NFC給電はQiより小さな機器に向くのか:ロームの評価ボードで電力と通信を試す

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概要

この動画では、交通系ICカードなどで使われる近距離無線通信NFCを、データ通信だけでなく本格的な給電にも使えるようにした「NFC給電」を試している。中心となる問いは、スマホ充電で普及したQiに比べて送れる電力が小さいNFC給電が、実際にどの程度の電力を送れ、どんな機器に向くのかである。話者は、ロームのNFC給電IC評価ボードで電力を測り、自作のスマートバンドを動かし、データ通信も試したうえで、スマートリングやイヤホンのような小型デバイスに有効な技術だと結論づけている。なお、動画はロームの提供である。

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NFCはもともと微小な電力もやり取りしている

NFCはNear Field Communicationの略で、13.56MHzの周波数を使う近距離無線通信である。話者によれば、Suicaなどの交通系ICカードはFeliCaの技術を使っているが、これもNFCの一種である。NFCは基本的にはデータをやり取りする技術だが、通信の際に微小な電力のやり取りも行われている。バッテリーを持たない交通系ICカードが動作するのはこのためだという。今回のテーマは、このNFCで送る電力を大きくし、データ通信だけでなく給電にも使えるようにするというものである。

電磁誘導によるワイヤレス給電の原理

話者はまず、ワイヤレス給電の原理である電磁誘導を実演した。コイルに磁石を近づけたり遠ざけたりすると、コイルを貫く磁束が変化して両端に電圧が生じる。磁石をゆっくり動かすと電圧はほとんど出ず、速く動かすと電圧が出る。重要なのは磁束の変化だと話者は強調する。

次に磁石を大きなコイルに置き換え、これを送電コイル、先ほどの小さなコイルを受電コイルとした。送電コイルに交流電流を流すと磁束が変化し続けるため、受電コイルに近づけると、磁石を動かしたときと同じように電圧が出る。出てくる電圧は、コイル同士の向きや距離で変わる。話者は、スマホの充電やSuicaで向きがずれていたり距離が離れすぎていたりすると使えないのと同じことだと説明した。受電コイルにLEDをつけて送電コイルを近づけると、線でつながっていないのにLEDが光った。NFC給電もこの原理をベースにしている。

QiとNFC給電の違い:電力、サイズ、通信

続いて話者はQi給電とNFC給電を比較した。まず周波数帯が違い、Qiは110kHz〜205kHz、NFC給電は13.56MHzである。給電できる電力も大きく異なる。Qiは5W〜25Wと大きな電力を送れるが、NFC給電は最大でも数W程度で、今回使うモジュールは250mWである。

電力だけ見ればQiの方が優れているように見えるが、話者はNFC給電の利点としてコイルと給電システムを小さくできる点を挙げる。Qiの送電・受電コイルは直径50mm程度であることが多く、送電効率を上げるためにフェライトなどの磁性材料を併用することもある。そのためシステム自体が大きくなりやすい。一方NFCは周波数が高いため、送電・受電の両コイルが小さくなっている。

データ通信にも違いがある。Qiにはバッテリーの充電状態を監視するための制御通信はあるが、ユーザーが任意のデータをやり取りする通信機能はない。NFC給電はもともとNFCの技術がベースなので、給電だけでなくユーザーのデータ通信にも使える。

こうした特徴から、話者は用途の違いを整理する。Qiはスマホのように大電力が必要で、コイルが入る大きさのある機器向けである。NFC給電はスマートリング、スマートバンド、ワイヤレスイヤホン、補聴器といった小さな機器に向いているという。

ロームの評価ボードML7671/ML7670

実験に使ったのは、ロームのNFC給電ICを載せた評価ボードである。大きい基板が送電側でML7671、小さい基板が受電側でML7670である。小さな製品に組み込むことを前提としているため小型のICパッケージが使われており、特に受電側は超小型化を狙ってウェハレベルチップサイズパッケージを採用している。

コイルは、周波数が高く電力が小さいこともあってかなり小さい。Qiのように銅線を巻いたものではなく、プリント基板上のパターンで作られている。話者によれば、NFC給電ではアンテナ設計が重要で、13.56MHzと周波数が高いためマッチング調整がシビアになる。ただしロームはアンテナメーカーと協力して、検証済みアンテナ、マッチングツール、リファレンスデザインを提供しているので、設計のハードルはかなり下がると話者は見ている。

採用例として、スマートリング「SOXAI RING 2」が紹介された。リング内のバッテリーをワイヤレス給電で充電する部分に、今回と同じロームのNFC給電ICが使われているという。また、今回のICは民生向けで最大250mWだが、別ラインナップの産業向け製品は最大1Wまでの給電に対応しているとのことである。

事務所では電源を入れられず、電波暗室で実験

評価ボードの電源を入れる段になって、話者は事務所ではこれができないと明かす。電波法との兼ね合いで、コイルから13.56MHzの高周波磁界を出せないためである。そこでロームの電波暗室を借り、ローム横浜テクノロジーセンターのEMC測定サイトの一部で実験を行った。

送電側に5Vを供給し、受電モジュールを近づけると、送電のネゴシエーションが行われてから給電が始まる。受電側にLEDをつなぎ、コイル同士を近づけるとLEDが点灯した。オシロスコープのプローブを送電コイルに近づけると、13.56MHzの高周波磁界がはっきり観測できた。この磁界を受電コイルで受け取り、整流して電力を取り出している。

実際に取り出せた電力は150〜200mWが安定の上限

評価ボードの最大給電能力は250mWである。話者はコイル間に3mmのスペーサーを挟み、抵抗負荷を徐々に重くして電力を測った。1mA、2mAから始め、10mAで50mW、20mAで約100mW、さらに150mW、40mAで約200mWと上げていき、50mAで約250mWに達した。一度は70mA程度まで流しすぎる場面もあった。

負荷を重くしていくと、ときどき電流が途切れて電圧が0Vになる期間が現れた。話者はこれを、無線給電の送電電力を調整しているためだと説明している。また、コイル間のギャップや給電状態はかなりシビアで、負荷を取りすぎると給電が落ちてしまう。今回の条件では、負荷電流30〜40mA、電力にして150〜200mW程度が安定して送電できる上限だったという。

NFC給電で動くスマートバンドを自作

応用例として、話者は評価ボードを使ってスマートバンドを作った。システムは送電側と手首につける受電側に分かれ、送電側はML7671、受電側のスマートバンドはML7670を使う。受電した電力はバッテリーモジュールを経由して3.3Vに変換され、マイコン、加速度センサ、ディスプレイを駆動する。

まずバッテリーをつながず、ワイヤレス給電の電力だけで動くかを確かめた。コイルの位置関係がシビアだったため、スペーサーで位置を調整している。電源を入れるとディスプレイに3軸の加速度が表示され、センサを傾けると値が変わった。ワイヤレス給電だけでマイコン、ディスプレイ、センサがすべて動作したことになる。話者によれば、使ったマイコンなどは低消費電力のデバイスを選んでいるものの、実際の製品に使われるデバイスと比べると消費電力は多い。それでも安定して給電できていたという。

ただし給電だけで動かしている以上、送電側のアンテナから離すと電力が途切れて動作が止まり、近づけるとまた動く。そのため話者は、NFC給電などの無線給電を実際に使う場合はバッテリーとの組み合わせが必要だと述べ、スマートバンドにバッテリーを組み込んだ。すると充電が始まり、送電コイルから離してもバンドは動き続けた。置いている間はワイヤレスで充電し、持ち歩くときはバッテリーで動くという、一般的なウェアラブル機器と同じ形ができたと話者は説明している。

給電ICのNFC通信でセンサデータを送る

話者は、NFCはもともとデータ通信の技術であり、交通系ICでは微小だった電力を数百mWまで引き上げて本格的な給電に使うのがこのロームのデバイスだと位置づけたうえで、データ通信も試した。スマートバンドの加速度センサで取得したデータを、給電ICのNFC通信で送電側へ送り、送電側のディスプレイに表示する構成である。

バンドをかざすとNFC通信が始まり、受信側にデータが表示された。加速度センサを動かすと、スマートバンド側と同じ値が送電側にも表示された。通信を切ると、受信側のディスプレイはリングバッファーの値を表示し続け、もう一度かざすと表示が再開した。

ここで話者は重要な制約を指摘する。今回のICはデータ通信と給電を同時に行えず、通信中は給電が一時的に止まる仕様である。そのためNFCでデータ通信をする場合は、スマートバンド側にバッテリーが必須になる。一方、ロームの別モデルであるML7661、ML7660は、給電と通信を自動で交互に繰り返すプロトコルを搭載しており、バッテリーなしでもデータのやり取りが可能だという。話者は、受電側にバッテリーを積みたくなく、接触しているときだけデータが取れればよい用途にはこちらが良さそうだと述べている。

スマホからはNFCタグとしても読める

余談として、受電側のボードにスマホを近づけると、NFCタグとして動作する様子も示された。ロームのIC内のROMに内容を記録しており、この例ではYouTubeのURLが開くように設定している。スマホのNFCアンテナが出す高周波磁界でデータ通信が行われており、話者は、データ通信用の高周波磁界でもボードが動作できるようだと述べている。

結論:小さな機器向けの給電手段として有効

話者のまとめは、NFC給電はQiより送れる電力は小さいが、アンテナとシステムを大幅に小さくできるため、スマートリングやイヤホンのように非接触で給電したい小型デバイスにはかなり有効な技術だというものである。実際にスマートバンドを作ってみて、この程度の回路規模なら250mWの給電でも問題なく動作したことをその根拠に挙げている。残る制約として、今回のモデルではデータ通信と給電を同時に行えなかった点を挙げ、それが必要な場合は用途に合わせて対応する産業用モデルを使ってほしいということだろう、と話者は締めくくった。