自作EVカートで筑波サーキットの30分耐久に挑む:イチケンのCQ EVミニカート・レース参戦記

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概要

電子工作系YouTuberのイチケンは、CQ出版が運営するEVミニカート・レースに初めて参加した。会場は実際の筑波サーキット2000で、自作のEVカートで30分間走り、周回数を競う。動画では、インバータとモータの組み立てから、バッテリー容量に合わせたセッティング、回路とモータの改造、レース当日の走行と結果までを順に紹介している。目標は優勝ではなく完走に置かれていた。

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参加の経緯と必要な機材

参加のきっかけは、『トランジスタ技術』で知られるCQ出版から「EVミニカート・レースに出ませんか」と誘われたことだという。話を聞くうちに面白そうだと感じ、参加を決めた。

レースに出るには、車体と、それを動かすインバータとモータが必要になる。車体はCQ出版からキットが販売されており、組み立てればレースに出られる状態になる。インバータとモータもキットとして用意されていて自分で組み立てられるが、CQ出版は組み立てセミナーも開いている。イチケンはこのセミナーに参加し、モータとインバータを組み立てた。セミナーは2日間で、座学と実習で構成される。座学ではモータの動作原理やインバータの制御法を講師から学び、実習では組み立てと動作確認を行う。

1日目:インバータの組み立て

インバータは、モータを回すための駆動回路である。基板には表面実装部品があらかじめ実装されており、受講者はスルーホールのIC、抵抗、コンデンサ、パワー半導体などをはんだ付けする。モータの磁束を検出するホールセンサ基板も組み立てる。手順はキット付属のマニュアルに書かれており、その通りに進めれば難しくないという。

制御はマイコンで行い、そのコードも提供されている。そのため、モータの制御方法やモータに流れる電流の調整を自分で変更できる。イチケンによれば、レギュレーション上、インバータにはほとんど制限がない。電圧が48V以下なら、このキットをそのまま使っても、キットをベースに改造しても、キットを使わず独自のインバータを使ってもよい。コントローラ部分はかなり自由に作り込めるということだ。

組み上がったインバータでモータを回すと、一発で動いた。その後、電流が最も少なくなるようにホールセンサの位置を動かし、進角を調整して1日目を終えた。

2日目:アウターロータ型モータを手で巻く

EVカートのモータはアウターロータ型で、小型ドローンに使われるブラシレスモータとほぼ同じ構造だと説明される。外側の回転子に磁石があり、中心の固定子に銅線を巻く。

まず回転子の鉄心の内側にフェライト磁石を貼る。磁石は表と裏でS極とN極が決まっているため、向きを間違えるとモータとして使えなくなる。イチケンは横に置いた方位磁石で磁極を確かめながら作業した。

続いて固定子に銅線を巻く。量産品なら機械で巻くが、一点ものなので手作業になる。線径は1mmあり、手で巻くにはかなり力が要る。イチケンのコツは、銅線のボビンを足で押さえ、固定子を手で持ち、線に適度なテンションをかけながら巻くことだという。ただし、セミナーで巻いた巻き数はかなり適当に決めたもので、実際にカートへ組み込む際には巻き直すことになる。

モータについては、レギュレーション上このキットを使う必要がある。一方で、巻線の太さ、巻き方、結線方法、コアや永久磁石の材質は変更してよい。そのため作り方のパターンは無数にある。イチケンは、勝つために必要なのは電気エネルギーをできるだけ高い効率で機械的出力に変換するモータを作ることであり、そこはノウハウが問われる部分だろうと述べている。

完成したモータを前日に組んだインバータで回すと、こちらも一発で問題なく動いた。セミナーの後には、CQ出版の倉庫にあったEVカートにも試乗させてもらった。実際の運転感覚を掴み、自分たちのカートに活かせる点は活かすという狙いである。

車体の組み立てと試走の目的

インバータとモータを組んだ後、EVカートはほとんど放置されていた。レースの1か月ほど前になって時間がないことに気づき、焦りながら準備を再開した。車体ができていなければ試走も調整もできないため、かなりギリギリだったと振り返っている。

車体は鉄フレームに車輪などを取り付けていく構造で、イチケンは「でかいラジコン」のようだと表現する。1人で撮影しながら組んで4〜5時間かかったが、作業量としては2〜3時間程度だろうという。床で作業したが、作業台の上でやるほうが明らかに効率が良いとも付け加えている。

機械部分が完成した後、インバータとモータを仮組みして動作を確認した。配線は走行前にきちんとまとめればよいので、この段階では仮の状態である。モータはまだセミナーで組んだままだったため、レース仕様の巻き数と結線にするため何度か巻き直した。

ぶっつけ本番では良い結果にならないと考え、試走も行った。目的は運転に慣れることに加えて、次の点を確かめることだった。レースに近い負荷をかけても車体に問題が起きず安全に走れるか。モータとインバータが長時間動いても安定して動作を続けられるか。さらに、バッテリーの持ち、加速性能、モータ電流をどこまで制限するかといった性能に関わるセッティングを詰めることも目的だった。

完走条件から逆算したセッティング

レース時間は30分で、優勝車両の70%以上の距離を走ることが完走の条件になっている。ゆっくり走っていては完走扱いにならないため、バッテリーの持ちと、インバータ・モータのセッティングが重要になる。

バッテリーのレギュレーションは厳密に決まっており、鉛バッテリーの場合は1個3,000g以下のものを2個まで使える。この限られたエネルギーをできるだけ効率よく使う必要がある。

イチケンは過去のレース結果から、平均時速30km/h程度なら完走扱いになると見て、平均30km/hで走れるセッティングを目標にした。モータと車輪はチェーンでつながっているため、ギア比も重要な調整項目だという。

具体的には、バッテリーのデータシートにある放電特性グラフ(横軸が放電時間、縦軸が電圧)を使った。30分放電し続けられる電流を読み取ると、約13Aになる。つまり、時速30km/hで走っているときのバッテリー電流が13Aに収まれば、30分走れる計算になる。問題は13Aで本当に30km/hが出るかどうかで、そのためにモータの巻き方やギア比を変えていく。時間が限られていたため、モータの試作は数回しかできなかったが、なんとかこの条件に近づけたという。

インバータの改造:MOSFET交換と防湿コーティング

インバータでは、スイッチング素子のMOSFETを交換した。狙いはオン抵抗を下げることで、キット付属品の3.3mΩから、より高性能な品種に替えて1.1mΩにした。ただしゲートドライブ回路はそのままなので、ゲートチャージが増えた分だけスイッチング損失が増える可能性があるとイチケンは指摘する。今回はノイズを出しても問題ない環境なので、ゲート抵抗をギリギリまで小さくしてスイッチング損失を減らす手もあった。しかし、ゲートドライブICが耐えられないようなので断念した。

空きスペースには手持ちの電解コンデンサを追加した。これについてイチケン自身、メリットはあまりないと思うが、やれることはやっておくという考えだと説明している。

最後に基板へ防湿コーティングを施した。基板カバーも作ったが、走行環境はかなり過酷で、ほこりや水分を含んだゴミが付着して回路に悪影響を与えるかもしれない。付着しても問題が起きにくくするための対策である。

モータの改造:線径を太くして銅損を半減

モータでは銅損を減らす方針をとった。キット付属の銅線は直径1mmだが、これを直径1.4mmに変えた。巻き数は変えないので、固定子のスロットに巻ける限界ギリギリの太さを選んだという。

イチケンの説明によれば、直径1mmのときの巻線抵抗は約100mΩ。直径1.4mmにすると断面積が約2倍になり、抵抗は半分の約50mΩになる。これで銅損は半分になり、平均電流13Aなら約8Wの節電になるという。

ただ、筑波サーキットは平坦ではなく上り坂もある。平均13Aでも、場面によっては30A、瞬間的には100Aが流れることもある。100Aを想定すると、巻線を太くしたことで銅損は1,000Wから500Wに下がる計算で、かなり効果の大きい改造だと述べている。

ほかに、走行中にバッテリー残量を見るための電圧計と、バッテリー電流を測る電流計も付けた。電流計はBluetooth付きのクランプ型で、スマホでモニターする。イチケンは「一番簡単なソリューション」と呼んでいる。

レース当日:ブレーカーのトリップ

レースの運営はCQ出版、主催は日本電気自動車レース協会である。現地では車両を整備し、簡単に動作を確かめて20mほど試走した。あとはスタート直前までバッテリーを充電した。

スタートは好調だったが、ホームストレートの坂を上がるあたりでブレーカーがトリップした。キット付属のブレーカーは定格50Aだが、レギュレーションでは当日配布されるレース用ブレーカーは30Aと定められている。そのため当日にセッティングを微調整する必要があり、レギュレーションを読んでいないと引っかかる点だとイチケンは言う。イチケンは事前に読んでいたので、マイコンの設定で加速時の電流を下げていたが、それでも調整が足りなかった。スロットル調整が難しくなったため、しばらくはブレーカーが落ちてもすぐ戻せる姿勢で運転した。

スマホで見るバッテリー電流はかなり大きく、瞬間的に100Aを超える場面もあった。ただ、ブレーカーの動作特性上、瞬間的な過電流なら落ちない。イチケンは、本来ならブレーカーの動作特性図をよく読み、加速時に過電流の動作時間ギリギリまで電流を流せば、かなり良い走りができるだろうと述べている。

スリップストリームと最高速の限界

走行中、列になって走るグループが現れた。専門学校・筑波自動車大学校のチームで、空気抵抗を減らすためにスリップストリームを使っているようだった。このEVカートはレギュレーションで空力パーツが禁止されており、ドライバーもむき出しなので空気抵抗がかなり大きい。複数台で参加していれば、こうした戦略がとれる。イチケンもこのグループの後ろにつき、空気抵抗を減らすことにした。ただし、近づきすぎると事故の危険があるため、一定の距離は保った。

最高速は約35km/hで、下り坂ではもう少し出る程度だった。コースが空いたときに追い抜きを試みたが、スロットルを全開にしても最高速がそれ以上伸びない。イチケンは、バッテリー電圧とモータの巻き数が合っていないためだと考え、追い抜きはせず後ろを走ることにした。ときどき速いカートに抜かれたが、それらはリチウムイオンバッテリーを積んだアンリミテッド部門の車両で、バッテリーが違うだけで相当速くなるという。

終盤のバッテリー切れと結果

後半になるとバッテリー電圧がかなり下がり、速度も落ちてきた。上り勾配はきつくなり、特に最終コーナーを抜けたホームストレートの上り坂が最も厳しい。速度はじりじりと落ち、最後はこの坂を登れなくなった。体を揺らして反動で登ろうとしたが進めず、最終周を走り切れないまま終了した。

結果は11位で、完走扱いとなった。周回数は7周、ベストラップは3分49秒、平均時速は30km/hで、狙い通りに近い数字になった。イチケンは、初参加としてはなかなか上出来で、完走を目標にしていたと振り返る。一方で、レースに出るような車ではラップタイム60秒程度が多いようなので、それと比べるとかなりゆっくり走っていたことがわかるとも述べている。

振り返りと来年への課題

誤算は、想定より電力消費が多く、最後にバッテリー切れで走れなくなったことだった。イチケンは、最後まで走り切るには走り方を変えるか、モータの効率を上げるしかなさそうだと分析する。走り方については、惰性で走る時間を増やすことや、加速をゆっくりにすることに効果がありそうだという。また、今回はインバータとモータの制御を詰める時間がなく、バッテリーのエネルギーを有効に使えなかったことも結果につながったとしている。

モータにもさらに改善できる箇所をいくつか見つけているとのことで、イチケンは来年、完走するだけでなく最後まで走り続けられるカートにしたいと話して動画を締めくくった。