元駐中国大使・垂秀夫氏が採点する米中首脳会談:米国50点、中国80点弱、日本65点

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概要

今回の米中首脳会談で、米中日それぞれは何を得て何を失ったのか。前駐中国大使で現在は立命館大学教授の垂秀夫氏は、あえて点数をつけるなら米国は50点、中国は80点弱、当事者ではない日本は60〜65点だと見る。垂氏の総括は「トランプ大統領の習近平に対する厚遇ぶり」が目立った会談というものだ。本稿では、その採点の根拠と、背後にある習近平の時間軸を重視した対米戦略、日本外交の成果と課題について、垂氏の分析を整理する。

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成果を三つの層で見る

垂氏は、米中首脳会談の成果を三層、あるいは四層に分けて見るべきだと言う。第一は「ノンセンシティブ・イシュー」で、大豆をどれだけ買うか、ボーイング機を何機買ってもらうか、中国の家電やおもちゃがどれだけ売れるかといった、機微性の低い貿易・関税の話である。第二は「センシティブ・イシュー」で、米国にとってはレアアース、中国にとっては半導体を中心とする対中規制下のハイテク技術がこれに当たる。第三が台湾問題で、今回はさらにAIの議題も加わった。

この枠組みで見ると、比較的合意しやすいはずの第一層ですら一部しかまとまらなかったと垂氏は指摘する。これまで続いてきた、互いに極端な高関税をかけるのをやめるという貿易休戦は、2カ月延長されただけだった。最大の成果と言えるのは、いわゆる「30・30」、つまり双方300億ドルずつの品目について特別に関税を下げる枠組みがほぼまとまったことだ。米国側は農産物、水産物、木材、医療器具などを売り込み、中国側は家電などを売る。ただし具体化はこれからである。

新たに決まったものとしては、ほかに石炭を2年間で1000万トン購入することがある。大豆2500万トンを含む約300億ドルの農産物購入は今回特に発表されていないが、これは以前から米中間で決まっていた既存の合意だという。垂氏によれば、新規の成果は「30・30」と石炭くらいで、ほとんどないに等しい。

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レアアースは継続協議、台湾で失点はなし

第二層については、米国が強く望んでいたレアアースが継続協議に回され、米国はほとんど点を取れなかったと垂氏は見る。台湾問題については、前回は「オウンゴール」のようなことをしていたが、今回は特段の失点がなかったので良しとできる。AIについては今後協議していくことが決まった。

これまでの見方では、トランプ大統領は中間選挙の前に中国との間で相当の成果を上げるだろうとされ、本人もそれを狙っていたはずだと垂氏は言う。しかし実際には大した成果はなかった。これが米国50点、つまり60点の及第点に届かないという評価の理由である。トランプ大統領が本当に欲しかったのは、レアアースに加え、ボーイング機を何百機、大豆を新たに何千万トンといった目に見える購入の約束だったと垂氏は推測する。ホワイトハウスやトランプ氏自身は農民が非常に喜んでいると語っているが、垂氏は、自身は米国の専門家ではないので本当に喜んでいるかは分からないとしつつ、大した成果でないのは明らかだと述べた。

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厚遇の理由:権威主義指導者への憧れと米国社会の対中感情の変化

トランプ大統領が空港まで習近平を出迎えたことについて、垂氏はこれを極めて異例だとする。その理由について垂氏は、トランプ氏の心の中までは分からないと断ったうえで、同氏が習近平、プーチン、金正恩といった権威主義国家の指導者に憧れを持っており、習近平を大事にしようとしているのは明らかに見受けられると語った。

もう一つの背景として垂氏が挙げるのは、米国社会の対中認識の変化だ。反中感情はまだ強いものの、それがかなり緩んできている。さらに、中国を封じ込めるよりも、競争はしつつ安定した関係を持つべきだという考え方が、党派を超えて広がっているという。こうした空気がなければ、中国の指導者を空港で出迎えることは政治的リスクになりかねない。トランプ氏がそのリスクをあまり感じずに済んだという面もあるかもしれない、というのが垂氏の見立てである。

反中感情が和らいだ背景について垂氏は、中国とずっと対抗していてどれだけ得るものがあるのかという問いがあること、また中国自身がここ2〜3年、戦狼外交を弱めていることを挙げた。こうした変化は2024年ごろから少しずつ見られ、どちらかといえば民主党支持者にそうした考えを持つ人が多いという。聞き手が、部品やオープンに提供される安価なAIなど、経済界が中国なしでやっていけず融和的になっている面もあるのではと問うと、垂氏は、それは日本を含めどこの国にも間違いなくあると答えた。

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「米中はかつて同盟国だった」というナラティブ

今回、両首脳からは米中が第二次世界大戦で同盟国だったという趣旨の発言が出た。垂氏は、その意味をそれほど大きく受け止める必要はないとしつつも、習近平とトランプ大統領の言葉は「同盟」「肩を並べて」といった表現で互いに共鳴し合っていると指摘する。ただし双方の狙いは違う。中国側には、もはや隠れてもいないアジェンダとして、日本叩きのナラティブが明らかに含まれている。一方の米国は、競争を残しつつ安定が必要だと考えたとき、歴史の短い米国が中国と大きな意味で協力した時代を探すと、どうしてもあの時代に戻ってしまうのだという。

垂氏はこれが初めてではないとして、約30年前の1997年、江沢民国家主席の国賓訪米を例に挙げる。1989年の天安門事件で共産党の正統性が大きく傷つき、90年代には愛国主義教育が進められた。それは抗日教育であり、そこから反日につながっていく。そうした時期に訪米した江沢民は、まず真珠湾のアリゾナ記念館を訪れ、米中はかつて同盟国だったと訴えた。クリントン大統領もワシントンで同じことを語った。クリントンにしろトランプにしろ、米中で協力できたナラティブを探すとあの時代に戻る、と垂氏は説明する。

習近平の状況も江沢民とよく似ていると垂氏は言う。ゼロコロナの失敗や経済不調によって、民主的な選挙を経ていない共産党がなぜこの広大な中国を統治するのかという正統性への疑問が、都市部の教育水準の高い層などから投げかけられている。そうなると、また反日、日本叩きに向かう。だからこのナラティブには日本叩きの側面がどうしても出てくるという。

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ファクトシートに見る米国のバランス

今回、米中間で共同声明は出されず、ホワイトハウスがファクトシートを出した。そこには米中がともに同盟国だったことが書かれている。垂氏は、日本人の立場からすれば書かなければよかったものだとする。ただし、その直後には、戦後米国がインド太平洋、とりわけ東アジアに米軍の前方展開プレゼンスを置き続け、それが大きな貢献をしてきたこと、今後もそうであることを趣旨とする記述がある。垂氏はこれを、バランスを取ろうとしたものであり、行間を読めば中国への牽制になると解釈する。つまり米国は、中国のナラティブに完全に乗ったわけではないというのが垂氏の見方である。

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中国が80点弱である理由:枠組みづくり

中国の評価が80点弱と高い理由について、垂氏は、短期的には当面トランプ政権と安定を固めればよいというのが中国の狙いだからだと説明する。5月にも確認された「建設的な戦略的安定関係」に、今回さらにいくつかの修飾語が加わった。中国にとってはまず大きな枠組みを作ることが必要なのだという。

垂氏はここで安倍政権の例を引く。安倍首相が中国との間で当初からうまくやれたのは、「戦略的互恵関係」という枠組みを作ったからだという。中国はこうした枠組みがないと具体的な案件がなかなか動かない。米国との間でもそれを作りたかったし、作れた。垂氏によれば、これだけで中国はもう75点ほど取れている。

台湾問題では、5月のように何かを得ることは、現時点で分かっている範囲では取れていないようだ。しかしトランプ氏が台湾を防衛するといった逆の発言を、少なくとも対外的にはしていないので、マイナスにはなっていない。経済面でも大きな譲歩はなく、レアアースでも譲っていない。対中技術規制については何も得られなかったが、時間軸の観点から安定させ枠組みを作るという目的からすれば十分だ、というのが80点近い評価の理由である。共同声明のような文書が出ていれば80点以上、90点にもなったが、トランプ政権は共同声明を作ることがあまり多くないので、そこまでは行かなかったと垂氏は述べた。

15:32

習近平の「二段階対米戦略」と時間軸

垂氏は自著で、習近平の対米戦略を二段階で整理している。短期的には対話を通じて戦術的な安定を演出し、時間を稼ぐ。垂氏は、今回まさにそれが行われたと言う。中国の戦略的思考は孫子にまで遡り、共産党になってからも毛沢東、鄧小平と、時間をどう稼ぎ、どう利用するかが戦略を考える際の習慣、癖になっている。常に時間軸を入れるのだという。

長期戦略を示す例として垂氏が挙げるのは、5月にトランプ大統領の訪中直後、プーチン大統領が訪中した際に出た中露の共同声明の一つ、「世界の多極化と新型国際関係の提唱に関する共同声明」である。日本ではあまり関心を持たれなかったが、国際法重視や国連重視といった綺麗なナラティブが並んでいる。ウクライナに侵攻しておいて国際法重視とは笑わせる、と垂氏は皮肉る。垂氏の「翻訳」によれば、そこで言いたいのは、現在の世界秩序は公正でも合理的でもないので、中国やロシア、そしてグローバルサウスにとって都合の良い世界に再編するということだ。習近平はプーチンとの間でこうした文書をこれまでも何本か出しており、これが彼らの長期的な国家戦略だという。

現在の秩序を主導してきたのは米国をはじめとする西側諸国である。毛沢東的な用語で言えば米国が「主要矛盾」になり、長期的に戦う相手は米国だということになる。2021年1月の重要演説で、習近平は現在を「百年に一度の大変局」と述べ、「時と勢いは我が方にある」と語った。垂氏の解説では、米国の国力は下降線、中国は上昇線にあり、両者がぶつかれば摩擦が生じるが、時間は必ず中国に有利だという見方である。

一方、短期的にはまだ総合国力で米国に及ばないため、時間稼ぎ、いわば「踊り場」が必要になる。それが今だと垂氏は言う。時間を稼いでいる間に、たとえば対中規制下にある半導体関連技術でブレークスルーを起こせれば、5年後、10年後にゲームチェンジが起こり得る。そうすれば米国を超えられるという発想だ。垂氏は、中国が「戦略的」という言葉を使うこの関係を、自らの分析では「戦略的観点から見た戦術的安定」と位置づける。そしてこの展開は、自分がずっと分析・予測してきた通りになったと述べた。

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時間稼ぎは正しいのか

では、現状維持が続けば中国にとって問題ないのか。この問いに対し垂氏は、これはあくまで習近平の時間軸であり戦略であって、うまくいくかどうかは分からないと答えた。毛沢東は1937年から45年までの8年間をうまく利用し、国民党と日本軍を戦わせて自らは力を温存し、日本の降伏後に国民党に勝った。しかしその後、10年でイギリスを追い越すと言った大躍進は大失敗している。常に成功するわけではなく、大事なのは彼らがこうした時間軸を入れた考え方をしているという点だという。

聞き手が、プラン通りには進んでいるがプラン自体が中国にとって正しいかは分からないということかと確認すると、垂氏はそれに同意した。経済は悪く、本当に素晴らしく強くなる国であれば、多くの富裕層が国を捨てることはない。今は多くの富裕層が国を出ており、一部は日本に来ている。うまくいっていない部分が大きく、その最大の理由の一つは権力が一人に集中していることだと垂氏は述べた。

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日本の65点:日本外交の成果

日本の点数について、垂氏は日本外務省と在米大使館がよく頑張ったと評価する。自身が外務省出身だから言うわけではないと断ったうえで、国連の場でトランプ大統領と高市首相の首脳会談を、たとえ35分とはいえ実現させたことを挙げる。国連の非常に狭いウィンドウの中で会談を設定するのは容易ではなく、しかも米中首脳会談の前に日本側の考えをトランプ大統領に伝えられたことは非常に大きかったという。台湾問題や対中規制について、中国にとってのブレークスルーとなるような米国側の譲歩がなかったことも安心材料だ。

さらに垂氏は、直前に行われた日米韓の外相会談を非常にタイムリーだったと評価する。そこで出た共同声明には、台湾海峡の平和と安定の重要性が明記され、力や威嚇による現状変更に反対することが書き込まれた。垂氏はこれを中国に対して明確に「ノー」を示したものと読む。ルビオ国務長官は台湾問題・中国問題を非常によく理解しており、日本の外相もいい仕事をしたと垂氏は見ている。

米中が同盟国だったという発言についても、事前の首脳会談がなければ、日本は米国から「外された」「軽んじられた」と感じ、相当な感情の揺さぶりがあっただろうと垂氏は言う。実際には事前に首脳会談を行い、事後にも電話会談で説明を受けているため、日本にとってそれほど大きな話にはなっていないという評価である。

24:03

それでも日本が満点を取れない理由

ただし垂氏は、米国が本当に日本との同盟を大事にするなら、そもそもファクトシートにああした記述を入れるべきではないと指摘する。そこは日本にとっての減点部分だという。加えて、日本は当事者ではないため、そもそも100点は取れない。中国の対日政策は米中関係の従属変数であり、米中関係が良くなれば、中国から見た日本の相対的重要性が落ちていることがより明確になる。米中は今後さらに2回会うことになっており、これはある程度仕方がないと垂氏は言う。

実際、中国側の地方紙はトランプ氏の「米中は同盟国だった」という発言を捉え、日本はまだ米国と一緒に中国を封じ込めようという幻想を抱いているのか、米国はもうそうではない、とかなりひどい言葉で批判しており、揺さぶりはすでに始まっていると垂氏は紹介した。それでも、日米韓の共同声明も高市首相とトランプ大統領の会談もなければ30点ほどの相当まずい状況だったとし、実際には及第点以上の65点程度は十分取れたと評価した。

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トランプの次と、日本の「戦略的自立」

最後に聞き手は、トランプ大統領の後継候補としてルビオ氏やバンス氏の名を挙げ、日米関係や台湾問題を最も深く理解し日本にとって良いシナリオになりやすいのは誰かを問うた。垂氏は、共和党であればルビオ氏は台湾問題を相当よく分かっていると答えた。そして、あえて言えばトランプ氏以外の人はみなよく分かっている、と語る。問題の本質は力による現状変更であり、それは広く理解されているが、トランプ氏だけは習近平に若干持っていかれている、認知工作を受けているような部分もないわけではない、という見方だ。

米国の専門家ではないと断りつつ、垂氏は今後の米国には二つのタイプの指導者が出てくると見る。一つはトランプ氏や、おそらくバンス副大統領のように自国の利益を最重視し、世界秩序よりも力とディールを優先するタイプ。もう一つは民主党的な同盟重視のタイプで、垂氏は、2013年に確かリビアに関する演説だったかとしながら、オバマ大統領が米国はもはや世界の警察官ではないという趣旨を述べたことを挙げる。一国では世界を維持できないから同盟が大事だ、というのが民主党的、オバマ的なやり方だという。

日本にとってやりやすいのはもちろん同盟重視の方だ。しかし垂氏は、同盟重視を掲げる民主党でも、日本製鉄による買収の件では最後にバイデン氏の本性が見えたと指摘する。だからこそ日米同盟はあくまで日本の国益を実現するための手段であり、日本はそうした戦略的自立を持たなければならないと垂氏は強調する。民主党的な大統領であれトランプのような大統領であれ、米国に完全に体を預け、依存し、傾いてしまうことはしてはいけない、というのが垂氏の結論である。