの返信の下書きのような比較的簡単な用途なら、いまのオープンウェイトモデルでも対応できる。ROIを見ながら、本当に知能が必要なところはフロンティアモデル、そうでないところは安価で自前で運用できるオープンウェイトモデルと使い分けることを考え始めるべきだという。

二つ目の理由は、止められるリスクである。Fableのように、使っているモデルがいつ止まってもおかしくない。その中でAIネイティブな業務を続けるには、自前で物事を進められる体制が必要だと安野は述べた。

18:02

18倍に増えた党内のAI利用と、人件費とシステム費の「中間」としての予算

トークン費用の具体例として、安野はチームみらい党内の状況を紹介した。4月から7月までの間に、党内のAI利用量は18倍ほどに伸びた。このペースはまずいと判断し、かなり節約に努めたという。

安野がさらに難しいと考えているのは、AIの費用の性質である。AIをシステム費用の延長として捉えると、費用の性質を見誤る。安野によれば、AIの費用はクラウドサービスやシステム投資の性質も持つが、人件費との中間のような性質を持っている。だから、この中間的な予算として別枠を確保しておく必要があると安野は述べた。聞き手が、ごちゃ混ぜにすると巨額になるか、逆に十分な額を割けていない可能性もあると応じると、安野は、多くの会社はむしろ割けていない方だろうと答えた。

参考になる例として安野が挙げたのはUberだ。Uberは人件費の5%程度をAI費用の枠として取っており、安野はこれを合理的だと評価する。2026年時点の仕事では、人間100・AI0よりもAIが少し混じっている方がよい。しかしAI100・人間0では何もできない。その間にベストミックスがあり、5%程度という比率は現段階では妥当な気がする、というのが安野の見方である。

さらに安野は、職種別に見る必要があると述べた。ソフトウェアエンジニア、リサーチャー、コンサルタントのようにAIのレバレッジが効きやすい職種なら、15%程度を見込む。レバレッジが効きにくい職種なら5%も要らない。このように職種ごとに人件費とAI費用のベストミックスを探るのが、いま一番納得できるやり方だという。

安野は、この問題は来年にはあらゆる会社の課題になり、予算計画を誤ればAIを活用できなくなると予測した。政府についても同様だという。政府職員向けのAI基盤「源内」は約16万人が使えるようになっている。しかしトークン費用を確保しておかなければ、すぐに上限にぶつかり、結局AI活用が進まなかったという結果になりかねない。そのため安野は、国としてトークン予算をきちんと取るべきだと主張している。

21:53

数学の未解決問題に見る「人とトークン」の比率の変化

AIの登場で企業の有限なリソースの配分が大きく変わったことを示す例として、安野は数学の世界を挙げた。人間の数学者が何年かけても解けなかった未解決問題を、OpenAIやAnthropicが次々に解くようになってきたという。

安野によれば、9月には流体力学のナビエ–ストークス方程式に関する未解決問題が解かれたという話があった。OpenAIが88時間、約10億円分のトークンを使って解いたという。数学では、数学者を何人抱えてトークンをいくら使うかという比率が大きく変わり、トークンを大量に使う側に寄ってきている。安野は、この比率を動的に変えていく必要があると述べた。

23:05

日本の「源内」とフランスの「Albert API」の違い

続いて、フランス政府の基盤「Albert API」と、日本のデジタル庁が自前で作った「源内」の比較が語られた。政府職員が使えるAI基盤を用意している点は共通している。違いは、基盤をどの層まで用意するかにある。

フランスのAlbert APIはAPIの提供に特化しており、具体的にどんなアプリケーションを作るかは各省庁に任されている。例えば日本の文部科学省にあたる省庁は、このAPIを使って教員向けのウェブサイトを作っている。算数の問題を大量に作れるといったアプリケーションで、月間アクティブユーザーは100万人と聞いたという。各省庁のIT部門が、自分たちの業務に合ったアプリを作っていくのがフランス型である。

日本では、デジタル庁がアプリケーションまで作り、各省庁に提供している。安野は、この差は各省庁のIT部門がアプリケーションまで作れるかどうかの違いから来ていると考えており、どちらがよいかはまだわからないと述べた。聞き手が、現場に近い人がAIの使い方を作らなければ使われないと企業でもよく言われると指摘すると、安野は現場に近いことは重要なポイントだと同意した。ただし人材を採用しようにも、民間企業とは給与レンジが全く違う。各省庁が今すぐ自前でできるかといえば、その枠組みから変える必要があるという。それでも安野は、予算は取った方がよいとの立場を示した。

もう一つの違いは、使えるモデルである。日本の源内では、ChatGPTやClaudeのような米国製モデルに加え、NTTや日本のAIベンチャーが作った国産モデルにも切り替えられる。一方、フランスはオープンウェイトが中心だ。

安野は、データには外に出してよいものといけないものがあり、分野によっては海外や政府外のサーバーに出ていくモデルは使いにくいと認める。それでも、フランスはやりすぎな面もあると考えている。クローズドモデルを全く使えなくするまでしなくてよく、クローズドもオープンウェイトも国産も全部選べる方がよいというのが安野の考えだ。聞き手は、選択を利用者に委ねると、リテラシーが不足していれば一歩間違えて重要な情報を出してしまう恐れがあり、フランスの判断も理解できると指摘した。安野もそこは一つの課題だと認めた。

26:57

中国製オープンウェイトモデルを日本は使えるか

では、性能のよい中国製オープンウェイトモデルを日本が使う選択肢はあるのか。安野は、現段階では使う可能性をもう少し前向きに検討した方がよいとの立場を示した。そのうえで、重要な前提として、中国製に限らず海外製のモデルは、自前のサーバーに持ってくればすべてのリスクが消えるわけではないと強調した。

安野によれば、モデルに悪意のある振る舞いを埋め込むことは理論的には可能である。例えば、自分がフランス政府内で動いているとモデルが認識したら、急に性能を落とす、あるいは正反対のことを言う、といった工作が考えられる。実際、フランスでもDeepSeekの採用時には大きな議論になったという。フランスにはAIの安全性を評価する機関INESIAがあり、悪意のある振る舞いがないかを継続的にチェックしている。現時点では性能の変化や悪意のある振る舞いは観察されていないので使ってよいだろう、という判断だという。安野は、こうした兆候が出たらすぐに気づける体制をまず作ることが必要だと述べた。

その土台があれば、中国製であれ他国製であれ、オープンウェイトモデルを活用する余地はあると安野は考えている。サンフランシスコでは、中国製オープンウェイトモデルを自社向けにファインチューニングして使う企業が多く出てきていた。アメリカでもフランスでも実際に広く使われているという。日本は中国と地理的に近く緊張関係もあるので難しい面はあると安野は認める。それでも、企業として使い倒せる部分は間違いなくあり、AI研究や開発で参考になることも多い。リスクの低い領域で検証しながら使うことはでき、中国製だから一切触れてはいけないとアレルギー的に考える必要はない、というのが安野の主張だ。

聞き手は、企業と話していると、安くて高性能な選択肢として中国製の名前が挙がるものの、説明するとリスクばかりが強調されてしまうと述べた。そのため、フランスのようなチェック機能を前提にリスクとリワードを比べる議論が必要だと指摘した。安野はこれに同意し、安全性のチェックは各社が個別に行うより、日本のAIセーフティ・インスティテュート(AISI)が担うべきだと提案した。日本の価値観とどれだけ違うのか、悪い振る舞いがどれだけ埋め込まれているのかをAISIが測って公表し、各社はそれを見て、どの領域でどこまでなら使えるか、どのリスクなら取れるかを判断する。安野はこれが最も経済合理的だと考えており、政府は個別モデルを検証する能力にもっと投資すべきだと述べた。

30:49

政府のAI活用を阻む壁:使わない管理職と1年単位の予算

源内のアカウントは約18万人に配られている。安野は、6月ごろのデータでは課長級以上があまり使っておらず、メンバーレベルの職員の方がよく使っていたと紹介した。企業でも同じだが、経営層が自らAIを使って生産性向上や業務改革の可能性を体感しているほど、導入は早く進む。AIネイティブなワークフローへの移行は組織の動かし方を大きく変えることになり、トップの強い意思が必要になる。だからこそトップに使い倒してもらう必要がある、と安野は述べた。

その一環として、安野は8月末に高市早苗首相に「AI家庭教師」を実施した。日本のトップである首相がAIを体感しておくことは大事だと考えた。それを見た官僚や大臣にも知ってもらえるという波及効果も期待したという。

高市政権への評価も語られた。安野は、17の戦略分野(17は多すぎるという声もあると付け加えた)の中でAI・半導体に力を入れる姿勢を示している点を評価し、方向性は一致していると述べた。一方、具体的なやり方には提言がある。トークン費用が爆発的に増える性質のものだという理解は、まだ省庁内に広がっていない。財務省もそのような予算を扱った経験はないだろうと安野は見ており、システム費用と人件費の中間の性質を持つ費用だともっと訴えていく必要があるという。国産モデル開発のプロジェクトについては、現場の研究者にもっと権限を渡すべきではないかと安野は述べた。加えて、オープンウェイトモデルをある程度使い倒さないとまずいのではないかという点も挙げた。総理がそこまで詳しく知るべきかには限界があると承知のうえで、提言を続けているという。

政権内にAIを理解した人材がどれだけいるかについて、安野は、AIに詳しい政治家は増えているもののまだ多くはなく、現政権にどれだけいるかは自分にもまだわからないと答えた。さらに、AIの領域では1年という時間が長すぎると強調した。数カ月で状況が変わる中で、それに対応できる予算編成の仕組みやルールの作り方が必要になる。安野は、AI時代には立法や国会のやり方そのものを大きく変える必要があるのではないかと述べた。

36:08

第三の道:CERNに倣うミドルパワー連合と三正面作戦

最後に、アメリカでも中国でもない国が進むべき「第三の道」が論じられた。安野によれば、アメリカ型も中国型もできない中で第三の道を探るべきだという話は、フランスの政策立案者との対話でよく出たという。その一つが、ミドルパワーの国々による連合である。日本、フランス、オーストラリア、カナダ、韓国、ドイツといった国々は、米中ほどの予算はないが一定の投資はできる。互いに資金を出し合って優れたモデルを作ったり、AI競争に必要な要素を整えたりすることは理論上は可能だ。

それでも難しいのではないか、という議論を安野は多くの国の人と交わした。その中で印象的だったのが、過去に実例があるという指摘だった。CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)である。物理研究に必要だが莫大な費用がかかり、各国に小さく分散させても意味がなく、一カ所に巨大なものを作る必要がある。スイスに建設されたこの加速器は、日本やフランスなどミドルパワーの国々が資金を出し合って作ったものだ。各国の研究者が実際に使い、成果を共有している。大規模なAIモデルの開発も、小さなデータセンターが各国に散らばっているより巨大なものが一つある方がよいので、構造が似ているという。安野はそれまで考えたこともなかったが、言われてみればその通りだと感じたと語った。ハードルはあるものの、ミドルパワーの国々が連携して一つの大きな基盤を作る枠組みには挑戦すべきだというのが安野の考えだ。

そのうえで安野は、日本は「三正面作戦」を取るべきだと提案した。一つ目は、ミドルパワー諸国との連携の道を探ることだ。二つ目は、アメリカに対して半導体製造能力を交渉力にすることだ。熊本にはTSMCがあり、北海道にはラピダスがある。ラピダスについて、安野はうまくいくかはまだわからないが、うまくいってほしいと述べた。チップが研究開発の速度を左右する中で、基盤モデルは持たなくても、この能力によってAIエコシステム全体で一定の交渉力を持てると安野は考えている。三つ目は、中国製オープンウェイトモデルを、リスクを認識したうえで適切にリスクを取って活用することだ。これはほかの二つを進めるうえでも交渉力になると安野は見る。アメリカとはチップで交渉力を持ち、中国のモデルは適切に使い、ミドルパワー諸国とは連携を探る。この三正面を同時に進めるのがよい、というのが安野の結論である。

聞き手は締めくくりに、これらをどこまで実現できるかは予算、外交、そしてそれを担える人材がどれだけいるかにかかっていると述べ、有権者として議論していきたいと語った。安野も、議論していきたいと応じた。