中国製造業はなぜ短期間で躍進したのか:ものづくり太郎が語る「官民一体」へのパラダイムシフト

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概要

製造業系YouTuberのものづくり太郎は、この動画をプレゼン形式で進め、日本の製造業がまだ十分に気づいていない「パラダイムシフト」があると主張する。話者は毎月、上場企業を中心とする約230社の製造業役員を集める研究会を開いている。そこで感じるのは、多くの企業が自社に目を向けすぎて、外の情報を取りに行けていないことだという。一方、グローバルでは変化が急速に進んでおり、企業が単独で戦うことはもう難しい。サブタイトルの「独立独歩ではもう不可能、目に見えない戦いがすでに始まっている」は、この問題意識を表している。

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話者の結論を先に言えば、中国と米国はすでに製造業やAIを国と企業が一体になって育てる段階に移っており、日本企業も政府・官僚との連携を前提に戦わなければならない、というものだ。以下では、その根拠として示された中国の現場の様子、国家戦略、半導体への執念、米国の動き、歴史的背景、日本への提言を順にたどる。

2:24

中国の現場で見た「レベルの上昇」と玉石混交

話者はドイツ、米国、タイ、インドなど各国の製造現場を訪ね、日本の工場も数えきれないほど見てきた。そのうえで、中国の製造現場のレベルは限りなく上がっていると語る。中国は不動産不況の影響を受けているが、それを挽回するために安く作ったものを世界にばらまく、いわば「デフレの輸出」をしているというのが話者の見方だ。

NHKスペシャル「インサイド・トヨタ」でもトヨタがBYDを強く脅威視している様子が描かれており、話者は実際に中国の現場に行けば「侮ってはいけない」という判断になるはずだと言う。ただし、これは中国を称賛する話ではなく、侮るべきではないという警告であり、そのうえでどう戦うべきかを考えるのがこの動画の目的だと位置づけている。

具体例として、話者は非常にきれいな中国工場の写真を示す。見た人は「できて5年くらい」「2〜3年では」と想像するが、実際には稼働から20年ほど経っている。きれいに見えるのは設備が新しいからで、設備投資がうまく回り、次々に新しい設備が入っている証拠だと話者は説明する。対照的に、日本の工場では減価償却の終わったマシニングセンターやターニングセンターが動き続けていることが多く、ここまできれいではないという。

一方で、話者が訪れた中国工場は10か所ほどあり、さえない工場も当然存在する。工作機械の前に人が張り付いて3直で回している工場や、簡単な自動機の奥でベアリング工場のクーラントが漏れ出しているような、いわゆる「メイド・イン・チャイナ」のイメージどおりの現場もある。地方にはそうした工場が多く、最新設備で超量産する工場、労働集約型の工場が混在しているのが実態だという。

5:08

モーターのステーター製造に見る技術の追い上げ

それでも自動車関連のレベルは明らかに上がっている、と話者は言う。中国のディーラーでは駆動モーターのローターとステーターが展示されている。話者は独自に入手したというステーター製造設備の動画を紹介し、平角の銅線を搬送・折り曲げてステーターに挿入していく工程を説明した。

話者によれば、トヨタのハイブリッドシステムでも第1・第2世代のモーターは銅線をぐるぐる巻いた巻線構造だったが、その後は銅の密度を上げるため、太い導線を折り曲げて挿入する構造へと進化した。中国も、トヨタやアイシンなどティア1が作るようなモーターステーターを作れるようになってきているという。

話者が脅威と見るのは、中国の技術者が工程装置を自分たちで改善し、タクトタイムやサイクルタイムを短くしていく努力を、日本と同じようにできる点だ。タイでは自動化がまだ十分に進まず、現地の人が自らエンジニアリングしてラインを改善するところまではなかなか行かない。インドでも工場を訪ねると日本人がコンサルタントとして入っていた。これらと比べると、中国人技術者はライン改善の能力と意識に長けている、というのが話者の評価である。

7:18

官と民を束ねる仕組み:認証制度と淘汰

もう一つ重要なのは、中国が意図的に資金を投下していることだと話者は強調する。官と民をうまく束ね、政策による育成と市場原理の両方を使って企業を急速に育ててきた。

話者は、中国の電池関連工場(字幕では「三和」)を訪れた経験を挙げる。この工場はIoTでデジタル化され、サイクルタイムが短く、スループットも高かった。中国には先進的な工場を認定する制度があり、認証を取れば自動化投資に対して2〜3割程度の補助が出る。この仕組みがうまく回っている一方、同じ産業に企業が乱立しても、最終的には市場原理によって淘汰され、本当に強い企業しか残らない。この「補助の使い方」と「淘汰」の組み合わせが強さの源泉だと話者は見ている。

そのうえで国家戦略として示されたのが「中国製造2025」だ。航空宇宙、新エネルギー車、農業機械、ファナックや安川電機が得意とするCNC・ロボットなどのFA分野、先進交通設備、通信技術など10の重点分野にリソースを集中投下する計画で、その中核に半導体が置かれている。半導体は航空機にも自動車にも農業機械にもNCにも使われ、業界を横断して影響を持つからだ。なお、話者は農業機械などはあまりうまくいっていないとも付け加えている。

9:14

「世界の工場」は組み立て屋だった

なぜ中国はこの戦略を打ち出したのか。話者は2017年時点のデータを示す。当時、中国のGDPの約4割は製造業だったが、売上上位10社のうち6社はEMS(電子機器受託製造サービス)だった。かつてiPhoneを製造していたフォックスコンやペガトロンのように、各メーカーに代わって電子機器を組み立てる企業が上位を占めていた。残りの上位にはファーウェイなどが入っていた。

つまり「世界の工場」と呼ばれた中国の製造業は、中身を見ると組み立て屋であり、部品はグローバルのサプライチェーンから買ってこなければならなかった。特に半導体の購入量が大きく、話者によれば世界の半導体消費額約127兆円のうち、中国が3割程度、30〜40兆円ほどを消費し、その8割以上を輸入に頼っていた。その額は石油輸入の2倍程度にのぼり、大きな貿易赤字を生んでいたという。だから先端半導体の国産化は中国の悲願だった、と話者は言う。

コメント欄では中国メーカーについて「ドーピングだろう」という声が寄せられるが、話者は「その通り、めちゃくちゃうまいドーピングをしている」と応じる。重要なのは、資本をばらばらに投下したのではなく、国家戦略として10年以上前から戦略的に起こしてきたことだという。

11:45

起点はGAFAMへの警戒

この国家戦略の起点として話者が挙げるのはGAFAMの存在だ。朝はiPhoneのアラームで起き、通勤中はYouTubeで学び、仕事ではMicrosoftのPowerPointやExcelを使い、夜はNetflixを見て、帰宅するとAmazonの箱が届いている。GAFAMのサービスを一日中まったく使わない人はほぼいないだろう、と話者は言う。

便利なのだから依存してもいいではないか、という反論に対し、話者は米国の外国情報監視法(FISA)を挙げる。安全保障・インテリジェンスの目的であれば、米国外にいる非米国人について、個別の裁判所令状なしに米国のIT大手から直接データを収集できる規定がある、と話者は説明する。米国にサーバーがあるデータは令状なしで開示されうる一方、日本側が開示を求めるには米国で裁判を起こして認められる必要があると想定され、非常に大変だという。

話者は、マイナンバーで個人情報を取られると政府を批判する人がいるが、実際には政府よりGAFAMのほうがはるかに多くの生活データにアクセスできると指摘する。問題は「抜かれている」ことではなく「いつでも抜ける」ことだという。さらに、GAFAM依存によって日本のデジタル赤字は石油並みに膨らみ、AI時代にはさらに拡大しかねない。話者は好き嫌いの話ではないと断ったうえで、数字だけ見れば日本は米国のドル箱であり従属化している、GAFAM依存は「見えないソフトパワー」として米国に強く出られない日本の一部をつくっている、と述べた。

14:35

中国は早くから「脱米国依存」を一貫して進めた

これに対して中国は、GAFAMに依存し続ければ危ないと早くに気づき、アリババ、ファーウェイ、バイトダンス、バイドゥ、テンセントといった代替企業を強制的に育成した、と話者は言う。Googleの中国撤退時に花束が置かれた画像がよく知られているが、中国政府から見れば「米国にインテリジェンスで圧倒されるのはまずい」というのが立ち位置だった。

話者は政策の流れを時系列で示した。2015年5月に中国製造2025、同じ2015年にクラウド、データセンター、eコマースなどをアジア圏に広げる「デジタルシルクロード」。日本人が2023年頃にChatGPTに驚いていたのに対し、中国は2017年7月に「新世代人工知能発展計画」でAIに力を注ぐと決めていた。2022年2月には「東数西算」プロジェクトとして、人と産業が集中する北京・上海・広州などで生まれるデータを、グリーンエネルギーが豊富な西部で計算するハードウェア整備を進め、2024年1月には「データ要素×」でソフトウェア面の充実を図った。

話者はこれを「一貫している」と評価する。ドイツのインダストリー4.0も素晴らしいとしつつ、日本の国家戦略にはちぐはぐな部分が見て取れるという。国と民間が手を取り合って産業を育成する中国独自の勝ちパターンが10年前に始まっており、これこそが明確なパラダイムシフトだと話者は位置づける。

17:00

半導体:国産化への執念と製造装置の壁

この傾向が特に色濃いのが半導体とAIだ。米国が輸出規制で対抗する一方、中国企業はNVIDIAのH20やH200を欲しがる。しかし中国政府は「NVIDIAの半導体を買うのではなく、自国でサプライチェーンを完結させよ」という強硬な通達を出したと話者は言う。チップを自国生産するには製造装置も必要なので、製造装置の国産化も中核に据えられている。

投資規模について話者は、国家ファンド(いわゆるビッグファンド)が約2兆円規模、第2期では4兆円規模で、SMICやYMTCのような中国トップクラスの半導体メーカーに出資していると説明する。成果は少しずつ出始めており、CMP装置、レジスト塗布装置、ウェハー酸化装置、ロジックテスターなどで、まだ世界シェアは低いものの中国製のシェアが上がっているという。

話者は複数の半導体製造装置メーカーと付き合いがあり、案件の一部も受託している。その立場から、日本企業や政府には切迫感が足りないと率直に語る。10年後に中国メーカーが日本と戦える製造装置を出してきたとき、本当に戦えるのか疑問だという。

では、なぜ中国は資金と人を注ぎ込んでも、製造装置を新エネルギー車ほど簡単には育成できないのか。話者は装置のチャンバーを例に説明する。高い精度が求められるチャンバーを作るには、工作機械、ツールホルダー、切削工具が必要で、温度管理された加工工場や精密加工ができるメーカーも欠かせない。さらにIPC、ロボットアーム、モーター制御、漏れ監視といったFA部品も必要になる。エンジニアリングのチェーンが長く、強固なサプライチェーンの集合体でなければ一つの装置も生み出せない。中国はまだこれを構築しきれていないが、イノバンスやハイクビジョンのようなFA系企業が成長してきているという。

20:16

EUVの「中国版マンハッタン計画」とファーウェイの設計による回避

最難関がEUV露光装置だ。回路を描画する露光装置の中でもEUVはASMLしか作れず、1台約500億円とされる世界で最も複雑な産業装置である。中国はこれを再現するため、中国版マンハッタン計画のような形で資金と人を注ぎ込んでいると話者は言う。キヤノンやニコンはEUVこそ作れないが、KrFや液浸、ドライといった露光装置を手がけてきた。中国はそうした装置の保守をしていた人材を高給で引き抜き、補修部品を買ってきて分解し、組み立てられた人に報奨を出すといった「血のにじむような努力」をしていると話者は伝える。

さらにファーウェイは、微細化ができないなら設計で覆すというアプローチをとっているという。話者はNVIDIAのGrace Blackwellを例に「マルチホップ問題」を説明する。情報を複数のコアを経由して受け渡すと遅延が生じ、無駄な演算とスイッチングが増えて消費電力も上がる。現在の半導体では、情報の移動だけで電力の半分程度が消費されているとも言われる。

これに対しファーウェイは「ロジックフォールディング」と呼ばれる手法で、回路を2階建てにして3次元的に配置する。受け渡し先のチップを上に重ねれば距離が短くなり、コアの経由も最小限になって、低消費電力化につながる。こうして微細な線幅を描かなくても「1.4nm相当」の能力をひねり出そうとしている、と話者は説明する。「1.4nm」は実際の線幅ではなくブランド名のようなもので、TSMCから3年程度遅れで実現できるのではないかと言われているという。話者がSEMICONのJSRブースで得た情報によれば、実際の線幅は8nmノードだそうだ。輸出規制の壁を設計で乗り越えようとする姿勢を見て、話者は中国の半導体への執念は世界一だと述べている。

23:44

AIも国家間の戦いに:DeepSeekと米国の動き

半導体の出口であるAIでも、国家間の戦いになりつつあると話者は言う。DeepSeekはもともとOpenAIやAnthropicのようなAI企業ではなく、取引所の近くにサーバーを置いて高速で株式や為替を売買するフィンテック企業だった。余ったサーバーでAIを作ったところDeepSeekが生まれたという経緯だ。そのDeepSeekに国家人工知能産業投資基金から約1兆円の投資があったとされ、話者は事実上の国家企業になったと見る。

米国側でも、トランプ政権がOpenAI、Anthropic、Googleなどについて、AIは国民のものだから政府が株式を取得してもよいのではないか、という方向に動いていると話者は述べる。つまり中国も米国も、製造業やAIを国と一緒に育てる方向に進んでいる。10年前にはなかった状況だが、日本はそれにあまり気づいていないように見える、というのが話者の問題提起だ。

話者の示した図では、BYD、ファーウェイ、バイドゥの背後には中国という国家がいる。一方、トヨタやフォルクスワーゲンは個社で戦っている。EUは中国製EVに関税をかけたが、ハンガリーにBYDの工場ができるなど流れは止められず、オーストラリアでもBYDが急伸している。国の力で半ば育成された産業と、日本企業は対峙しなければならない。話者は「民間の力のみで戦う時代はもう終わった」と言い切り、超大国G2が国力に基づいて戦う時代になった以上、日本企業もロビイングや官僚への助言・意見交換をしなければならないと訴える。

26:38

中国製造2025の成否と「スマート製造」の重要性

話者は中国の自信の背景として、トヨタ打倒を掲げるBYDの躍進、世界の約半分を担う造船(日本ではLNG運搬船を作れなくなりつつあり、その復活が国家プロジェクトになっている)、トヨタも採用するCATLの電池、世界の8割以上を握るDJIのドローン、世界一になったPCB、力をつけつつあるパワー半導体を挙げる。「安かろう悪かろう」だったメイド・イン・チャイナの意味は激変したという。

話者は中国製造2025の重点領域の成否を独自に表にまとめた。情報通信設備や、BYD・CATL・ファーウェイに代表される新エネルギー車は大きく成功した。一方、ファナックや安川電機が得意とする高級NCは達成できなかった。ロボットではエストンやイノバンスが台頭し、話者の資料によれば国産比率52%と約3倍に伸び、世界の導入台数の41%が中国となっている。世界トップ5のドイツ企業を中国企業が買収した例もあり、ヒューマノイドでは上位2社が世界の半分以上を占めるという。レアアース・レアメタルなどの戦略材料も含まれる。

話者が特に強調するのは、重点分野に「スマート製造」が入っていることだ。日本では工場は各社独自のもので、経産省がものづくり白書でまとめる程度だが、それでは勝てないという。先の電池関連工場にはSMTラインが20ラインあり、かなり自動化されていた。SMT出身でその力量はほぼ分かると自負する話者から見ても、日本の中堅工場よりはるかに進んでいたという。そうした工場に地方政府や国が「先進工場」の賞状を出し、その一つで補助金が大きく得られる仕組みがある。日本も資金を出すだけでなく認可制度を作り、工場の基礎やデジタル化に経産省が投資しなければ中国に勝てない、と話者は主張する。

一方、工作機械や航空エンジン(三菱重工、IHI、川崎重工が得意とする領域)のように、すり合わせの要素が大きい分野は中国でもまだ無理だった、とも整理している。

苛烈な国内競争と、日本の設計の弱点

中国のもう一つの特徴は、世界で最も競争が厳しい市場だという点だ。雨後の筍のように企業が出てきても、最終的に勝ち残った強い企業だけが残る。対して日本はデフレ下でゼロ金利が続き、アベノミクスでお金をばらまいて借り換えを繰り返した結果、ゾンビ企業が淘汰されなかったと話者は見る。日経や日経クロステックの記事を引き、トヨタやホンダが中国の安く速いものづくりに学ぶ状況や、日産が開発期間短縮に取り組む状況にも触れ、中国国内の熾烈な競争を生き抜いた企業と対峙するのは、グローバルで戦ってきた日本の自動車メーカーにとっても試練だという。

話者が「インサイド・トヨタ」で特に問題視したのは、あるラインでワイヤーハーネスの種類が679種類もあったことだ。テスラのModel 3に600種類もあるはずがなく、それでは量産効果が出ない。ハーネスの種類だけ治工具や作業指示書も必要になる。番組では、会議で1時間で決めたことを現場は6年間やり続けなければならない、というトヨタ関係者の声も紹介されていた。話者は、それに付き合わされる矢崎や住友電工のようなティア1はたまったものではなく、モデル戦略を持たないことが日本の圧倒的な弱点だと批判する。

ただし話者は、中国のやり方が正しいとは考えていない。不動産バブル崩壊でCPIが伸びず、余剰資金が製造業に流れて輸出に向かい、約1兆ドルの貿易黒字と貿易摩擦を生んでいる。本来なら為替で不均衡が是正されるはずだが、人民元は国がある程度コントロールしている(日本も言えた立場ではないと話者は添える)。また、話者が訪れた中国のロボット工場は労働集約型で、先週見た安川電機の工場と比べれば20年前ぐらいのオペレーションだった。それでも人件費の安さとデフレによって強くなりつつあるという。

33:00

米国も国家主導へ:対中意識が生んだ産業政策

米国もこのパラダイムシフトに早くから気づいていた、と話者は言う。バイ・アメリカン、サプライ・アメリカといった動きのもとで半導体へのテコ入れが始まり、2021年1月25日には米国の労働者による米国のための製造業の未来確保をうたう大統領令が出された。連邦政府が国内製造業を買い支えるという内容で、話者はコロナ前後には米国が中国の脅威に気づいていた証拠だと見る。

その後、マイクロンの投資、インテルへの約1.3兆円の助成、TSMCのアリゾナ工場、サムスンのテイラー工場(2nmプロセス)など、先端半導体の工場が次々に建設されている。話者は、米国がここまでするのは中国がある程度成功したからであり、米国の産業政策の発端は中国の製造業の躍進にあると位置づける。

34:52

歴史から読む中国:「一つの中国」という文明の重み

では、なぜ中国は製造強国を目指し、米国とここまで激しく争うのか。話者は、ここを紐解かなければ中国が製造業に力を入れる理由は読み解けないと言う。

話者が挙げる理由は、中国が二つある状態、すなわち毛沢東の共産党と蒋介石の国民党に分かれた状態が、中国の歴史から見てイレギュラーだという点だ。夏王朝から続く文明の中で、統一された覇者が天子と呼ばれてきた。春秋戦国の分裂を秦が統一し、三国・南北朝の分裂を隋唐が再統一し、五代十国の分裂を宋が再統一した。『三国志演義』の冒頭にある「天下の大勢、分かれて久しければ必ず合し、合して久しければ必ず分かる」という言葉のとおり、分裂の時代の目標は常に一つの中国の回復だった、と話者は説明する。

話者は、日本人が「二つあってもいいではないか」と言うのは、日本人にとって天皇制を「なくても困らない」と否定されるようなものだとたとえる。電車で静かにする、空気を読むといった日本の文化が積み重ねの産物であるのと同様に、文明の重みは外から理解しにくい。宮城谷昌光の小説を読めば、天子や天命の概念、焚書坑儒のように過去を焼き払う中国の歴史の重みが分かるとも勧めている。台湾問題は現状認識だけでは解けない地政学の問題だというのが話者の立場だ。

この文脈で話者は、高市首相の台湾をめぐる発言にも触れる。日本の主張を否定するわけではないと断ったうえで、中国から見れば歴史の重みを理解しない部外者の発言に映ったはずで、就任間もない時期に、訪中やコミュニケーションもないまま言われれば強く反発するのは当然だろう、と推測する。同時に、中国側にも挑発があったことは認めざるを得ず、国家プロジェクトの成功で力をつけた中国に「今の中国を知らないのか」というプライドが生まれていることも事実だろうと述べている。

40:30

国力としての製造業と、米国の大戦略

話者によれば、中国にとって「一つの中国」を取り戻すことは元の状態に戻る「正常回帰」であり、そのために国力が必要になる。国力は軍事力、AI、製造業に裏打ちされている。中国の軍事力は14年で大きく膨張した。もしGAFAMへの対抗だけが目的ならデジタルに集中し、半導体は外から買えばよかったはずだ。しかし、ソフトウェアの背後にAIがあり、その下にNVIDIAのGPU・CPUがあり、それを半導体が支えている。ソフトもハードも押さえなければ首根っこを握られる。だから中国はハードとソフトの両方で「当たり前を取り戻す戦い」をしていると認識しており、それゆえ強いのだと話者は見る。中国のエリート官僚はそう考えているはずだ、とも言う。

一方の米国の立場は一貫している、と話者は言う。ユーラシア大陸に超大国を作らせないことだ。第一次世界大戦では欧州の覇権を握ろうとしたドイツを、第二次世界大戦ではドイツと日本を打ち負かし、日本については憲法まで米国流に作り替えた。冷戦ではソ連と対峙した。ユーラシアは人口、GDP、購買力平価のいずれでも世界一であり、そこで覇権国が生まれれば海洋国家である米国の地位は終わる。だから一帯一路やデジタルシルクロードは、米国にはユーラシア統一の意思、中国版GAFAM構想による挑戦に見える。米国は中国の覇権を許せず、中国は米国を超えなければイレギュラーを解消できない。双方の願いを同時に叶えることはできない、と話者はこれを現代の地政学的ジレンマと呼ぶ。

44:46

米国は製造業を取り戻せるか、日本の立ち位置はどこか

では米国は強い製造業を取り戻せるのか。話者は否定的だ。米国はビッグテックを中心に高賃金体制で、トヨタ車の米国での平均価格は700万円ほどに上がっている。製造業を米国に集約しても、グローバル競争に勝てる自動車は作れないという。米国で成り立つのは半導体のような超高付加価値の分野に限られる、と話者は見る。

そこで日本の役割がある。話者は製造業は今も日本の中核産業であり、米国の代替にもなれると考える。フリーランスを募集すると東大発ベンチャーから声がかかることが多いが、彼らの出口戦略も結局は製造業になるという。ブロック化が進む中で、中国では作れず米国でも作れない、日本の品質管理がなければ作れないもの、たとえば軍事関連、造船、一部の半導体関連部材や半導体製造装置の代替生産地になるべきだ、と話者は主張する。JASMやRapidus、10兆円規模の支援も米中デカップリングの文脈にあり、国が一部リスクを肩代わりし、官民の方向性を束ねて選択と集中をしなければ日本はやっていけないという。

話者は経営層と話す中で、グローバルの動向、たとえばNVIDIAのGTCでの発表を追っていない人が多いとも感じている。米国もCHIPS法、インフレ抑制法、インフラ投資雇用法などで、先端半導体・AI計算基盤を中国に渡さない、電池や重要鉱物の中国依存を減らす、といった戦略を立てている。日本もどこにアクションを置くかを議論すべきだという。

47:37

日本へのアクションプラン:フィジカルAIとロビイング

話者が示す日本のアクションプランは、全分野では勝てない前提で長期テーマを決め、産業を束ねる設計力を持つことだ。ばらまきではなく、中国のようなデジタル製造の認証制度を作り、製品をつくる工場と設計力に支援する。自動車、軍事、素材、エネルギー、半導体など業界を横断したテーマを国家ビジョンのもとで設定し、資金を出すだけでなく工場に何が必要かを議論すべきだという。

その意味で、話者は日本政府が17の成長分野を策定したことを「日本もここに混じってゴリゴリやっていく」という意思決定だと評価する。半導体、GX・エネルギー、防災・国土強靭化、サイバーセキュリティなどが並び、官民累計の総額は370兆円超とされる。中でも話者が重視するのがフィジカルAIだ。AIそのものでは、Google一社が今年20兆円を投じるような規模に日本は太刀打ちできない。だが、ロボットに限らずあらゆる製造業をフィジカルAIでバージョンアップすることはでき、そこに生き残りをかけるのが日本のメッセージだと話者は読む。

だからこそ民間企業はただ眺めているのではなく、官僚に施策を提案し、伸ばしたい分野を伝えるロビイングをすべきだと話者は言う。官僚と話す機会がある話者によれば、彼らも知らないことは知らず、新しい素材や産業を持ち込んで気づかせる必要がある。経産省に「余計なことをするな」とコメントする人もいるが、千に三つ成功すればよいのであって、種をまかないことのほうが問題だという。話者はRapidusの東哲郎会長の言葉として、成功の反対は失敗ではなく「やらないこと」だという趣旨を紹介した。

加えて話者は、工場への投資と設計の最適化を挙げる。ハーネス670種類のような設計を続ければトヨタは良くてもサプライヤーが疲弊するので、必要なオプションに絞り込む設計をもう一度やり直すべきだという。さらに守りも重要だとする。NCや航空エンジン、THKやNSKが手がけるボールねじのように、すり合わせや精度が求められる中国の苦手分野については、外為法なども活用して買収されない防衛ラインを引く必要があるという。

なお話者は、先週中国でロボット企業5社ほどを回り、中国がまだできていない部分や今後必要になる部分を見てきたので、それは別の動画でまとめたいと述べている。

結論:独立独歩ではもう戦えない

話者の結論は、製造業はもはや独立独歩では戦えず、民間も日本政府の動きに注意を払い、実際に政策を動かしている官僚を応援することが重要だ、というものだ。高市首相については台湾発言を批判したが、17分野の策定は高市政権でなければできなかっただろうと評価している。ただし、中国のポジショニングを考えれば、あの発言はいかがなものかと思う、という立場も改めて示した。官民が連携して日本の製造業の立ち位置をどう築くか。話者は、その具体的な中身を詰める議論がまだ足りていないことを最大の課題として示している。