画面のないUSBオシロ「PicoScope」は実用になるのか 8チャンネル機6824Eで検証する

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概要

電子工作系YouTuberのイチケンが、イギリスのPico Technologyが販売するUSB接続型オシロスコープ「PicoScope」をレビューした(動画はPico Technologyの提供)。本体にディスプレイがなく、パソコンに接続して専用ソフトで操作するタイプである。ハードウェアの構成、ソフトウェアの操作感、性能、独自機能を順に確かめ、従来のベンチトップ型との違いを探っている。使用した機種は8チャンネルの「PicoScope 6824E」だ。

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Pico TechnologyはPCベースの計測器を得意とするメーカーで、オシロスコープのほかにデータロガー、ネットワークアナライザー、自動車用の診断ツールなどを展開している。どの製品もパソコンにつないで使う前提になっている。

外観と入出力端子

ディスプレイがないぶん、本体はかなり小さい。イチケンは、波形取得の基本機能とパソコンとの通信だけを載せればよいので、ここまで小型化できるのだろうと見ている。外装は基本的にプラスチックで、モデルによって異なる。今回の6000シリーズは冷却を重視し、筐体の一部をアルミのヒートシンクにしている。

正面にはアナログ入力が8チャンネル並ぶ。入力抵抗は1MΩと50Ωの2種類で、イチケンによればミドルレンジからハイエンドのオシロでよくある構成だ。ただし最大入力電圧は±20Vである。他社製オシロの1MΩ入力は300V RMSであることが多く、それと比べるとかなり低い。8チャンネルのうち両端のA、B、G、Hは通常のBNC端子で、中央の4つはアクティブプローブへの電源供給と信号のやり取りができるBNC端子になっている。

Pico Technologyのサイトに載っているアクティブプローブのラインナップを見て、イチケンは当初、低電圧のアナログ信号やデジタル信号を見る用途が中心だと考えた。ただ、クランプ式電流プローブや高電圧差動プローブもあるので、パワーエレクトロニクス関係の測定もできそうだと述べている。

デジタル入力も備える。オプションの8チャンネルのデジタルプローブを2本接続でき、合計16チャンネルになる。付属品は帯域500MHzのパッシブプローブ4本だった。背面にはトリガー入出力、同期用の10MHz入力、ファンクションジェネレーター出力、電源入力、パソコン接続用のUSBコネクタがある。

電源はACアダプター方式である。イチケンは、USBオシロや最近の小型オシロでは外部電源が多いと指摘する。配線が面倒なので本当は電源を内蔵してほしいが、設計上難しいのだろうと推測している。なお2000、3000、4000などの下位モデルはUSBバスパワーだけで動くので、パソコンがあれば足りる。

起動と無償ソフトウェア

専用ソフトを起動してUSBを接続すると、画面上から本体の電源を入れられる。接続から10秒以内に使える状態になった。

このオシロで重要なのはソフトウェアである。ソフトのダウンロードは無償で、最初から全機能を使え、追加ライセンスもいらない。このため、実現できる機能はどのPicoScopeでも基本的に同じになる。機種間で違うのはチャンネル数、サンプリングレート、メモリ容量といったハードウェア性能だ。ソフトは比較的頻繁に更新されており、イチケンは、ソフトをあまり更新しない会社もあるなかで使う側として安心できると評価している。

マウス前提のUIと、柔軟なウィンドウ管理

UIはマウス操作を前提にしている。画面左にチャンネル設定が並び、クリックすると設定項目が開く。波形の軸をドラッグすれば位置を動かせる。レンジは手動と自動を選べ、自動にするとチャンネルごとに振幅を調整してくれる。イチケンは、こうした機能を持つオシロをあまり見たことがないという。

イチケンが特に拡張性が高いと評価したのが、波形ウィンドウの扱いである。画面左下の「ビュー」からスコープ(波形ウィンドウ)を追加し、たとえばScope 1にA・B、Scope 2にC・D・Eを表示するといった振り分けができる。同じ波形を複数のウィンドウに重複して表示することも可能だ。イチケンによれば、これができるオシロは多くない。MATH機能で疑似的に実現できる機種もあるが、その場合はおそらく動作が重くなるという。PicoScopeでこれができるのは、処理をすべてパソコン上のソフトで行っているからだろう、とイチケンは見ている。

ウィンドウは縦並びとタイル状を切り替えられ、別ウィンドウとして切り出してマルチディスプレイの別画面に移すこともできる。スコープは1画面に8個まで入り、9個目から新しいウィンドウが開く。17個以上ではさらに別ウィンドウが開く仕様だった。1つのスコープに複数のタブを持たせ、タブごとに違う波形を見ることもできる。

ただし、波形を大量に表示すると動作がややもたつく。本体はデータをパソコンに送るだけで、波形の処理はすべてパソコンが担うため、イチケンはこのもたつきをパソコンのスペック次第の部分が大きいと考えている。

時間軸・レンジ・分解能向上

画面左上で時間軸とサンプルレートを設定する。項目を開いてマウスホイールを回すと時間軸が変わり、イチケンはベンチトップ機の物理ノブにかなり近い感覚だと述べる。表示の反応もサクサクしていて問題ないという。隣の「サンプル」では、メモリ長とサンプルレートのどちらを優先するかを選べる。

電圧レンジもボタンかホイールで調整できるが、こちらはホイール操作でかなりもっさりした。カップリングはAC、DC、DC 50Ωの3種類で、プローブの種類と減衰率も選べる。DSPの項目にはローパスフィルターのオン・オフがあり、効果ははっきり見えた。

「分解能向上」は、内蔵A/D変換器の分解能とは別に、ソフトウェアの信号処理で疑似的に分解能を上げる機能だ。8bitの波形の頂点付近を拡大して試すと、9bit、10bit、12bitと最大+4bitまで上げられた。ただしイチケンは、これはあくまで信号処理の結果で元の信号とは違うので注意が必要だと強調している。

ハードウェア側の分解能も切り替えられる。8bitから10bitにすると量子化誤差がかなり消え、12bitではほとんど分からなくなった。これにソフトウェアの分解能向上を重ねると、最大16bitまで設定できる。

波形の名前と色も変えられる。色はこだわる人向けという印象だが、名前の変更はよく使うという。

操作感全体について、イチケンは、物理ノブやボタンがなくマウスとキーボードだけで操作するためもどかしい部分もあるとしつつ、慣れの問題だと見ている。軸の設定を変えずにホイールで波形を拡大・縮小でき、この種の操作はオシロのタッチパネルより思い通りにいきやすいと評価している。

設定の共有、複数台接続、マスク試験

ソフトが共通なので、本体のハードウェアが変わっても同じ測定環境を作りやすい。「PS設定ファイル」で本体設定を保存できるので、同じ設定を別の機器で使いたいときに便利だという。

1台のパソコンに複数のPicoScopeをつなぐこともできる。実演では4台を接続し、すべて問題なく動いた。イチケンは、生産ラインにUSBオシロを複数台置き、機器の信号がマスクを通れば合格、通らなければ不合格とする使い方を例に挙げた。

実際にマスク試験を試した。ツールからマスクを選ぶと、取り込み中の信号から自動でマスクが作られる。すべての波形が白いマスク領域を通っていれば成功だ。次に、ツールの「アクション」で失敗時の動作を設定する。トリガー出力、パソコン上のアプリケーションの起動、デコードデータの出力などが選べる。今回は分かりやすさのため、爆発音のサウンドを割り当てた。信号を抜くと音が鳴り、失敗回数は9回と表示された。通らなかった信号は履歴として残る。

ソフトウェア重視の製品という評価

ここまで触った印象として、イチケンは、これまでレビューしてきたオシロの多くがハードウェア重視だったのに対し、PicoScopeはソフトウェア重視の製品だと述べる。ソフトをどこまで使いこなせるかが活用の鍵で、パソコンと組み合わせる強みは自動計測のような用途で特に生きるのではないか、という見方だ。組み込み用途や自動計測向けのSDKとサンプルプログラムも無料で提供されている。

ソフトにはデモ用のエミュレーターがあり、本体を持っていなくてもデモ信号を使って全機能を試せる。購入前にどんなことができるかを確認できるわけだ。

タッチパネル液晶をつなげばタッチ操作もできる。反応速度は問題ないが、他社のタッチパネル式オシロと比べると使い勝手はいまひとつだった。マウスより移動が多くなるうえ、タッチではできない操作もある。イチケンは、マウスとキーボードで操作したほうがよさそうだと結論づけている。

6824Eの分解能とサンプルレートの制約

6824Eは帯域500MHz、最大サンプルレート5GSa/s。ハードウェア分解能は8、10、12bitの3種類で、ソフト処理で+4bitまで上げられる。ただし8bitと10bitは全チャンネル同時に使えるが、12bitは同時に2チャンネルまでしか使えない。イチケンは正直なところ残念な仕様だとし、12bitが使えるなら全チャンネル同時に使えてもよいと述べる。そのため、この機種の振幅分解能は実質10bitだと評価している。なお別機種には、帯域は20MHzに下がるものの8チャンネルで12bitのモデルもある。

サンプルレートは、使うチャンネル数と分解能によって下がる。実測した値は次のとおりだ。

  • 12bit:1チャンネル・2チャンネルとも1.25GSa/s
  • 10bit:1チャンネルで5GSa/s、2チャンネルで2.5GSa/s、3〜4チャンネルで1.25GSa/s、5チャンネル以上で625MSa/s
  • 8bit:2チャンネルまで5GSa/s、3〜4チャンネルで2.5GSa/s、5チャンネル以上(全8チャンネル含む)で1.25GSa/s

イチケンは、全チャンネル合計で最大5GSa/sという設計で、メモリに入るデータ量にもよるのだろうと推測している。チャンネル数やビット数を変えたときのサンプルレートの増減はメーカーの設計思想で大きく変わる。欲を言えば常に最大レートを維持してほしいが、そうすると価格がかなり上がるので、そのあたりを考慮した結果だろうと見ている。使い方によっては帯域が足りなくなる可能性があるので注意してほしい、とも述べている。

ノイズフロア

時間軸を10msにし、自動測定でピーク・ツー・ピークとリップル実効値を測った。1MΩ入力ではピーク・ツー・ピークが約2.1mV、リップル実効値が約200μVで、平均では2.2mV程度という値も示された。ハードウェア分解能を変えても、ノイズレベルはほとんど変わらなかった。50Ω入力に終端抵抗をつけた場合は、ピーク・ツー・ピークが約1.8mV、リップル実効値が約170μVだった。イチケンはこれを平均的な値と評価している。

信号発生器と任意波形

背面の信号発生器の出力を入力につなぎ、画面の「Gen」から操作した。周波数、振幅、波形の種類を変えられ、ホワイトノイズを含め大抵の波形がそろっている。「AWG」では任意波形を作れる。波形のインポートのほか、マウスで描いた波形をそのまま出力するお絵かき機能もある。「0101…」と入力してデジタル波形を作ることもでき、デコードのテストなどに使えるという。

さらに、演算チャンネルで作った波形を信号発生器から出力し、それをアナログチャンネルで観測することもできた。イチケンは、アンプの波形やオペアンプの特性の測定などに使えそうだと述べている。

スペクトル表示とスペアナモード

ビューからスペクトル表示を追加すると、上に入力波形、下に周波数解析結果が表示される。10kHzの三角波では10kHzにピークが立ち、ほかの周波数にもピークが現れた。イチケンは、パソコン側で機能を追加できるのだから、ウォーターフォール表示などができると面白いとPico Technologyに要望している。

画面上部の機器設定からは、スペアナを優先して動作する「スペクトルモード」に切り替えられる。このモードでは時間軸の欄がスペクトル設定になり、周波数の表示範囲とビン数を変えられる。ビン数を少なくすると動作は速いが周波数分解能が落ちる。逆に100万ポイント程度まで増やせるが、FFTにかかる時間がとても長くなる。ビン数を少なめにすればストレスなく使えそうだ、というのがイチケンの印象である。

このモードでスコープを追加すると、どの波形の周波数を見ているかが分かる。波形から周波数解析結果へ、またスペクトル上の点をクリックして解析結果から元の波形へと、双方向に行き来できる。スペクトルにマスクをかけることもでき、マスクのない領域にスペクトルが立ったら取り込みを止めて、そのときの波形を見られる。実演でもマスク部分にスペクトルが立った時点で取り込みが止まり、波形を確認できた。イチケンは、実質的にスペクトルでトリガーをかけられる便利な機能だと評価している。

トリガーと「高速トリガー」

トリガーは標準的なエッジのほか、ラント、ロジックなどがある。シリアルデコードには対応しているが、デコード結果でトリガーをかける機能は現時点ではないようだ。

イチケンが注目したのは「高速トリガー」である。通常のトリガーでは、トリガーがかかるたびに波形データを逐次パソコンに送る。送った波形はトリガー横の「波形」ボタンから履歴として見られ、この状態では64個分がリングバッファに蓄えられていた。イチケンの説明では、通常トリガーでは転送時にオシロ内部のリソースが使われるため、出現頻度の低い波形を取り逃すことがある。高速トリガーでは波形を本体内部のメモリにため込み、満杯になった時点でまとめてパソコンに送る。

効果を確かめるため、取り込み時間とトリガータイムスタンプの表示をオンにし、トリガーは自動、時間軸は1目盛り50μsで比較した。通常トリガーでは632回取り込み、2回目のトリガーは前回から19ms後、3回目は最初から56ms・前回から37ms後だった。1回の取り込みは50μsなので、トリガー間に20〜30ms程度の何もしていない期間があり、その間に来た波形は取り逃していたことになる。

高速トリガーに切り替えると、1,000個分のバッファが一瞬で埋まり、まとめてパソコンに転送された。2回目、3回目のトリガーはいずれも前回から60μs後にかかっており、取り込めていない期間は10μsに縮まった。イチケンは、これで出現頻度の低い波形を取り逃す可能性が下がると説明している。

自動測定、ルーラー、シリアルデコード、演算チャンネル

「自動測定」は、振幅や時間に関する値、複数チャンネル間の関係などを個別に表示する機能だ。測定値が閾値を超えたかどうかで合否判定ができ、先ほどのアクションと連動させて、外部へのトリガー出力、デコードデータの出力、波形の保存などを実行できる。似た機能の「ディープメジャー」は、外部連動はないものの、波形が持つ情報をすべて表示する。使うと動作がやや重くなるが、イチケンはおそらくパソコン側の負荷だろうと見ている。

「ルーラー」は他社でいうカーソル機能である。タッチパネルでは細かい位置を選ぶときに誤って軸や波形に触れがちだが、マウスなら細かく操作できて操作感はよいという。

シリアルデコードも最初から無料で、CAN、LIN、I2Cなど一通りそろっている。デジタルプローブを接続すれば、デコードの入力にデジタルチャンネルを選べる。

演算チャンネルでは、波形同士の演算や、波形に関数をかける処理ができる。フィルター、バッファー、各種関数、三角関数などがあり、周波数やデューティ比を数値ではなくグラフとして描くこともできる。実演では、周波数が次第に上がっていく測定波形にローパスフィルターを2回かけ、周波数が上がるほど振幅が小さくなる波形をパソコン上で算出した。演算はパソコン側で動くので本体が重くなることはないが、パソコンの動作が重くなって操作がもたつくことはある。

撮影中に届いたアップデート

撮影の途中でソフトウェアアップデートが届き、画面右上に赤い丸が表示された。更新後は、画面上部に「初期設定」(デフォルトセットアップ)ボタンが加わり、シリアルデコードにisoSPIが追加されていた。グリッチを見つけやすくするため、取得した波形をすべて重ねるオーバーレイ表示も加わった。

イチケンが最も評価したのはアクション機能の改善である。更新前は、アクションのイベントを「自動測定の結果」にしても、どの測定項目をきっかけにするかを選べなかった。更新後はトリガーにする項目を指定できるようになり、使い勝手が大きく上がる良いアップデートだと述べている。

結論:低電圧・組み込み向け、パソコンとの一体運用が強み

パソコンにつないで使うオシロに最初は懐疑的だったが、慣れれば問題ない、というのがイチケンの総括だ。パワー系の測定向けというより、組み込み開発など比較的電圧の低い領域に向いた製品だと見ている。

良い点として挙げたのは3つ。1つ目は、ソフトウェアの全機能が無料で使えることだ。組み込み開発でよく使うプロトコル解析が他社では有料オプションになっていることがあり、営利企業なので仕方ないと理解しつつも、少し引っかかることがあったという。2つ目は、ソフトが頻繁に更新される安心感。3つ目は、波形データをUSBメモリで運ぶ手間なく、パソコンとシームレスにやり取りできることだ。

一方の欠点は、パソコンがなければ何もできないことである。広い作業台を確保できればよいが、実際には他の機材と並んでごちゃごちゃしがちだ、とイチケンは述べて締めくくった。