尾州ウールのツイルで作るシャツはなぜ他にないのか:MBが語る産地の事情と「パーマネントウールシャツ」

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概要

ファッションバイヤー・ブランド運営者のMBが、自身のブランドで長年展開している尾州ウールのシャツ「ULTIMATE 尾州 FABRIC - PERMANENT WOOL SHIRT」(税込3万1000円)を解説した回である。前半では、日本の毛織物産地である尾州がどういう場所で、なぜその名前が一般にはあまり知られていないのかを業界の構造から説明する。後半では、このシャツの生地、今回のシルエット変更の理由、そして「細いものが流行る」という単純なトレンド解釈への反論を語っている。

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ブランドが産地名を言わない理由

MBによれば、もともと「尾州のウール」を打ち出すブランドは多くなかった。最近はだいぶ増えてきたが、その流れに自分も多少は貢献できたのではないかと話者は考えており、尾州の産地の人たちも喜んでくれているという。

ブランドが素材の出どころを明かさないのは、真似されるからだとMBは説明する。尾州の機屋(はたや)や整理加工工場の数は多くないため、「尾州のウールを使っている」と言えば、どの生地かはほぼ絞り込めてしまう。MB自身のブランドでいえば、尾州の機屋(字幕では「中伝さん」「中伝さん」と聞こえる)の生地を使い、加工は同じく尾州の整理加工工場(「藤さん」と聞こえる)に依頼しているという。ルートが少ないので、辿ろうと思えばいくらでも辿れる。

MBは、真似すること自体を悪いとは言っていない。業界では大きなトレンドが一つ走り、皆がそれに合わせて商品を開発するのが普通だという。ただ、産地の側は生地をたくさん売りたいので、自分たちの仕事をデザイナーや一般に広く宣伝してほしいと考える。一方でブランドの側は、自分だけがその生地や工場を知っている状態を保ちたい。この利害のずれを、MBは「ジレンマ」と呼んでいる。

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世界的な素材産地としての日本と尾州

MBはこのチャンネルでも繰り返し、日本は素材の名産地だと話してきたという。ニットなら和歌山、新潟、山形、カットソーは和歌山、デニムは岡山といった具合である。デニムについては、30年ほど前はイタリアのデニムが主流だったが、イタリアのブランドも岡山に調達を切り替えるケースが増え、今では究極にクオリティの高いデニムは岡山というのが業界の常識だと話者は述べる。ドルチェ&ガッバーナやプラダも岡山のデニムを使っているという。ただしイタリアにも良いデニムは多く、特殊なものが多いとも補足している。

ウールについては、尾州が世界三大産地の一つであり、尾州のウールを使っていないメゾンやハイブランドを探す方が難しいとMBは言う。マルジェラ、ジル・サンダー、ディオールなど、思い浮かぶハイブランドのほぼすべてがどこかで尾州のウールを使っていると「ほぼ断言できる」と話している。

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縮小のあとに尾州が選んだ道

尾州はもともと巨大な産地だった。しかし中国の大量生産や、化学繊維の品質向上によって状況が変わったとMBは説明する。かつては天然繊維しかなかったが、ウールより安くウールらしい素材を作れる化学繊維が出てきたことで、ウールの需要が落ち、尾州の規模は縮小していった。

生き残りをかけて尾州が取った方向は、大量生産ではなく、品質にこだわったウールを小ロットでも受けるというものだったと話者は見ている。その結果、メゾンやハイブランドから別注の依頼が来るようになり、今は世界的な高品質ウール産地として回っている、というのがMBの理解である。

さらに尾州は地域のつながりが強い。機屋だけでなく整理加工工場などが周囲にあり、名古屋や大阪には繊維商社もある。横のつながりができているため、特殊な素材や変わった生地を作っても卸し先が見つかりやすく、効率よく高品質なものを提案できる産地になっているとMBは語る。

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「近所でルイ・ヴィトンが作られている」ことを誰も知らない

こうした事情は、真似を避けるために表に出されない。そのため、日本に高品質な繊維産業があり、自分たちの近所でルイ・ヴィトンの生地やマルジェラの生地を作る機屋があることを、多くの人は知らないとMBは指摘する。

新潟出身のMBは、新潟にも超有名ハイブランドの製品を作っている工場や、アメリカの有名ブランドのシャツを縫っている縫製工場があり、コム デ ギャルソンも一部を新潟で縫っていると話す。ただ、具体的な名前は出せないという。

MBの立場は、こうした産地の仕事をむしろ前面に出したいというものである。そこで自身のブランドでは、尾州の名前を入れた特別なタグを作り、ハイエンドの尾州ウールシリーズとして展開している。MBを逆さにするとBW、つまり「尾州ウール」に見えるという遊びも込めている。これによって、服に詳しくない人にも尾州という名前が少し浸透し、「うちも尾州のウールを使っている」と言うブランドが増える流れを多少は作れたのではないか、と話者は自負を語っている。

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このシャツと同じ生地のシャツがほとんどない理由

尾州ウールを使うブランドは増えたが、このシャツと同じウールのツイル生地でシャツを作っているブランドは、MBの知る限りほとんどないという。海外ブランドで一度見たことがある程度だそうだ。

この生地はジャケットやスーツに使うブランドは多く、MBのブランドでもジャケットを作ったことがある。ジャケットなら芯地や裏地で張りが出るので、この厚みでも十分すぎるほどだという。シャツとしてはそこそこ分厚い生地で、ツイルで厚みがあるからこそ光沢感が出て、海外のメゾンのような風格のある印象になるとMBは評価している。

それでもシャツで他社が出てこないのは、生地のメーター単価が高く、同じように作ると4万円、5万円になってしまい、市場での競争力が下がるからだと話者は説明する。ウールジャージーなら近い価格で出すブランドもあるが、このツイルのシャツはほぼ見かけないという。

MBのブランドが3万1000円で出せる理由として、話者は余計なコストをかけていない点を挙げる。広告宣伝費はゼロで、作るのも宣伝するのもMB自身、物流は地元・新潟のブランド専用の倉庫が担っている。小さな規模で最低限のコストに抑えているからこそできる価格であり、だから生地の出どころを明かしても他社が追随できないのだろう、とMBは見ている。また、定番として何度も作るうちに縫製工場の縫い子が上達し、初期モデルよりかなりきれいな仕上がりになっていると話す。

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着丈と袖を長くした理由

今回はマイナーチェンジとして、シルエットを変えている。正確には、以前に超高品質な生地で作った尾州シャツと同じ形で、定番素材でこの形を作るのは初めてではないかとMBは述べる。

これまでは着丈の短いカジュアルシャツだったが、今回は着丈と袖丈を長めにした。オーバーサイズではなく、袖まわりも比較的スリムにしている。理由は「クラシックの流れ」だと話者は説明する。短いシャツはブルゾンやワークシャツに近く、ドレスシャツはタックインを前提にしているため着丈が長いのが正統である。袖もジャケットから少し覗かせるため長めに作るのが一般的だという。

ただし誰もがタックインするわけではないので、長くしすぎるとだらしなくなる。袖も典型的なクラシックの長さだと、今のカジュアルのトレンドでは短すぎる。そこで袖に少したるみを持たせてルーズな印象も加えつつ、身幅や肩幅は過剰に大きくしていない。生地がとろみのある質感なので、大きくしてもオーバーな印象にはなりにくいとMBは話す。

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「細ければ今っぽい」は誤解だという主張

MBは、ビッグシルエットが縮小して細身のアイテムが増えていく流れはあると認めつつ、すべてが細く小さいものが正しいわけではないと主張する。パンツにしても、スキニーが本格的に来るまでにはまだ時間がかかるというのが話者の見方である。

シャツについて「今は細めが流行りだから、コンパクトで着丈も短く、肩幅もきっちり」と考えるのは認識として間違っているとMBは言う。トレンドがクラシックに向かっているなら、ジャケットもシャツも着丈が長い方が今っぽくなる。ビジネススーツやドレススーツを考えれば、着丈が短い方がカジュアルなのは分かるはずで、燕尾服などフォーマルになるほど着丈は長くなる。ビッグからコンパクトへという文脈もあるが、ストリートからクラシックへという流れもトレンドの一つの軸であり、シャツならタイトフィットより、長い着丈でクラシック感を出すのが今の流れでは正しい、というのがMBの立場である。

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生地の仕様と色

素材はウール100%のツイルで、Super120'sの原料を使い、80番手の糸で織られている。光沢感が強く、同じサックスブルーでも、コットンのブロードとこのウールでは風合いがまったく違うとMBは言う。

色は黒、オフホワイト、チャコールグレー、サックスブルーの4色。歴代で一番人気はサックスブルーで、もともと存在しなかった色をMBのブランドが別注で作ったと記憶しているという。今は機屋が通常展開しているのではないかとも話している。サックスブルーは出す回と出さない回があるが、今回はトレンド的にも鮮やかなブルーが増えており、差し色として欲しい人がいるだろうと考えて作ったという。

染めは生地や製品の段階ではなく、糸の段階で染める糸染めである。糸染めは極めて難しいが、深みのある色表現ができるとMBは説明する。

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洗濯とシワ

糸に樹脂加工を施してあり、洗えるようになっている。MB自身は洗濯機の手洗いモードで洗っており、ネットに入れて単品で洗えば問題ないという。乾燥機は使わず干して乾かす。そもそもウールは天然の消臭効果があり、形が戻る力もあるので、コットンほど頻繁に洗う必要はないとも話している。

樹脂加工によってシワもつきにくい。まったくつかないわけではないが、日常で困ることはほぼなく、洗ってハンガーに掛ければほとんどのシワは消え、気になる人はスチーマーを当てればほぼ完璧に取れるという。一般的なシャツと比べてケアは圧倒的に楽だとMBは評価している。

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サイズ選び

MBは身長175cm・体重69kgでMサイズを着用している。デザイナーとして想定する着こなしはこの体格でMだが、ワンサイズ落としてSにし、ゆとりを減らすのもありだと話す。

ゆとりにこだわる理由は、クラシックなトレンドに加え、生地に余りがあるとウールのドレープ感が強く出て「クワイエットラグジュアリー」的な雰囲気になるからだという。ドレープが崩れないよう、前立てを省略してステッチを際に入れるなど細部も作り込んでいる。ただ、ビジネスシャツやクラシコに慣れた人には大きく感じられる場合もあるので、その場合はサイズを落とせばよい。逆にサイズを上げるのは、生地がやや硬めでオーバーサイズにしてもきれいに出ないと考えられるため、あまり勧めないとしている。

最後にMBは、商品名の「パーマネント」の通り、トレンドに合わせたマイナーチェンジは続けつつも長く使えるシャツだと位置づけ、このクオリティを税込3万1000円で出せるブランドはそうないと締めくくった。イベントでも評価が高く、毎回の発売で色を買い足す人や、届いて驚いたという連絡が多いという。