CIO共同の国産USB充電器、試作機の温度試験で筐体表面が約85℃に。熱設計と部品選定を見直す

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概要

充電器メーカーのCIOと共同で進める「国産USB充電器プロジェクト」の第2弾として、イチケンが初期サンプルの充電器を試験し、分解して現状を報告した。イチケンはキックオフ動画の公開前からこの充電器の設計に関わっており、今回は設計者の視点から構成を解説している。中心となる話題は2つある。1つは「サーマルスロットリングを起こさない充電器」という目標に対して、試作機の発熱が想定を大きく上回ったこと。もう1つは「国内メーカー部品の使用率を高める」という目標に対して、現時点では日本製部品が0%であり、置き換えられる部品と難しい部品があることだ。

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開発の現段階:回路レイアウト変更ができなくなる直前

イチケンによれば、この充電器は充電器として動作するかを確かめる原理検証を終え、設計を固めるための検証段階にある。同時に筐体の金型づくりも始まっている。この段階の設計が完了すると、回路のレイアウトは基本的に変更できなくなる。一方で、熱対策としてシリコーンや熱伝導シートを追加することは、状況に応じて後からでも可能だという。設計完了後は、量産の準備と認証申請の準備に進む予定である。

基本仕様と「サーマルスロットリングを起こさない」という目標

試作機は65W出力でUSB-Cポートを2つ備え、プラグは折りたたみ式である。設計仕様の1つとして掲げたのが、サーマルスロットリングを起こさないことだ。サーマルスロットリングとは、大電力で連続使用したときに、充電器自体を熱から守るため出力電力を制限する保護機能を指す。これが働くと、スペック表記より少ない電力でしか充電や給電ができなくなる。イチケンは例として、CIOの「世界最小級」の65W充電器がサーマルスロットリングで出力を絞っていたこと、Appleの60W USB充電器は製品仕様としてサーマルスロットリングがあらかじめ明記されていることを挙げた。

ただし、この目標はコストと直結する。性能の高い電子部品を使えば発熱そのものを抑えられ、性能の高い熱伝導素材を使えば熱を効率よく外部に逃がせる。しかしどちらもコストを押し上げる。イチケンは、コストを度外視すれば理想の充電器は作れるが、販売価格が高くなりすぎて誰も買わない商品になると述べる。実際に売る製品としては、価格と性能がちょうど釣り合う点を探す必要がある。今回は国産プロジェクトの第1弾なので少し例外的な位置づけではあるものの、メーカーは一般に部品コストや製造コストを抑えて利益を確保することが求められるため、付加価値と販売価格を考えながら設計しなければならないという。

操作ボタンとディスプレイという独自要素

外観は一見よくある充電器だが、これまでの製品と異なる点として操作ボタンとディスプレイが付いている。電源を入れるとディスプレイに表示が出るが、表示される機能や項目はまだ作り込みの途中で、今後の動画で紹介するとしている。ボタンは押し込みと上下の3方向の操作ができる。試作品のため表面に多少の凹凸があり、コーティングの艶も量産品ではさらに良くなる予定だという。

サイズと放熱の関係

他社の65WマルチポートUSB充電器と並べると、試作機はやや大きい。イチケンは、2ポートの充電器はCIOに限らず他社製品もサイズが大きめであり、今回はそれに加えてディスプレイや操作機能を詰め込んだぶん本体が大きくなっていると説明する。その結果、表面積が広く放熱に余裕があるため、サーマルスロットリングは起こりにくいという見立てだった。本体の故障による発熱や、極端な高温環境での保護停止は別として、通常の65W使用ではサーマルスロットリングを起こさないことを目標とし、本体サイズで表面積を確保して放熱に余裕を持たせる設計にしている。

温度測定:筐体表面は約85℃、プラグ付近は90℃超

次に温度測定を行った。試作段階のため筐体は3Dプリンターで出力したもので、放熱材料も製品版とは異なる仕様だが、とりあえず動かして温度上昇とサーマルスロットリングの発生有無を確かめた。最も高温になると予想されるパワー半導体と変圧器がある部分の筐体表面に熱電対を貼り付けて測定している。

条件は1ポート出力で65W、入力は交流100V、室温28℃で、室温はやや高めである。結果、筐体表面温度は約85℃まで上昇した。イチケンは「想定よりもかなり高い温度」だとし、サーマルスロットリングの有無より先に、まず熱そのものを考え直す必要があると述べた。

サーモグラフィーで温度分布も確認した。本体の角やディスプレイのある面は温度が低く、筐体に熱を伝えきれていない状態だとイチケンは読み取っている。最も高温なのはコンセントプラグのすぐ上の部分で、サーモグラフィー上では90℃を超えていた。

原因の切り分けは次回以降の動画で進めるとしている。電力損失が大きすぎて温度が上がっているのか、熱設計が悪く放熱が追いついていないのかを分けて考える方針だ。加えて、ディスプレイのある面を放熱に100%使いきれないことは、設計条件としてかなり厳しいとイチケンは話す。

分解して見た内部の放熱構造

取り出した回路部分を熱設計の観点から見ていく。撮影時点で回路の基本構成はほぼ確定しており、大型部品のレイアウトはこれ以降変更できない。

基板には熱伝導シートが2枚貼られている。めくると、片面に変圧器、反対側の面にパワー半導体があり、よく発熱するこの2つを本体中央にまとめる設計になっている。そこで発生した熱を熱伝導シート経由で外へ逃がす構造だ。イチケンの説明では、USB充電器の基本的な放熱の仕組みは、内部の熱を本体表面に伝え、空気の対流で逃がすことであり、それに加えてコンセント部分からも熱が逃げる。ディスプレイのある面は筐体との空間が大きいため、ここで積極的に放熱するわけではなく、ほかの面とコンセントから逃げる熱で放熱をまかなうことになる。

熱伝導シートの拡大案と電解コンデンサの寿命

貼られていた熱伝導シートは全部品を覆っていない。イチケンは、特にスルーホール部品が実装されている面はシートの面積を広げてもよいかもしれないと考えており、具体的には電解コンデンサが隠れるくらいまで大きくする案を示した。電解コンデンサの内部にはロール状に巻いたアルミ箔が入っているため、実は軸方向には熱がかなりよく伝わる。シートを電解コンデンサまで広げれば全体の熱結合がとれ、電解コンデンサ経由で筐体に熱を逃がせるという理屈だ。

一方で、熱伝導シートは安い部品ではなく、電解コンデンサは熱に弱い部品である。全体を熱結合することが寿命の観点で良いのかは疑問が残るとイチケンは言う。そのため、シート面積を広げたときの原価上昇、内部温度の低下幅、電解コンデンサの温度変化を天秤にかけて調整する必要があるとしている。

ディスプレイという熱に弱い部品

ディスプレイの存在も熱設計を難しくしている。イチケンによれば、ディスプレイはどちらかといえば熱に弱い部品であり、それを充電器内部という高温環境に入れるため、何らかの熱対策が必要になる。後々問題になる可能性が高い部品なので慎重に見ていくとし、製品回収のような事態はなるべく避けたいと述べた。なおディスプレイの裏側には無線関係のデバイスが載っている。用途については明かさず、「無線で何かやるのだろう」と期待していてほしいという言い方にとどめている。

国内メーカー部品の使用率:目標50%、現状0%

このプロジェクトのもう1つの目標は、国内メーカー部品の使用率をできるだけ高めることだ。できれば50%程度は使いたいとCIO側と話しているという。しかし現状の試作品は全部品が海外メーカー製で、日本メーカー部品の比率は0%である。イチケン自身も部品選定に関わっており、その経緯を部品ごとに説明した。

電解コンデンサ:日本メーカーは強いが、充電器向けの形状がない

電解コンデンサは日本メーカーが強いことで有名だが、日本メーカーで選定しようとすると逆に非常に難しく、ほぼ不可能だったという。USB充電器に使う電解コンデンサは特殊で、直径が細く縦に長いものがほとんどであり、試作品もそうしたものを使っている。充電器内部の空間を有効に使うために詰め込む必要があるからで、実際に筐体に収まるぎりぎりの高さまでコンデンサが伸びている。

イチケンの説明では、日本の電解コンデンサメーカーは全方面に強いわけではなく、産業向けや車載向けに強い。産業用途ではこうした細長い形状が求められることはそれほど多くなく、筐体サイズに余裕があることが多いため、あえて細長い品を選ぶ理由もない。充電器向けの細長い電解コンデンサの市場はレッドオーシャンで価格競争が激しく、中国メーカーしか手がけていない状況だという。日本メーカーもかつては製造していたようだが現在は撤退しており、探した限りでは製造している日本メーカーは見つからなかった。

昔日本メーカーが作った流通在庫は存在するが、在庫が切れれば充電器を作り続けられなくなるため、なるべく使いたくないのが本音だという。直径を2〜3mm大きくすれば日本メーカーの量産品もあるが、充電器のサイズを考えると採用はかなり厳しい。日本メーカーの電解コンデンサは高品質で使いたいものの、充電器に使えるものとなると採用は難しいというのがイチケンの現状認識だ。

MLCC・チップ抵抗・変圧器コア

その他の受動部品、つまりチップMLCCやチップ抵抗器は日本メーカーがかなり強い領域である。MLCCは大部分を日本メーカーに置き換える予定だという。チップ抵抗器については、イチケン自身が日本の抵抗器メーカーに連絡を取り、CIOとつなぐことができた。撮影中にも話が進んでおり、その抵抗器メーカーが量産でも採用されるのではないかとイチケンは見ている。

変圧器のコアにも検討の余地がある。適切なコア材料を使えば変圧器自体を小さくでき、コアの体積が減ることで、充電器の発熱が減ったり体積が小さくなったりして付加価値が高まるという。ただし今回はコアには手を付けていない。国産プロジェクトは第1弾を起点に第2弾、第3弾と続けたいとCIOの社長とも話しており、取り組みが続けば将来は変圧器にも日本メーカーを採用できないか考えているという。良いコアメーカーを知っている人がいれば自薦他薦を問わずコメントで教えてほしい、とも呼びかけた。

半導体部品:中国メーカーが強く、日本製採用は難しそう

USB充電器に使われる半導体部品は中国メーカーが非常に強く、日本メーカーは弱い領域だとイチケンは言う。特に、統合型のGaNパワー半導体とUSB PDコントローラICがそうである。今回の試作品では、GaNパワー半導体にSouthchipのSC3107、USB PD ICに同じくSouthchipのSC2167Aを使っている。

ただ、日本メーカーがこの領域を一切やっていないわけではない。以前分解したベルのUSB充電器では、ルネサスのGaNパワー半導体とUSB PD ICが使われていたという。設計変更をすれば国内メーカー採用の可能性はあるが、コストをはじめさまざまな問題があり検証が必要だ。こうした特定用途の半導体で日本メーカーを採用するのは不可能ではないものの、現状では難しそうな雰囲気だとイチケンは述べている。

今後:量産設計と「どこから日本で作るのか」

動画制作中には、CIOと一緒に中国のUSB充電器工場の視察にも行ったという。今後は量産を見据えた設計と試作に入り、その段階で採用する日本メーカー部品も確定していく。製造については、「国産」と銘打つ以上、どの工程から日本で行うのかが重要になる。部品実装から日本で行うのか、ある程度中国で実装したものを日本に持ち込んで組み立てるのか。こうした視聴者が抱くであろう疑問に答える動画を現在制作中で、近く公開予定だとしている。温度が想定を大きく上回った原因が電力損失なのか熱設計なのかという切り分けも、次回以降の検証に持ち越された。