会計検査院は税金の使い道をどこまでチェックできるのか――前院長・田中弥生氏が語る歴史、検査の基準、賃上げ税制の検証

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概要

ReHacQの高橋弘樹氏は、会計検査院を「日本一地味な役所」と呼びながら、税金の使い道をチェックするうえで「めちゃくちゃ大事」な組織だと考えている。会計検査院の人員が10倍になれば税金をもっと有効に使えるのではないか、というのが高橋氏の持論である。今回のゲストは、昨年3月まで会計検査院長を務め、現在は東京大学公共政策大学院の客員教授である田中弥生氏だ。番組では、会計検査院が何をする組織なのか、明治以来どのような経緯で独立性を得てきたのか、税金の使い方をどんな基準で評価しているのかを順に聞いていく。中心となる事例は、租税特別措置のひとつである賃上げ税制の効果検証である。人員を増やせば問題は解決するのかという問いについては、高橋氏と田中氏の考えが必ずしも一致しない。

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冒頭で示された「多重下請け」の問題

番組の冒頭には、本編後半からの抜粋とみられるやり取りが置かれている。持続化給付金のときに多重下請けの問題が表面化し、何次まで下請けがあるのかを調べたら9次下請けまであった、という話である。さらに電気・ガス補助金でも、博報堂が320億円で受託し、そのうち一定額を自社で持ち、200数十億円が博報堂プロダクツへ流れ、さらにその下にも委託が続いていたという構造が紹介される。

これを受けて高橋氏は、管理をするだけでなぜ多額の差額が生じるのかと疑問を示した。そして、おそらく全省庁のあらゆる発注に共通する構造だろうと述べる。ただし高橋氏は、民間の立場から見れば企業は悪くなく、その制度を許している政府が悪いという見方も示している。だからこそ会計検査院の人員を増やして力をつけるべきだ、というのが高橋氏の主張である。この抜粋に当たる詳しい議論は、今回の字幕の範囲には含まれていない。

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憲法上の位置づけと認証官としての院長

高橋氏は会計検査院を、国会・裁判所・内閣に並ぶ「第4の権力」とも言われるほど独立性の高い組織だと紹介する。田中氏によれば、会計検査院長は大臣や特命全権大使、最高裁判所の判事などと同じ「認証官」であり、天皇の認証を受ける。

一方で、組織としての知名度は低い。高橋氏はかつて公務員を目指しており、官庁訪問のリストや採用人数を見ても会計検査院はまず検討対象に入らなかったと振り返る。田中氏によると、いわゆる幹部候補の採用は年に1〜2人程度で、最近は4人ほどだという。

会計検査院の基本的な役割について、田中氏は次のように説明する。国の収入と支出を、決算の段階で例外なくすべて検査する。その結果を内閣を通じて国会に報告し、国民に説明する。こうした性格から「財政監督機関」とも呼ばれる。

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大隈重信が始めた「チェックを分ける」という発想

田中氏によると、会計検査院の起源は明治2年にさかのぼる。この年、政府の機関が京都から東京へ移り、今の財務省に当たる大蔵省のナンバー2に大隈重信が就いた。大隈は組織の仕事ぶりを見て、予算を作って支出する部署と、それをチェックする部署が同じなのはまずいと考えた。そこで大蔵省の中に、監督を担う別の部署を設けた。これが会計検査院の始まりだという。

高橋氏が「当時はそういう概念がなかったのか」と尋ねると、田中氏は「なかったと思う」と答えた。当時の政府は、江戸幕府から引き継げると見込んでいた財源がほとんどなく、借金をし、札を刷っても偽札が横行していた。財政の仕組みがまだ整っていない時期から、監督機能の必要性を唱えて組織を作った点を、田中氏は大隈の功績として語っている。

一般には、明治憲法で憲法上の機関として会計検査院が誕生した時点を起点とし、まもなく140年を迎えると説明されている。ただし田中氏は、そこに至るまでにもいくつもの曲折があったと話す。

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廃止、復活、そして天皇直属へ

大隈が作った組織は、その後いったん廃止された。これに異を唱えたのが伊藤博文である。伊藤は、アメリカで学んだことを添えた意見書を書いて存続を訴えた。その結果、2か月後には名前を変えたうえで会計検査の機能を持つ組織が復活した。田中氏によれば、このときの組織設計には伊藤の提案がかなり生かされている。

その後、より独立した組織を目指して、会計検査院は内閣の下で大蔵省と同列の省庁として設置された。しかし田中氏は、これでも不十分だったと言う。会計検査院が指摘をしても、上司にあたる総理大臣が拒めばその指摘は通らないからである。この経験から、明治憲法の制定時には、内閣の下に横並びで置くのではなく、天皇直属とする形になった。

「院」や「院長」という名称から病院を連想されることがよくあるという話題も出た。田中氏は、人事院などと同じく、明治期の制度設計やガバナンスの名称が引き継がれているのだろうと説明する。会計検査院法には明治時代に作られた内容がかなり生かされており、日本国憲法の下でも引き継がれているという。

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第3代院長・渡辺の奮闘

田中氏が尊敬する人物として名前を挙げたのが、第3代院長の渡辺である。木戸孝允や坂本龍馬と親しかった剣豪で、田中氏は「本当に武士みたいな人」と表現する。

田中氏が紹介したのは、著書にも書いていないというエピソードである。渡辺は憲法の草案を読み、会計検査院の規定がないことに怒った。そして自分で条文案を書き、伊藤博文が新橋から汽車で大阪へ向かうと聞くと、馬を飛ばして追いかけた。汽車に乗っている伊藤に案を見せ、会計検査院を必ず憲法に入れるよう求めたという。田中氏は、これが憲法に会計検査院が盛り込まれるきっかけになったと語る。

組織のガバナンスをめぐっても対立があった。大蔵省はフランス型を推していた。田中氏の説明では、フランス型は検査に加えて司法官として裁く機能も持つ形である。これに対して渡辺はドイツ(プロイセン)型を主張した。大蔵省の案が先に出ていたため、渡辺は調査団を率いてドイツへ学びに行き、帰国後に提案書を出して論争し、最終的にドイツ型を通した。その結果、裁判官的な機能は持たないことになった。この調査に同行した検査官の一人が、ドイツ文学の専門家で平塚らいてうの父だったという。

さらに枢密院は、会計検査院が天皇直属だと、まるで天皇の言葉を代弁しているように見えるとして、この規定を却下しようとした。渡辺は、天皇直属の規定を外されたら会計検査院は骨抜きになると反論し、最終的に押し通した。こうして検査報告は天皇に提出されることになった。

高橋氏が取り上げたのは、日清戦争の戦費が適切に使われたかを指摘した報告書を、渡辺が周囲の反対を押し切って天皇に提出したという話である。田中氏によれば、これは国会で大騒ぎになった。取締役会にあたる検査官は当時10数名いたが、辞職者が出て、渡辺自身も辞職した。辞める覚悟で出したのかと問われると、田中氏は「常にそういう覚悟を持って議論に臨んでいたのではないか。侍ですから」と答えている。

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戦時下の検査と、憲法90条の「すべて毎年」

第二次世界大戦中、会計検査院はどんな役割を果たしたのか。田中氏はこの問いを、日本国憲法90条の文言に深く関わる大事な点だと位置づけた。

戦争が始まると、戦費は当初予算ではなく臨時軍事費特別会計で扱われるようになった。この会計の決算は、戦争が終わったときに行うとされた。それでも会計検査院は、自分たちで4月から3月という区切りを設け、毎年検査に出向いていたという。ところが次第に例外規定が加わり、機密費などは検査の対象外とされた。それ以外は検査できたため、当時は満州まで出かけて検査をしている。すべてではないにせよ検査報告が残っていたので、戦後にGHQの裁判が始まった際には重要な資料になったと田中氏は話す。

もっとも、戦時中に大きな無駄遣いを指摘するのは非常に難しかったとも田中氏は認めている。この経験を踏まえ、戦後の日本国憲法90条は、国の収入支出の決算は「すべて毎年」会計検査院が検査すると定めた。田中氏によれば、「すべて」は例外がないことを意味する。「毎年」は、戦争が終わるまで決算がないという状況を許さず、年度で区切るという意味だという。

この流れで高橋氏は、高市政権が掲げる、予算を単年度で考える方式の見直しが検査に影響するかを尋ねた。田中氏は、すでに外部の人間なので軽はずみなことは言えないと前置きしたうえで、次のように答えている。複数年度にまたがる案件は昔からあり、会計報告は年度ごとに出ているので、検査の仕組みが大きく変わることはないだろう。ただ、制度の作りが甘くなれば検査がしにくくなる可能性はあり、その点は注視すべきだという。

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1250人で100兆円規模の予算を見るために

高橋氏が繰り返し投げかけたのは、100兆円規模の予算の効率性を本当にチェックするなら、人員が足りないのではないかという疑問である。田中氏によると、会計検査院の職員は約1250人だ。財務省との比較を問われると、財務省もそれほど多くはないが、国税庁や地方採用まで含めれば規模はまったく違うと答えた。

人員が足りているのかという問いに、田中氏は「足りるように」検査計画を作っていると説明する。国費は全国の都道府県教育委員会まで流れるものもあり、それを1年ですべて見るのは物理的に不可能だ。そのため、ローテーションを組んで数年かけて一巡する方法をとっている。そのうえで最も重要なのはデジタル化だと田中氏は強調する。いきなり現地に行くのではなく、まずデータで全体の傾向や異常値を分析し、そのうえで戦略的・効率的に実地検査に入る。在任中はこの方向でできるだけ進めていたという。

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検査の5つの観点と「3つのE」

田中氏は、会計検査院が使う5つの観点を紹介した。

  • 正確性:計算に間違いがないか
  • 合規性:規則・ルール・法律に違反していないか
  • 経済性:同じことをもっと安くできなかったか
  • 効率性:同じお金でもっと効率的なやり方ができなかったか
  • 有効性:政策目的に照らして、使ったお金が効果を上げ、目標を達成したか

正確性と合規性は最もオーソドックスな基準である。違反があれば「不当」と判断し、お金を返還させる。残りの3つは「3つのE」と呼ばれる。田中氏によれば、経済性と効率性は表裏一体の関係にある。有効性は、国民にとって最も関心が高い観点だろうと田中氏は言う。

有効性の判断は、統計やエビデンスデータを用いて客観的に行うのが基本だ。ただし田中氏は、この分野にはまだ改善や開発の余地が多いと認める。3つのEは世界中の会計検査機関が掲げているが、効果をどう測るかについてはどこも試行錯誤を続けているという。

高橋氏が、自民党の議員がしきりに口にするEBPM(証拠に基づく政策立案)は会計検査院が一手に担う領域ではないかと問うと、田中氏は会計検査院だけではないと答えた。総務省の政策評価局、財務省の予算執行調査、内閣官房の行政事業レビューもある。さらにEBPMはそもそも政策立案自体を証拠に基づいて行う考え方なので、霞が関全体で意識していこうという状況だという。

高橋氏は自身の印象も率直に語った。効いていない政策は大量にあり、「石を投げれば当たる」ように見える。巨額の予算をかけたYouTube動画の再生回数が20回ということもある。自社が過去に受けた補助金についても、国にとって効果があったとは自信を持って言えない。事業者としては審査が甘いほうがありがたいが、メディアとしては甘すぎるのではないかと見ている、という。

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事例:租税特別措置としての賃上げ税制

田中氏が具体例として取り上げたのが、租税特別措置のひとつである賃上げ税制である。昨年、政府が租税特別措置の見直しを掲げたとき、高橋氏の印象では廃止されたのは1つだけだった。田中氏によれば、その1つが今回の事例だ。会計検査院の指摘を受けて、片山大臣が昨年11月に廃止を表明し、実際に止まっている。ただ、租税特別措置はまだ数百個あるので今後も注目してほしい、と田中氏は話す。

田中氏はまず租税の原則から説明した。税金は強制力をもって徴収するもので、払わなければ追徴金や罰則が伴う。だから税制は公平・中立・簡素に設計・運営しなければならない。租税特別措置は、特定の対象者に特定の政策目的のために減税という恩恵を与えるもので、公平性の原則からは例外にあたる。税収が減る分、政策効果を上げることが「大原則の約束」であり、担当省庁には効果を検証・公表し、国会に提出する義務がある。

賃上げ税制は、田中氏の説明では安倍首相の時代に始まった。賃上げをした企業に対し、賃上げ額の一定割合を法人税から差し引く仕組みである。それでも賃上げがなかなか進まなかったため、上乗せのインセンティブが加えられた。教育訓練費を前年より20%増やせば、賃上げ額のさらに5%などを法人税から差し引くというものだ。両方の要件を満たせば、企業は大きく減税され、国にとってはその分が減収になる。

この制度を提案した経済産業省には、減税分に見合う政策効果が上がったかを説明する責任がある。しかし会計検査院が調べたところ、効果検証はまったく行われていなかった。経済産業省の説明は「定量化ができない」というものだった。

会計検査院は以前から、この制度は歪んでいないかと注目していた。教育訓練費を前年の10万円から12万円に増やしただけでも上乗せの対象になる。上乗せは給与増加分の5%なので金額が大きい。その結果、教育訓練費を5万円増やしただけで1000万円の法人税が減税されている企業も出ていたという。

田中氏は、「定量化できない」という説明はおかしいと考えた。この措置を財務省に要望し、最終的に国会の承認を得る際の根拠として、ある経営学者の論文が使われていたからである。教育訓練(リスキリング)によって生産性と売上が上がり、賃上げと相関するという定量的な分析だった。それなら検証に使えるはずだ。田中氏は、経済産業省の説明を「苦し紛れ」の言い訳だったと表現している。

そこで会計検査院は、論文のモデルをそのまま使い、国税庁のデータと経済産業省が持つ企業データを突き合わせて試算した。その結果、モデルで推計される効果は実際の減税額を大きく下回った。本当の効果よりもかなり大きく減税していたことになり、その差額は157億6871万円だったという。

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事前に検証できなかったのか

これに対して高橋氏は、予算を立案する段階で直近のデータをそのモデルに入れれば分かったことではないかと質問した。田中氏は、この措置はかなり急いで成立しており、そこまで精緻な事前チェックはされていなかったのだろうと答える。会計検査院が効果検証について尋ねたとき「定量化ができない」と返ってきたこと自体が、定量的な事前チェックをしていなかった証拠だろうというのが田中氏の見立てである。

田中氏は、事後の検査だけでなく、政策立案の段階でEBPMに基づく検証をしてから法案を成立させるのが望ましいとし、霞が関全体でもそうした議論がされていると述べた。高橋氏は、緊急の政策課題に急いで対応する事情は理解できるとしつつ、力学的には事前の検証は難しいだろうと見る。だからこそ、手を抜けば後から会計検査院に調べられるという緊張感が必要であり、会計検査院が弱ければ「運悪くチェックされたものだけ廃止すればいい」と考えられかねない、と主張した。

廃止された範囲については、田中氏がその場で確実には答えられなかった。大企業向けの賃上げ税制のうち、教育訓練の上乗せ部分だけを廃止したのか、大企業向けそのものを廃止したのかは後で確認したいとして、ディレクターへの確認事項になっている。会計検査院の報告書は昨年1月、田中氏の院長在任中に出されたもので、廃止の判断は昨年11月、田中氏の退任後である。

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租税特別措置はいくつあるのかすら分からない

高橋氏は、ほかの租税特別措置は検証されたのかを尋ねた。田中氏も同じことを知りたいと考えていたという。会計検査院は平成26〜27年ごろ、法人税や所得税などの租税特別措置を俯瞰しようとした。その時点で380個ほどあるとされていたが、現在いくつあるのかを調べようとしても分からなかった。

理由について田中氏は、分類が難しいのだろうと推測する。農業にも賃上げにも教育にも関係するといったように、複数の分野にまたがる措置があるからだ。それでも、いくら減税されたかは必ず分かるはずであり、シンプルな減税額だけでも出してほしいと田中氏は求める。3年や5年の期限付きの措置を何度も延長しているものもあるので、延長する前に本当に有効だったかを検証すべきだという。

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数値化しにくい政策の効果をどう測るか

賃上げ税制は計算で検証しやすい例である。では計算が難しい分野はどうするのか。田中氏が例に挙げたのは農業だ。農家の生産性を上げるといっても、農家の費用は会社のように切り分けられているわけではなく、申告に頼る部分もあるため、きれいに数値化できるとは限らない。また、今回のように立案時に計算モデルが用意されているのは珍しい。多くの政策では、こうなればこうなるという効果が文章で定性的に説明されているだけだという。

高橋氏は、文教政策や国民の意識啓発のような定性的な政策の効果検証について尋ねた。田中氏は、難しいが最初から諦めないほうがよいと答える。「意識が上がった」とは何についてどう上がった状態なのかをできるだけ細かく分け、当事者に聞きながら変化の兆しを拾い、指標を導き出す。これは技術的には不可能ではないという。ただし、データを出してくれる協力者がいるか、回答者が偏っていないかには注意が必要だ。田中氏は、そうした作業にはAIが強い味方になるのではないかとも話している。

高橋氏はさらに、立案時に「意識を高める」ではなく「理解度を何%高める」といった数値目標を立てるべきか、と問うた。数値にこだわりすぎると大事なものを取りこぼすのではないかという懸念も添えている。田中氏は、定量と定性の両方が必要だと答えた。定量だけに頼ると経済合理性に偏り、分布の中央の意見だけが拾われて両端の異なる意見が排除されかねないからだ。そのうえで田中氏は、事前の段階でデータ取得の設計をしておかなければ後から取ろうとしても取れない、それは必須だと強調した。

官僚の意識について、田中氏は次のように話す。現在は政策評価法や行政事業レビューのフォーマットへの記入が義務づけられ、目標達成までの道筋を示す「ロジックモデル」も書くよう求められている。ただ、データが取れずに「絵に描いた餅」になることがある。特に対人サービスや生活者を相手にした政策では、最初から検証可能なデータ取得を制度に組み込むのは難しいだろうという。

35:48

独立性の強さと、味方のいない組織

会計検査院はどうやって力を持っているのか、政治家や業界団体にとっては邪魔な存在ではないのか。この問いに田中氏は、特別に後ろ盾になってくれる政治家は一切いないと答えた。会計検査院は独立性を非常に重んじており、どこからも介入されず、自分たちの観点を曲げずに検査報告を書き上げることを続けたいのだという。

田中氏は自身の経験と比べて、その独立性を語る。会計検査院に来る前、田中氏は国立大学の評価や、国際協力銀行(JBIC)の評価室の仕事に携わっていた。そこではトップや相手国の意向に応じた調整がつきもので、担当者として違うと思っても書き直すことはゼロではなかった。しかし会計検査院に在籍した5年半の間、そうした経験は一度もなかったという。職員は学生向けの業務説明で「良心の呵責なく仕事ができるところです」と話していたそうだ。田中氏はこれを、横やりを入れられずにまっすぐ仕事ができるという意味だと受け止めている。

一方で、特定の政党や政治家と関係を作っていないため、会計検査院法の改正や予算・人員の増強を求めても応援してくれる人はいないだろう、と高橋氏は指摘し、田中氏もこれを認めた。

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人員を増やせば解決するのか

もっとも、人員増強について田中氏は「賛否両論ある」と考えている。問題が起きると、国会では特に野党から会計検査院の権限強化や人員増強を求める声が出る。しかし補正予算や税制は、内閣や行政組織の中だけでは完結しない。国会で議論され、最終的には政治が決める。金額が大きいほど政治の判断と影響は大きくなる。だから最終的には政治が変わらなければ物事は良くならない、というのが田中氏の立場である。

高橋氏は、政治が適当に決めないようにするためにも、後から見るぞという強い体制が必要ではないかと重ねて主張した。これに対して田中氏は、国会の審議にも注目してほしいと応じる。決算の議論は予算に比べて圧倒的に少ない。参議院の決算委員会はNHKで初日と最終日が中継されるものの、予算を先に審議し、決算の審議は4月以降になる。そのため決算で問題が指摘されても、翌年度の予算はすでに議決されている。検査結果を予算に反映させたいなら、決算の審議を踏まえて予算を審議する順番にしなければならない。現状では、反映されるとしても2年後になってしまう。

高橋氏は、それでも2年後に指摘されると思えば立案時に効果を考えるはずだ、と述べた。田中氏はその点の重要性を認めたうえで、会計検査院の情報発信が足りなかった部分もあると振り返る。国民にもっと分かりやすく報告し、メディアにも取り上げてもらう努力がさらに必要だという。

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職員の仕事は「帳簿を見る」だけではない

最後の話題は、会計検査院の一般職員の働き方だった。田中氏によると、職員は月曜から金曜までの1週間単位で出張に出る。かつては毎週のように出張していたが、今は月に2週以内だという。仕事内容も、会計処理をずっと見ているというイメージとは違う。重装備で山奥に登り、鹿よけの柵が安全に設置されているかを確かめる。高速道路のコンクリートの強度を調べることもある。

田中氏はさらに、5兆数千億円が使われた持続化給付金に話を向けた。大量に配ることは非常に大変な仕事だと述べたところで、今回の字幕は途切れている。冒頭の抜粋で示された多重下請けの問題は、この持続化給付金の検査の話から続いていくものとみられる。