林芳正前総務大臣が語る中長期の課題と「遠慮」 答えを持たずに総裁選には出ない

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概要

2026年10月18日放送のBSテレ東「NIKKEI 日曜サロン」に、前総務大臣の林芳正氏が出演した。林氏は9月の内閣改造で閣外に出た。番組では、総務大臣としての約1年の仕事、簗農林水産大臣の辞任、消費税減税と社会保障の将来像、成長戦略、コンテンツと「Jビューティ」、対中外交、そして来年9月の自民党総裁選について話を聞いた。林氏の発言に一貫していたのは、閣外で得た時間を使い、中長期の課題に対する自分なりの答えをまとめたいという姿勢である。

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総務大臣として取り組んだこと

林氏によると、総務省は旧自治省、旧郵政省、旧総務庁の3つの役所が一つになった組織で、それぞれに多くの課題がある。旧自治省の分野では地方創生に力を入れた。人口が減り過疎化が進むなかで地域をどう活性化するかについて、自ら現地を訪れて話を聞き、新しい「ふるさと住民登録制度」などに取り組んだという。

旧郵政省の分野では、郵政に関する大きな法案が閣法と議員立法の両方であり、どちらも進めることができたと振り返った。放送についても、通信や配信が広がるなかで将来どうしていくかに取り組んだと述べた。テレビ番組の場だから言うのではない、と前置きしたうえでの発言である。

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役職希望アンケートと閣外での時間

9月の内閣改造では、高市総理が議員に役職希望のアンケートを配った。林氏は、こうしたアンケートを受け取ったのは初めてだったが、幹事から届いたので提出したという。閣外に出たことについては、積極的に希望しなかったため総理も声をかけなかった、あるいは総理が初めから続投を考えていなかった、などの解釈が出ている。林氏は、人事は総理の専権事項なので自分には分からないとした。そのうえで、アンケートには「希望がない人は希望なしと書いて出すように」とあったので、その通り「希望なし」と書いて提出したと説明した。

林氏は前回の出演時は官房長官で、外務大臣を含めて閣内にいる期間が長かった。外務大臣を退いてから官房長官に就くまで約3カ月の空白はあったが、その間は党の政調会長代行のような立場で政調の仕事にかかりきりだったという。これだけまとまった時間が取れるのは、衆議院に移ってから初めてだと語った。

役所にいると、今日どうするか、来週までにどうするかが仕事の中心になる。数年先や10年後の日本がどちらへ向かうべきかを考える仕事はなかなかできない。そのため林氏は、本を読み、人の話を聞き、勉強会を開くなどして、もともと持っていた問題意識を深めたいと話した。

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簗農水大臣の辞任と、アンケートによる人選

第2次高市改造内閣の発足から約1カ月で、簗農林水産大臣が不祥事で辞任した。高市政権で不祥事による閣僚辞任は初めてである。林氏は「残念でしたね」と述べた。農林水産政策は重要で、簗氏は党の農林部会にもずっと出ていて詳しい人だと思っていた。それだけに、政策とまったく関係のないところでこうしたことが起きたのは残念だという。

聞き手は、派閥推薦による人選には問題もあったが、アンケートのような自己申告の希望で選ぶと政治家としての全人格的な能力を測れないのではないか、と問うた。林氏は「メリットとデメリットは双方ある」と答えた。例として挙げたのは小泉総理の時代の郵政選挙である。当時は面接などだけで急いで候補者を選び、公募も行った。素晴らしい人もいたが、そうでなく辞めていった人もいた、と振り返った。結論として林氏は、できる限りのことをやっていくのが大事だと述べるにとどめた。

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消費税減税への立場と「連帯責任」

高市政権は来年4月から消費税減税に踏み切る方針だ。党内には、2年間の物価高対策なら減税より給付のほうがよいという意見も多い。林氏は、2月の衆議院選挙のアンケートでは消費税減税に慎重な立場を示したと明かした。これは大臣としてではなく、衆議院議員の候補者としての回答だという。当時の党の公約は「検討を加速化する」だったので、そうした立場もあり得ると考えていたとした。

しかしその後、選挙の結果が出て、党内手続きをきちんと経て話が進んだ。林氏が大臣を退く直前の閣議決定で大綱が決まっている。林氏は、ここまでは自分も連帯責任を負っていると述べた。

今後については、次の点をしっかりやる必要があると語った。

  • 来年4月1日までに事務的な準備を整え、現場で混乱が起きないようにすること
  • 大綱に書かれているとおり、予算編成の過程で農業者や外食事業者への対策を講じること
  • 財源をきちんと明示し、債券市場に不測の影響を及ぼさないようにすること
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日本版ユニバーサルクレジットという将来像

聞き手は、税と社会保障の議論の経緯を整理した。給付付き税額控除やベーシックインカム的な案はたびたび持ち上がってきたが、財源を含めた制度設計にはなかなか至らなかった。一方で、コロナ禍の10万円給付や4万円の措置、ガソリンなどの個別の物価対策を重ねた結果、限界も見えてきた。いま党内では、税と社会保障の一体改革として給付付き税額控除を、その手前の段階として所得連動型給付を議論し始めている。

林氏が最も望ましいと考える将来像は「日本版ユニバーサルクレジット」である。英国が導入している制度で、林氏は前回の総裁選でこれを公約に掲げた。

林氏の問題意識は、所得に対する負担の上がり方にある。他の先進国と比べると、日本では所得税がかかり始める前後の所得層、つまり現役世帯の多い層で負担が早く急に上がり、その先でカーブがゆるやかに寝ていく。林氏は、現在ある呼び名で知られるようになったこのカーブを、その名で呼ばれる前からYouTubeでの解説に使っていたという。

ユニバーサルクレジットでは、さまざまな給付を一つにまとめる。そのうえで、収入が上がるにつれて給付をだんだん減らし、子どもの有無や人数、世帯か単身かなどを考慮してきめ細かく設計する。給付の窓口が一本化されるので、行政コストの節約にもなると林氏は説明した。時間はかかるが、中長期的にはこれが一番望ましいという立場である。

財源について問われると、林氏は、児童手当など既存の給付をすべて一つにまとめるイメージだと答えた。それに加えてどれだけ新たな財源を持ち込めるかは、今年12月までに示される約5兆円の消費税減税の財源を見て判断するという。そのなかに恒久的に使えるものがどれだけあるかを見ながら設計しなければならない、と述べた。

聞き手は、年末までに決まるものと、2029年4月に予定される次の所得連動型給付の段階で選択肢が見えるとよいと応じた。林氏は、給付付き税額控除でも所得連動型給付でも方向性はほぼ同じだとした。あのカーブに表れている問題をなんとかすることが大事で、働いて収入を得てカーブの右側へ皆が進むようなインセンティブ構造をどうつくるかが課題だという。林氏は、それが中長期的には少子化対策にもなるだろうという見方も示した。

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17の戦略分野をどう絞るか

高市政権は戦略17分野を定め、2040年度までに官民で370兆円を投資する計画を打ち出した。17は多すぎるという声についてどう考えるかを問われた。林氏は、一つひとつ見ればどれも大事だと思えると答えた。自身も総務大臣として情報通信分野を検討し、3つの柱に絞ったという。そのうえで、まず実行し、その結果を見て絞り込んでいくやり方もあってよいとした。17分野を「指一本触れさせない」ものとして固定する必要はないという考えである。

林氏が分野を見極める基準として示したのは、本当に伸びる分野か、そして官民でやる必要があるかどうかである。民間だけで設備投資が進んで成長するなら、官は徐々に手を離せばよい。

官民でやらなければならない分野の例として、林氏は岸田政権で「新しい資本主義」を議論した当時のGXを挙げた。自動車メーカーに「みんな電気自動車を作ってください」と言って終わりでは、うまくいかない。ガソリンスタンドに代わる充電の仕組みや、規格、規制をどうするかは、官と民が一緒に取り組まないと解決できないという。官民で深く取り組み続ける分野と、民間に任せて支援を卒業していく分野が自然に分かれていくのが望ましい、というのが林氏の見方だ。

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「金は出しても口は出さない」と目利き

聞き手は、「失われた30年」の間、企業は内部留保を積み上げて投資に消極的で、世界の競争に敗れた分野も多かったと指摘した。だから国が後押しすることは必要だが、政治家や官僚が「これが有望だ」と決めて進める国策的な事業は過去に多くが失敗してきた、とも述べた。

林氏は、「金は出しても口は出さない」のが理想だろうとしつつ、それだけでは政策にならないと応じた。そこで必要になるのが目利きだという。官民が一緒に取り組む「協調領域」と、その基本部分を超えたところで各社が切磋琢磨する「競争領域」の線引きがきちんとできれば、成長戦略はうまく回る。林氏は、過去にも第5世代コンピューターやそれ以前の自動車など、産業政策がうまくいった分野はあったと述べた。

官が主に担う範囲の例として、林氏は基礎研究を挙げた。基礎研究は放っておくと企業がなかなか手がけないからだ。応用研究に進み、プルーフ・オブ・コンセプトが出た後、官がどこまで関わるかが問題になる。日本はベンチャーキャピタルが弱いため、官民ファンドなどで補ってきた。しかし今は海外からの参入も含めてファンドが増えている。林氏によると、世界の関係者からは日本が非常に注目されており、多くのファンドが日本法人をつくっているという。そうした民間の目利き力も活用しながら、「官は常に民の補完である」という原則を外さずに進めることが大事だと林氏は語った。

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コンテンツ議連と「Jビューティ」

林氏は官房長官時代にコンテンツ関係の議員連盟の会長に就いた。現職閣僚が議連の会長になるのは珍しい。この議連の話題から、聞き手は新たに立ち上げる美容分野の取り組みについて尋ねた。

コンテンツについて林氏は、自分もギターやピアノを弾くので、最初は趣味の要素も多少あったと明かした。20年あまり前に甘利氏に会長になってもらって活動を始めた当時は、まだ小さな産業だった。その後、基本法をつくり、映画などの施策を進めるうちに有望だと分かってきた。今では外貨を稼ぐ産業として自動車に次ぐ2位の基幹産業になったという。林氏は、どんな漫画や音楽を作れと政府が指示することは絶対にできないし、その自由さが日本の強みだと強調した。成長戦略で語った「どこまで支援し、どこから任せるか」という考え方が、ここでも示されている。

Jビューティの取り組みは、若手議員に持ちかけられて昨年のちょうど今頃に研究会として始まった。1年間で10回ほど勉強会を開いたという。出発点にあったのは、日本の美容産業が「Kビューティ」にかなり押されているという認識だ。

林氏はその理由をいくつか挙げた。一つは化粧品の表示規制である。肌に触れるものなので、日本では広告で使ってよい言葉がポジティブリスト方式で定められ、限られた言葉しか使えない。一方、韓国などは「これは言ってはいけない」と定めるネガティブリスト方式だ。そのため「1週間でこれだけ数値が良くなった」というグラフや写真を広告に出せる。もう一つはK-POPとのタイアップである。韓国のアイドルが「これいいよね」と紹介し、それがインターネット経由で日本にも入ってくる。

林氏は、健康的でしっかり作られている日本の化粧品やエステ、ネイルが過小評価されていると感じたと語った。そこで海外展開を皆で一緒に進めるためにJビューティというコンセプトをつくり、その枠組みで取り組むことにした。厚生労働省にも規制の見直しに着手してもらったという。これらは今年の成長戦略などの政府文書にも盛り込まれたため、研究会を議員連盟に衣替えするところだと説明した。

18:24

対中外交は「大きな期待を持たずにコツコツと」

外交について聞き手は、トランプ政権が自国中心的な動きを重ねていると指摘した。日米同盟が基軸であることは変わらないとしても、中国との関係はなかなか改善が進まなかった。ただ、ここ数カ月は日本から議員外交で訪中する人も出始め、中国の対日外交にも少し変化が見えるのではないか、と問うた。

林氏は、最初は超党派の訪中があり、その後に日中友好議員連盟の青年訪中団、さらに別の議員の訪中が続いたと整理した。徐々に少しずつ動き始めているという印象だという。そのうえで、ここで大きな期待は持たず、コツコツと続けていくべきだと述べた。

林氏が拠り所として挙げたのは、安倍総理の時代に打ち立てた「戦略的互恵関係」である。外務大臣時代には、当時の秦剛外交部長とも、その後の王毅外交部長とも、この方針でいこうということになっていたという。意見が違うところもあり、制度も違う。だからこそ対話をする。林氏は、その対話を粘り強く続けていくことが大事だと語った。

19:59

来年9月の総裁選について

聞き手は、林氏がこれまで総裁選に挑戦してきたことに触れ、来年9月の総裁選でも挑戦を続けるのかと尋ねた。林氏は、来年9月のことをいまあれこれ言うのは時期尚早だと答えた。

そのうえで林氏は、先に触れた中長期的な課題に話を戻した。政治家は「こういう課題があります」という分析で終わってはいけない。こうすることで不安や課題を乗り越えていく、という答えがなければならないという。仮にそうした機会があったとしても、何も答えを持たずに出ていくのはおかしなことだと林氏は述べた。まずは中長期のさまざまな課題について自分なりの考えをまとめたい、というのが現時点での林氏の答えである。出馬を明言はしなかったが、可能性を否定もしなかった。

21:27

「遠慮」という言葉に込めた意味

番組の最後に、林氏はこれからの政治に大切なことを色紙に書いて示した。書いた言葉は「遠慮」である。現代の日本語では「ご遠慮します」のように使われるが、林氏によると、もとの意味は「遠きを慮(おもんぱか)る」で、深謀遠慮の遠慮だという。「深謀」は深く謀ること、「遠慮」は遠くを慮ることを指す。林氏は「遠き慮りなければ必ず近き憂いあり」という言葉も引き、2年後、3年後、10年後のことをしっかり考えておかなければならないと語った。

林氏は、いま人々が抱える不安の背景に、5年後、10年後に今より良くなる、安心して大丈夫だと言えるものがなかなかないことがあると見ている。AIに仕事を取られるのではないか、自分の町には誰もいなくなるのではないか、日本の国力が下がる一方で周りの国はどんどん強くなるのではないか、といった不安である。そうしたことを考え抜くのは、目の前のことを考え続ける政府の中にいるとなかなかできない。だからこそ、せっかく時間をもらえた今やりたい、と林氏は話した。

23:00

番組側の受け止め

番組の締めくくりで、聞き手は次のような見方を示した。高市政権の約1年はかなり順調だったが、今回の農水大臣の辞任という洗礼を受け、ここから政権が動揺するのか、それともうまくいくのかが問われる。そうした局面で林氏が閣外にいることは、自民党内で高市政権に対する「もう一つの選択肢」という役割を果たすことになるだろう。聞き手は、林氏が政策を積み上げていくなかで、来年9月の総裁選にどう臨むかの展望も開けてくるのではないかと述べた。