お金の不安は「見える化」と「コントロールの実績」で扱う 統計のおねえさん・サトマイさんに聞く

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概要

老後2000万円問題や年金の先行きなど、将来のお金に漠然とした不安はある。それでも何も行動できていない。新R25編集部の十石泰誠さんが、この悩みを「統計のおねえさん」として知られるサトマイさんに相談した。サトマイさんは著書『あっという間にお金はなくなるから』で、貯め方や節約の方法より「お金の不安への対処法」を中心に書いている。対談でも、不安を分類し、見える化し、自分で扱えるという感覚を育てるという順序で話を進めた。

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「不安を煽らないでほしい」という本音

本題の前に、編集部のメンバー同士で投資の話をしている。9月から投資を始めた人もいれば、取材先で「やれ」と言われて「明日やります」と答えたまま半年が経った人もいた。始めるのが面倒で、投資に回せば月々使える額が減る。「月3万円からでいい」と言われても、3万円あれば飲みに3回行ける、という声も出た。

お金は全部使え、という堀江貴文さんの考えに共感するメンバーもいた。一方で実家暮らしのメンバーは、家賃という固定費がない分を投資に回している。一人暮らしになったらできないので今のうちにやっておく、手元にあると使ってしまうので先に外しておく、という考え方だ。

十石さんの立場ははっきりしている。老後2000万円問題のような不安は「あまり大きい声で言わないでほしい」。そもそも2000万円で足りるのかも分からない。65歳までにいくら貯めればいいのか、明確なゴールを言い切ってくれれば動けるが、論調がばらばらなので何から手をつければいいか分からず、立ち止まってしまう。本人は、これは現実から目を背けたいだけだと認めている。

25歳、意図して貯金したことが一度もない

サトマイさんとの対話で、十石さんは自分の状況を具体的に話した。25歳で、貯金は多くなく、給料もそれほど高くない。東京で一人暮らしをしていて生活費がかかり、友人と旅行に行けばその分の出費もある。仕事も遊びも全力でやりたいので今の自分にお金を使いたい。しかし漠然とした不安のせいで、お金を使うことに後ろ向きになってしまう。このジレンマを抱えている。

実際にやっているお金の対策はiDeCoだけだ。これも前職の会社で確定拠出年金に入っていたのを移しただけで、積立NISAはやっていない。意図して貯金したことは人生で一度もなく、使わなかったお金がたまたま口座に残っているのが貯金になっている。不安は強いのに行動に移せないという性質が、自分の中にあると十石さんは語った。

サトマイさんは、自分も20代前半には同じような悩みを持っていたので「親近感」があると応じた。

メディアの戦略、実際のリスク、個人の生き方

「不安を煽りすぎではないか」という問いに対して、サトマイさんは三つの要素が複雑に絡み合って今の状況になっていると整理した。実際のリスクの話、個人の生き方の話、メディアの戦略の話である。

メディアについて、サトマイさんは自身もYouTubeやメディア運営をしている立場から説明した。不安を煽るサムネイルやタイトルのほうが注意を引くため、再生回数を優先すると、どうしてもそういう内容になる。ただし、老後2000万円問題や少子高齢化を踏まえて「ちゃんと貯めておかないと将来大変なことになる」という指摘自体は、確率で考えたリスクの話としては正しいとサトマイさんは考えている。

そこに個人の生き方の違いが加わる。貯蓄や節約に励んでお金を貯める生き方もあれば、若いうちにしかできない経験をしようと旅行や買い物、学習にお金を使う生き方もある。自分はこう生きたいのに、メディアから不安を煽られている気がする。多くの人はそんな状態で迷っているのではないか、というのがサトマイさんの見立てだ。そのうえで、確率的なリスクには備えたほうがよく、まったく貯金がなくて大変なことになる例も実際にあると付け加えた。

手取り20万円で300万円の車を買った新卒時代

サトマイさんは「偉そうに語れる立場ではない」として、自分の失敗も話した。新卒でパチンコ店に勤め、1年目の手取りは20万円ほどだった。どうしても欲しい車があって300万円の車を買い、そこから一気に生活が苦しくなった。後先はまったく考えていなかったという。

お金について考えるようになったきっかけは仕事だった。組織で働いていると、嫌な人とも付き合わなければならない。一緒に働く人を自分で選びたい、休みをもう少し自由に取りたい、副業を始める時間や旅行の時間もほしい。そう考えたとき、当時の仕事と収入ではそれが叶わなかった。自分の能力不足もあり、昇給して能力を発揮していけば上がるかもしれないが、それでもここにずっといることはないと感じて会社を辞めたという。

不安とは「はっきりしない脅威」である

サトマイさんの本では、不安を「将来起こるかもしれない、はっきりしない脅威」と定義している。お金の不安もまさにこれだという。計画どおり貯まるかもしれないが、病気になるかもしれない。教育費や介護費がどれくらいかかるか分からない。しかも、それが100%起こるかどうかも分からない。だから、今使うべきか貯めるべきか決められない。この状態が不安だ。十石さんは「まさにそう」と答えた。

脅威への反応を4つに分ける

サトマイさんは本の中で、脅威に対する人間の反応を2本の軸で4つに分類している。対談ではフリップを使って説明した。

一つ目の軸は、脅威の対象が見えているかどうか。目の前にクマがいるなら対象ははっきりしていて、これは不安というより恐怖だ。何が怖いのか分からない状態が「見えていない」状態である。二つ目の軸は、自分がその脅威に対処できると感じるかどうか。この二軸を組み合わせると、次の四つになる。

  1. 脅威が見えていて、対処できると感じる:逃げるか、向き合って戦うかを選べる
  2. 脅威が見えていて、対処できないと感じる:固まる(フリーズ)
  3. 脅威が見えていないが、なんとなく対処できると感じる:未知のことでも探索していける
  4. 脅威が見えておらず、対処もできないと感じる:どっちつかずのまま流される(漂流)

サトマイさんによれば、よくないのは2と4の間を行き来する状態で、現代人にはこれが多い。

十石さんは、自分がまさに2と4に当てはまると答え、例を挙げた。老後2000万円問題には「2000万円」という明確な数字があるので、脅威としては見えている。それでも積み立てなどの行動はしていないので、2の「フリーズ」にあたる。一方、本当に2000万円でいいのか、どんな生活を望むかで必要な額も変わる、といった漠然とした将来の不安は、脅威が見えていないので4の「漂流」にあたる。

サトマイさんはこの例を分かりやすいと評価した。そのうえで、お金をうまくコントロールして資産も貯めている人は、1と3の間を行き来しているという。対処できると感じられる理由は、お金を貯めるスキル、稼ぐスキル、知識があることかもしれない。あるいはスキルが特になくても「なんとかなる」と思えることかもしれない。2と4を行き来している状態を、1と3の側へ移すことが目標になる。

脅威は数字で見える化し、対処できる感覚を積み上げる

では、どうすれば移れるのか。サトマイさんの答えは二つある。

一つ目は、漠然とした脅威を可視化することだ。2000万円をどうやって貯めるのかという大きな問題も、数字にすれば扱いやすくなる。サトマイさんは「計測できるものは改善できる」と言う。年利4%や5%でいくら積み立てれば何歳でいくらになるか、実際に計算しておくことを勧めた。

二つ目は、より重要だとサトマイさんが言う「対処できると感じられるか」だ。そのためには、スキルや知識をつけることに加えて、何が起きても自分ならなんとかなると思える心理的な土台が必要になる。実家が裕福で頼れる場所があることも要素の一つであり、自分の健康に気を配ることも含まれるという。

冒険できない気質と「自己決定」

十石さんは、お金に限らず、冒険したい、いろいろ挑戦したいとあまり思えないと打ち明けた。転職は初めて「探索」ができた部分かもしれないが、それ以外では安定を求め、今のままがいいと保守的に考えてしまう。その根本的な考え方が、お金の不安にもつながっているのではないかと言う。

サトマイさんは、時間をテーマにした前著で紹介したデータを引いた。人間の幸福度に最も影響する変数は、学歴でも収入でもなく「自己決定」だという。周りに流されず、自分がこうしたいからこうする、という姿勢のことだ。これを持っている人は、収入や学歴よりも幸福度への影響が大きく、日本人のデータでそう示されているとサトマイさんは説明した。

十石さんはそれまでなんとなく保守的に、周りと同じように生きてきたが、自分の意思でサイバーエージェントへの転職を決めた。サトマイさんは、だから今はおそらく幸福度が高いはずだと話す。お金に対しても転職のときと同じ姿勢で臨めばいい。何のためにお金を貯めるのか、自分がどうありたいのかを定めれば、そのために貯めよう、リスクを取ろうと考えられるようになるという。

稼ぎ方より使い方をコントロールする

十石さんは、お金の情報が多すぎて何から始めればいいか分からず、それが行動を妨げていると話した。サトマイさんは、稼ぎ方よりも使い方をコントロールできるようになるほうがいいと答えた。

本の中では、どんな状況でも自分ならやれるという自信を「自己効力感」と呼んでいる。これを育てるうえで大切なのは、自分はお金をきちんとコントロールできる人間だという実績を作ることだ。衝動買いは自分でコントロールできている状態ではない。残ったお金をどう配分するかを計画し、そのとおりに行動する。この実績を積むと「自分はお金を扱える側の人間だ」という自信が育つという。サトマイさんはこれを「お金のリモコンを自分で握る」と表現した。

十石さんは、これまでの自分を振り返った。買い物ではなんとなく欲しいものを買い、旅行もお金のことは考えずに行きたいから行っていた。お金の使い道を外部の環境に決められていた部分がある。不安があるのに動けない自分がとても嫌だとも話した。

先延ばしした「未完了タスク」が頭を占める

サトマイさんによれば、不安にはもう一つの要素がある。本当はやろうと思っているのにできていないことだ。これを「未完了タスク」と呼ぶ。先延ばしし続けている状態は脳のリソースを消費し、気分が落ち込んだり不安に悩んだりする原因になる。だから、どこかのタイミングで一度片付けたほうがいい。

具体的には、前半で話した脅威の見える化を実際に終わらせることだ。この計画でお金を貯めれば何歳頃にいくらになる、という計画を一度立てる。収支を見直す。終わらせてしまえば、それは頭の中に浮かんでこなくなるはずだという。十石さんは先延ばし癖があると認め、今できる対処をやらずに持ち越しているから、不安がずっとつきまとっているのかもしれないと話した。

いきなり難しいことをしなくてもいい、ともサトマイさんは言う。お金や仕事の不安について「考える時間」を予定に入れるだけでもいい。悩むことをスケジュールしてしまうのだ。サトマイさん自身、誰かに謝らなければならないことを先延ばしにする傾向があるという。「誰々にこの日に謝る」と予定を入れてしまえば、一旦忘れられる。悩んでいることや不安なことを一度紙に全部書き出し、それぞれいつ考えるかを決めていくと、頭の中がかなり整理されるという。

十石さんは、仕事のタスクは帰る前にToDoリストとして書き出し、翌朝確認して終わったら消していると話した。それを実生活でもやればいいのかと尋ねると、サトマイさんはToDoリストとは別に「不安リスト」を作るよう勧めた。十石さんは今日からやると答えた。

「お金があればなんとかなる」は幻想

サトマイさんの本は冒頭で「人生お金があればなんとかなるは幻想」と結論を述べている。お金の不安の原因は自立が足りないことではなく、十分に依存できていないことだ、というのが本の主張だ。

NISAや貯金、ゴールドやプラチナといったコモディティでポートフォリオを組み、リスクを分散している人はいる。しかしそれは金融資本の中だけでの分散だとサトマイさんは指摘する。日本に住んで日本株だけを持っていて、日本の価値が下がったらどうするのか。実際にそうなるかは分からないが、そうした不安は残る。仮に金融資本を失っても、自分が持っている他の資本でもう一度資産を築ける状態こそが本当の経済的自立ではないか。本ではそう提案し、その築き方を説明しているという。

「8+1+1」の資本と積み上げる順番

本では「8+1+1」の資本を紹介している。対談で説明されたのは最初の8つの資本と、それを積み上げる基本的な順番だった(残りの「+1+1」の中身は対談では語られていない)。

まず土台になるのが、最低限の金融資本、健康資本、物的資本(住む場所や仕事用のパソコンなど)、心理的資本の4つだ。心理的資本について、サトマイさんは、どんなに良い環境で暮らしていても前向きに行動しようと思えなければ学習も成長もできないので、メンタルがある程度健全であることが必要だと説明した。

その上に積むのが人的資本と社会関係資本である。人的資本は知識、スキル、仕事の能力、技術など。社会関係資本は人脈や、実績などに基づく社会的な信頼を指す。

さらにその上に、自然資本と文化教養資本がある。サトマイさんは田舎に住んでいて自然資本は満たされているが、東京にも家がある。東京にいると自然がなくて気分が落ち込むという。日当たりの悪い場所に住むと、日光を浴びないとセロトニンが作られないため鬱っぽくなることがある。日光を浴びられるか、空気が汚れていないかといった点が自然資本にあたる。文化教養資本は、生き方、哲学、思想、自分が何に価値を感じるかという価値観のことだ。これがある程度明確でないと燃え尽きやすいという。25歳ではまだないかもしれないが、30代から40代、結婚後、あるいは社会的に成功して目標を達成した後に目標を見失い、バーンアウトする人がいる。自分の中に一本通った軸を持てるかどうかが問われる。仕事やお金の話しかしない人は人間的な魅力を疑われることもあるので、教養も必要だとサトマイさんは述べた。

順番は人それぞれだが、これが基本的なやり方だとサトマイさんは考えている。最も大事なのは土台の4つだという。

Z世代の土台はある程度整っている

では20代はまず土台の4つを固めるべきなのか。十石さんの問いに、サトマイさんは時代によると答えた。今のZ世代は、昔に比べてブラック企業が減りホワイト化も進んでいるため、土台が損なわれにくい環境にある。明らかに欠けていると感じる部分がなければ、次の段階へ進んでいいという。

十石さんが、今やるべきは社会関係資本と人的資本を身につけることかと確認すると、サトマイさんはそれに加えて、不安があるなら金融資本の部分、つまり計算することや書き出すことを一番最初にやるよう勧めた。

土台が大事な理由について、サトマイさんは「不安を生むから」というより、欠けていると他の資本が育ちにくいからだと説明した。お金がたくさんあっても健康でなければ、物や服を買っても楽しめない。十石さんは、健康で心が満たされていてもお金がなければやりたいことができないし、お金があっても趣味がなく仕事も楽しくなければ幸福を感じられない、と受け止めた。そして自分は金融資本が欠けているから幸せを感じにくいのかもしれないと話した。

サトマイさんはここで補足した。大事なのは金融資産の額よりも、自分が金融資本をコントロールできるかどうかだ。きちんと計画を立て、自分はお金を扱える、仮に失っても取り戻せる、と思える状態をまず作る。資産額より先にそちらが大事だという。

何のために働くのか

最後に十石さんは、今回の悩みの根本にある問いを投げかけた。老後のための投資は、60歳以降、定年後の「守り」のお金というイメージがある。老後のために働くと考えれば、若者の勤労意欲は削がれるのではないか。自分は何のために仕事をして稼いでいるのか。

サトマイさんは「何のために稼ぐのか」より「何のために仕事をするのか」を自分に問うよう勧めた。サトマイさん自身は、少し前までは自己実現、つまり自分の才能を使って世の中に貢献するために働いていると明確に考えていたという。

「何のために」を考えるコツは、利己的な部分と利他的な部分が重なっているかどうかだという。人間は自分のためだけではあまり頑張れない。人が喜んでくれるから頑張ろうと思える。お金のためだけに働くと燃え尽きやすい。1000万円貯めたら目標がなくなり、どうしようとなる。誰かがいるから頑張れるのが人間の特性だとサトマイさんは考えており、自分にとっても相手にとっても幸せになる部分を言葉で定義してほしいと述べた。

十石さんは、これが先ほどの自立と依存の話にもつながると受け止めた。これまではお金さえあれば何でもできると思い、お金に依存していた。一つだけに依存していると、それを失ったときに崩れてしまう。いろいろなものに頼れる状態を作っておけば、お金への不安も薄れ、生きる目的を持ちながら充実した生活が送れるのではないか。

サトマイさんは、お金を失っても、これがあれば自分は再起できると思える何かを持つことが大事だと応じた。椅子の脚と同じで、少なくとも三つあれば立つ。20代のうちは、まず三つほど安定した土台を作ってほしい。それがサトマイさんの最後の助言だった。